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all 第28回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/03/05(Thu) 21:13:05 [No.2]
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ラブレターに花を添えて (No.2 への返信) - ひみつ@ 8635 byte

 〜

 直枝へ

 改めて文章にすると照れくさいものを感じます。だけど、面と向かっての方がもっと照れくさかったので、手紙にして伝えます。
 直枝理樹。あなたが好きです。大好きです。きっとこれからの人生であなた以上に愛せる人なんていないと思える程に、あなたに恋しています。
 正直に言えば生涯を共にして欲しいと言いたいのですが、それでは直枝の方が困ってしまうでしょう。だから今はただ普通に私と付き合って欲しいです。
 そしていつか未来の話、その時にどうか生涯を共にしたいという話をさせて下さい。

 〜





 ラブレターに花を添えて





 想いを認めた手紙を最後にもう一度だけ見直す。緊張でガチガチになった文字は自分らしい形を残しながらも、幼い子供が書いたみたいでどこか笑えた。
「次は花ね」
 手紙を机の上において、財布を持ち。軽く雨の降る外へと出かける準備を整える。
 手紙に花を添えるなんて自分らしからぬロマンチズムだと冷静になれば思わないでもないが、それでも前々からそうしようと決めていたのだから覆すのもどこかに後悔が残りそう。
 部屋を出る直前に雨降る空を映す窓、それを背景にした手紙にふと目がいってしまう。変な感傷を感じるけれど、それでも視線をきって先を急ぐ。急がないと雨が本降りになりかねない。
 バタンとしまるドアの音がいやに響いた気がした。特別な日は不思議な心持ちになるらしい。

 ★

「あれ、佳奈多さん?」
 雨の降る町、その声を聞いてドキンと胸が高鳴った。次には言いようのない焦燥感。慌てて振り返ったらそこにはやはりと言うかなんと言うか、直枝理樹の姿が。
「な、な、直枝!? どうしてここにいるの?」
「いや、真人が入院しちゃったんだよ。廊下に落ちてたカツを拾い食いしたらしくてさ。だからそのお見舞いの花を買いに来たんだ」
 思わず舌打ちをしたくなった。会えたのは素直に嬉しいけど、わざわざ行き先まで一緒じゃなくてもいいのに。
「井ノ原真人だと花よりも食べ物の方が喜びそうだけど」
「僕もそう思ったんだけどね。食中毒だから食事制限があるらしくてさ。真人に花なんて似合わないと思うけど、病院にお見舞いに行くのに手ぶらっていうのも失礼かなって」
「らしいわね、直枝」
 くすくすと笑いがこぼれる。そんな風に道ばたで話をしていたら、雨がだんだんと強くなってきた。
「あちゃあ。強くなってきちゃったね」
 鉛色の空を見上げながら顔まで曇らせる直枝。それにつられるように私も頭上に広がる雲を見上げる。
「そうね。予報ではこの時間がピークらしいから――」
 相づちをうちながらも、頭のどこかでいやらしい計算をする自分がいる。
「――どこかで雨宿りしない? 少し経てばまた弱くなるでしょうし」
「うん、そうだね。じゃあそこの喫茶店に入ろうか」
 直枝が指さした先にあるのは雰囲気のある喫茶店。恋人のデートにあつらえ向きといった風情の。
 きっとそんな意識は微塵もないのだろうけど、ほんの少しの期待に胸が踊るのは仕方がないと思う。軽くなった足取りで喫茶店に向かう。カップルだらけの店内を見ると、そういった店なのだろう。また心臓が勝手に高鳴ってくる。
 席に座って注文をする。そしてほどなく紅茶が運ばれてきて、一口。
「ふぅん」
 どうやらこの店はあらゆる意味で外見重視の方向性らしい。
「あ、あはははは」
 この喫茶店に行こうと言っていた張本人も、笑ってごまかしている。
「まあ直枝が悪いわけじゃないものね」
「そう言って貰えると助かります」
 ちょっと疲れた顔をする直枝。それに私としてもそこまで嫌な気分という訳ではない。店にいるのはカップルばかりだし、その中で一緒にいるのは直枝。嫌な気分になるはずもない。
「そういえば、佳奈多さんは今日はどうしたの?」
「どうって言われても困るけど、花を買いに来たのよ」
「花?」
 目の前に少し考え込む顔が浮かぶ。
「寮長室に飾ったりするの?」
「さあどうでしょうね」
 笑ってはぐらかす。少し憮然とした顔が見えたが、すぐに諦めたようだ。
「でもこうやって佳奈多さんと落ち着いて話をするのも不思議な感じがするね」
「そう? 私には分からないけど」
「佳奈多さんはそうかも知れないけど、やっぱり僕には、ね」
「そういうものなのかしら」
 直枝は紅茶のカップを傾けて中身を空にすると、窓から外の様子をのぞき見る。
「雨足が弱くなったかな。みんなとの待ち合わせの時間もあるし、これ以上はゆっくりできないかな。佳奈多さんも花屋まで一緒に行かない?」
「私はもう少しここにいるわ」
「え?」
 花を買いに来たという目的が一緒だった時から直枝の中で、私たちが一緒に行くのは決定事項になっていたのだろう。だけどまさか直枝の前で花を買う訳にはいかない。残念な気持ちを押し殺してきょとんとしている直枝に話しかける。
「ごめんなさい、もう少しゆっくりしていきたい気分なの。直枝は急ぐんでしょう? 私は気にしないで」
「あ、うん。佳奈多さんがそう言うなら」
 釈然としないような表情で、私の分の伝票も持って立ち上がる直枝。
「あっ。直枝、ちょっといい? すぐ終わるから」
「え。あ、うん」
 歩きだそうとした足を止めて、きちんと私に向き直ってくれる。とくんとくんと心臓が高鳴る。
「用事があるんだけど、今夜ちょっと時間取れるかしら」
「今夜? うん、大丈夫だけど用事って?」
「秘密。今夜になれば分かるわよ」
 不思議そうな顔の直枝を見る私におかしいところはないだろうか。少なくとも心臓はこれ以上ない早いビートをたてているのはよく分かるのだけど。
「じゃあ夜にね」
 私の異常には気がつかずに、時間が本格的にまずいのか早足で立ち去っていく直枝。その姿が完全に見えなくなった時、体の力がどっと抜けた。
「はぁ」
 言ってしまった。もう後戻りは出来ない。

 ★

 カランカランと軽快な音がなる。思っていた以上に喫茶店に長居してしまったけれど、夜までにはまだまだ時間がある。花屋までの短い雨の道を、ゆっくりと歩く。わずかな時間だけど傘に当たる雨音が心地いい。
 花屋に入ってすぐのところで店員さんをつかまえて、欲しい種類の花を口にする。
「葉っぱのついた紅色のバラを一つに、蕾の白いバラを3つ」
 分かりましたと店の奥にひっこむ店員。カチャカチャと金具、多分ハサミを動かす音が聞こえてくる。そんなに時間も経たないで花を包んで持ってきてくれた。
「プレゼント用ですか?」
「はい」
「ならリボンはいかがですか? 1本300円ですけど」
 サンプルを見せてくれる店員に、結構ですと簡単に断りをいれる。花を受け取り、代金を支払って店を出る。そんなに長い間店にいた訳ではないはずなのに、雨はいつの間にか止んでいて、夕焼け空がとても綺麗だった。夕焼けが綺麗と思えた事が嬉しかった。

 ★

 こんこんと部屋をノックする音。
「はい」
 部屋の中から声がして、直枝が顔を出す。ズキンと心が悲鳴をあげた。
「ああ、佳奈多さん。さっき言ってた用事?」
「ええ。今は井ノ原真人は居ないのよね。ちょっとあがらせて貰っていい?」
「え、あ、うん」
 体をひいて私を部屋の中に招き入れる用意をする。
「お邪魔するわ」
 そして部屋へと入る。背後でドアの閉まる音がする。
 直枝の部屋に二人きり。こんな用件じゃなかったどんなに嬉しかっただろう。この後に起こる事は絶対に私を複雑な気分にさせるだろうから。
「それで用事って?」
 座布団を進めながら直枝は促す。その言葉に私はポケットから一通の手紙を取り出した。
「手紙?」
「ラブレターよ」
 きょとんとした顔をしてから、一気に狼狽する直枝。
「え、ええ!? そんな、困るよ!」
 その反応に私は苦笑を隠さない。早とちりするのに少しばかり呆れるし、私からのラブレターだったら本当に困っていたのだろうと想像できてしまうから。
「そう。葉留佳からのラブレターは困るっていう訳ね?」
「って、え? 葉留佳さんから!?」
 今度は驚きがありながらも喜びの色。私の時と全く反応が違う。予想はしていたけどやっぱり寂しい。
「ええそうよ。こういうのは本人が渡すのが筋だって何度も言ったんだけど、あの子ったら怖くて渡せないの一点張りで。4時間くらい押し問答をしていたんだけどね、結局私の方が折れちゃった」
 そう言って手紙を直枝に手渡す。少し狼狽しながらも、受け取る直枝。
「でも、葉留佳さん、それに佳奈多さんも」
 直枝は怖がっているようにも見える。でもそれはきっと私のせいだから、にっこりと笑顔を作って言ってあげる。
「保健室での事は私が悪いんだから、直枝は気にやまなくていいの。あなたは葉留佳のつもりだったんでしょう? あれは、私が悪いんだから」
「いやそうは言っても」
 なおぐずる直枝に業を煮やしてしまう。この話はここでお終いという意味を込めて持っていた花をちゃぶ台として使っているだろうダンボールの上に置く。
「これは?」
「バラの花よ」
「いやそうじゃなくて」
 困った顔をする直枝がおかしくてクスクスと笑ってしまう。直枝も一緒になってクスクスと笑う。
「佳奈多さん、そう言った冗談も言うんだね」
「たまにはね」
 そう言って少しだけ時間を置く。
「私からのプレゼントよ、お似合いな二人にね」
 顔を真っ赤にする直枝。そんな直枝の事を見ていたくなくて、私は黙って腰をあげた。
「じゃあ私は失礼するわ。どんな答えでもちゃんとあの子の事を見てあげてね」
 ほんの少しの浅ましい願いを込めて、私は部屋を後にする。

 ★

 夜の校舎裏。ここには今誰もいない。私一人だけ。手紙と花を持った私一人だけで立ち尽くしている。手紙を持つ手が震えているのが自分でも分かる。
「未練ね」
 自嘲する。それでもやはり物悲しさを感じる事を止められるはずもない。大切にしまってきた手紙には、いつか直枝に読んで貰おうと思っていた言葉が必死の想いで綴られている。けれど、これを読んで貰う資格は私にない。
 私は婚約をするから。直枝ではない、全く愛してもいないし愛されてもいない男と。
 それなのに裏切りの想いを受けとってなんて言える訳がない。生涯を共にしたいなんて言葉を吐く資格なんてない。
 4本のバラに込められた花言葉。

 死ぬほど恋焦がれています
 処女の心
 あなたの幸福を祈る
 あの事は永遠に秘密

 それに手紙をあわせて、取り出したライターの火に浸す。想いはゆっくりと火に溶かされて、煙となって天に消える。
 秘めた想いは誰にも渡さない。


[No.6] 2009/03/06(Fri) 18:57:20

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