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『蝋燭のお話』 ************** 寒さに震えながら蝋燭を売る少年がいました。 季節は冬。手や足などにはすでに感覚がなく、薄着をしている少年の顔色は青ざめていました。 少年には寒さと飢えに苦しんでいる妹が一人いました。 今頃何をしているだろうか。歯を鳴らせてはいないだろうか、空腹に苦しんではいないだろうか。 そう考えると、少年の心は大きくざわめいていてもたってもいられなくなるのです。 『この蝋燭を買ってはくれませんか』 少年は必死に呼びかけます。しかし誰も少年の声には耳を傾けようとはしません。少年など初めからそこにいないかのような扱いでした。 じりじり日が落ちていきます。やがて夜の帳が辺りを覆いました。 今日も収穫はなしか。そう思って家路に着こうと思っていた矢先でした。 『助けてやろうか』 そんな声がどこからか聞こえてきました。背後を振り返ると、誰もいません。不思議に思って辺りを見回していると、 『こっちだこっち』 と言う声が手に持っている蝋燭からします。よく見てみると、いつのまにか蝋燭に火がついています。 お前は誰だ、と少年は問いかけました。 『まぁ強いて言えば、執行部 of the darknessってとこか』 少し罰が悪そうな声で返事がしました。不気味に思いながらも、その声は続きを言います。 『色々こっちで不都合があってな。そのせいでこんな歪んだ世界が生まれたわけだが……おっと。お前にはどうでもいい話だったな』 それよりも、と強い口調でこちらに語りかけてきます。少年は自ずと耳を傾けていました。 『お前には選択肢が二つある。このままこの世界で妹と一緒に死ぬか、それとも俺と一緒に妹を助けるか』 少年はひどく驚いた顔をしました。なにしろこの声の主は妹のことを知っているばかりか、助けてくれるというのです。 少年は問いました。本当に助けてくれるのか、と。 『ああ、保障する。絶対に助けてみせる』 実を言うと、少年はなぜかこの声の主を心のどこかで信頼していました。それは声色からか、話し方からかは分かりませんが。 最後に少年は聞きたいことがありました。 何故こんなにも親切なのかと。どうして助けてくれるのかと。それが唯一の疑問でした。 すると、呆れたような安心したようなそんな声が返ってきました。 ---そりゃ、お前が俺だからだよ--- その声が届いたか届かなかったか、その時には少年はすでに夢の中へと引き込まれていきました---- ************** 「Last Story」 「何書いてるんデスか?」 「これは絵本のメモ書きだよ〜」 葉留佳さんが小毬さんの手帳を上から覗き込んでいる。そこには小毬さんらしい可愛い字で走り書きが書かれていて、その横には本筋らしい話が小さく書かれていた。 「これってプロットってやつだよね」 「うん。まだ話がうまくまとまってないから絵本にするためにはもっと優しい言葉にしないといけないけどね〜」 「だからって授業中も書いてるのはどうかと思うけど」 「う、うーん。書いてたら止まらなくなっちゃって…」 「そのせいで数学の時間に英語解いてたんですよネ?」 「うぁぁーーっ! なんで知ってるの〜〜!?」 「いやぁ理樹くんが教えてくれましたヨ?」 「理樹くんがばらしたぁぁーーーっ!」 いや、僕は何も言ってないけどと抗議するも、聞く耳を持たなかった。そのすきに葉留佳さんはしめしめと言った感じで手帳に落書きを始めている。 「…ふむ、やっぱり始まりはこうするべきですヨ。『吾輩は変態である』」 「ふぇぇーーっ!?」 そうやって小毬さんが驚いている間にも葉留佳さんは落書きを進めていく。必死になって取り戻そうとするが、上手い具合に体の影に手帳を隠しているので取ろうとしてもとれない。じたばたと小毬さんがもがいていると、葉留佳さんの後ろをすっと通り抜けていくものがあった。…来ヶ谷さんだ。手帳を開き、中身を見る。 「何々…『吾輩は変態である』だと? なるほど小毬くん、おおよその事情は把握した。そんなに官能小説が書きたいならばまずは書き出しを変えるべきだ。『吾輩のピーは変態である』と」 「ふぇぇぇぇーーーっ!?」 小毬さんが驚いてる隙にこれでもかと言うくらい速記で物語を書き変えていく。小毬さんは慌ててその姿を追いかけていくが、来ヶ谷さんが残像を残しながら移動するので一向に追いつく気配がない。「私の残像は百八式まであるぞ」と余裕の笑みをこぼしながら逃げる来ヶ谷さんはどこか楽しそうだ。対する小毬さんは「返してぇぇーっ!」と半泣きになりながら見当違いの方向へと駆けだしていく。 「はっはっは。ついつい本気を出しそうになってしまったではないか。あと小毬くん、自分の胸ポケットを確認してみるといい。エロサンタさんからのプレゼントだ。じゃあな」 そう言って教室を去っていく来ヶ谷さん。小毬さんが途方に暮れていると、来ヶ谷さんに言われたことを思い出したのかブラウスの胸ポケットを探る。すると不思議なことに手帳が出てきた。廊下から「はっはっは」という笑い声が木霊してくる。小毬さんが恐る恐る手帳を開く。 「玉ねぎ王子がろうの翼を手に入れて空を飛んで伝説の城に行くお話になってるーーっ!」 意味も分からずに叫んでいる。 「あれ? でもそれって官能小説からは思いっきり外れてるしむしろ童話になってない?」 色々神話とかアニメとかゲームとかがごっちゃになってるような気もするけど。 葉留佳さんはそれが不満だったのか、「姉御が真面目な話を書くなんておかしい! インチキだー! 悪徳商法だー!」と喚き始めた。しまいに小毬さんから手帳を奪い取ろうとしたので、とりあえずげんこつを軽く頭に落とした。 「いたっ」 「これ以上騒ぐと真人が起きるから」 「だからってこの仕打ちはないと思いますヨ! あ、いたっ」 「二回目」 オーバーリアクションに頭を押さえながらうずくまる葉留佳さん。こちらをじっと見つめてくる。 「おのれ理樹くん許すまじ! 放課後にはるちんマジック使って悪いことしてやるんだから! 覚悟しといてよね! あでゅー!」 そう言い残して教室の外へと駆けて行った。相変わらず脈絡がないなと思う。 「手帳大丈夫だった?」 「あ、うん。ゆいちゃんが書いたところは別に大丈夫だったよ〜」 「来ヶ谷さんが書いたところ”は”?」 「うん…」 小毬さんが苦笑しながら手帳を開く。来ヶ谷さんが書いたであろうところは字が小さく、かなり薄く書かれていたので良かったが、問題は葉留佳さんが描いた落書きだった。猫だか何だかわからないものに注釈で「変態」と書かれている。筆圧で手帳を数枚貫通していて、見るも無残な状態になっていた。 「後で葉留佳さんに弁償させるね…」 「い、いいよ〜。まだまだ使えるし、だいじょーぶ」 はぁ…放課後が楽しみだ、とため息をついていると、小毬さんが「あれ?」と驚いたような声を出した。 「どうしたの?」 「えっとね、さっきまでここに何も書いてなかったはずなんだけど、今見たら字が新しく字が書いてあるの」 「どれ?」 小毬さんが指差す場所を見る。するとそこには「寒さに震えながら蝋燭を売る少年がいました」という字が書かれてあった。 「これって来ヶ谷さんとか葉留佳さんが書いたんじゃなくて?」 「私もそう思ったんだけどやっぱりおかしいよ。第一、この字ってパソコンで打ち出したみたいな字でしょ?」 確かにそれは活字体で書かれてあった。打ち出してある場所も落書き部分を避けてある。 しかし仮にそれがさっき書かれたとして、誰が何のためにどうやって書いたのだろう。そうこう考えていると予鈴のチャイムが流れた。 「あ、小毬さん次体育!」 「え、あぁぁーーっ! もうみんないないぃぃーーっ!」 急いで手帳を胸ポケットにしまい、体操着を引っさげて全力で駆け出して行った。僕も着替えて体育に向かった。 「いやー結構汗かきましたネ」 「今日は特に暑かったからね」 葉留佳さんが汗をぬぐいながらブラウスをばたばたと扇ぐ。小毬さんはぐったりしていて、仰ぐ気力も湧かないらしい。 放課後に僕たちは例の如く野球をしていた。しかし、恭介が「今日は特に暑いし、熱中症になるといけないから早めに切り上げるぞ」と宣言して、今は部室で全員ぐったりとしているのだった。僕も含めてほとんどが熱中症に近い状態にあった。 「なんだ、こんなのでへばってんのかお前ら。筋肉が足りてねぇ証拠だな!」 「全くだ。剣道ならこれくらいは当たり前だ」 この二人を除いては。 「さすがにおねーさんもこの暑さにはやられたらしい。勝手に手が動いてしまう」 そう言って来ヶ谷さんは手をわきわきさせながら鈴に近づいていく。 「お前は万年発情期か!」 「褒めるな、照れるじゃないか」 「褒めてないわ!」 「一つ為になることを教えてやろう鈴くん。人間とは発情期を失う代わりに年中性行為をすることができるようになったのだよ。その点で人間という生物は常に発情期であるとも言えるわけだ。つまり私には鈴くんの胸を揉む権利があるというわけだな」 「ないわっ!」 「姉御、揉むなら私の胸を!」 段々と不毛な戦いに発展してきた。鈴が来ヶ谷さんをキックで牽制し、来ヶ谷さんはそれを巧みに避け鈴に近づき、葉留佳さんはそれを邪魔して来ヶ谷さんの手を自分の谷間へと入れようとしている。結局のところ、全員膠着状態のままわーわーと騒いでいるだけであった。 「……うるさいです。いい加減にしてください。不毛です」 騒ぎにイライラゲージが限界を振り切ったのか、いかにも「消えてください」と言わんばかりの視線を送りながら西園さんが呟いた。そういう本人は野球には全く参加していないのになぜか疲れたような顔をしている。 「なんだ、みおちんも参加したかったんデスか?」 「……」 西園さんが小声で「下種が」と囁いたのが聞こえたのは僕だけだっただろうか。いや、僕だけじゃないはずだ。現にさっきまであんなにうるさかった部室が今は沈黙の真っただ中にあった。西園さんは満足なのか、また本に目を落とした。しかし誰も反省している様子はなく、また争いが始まるのは明らかだった。 「あれ、そう言えば恭介は?」 「ん、確かにいねぇな」 部室内を見渡す。恭介がどこにもいない。さっきまでいたと思ったのに。 「あいつのことだからな、心配はいるまい。むしろ今にも天井から落ちてくるんじゃないかとそちらの心配をするべきだと思うがな」 「そうかなぁ……」 「そういえばさきほど恭介氏が川へ向かうのを見かけたな」 川? 僕は不思議に思いながら部室から出て川の方を確認する。そこには恭介がいた。川の真ん中あたりで座りこんで水面をじっと見つめている。 「おーい恭介ー!」 呼んでみたけど返事がない。かなり遠いし、恭介も恭介で集中しているらしく聞こえていないようだった。もう一回呼んでみようかと大きく息を吸い込んだその時だった。 「ほわあぁぁーーーー!!」 「うわぁぁぁぁーーーー!」 不意に叫び声が走る。この声は多分小毬さんだろう。部室の中へと駆けこむ。 「どうしたの小毬さん!?」 「あ、理樹くん! て、手帳がですねっ!」 「手帳が!?」 「て、て、手帳がですね!?」 「どうしたの!?」 「ててて」 パニックで何も言えない状態だったので僕は手帳とってを見た。開かれていたページは今日見たページだ。しかし前見た時とは明らかに文章の量が違っていた。 「『少年はすでに夢の中へと引き込まれていきました』……?」 そこでページが途切れていたのでページをめくる。すると本当は何も書かれていないはずのページには文字びっしりと書き込まれていた。 「おかしいよねぇ……」 小毬さんは驚いた顔を見せてくる。僕にも何が何だか分からず途方に暮れていた。こういう話は恭介や来ヶ谷さんの専門だが……。 「なんだこれは? あいにく私はおとぎ話や幻想の類は興味がないのでな」 むしろ専門外のようだった。となると恭介に頼るしなかなくなるのだが、恭介は川のところで瞑想やらしているので話せない。 「これはどんな物語なんだ?」 謙吾が横から覗いてくる。他のみんなも興味津津と言う感じで集まっていた 「これは童話……でしょうか。マッチ売りの少女に近いですね。西洋を舞台とした物語だと思います」 西園さんが解説を加えてくる。こういうときは本当に頼りになる。 「しかしこの途中から挿入されてきた人物は一体何なのでしょう。この時代背景にも合わない口調ですし、第一話の内容が分かりません」 「確かに執行部 of the darknessってなんかかっこつけすぎですよネ。どこかの戦隊モノの助っ人みたい。敵だったけど途中から仲間になるみたいな」 「直訳すると闇の執行部となるが、そこのところはどうなんだ少年」 闇の執行部という名前は聞いたことがある。この学校の暗部での処理を行っているという謎の組織。いつか覚えてないが恭介が話してくれたことがあった。しかしいつだったか覚えていない。それに僕はもっと大事なことを忘れているような気が……? 考え込んでいると、クドが声を上げた。 「わふー! じが、字が勝手に動いてますっ!?」 なんだって、と思って手帳を確認する。すると、書き終わっていたはずの部分から新たに文字が浮かび上がってきた。 「これはいよいよミステリーと化してきたな……」 謙吾が呟く。みんな息を飲んでそれを見つめる。 「『これからやることがたくさんあるな……と俺はため息をこぼした。立ち上がり、これからすることの道順を立て始める。まずは戻らなくては、そう思い足を部室の方へ向けた』……?」 「いきなり書き方が今風になったね…」 「しかもどんどん字が浮かび上がってくる〜〜!?」 「『川から遠ざかっていく。こうした後始末もすでに俺の役目となっていることに気づいたのは最近だ。まぁ今回は俺のことだから仕方ないかとまた溜息をついた』」 鈴が浮かんでくる文字を読む。そう読んでいる間にも文字はどんどん手帳に書き込まれていく。順を追って真人がそれを読む。 「『そろそろみんなが心配しているだろう。俺は走って部室へと向かうことにした。案外早いものだ、部室棟はすぐ目の前だ。階段を駆け上がる』」 そこまで読み終わったところで、階段からかんかんかんという金属音が聞こえた。みんなして後ろを振り返る。 「少し伏せろ」 そう来ヶ谷さんが言ったなり、残像が走った。僕らの頭上を目にもとまらぬ速さで通り過ぎ、刀を構える。そしてそれを床に突き刺し扉に栓をした。 扉が開く。だが刀に邪魔をされ、一向に中に入れそうにない。みんなして驚愕する。 「本に書かれてあることと現実がシンクロしている……?」 西園さんが小声で呟く。見ている先の手帳には、『中に入ろうとしたが、扉が開かない。もうみんな帰ったのか……? もう一度開けてみよう』と書かれていた。扉が開こうとがちゃりと言う音がする。 「いよいよホラーじみてきましたネ……!」 「しっ、静かに。気づかれたらまずいよ」 葉留佳さんに注意する。みんなもそれに従ってじっとしている。唯一、来ヶ谷さんは扉の近くで臨戦態勢に入っている。 「とりあえずオレと謙吾の後ろに隠れてろ」 「こんな事態に遭遇したのは初めてゆえ安全を保障できるか分からんが、保障しよう」 真人と謙吾もみんなを庇う形で構えをとる。クド、小毬さん、葉留佳さんと僕はその後ろで待機していた。 ドアが動いてからしばらくが経った。みんなまだ緊張を解かない。それを西園さんが破った。 「…もう大丈夫です。『俺を置いて帰ったとは思えないが、いないことには仕方ない。少しがっかりしながら寮へ帰ることにした』と書いてあります」 全員が緊張を解く。来ヶ谷さんは刀を床から抜き取り、鞘にしまった。謙吾と真人も構えを解く。みんながみんなため息をこぼした。 「なんだったんだぁ今のは」 「まぁ、人智の範囲外であることは確かだな」 刀をしまいながら来ヶ谷さんが答える。クドが「みすてりあすですっ! ワンダフルですっー!」と日本語口調で叫んでいた。 「びっくりしたね〜」 「平面のお話が現実になったとは考えにくいですが……認めないわけにもいきませんね」 「僕たちは一回そういうことに遭遇してるわけだしね」 腕を組んで唸る。僕たちが体験したあの世界と同じでこの二次平面にも別の世界が存在しているのだろうか。そしてそれを実現させるだけの不可思議が働いているのだろうか。 「あ、文字が止まったね」 葉留佳さんが手帳を覗き込みながら言う。確かにこれ以上文字が浮かび上がることはなさそうだ、今は。 「全く、こんなことで神経をすり減らしたくないぞ」 「でもこの手帳を抜きにして、今ドアを開こうとしてたのは誰なんだろう?」 「そんなこと簡単ではないか」 謙吾が真面目な顔で答える。キョトンとしている僕にむかって真面目な顔で言った。 「この部室に帰ってくるということは、リトルバスターズの部員であるということだ。もし妖怪か何かの類でなかったらさっきそこにいたのは」 「馬鹿兄貴か」 「そういう事だ」 確かに、それならつじつまが合う。さっき僕が見た時は川の真ん中で佇んでいた。川から遠ざかっていくという表現もピンとくる。ということはつまり……。 「これは恭介の行動を書き表してる、ってこと?」 「ああ、そういう事になるな少年」 来ヶ谷さんも頷いていた。にわかには信じがたいが、なと最後に付け加えた。 「なら、こうするとどうなるの?」 葉留佳さんが文章の最後に『帰ろうと思ったが、やけに太陽に向かって走りたくなった』と書き足した。 「さぁ? 私には分からんが、すごく楽しいことであることは確かだな」 「オレも書き足すぜ! 『そこで俺はゴッサムと出会った』」 「ゴッサムって生き物だったの!?」 「正確にはゴッサム・トリハーダさんだな!」 「私にも書かせろ。官能小説を実現してくれる」 「私も書くのですーーっ!」 それからはみんなが思うように色々な事を書いていった。恭介がゴッサムと友達になったり、羽が生えたり、勇者として目覚めて迷宮を探検したり、サキュバスと出会ったり。 そうやって時間を潰し、飽きてぐだっとしていたころに手帳の最後に文字が浮かび上がった。 『疲れた……。俺にはまだやることがあるのにもう一ミリも動けないほど足ががくがくしている。幸い羽があるから関係ないのだが、眠気だけはどうにもならない。ぐっ、視界がかす、む……』 「これってフラグ立ってるよね!?」 「大丈夫だ、馬鹿兄貴だしな。明日になったらぴんぴんしてるだろ」 「本の世界だしな。実現される可能性すら分からん」 みんながみんな頷いている。 「もう充分楽しんだし、おねーさんは帰るとするかな。もう日も暮れている」 「オレも。腹がぺこぺこだ」 ……みんな思い思いのことをし尽くしてしまったのだろう。興味がなくなってちりじりになって帰ってしまった。残されたのは僕と小毬さんだけだった。 「…この手帳どうしようか」 「最後ぐらいはちゃんとおわらせてあげましょうっ」 そう小毬さんが言って、最後にこう付け加えた。 「『*この物語は一部表記が間違っています。正しくは、ゴッサムさんは登場しません。『俺』はなすべきことを成し遂げ、仲間と一緒に夕食をとったのでした。おしまい』」 「最終兵器だね」 「そういうことですっ。じゃあ私たちも帰ろー」 おーと手を振り上げて答える。寮の前で別れて、その後食堂へと足を向けた。 「よう理樹」 恭介が何食わぬ顔で夕食を食べていた。他のみんなもすでに夕食を食べている。 「恭介、その大丈夫だった?」 「? 何がだ?」 「いや、何にもないならいいんだ、あはは……」 「お前こそ大丈夫か理樹? メイド服なんか着て参上とはまた大した度胸だな」 「まったくだな。くちゃくちゃ可愛いぞ」 「え?」 そう言われて自分の服を見下ろす。そこで僕はやっと自分がメイド服を着ていることに気づいた。まさか……今度は僕の番? ************** 少年は目が覚めました。しかし、自分が何をしていたのか全く思い出せません。しかも、なぜか自分は壇上に立っているのです。目の前には恰幅のいい男の人が立っていました。 『おめでとう』 そう言われて、少年は花束とともに表彰状を受け取りました。そこには受賞した賞の名前と、自分の名前と絵の題名が書かれていました。 『Last Story』 『異世界での友達の物語、暖かくも悲しいその世界に魅せられた人は数えきれません。皆さま、もう一度盛大な拍手を!』 拍手が巻き起こります。会場を見渡していると、そこには妹の姿もありました。ドレスで着飾っていて、とても映える服装でした。口の形から「おめでとう、お兄ちゃん」と言っているのが分かりました。声援に包まれ、何が何だかわかりませんでしたが、これだけは分かりました。 『ああ、僕は救われたんだ、と』 そして少年の世界は幕を落としました。 ************** [No.602] 2009/12/26(Sat) 00:20:02 |
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