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all 第48回リトバス草SS大会 - 大谷(主催代理) - 2010/01/08(Fri) 00:04:52 [No.614]
りとばす日記 vol.131 - ひみつ@13242 byte 大遅刻 - 2010/01/09(Sat) 21:31:05 [No.625]
しめきり - 大谷(主催代理) - 2010/01/09(Sat) 00:36:13 [No.624]
百合色恋模様 - ひみつ@8847 byte - 2010/01/09(Sat) 00:07:41 [No.623]
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降下螺旋 - 秘密@6683 byte - 2010/01/08(Fri) 20:44:55 [No.618]
ワルプルギスの夜 - 秘匿@10734 byte - 2010/01/08(Fri) 02:07:17 [No.617]
初日の出に誓う - ひみつ@5357 byte - 2010/01/08(Fri) 00:21:45 [No.616]


降下螺旋 (No.614 への返信) - 秘密@6683 byte

今朝からずっと降り続いていた雨が上がった。空を見るともう日は沈みかけていた。
今日はもう蝉のうざったい音を聞かなくて済むだろう。また、あの茹だるような暑さに悩まされることもない。
くそっ
普段なら夏らしいと肯定的にとらえるものに苛立ちや不快感を覚える。
「どうしたの謙吾?怖い顔して」
「けが、いたいのか?」
死の淵から救ってくれた理樹と鈴に心配される。理樹はともかく鈴にまで心配されるとは…。鈴もあの世界で成長したのか。それとも俺がよほど深刻な顔をしていたのか。
「いや、なんでもない」
「そう…ならいいけど」
「あんまシケた面してっと筋肉までシケちまうぞ」
「おまえはうるさい」
「おーい、置いてくぞ」
いつの間にか恭介は先に進んでいた。
「なに、心配はいらない。早く帰ろう。もうすぐ門限だ」
「うん」
今日で何度目になるか解らないが全員復帰パーティーの為の菓子をそれぞれ持ちながら寮への帰り道を急ぐ。草むらから夏の虫の音が聞こえる。少し耳障りだった。

仲間はいる。一人も欠けることなく。しかし俺にはたった一つ、大きな穴がポッカリと空いていた。あいつが―古式が居ない。

意識が戻った次の日からずっと古式を探していた。同じ病院にはおらず、理樹や鈴に聞いても何処の病院にいるのか全く解らなかった。復学したとも退学したとも聞いていない。完全にどこにいるのか解らない状態だった。
「なぁに、大丈夫だろう。そのうち元気に戻ってくるさ。気にするな」
まるで何かを知っているような、恭介のその明るい励ましの言葉にさえも怒りを覚える。
『人の気持ちも知らないで!』
思わず叫びそうになったが理性がそれを抑える。そんな自己中心的で愚かな事を言いそうになる自分に嫌悪感を抱く。
くそっ
苛立ちが、心荒ませ、それがまた嫌悪感を招く。
まるで底なし沼のような、心のデフレ・スパイラルとでもいうべきだろうか。

「遅いぞお前ら」
「うわっ、危なかったね」
結局門限ギリギリに寮に着いた。
「早く戻ろうぜ。風紀もうるせぇしな」
真人が寮へ入る。理樹と鈴も女子寮へ向かう。

ヒュッ

風を切る音
振り返る
林の奥に
誰かがいる
誰かと目があう

誰かが林の奥に消える
「どうした?謙吾」
「…いや…」

そんなはずはない―
しかし今のは―

見間違いだ―そんなはずはない!
もう遅い―時間などどうでもいい!

あいつはもう―それを確かめる!
ならば何故逃げる

動き出した足が止まる。
どうすれば―

「謙吾」
恭介が俺の肩を軽く叩く。
「そこがお前の悪いところだ。保守的になったり、躊躇ったり」
「…」
「剣道もそうだろう?思い切って仕掛けないと勝てやしないぜ」
「…しかし」
「降り下ろす 剣の下の 深見川 踏み込んでこそ 浮かぶ瀬もあり だ。ほら、もう迷うな。とっとと行け」
優しく背中を押される。
風を切る音に混じり虫の音が聞こえる。
何も感じない。

あいつが消えた方へ走る。
居た。林の中、俺を待っているかのように。
しかしあいつは走り出す。
「待て!待ってくれ!」
叫んでもあいつは巧く木々を避け林の奥へと走る。
地面の凹凸に足を取られそうになる。木の枝が顔を叩く。まるで俺を妨害するようにあるようだ。
林が開けた。目の前には弓道場。思い切って中に入る。
しかしどこを探してもいない。

弓を放つ場所で立ち尽くす。結局何にもならなかった。何も変えられる事が出来ず、自分の心の傷を深くしてしまっただけだった。
くそっ



ひゅ〜〜〜〜〜〜〜…

…ん?


パァーーン!!

「うお!?」

しゅーーー
ズババババババババババババ!!
「うおお!?」
なっ…、これは…

ぴゅーー ふしゅーーー ひゅー

ドドドドドドドドバチバチバチバチパパパパパパ!!

は、花火!?

ドンドンドン!バン!ブシャー!
何故こんな!?いや、それより花火近…

ドーンッ!パチパチパチパチパチパチッ!バババババババッ!

「ちょ…、まっ…」

ドンッシュババババブシャバチひゅ〜ドドッドッゴーン!!!!


特大の花火を最後に辺りは静けさを取り戻した。その静けさが耳に痛い。
弓道場には煙が充満し、花火独特の匂いが鼻を刺激する。
目の奥には色とりどりの花火の残像が残っている。

混乱した頭で考える。
…意味がわからん。何でこんな大量の花火が…。

「きゃっ!」
上から悲鳴がした。

「こ、古式!?」
古式が天井にぶら下がっていた。しかし―
「…あっ…!」
片手で天井から垂れ下がっているロープを掴んでいる。今にも落ちそうだ。
「古式っ!そのまま手を離せ!」
「し、しかし…」
「大丈夫だ!絶対に受け止める!」
不安に染まった顔
目が合い見つめ合う

ゆっくりと古式の顔が綻ぶ
片目を閉じる

手を離す

ガシッ
ドテッ

「いっ…」
「だっ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、平気だ…」
「…すいません…」
古式は俺の腕の中で小さくなる。
「何故あんなところに居た?」
「…あの…棗先輩の指示で…」
「恭介の?」
「…はい…」
「…説明してくれ」
威圧するような言い方になってしまったか。古式はさらに小さくなる。
「あぁ、すまん…。話してくれ」
「…はい」
古式は話し始めた。

「事故の怪我で私は皆さんとは遠い所の病院へ搬送されたんです。しかも退院が遅れて…」
「それで?」
「はい…。一応完治はしたのですが、その…学校に行きづらくて…」
「…」
「そんなときに棗先輩が私の目の前に現れて『こっちに戻って来ないか?最高の形で』とおっしゃったんです」
「…最高の形…?」
「いえ…あの…事前に説明されたのは、『ロープにぶら下がって宮沢さんが真下に来たら飛び降りる。後は宮沢さんが何とかしてくれる』というものだったんです」
今初めて理樹の突っ込みの大変さが解った。訳解らん事ばかりで理樹はさぞ大変だろう。…古式がロープにぶら下がってということは、古式はこの作戦に賛成したという事だ。何故…。…まぁいい、置いておこう。
「来たと思ったらいきなり花火が…。それに驚いて…怖くなって…」
「…そうか」
「…あのぅ…それだけです…」
「…これは最高の形なのか?」
疑問を口にする。

「…さ、…最高…だと…」
「…はぁ?」
「だ、だって…今…」


「うおぉお!?」
頭が一杯で気づかなかった。近い。距離が。近いと言うか密着している。というか俺が古式を抱きしめている。
「あ、や、こ…これは…!」
「わ、わかって、ます…」
古式は俺の胴着を小さく掴む。
「だから、さい、…最高の…」
「…古式…」
「…み、宮沢、さんは…どう…どう…」
「…わざわざ言わねばならん事か?」

古式をギュッと抱きしめる。
「最高だ。古式」
古式の笑顔が咲いた

風がふわりとそよぐ
月明かりが優しく照らす
虫の音が心地よく響く
花火の残り香が祭りの後を思わせる

「…あと、一つ聞きたい」
「なんですか?」
「なんで巫女の格好をしているんだ?」
似合い過ぎて全く違和感が無かった。
「棗先輩が、宮沢さんは巫女さんが好きだ、とおっしゃったので…。…お気に召されましたか?」
「…」
だからなんでそんな事を実行するんだ…?…否定はできないが。

「あの…ちなみに」
再び緊張した声で古式が言う。
「ちなみに…今ここは…完全に、二人っきりだったりします…」
真っ赤な顔の古式が上目使いで見つめる。
俺は小さく息を吐く。
「茶番だ、恭介」


「やれやれ、遂に二人だけか。寂しいねぇ」
「まぁ、いいじゃないか。友達が幸せになったんだから」
「あーあ、羨ましいぜ」
「その筋肉を少し捨てたらモテるかも知れないぜ?」
「…それはイヤだああぁっ!!」
「はは、冗談だよ。お前はそのままが良い」


「だから何で僕は女子組なのさっ!」
「良いじゃないか、可愛いんだから。あぁ…萌え」
「帰りたいのなら良いですよ。ただしそのままの格好で恭介さんの前に立って下さいね。…萌え」
「猫耳にスク水にしっぽにニーソ…よく集めましたネ」
「謙吾君たち上手くいったかな〜?だいじょーぶだよね、きっと」
「大丈夫ですよ!お幸せに、なのです!」
「どこかのささ子はごしゅーしょーさまだな」



「おい、なんだ今の!」
「弓道場のほうだ!」
「誰だ!学校内で!しかもこんな時間に花火など!」
「なんとしてでも捕まえろ!」
「行くぞ!」


[No.618] 2010/01/08(Fri) 20:44:55

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