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最近の私はどこかおかしい。というのも、仲直りして暫くするというのに気がつけば葉留佳のことばかり考えている気がする。 今私は中庭のベンチの隣に立っているけれど、特にすることもないし寮に戻るとしよう。 すると、誰かがこちらへ向かってくる足音が聞こえた。 視線をそちらへ向けて見えたものは、見間違えるはずのない私の大切な妹、葉留佳。左手を振り、笑顔でこちらへと駆けてくる。 その姿が目に入った瞬間、私の心臓は一瞬ドクンと大きく振動し、それはやがて小さなものへ変わりつつある。 「ねえお姉ちゃん、あのさ……あれ、どうしたの?」 余波がまだある中、いつの間にか目の前にいた葉留佳が口を開いた。 「え、いや、別にどうもしないわよ。と、ところで何のよう?」 普通に答えようと思ったけれど、顔があまりにも近くにあるものだからつい戸惑ってしまった…… 「えっとね、宿題教えてほしいなーって思って」 「わかったわ、すぐ行くから部屋で待ってなさい」 「ありがと、それじゃまた後でねー」 しかしそんな私を不審に思うこともなく、葉留佳は去っていった。 あの子らしいといえばそうなんだけど、もう少し気にしてくれたっていいじゃない…… 「君は今、恋をしているな?」 声!? いったいどこから? 「こっちだ、佳奈多君」 私から見て左側から声が聞こえてきたのでそっちを見てみると来ヶ谷さんが立っていた。相変わらずこの人は神出鬼没だ。 「ところで今のはどういうことですか? 私恋なんて別に……」 「隠さなくてもいい。一部始終を観察した結果での判断だ」 「勝手に観察しないでください! というか間違いです!」 「ならどうしてそんなに慌てる必要があるのかな?」 言われて初めて気づいた、自分が取り乱していたことに。そして、自分の気持ちに。 「そんな、私は……葉留佳のことが?」 「さあ、どうする? このまま自分を偽り続けるのか? その感情を抱えたまま葉留佳君と過ごすのか?」 「それは……」 来ヶ谷さんの言葉が重く胸に響く。このまま自分に嘘を吐き続けても余計に辛くなるだけだ。でもこの気持ちを伝えて葉留佳は受け止めてくれるだろうか。 もしダメだったらどうすれば……でもこのままは嫌だし…… 「ふむ、やはり結果が怖いか」 「べ、別にそんなこと……大体まだ告白するなんていってません」 「顔に出ていたからな、それくらい分かる。まあそれ以前に本心とは逆だろう、今の言葉は」 まったくこの人は……怖いくらいに心が筒抜けに見透かされている。 口で負けるのは悔しいけど引き下がることにした。いったん落ち着きたいし。 「まて佳奈多君。想いを伝えたくはないのか?」 「それはこれから考えます」 「私にいい案がある。それにかけてみる気はないか?」 「来ヶ谷さんの案?」 額に手を当て考える。この人の言うことを素直に信じて大丈夫なのだろうか。 しかし案というからには何かしらの行動を起こすということ。 今の私ではきっと部屋で待っている葉留佳を意識して勉強どころじゃなくなり変に思われることだろう。 そうなるよりは何か作戦みたいなのがあった方がいい。それなら…… 「お願いします……」 藁にもすがる思いで提案を呑んだ。 ただ葉留佳のことを考えながらだったので、うつむき気味で声もか細くなってしまったが。 それに多分さっきから私の顔は真っ赤になっていると思う。 「うむ、やはり君は素直になった方が好感が持てるな」 「……そうですか」 「今の君を見たら葉留佳君も一発でおちるだろう。まあ私が横取りしてもいいんだがな」 「ダメよ、葉留佳は渡さないから」 「いや、佳奈多君に対してなんだが……」 「……え? 私?」 流石にそれはない。この人のことだから冗談に決まってるだろう。 そう思ったけど、気まずそうに目をそらしていた。若干顔が赤く見えるのは光の加減だと信じたい。 「えっ、と……」 とりあえず言葉を発するも続かない。というかこの沈黙、妙に気恥ずかしくて居心地が悪い。 それに早く葉留佳のところに行かないといけないのに……ってそうよ、さっさと案とやらを聞いて戻らないと。 「ところで来ヶ谷さん、さっきの案というのは?」 「あ、ああ。それはだな……」 部屋に戻った私は葉留佳の宿題を見ている。といっても形だけ。 意識してしまって正直それどころではない。 「お姉ちゃん、なんで竹刀出したの?」 「……なんとなく、よ」 我ながら苦しい言い訳だと思う。 本当の理由は、さっき話していた作戦にある。 まず来ヶ谷さんが強盗っぽい変装をしてここに来て、私たちを脅す。 そこで私が「葉留佳には指一本触れさせないわ!」と竹刀片手に葉留佳を守る姿勢をする。 来ヶ谷さんが構えを取った瞬間、寸止めで竹刀を正面から振り下ろす。 そして…… 「……金を出せ。さもなくば……」 扉が開き、黒いコートと黒いサングラスと黒い帽子を装備した来ヶ谷さんが入ってきた。まさに全身黒ずくめである。 ていうか早すぎです来ヶ谷さん。もう少し心の準備をさせてください。わかってても少しびっくりしてしまいました。 「うっ……お姉ちゃん……」 しかし怯える葉留佳を見てそうも言っていられない。竹刀を持ち、来ヶ谷さんと正面から向かい合う。 「ほう、やる気か?」 そう言って懐から模造刀を取り出し、構える来ヶ谷さん。 今更だけど葉留佳には悪いかな、刀はやりすぎだし……そう思って葉留佳を見ると、怯えて部屋の隅で震えている。 後で来ヶ谷さんにはきつく叱っておかなければ。いや、この作戦を飲んだのは私か……感情に任せたのが間違いだったかもしれない。 そんなことを思い前へと向き直る。 と、まさにその瞬間。 「誰だ! ……ッ!」 運悪く通りかかった誰かが来ヶ谷さんを発見してしまった。よく見れば風紀副委員長である。 怪しい者を追い払おうとしたところ、刀に驚いたというところか。 いや、冷静に分析している場合ではない。このままでは来ヶ谷さんが危ない。 下手すると退学……そう思うと本当のことを言う他なかった。 「……違うわ、その人は来ヶ谷さん。学園の生徒よ」 「ふ、証拠はあるのですか?」 「もちろん……来ヶ谷さん、もういいです。濡れ衣をかぶる必要なんてありません」 「……そうだな。こんな馬鹿なことをしてすまなかった。ドアを閉めておくべきだったな。 「いや、それは少し違う気が。それに誤解を招くようなこと言わないでください」 副委員長は見るからに怪しいものを見る目つきで来ヶ谷さんを見ている。まあ実際見た目は怪しさ満点なわけだが。 それに気づいたのか、来ヶ谷さんは変装を解いた。 葉留佳はそれに気づき、安心して脱力した。 「どうしてこんなことをしたんですか? 2人そろって馬鹿なことを。特に委員長、どういうことですか?」 「……これは訓練よ、もしもの時のためにね」 それに正確には元委員長だ。この際どうでもいいけど。 「ですがその刀が動かぬ証拠です」 「これは模造刀よ。安全は約束されているわ」 「そう……ですか。委員長が言うのなら信じましょう。ではこの辺で」 そう言って副委員長は去っていった。ふう、何とかやり過ごせた。 「さて、葉留佳君に言っておかなければいけないことがある。訓練というのは嘘だ」 「ええー! じゃあ今のなんデスカ!?」 「それについては佳奈多君が説明してくれるはずだ。理由も含めてきっちりとな」 来ヶ谷さんはそう言った後、チラッとこっちを見てから荷物を回収して止める間もなく去っていった。 もしかしなくてもこれは想いを伝えろということなんだろうけど、急にそんなこと言われても心の準備ができてない。 「お姉ちゃん……いったいどういうこと?」 しかし葉留佳詰め寄ってくる葉留佳にさっき以上の言い訳が思いつくはずもなく、真実を打ち明けるしか方法はなくなった。 「実は、葉留佳に好かれたいと思ったからなの。葉留佳を守る姿を見せたかったっていうか、かっこいい台詞を言いたかったっていうか……」 ああもうめちゃくちゃだ。葉留佳の顔をまともに見れないくらい恥ずかしい。 「つまり、私にいいとこ見せて好感度アップしようとした……みたいな感じ?」 「そ、そうよ! 笑えばいいじゃない、もう!」 「……1つだけ聞かせて、どうしてあそこまでしたの?」 「わかるでしょ、それくらい葉留佳のことが好きだってことよ……」 「え!? で、でもそれだけの理由であそこまでしないと思うよ。 ていうかお姉ちゃん、それだとまるでドラマで好きな人への印象アップの作戦みたいじゃあ……あれ?」 そこまで言って気付いたみたい。流石にもう覚悟を決め、葉留佳の瞳を見つめる。 「そうよ、私は葉留佳が本気で好き。誰よりも大好き。だからこんなことまでしたの。 言い出したのは来ヶ谷さんだけど、断らなかったのは葉留佳に好かれたかったから。だから……」 そこまで言って言葉を切る。そして葉留佳の言葉を、待つ。 十数秒後、葉留がゆっくりと口を開いた。 「……私もお姉ちゃんのことは大好きだよ。だから、確かめる必要があると思うんだ、お互いに想い合ってるかを……」 2人同時に顔を近づけ、葉留佳の朱に染まった顔を私の目が映す。 目以外は本当にそっくりな、私の妹。心から愛しいと思う、大切な妹。 両手を同時にゆっくりと絡ませ合い、お互い視線を固定したたまま見つめあう。 「葉留佳……いいのね?」 「うん……お姉ちゃん」 葉留佳が目を閉じる。ついにここまで来てしまった。唇が乾くのがわかる、けどもう退けない。 ゆっくりと唇を近づけ……合わさった。体中が幸せな感覚に包まれる。 暫くしてどちらからともなく唇を離した。 「葉留佳……本当に、私でいいのね?」 「もちろんだよ、お姉ちゃん」 「ずっと一緒にいてくれるわね?」 「お姉ちゃんこそ、途中でやっぱりダメとか言わないでよね?」 「言わないわよ。それより……1つお願い聞いてくれる?」 「お姉ちゃんからとは珍しいね。うん、いいよ」 「じゃあ、私のこと一回名前で呼んでくれる?」 突然にそう呼んでもらいたくなった。きっと特別な呼び方で呼び合いたいんだと思う。 「じゃあ……佳奈多お姉ちゃん!」 「……葉留佳、大好きっ!」 自分でも無意識のうちに葉留佳に抱きついていた。懐かしくて特別な呼ばれ方だったから。 確か小さいころ1度だけこう呼ばれたことがある。そのとき私はとても嬉しくて抱きしめたくなったのを今でも覚えている。 「え、ええ!? 恥ずかしいからこれは止めとこうと思ったんだけど……困りましたネ」 「ううん、これがいい。愛してるわ、葉留佳」 「なんか随分キャラ変わってるような……」 「自覚はあるわ。でも本当に嬉しくって……」 「もう……私も愛してるよ、佳奈多お姉ちゃん」 [No.623] 2010/01/09(Sat) 00:07:41 |
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