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これはひどい。 なぜかマッチョの理樹君に「生まれ変わった僕を見て!」と押し倒され、(21)に「さあ今すぐこのランドセルを背負うんだ」とのしかかられ、筋肉に「マッスル!」とのしかかられ、剣道に「マーン!」とのしかかられ、息苦しさで目が覚めた。夢だった。 なんだ夢かああよかったファッキン。と思ったら私の自慢のお胸様に顔をうずめて幸せそうに眠るアホ面。葉留佳君だった。 そういえば、うつぶせに寝るなどして胸が圧迫されると、悪夢を見やすくなるという話を聞いたことがある。どこで聞いたんだったかな。思い出したひ●らしだ。 そんな益体もないことを考えながらも葉留佳君の体を揺さぶり起こす。ガン寝していた。まぶたをこじ開けて息を吹きかけてやった。飛び起きた。 「姉御ひどいっすヨ!?」 「私のおっぱいまくらを勝手に使用した罰だ。ほらそこにいけに――いや鈴君と理樹君が寝ているぞ。そっちにいったらどうだ」 「いやー、鈴ちゃんのは迫力が足りな――ごめんなさいなんでもないです」 軽くにらんでやったらあわてて鈴君に飛びかかり、そのまま蹴り飛ばされて床に転がる葉留佳君。さらにその衝撃でテーブル上のグラスが倒れ、水で薄まった酒と氷が葉留佳君の頭にだばだばだー。鈴君・理樹君は身を寄せ合ってぐっすり。 まったく、おっぱいを馬鹿にするからバチがあたるんだ。おっきいおっぱいちっちゃいおっぱい、やわらかおっぱいかためおっぱい。おっぱいに貴賎はなく上下もなく、ただそこにあるだけのおっぱいであるというのに選り好みするんじゃない。 ……いま何時だ。二時か。むこうはまだ盛り上がってるのだろうか。 私はひとり騒ぐ葉留佳君を残し『ダベリ部屋』を出て、向かいの『歌い部屋』に入る。 『ガガガ・ガガガ・ガ●ガイガー! ガガガ・ガガガガ・ガオガ●ガー!』 馬鹿ふたりが熱唱していた。たしか子供のころにはやったアニソンだ。 盛り上がっているふたりより楽しそうな恭介氏。隣には手をたたきはしゃぐ小毬君。反対側の隣ではクドリャフカ君が船をこいでいる。向かいにはひたすらに曲目をめくり続けている美魚君。個人差はあるが、全員顔が赤い。 とりあえずクドリャフカ君の隣に座り、ふらふらと揺れている頭を私のふとももに押しつけた。なんの抵抗もなくぽてんと倒れたクドリャフカ君は、そのままくーくーと寝息を立てた。そこまで眠いなら無理せずとも良いのに。 ふと恭介氏を見ると、ものすごい形相でこちらを見ていた。肩に頭がこつんとか、あわよくば勢いそのまま膝枕とか、ラッキースケベを狙っていたらしい。十年早いのだよ。 テーブル上に乗っていた、おそらくクドリャフカ君のであろうカルーアミルクをあおる。 甘っ。 ガムシロップで甘みが強化されていた。どんだけだ。 一際大きい絶叫と、それよりも大きなギターの音。静寂。右から左に聞き流していた熱唱が終わったらしい。私はグラスを置き、「カ・エ・レ! カ・エ・レ!」と賞賛を送る。マジ泣きされた。 画面には、次に予約されていたのであろう曲がでかでかと浮かんでいた。●キシ●ムザホルモンか。なかなかにCOOLじゃないか。恭介氏か。 そしてマイクを手に取る、美魚君。 『…………』 「…………」 『……、いけませんか?』 「いや……」 とりあえず、美魚君のデスボイスは胸にきた。こう……色々な意味で。 ざあざあと雨降りに、舌打ちひとつして空を見上げる。恨みがましい視線を意にも介さず、空は雨を吐き出し続ける。その視線を下に降ろせば、いくつかのグループに分かれて談笑するリトルバスターズのみんな。 よくもまあ全員集まれたものだ、といまさらながらに感心する。 大学生やフリーターの私たちならともかく、社会人の恭介氏や海外留学中のクドリャフカ君まで。 なんの因果か運命か。突発的に理樹君が発した「同窓会をしよう」が見事全員参加という快挙を遂げていた。まあ理樹くんのことだから、あらかじめみんなの予定を把握しておいたのだろうな。なんせ理樹君だし。 呑みからカラオケになだれ込むと言う比較的ポピュラーな流れの同窓会は、朝方カラオケの閉店時間と共に終わりを告げた。 名残を惜しむでもなく、「じゃあね」「またね」とあっさり解散と相成った。誰もが再会を疑ってない顔だった。きっと、私もそんな顔をしていたはずだ。 恭介氏と小毬君とクドリャフカ君、理樹君と鈴君と美魚君は向かう方向が同じと言うことで、それぞれタクシーに乗って帰っていった。私と葉留佳君は歩いて帰れる場所だったので全員を見送ってから歩き出した。地元万歳。……ん? 誰か足りないような……まあいいか。 「あーねごーぅ」 「葉留佳君キモイくっつくな」 「ひどいっすヨ姉御ー。この折り畳み傘は誰のだと思ってるんデスか?」 「私が持っているから私のだな」 「私のだってば!?」 「ええいくっつくなうっとうしい」 「傘が小さいからしょうがない、しょーがない」 えへへー、ぴとー、とかなんとか言いながら寄り添うと言うか寄りかかってくる。コイツ、実は自分で歩くのが嫌なだけなのでは? 「とゆーか、ゆいねえなら傘なくても大丈夫なんじゃあないデスか?」 「なんだそれは水も滴るいい男になるから大丈夫だむしろ漢だとそう言いたいのか。そうか喧嘩打ってるのか安く買い叩いて売り返してやるぞあぁん?」 「被害妄想っすよ!? そうじゃなくて、雨とかよけて動けそうだなーと」 「無理だ。いくら私でもできることとできないことくらいある」 「そすかー」 「だがしかし、葉留佳君ならできる」 「無茶振りktkr!?」 「あきらめるな……あきらめるなよそこで! なんであきらめるんだよ頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれって、やればできる自分を信じていけNever give up!」 「なんかやればできる気がしてきたー! とりゃああああ!!」 店長に教えてもらって見たら爆笑した動画ネタを披露してみた。正直うまくいくとは思わなかった。さすが松岡修●。 小さい傘のなかから飛び出して、猛ダッシュで駆ける葉留佳君。水溜りですべって転んでいた。ついでにその衝撃でナイアガラリバースしていた。 目を回して気絶している葉留佳君の首根っこをつかんで、ため息混じりにひきずって歩いた。 我が家に到着。ゲ●と雨でぐちゃぐちゃな葉留佳君をバスタオルと一緒に風呂場に放り込んで自身は部屋着に着替える。 時計を見ると朝六時。今日は九時からバイトがある。……寝るか? いや、起きていた方がいいか? どうにも判断がつかないままうんうんうなっていると、三十分以上経っていた。ついでに葉留佳君が全裸で風呂場から出てきた。寝るのはあきらめよう。 「ふいーさっぱりしたーってここどこー!?」 「私の部屋だ。とりあえず服を着たまえ、もしくは隠せ」 「うわわわわ!?」 しゅぱんっ! と風呂場に巻き戻る葉留佳君。ばっちり全部見させてもらったが。 「姉御ー服がずぶぬれで着られないですヨー」 「洗濯機の横に、買ったはいいが使う機会がなくて一度も着ていないバスローブがあるからそれを使いたまえ」 どこだー、これかー、こうかー、てりゃー。 意味不明な掛け声の後に、真っ白なバスローブ姿の葉留佳君が出てきた。 「……やはは。なんか、これ着てるとオカネモチになった気分ですネ?」 「また少しおっぱいが大きくなったんじゃないか?」 「人が必死に話題をそらそうとしてるのに!?」 「だからこそだよ」 うわーはずかしーと転げまわってる葉留佳君をまたいで、キッチンに向かう。炊飯器を開け、冷蔵庫を開け、振り返る。 「さて葉留佳君、食欲はあるかね?」 「おおっ!? 姉御料理できたんデスか!?」 「馬鹿にするなよ。私だってそうめんぐらいつくれる」 「選択肢ないじゃん!?」 「まあ冗談だ。スペイン料理とイタリア料理と中華料理、どれが食べたい?」 「おー。なんかホンカクテキー。んーと、じゃあ中華」 「よしチャーハンだな」 「ショミンテキー!? ち、ちなみにイタリア料理だとなにが出てくるんですか?」 「リゾット。ちなみにスペイン料理はパエリアだ」 「全部お米じゃないですか!」 「お米食べろ!」 「いや食べますけど!?」 冷蔵庫から取り出すのは卵とたまねぎとウィンナーとカニ風味サラダ。 たまねぎとウィンナーを刻んで炒めて、炊飯器からご飯を出して、卵を溶いて――。 「そう言えば葉留佳君はアレルギーとか……」 寝ていた。 他人様のベッドを占領して眠っていた。まあ昨日から馬鹿騒ぎしていたからな。しょうがない、しょーがない。 私は窓まで歩き、閉まっていたカーテンを全開にした。容赦ない朝日が部屋を照らす。雨はあがっていた。 窓を開けると、湿った風がほほをなでた。うっとうしかった雨だが、あがってしまえばそこには涼やかな空気が広がっていた。 雑草で荒れ放題の庭に、彩りをつけるかのように赤い花が咲いていた。カトレヤか? だからどうした。 ベッドの横にちゃぶ台を置いて、その上に皿とコップとレンゲを並べる。 キッチンに戻り、溶いておいた卵を熱しておいたフライパンに投入。卵が固まる前に白くて生暖かい塊つまりはご飯をぶち込み、混ぜる交ぜる雑ぜる。フライパンをゆすると米粒と卵が宙をキレイに舞う。ある程度炒めたらたまねぎとウィンナーを投入。完成。 私はチャーハンをフライパンごとちゃぶ台まで運び、朝日が蹂躙する中眉をしかめながらもいまだに眠る葉留佳君に一言。 「――チャーハンできたよ!」 [No.639] 2010/01/22(Fri) 23:14:57 |
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