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夢は… (No.682 への返信) - 秘密@10578 byte

ふわり
風がそよぐ
柔らかな光に照らされ
何処までも続く草原が輝いていた

「…西園さん?」
「はい。なんでしょう」
隣の西園さんがいつものように答えてくれる。
けど、今居るここはいつもの場所ではない。
見たこともない、まるで夢のような場所。
「ここは何処?」
疑問を口にする。
「ここは始まりです」
「…え?」
始まり?始まりって何の?
「根本は本流から外れた支流です」
「…良くわからないんだけど…」
「…直枝さんは『果てしない物語』という本をご存知ですか?」
逆に質問された。
「えっと…ごめん、題名しか解らないや…」
西園さんは軽く息を吐き、話し始めた。
「『果てしない物語』の主人公は本の中のお姫様とその国を救いました」
「本の中の?」
「はい。そして願うことでその国を一から創る力を貰い、望みのままに国を創ったのです」
「…本の中の国を創る…?」
解るような解らないような。
「それと同じように直枝さんにはここを創る事ができます」
「要するに…願いが何でも叶うの?」
「大抵の事は、はい」
何でも望みが叶う…。それは…
「何か…こう…副作用みたいなものは無いよね?」
世界を創るんだ。そんな大きな事が出来るだろうか?
「ありません。安心してください」
…そうか。でも幾つか疑問がある。
「なんでそんなにここの事を知っているの?」
「私が恭介さんに創って貰ったからです」
「恭介に?」
「先程も言った通りここは本流から外れた場所で回避することも出来たのですが、恭介さんに無理を言って私と直枝さんだけの世界に作り替えて貰ったのです」
「なんで恭介はそんな事が出来るの?」
ため息をつく西園さん
「それはお答え出来ません。それにどうせ忘れてしまいます」
「忘れないよ!こんな事…」
「と言うか無理矢理にでも忘れてさせてしまうと思います。直枝さんの為に」
「…」
釈然としない。解らない事だらけだ。
「解らなくても納得して下さい。そんなもんなんだと」
「…う…ん」
そう言われても…。
「それとも…私の事は信用できませんか?」
拗ねたように言う西園さん。思わず可愛いなと思ってしまう。
「ううん。そんなことないよ」
「…そうですか」
元の口調に戻る。

「改めて、直江さんは何をお望みですか?」
僕の望み―

「西園さんと色んな所に行きたいな。西園さんとずっといたい」
「それが望みですか?」
「うん」
顔を赤らめる西園さん。

でも…
どこか悲しげなのは何故だろう?

「少し嬉しかったです」
「え?」
「私を…私だけを選んでくれた事を」
「うん。一緒に居たかったから」
また顔を赤らめる。
「正直、皆さんと一緒にと言うと思っていました」
「それも良いなとは思ったけどね」
「でも恭介さんと一緒に、が一番嬉しかったかも知れません」
…こういう人だ。

西園さんは立ち上がる。
「行きましょうか。何処かへ」
手を差しのべられる。掴んだその手は少し冷たかった。

二人で手を繋いで草原を歩いて行く。
風が奏でる草の音
何処までも続く緑色
凄く気持ち良いが、少し飽きてきた。
「何処まで続くの?」
「直江さんが望む所までです」
望む所まで―
「…あ」
気がつかなかったが緩かな丘を登っていたようだ。登りきり下りの方を見ると―

「…うわぁ…」
思わず感嘆の声が上がる程に美しい花畑。
「…綺麗ですね」
「行ってみよう」
近づくと多種多様で様々な色合いと、甘い香りが迎えてくれた。
「こんな場所をお望みだったんですか?」
「まぁね。ここまで綺麗だとは思わなかったけど」
花畑の中心で辺りを見回す。360°、赤、黄色、オレンジ、ピンク、白、紫に囲まれる。
「…えい」
西園さんが花畑に寝転んだ。花びらが舞い上がり、ふわふわと西園さんの身体に舞い降りた。
花と、花に囲まれた西園さんの対比が幻想的に綺麗だった。

…あれ、何故だろう。
悲しみが込み上げてくる。
いつかどこかでこんなことが―

「直江さんは」
西園さんの声に意識がもどる。
「結構少女的な感性をお持ちのようですね」
「そ、そうかな?」
「お花畑なんて小学生の女の子の夢みたいです」
「まぁ…確かに」
「やはり直江さんは見た目は女の子、頭脳も女の子です」
「…いやいやいや」
僕も隣に寝転ぶ。澄んだ空に吸い込まれそうだった。
隣を見る。西園さんもこっちを向いた。
数輪の花越しに見える西園さん。
「…綺麗だなぁ…」
それしか出てこない。もっと色んな言葉が存在するんだろうけど、解らないし、綺麗が一番相応しいと思う。
「…何故そう殺し文句がほいほい出てくるんですか?」
「…さぁ…?」
そのまま暫く流れる時間を楽しんだ。

「さてと、そろそろ別の場所へ行こうか」
「そうですね」
立ち上がり、来た方向とは反対の方向へ歩く。
花畑が終わり、暫く歩くと
「あ、川だ」
緩かに流れる小川を見つけた。
魚でもいるのだろうか、時折水がパシャッと跳ねる。
「水浴びでもしよっか」
「…脱げというのですか?」
「あ、いやいやいや…」
素足になり足を水に入れる。ひんやりしているが心地良い。西園さんも足を入れる。
「癒されますね」
さっきも充分癒しだったけど今の方が良い。
西園さんが足を上げる。水が跳ね、細く白い足を水滴が伝う。思わず目が釘付けになる。
不意に水をかけられた。
「わぷっ、…冷たいよ、西園さん…」
「直江さんが変態だからです」
…変態扱いされた。
「…えい」
仕返しに水をかける。
「ひゃっ!」
驚く西園さん。けどすぐにかけ返されだ。
気がついたらびしょびしょになるまでお互いに水をかけあっていた。
服が細い身体に張り付いていて、えっと…魅力的だった。だいぶ目のやり場に困るけど。
「…やはり脱がす気だったのですね」
「いやいやいや…」

服が乾くのを待ってまた歩き出す。
「次は何ですか?」
「何って言うか…西園さんとずっと一緒に、としか考えてないんだ」
「…そう…ですか…」
目を伏せる西園さん。照れてるんじゃない。一体…

さぁっ
目の前に花びらが舞った。
顔を上げると花吹雪に襲われる。
花吹雪が収まったその先に、桃色の壁。―いや、桜の森が広がっていた。
気が付くと周りが先程よりも暖かい。鳥の鳴き声が聞こえる。
「ここは…春?」
「…そのようですね」
桜の森の中へ入っていく。一本の道が向こうへ続いている。桜の雨を浴びながらそこを歩いて行く。瞬く間に僕らは桜色に染まっていく。
西園さんの髪の蒼色と桜の桃色の色合いに引き付けられた。
「…じろじろ見ないでください」
そうは言うものの頬も桜色に染まっている。ただの照れ隠しだ。
段々と桜の雨が止んで来た。地面に桜のカーペットが敷かれる。木は徐々に葉桜になり、そして

むわっ
「暑っ」
森の緑が濃くなり終えた時、夏の暑さに迎えられた。
「さっきまで桜に囲まれた春だったのに…」
「直枝さん、後ろ」
振り返るとさっきの桜の森はなく、青々とした夏の木々に囲まれていた。
「…夏ですね」
「…夏だね」
暑いけどそこまでムシムシはしていない。まだ歩けそうだった。辺りでは蝉の命を枯らした大合唱が鳴り響いていた。
「暑いです…」
上着を脱ぐ西園さん。
「平気?」
「なんとか…。直枝さんは平気ですか?」
「大丈夫だよ。って言うか男が音を上げちゃ駄目だし」
「…え?」
「いやいやいや、そこ疑問持たないでよ」
「ふぅ…先程の小川が恋しいです…」
「あ〜、海行きたいね」
「…そうですね」
…あれ、素っ気なく返される。
…海…
「直枝さんはそんなに私の水着を見たいのですか?」
「…え?あ、や、そういうつもりじゃ…」
「ではスク水を着たいと」
「いやいやいや…」
…そんなに女の子っぽいかな…僕。

考え事をしていると
スイッ
目の前を赤トンボが横切った。
顔を上げると木々の色が少しずつ暖色に染まっていった。振り返ると、さっきのように色づいた木々に変わっていた。
「過ごしやすくなったね」
「汗が引いて少し寒いです」
上着を羽織直す。
歩みを進めると、暖色が色濃くなっていった。
さっきの桜に似ている。ずっと見ていたくなる程綺麗で、ひらひらと落ちて来て、積もっていく。
決定的に違うのはこれから隆盛の道を辿るか、衰退の道を辿るか。
「栄えたものは衰えるのが世の理です」
「えーっと…徒然草?」
「平家物語です。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。どんなに楽しくてもいつかは… 終わってしまうんです」

なんで、なんでそんなに切ない事を、淋しい目をするんだろう。
一体何があったんだろう
一体何が起こるんだろう
今、僕に出来ることは

「…焼き芋」
「…はい?」
「焼き芋食べたいなって、だって秋だし」
「…よくもまあ…この空気を壊せるものです」
「シリアス過ぎて嫌だったんだ」
「確かにそうですね。でも焼き芋って…」
「おいしいよ」
「そうですけど…」
顔を見合わせて吹き出す。うん。西園さんには笑顔が似合う。
落ち行く紅葉の色と相まって、淋しくも華やかに映った。

その紅葉も終わりを迎える。木々は枯れ、シンとした静けさに包まれる。
ふと、西園さんが身体を寄せてきた。周りには枯れ木しかなく、気温以上に寒く感じた。
「…あ…」
真綿のように、白く、軽い、雪が降ってきた。
道も進む程に雪が積もっている。
「もっと厚着をすれば良かったね」
「まさか冬になるなんて思いませんでした」
二人して凍えながら道を行く。
「走る?暖まるよ?」
「…マネージャーには厳しいです」
「ならおんぶして走ってあげよっか?」
「…何の罰ゲームですか?それなら走ります」
「罰ゲームって…」
「乗っかったら折れてしまいそうです」
「軽いから大丈夫だと思うよ」
「…」
西園さん走り始める。走るって言ってもジョギング程度だけど。多分赤らんだ顔を見られたくないんだろう。
それをすぐに追い越す。西園さんも頑張って着いてくるけど。
「…」
3分もしない間に歩き出す。
「私は走るべき人間ではありません」
「いやいやいや、悟るには早いと思うよ?」
「…直枝さんは犬みたいに駆け回っていてください」
「ここに炬燵はないよ」
「…走ったら暖まりました」
「え?たった3分しか…」
いや、本当に寒さが緩んできた。まだ名残雪が多いけど、次の場所が始まって来たんだ。
雪の中の西園さんは一層美しく、儚げに映った。


雪は溶けきった。森ももうすぐ終りだ。
「木が…」
「え?」
「松の木が増えています」
「あ、気づかなかった」
「海が近いのでしょう」
…海…


森が開けた。
西園さんの言う通り、海が広がっていた。
日の光を受けて輝く砂浜
潮の香
穏やかな海

「叫ばないんですか?ばかやろーって」
「それは真人とか謙吾の役だよ」
柔らかい砂浜に踏み入り波打ち際で止まる。
「何かして遊ぼっか。お城作ったりとか」
「…子供ですか」
「…そうだね…。んじゃ大人はどうするんだろ」
「…さあ…?やりたい事をやるのでは?」
「人を砂に埋めたりとか」
「だから貴方は子供ですか。子供でないなら犯罪者に聞こえますよ」

とりあえず思い付く事をした。遊んだり、砂浜を歩いたり、昼寝したり、水遊びをしたり(またびしょびしょになったけど)

疲れて、海を見ながら座る。とりとめのない話をしていたら、夕方になっていた。
海に沈み行く夕陽。
夕陽に照らされ、オレンジに染まる西園さん。潤んだ瞳。長いまつ毛。整った唇。柔らかく、細い身体。
「…綺麗だなぁ…」
「また呟いていますよ。だから恥ずかしい事は言わないで下さい」
「…ごめん」
そうは言ってもやっぱり赤く染まる。夕陽のせいだけではない。


「…そろそろ…ですね…」
立ち上がる西園さん。
「…そろそろって?」
苦笑いする西園さん。
「もう気付いていますよね?」
「…うっすらとね…」

ここは本流から外れた支流。
時折見せる西園さんの悲しげな表情
無理矢理にでも忘れさせられるここの記憶
そして、始まりはいつか終わってしまうと言う事

「夢の、終わりです」
「やっぱりいなくなっちゃうの?」
「…はい」
「どうして…」
「直枝さんは本流で私の魂を解放しました。本来なら消えてしまっているはずです」

僅かな記憶
海…

「ずっと西園さんと一緒にいたいっていう望みは叶わないの?」
「永遠はありません。…ほら」
西園さんの視線の先には不思議な光景が広がっていた。

海の向こうの草原
花畑が海に面している
海へ水を注ぐ小川
海に舞い行く桜
深緑と海
落ち葉に染められる海
海を凍てつかせる雪

今まで通ってきた道だ。さっきまではなかったのに。
「この夕陽が沈む頃、この世界は終わりです」
「…」
「泣かないで下さい」
「泣いてないよ」
「…楽しかったです。本当に…本当に…。ずっと居たかった…」
殆ど沈んでしまった夕陽。辺りが暗くなっていく。
西園さんが手を伸ばす。両手で握り返す。
言いたい事、したい事、沢山あるのにそれしかできない。

「…ありがとう。西園さん」

闇に包まれ行く世界に西園さんの笑顔が浮かぶ。
一番綺麗だと思った。



最後は何を写そう
もうすぐ消える灯りに


[No.698] 2010/03/17(Wed) 23:50:28

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