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Re: 第52回リトバス草SS大会 (No.682 への返信) - ありがとう草SS@ 9651 byte

 さくらが、まっていた。ふわりふわりと。
「うわぁ……」
 うすももいろのはなびらは、とてもきれいで。
「……」
 てんきははれ。うすいあおに、ももいろのしぶき。
「……よし、行こう」
 そうして、ぼくは、……僕は、目覚めた。



 スタートライン



 暖かくなってきたかなと、どうでもいいことを思う。
「た――まより―」
 あの事故から、もうどれぐらい過ぎただろう。数えるのは簡単だけれども、そういうことを言いたいのではなくて。
「―業―――」
 事故の後、バスに乗っていたクラスメイトは全員救助された。怪我に軽重はあるけれど、今日までに一人を除き全員が退院し、事故以前と同じ学校生活を続けている。
「―――送―」
 来ヶ谷さんは悠然と。西園さんはおとなしく。クドは少し緊張した感じで座っている。葉留佳さんに目を移すと、いつもとは打って変わって真面目な顔をしていた。……と思ったらこっちを向いてウィンクしてきた辺り、別に真面目ではないっぽい。
「――生――」
 小毬さんは……いつも通り、ほんわかしている。謙吾は仏頂面、真人は前の席で寝てる。こんな時ぐらい起きていてほしいものだけど。
「校――――起――く―」
 そして鈴は僕の隣。視線に気づいてこっちを覗き込んでくる瞳。
「これ―て――――卒業式を、終わります」
 そう、今日は卒業式。僕たちの一つ上、あーちゃん先輩たちがこの学校から出て行く日。だけど、恭介はこの式に参加していない。出来ていない。
 事故時の一番の重傷を負った恭介は、病院での治療を受け、肉体面ではほぼ完治していた。後遺症もないと診断された彼は、しかし未だ目覚めてはいない。脳にダメージを受けたと思われる、と彼の主治医は話していた。外部からのダメージなのか、それとも、あの奇跡の代償なのか――






 教室に戻り、このクラスでは最後のホームルームを終える。いつの間にかこっちの教室にいた葉留佳さんも含めてバスターズのメンバーとひとしきり話した後、寮に帰ろうとした僕の机には、一枚の紙が置いてあった。
「ミッション発令。今回は基本に戻って鬼ごっこだ。メンバー全員が鬼、俺を探して捕まえてみろ」
 ありえない。どうして、何だって、いきなりこんな―――
「……鈴、真人、謙吾。小毬さん、葉留佳さん、クド、西園さん、来ヶ谷さん」
 メンバーに呼びかける。突飛すぎる、昨日まで入院していた、いやもしかしたら今日病院を抜け出したかもしれない人間が何を考えてるんだろう。書いてあることを説明する。そしてやることが鬼ごっこ。皆が口々に、なんて馬鹿らしい、なんてばかばかしい、馬鹿だな、馬鹿デスネ、馬鹿としかいいようがありません、それなのに――顔は、皆が、笑っていた。




「わふっ、校庭とグラウンドにはいませんです!」
 ケータイに次々と届く電話。
「北校舎にもいないですヨ!?」「南校舎、同じくですね。それと裏庭、中庭にも」「あぁっ美魚ちん私が言おうとしたことをっ!」「男子寮にはいないようだ」「体育館にもいねえぜ」「少年、一応探してみたが女子寮にもいない」「屋上にもいませんよぉ」
 僕が探しているのは広場。ここにもいない。
「皆、もう一度探してみて!」
 言いながら走る。走る必要はないかもしれないけど、それでも走らずにはいられないから走って、広場から駐車場の横を通って、男子寮の前に出ると、見慣れた、みなれた、せなかが。
「恭介!」
 間違いない、顔はまだ見えてないけど――その瞬間、背中が遠ざかる。
「え!?」
 なんだあの速さ、意識不明で寝たきりだった人間の速さじゃない、というか僕とほとんど変わらない。電話をかけながら追いかける。
「鈴、聞こえる!? 皆に男子寮の前に恭介がいた、女子寮前の方へ逃げたって言っておいて!」
 電話をしまう労力も惜しい。握り締めたまま全速で走る。女子寮を抜けて右折、体育館の裏を走る。真人が立ちふさがる。
 二人が何か話したようだけど聞こえない。そのままタックルし、押しつぶさんとする真人の脇をするりと抜けてまた走り出す背中。追いかけてグラウンドの方へ。クドが横から走ってくる。
「ストレルカー! ヴェルカー! 行くのですーっ!」
 反則気味な脚力で距離を詰める犬コンビ、いやその後ろからマントを翻して走るのも含めて犬トリオか。二匹と一人、いやむしろ三匹に対し、走る背中は冷静に丸いものを取り出し投げた――って
「フリスビー!? なんでそんなもの持ってるですか!?」
 哀しいかな条件反射でおいかけにいっちゃう犬二匹、それでも諦めずに走るもう一人のわんこ、もといクドはやはり哀しいかなストライドが絶望的に足りない。あっという間に距離を離され、ついでに僕も追い抜いていく。
「わふーっ!? もしかして私役立たずでしたかーっ!?」
 そのまま裏庭へと突っ切っていく。少しづつ距離を縮めてはいるけど、まだ追いつかない。
「うぉぉぉぉ! こまりん、みおちん、奴にジェットスト○ームアタックをかけますヨ!」
「了解だよぅ!」「……それだと貴女が踏み台にされ、私は串刺しですが」
 いいながらも前から葉留佳さんがタックルを仕掛け、かわされる。体勢が崩れたところに来た右から小毬さんのボディアタック、左から西園さんの控えめな体当たり……を更に加速して遠ざかる背中。
「嘘、アレが避けられた!?」
「……入院してた人とは思えません。というか前より進化してる気すらしてきます」
 三人を横目に見ながら更に走る。呼吸が苦しくなるけど無視して走る。背中を追っていく。中庭を出たところで来ヶ谷さんが立ちふさがる……って、
「なんで摸造刀!?」
「はっはっは、折角だからに決まっているだろう!」
 日本語になってない。
「とりあえず止めればいいのだろう。行くぞ」
 言うがいなや疾走、距離を詰めていく。低い体勢からの中段切り……を、あろうことか背中を踏んで走っていく。流石に手を着いて着地して、だけどそのまますぐに走り出した背中をまた追いかけて。
 最後にたどり着いたのは校門前の広場。
「鈴!」
「分かった!」
 先に来ていた鈴が前から走ってくる。何を見たのか鈴は一瞬、泣きそうな顔して、それから怒った顔をして、
「こんのぉ……!」
 全速力、助走15mからの走り幅跳び、その勢いのままに
「心配かけさせるな、馬鹿兄貴がぁぁぁっ!」
 鈴の全力での飛び蹴りは肩口に命中し、走っていた背中は大きく体勢を崩した。
 逃さずに一気に距離を詰めていく。
 背中はまた走り出したけど、すぐに追い着く。横に並ぶ。
 でも追い着いただけじゃ駄目だ。横には遠かった背中がある。追いかけ続けた、背中は、今、肩を並べて走っている。そのまま走り続ける。桜吹雪を駆け抜けて、もっと、もっと、もっと―――― 一緒に。でも、





 校門で、僕らは同時にたちどまった。
 さくらが、まっていた。ふわりふわりと。
「……」
 うすももいろのはなびらは、とてもきれいで。
「……」
 てんきははれ。うすいあおに、ももいろのしぶき。
「……」
 そうして、ぼくは、……僕は、



「恭介――卒業、おめでとう」


 言いたいことはいっぱいあった。
 言わなきゃならないこともいっぱいあった。
 それでも、口を出たのはこの言葉だった。

「おう、ありがとう」


 恭介にだって、言いたいことはいっぱいあったと思う。
 言わなきゃいけないこともいっぱいあったと思う。
 それでも、それだけを言った。






「そんなことはない。俺は、あの時、あの世界で、言いたいことは全て言ったつもりだった」

 あの世界。
 恭介が死を確信していた世界で言った言葉は、あの時、彼の言いたいことの、間違いなく全てだっただろう。

「お前は、ずっと俺と一緒にいた」
「そうだね。僕は、ずっと恭介と一緒にいた」
「頼られてうれしかったし、もっと頼られる人間になりたくて、俺なりに頑張ってきた」
 それは、偽らざる彼の本心だろう。
「だけど、別れなきゃいけないと思った時」
「僕は、僕と鈴は、あまりに弱すぎたから」
「圧し掛かる現実に耐えられないんじゃないかと。どこかで潰れてしまうんじゃないかと」
 そして、その危惧は、恐らく事実になっただろう。それ程に、弱かった。
「でも」
「ああ、あの世界で、お前たちは強くなった」
 作られた世界。作られた試練。その中で、恐らく僕たちは恭介の想像以上に強くなっていた。
「だからこそ、僕たちは助かった。そして、助けることが出来た」
「そうだ。俺の想像を超えて、生き残るだけじゃなく、助けてくれた。背中を見て後をついて来るだけじゃなく、自分の意思で歩き始めた」
 恭介の作った世界。僕たちの作った世界。
「強く生きろと。俺は最後に、そう言った」
「何があっても、どんな現実を目の当たりにしても」
「強く、強く生きろ。それは、今だって変わらない」
「うん。僕は、僕と鈴は、強く生きてみせる」
「ああ、だけど忘れるな。今のお前には、仲間がいる。お前が助けた、仲間がいるんだ。真人が、謙吾が、小毬が来ヶ谷が西園がクドが。お前のそばには、いるんだ」
「うん、今の僕には仲間がいる。仲間がいるから」
「お前はもっと、強くなれる」
「恭介も、そうだよ」
「え?」
「恭介も、もう一人じゃない。リトルバスターズの皆が、僕が。ここにいる。もう一人じゃないんだ。ここに、いるから。全部背負い込まなくていいんだ。恭介だって、頼っていいんだ」
「……ああ、そうだな。俺には、頼れる弟分が、仲間がいるんだ」
「うん」








「さて、と。そろそろ行くかな」
 唐突に恭介は切り出した。
「もう? 皆と話したり、卒業祝いとか、退院祝いとか」
「そういうのは性に合わないからいい」
 嘘だった。そういうお祭りごとは、大好きなはずだった。
 でも、それを問いただそうとは思わない。
「分かった。でも、今度また、みんなと一緒に遊ぼうよ」
「ああ、分かってるさ」
 恭介は校舎を仰ぎ見る。三年間、正確には二年と三ヶ月、彼が過ごした校舎。どんな風景なのか、まだ僕には分からない。
「この学校で、お前たちは強くなったんだ。つくりもののせかいでも。ここはお前が俺に並んでくれた場所なんだ。別れるのは辛いさ。だけども、な。理樹」
 恭介は。
「いくらお前に並ばれたって、先を行かれたって、俺はお前の兄貴分なんだ。わがままだけど、それでも兄貴でいたいんだよ。だから行く。俺は、お前に俺を追い越してほしい。でも同じくらい、お前に追い越されたくない。お前の先を行きたい」
 恭介は、校舎の方から、校門の外へと体の向きを変える。だから僕も、校門の方へと体を向けた。
 向きは違うけど、肩を並べて。
「なら、僕は」
 そう。恭介が先を行き続けたいというのなら。
「なら僕は、恭介を超えたい。君を超えて。僕は、もっと強くなりたい」
「ああ。今の俺たちは」
「今の僕たちはちょうど同じところだ」
「だけど、俺は先に行く」
 学校を出て。社会へ。外へと。
「うん。僕は、まだ、ここに残る。だけど、僕は君の先に行きたい」
「俺は、お前より早く、外に出る。だから、俺はお前の先に立ちたい」
 ここから、競走だ。向きは違うけど、ここがスタートライン。僕は一年、ここでもっと強くなる。恭介は外に出ていく。
 さくらが、まっていた。ふわりふわりと。
 3。この景色を、目に焼き付ける。
 うすももいろのはなびらは、とてもきれいで。
 2。今生の別れじゃない。もしかしたら明日にも再開するかもしれない。そんなとても小さな別れ。だけど、
 てんきははれ。うすいあおに、ももいろのしぶき。
 1。だけど僕らは、この瞬間を、いつまでも覚えているだろう。
 そうして、ぼくは、……ぼくらは、
 進みはじめる。僕は学校へ。恭介は外の世界へ。振り返らずに、進んでいく。
 0。走り出した。


[No.705] 2010/03/18(Thu) 23:07:45

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