![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
初出勤を終えて、家に帰ってホッと一息ついて、ご飯を食べるか、それとも先にお風呂に入るか、それともテレビでバラエティ番組でも見て心の平穏を取り戻すか。何をしようか迷っていると、ピコンピコンピコンと変な音が家の中で響いた。何の音か最初は分からなかったけど、どうやらチャイムの音らしい。変な音に設定するなよ、と思いながら覗き穴を見ると、双子の姉の顔が見えた。初出勤ご苦労様ということでケーキでも買ってきてくれたのかもしれない。大概なシスコンだからなぁ。ほいほーい、と鍵を開け、扉を開け、お姉ちゃんの姿を確認して扉を閉めた。鍵も閉めた。 何かの見間違いだと思うんだけど、もっそい荷物持ってた気がする。どでかい風呂敷とか非現代的なものを背中に負ぶさっていた気がする。そもそも引っ越したばかりのこの家に誰かが来たこと自体気のせいだったんだ。お風呂に入ろう。きっと疲れてるんだ。ピコンピコンピコン。この音もきっとウルトラマンのカラータイマーがもうタイムリミットだよ、って告げてる音に違いない。頑張れウルトラマン。怪獣を倒して地球を守って。私はその間に風呂に入るから。 とか思ってたら鍵が回って扉が開きやがった。 「葉留佳」 「なんでございましょう」 「泊めて」 「えー」 「いやなの?」 「どちらかといえば」 「じゃあ、住ませて」 頭を抱えた。いつのまに合鍵作ってるんだとか、なんで急にとか、色々思うところがあったけど。 「ケーキ、買ってきたし」 その一言で、話ぐらい聞いてあげよう、と思った私は結構安い女かもしれない。 クソババアが死んでクソ人生がほんのちょっぴり爽やかになった。腐臭だらけの毎日からの絶対的開放。自分のトラウマの元が消え失せた。晴れ晴れした気分だ。ああ、人生最高。屋上へ出てみると、空は超青くて超壮快。超最高。超いい感じ。大爆笑しながら屋上をぐるりと三周ぐらい走った。乳酸めちゃくちゃたまったけど、心地よい疲れってきっとこういう事いうんだろうね。そんでもって疲れた結果、足絡ませてずっこけた。そのままゴロゴロと転がって、仰向け、大の字になって深呼吸をした。汗が目に入った。沁みるなぁ。 自分の気持ちが分からないのに、他人の気持ちなんてそれこそさっぱり分からない。 お姉ちゃんを居間に放置して、とりあえず風呂掃除をしている。「ご飯ぐらい作ってあげようか?」とおっしゃるのでコクリと首を縦に振って、じゃあ私はお風呂掃除してくるね、みたいなやりとりの結果。まあ、掃除と言ってもやることは洗剤をシュッシュッってかけて、泡が下に落ちるまで待って、落ちたらシャワーでさっと流すだけなんだけど。 泡がゆっくりと落ちてゆく。台所からは油の焼ける音と、香ばしい匂いがする。野菜でも炒めてるんだろうか。何を作るか聞いてなかったけど、大した食材も無いし、そんなに期待はしていない。夕食の献立よりも考えることがあった。 さて、何故、双子の姉、二木佳奈多が我が家にやってきたのか。 高校卒業時、お姉ちゃんは見事に桜散り、浪人することになった。お祖母様の死により、まあ、あの気の狂ってた家もバタバタしてたみたいで、お姉ちゃんも大学には行きたいと思ってたようで。二つの結論が行き着いた先は保留。ということで、モラトリアム頂いてハッピーキャンパスライフが待っていたはずなのに、あのバカ姉は受験に失敗した。浪人生という名のニートでは、あの家にいるのも苦痛だろう。だって、落ちこぼれの人間以下の犬畜生以下のミジンコさんレベルの扱いを受けていた私は、しっかりと公務員試験に受かって、公務員という肩書きを手にいれていたりして。優秀扱いされて、しっかりとそれに応えてきた二木佳奈多の初めての敗北? 挫折? そんな感じ? そりゃあ、面白いね。蛇口を捻って、シャワーをかけて、泡を流した。 居間に戻ると、ちゃぶ台の上に焼きそばが二皿置いてあった。食べずに待っていてくれたようだ。こういうところ律儀だよね、本当。冷蔵庫からマヨネーズを引っ張り出してぐるんぐるんかける。ソースとマヨが七三ぐらいになるの比率が黄金比なのだ。散々焼きそば食べてきた私にしか分からないだろう。お姉ちゃんの焼きそばにも、唯一黄金比を知る私がマヨネーズをかけてあげようとしたら、いえ結構です、と御丁寧にお断りされた。冷蔵庫にマヨネーズを仕舞い、今度は作り置いておいたお茶を取り出す。それを見て何故かホッと胸を撫で下ろしたお姉ちゃんは、コップは持ってくわ、と働きを買ってでた。ついでに箸もお願いした。 何にしても腹が減った。腹が減っては戦が出来ないらしい。話を聞くのも、考えるのも全部食ってからだ。 「いただきます!」 一口食って吹きだしかけた。不思議だ。めちゃくちゃ不味かった。この世界にはこれほどまずい焼きそばがあったのか。あの万能調味料マヨネーズを持ってしても勝てない味付けってなんだそりゃ。天才か。逆に言って天才か。アホか。 「おいしい?」 「まずいわー!」 思わずちゃぶ台をひっくり返しそうになった。 「そんなわけ」そう言って一口食べる。「まずっ!」作った本人公認のまずい頂きましたー。味見しろやボケ。 「おかしいなぁ」 「ああ、もういいよ。私が作るよ」 立ち上がり、台所に向かう。おかしい。こういうのは、普通キャラの立場上逆のはずなんだけど。料理なんてする暇なんてなかったのかもしれない。台所に立つことが出来なかったのかもしれない。しかし、不味かったなぁ。逆に不味すぎてもう一度食べてみたくなる味だ。 「まずっ!」 居間からそんな声が聞こえた。お姉ちゃんも同じ気持だったのね……。 例えば、あの日一緒に食べた本マグロ。あれは人生で食べたものの中で一番美味しかったかもしれない。 お姉ちゃんが一匹丸ごとを掻っ捌いてうまいこと三枚におろして、目玉はDHAが豊富だから馬鹿なあんたはしっかり食べなさいと言っていた。 公務員試験を受けると私が言って、皆がウケルーと笑ったあの日。ババアが死んで真の人間になろうと誓ったあの日。お姉ちゃんは皆と違って笑わなかった。とても一所懸命に、考え直せと説得してきた。うっせーハゲと言うと殴られた。「本気なの?」「本気だよ」私の決心に満ちた半笑いの顔を見て、二木佳奈多はお似合いの呆れたーって感じの溜息をついて、私に、「勉強は厳しいから、まずは形から入ろう」と言ってどこから出してきたのか知らないが、マグロをご馳走してくれた。 だから、勝手に料理はうまいと思っていた。包丁は扱えるけど、料理となるとど下手くそなのかもしれない。なんだそれ。 私が作った焼きそばは、それはもう無個性な味だったが、姉のあれよりかはよっぽどマシなものだった。二人で焼きそばを食べて、お片付けをして、二人で一緒に風呂にも入ったりして、双子のはずなのにおっぱいの大きさが違うのに気づいたり揉んだりした。ちなみに私の方が大きかった。何も聞かずに、何も言わずに、平穏を装って、二人で一緒のベッドに入った。明日も仕事がある。目覚ましは変わらない設定のままにしておいた。 真っ暗闇、布団の中、お姉ちゃんが私に抱きついてくる。きつく身体を締め上げる。苦しい。眠い。そっと、顔を胸に押し当てる。お姉ちゃんの鼓動が聞こえる。ドクンドクンと聞こえる。私もお姉ちゃんの身体を抱きしめた。たった二人の姉妹。そんな実感だけが私の脳みそを満たす。状況を把握する気にもならない。ただ、この温もりが心地よくて、苦しさが気持ちよくて、明日も明後日も一週間後も一ヶ月後もこのまま一生こんな風に眠れたらいいなぁ、なんて思った。 朝、いってきます、と家を出た。 「いってらっしゃい」 夜、ただいま、と家に帰った。 「おかえり」 少しだけ、ほんのちょっぴり、幸せを感じた。 お姉ちゃんが家に住み始めて三日経った。 なんとなく二人の生活も慣れだして、初めての休日。思えば、この人、浪人生のはずなのに一切勉強しているところを見たことが無い。まあ、まだ年度が始まって間もないってこともあるかもしれないけども、持ってきた荷物のどこにも勉強道具は無かった。どうも勉強する気が無いように見える。ていうか、無いね。本気でこれっぽっちも勉強する気無いよマジで。 家に居る間は自前のパソコンでずっと何かを見ている。喜んだり、悲しんだりしていた。なーにやってんのー、と覗いてみると、さっぱり分からない画面だった。グラフとか、数字が一杯並んでいた。結局、何かは分からなかったけど、良からぬことであることは分かった。 「葉留佳って株とか外為とか興味ある?」 いえいえ、全然興味御座いませんが? 「ふーん。じゃあ、いいや」 「あのさ、勉強しないの?」 「なんで?」 なんで?と来ましたか。こっちが聞きたいよ。 「ああ、そうか。そういえば、浪人してたね」 えへへー、と笑って、頭をポリポリする。その仕草は、子供っぽくて普段の姿から想像つかなくてギャップ萌えというものを感じることが出来たが。だから、どうなんよ、って話だ。 「予備校行けバカ」 「バカって、あんたに言われたくないわよ」 「こっちは社会人。あんたは浪人生。さあ、どっちが社会的に見てバカでしょうか」 「葉留佳」 「いや、あんたの主観じゃなくて」 「あんたはどう思うの?」 「まあ、頭はお姉ちゃんのがいいとは思うけど」 「じゃあ、葉留佳がバカってことで」 「おい、ニート」 「ニートじゃない。浪人生」 「浪人生なら勉強しようよー」 「めんどくさい」 プンプンと頬を膨らませる。あれ、なんか幼児退行みたいなのしてない、この人? 開放感から得たハイテンションってか。知ったことか。ていうか、私の一人暮らしっていう平穏返せコラ。 「勉強しないなら出てけ」 「冷たくない?」 「こんなもんだよ」 私は、昔から。特に、あんたに対しては。 「お腹すいた。なんか作って」 「話聞いてた? まず勉強しようよ」 「勉強勉強ってあんたは私のおかんか」 「おかんとかよく分かんないし」 「……じゃあ、お母さんに会いに行く?」 「んえ?」 初めての休日。やることは決まった。 母親に、会いに行く。 生まれた瞬間に劣勢と判断された。生まれなければ良かった。生まなければ良かった。生んだ奴が憎かった。一緒に生まれた奴も憎かった。生まれた場所が憎かった。だけど、全部怖かった。 母親が生まなければ、きっとこんなに憎むことも無かったし、怖がることも無かった。そりゃあ、この歳まで生きれば、楽しかったこともあるし、嬉しかったこともあるし、おいしいもの食べたりもしたし。だからってそれで全部チャラになる訳がない。マイナスが大きすぎてプラスに転じることなんて多分一生無い。不幸の徳政令とか、自己破産とか出来ればいいのに。 母親なんて死ねばいいのに。 そんなこと考えてた時期が私にもありましたとさ。 そんな私も死ねばいいのにね。 家に帰ってきて、ちゃぶ台に貰ったケーキの箱を置いた。 「葉留佳、花瓶……なんてある訳ないか」 「そこらへんのコップ使っていいよ」 「風情が無いわね」 「うっせえ」 コップに一輪、真っ赤な花がささっている。確かに、風情も何もあったもんじゃないし、これで本当に育つのかという疑問もあるけど、枯れたら捨てればいいだけだ。 お姉ちゃんが台所からお皿とフォークを二つずつ持ってきてくれた。箱の中にはチョコレートケーキとミルフィーユ。私はどちらが食べたいかと聞かれたらミルフィーユと即答出来る自信がある。参考までにお姉ちゃんはどっちが食べたいか聞いてみた。 「ミルフィーユ」 即答だった。 「お母さん、元気そうだったね」 「そうね。そんなことより、あんたはチョコレートケーキでいいわよね」 そんなこと扱いでっせお母様。 「もうチョコレートケーキでいいよ」 「何よその言い方。自分は譲歩しましたよみたいな感じやめてくれない?」 「じゃあ、お姉ちゃんチョコレートケーキでいいの?」 「ミルフィーユ」 即答かよ。 ケーキを皿に取り分けて、帰り道に買った缶コーヒーのプルタブを引っ張る。朝専用缶コーヒーと書いてあるけど、そんなことは気にしない。チョコレートケーキを口に運ぶ。少しビターで甘さ控えめ。基本的には甘いほうが好きだけど、これはこれでおいしいと思えた。きっと高い店で買ったんだろう。あのブルジョワめ。小奇麗な服装もしてたしなぁ。きっと高いブランド品だわ。あのセレブめ。 母親に会った。ついでに父親にも会った。ここから三駅分離れた住宅街の普通の家。厳格な雰囲気も、陰湿な空気もまるで無い、真っ白で綺麗な家だった。花壇には真っ赤なガーベラの花が咲いていた。なんで花の名前が分かったかというと花壇に「ガーベラ」と書かれた札がささっていたからで。うちの母親はちょっと頭がゆるいみたいだ。 適当に私が今どうやって暮らしてるかとか、世間話とか、天気の話とか、あとはお姉ちゃんの堕落っぷりとか、そんなことを笑いながら話した。帰り際、いつでも来ていいよって言われた。一生行かねーよバーカって思った。じゃあねお母さんって笑った。あなた達は私の自慢の娘よって言われた。虫酸が走った。これ持って行きなさい、とケーキと花壇に咲いていたガーベラを渡された。もう一回くらい顔を出してもいいかなって思った。 私達はいつも寄り添い抱き合って眠る。 世界には二人だけしか残っていないみたいに、存在をしっかりと確かめるように、離れたら一生離れたままになってしまうような気がして、キツイくらいに抱きしめる。こいつは嫌いだ。こいつは憎い。だけど、こいつだけがきっと私を理解してる。私の頭の中身も、身体の中身も、心の中身も、全部こいつは分かってる。悔しいけど、だから、こいつを離す訳にはいかない。こいつが居なくなったら、私は本当に世界で一人ぼっちになってしまう。お姉ちゃん。憎いよ。 ピコンピコンという音で目覚めた。不快なチャイムの音だ。ニート姉はこんなにも五月蝿い音が鳴っているというのに起きる気配が全く無いようで。かわいらしく寝息を立てている。そっと、起こさないようにベッドから降りる。カーディガンをパジャマの上から羽織り、はいはいお待たせー、と扉を開くと、外にはスーツを着たハゲた中肉中背のおっさんが立っていた。こんな人は彼氏にはしたくないランキングのトップに君臨していそうな可哀想な容姿のおっさんだった。見たことの無い人だったけど、何故だか親近感が沸いた。 見つめ合うこと三秒ほど。私の美貌に目を奪われたのだろうか。それとも、十代の乙女のパジャマ姿に欲情してしまったのか。何も喋ってこないので、こっちもどうしていいか分からない。扉、閉めるべき? 「えーと?」 「ああ、失礼」 そう言って、上着のポケットを真探る。凶器か! と警戒しバトル物の漫画で見た『荒ぶる鷹の構え』をとってみたけど、メモ帳のようなものだったので構えを解く。おっさんは取り出したメモ帳の表紙をこちらに見せつけてきた。どこかで見たことのあるようなマークが表紙に描かれている。なんか見たことあるんだけどなぁ。なんだっけこれ? 「申し遅れました。警察です」 ああ、そういえばこんなマークだったなぁ、と思った。 話をしたいから、ちょっくら署までご同行願えますか? テレビで聞いたような台詞だった。警察官だと思って見ると警察官らしい顔つきにも見えてくる不思議。きっと疲れが顔とか腹とかに出てるんだろうね。 ちなみに、こちとら男に安々とついて行くような軽い女じゃないんだよ。一生来んなボケと追い返した。 話は、ババアの件について。お祖母さんのことでちょっと聞きたいことがある。君と、君のお姉さんにね。お姉さんは今どこに居るか分からないから、まずは三枝葉留佳さん、あなたの所に来た。要約するとこんな感じ。 クソババアの話なんてしたくない。私はあの家とは関係無い。縁を切った。両親も縁を切っている。姉の事は知らない。どっかで野垂れ死んでるんじゃないかな。分かったら帰れ。二度と来んな。要約するとこんな感じ。 息を吐くように嘘を吐く。いつから自分はこんな人間になったんだろうか。生まれた時からかもね。しらねーよ。 警察が居なくなった玄関に食塩を撒いた。折角の休日だというのに、朝っぱらから気分が悪い。ああ、もう、最悪。プリンでも買いに行くか。 非日常を繰り返し、いつしかそれが日常になっていく。普通じゃないことが普通になる。 そんな毎日から抜け出して得た日常っていうのは、果たして日常と言えるだろうか。それこそが非日常であって、普通じゃないことなんじゃないの? どん底にいたら、普通になるだけで、それこそ幸せなことなんじゃないの? それって本当に幸せ? 不幸って何? あれは普通のことだよ。 だって私は、ヤクタタズのロクデナシだから。しょうがないことなんだよ。もう放って置いて欲しい。 家に帰ると誰も居なかった。いや、まあ、これが本来の姿なんだけどさ。 プリンは売り切れていた。代わりに杏仁豆腐を買った。しょうがないのでお姉ちゃんの分も買った。こうやって気を利かせた時に限っていないんだから。人の事は言えないけど言わせてもらいたい。空気読めよと。んで、あいつはどこに行ったんだろう。まあ、子供じゃないんだからどうでもいいか。これで予備校探しに行ってましたとかなら評価する。高校時代はあれほどキッチリしていた人間だったのに、今の堕落した姿はなんなんだ。ぶっちゃけ憎い憎いと思いながらも尊敬はしていた。羨ましいとも思った。同じ子宮から生まれとは思えなかった。 久しぶりの一人きりの家。束の間、平穏が戻ってきた。お姉ちゃんの分の杏仁豆腐を冷蔵庫に入れる。いいや、二つとも入れよう。二人で一緒に食べよう。ずっと出来なかったことだ。こういうことがしたかったのかもしれない。家族らしいこと。 カーテンを閉めて、ベッドに入る。あいつが来てから初めて一人で。少しだけ、いつもより寒い気がした。あいつがいない。あいつに居て欲しいと思ってる自分が居る。あいつが憎くて仕方が無いのに。そっと、目を閉じる。警察はあいつのことも探していた。行方不明みたいに言っていた。そういえば、ババアってどうやって死んだんだろう。あいつは警察が来た時、起きてたんじゃないのか。荷物も最低限の衣服類しか持ってきていない。 逃げてきたってこと? じゃあ、なにか? もしかして、あいつがババアを殺した? いやでも、あれはまだ私達が高校生の時だ。ていうか、殺されたって話は聞いていないし。そもそもなんで殺す必要がある。あの家に居たらそうなる気持ちも分からんでもないけどさー。ああ、もう。難しいことは考えたくない。頭が痛くて痒くなる。直接聞けばいいじゃないか。寝ちゃおう。 目が覚めたら外は真っ暗になっていた。昼寝のつもりが夜まで爆睡してしまった。あいつはまだ帰ってきていない。なんだよこれ。帰ってこいよ。ちゃぶ台の上の携帯電話を手にとる。着信は無い。何してる、もう夕飯の時間だよ。一緒に食べないとダメだよ。ダメになっちゃうよ。私をこんな風にしたのはあんたなんだから責任とれよ。携帯を操作して電話帳を開く。あいつの番号を探す。入ってないよ……。聞いてないよ。あいつに聞く訳無いじゃん。死ねよ。私、死ねよ。 自分の両肩を力いっぱい掴む。爪が身体に食い込む。痛みを感じないとどうかなりそうだ。警察から逃げてきたってことじゃないかもしれないけど、何かから逃げてきたってのは明白だ。現実からの逃避とかじゃなくて、実際に何かから追われて、それできっと誰も訪ねてこないであろう私の家に来たんだ。そうに違いない。やっぱりあいつが殺したの? なんでそんなことするの? ババアは普通の私を殺した。普通の私の仇。復讐するのは私の役目。お姉ちゃんは綺麗なまま、私の憧れのまま、私に罪悪感を抱えたまま、プレッシャーに押し潰されながら生きてくれるだけでいいのに。誰かを殺したり、殺そうとしたら、それは私じゃないか。やめてよ。だめだよ。戻ってきてよ。 部屋の明かりを点ける。荷物はまだある。あいつはキッチリした性格だから、自分が私の家にいたっていう証拠を残して消えるはずが無い。だから絶対帰ってくる。帰ってきたらおかえりって言ってぶん殴る。 「ただいま」 とか考えてたら、至極あっさりと帰ってきましたよこのお姉さん。 「はい、お土産」 そう言って渡されたのはペンギンのぬいぐるみ。 「それ取るのに時間が掛かったわ。あとお金も。まあ、お金は腐るほどあるからどうでもいいけど」 「ゲーセン行ってただけ?」 「ん? まあね。あ、連絡入れておいた方がよかった? 別にいらないでしょう。子供じゃないんだから」 そういえば、そんなことを家に帰ってきた最初に考えったっけ。 「それよりもお腹すいたわ。ご飯まだ?」 「何にも作ってないよ」 「えー」 「いや、だって帰ってこないし。帰ってくるかも分かんなかったし」 「帰ってくるわよ。ついでに、当分の間いるわよ」 「あー、じゃあ、焼きそば、作るね」 「また焼きそば?」 「楽だし、すぐ出来るから。あ、あと杏仁豆腐買ってきたから」 「なによ。随分優しいわね。何か企んでる?」 「いやいや、そんなことはありませんよ?」 「……もしかして、寂しかった?」 「んなことねーし。死ねだし。ていうか、帰って来んなって思ってたし。そんな矢先だし」 「あらあら、そう。ふーん。へえ」 うぜえ。やっぱこいつ帰ってくるなよ。どっか行けよ。なんで笑ってるの? 気持ち悪っ。 焼きそばはすぐに出来上がった。もう得意料理の欄に書いていいレベルかもしれない。味は平々凡々だけども。 マヨネーズをぶっかけ、ぐちゃぐちゃと混ぜて、テカテカと光るシャイニング焼きそばが完成した。ズルズルと吸い込む。うん、普通。お姉ちゃんもズルズルと吸い込んでいる。このあたり、食べ方がそっくりなのは双子故か。でも、精子違うらしいしなぁ。子宮一緒だからいいのかなぁ。 「あ、そうだ」 「早く食べましょう。お腹すいた」 卑しん坊め。でも、知っておきたいから、聞かないと。 「何から逃げてるの?」 「逃げてる? 誰が?」 「お姉ちゃん」 「私?」 「えーと、敢えて言うなら、現実から? ちょっと変なこと言わせないでよ」 「誰かから追われてるんじゃないの?」 「何の話? 追われてないわよ。敢えて言うなら、受験に?」 だから、変なこと言わせるなって、と怒られた。 ありゃ? 勝手な私の思い込みだったのかな。姉御にも何度も言われたな。思い込みが激しいって。なんだ。そうか。別に追われてる訳じゃないのか。家公認の浪人なんだから、ある程度好き勝手やっていいのかもしれない。そこら辺の事情は知らない。 お姉ちゃんは既に「いただきます」と焼きそばに手を付けていた。相当お腹すいてたようで、かなりがっついている。行儀の良い女だと思ってたけど、この家での食事の作法を見る限り、結構汚い。頬を膨らませて満足そうにモグモグしている姿は、小動物的にかわいい。 そんな、おいしそうに私の料理を食べてくれているお姉ちゃんには悪いんだけど、もうひとつだけ聞きたいことがあった。 「あのさ。もう一個聞いていい?」 「もぐん?」 モグモグしながら首を傾げたのを勝手に肯定と取り、話を切り出す。 「ババアってなんで死んだの?」 やっぱ聞くのが一番手っ取り早いよね。私の発言を聞いて、口に入れた麺をモグモグ丁寧に噛んで、飲み込んで、コップのお茶を一気に飲んで、プハーっとオヤジ臭い仕草をした後に「私が殺した」と言った。 「え」 「凶器は冷凍マグロ。あれで頭をぶん殴った」 「なんでマグロ?」 「証拠が残りにくいと思ったから。食べちゃえば、凶器は無くなるでしょ?」 「まさか?」 「うん。あんたと食べたマグロでお祖母様を殴り殺した」 「うえ」 途端に気分が悪くなった。胃の中にあいつの血液が入って、今も現在進行形で私の身体を駆け巡ってることが気持ち悪い。 「いや、冗談よ?」 「……分かりにくいから。あんたの冗談は本当に分かりにくいから。真顔で言うのやめて」 「警察、なんて言ってた?」 やっぱり起きてたんだ。狸寝入りとかお姉ちゃんらしいわ。 「知らない。何も聞いてない。二度と来んなって言っておいた」 「そう」 「で、お祖母様はなんで死んだの?」 「殺された、みたいな?」 「マジで?」 「うん、まあ」 色んな方面から恨みを買ってそうな感じだし。遺産争いとかもあるだろうし。いつ誰に殺されてもおかしくない人物ではあったけどねぇ。一応肉親なわけじゃん。殺されたって聞くと気分は良くないよ。 「お姉ちゃんは誰が殺したと思う? 私はねー」 「うーん。ていうか、やめない? せめて、これ、食べ終わってからにしましょう。食事しながら殺されたとか死んだとか、そんな話したくない。食欲無くなる」 「やー、めんごめんごー」 それから、私達は食べ終わるまで無言だった。食べ終わっても、その話を切り出す気持ちになれなかった。 今日も私はお風呂の掃除をする。台所の洗い物はお姉ちゃんに任せた。 さて、誰が、あのババアを殺したか。理由は何か。泡が下に落ちるまでが思考時間。理由は、きっと簡単だ。憎かったんだよ。恨みを買うのには天才的な家系のトップなんだから。内部犯だとしたら目障りだったとか。いや、こっちのほうがしっくりくるな。流石に外からムカツクからと言ってわざわざ老い先短いお婆さんを殺しに来るようなバカはそうはいないように思える。死んでから言ってやればいいんだよ、私みたいに。ざまあみろって。じゃあ、やっぱり家の中の人物だろうけど、ぶっちゃけ、私、あの家の人の名前と顔、全然憶えてないんだよなぁ。トラウマな訳だし。脳みその自己防衛機能がどうたらで、詳しい記憶はどっかにいってしまったとかいう話。所謂、普通だった私の死亡。そして、今の私になった。だから、恨みとか辛みとか、あるにはあるけど、分かりやすい憎しみのシンボルとして、あの婆さんとお姉ちゃんのことは憶えていただけであって、私の肉体に直接調教を施した実行犯のほうはてんで憶えていなかったりする。 うーん、じゃあ、考えるだけ無駄か。やーめーたー。 シャワーで泡をさっと洗い流した。 その夜も当たり前みたいに、二人で一緒にお風呂に入って、二人で一緒のベッドに潜り込む。 「もうそろそろ、布団買ってこれば?」 心にも無いことを言う。溶けるみたいに、混ざるみたいに、元々は一つだったみたいに。こんなに気持ち良く眠りにつけることを知った今、これをやめるなんて出来ないし、きっとお姉ちゃんも同じ感覚を味わってる筈で。 「こうやって一緒に寝ればいいじゃない」 だから、絶対にこう答えると思っていた。 「ずっと?」 「うん、ずっと」 ずっとこうやって眠りたい。だから、私の安眠を妨げようとするものは全て排除する。絶対に邪魔させない。 朝陽が昇る前の時間。朝と夜の境目に私は布団から這い出た。佳奈多はまだ眠っている。 簡単に着替えを済ませて家を出た。春だっていうのに、吐く息は白くてまだ肌寒い。とりあえず、缶コーヒーと肉まんを買おうと思って、近くの喫茶スペースのあるコンビニに立ち寄った。いらっしゃいませも聞こえない。この時間のコンビニ店員のやる気の無さはすごいと思う。欠伸をひとつ。店内には私以外客はいない。ホットの朝専用缶コーヒーを手に取りレジに行くと、バックヤードから、監視カメラを見てたであろう店員が眠そうな緩慢な動きで対応してくれた。肉まんも頼んだ。あ、袋はいらないです。ありがとうございました、と小さな声で呟かれた。感じが悪い。喫茶スペースを使うのが嫌になって、店を出た。 店の駐車場の縁石に座り、缶コーヒーのプルタブを開ける。一口飲んで、身体の熱を取り戻す。それから、ポケットから携帯を取り出して、電話帳を開く。ディスプレイには『姉御☆』の表示。そのまま通話ボタンを押して、無機質な機械音がスピーカーから漏れてくる。こんな時間に電話をかけるなんて非常識すぎるけど、昔の行いを考えればそれも許容範囲だよね、イエイ。それにあの人、時間なんて超越したような存在だから許してくれるでしょう。 『朝早くから電話をかけてくる馬鹿者は死んでくれ。三枝葉留佳とかいう人間はこの世から存在ごと消え去ってくれ。一生かけてくるな馬鹿』 プツン。ツーツー。 全然許してくれなかった。 肉まんを食べて、今度は腹を満たす。仕切りなおしてもう一度電話をかける。今度は失敗しない。私の安眠が懸かっているのだから。 『これは警告だ。次かけてきたら着信拒否だ。あと、貴様の戸籍はもう無いと思え』 「わー待って姉御! 切らないで! お願い! 話を聞いて!」 『いやだ』 「一生のお願い。なんでもするから。私を好きにしていいから!」 『魅力的な提案だが眠いから無理』 「えー」 『えー、とか言うな馬鹿たれ』 「なんかノリ悪くなーい? そんなん姉御じゃなくなーい?」 『鬱陶しい……。が、なんだか懐かしい気分だよ。言っても卒業してそんなには経ってい無いけどな。いいさ。もう目も覚めてしまった。要件を言え』 「流石姉御! 愛してる!」 『あ、あと、この会話は録音しているから、そんなこと言ってない、なんて逃げ道はないからよろしく』 「げ」 『好きにしてもいいんだよな?』 「いいよ。但し、私の頼みが聞けたら、って条件だけどね」 『私に出来ないことなんてあると思うか?』 「思わないよ。だから、姉御に電話した」 『はっはっはー。楽しいな葉留佳くん。なんだか楽しくなってきたよ。言ってみろ』 「私のお祖母ちゃんを殺した人、教えて」 電車に乗る前に、電話しなければならないところがあった。改札を通る前にピポパとコール。 勿論、勤め先なんだけど。言い訳……、なんて考えるまでも無いか。 「もしもし、あ、どうもー。新人の三枝ですー。あ、おはようございますー。あのですねー、ちょっとですねー、あの、親戚に不幸があったんですけど、あ、そうです、祖母です。え? あ、はい。ありがとうございます。また、ちょっと様子を見てから連絡しますんで。ありがとうございます。失礼します」 はい、オッケー。嘘はついていない。確かに親戚に不幸はあったんだよ。ちょっと前だけどねー。 切符を買って、改札を抜ける。人混みが嫌いだから、よっぽどのことが無い限り電車は使わない。ちょうど時間は通勤ラッシュのピークでどうしようもない混雑具合で、一度喫茶で時間を潰す事にした。 半分も人の入っていない店。週刊誌を手に取り、店の一番端っこの席に座る。店員が注文を聞きに来たので、アイスココアを頼んだ。おしぼりで手を拭く。ブルッと尿意。お手洗いに行こうかなと思ったが、場所が分からないので、店員に聞くと「向こうですよー」と丁寧に教えてくれた。深夜のコンビニ店員とは大違いだ。化粧なんてせずに来た。スッピンそのままだったので、用を足した後、手洗い場で顔を水洗いした。プハァとスッキリシャッキリ。ああ、髪ボサボサだ。目の下のクマも酷い。かわいい顔が台無しだよ。さっき貰ったおしぼりで顔を拭く。顔を両手でパンッと叩く。ほっぺたがピンク色に染まる。チーク代わりだ。かわいい顔してるぞ葉留佳。 テーブルに戻ると生クリームがたっぷりと乗ったアイスココアが届いていた。右手に持ったスプーンで生クリームを全部掬って口に入れる。左手でコップを持って、一気に喉にアイスココアを流し込む。ゴクゴクと喉が鳴る。ガンッとテーブルにコップとスプーンを叩きつける。マナー悪いな私。つーか、いてー、後頭部マジいてー、かき氷一気食いした時レベルにいてー。でも、うめー。癖になるわ、これ。 「ご馳走様!」 叫んだ。 チャイムを鳴らすとインターホンからすぐに「どちら様ですか?」と声がした。「葉留佳です」と一言。 家の中からドタバタした音が聞こえる。玄関の扉が開いて、何故かハアハア言っている母親が出てきた。 「いらっしゃい!」 「どもども」 「とりあえず、中に入って。ああ、でも、どうしよう。急に来るからお菓子も何も用意できてないわ。あ、お茶も切らしてる。ああ、死のう」 「いや、死ぬなよ」 やっぱり頭のゆるい母親だった。 「何にもいらないよ。ちょっとお母さんとお話がしたかっただけ」 「葉留佳……。愛してるわ……」 とか言って外だっていうのに土下座してるみたいな体勢になって号泣しだした。普通に困るんですけど。「うわーん!」と泣きじゃくる母親を無理矢理立たせて家の中に押し込む。こんな姿見られたら、ご近所に勘違いされそうだ……。 居間まで母親を引きずって連れて行く。以前お姉ちゃんと一緒に来た時に談笑した大きめのソファに座らせて、わたしも横に座る。まだ嗚咽を漏らす母親にティッシュを三枚渡す。チーン、と鼻をかんで、使用済みのティッシュを私に渡してきた。 「いらないよ! ばっちぃ!」 「あ、ごめんね。汚い母親で本当にごめんねうわーん!」 うわぁ、扱いずれぇ。とりあえず、母親が落ち着くまで隣で背中をさする。なんだか本当に親子みたい。 「ありがとう葉留佳。もう大丈夫」 「うん。それは良かった」 なんか拍子抜けしてしまったな。 それから、また前みたいに雑談をした。焼きそばが得意料理なんだってこととか、マヨネーズの黄金比とか、お姉ちゃんの堕落っぷりとか。お母さんも料理の話とか、独自開発に成功したスーパーマヨネーズとか、お父さんの無職っぷりとか。そんなことを二人で笑いながら喋った。夢中で喋る。本題に入ることを拒否するように、どんどん横道に逸れて行く。何も考えずに、馬鹿みたいな話で馬鹿みたいに笑っていればそれでいいんじゃないのかな。ダメなのかな。いいよね。それでいいんだよ、きっと。無理に壊すことはない。隠していることを掘り返して、それでどうなる。 私はゆっくりとぐっすりと眠りたいだけなんだ。真実なんてどうでもいい。 窓から西日が差し込んできた。「夕陽が綺麗だね」なんて呟いてみる。お向かいのマンションでそんなもの見えないのに。「そうね綺麗ね」と隣から囁かれる。「そうだよね」「そうだね」「じゃあ、帰るよ」「また、いらっしゃい」「うん」「佳奈多によろしくね」「うん」「ねえ」「なに?」「葉留佳はどう思ってる?」「何を?」「今の生活」「悪くないね」「それはいいことだね」「いいことだよね」「今度来る時は、連絡ちょうだい。何か用意しておくから」「ありがとう。バイバイ」「うん。バイバイ」 家に帰ると、香ばしい匂いがした。 台所まで行ってみると、お姉ちゃんが一所懸命にフライパンを使って料理を作っていた。 「おかえり」 「どもども」 「もうすぐ出来るから」 「うん」 言われるがままに待機の姿勢。ちゃぶ台の上の少し萎れたガーベラと、姉のプリップリしたお尻を眺めながらご飯を待つのも乙なものだなぁ。 「葉留佳。ラー油どこ?」 「ラー油は無いけど、何に使う気?」 「焼きラーメン」 「何その謎の料理」 「今流行ってるのよ。知らないの?」 「知らんわ」 「葉留佳。ソースどこ?」 「あるけど、それに使う気?」 「文句ある?」 「ある」 「じゃあ、醤油」 「私が作る。もうお姉ちゃんは台所入らないで。食材が勿体無い」 「えー。やっと調子出てきたのに」 なんの調子だ。頼むから余計なことしないでよ。めんくさいんだから。 私が台所まで行ってもお姉ちゃんは、どこうとはしなかった。結局、二人で並んで立つ。ダンボールからインスタント焼きそばの袋を二個、取り出す。 「あんた、どれだけ焼きそば好きなの? ダンボールごと買うなんて異常よ。異常」 「なんでもぶち込めばいいと思ってるあんたよりかはマシですよ」 「じゃあ、あんた焼きそば作りなさい。私は焼きラーメンを」 「だから、やめろっつーの!」 無理矢理台所から追い出す。フライパンの上では佳奈多特製焼きラーメンが禍々しいオーラを放っていた。気になって一口味見してみるとめちゃくちゃ不味かったので、即行で三角コーナーに捨てた。「何すんのよ!」うるさい黙れ大人しく私の焼きそばを待ってろ。あんたはずっとそうやってのんびり怠惰に過ごしてればいいんだ。一生浪人生やってればいいんだ。私に養われてればいいんだ。 私の抱き枕として、ずっと側に居れくれればいいんだ。 「今度はリベンジ焼きラーメンを」 「作るなアホ」 ガーベラの花びらがヒラリと落ちた。 [No.708] 2010/03/18(Thu) 23:35:46 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 60 日間のみ可能に設定されています。