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all 第32回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/04/30(Thu) 21:32:37 [No.73]
しめきりし時 - 主催 - 2009/05/02(Sat) 00:26:33 [No.87]
hush, hush, sweet Kudryavka - ひみつ@17021 byte - 2009/05/02(Sat) 00:24:00 [No.86]
願いの行方 - ひみつ@3291 byte - 2009/05/01(Fri) 23:52:34 [No.85]
[削除] - - 2009/05/01(Fri) 23:38:47 [No.84]
聖なる空の下で - ひみつ 初 11008byte - 2009/05/01(Fri) 22:14:20 [No.83]
垂直落下式 - 隠密@9283 byte - 2009/05/01(Fri) 22:06:40 [No.82]
ぱんつ争奪戦・春の陣 - これもひみつになってないな@19147 byte - 2009/05/01(Fri) 18:02:07 [No.81]
勇者と旅人 - ひみつ@9011 byte - 2009/05/01(Fri) 12:37:24 [No.80]
雨上がりの夕闇に明星を見つけて - ひみつになってるのだろうか@19071 byte - 2009/05/01(Fri) 10:13:44 [No.79]
星の向こう側 - 機密@5116byte - 2009/05/01(Fri) 07:52:17 [No.78]
覆水 - ひみつ@5615 byte - 2009/05/01(Fri) 00:02:21 [No.77]
空き缶、金木犀、一番星の帰り道 - ひみつ@8297 byte - 2009/04/30(Thu) 23:27:21 [No.76]
それは永遠に儚いものだから - ひみつ@12823 byte - 2009/04/30(Thu) 23:08:38 [No.75]


覆水 (No.73 への返信) - ひみつ@5615 byte

 夜、ふとしたことで目が覚めたので、ペットボトルの水を飲み、また床に就いた。しかし、寝過ぎたためだろうか、一向に眠気は訪れない。今日は夕食を摂ってからすぐに眠ってしまったことを思い出す。起きてしまうのも当然のように思う。だが、ここしばらくはそんな風に、暇さえあれば眠ってしまうことが多かった。おそらく病気のせいではないだろう。僕は、起きて何かをするということが酷く億劫になってしまった。毎日、その日の課題や受験勉強が一通り終わってしまうと、他に何もやることが無く、消灯時間前であっても床についてしまう。暇さえあれば、日中であってもずっと寝てしまうことも多かった。
 ベッドの中でじっとしていることにも飽きた僕は、眠気が訪れるまでの時間つぶしに散歩に出ることにした。
 草木も眠る深夜、僕以外に動いているものはなく、虫の声以外に聞こえる音も無かった。もうすぐ秋が迫っているためか、外は少し涼しかった。僕は寮を出ると、薄暗い電灯の光を頼りに校舎へと向かった。
 校舎に到着すると、以前誰かから教わった通り、セキュリティのない第二美術室から校舎に侵入した。昼の校舎の持つ騒がしさとは裏腹に、夜のそれは全くの無音で、そのギャップが、この世のものではない世界に居るような、そんな空恐ろしい思いにさせる。しかし、いつのことか、ここで皆と肝試しをやったことを思い出し、この夜の校舎を懐かしくも感じてしまう。そのまま、階段を最上階まで上り、使われなくなった机や椅子が積み上げられた屋上への扉の前までやって来た。大きめの上着のポケットからドライバーを取り出すと、扉の横にある窓の木ねじを外した。積み上げてあった椅子を使って、窓から屋上へと降り立つと、満天の星空が僕を出迎えてくれた。
 僕は給水タンクの上に登り、腰を落ち着けると、そのまま寝転んでしまう。僕の目の前に星空はあった。小さな光の欠片が、夜空一面にばら撒かれたように、星々が輝いていた。日中の日差しに暖められたためか、空気の涼しさと異なり、背中はじんわりと暖かい。上着を着ていることだし、今夜はここで寝てしまうというのもいいかもしれない。
 何故、僕は屋上に来てしまったのだろう。それにあのドライバーは何だったのだろう。気がつけば持ち出していた。いつのことだったかと記憶を探っているうちに、ここでふたりで流れ星を眺めたことがあったというようなことを思い出す。小毬さんだ。ショートカットで笑顔が眩しい女の子。一緒に流れ星にお願い事をしたりしていたっけ。そのとき僕は、どんなお願い事をしたのだろう?恐らく、「ずっと皆と一緒に、幸せでいられますように」とかそんなものだろう。


 と、そこで流れ星は人が死ぬときの象徴でもあったことを思い出す。その途端に、星空が何かぎらぎらとした薄気味悪いものに見え始める。皮肉なものだ。人が死ぬ象徴に対して「ずっと皆と一緒に、幸せでいられますように」なんて願うとは。だからだろうか。この願いが叶えられなかったのは。
 一年前のあの日、リトルバスターズの皆は、僕と鈴を残して、大きな炎の中に消えてしまった。修学旅行中の事故。あの時僕らは、転落したバスの中で夢を見ていた。長い、永い夢を。夢の中で恭介は言った。取り残された僕らが絶望しないように、過酷な現実を生きていけるようにするためにあの夢を作った、と。
 僕は強く生きていけているだろうか?自問するまでも無く、僕の日常は安定したものだった。だが、それはあの夢のおかげなのであろうか?
 残念ながら、そうじゃないだろう。僕が今、生きていけているのは、恭介たちのおかげではなく、迅速に日常を取り戻そうとする世界の自然治癒力のおかげだ。世界という生き物は、構成する組織が欠損した場合には、周辺組織或いは新たに生まれた組織が欠損箇所を修復する。僕はこの過程を目の当たりにした。犠牲者の葬儀、残された僕らの寮の部屋割りやクラスの変更、その他様々なことが怒涛のように押し寄せた事故直後。一週間が一ヶ月、一年のように感じられ、学園全体が日常生活を取り戻し始めたころには、事故のことなど遠い過去のように思われ、傍目にはあんな凄惨な事故など無かったようにさえ思われた。僕たちも、そんな日常に取り残されまいとしがみついているうちに、胸のうちにあった苦くて縺れ合った思いに目を向けること自体を忘れ、そのうちにそんな思いが片付かないままに薄らいでいった。
 生きている世界の持つ逞しさの前では、彼らの死などかすり傷に過ぎなかったし、彼らがあの夢の中で何をしようと無駄だったのだ。そう、彼らが消えてなくなっても、明日も明後日も世界は、僕の日常は、続いていく。


 しかし、だからこそ、僕は彼らに生きていて欲しかった。
 彼らが自分の魂を捧げようとも、そんなものなど欲しくは無かった。
 ただ、僕の傍に居てくれるだけで良かった。


 だが、彼らは死んでしまい、僕らは生き残ってしまった。僕は彼らを見殺しにしたのだ。あのとき、どうして僕と鈴の二人だけを目覚めさせただろう?僕も目覚めないままだったなら、或いは僕だけが目覚めていたのなら、彼らと一緒になれたのに。
 死後の世界なんてところがあるのか、僕にはわからない。あんな夢の世界があったのだから、あるのかもしれない。死後の世界があったとして、皆そこで一緒になれたのだろうか。出来ることなら、彼らには、あの幸せだった時のままで皆一緒に居て欲しかった。それが、彼らと一緒になるチャンスとその資格を永遠に失ってしまった、僕の唯一の願いだ。
 眠ってしまえば、夢の中で皆に会うことができる。夢の中では全てが優しかった。朝、目を覚ませば筋トレをする真人が居た。食堂に行くと、鈴とともに恭介や謙吾が居た。登校すると、教室に葉留佳さんがやって来て。先生が来るぎりぎりまで居たっけ。休み時間にジュースを買いに行く時、よく来ヶ谷さんに捕まり、裏庭のテラスに引っ張り込まれてた。休み時間や昼休み、ストレルカたちと遊ぶクドをよく見かけた。また昼休みには、中庭のケヤキの下で読書をする西園さんに出会い、屋上でお菓子に囲まれて幸せそうな小毬さんに出会った。そして、放課後。グラウンドには皆が居た。皆が僕の傍に居てくれることは、本当に嬉しかった。しかし、醒めてしまえば、皆居なくなる。それが悲しくて悲しくて仕方がなかった。
 僕は、いつまでこんな気持ちのままで生きていくのだろうか。時が経てば、この縺れ合った思いが解けるのだろうか?それともこのまま、彼らの顔が僕の中でどんどん曖昧になっていくように、この思いも曖昧になってしまうだけだろうか?


 僕は自分の叫び声に驚いて飛び起きた。空は白み始め、カラスの鳴き声がかあかあと騒がしかった。
 僕は何を叫んだのだろう?誰に対して叫んだのだろう?
 頬が濡れて、冷たかった。


[No.77] 2009/05/01(Fri) 00:02:21

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