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うららか過ぎる春。もう卒業式が近くに迫ったこの日、今までを思って理樹は窓の外を眺めていた。 「……卒業」 口にすればたった一言の行事、それはもう目の前に迫っていた。去年、恭介が卒業していった時と同じ侘びしさが心をなでる。 「どうしたんだよ、理樹。今日も筋肉鬼をやろうぜ」 「そうだぞ、どうした理樹。筋肉鬼をやらないのか?」 「いや、そんな得体の知れない遊びはした事がないから」 小さい時から相変わらずな真人と、事故の後からある意味おかしくなった謙吾を、理樹は手慣れた調子であしらう。と言っても脳に異常がある訳でもないらしいので、あの事故でちょっと意識改革が起きただけっぽい。どこまでもツッコミにくい意識改革だけど。 「じゃあどうした? どうにも黄昏ているように見えるが、やはり卒業に寂しさでも感じているのか?」 こういった鋭さは相変わらずだし。 「うん、まあね」 窓の外を見て、理樹は言う。気配はもう春のそれだった。それはカレンダーで卒業までの日数を確認するよりも確実に現実を教えてくれる。 「理樹」 「理樹」 「うおおおおおー!? まさかこの俺が理樹を心配する言葉を真人の後に言うとはぁー!?」 「へっ、謙吾。お前もなかなかだが、俺の筋肉にかなうと思っちゃぁいけねぇなぁ」 「筋肉かぁ! 筋肉が足りないせいかぁ!!」 その場で猛烈な勢いでスクワットを始める謙吾。 「こと筋肉に関してこの俺が負けるかぁー!」 ついでに真人もいつもの3倍速で腕立て伏せを始める。 「うん、もうなんか全般的に台無しだよ」 疲れた声で言う理樹。リトルバスターズの中にいると真面目に浸る事すら出来ないらしい。 「まあ、この方が俺ららしくていいじゃないか」 「それはそうなんだけど」 確かに恭介の言うとおりなんだけど、いまいち釈然としない理樹。 …………恭介? 「って、恭介!? どうしてここに!?」 「どうしてってご挨拶だな。俺がここにいちゃいけないのか?」 「いけないでしょ!? って言うか仕事はどうしたの!?」 「心配するな。今日は楽しげな事が起こりそうな予感がしたから有給をとった。1週間前からこの日の為に残業をしまくったからな」 相変わらずな未来予知じみた先見の明の、無駄遣いのしまくりだった。 「いい加減暑苦しいわぁー!」 「ぐふっ」 ドガンと豪快な音がした。見ればいつの間にか教室に戻っていた鈴が、スクワットを続ける謙吾に飛び膝蹴りをしている姿が目に映る。ちなみにスカートからこぼれた鈴のぱんつの色は白と青のストライプだった。 そして鈴は猫のように空中で身を翻すと着地までの勢いを利用して腕立て伏せを続ける真人の頭にかかと落としをたたき込む。 「ぐぉぉ!」 そして蹴り足が真人の頭につくと同時、反対側の足で恭介にハイキックを叩きみまった。 「ぐああああ!」 一瞬で沈黙する男3人。後に残るのは呆然とその光景を見る理樹と、ふーふーと肩で息をする鈴。 「ふっ。しばらく見ない間に鈴の蹴り技をだいぶ進化したらしいな。 って言うかなんで俺まで蹴られなきゃならないんだよっ!」 「やかましいっ! 似合わん制服まで着てどうした。お前今年で20だろーが、成人だろーが。今の自分の姿に疑問はないのか」 「全くないなっ」 胸をはって言いきる恭介。一応補足しておくと、これが1年ぶりの兄妹の再会だったりする。 「そもそも仕事はどーしたんだ。最初の1年が大事だからって遊びに来なかった奴がなぜ今更ここに来ているんだ」 理樹が持った疑問を鈴も聞き、やはりそれに淀みなく答える恭介。 「有給をとった。休日出勤や残業をかなりこなしたからな、快く有給をくれたぞ。やっぱり日頃からの行いは大切だよな」 「お前が言うなぼけー! っていうかそれは卒業生が学校に入っていい理由にはならんわっ!」 鈴のツッコミに冷や汗を浮かべる恭介。その反応を見る限り、許可を取らずに進入したらしい。 「まさか鈴がここまで的確なツッコミを入れられるようになったとは。俺がいない1年に何があったんだ?」 「ふかーっ!」 「って言うか鈴さ、どうして恭介に対してそこまで敵対心をもってるの?」 普通に考えれば――この兄妹に普通を当てはめるのも何だけど――多少は喜びの感情があってもいい気がする。でも鈴にあるのは怒りの感情だけだ。 「はっはっは。これは照れ隠しというものだよ。理樹君もまだまだ乙女心の勉強が足りないな」 「うわぁ、来ヶ谷さん! いつの間に!?」 「はっはっは」 笑うだけで返事をしない来ヶ谷。その間にドヤドヤと騒がしい一団が教室に入ってくる。 「あ〜、本当に恭介さんだ。お久しぶりです」 「制服着てるですっ!? でも全く違和感がありません!」 「…………そう言えば、恭介さんがどんな仕事をしているのか全く知りません。仕事によってはアリな展開とナシな展開とに分かれるので是非とも知りたいのですが」 「棗先輩、ご無沙汰していましたわ」 「部外者が勝手に校内に出入りするのは……」 「まま、お姉ちゃん。そう言わないでさ」 入ってきた集団はもちろん残りのリトルバスターズを中心とした面々。小毬にクド、美魚、佐々美、佳奈多と葉留佳。 彼女たちは制服を着て違和感なく教室にとけ込んでいる恭介を見つけると、あるものは嬉しそうにあるものは眉をしかめて、それでも恭介の側に駆け寄ってくる。 「これで久しぶりに全員集合だね〜」 ほわほわした小毬の声に、不思議そうな顔をするのは恭介。 「なんだ。俺が来てるって知っていたのか?」 「はいっ。来ヶ谷さんからメールが届いたです」 クドの元気がいい返事を聞いて、恭介の視線は来ヶ谷の方へ。視線の意味は当然、どうしてそれが分かったのかというもの。その視線を受けて来ヶ谷は、 「はっはっは」 笑っているだけだった。 「で、今日は何をして遊ぶんだっ?」 騒ぎが一段落すると、満面の笑みで謙吾が聞く。恭介と一緒に遊べる事がよほど嬉しいらしい。 「そうだな……」 少しだけ考える仕草を見せる恭介。 「そう言えば今日、朝の占いで星形のものを身につけていると運気が上昇する百年に一回の日とか言ってましたネ」 「脈絡なっ!」 一瞬の静寂の隙にいきなりそんな事を言い出した葉留佳に思わず理樹が突っ込んだ。 「やはは。それが私のアイデンティティですから」 「しかも百年に一回だと逆に希少過ぎて真偽を疑うな」 そして的確に補足する謙吾。彼の頭のネジがどうなっているのか悩むのはこんな至極真っ当な事を言う時だ。 「星形ですか。今日は私、星形の物は持ってきてないです。残念です」 言いつつポケットから月のキーホルダーを取り出すのはクド。確かに月は星だが、一般的に言う星形ではない。しかもなぜかクドが取り出したのはデフォルメされたものではなく、模型のように精密な一品だった。 「星形かぁ。オレも持ってねぇな」 ガサゴソとポケットをあさりながら言うのは真人。そしてやがてふと理樹目を向けた。 「な、なに真人?」 「そう言えば理樹、今日は星形の物を持ってたよな。ちょっと貸してくれよ」 真人の言葉を言葉を聞いて首を傾げながらポケットを探す理樹だが、やはり星形の物は見つからない。 「星形のものなんてないよ。真人の勘違いじゃない?」 「何言ってんだよ。確か今日の理樹のパンツは星形だったよな」 「うわぁぁぁぁぁ!」 ものすごいカミングアウトに思わず大声が口から漏れる理樹だが、当然それで出た言葉が聞こえなくなるはずがない。何人かの女の子がピクリと反応したのがその証拠。 「なに大声を出してるんだよ、理樹」 「そりゃ大声も出すよ。って言うか、何でそんな事を知ってるのさ。って言うかパンツなんて貸せるはずないだろっ」 「今日のはたまたま覚えてただけだ。気にするなって」 「って言うかいい過ぎたな、お前は」 何かをグダグダとやっているのを見ていたらと思ったら、急に目を輝かせる恭介。 「それだっ!」 「それですかっ!?」 「どれだ?」 「どれですか?」 大声を出す恭介とのったクド、冷や汗をかく来ヶ谷に呆れた顔の佳奈多。表情が見事にバラけた。 「今日の遊びだよ。久しぶりだからな、相応しいのを考えていたんだがもう一捻り足りないなと思っていたんだがな。今の会話で完璧になった」 「下着の会話で完璧になる会話はどうでしょう?」 至極最もな言葉を口にする佐々美。 「まあいいじゃないか、こんなバカらしいのも俺たちらしくてなっ!」 「! 全くその通りですわね!!」 謙吾の言葉であっさりと陥落する。その間にどこからともなく、いそいそと横断幕を取り出す恭介。 「あ、理樹。そっちを持ってくれ」 「あ、うん」 そしてダーと走って横断幕を開く恭介。そこに書かれていた文字は〜第二回バトル大会サバイバル戦・さすらえ強者共〜と書かれていた。 「第二回バトル大会サバイバル戦・さすらえ強者共、下着争奪戦!!」 「「「「「うおおおぉぉぉ!!」」」」」 バカ二人と一部女子が物凄い歓声をあげた。ちなみに残った女子と理樹は完全に惚けている。 その中で佳奈多だけがすぐに疲れた顔になり、ため息まじりに言葉を口にする。 「あ、あのですね。恭介先輩、いくらなんでもこんな風紀を真っ向から乱す事なんて認められるはずがないじゃないですか。元とはいえ私は風紀委員でしたし、これは認められません」 「理樹少年は星柄のパンツか。さて、葉留佳君はどんなぱんつなんだろうな?」 「風紀委員だったのは昔の話です。引継が終わった今、私はただのリトルバスターズの一員。やりましょう、さあやりましょう」 一瞬で来ヶ谷に籠絡された来ヶ谷。 「はっはっは。こんなに愛されているとは葉留佳君も隅に置けないな」 「やはは。我が姉ながらこれはちょっと引く……」 微妙な顔をして冷や汗を流す葉留佳。それでも彼女もこのゲームを止める気はないようだった。それを見て焦り始めるのは常識人である理樹。 「ちょ、こんなのおかしいって! 鈴はそれでいいのっ?」 焦った声を出す理樹だが、話しかけられた鈴はきょとんとしたもの。 「負けなきゃいいんだろ?」 「勝っても困るでしょ……」 とにかく鈴が話にならないと悟った理樹は、次に顔を真っ赤にしたクドを見る。 「クドからも何か言って!」 「勝てば、勝てば、勝てば、リキの――――」 ブツブツと何か言っていたクドは唐突に指を口に突っ込むとピー!と鋭い口笛をならす。すぐに遠くからワンワンワンという声が聞こえてきた。ストレルカとヴェルカだ。 「よろしくお願いします、二人共。今日は絶っっっ対に負けられませんので!!」 任せろと言わんばかりにオン!と返事をするストレルカ。そんな参加する気満々なクドから視線を外し、理樹は美魚を見る。 「ふふふふふふふふふふフフフフフフフ」 表情は普通だが悪魔に魂を売り渡したような瞳をしている美魚に、理樹は声をかける事すら諦めた。他に頼りになる人はと周りを見渡して、日本刀の手入れをする来ヶ谷をスルーして、やがて理樹の視線は佐々美へと行き着く。 「佐々美さん」 「ええ、分かってますわよ。理樹さん」 佐々美の言葉にホッと息を吐く理樹。 「正々堂々、尋常に勝負を致しましょう! そして願わくば理樹さんの星柄パンツと宮沢様のふんどしをこの手に!」 「って何も分かってないし!」 佐々美に裏切られた理樹は最後の希望とばかりに恭介を見る。 「なんか血を見そうなんだけど、本当にやるの?」 「ここまでみんながやる気になるとは思わなかった……」 冷や汗を流す恭介。大方、佳奈多辺りがストッパーになると多少過激な事を言ったのだろうが、完全に当てが外れてしまったらしい。そしてここまで暴走したみんなを止める事は言い出しっぺには出来ないらしく、ヤケクソ気味に大声をあげる。 「ええい、ルールを説明するぞ! 勝負の決め方や武器の決め方は前回と同じだが、武器は最初に選んだ物を最後まで使う事! 負けた方は勝った方に穿いている下着を渡し、そして下着を奪われた奴は失格。引き分けの場合は変化なし。一番下着を集めた奴が優勝。以上だ!」 言うだけ言うと、携帯を各方面にかけまくる恭介。どうやら彼の不思議な情報網は卒業した後でも生きているらしい。 「あ、科学部部隊にもキチンと連絡して下さいね」 「もちろんだ。俺は一人だけ不利になるような真似はしない」 コール中にかけられた美魚の言葉にも恭介はしっかりと受け答えをする。返事の内容といい、こういう所はどこまでも恭介らしい。理樹はそんな姿を見て、学生でなくなっても変わらない親友にほっとした。 やがて人が下らない物を持って集まってくる。前にも思ったが、中には投網とか引きずって来る人とかがいるのでかなり異様な光景だ。と言うか、投網なんてどこから持ってきたんだろうか? 「何人かもう武器が決まっている奴もいるが、まあいいか。じゃあみんな、武器を投げ込んでくれ!」 恭介の言葉を合図にして様々な物が理樹たちへと降り注ぐ。 「これだっ!」 「ふん!」 「よっと」 「わわわ!」 他の三人はともかく、理樹にとっては空中で武器を掴むのは至難の技だ。昔は慣れたものだったが、その感覚もだいぶサビついてしまったらしい。必死になってやっと一つ掴んだそれは、 「………………………………」 コーラだった。ペットボトルの。 呆然とした理樹は思わず周りを見る。最初に目に入った真人の持っていた物は、メリケンサック。 「普通に凶器でしょ、それ!」 「あ、ああ。オレもこれでいいのかとか不安になってきたぜ、あらゆる意味で。つーかむしろオレと理樹の武器、取り間違えてねぇか?」 真人自身もかなり動揺していた。 「こ、これは……!」 呆けている理樹と真人の耳に謙吾の声が聞こえてくる。そっちを振り向いて見れば、そこには日本刀を持った謙吾が。 思わず日本刀の持ち主であろう来ヶ谷を見る理樹。その視線の先で来ヶ谷はフフフと楽しんでいた。 「言いたい事は分かるが少年よ、この方が面白いだろう?」 茶目っ気たっぷりに笑いながら、無茶苦茶洒落にならない事をする来ヶ谷に理樹は何も言えなくなってしまう。 「……ちなみに、来ヶ谷さんの武器は?」 「これだ」 そう言って掲げられた来ヶ谷の手の中には、デジタルカメラが。正直、来ヶ谷が持つとかなり洒落にならない武器である。 他に誰がどんな武器を持っているかと見てみれば、クドはストレルカ・ヴェルカと戯れているし、鈴の周りには猫が15匹も。 「ぬおー」 「…………」 「ぬきゅ?」 含む、ドルジ。 「えー?」 無茶苦茶凶悪で可愛らしい武器を従える猛獣マスターの姿がそこにあった。 そして次の瞬間にはボンっと何かが壊れる音がしてくる。 「今度は何っ!?」 「す、すごい。まさかNYP測定器が壊れる程NYPが高まっているとは!」 「部長、まさか何だかよく分からない展開では何だかよく分からないパワーが何だかよく分からない理論でなんだかよく分からない感じに――」 「落ちつけ高橋君。君の言っている事の方がよく分からん」 騒ぐ科学部部隊の中心で、変わらず悪魔に魂を売り渡した瞳をした美魚が電磁バリアを手に嗤っていた。笑っていない、嗤っていた。 「うん、見なかった事にしよう」 全てを忘れ去って視線をズラす理樹。そこにあったのは佳奈多と佐々美の姿。 「…………」 「…………」 「…………」 「…………なに、言いたい事があるならば言えば?」 「…………なんですの? 言いたい事があればおっしゃれば?」 「…………いや、うん。何でもない。二人共同じ武器なんだね」 理樹としてはそう言うしかない。本音を口にすればその瞬間殺される確信があった。 鞭、似合うね。そんな言葉を口にすれば。って言うか、だから誰だ。学校にSM用の調教鞭なんて持ってきているのは。そして何で二人ともそれを率先して選んでいるのだろうか? 疑問が残り過ぎる展開だ。 「さて、じゃあそろそろ始めてもいいかな。下着争奪戦、サバイバルバトル」 ある程度時間が経ったからか、そう宣言する恭介。その言葉に少しだけ違和感を覚えた理樹。 「ところでさ恭介。要するに下着ってぱんつでしょ?」 その質問に、至極真面目な顔をする恭介。 「理樹、これだけは言っておく。 男はパンツ、女はぱんつだ、ここだけは譲れない。そしてだからこそ一纏めに言う時は下着と言わざるを得ない訳だ」 「うん、心底どうでもいい」 「待てよ? ぱンつというのもアリか?」 「アリかナシかで言えば、ナシでしょう」 「むしろパんつというのはどうだ?」 「だから心底どうでもいい」 あげくに美魚と来ヶ谷まで話に参加してくる始末。 「ええー! って言う事は負けたらぱんつをその場で脱がなきゃいけないの!?」 そしてようやく頭にルールが追い付いたらしい小毬。彼女の大声が響く。 「あ、それからルール追加な。今日は星の形が運気がいいらしいので、星が描かれたぱンつは3ポイントな」 「そんないきなり!?」 突如追加されたルールに理樹の悲鳴があがるが。それよりも真面目な顔をする少女が一人。佐々美だ。 「ちょっと小毬さん」 「え? なーに? さーちゃん」 「今日のあなたのぱんつ、ヒトデぱんつじゃないでしたっけ?」 「さーちゃん、それ言っちゃダメぇ!!」 いきなりなカミングアウトに小毬は真っ赤になりながら涙を流す。だが、周りにとってはそれは比較的どうでもいい。 「ヒトデといったら星形だな」 「よし。神北のぱんつも3ポイントな」 「ええぇー!」 散々な目に遭った小毬の声を合図にバトルがスタートする。 「謙吾ぉ! まずはお前の白いふんどしから巻き上げてやるぜ!」 「甘いな真人、ふんどしパワーに守られていないお前には俺を倒す事は出来ん!」 「ふふふ。それは当てが外れたな、謙吾よ。昔、赤フンドシが筋肉にいいと聞いた事があってな。たまに赤フンドシをオレは穿いているんだよ」 「な、なに。まさか真人、貴様……!」 「そう、今日が月に一回の、赤フンドシの日だぁ!」 開始早々、訳の分からない会話を挟みながら熾烈なバトルを繰り広げる真人と謙吾。しかし武器が武器なので、冗談ではすまない戦いになっている。 「いやいや、読み通りだな」 そしてそれを見て愉快そうに言うのは来ヶ谷。 「来ヶ谷さん?」 「真人少年がメリケンサックを手にするのが見えたものでな。それではいくら謙吾少年とは言え、中途半端な武器では勝てまい。上手く相討ちにでもなってくれないかなと思っていたが、図に当たりそうでよかったよ」 サラリと黒い事を吐いた来ヶ谷はクルリと別の方向を向く。 「さて、恭介氏」 「……来ヶ谷か」 「バカ二人が共倒れほぼ確定した今、恐ろしいのは恭介氏だけだ。倒させて貰うぞ」 「望むところだ!」 そしてバトルが発生。向こうでは佳奈多と葉留佳の姉妹対決が勃発してるし、あっちでは電磁バリアでドルジが吹き飛ぶという天災並みの光景が。 「とりあえず逃げようかな」 理樹は地獄絵図と化し始めたその世界から逃げ出す事に成功した。そして当てもなく学校をさすらっていると、その廊下の曲がり角で。 「ほわぁ!?」 「うわっ!?」 小毬と遭遇した。なんとなしに見つめ合う二人だが、どこかで恭介のバトルスタートという声が聞こえた気がすると同時、動きだす二人。 「いくよ、理樹くん!」 「負けないよっ!」 勢いよくコーラを振る理樹。勢いよく3Dかける小毬。 「ほぅわ!?」 「…………」 思わず理樹の手も止まってしまう。ふらふらと何度か頭を動かしたらと思ったら、ばったりと倒れてしまう小毬。 「ぅぅぅ、負けちゃったよぉ〜」 「小毬さん、一応聞くけど、どうしてそんな武器を選んだの?」 「正気に戻って思わず掴んじゃった武器がこれだったんだよ」 半泣きで3Dメガネを外し、顔を真っ赤にした小毬は。 「じゃ、じゃあ勝負に負けたから」 「ちょ、小毬さん。無理にやらなくても!」 「ううん。約束だから、私だけ恥ずかしくて出来ないなんて言えないよ」 失敗した笑顔でスカートの中に両手を入れる小毬。するすると白い布きれが足を抜けていくのが理樹の脳に、永遠に焼きつけられた。そして完全に脱げたそれは、理樹の前に差し出される。 「は、は、はい。理樹くん、受け取って」 「う、うん」 そうは言うものの、理樹の手は動いてくれない。 「は、早く。こうしてるの恥ずかしいんだから!」 小毬に急かされるようにして白いそれを受け取ると、小毬はスカートを手で押さえながら走り去っていく。向かう方向から考えるとたぶん女子寮で、新しい下着を穿きに戻ったのだろう。 「…………」 無言で手の中にある戦利品を見る理樹。デフォルメされたヒトデがプリチーだ。 「!!!!」 それを確認すると同時、パニックになって近くの扉に駆け込む理樹。小毬のぱんつを握ったまま駆け込んだその先は放送室で、 「よう、理樹」 そこで恭介が待ち構えていた。 「な、恭介? 来ヶ谷さんはっ!?」 恭介はニヒルに笑うと、懐から戦利品の大人っぽい緑色のソレを取り出す。 「まさかそれはっ!?」 「そう、来ヶ谷のぱんつだ。しっかりと奪ってきた。次はお前のパンツを貰いに来たぜっ!」 そう宣言してスーパーボールを両手に構える恭介。バトルを申し込まれた以上、理樹としても勝ち目がなくとも闘わなくてはならない。 「くっ!」 コーラを構える理樹。そして恭介対理樹のバトルが、 「あー。ちょっと待った御両人」 始まらなかった。バトルはつかつかと放送室に入ってきた来ヶ谷に止められる。 「なんだ、来ヶ谷。今からバトルだぞ? それに着替えてきたにしては随分早いな」 「いや、まだきがえていない。おねーさんはノーパンのままだぞ」 物凄い事をカミングアウトする来ヶ谷。 「少年、見るか?」 「見ないよ!」 「はっはっは。顔を真っ赤にして言っても説得力がないぞ、理樹君」 笑う来ヶ谷、怒る理樹。 その時、一陣の風が吹く。ふさぁと持ちあがる来ヶ谷のスカート。そして晒される中身。 「…………」 「…………」 「…………」 流石の恭介でさえ呆然としている。 「で、私がここに来た訳はな」 「少しは恥ずかしがってよ!!」 平然と話を進めた来ヶ谷に思わず理樹がツッコミをいれた。それに取り合わず来ヶ谷は放送器具の前に行くと、その器具を指さす。 「「?」」 訳が分からない理樹と恭介は来ヶ谷の指の先を見る。そこにはONの下のランプが光っているマイクが。 「…………」 「…………」 さっきとは別の意味で静まり返る場。 「つまり?」 「つまり、さっきの恭介氏の発言は全校生徒に丸聞こえな訳だな。私からぱんつを奪ったという発言も、理樹君からパンツを奪おうとした発言も」 「…………」 「…………」 「はっはっは」 「…………」 「…………」 「はっはっは」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 恭介の絶叫は、マイク越しで比喩無しに学校中に響き渡った。 後日、恭介はロリじゃなくて年上好きだと噂が流れたが、それを聞いた恭介はどこか嬉しそうだったとか。 更に恭介の趣味はロリじゃなくてショタ、本命は年上の兄貴だという噂も流れていたという事も教えたら、真っ白な灰になったとか。 ちなみにその適当な噂を何の考えも無く鈴が頷いたせいで変な信憑性が生まれたという事実は、既に灰になった恭介の耳には届かなかったとか。 [No.81] 2009/05/01(Fri) 18:02:07 |
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