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レコンキスタ - ひみつ@5615 byte - 2009/05/15(Fri) 02:59:29 [No.97]
サイズ誤りです。実際は12450byteです。 - No97投稿者 - 2009/05/15(Fri) 03:12:54 [No.98]


レコンキスタ (No.96 への返信) - ひみつ@5615 byte

 何で、こんなことになったのだろう?
 オレは体を丸めて、オレを囲んだ奴らからの暴行に耐えていた。
「デカイ図体して情けねえ野郎だぜ」
「可哀想なこと言ってやんなよ。こいつの筋肉は見かけ倒しなんだから」
「ははっ。お前の方がひでーじゃねーか」
 奴らはオレを笑い物にしながら、オレの背中をモップで殴ったり、脇腹を蹴ったりしていた。





 思えば、謙吾に続く形で理樹と決別した、その次の日から予兆があった気がする。
 他人の視線が妙に気になったのだ。普段なら気にならない他人の視線が、何故か不快だった。その日は丁度土曜だったので、オレは休日の二日間を他人に見つからないように注意しながら、独りで過ごした。理樹と同じ部屋にいるのも躊躇われたので、裏庭の倉庫でだ。
 そして、明けて月曜日、周囲の異変が決定的になった。一人で登校し、下履きに履き替えようとしたとき、下駄箱が荒らされていることに気付いた。ゴミ箱のゴミがぶちまけられていたのだ。ゴミを掻き出し、下履きの汚れを手で払っていると、周囲から笑い声が聞こえた。それはオレに対する笑いのような気がしてならなかった。怒りと恥ずかしさが入り混じり、頭が熱くなるのを感じながら、逃げるように教室に向かった。
 教室に入った瞬間、部屋を間違ったのかと思った。教室にいる奴らが、一斉にオレの方を見たからだ。その視線が、全員同じ意思を持ったような不気味な一体感を持っていたので、間違いと感じたのかもしれなかった。教室の表示を見ても、自分のクラスに間違いなかった。だが、教室はやはりおかしかった。理樹も鈴も謙吾も居なかったのだ。欠席しているとかそういう問題でなく、あいつらの席に別の人間が座っていた。
 何かあるとは予想していたが、あいつらがいないのには困った。あいつらは何処に行ったのだろう?違うクラスになったのだろうか?探しに行こうとしたが、ちょうど担任が教室に向かって歩いているのを見てしまったので仕方なしに教室に入った。あとで探しに行こう、そう考えて。
 教室に入り、席に着く間も席に着きホームルームを受けている間もずっと、クラスの連中の視線を感じていた。はじめはオレの筋肉に見惚れてるのかと思ったが違う様子だった。下駄箱での笑い声と同じような笑いがひそひそとあちこちから起こっていた。
「あの靴履いたのかよ。うえ、汚ねえ」
「アレはないよねー」
 てめえらが犯人か。オレは立ち上がり、そいつらに掴み掛ろうとした。だが、そこで自分の異変にも気付くことになった。周囲の視線がまるでオレを押さえつけているかのように感じられたのだ。恥ずかしさと恐ろしさで頭が一杯になり、体が動かなかった。何故だ。何故オレはこんな気弱になっているんだ。
 授業中もオレの気が休まることはなかった。皆がオレを見ていた。あの笑い声とともに。時折、オレの背中に何かがぶつけられるのを感じた。だが、振り向いて確認するのが恐ろしく、黒板の文字を見つめ続けるしかなかった。空気が薄く息苦しかった。教室も普段よりずっと狭く感じられた。いつもなら寝て過ごすだけの気楽な授業が、今日はひどく閉塞感を感じ、寝ることもましてや授業を真面目に聞くこともできなかった。
 休み時間になると、理樹たちを探すため、何より教室に居たくないために逃げるように教室から飛び出した。だが、理樹たちは何処にも居なかった。しかも、教室から出ても、あの嫌な視線は変わらなかった。オレはあの視線に見覚えがあった。嘲笑。蔑み。胃の中に鉛の塊を置かれたような不快感を覚えた。
 そして、昼休み。土曜からちゃんとした食事をしていなかったので、不本意ながら学食に行くことにした。定食を載せたトレイを持って端の席に座った。茶を汲み忘れたので、トレイを席に置いたまま席を離れた。いつもオレたちが使っている席を見てみたが、やはり理樹たちはいなかった。オレはため息をつきながら、味噌汁をすすった。その時、口と喉に異常な刺激が。
「ぐ、げえぇ」
 堪らずオレは味噌汁を吐き出した。喉が焼けつくように痛い。急いで茶を流し込むが、それすら吐き出してしまった。給水機の前で水をガブ飲みし、何とか痛みが引いてきたころに、誰かがオレの肩を掴んだ。
「飯食うとこで吐くんじゃねえよ。汚ねえな」
「すげーおもしれー反応してたよな。マジうけるんですけど。で、どんな味したよ?やっぱり酸っぱかったか?」
「ばーか。アルカリだと苦いんじゃねーか?」
「つーか、こんなもん飲んじまって大丈夫かよ?」
「あー、マジで飲みこんだら死ぬかも。でも大丈夫だって。こいつの筋肉でどうにかなるって」
 オレは涙目で周りを見回したが、みんな無関心か、肩を掴んでいるやつと同じ厭らしい笑みを浮かべているばかりだった。こいつら、オレが病院送りになろうが、どうなろうがいいと思っていやがる。全てが異常だった。次に何をしてくるかわからない不気味さが恐ろしくてたまらなかった。
「おい、どうしたんだよ。うずくまってねーで立てよ」
「うわあぁあぁぁぁ!」
 オレは、肩に手を掛けているやつを突き飛ばした。すると、そいつは面白いほど簡単に吹っ飛んで、傍のテーブルをひっくり返していた。打ちどころが悪かったのか、そいつは気を失ったらしく反応を示さなかった。
「てめえ!何しやがんだ、コラァ!!」
 吹っ飛ばしてやった奴の連れがそう叫び、周りの連中も殺気立ったので、オレは一目散に逃げ出した。
 闇雲に走った結果、気がついたらオレは裏庭に居た。逃げやすいのはいいのだが、校舎の窓から見つかる可能性が高いから、長居はしたくなかった。だが、その判断は既に遅く、誰かに見つかっていたようだった。すぐにオレは数人の男子生徒に囲まれてしまった。右腕には赤い腕章。風紀委員の連中だった。
「まったく手間かけさせやがって」
「お前、学食で暴れたんだって?お前のせいであいつ気絶しちまったじゃねーか。ひでーことしやがる」
「こいつ、どうします?」
「ま、とりあえず委員会室に連行な。で、それなりの処分を受けてもらおうじゃねーか」
 風紀委員の連中もあいつらと同じように、にやにやとオレを嘲笑っていた。間違いない、こいつらもグルだ。味噌汁にあんなやばいものを入れる連中だ。捕まるとやばい。
「近づくんじゃねえよ・・・・・・」
「あ?」
「オレに寄るんじゃねえぇええぇ!!」
 オレは、体勢を低くし、あいつらの隙間を縫うようにして逃げようとした。が、オレの体が大きかったので、あいつらに服を掴まれてしまった。背中を蹴られ、地面に押し付けられた。
「てめえ、何逃げようとしやがる!」
「暴れんじゃねーよ!」
 一気に連中に囲まれ、オレはうつ伏せの状態で抵抗もできず、奴らの蹴りを背中や脇腹、頭に浴びせられることになった。




 何で、こんなことになったのだろう?
 オレは体を丸めて、オレを囲んだ奴らからの暴行に耐えていた。
「デカイ図体して情けねえ野郎だぜ」
「可哀想なこと言ってやんなよ。こいつの筋肉は見かけ倒しなんだから」
「ははっ。お前の方がひでーじゃねーか」
 奴らはオレを笑い物にしながら、オレの背中をモップで殴ったり、脇腹を蹴ったりしていた。

 オレは、身体中の痛みに耐えながら、こいつらの笑い声に耐えながら、考えた。
 この光景に見覚えがあった。ずっと苛められていた子供のころ。泣いて助けを求めても、周りの奴らは蔑みの目で嗤うか、見る価値も無いかのように無関心を決め込むばかりで誰もオレの言葉に耳を貸さなかった。
 今のオレは、あのときのオレだ。だから、あんなに周囲の視線が恐ろしかったのだ。あのときもそうだった。だが、あのときのオレなら、ここで終わってはいないはずだ。思い出せ、思い出せ。あの苦しい日々を。
 いつのことだったか、初めて相手を殴り倒したことがあった。あの瞬間あいつらのオレを見る目が変わったのを覚えている。
 ああ、あのときオレは悟ったんだ。自分が弱かったから居場所が無かったことを。踏みつけなければ踏み潰される。踏み潰されたら全てを奪われる。
 だったら、オレが強くなって、踏みつける側になればいい。居場所を奪い取ればいい。
 それから、オレの時間は全て、喧嘩と自分を鍛えることに捧げられた。暴力はオレに救いの手をもたらす神様そのものだったし、鍛えることは神様への祈りみたいなものだった。
 ああ、そうか、そうだった。全部思い出した。だったら、今のオレのやることはたった一つ。
 オレは、体を丸めた体勢のまま、手を組み、額に押し当てる。まるで祈りを捧げる人のように。いや、これはまさしく祈りと懺悔だ。

 理樹。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
 貴方を悲しませたくありませんでした。
 でも、どうかもう一度だけ悲しんでください。

 鈴。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
 貴女を怖がらせたくありませんでした。
 だから、今だけはどうか見ないでださい。

 そして、神様。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
 今まで貴方のことを忘れていました。
 あの日から、周りがあまりにも優しかったから。
 でも、世界はあのときから変わっていませんし、オレには結局貴方しか居ないのです。

 神様神様神様神様。
 どうか、どうかどうか、もう一度救いを。





「うわっ!」
 突然、オレの背中を足蹴にしている奴もろとも、オレは立ち上がる。
「井ノ原の奴、この人数相手にまだ抵抗する気か!?」
「どうすんだよ!?」
「これだけいるんだぞ!押さえ込んじまえばそれでおしまいだ!」
 風紀委員のひとりがオレを取り押さえようと飛び込んでくる。オレは体勢を低くとると、相手の懐めがけて組み付く。そして左手で相手の右ひざ裏を、右手で左腿を抱え込むと、相手の体を持ち上げる。肩に抱える形になった相手を、今度は地面に思いっきり叩き落としてやった。
「がぁぁ」
 相手は苦しそうに呻き、そのまま動かなくなる。そりゃ、受身をとらずに両足タックルで硬い地面に叩きつけられたら息もできないだろう。
 今まで、亀みたいに縮こまっていたオレが突然反撃に出たから驚いたのだろう。風紀委員の野郎どもは、距離をとり、オレの様子を窺っていた。

 肌が粟立ち、背筋が冷たくなるのを感じる。背骨の中に冷たい水を注がれたような、言い様のない快感だ。頭の血管の中を血液が暴れるように流れるのを感じる。いつもはぼんやりとした思考が、ものすごい速度で頭の中を巡っていく。目の前が鮮明になる。足の指、手の指、髪の毛一本全てに感覚が通っていて空気の流れすら感じられる。アドレナリンがオレの中のエンジンを高速回転させているのがわかる。

「今、ものすげー良い気分だぜ。全部思い出したんだよ。オレには結局、これしかないんだよな。」
 息を整えると、体を半身にし、両手を胸の高さで適当に構える。重心を踵から爪先へと移す。オレが構えるのを見て、奴らは怯えの表情を見せながらも、応戦の体勢をとる。いい度胸してやがる。息を吸い込むと、それを吐き出すようにしてオレは叫んだ。
「さあ、来やがれいぃぃぃぃぃぃぃィィィ!!」





 静かになった。辺りにはもう、風紀委員どもの泣き声や呻き声すら聞こえない。あるのはオレの下に寝転がっている奴の顔面を機械的に打ち付け続ける、オレの鉄槌打ちの音くらいだ。それだって、大した音じゃない。肉叩きで肉を潰すような鈍い音。本当に静かなものだ。
 ぴくりとも動かなくなったので、オレはそいつの上から離れ、立ち上がることにした。そいつの顔は鼻や口からの血でぐちゃぐちゃだし、腫れ上がってしまって以前はどんな顔だったか想像することもできない。自分の拳を見る。血とか涎とかそんなものでどろどろだ。汚ねえなあ。シャツで手を拭いながら辺りを見回す。折れたモップやら、風紀委員の野郎たちやらがそこらへんに散乱していた。10人近くいたのか。我ながらよくやったもんだ。おかげさまで拳が痛くって仕方ねえ。久しぶりに本気で人を殴ったから、手加減の仕方がわからなかったぜ。
 でも、この拳の痛みも連中にやられた痛みも懐かしかった。この痛みがあったからこそ、生きている実感を感じられたんだ。相手の怯えた顔や許しを乞う泣き声。そんなものを見るのも好きだった。自分が強いこと、自分の居場所を勝ち得たこと、そんなことを実感できたから。

 あまり長居しても、風紀委員の連中がまた集まってくるとまずい。ちょっと休憩も入れたいしな。とりあえず、人気が無くて広い場所、ということで学食裏に移動したオレはベンチに腰掛ける。
 金曜の時点で、オレの身に何かが起こるとわかってはいたが、まさか理樹と鈴が居なくなるなんて思っても見なかった。そして突如始まったオレに対する苛め。オレの子供の頃の再現。オレが思い出したくもないこと。
 これで、全て失った。最初で最後の、オレの本当の居場所。もうオレたちには未来は無いのだから、せめて、この世界が終わるまで守り続けたかったのに。それを、もう全てが終わるっていう直前に、奪い取るというのか。何も持っていない、あの頃に帰れというのか。ふざけるな、恭介。
 だったら、あの時何故オレを助けたんだ。何故オレを仲間にしたんだ。もしかして仲間と思っていたのはオレだけか?オレの暴力を体よく利用するためにオレを誘ったのか?オレがバカなことばかりやるのを、お前はテレビでも見るかのように愉しんでいたのか?オレだけがお前らを仲間だと思っていたのを、お前は陰で嗤っていたのか?お前も結局、他の奴らと同じで上から目線でオレを見下していただけなのか?オレに居場所を与えた振りして、いつも上から見下して、自分の思い通りにしてきたのか?そして、最後の最後でオレから奪って愉しんでいるのか?ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな。
 頭がずきずきと痛む。怒りが血液に乗って頭の中を暴れまわっているようだ。そして、それはオレの全身へと駆け巡る。筋肉が強張っていき、拳が震える。今すぐ拳をベンチに叩き付けたい。だが、オレは呻き声を上げながら、その欲望をぐっと堪える。この怒りを保て。あいつらに全部叩き込め。





「井ノ原を発見しました!」
「私たちの手に負えないから早く応援を!」
 ピィィーーーーーーー!!
 ホイッスルの音が鳴り響く。風紀委員が人を集めるときにつかうヤツだ。すると続々と応援の連中がやってくる。厄介なことに、運動部の中でも武道関連の部員を集めてやがる。

 連中がオレを囲もうとしている最中、オレはベンチから立ち上がり、雲ひとつ無い空に向かって叫ぶ。この学園の何処にも居なくても、きっとあいつには届くはずだ。
「きょうすけぇェェェェェェェ!!コソコソコソコソ隠れてねぇで出てきやがれえぇ!」
 オレはもう逃げない、逃げられない。
 どこへ逃げようとも、大事なもの、大切な時間、オレの居場所、全部奪われる。

 なら、こいつらも恭介も誰も逃がさない。
 皆壊れて動かなくなるまで終わらせない。
 全部、オレが奪い尽くしてやる。


[No.97] 2009/05/15(Fri) 02:59:29

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