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No.430に関するツリー

   第42回リトバス草SS大会 - 代理人 - 2009/10/09(Fri) 22:56:28 [No.430]
締め切りです - 主催代理の代理の代理ぐらい - 2009/10/10(Sat) 01:04:56 [No.440]
Re: 締め切りです - もう代理じゃなくていいや - 2009/10/10(Sat) 01:20:06 [No.441]
恋と魔法と色欲モノ。2 - 期待に応えて@5187 byte - 2009/10/10(Sat) 00:50:15 [No.439]
[削除] - - 2009/10/10(Sat) 00:24:23 [No.438]
生きてく強さ - ひみつ@12330byte - 2009/10/10(Sat) 00:02:24 [No.437]
やべぇ、「アレ」置いてきた。 - ひみつ@18975byte - 2009/10/10(Sat) 00:00:05 [No.436]
待ち合わせ - ひみつ@3551byte  - 2009/10/09(Fri) 23:59:04 [No.435]
To want it would catch paid. - ひみつ@10999 byte - 2009/10/09(Fri) 23:31:42 [No.434]
胡蝶の夢々 - ダーク風味@18086 byte - 2009/10/09(Fri) 23:29:08 [No.433]
終わった順番。 - ひみつ@べ、別に初投稿でドキドキしたりとかしてないんだからねっ! 1696 byte - 2009/10/09(Fri) 23:22:26 [No.432]



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第42回リトバス草SS大会 (親記事) - 代理人

 残りが1時間になっても立ってないのはまずいんじゃないかな、とか思って勝手にスレッドを立ててしまいました。問題があるようならば削除して下さい。
 っていうか無法地帯になり過ぎ。

 詳細はこちら
 http://kaki-kaki-kaki.hp.infoseek.co.jp/rule.html
 この記事に返信する形で作品を投稿してください。

 お題は「消失」です。

 締め切りは10月9日金曜24時。
 締め切り後の作品はMVP対象外となりますのでご注意を。

 感想会は10月10日土曜午後10時開始予定。
 会場はこちら
 http://kaki-kaki-kaki.hp.infoseek.co.jp/chat.html
 はじめにMVP投票(最大3作まで投票可能)を行いますので、是非是非みなさまご参加くださいませ。
 ご新規、読みオンリー、感想オンリー、投票オンリー、大歓迎でございます


[No.430] 2009/10/09(Fri) 22:56:28
終わった順番。 (No.430への返信 / 1階層) - ひみつ@べ、別に初投稿でドキドキしたりとかしてないんだからねっ! 1696 byte

ワタシハ、モウオワッテシマウ・・・

とうとう終わってしまうな。私の“順番”。
これは、皆で決めた事だ。
彼らを強くする為に作られた、虚構世界。

本当の世界で私は生存不明。
だから、私は“順番”が来た時、どんな心境になればいいのか分からなかった。
確かに、修学旅行の前、彼に好意を持っていた。
だけど、それが“like”なのか、“love”なのかは、自分ではさっぱり理解できなかった。
自分のキモチを整理するのは得意だった。
なのに、この感情だけは整理出来なかった。
これが、恋や、愛等と呼称されるものなのだろうか。
でも、そこまで熱くはなかった。
リトルバスターズの誰かがくっつけば、それで自己解決していたと思っていた。
なのに。
ほかのメンバーの順番が来て、彼女達が喜び、彼と仲良くしている情景を見て、
私の中の感情が、音を立てて動いていた。

コノカンジョウハナンダロウ・・・?

そして、いつの間にか私は彼に夢中になっていた。
もちろん、順番でない時に出たりはしない。
だけど・・・

放つセリフは一緒。
確かに、ほんの少し変わる事もあったが。
それでも、ほとんど一緒。
だけど。
込める感情は、明らかに途中から変わっていた。
私の心の中で、“like”が、“love”に、変わっていった。
早く順番が来ないかと、ドキドキしていた。
最後は鈴君になるというのに。
でも。
と思っていた時に、私の順番がきた。
理樹君と会い、理樹君と親しくなり、そして放送室に理樹君が。
そして、始めるのは、あの世界。
この虚構世界だからこその、繰り返しの毎日。
理樹君が気づいて、私を探す。
昨日、と言うより今日。
いや、ここは先日と定義付けるべきか。
理樹君が、あのメモを、私のメモを発見した。
だから、もう終わるはずだ。
ドンドンドン!
放送室のドアが叩かれる。
ごめんね。理樹君。
私はそのドアを開ける事が出来ない。
嗚呼、消えていく…

ピピピピ・・・

携帯が鳴っている。
でも、今見るのは無理そうだ。
ではな、理樹君・・・
携帯は、帰ってから見る事にしよう・・・


[No.432] 2009/10/09(Fri) 23:22:26
胡蝶の夢々 (No.430への返信 / 1階層) - ダーク風味@18086 byte

 静かに佳奈多の目が覚める。白い天井、ほんの少しの刺激臭。いつも仮眠をとっている保健室のベッドの上だって、ほんの少しの時間が経ってから彼女は気が付いた。
「…………」
 何をするでもなくそのまま天井を見つめ続ける。起きたばかりで何も考える必要のないこの空虚な時間は佳奈多の心を休める大事な時間。
「失礼しまーす」
 だというのに。そんな時間すらも奪っていくのだから運命と言うのは残酷だ。
 諦観から浮き出る酷薄な笑みを表情に出す佳奈多。
「あら、保健室だというのに騒がしい声が聞こえるわね」
「っ!?」
 ベッドはカーテンに遮られていて佳奈多からは入ってきた人間の姿は見えない。けれどもその人物が強張るのを佳奈多はしっかりと感じ取った。その変化がますます佳奈多の笑みを深くする。
「お前……!」
「保健室は静かにする場所よ。そんな事すら出来ないなんて常識を疑うわ。どんな学校を卒業してきたのかしら?」
 ギリと歯ぎしりが聞こえる。その音を楽しむように、佳奈多は優雅に見える様に身支度を整えてからカーテンを開け放つ。眼前にいるのは敵意を持った最愛の妹の姿。
 ……そんな事は最初っから分かっていたけれど。葉留佳の声を間違えるなんて、佳奈多にある訳がない。
 そして葉留佳の姿を認めた佳奈多は侮蔑の笑みを消す、まるで侮蔑の意味ですらこもった笑みを向けるのも腹立たしいと言わんばかりに。睨みつけるように葉留佳を見た佳奈多の視線はやがてその膝へと向かう。血が滲んでいる、少なくとも保健室で治療をした方がいいと思う程度には。
 思わず心配の声を掛けそうになった佳奈多だが、その衝動を一瞬で飲み込む。そして口にするのは別の感情がこもった言葉。
「出ていきなさい」
「はっ? あんたにそんな事を言われる筋合いなんてないんですけど?」
「どうせ自業自得でした怪我でしょ? そんな事の為にわざわざ大切な経費を使う訳にはいかないの」
「関係ないし。怪我したら保健室で治すのは当たり前だし?」
「ふーん。校則を破って生徒に迷惑をかけて、その上に生徒から集めたお金で怪我を治そうと言うのね、あなたは。
 ならどうぞ、自由に怪我を治したら? 薬の分のお金で生徒に迷惑がかかるのを承知で自由に怪我を治したら?」
 睨みあう姉妹。呪い殺してやると言わんばかりの視線が絡み合う。
 そしてやがて視線を逸らしたのは葉留佳。そして保健室のドアを壊さんばかりの勢いであけ、校舎中に響くような大音量をあげながら閉める。佳奈多の侮蔑の視線に晒されたまま保健室で治療するよりかはまだましだと思ったのだろう。
 佳奈多は葉留佳が居なくなったのを確認してからカーテンを閉めて、そしてベッドにぽすんと倒れこむ。眠って回復した分の体力は今のわずかな間に綺麗さっぱり使われてしまった。むしろ回復した分以上の体力を使ってしまったかもしれない。
「…………はぁ」
 ため息を一つ。
 怪我をしたら治すためにあるのが保健室、理由なんて関係ない。
 人を治す以上に有効なお金の使い道なんてある訳ない。
 怪我はどうするんだろうか? ただでさえ少ないお小遣いなのに、治療費でますますお金がなくなってしまう。
 数々の考えが浮かんでは消える。
 …………どうしてこうなってしまったのだろう? そんな考えが佳奈多の頭に浮かんで消える。本当は傷つけたくなんてないのに。
 ゆるゆるとした思考に流されて、佳奈多は目が覚めた時と同じように、静かに夢の中へと戻っていった。





「おっきろー!」
「!!」
 大声に叩き起こされる。ガバリと保健室のベッドから起き上った佳奈多の目に映ったのは、屈託のない笑顔の葉留佳。
「葉…留佳?」
「ですよ、お姉ちゃん。寝ぼけて妹の顔も思い出せませんかネ?」
 猫口で含み笑いをしながら、それでも笑みを佳奈多へと向ける葉留佳。
 その笑顔からは佳奈多を恨んでいるような意味は掴めないし、佳奈多に恨まれるかもという身構えすらも得られない。
 いや、それ以前に確かに佳奈多は聞いた。お姉ちゃん、って。それはもう二度と聞けないと諦めていた、遠い昔の呼ばれ方。
「あなた、今、え?」
「おー寝ぼけてる寝ぼけてる。
 やはは、お姉ちゃんの寝ぼけなんて珍しいものを見ましたネ。眼福眼福」
 やはり笑みは真っすぐで温かい。その笑みが紛れもなく、自分に向けられている。
「冗談、じゃ、ないのよね……?」
「へ? 何が? よく分からんがあえて冗談であると言おう! なぜならばこのはるちん、冗談なしに人生を歩めないのだー!」
「夢、でも、ないのよ、ね?」
「…………ちょっと、お姉ちゃん?」
 そこでようやく尋常じゃない様子の佳奈多に、葉留佳が気が付く。普段とは明らかに違う姉に葉留佳の顔は一瞬で曇った。
 佳奈多の肩を掴んで強引に自分の方を向かせる葉留佳。
「大丈夫なの? ねえ、ちょっとお姉ちゃん!」
「だ、大丈夫よ、葉留佳。ええ、大丈夫だから……」
「本当? 本当に大丈夫なの? だってお姉ちゃん、変だよ?」
 もちろん分かっている、変なのは佳奈多が一番分かっている。でも、大丈夫か大丈夫じゃないかで言われれば、きっと今が人生で一番大丈夫な時。
 一回深呼吸をする佳奈多。そうしてからしっかりと葉留佳を見つめる。その冗談ではない視線に、葉留佳は体を強張らせた。
「葉留佳」
「な、なに、お姉ちゃん」
「あなたは、私の――」
「お姉ちゃんの?」
「――妹よね?」
「は?」
 余りにも予想外な言葉に葉留佳は一瞬次の言葉を見失ってしまう。当たり前すぎる質問を前にした葉留佳には、どのような答えを佳奈多が期待しているのかが全く分からない。
「……、…………?
 えー、ちょっとお姉ちゃん。言ってる意味がちょっと分からないんだけど? これはギャグですか? はるちんにボケろっていう前振りですか? お姉ちゃんらしくもない」
「いいえ、真面目な質問よ。お願い、答えて、葉留佳」
 真剣に見つめてくる佳奈多。それを受けて葉留佳はしどろもどろになってしまう。それに今さらこんな問いに答えるのは気恥ずかしいという思いもある。
 けど、けれども。真っすぐ見つめてくる佳奈多を前にして、中途半端な答えは選べなかった。おずおずと口を開く。
「わ、私は、お姉ちゃんの――い、妹だよ」
 ぽたんと佳奈多の目から涙が落ちた。ぎょっと目を見開く葉留佳だが、それに構わずにはらはらと涙は落ち続けていく。
「はえ? はわ、うえ……?
 きゅ、救急車ぁ! ひゃ、110番!!」
「それは警察です」
 落ちいく涙の割には冷静な思考と口調の佳奈多。それがますます葉留佳を混乱させる。
 そんな混乱した葉留佳を抱きしめて、けれども涙を止めない佳奈多。
「ひゃあ、あの、ちょっと、お姉ちゃん?」
「ごめ、ごめんな、んなさい、葉留佳ぁ……! ごめんなさい、ごめんなさい…………!!」
「えええええ。いや、なんの事だが分かりませんが、大丈夫だから、ね? お姉ちゃん」
 お姉ちゃん。その単語がますます佳奈多を混乱の中へ叩き落としていく。そして更に流れたその涙を、彼女の妹が不器用にぬぐう。それが更に涙を流させる。
 そのまま泣き続けた佳奈多は。いつしか泣き疲れて眠りについていた。静かな眠り、今まで一番穏やかな眠りの中へ。それは、張り詰めていたものが切れた時に訪れる、張り詰めたものがない人には決して訪れない、充実した眠り。





 ばしゃんと顔に水がかけられる。
「な、なに!?」
 静かな眠りから急に覚醒させられた。白いカーテンに覆われた区切られた場所、見上げられる位置にあった葉留佳の顔。それが、憎悪に染まっている。
「葉…留佳?」
「なに? 体調が悪いの? ならとっとと寮に戻って眠ったら?」
 冷淡な声。ついさっき、眠る前に聞いた、葉留佳らしい温かな感情に満ちた声とは真逆のそれに、佳奈多の背筋にゾっとしたものがはしる。
 ふと目にとまったもの。それは葉留佳の手にあったコップ。空っぽで中身が濡れているそのコップを見て、それ以上の想像をする事を拒否する佳奈多。
「元々保健室のベッドは急に倒れた人の為にあるんだよ。それなのにいちいち仮眠の為に使われたら本来の目的に使えないじゃない」
「な、なに言ってるのよ、あなた……?」
「何って? 当然の事に決まってるじゃん。あんたに教えて貰った事だよ」
 葉留佳の表情は、無表情。まるで佳奈多に表情を与える事すらもったいないと言わんばかりに、全く顔に表情が出てこない。それはまるで出来の悪い能面を見てるみたいだった。どこまでも人間のような顔をしているのに、表情を表わすという一番大切な事を抜け落としてしまったような、欠陥品の能面。
「だらしがない幸せそうな顔で眠っちゃって。何? どんな夢を見たの? 夢の中で恋人でも出来た? それとも私を殺しでもしたの?」
「ち、違っ――」
「ああゴメン。そんなの幸せな夢じゃないよね。あんたの一番の幸せは私を殺さないでいたぶる事だもんね。殺すなんてそんな下らない事をしないよね!」
「違う! 違うの葉留佳っ……!!」
 冷めた顔のままで心に突き刺さる言葉を聞きたくなくて、佳奈多は大声をあげる。その声に驚いて葉留佳の言葉が止まった。
 一瞬の静寂の後、葉留佳に表情が生まれる。それは笑み、暗い笑み。
「…………へぇ。あんた、こんな事でそんな辛そうな顔、するんだ」
「ッ!?」
 思わず自分の顔に手を当てる佳奈多。その行動で佳奈多が自分で辛いという事を気が付いていなかったと知り、ますます葉留佳の顔は残虐な笑みが深くなる。
 微かに肩を震わせながらベッドの上で俯く佳奈多。佳奈多には顔をあげて葉留佳の事を見る勇気は、ない。
「…………苦しめてやる。死にたいって思う以上に」
 そう言い捨てた葉留佳は佳奈多から視線を離して立ち上がる。そしてそのまま佳奈多の事を見る事なく、足早に保健室から出ていった。
 保健室に残された佳奈多は、茫然。体が固まってしまったように動けずにいた。
 寝る前の優しい葉留佳、もしもあれがなければここまでのショックは受けなかっただろうに、あれがあったからこそ心が痛みを感じない。
 だって、もしも痛みを感じてしまったら、きっとそれに耐えられないから。
「何で、どうして……? 何が、何で…………っ!」
 佳奈多の声に答えるものは、ない。
 さっき、葉留佳を抱きしめた時とは違う感情で溢れた涙がポロポロと頬を伝って流れ落ちていく。
 それをぬぐう妹の手は、ない。
 自分で自分の体を抱きしめて、ぬぐわれない涙を流し続ける佳奈多。
 そしてまた、佳奈多は眠りに落ちていた。同じ泣きつかれた眠りだけれども、さっきとは違う安らぎのない眠りへと。





 目が覚めた。
「くかー」
 この間抜けな寝息のせいで。周りを見渡す。いつも仮眠している保健室のベッドの上だけど、いつもとはちょっと違った。とても幸せそうな寝顔で同衾している女の子が一人。どの位幸せそうかというと、起こしてしまうのをためらってしまうくらい。
 けれども佳奈多はそれとは別の意味で葉留佳を起こす事をためらってしまう。もしも起こして、またあんな冷たい言葉を浴びせられてしまったらと思うと、どうしても起こす勇気が出てこない。
 起こさないでこのまま保健室を出ようと、そう思った佳奈多は隣で眠る葉留佳を起こさないようにベッドから起きて、降りる。その時、足に違和感が。
「え?」
 カラカラカラーンとけたたましく響く音。缶カラの中でビー玉が暴れたようなその音に、佳奈多の後ろでガバリと誰かが起き上る気配が。
「むむむ! てきしゅー!!」
「ひっ!」
 全く心構えが出来ていなかった佳奈多を無視した目覚めが良すぎる葉留佳はというと、キョロキョロと周りを見渡して侵入者を探していた。
「って誰もいないし! 鳴子にかかったのはお姉ちゃんかー!」
「は、葉留佳……?」
「あ、うん。はるちんですよ。いやー、やっぱり眠っている時が一番人間に隙が出来ますからネ。備えはしっかりとしておかないと」
「今、お姉ちゃんって言った?」
「? うん。お姉ちゃんはお姉ちゃん」
 佳奈多はへなへなとその場にへたり込んでしまう。そんな佳奈多を見た葉留佳はというと、きょとんと首を傾げる事しかできない。
「お姉ちゃん、どしたの?」
「いえ、何でもないわ」
「えー。なんでお姉ちゃんの隣で寝てたとか聞かないのー?」
「…………何で私の隣で寝てたの?」
「すきんしっぷですよすきんしっぷー。姉御鼻血ものの姉妹の麗しいすきんしっぷー!
 っていうかそんな嫌そうに聞かないでー!」
 テンション高くそんな事を言う葉留佳に、佳奈多は二の句が告げられない。全身が脱力したように動けなくなる。
「って、え?」
 違う。脱力したように、ではない。脱力して、本当に立ち上がれない。
「なになに、お姉ちゃんどうしたの?」
「ちょっと……力が抜けたみたい」
「ええー! だからそんなに無理しない方がいいって言ったじゃん! 大丈夫に見えても絶対に疲れはたまるんだからね!」
 慌てて佳奈多を抱き起こすと、ベッドの上に寝かせる葉留佳。そしてやれやれコイツはだからもー、といったジェスチャーをしながら情けない姉に向かってため息をついた。
「おやすみ、お姉ちゃん。ここらでしっかり眠らないと本当に体が持たないよ?」
 眠らないと。その単語を聞いて、佳奈多の体からどっと冷たい汗が流れ落ちる。
 そうだ。眠ると、次に起きた時はもしかしたらまた、あの葉留佳と出会ってしまうかもしれない。
 けれども人間である以上は当然眠らない、という事なんて出来やしない。けれどももう体が言う事を利かない。疲れ切った体は恐怖に関係なく睡眠を求めている。
「じゃあごゆっくり〜」
「葉留佳!」
 しゅたっと退室しかけた葉留佳を必死の声で止める佳奈多。葉留佳は佳奈多の声を聞いて、ん? っと首を傾げながら振り返る。
「そんな必死そうな声をだしてどしたー!? はるちんの助けが必要かーい?」
「眠るまで、私の手を握ってて」
「…………へ?」
 余りにも想定外過ぎる言葉を聞いて、葉留佳の顔が固まる。それに関わらず、佳奈多の顔は必死で真剣だった。
「あの、えーと、お姉ちゃん? 今なんて?」
「お願い、私の手を握ってて。恐い夢を、見そうなの」
 それは余りにも子供っぽい理由過ぎて、目を瞬く葉留佳。よもや彼女の姉がそんな事を言うなんて思わなかったから。
 というか、葉留佳の知り合いの中で本気冗談である事に関係なく、一番言いそうにない人間は誰かというと今そのセリフを言った人間の名前をあげるだろう。
 夢でも見ているのではないかと自分の頬を引っ張る葉留佳。痛い、夢ではないらしい。
「……へ?」
 顔が真っ赤になっていく。まさか彼女が冗談でそんな事を言うとも思えないし、何より佳奈多の顔は真剣そのもの。加えてどこか怯えを含んだような目の色が間違いないのだと葉留佳に教えてくれる。
 そして真剣な姉の願いを断る程、葉留佳は冷たい人間ではない。ベッドの側にあったイスに座って、おずおずと佳奈多の右手を握る。
 ぎゅ。暖かい。
「ふ、ふつつつか者ですが」
「つが一つ多いわよ、葉留佳」
「わ、分かってるわよお姉たん!」
 噛んだ。ただでさえ赤かった顔が、ますます赤くなっていく。そんな妹の微笑ましい様子をクスクスと笑いながら見る佳奈多。
「あーもー怒った! こうなったらお姉ちゃんが起きるまで手を握っていてあげるんだから!」
「ふふふ。ありがとう、葉留佳」
「ちっちっち。寝る前に言うのはありがとうじゃないのですヨ、お姉ちゃん。
 正しい挨拶はおやすみなさいですヨ?」
「そうね、葉留佳。おやすみなさい」
「うん。お姉ちゃん、おやすみなさい」
 そうして葉留佳のぬくもりを感じたまま、佳奈多は眠りに落ちていく。
 眠ることへの恐怖はもう、ない。





「ん……」
「あ、起きた?」
 意識が覚醒していく。その最初の起点となったのは左から聞こえてくる声と、温かい感触。
 そちらの方を向いてみれば、約束の通りに手を握っていた葉留佳の姿。約束を守ってくれたと、自然に笑みを浮かべながら葉留佳の顔を見る佳奈多。そこにはやっぱり葉留佳の笑みがある。
「おはよう、葉留佳」
「おはよう」
 一言で返される、冷たな声で。佳奈多の脳が一気に目覚める。
 確か、握られた手は右だったような。
 痛いよ、葉留佳。そんなに強く手を握らないで。
 何でそんな残忍な笑い顔なのよ、葉留佳。
「起きてよかった。おまえがちゃんと苦しんで死ねるのを見れるし」
 そう言う葉留佳の左手には光。
 違う、蛍光灯の光を反射している、ナイフ。
「葉――!」
「死ねぇ!」
 なんの容赦もなく、なんの呵責もなく。葉留佳は佳奈多の顔を目掛けてナイフを振り落とす。
 佳奈多はそのナイフよりも、獣のような顔で迫ってくる葉留佳の顔の方が怖くて悲しくて。それから逃れるようにベッドから転がり落ちる。その直後、ナイフはマクラに音を立てて突き刺さった。
 そしてベッドから転がり落ちたのは葉留佳の反対側。普通ならば女の子の握力では転がり落ちる人間の体重に耐えきれないで手を離してしまうものだが、まるで執念の表れであるかのように葉留佳の手は佳奈多の手を離す事はなかった。
「ぐっ!」
 だけどそれは幸運であるという事とは別の話である。引っ張られるという事はバランスを崩しているという事で、そんな状態でまともに着地が出来る筈もない。ましてや葉留佳の両手は塞がっているのだから。
 ゴロゴロと落ちてからも転がる佳奈多と葉留佳。そしてやがていきなり葉留佳の手から力が抜け落ちた。
「え?」
 その余りの唐突さに、佳奈多の口から呆気ない声が漏れた。だってその視線の先に、胸から赤い血を流している葉留佳がいたのだから。その胸には左手が伸びていて、その左手にはナイフが握られている。
 死んでいた、なんの意味もなく。死んでいた、どこまでも呆気なく。死んでいた、憎しみの表情を張り付けたままで。
「あ、あああ……」
 本当にただ死んでいた。それ以外の意味が無いままに、葉留佳は佳奈多を恨んだまま死んでいた。
 佳奈多はのろのろと葉留佳の胸に手をやって、根元まで刺さったナイフを抜く。血は、吹き出ない。ジワジワと悲しい速度で葉留佳の服を赤く染めていくだけ。
 そして佳奈多は震える手で、そのナイフを自分の首に押し当てた。
「ごめんなさい、葉留佳。でももう大丈夫だからね」
 死ねば、もう葉留佳を殺す事はない。もしもこのまま生きていたとして、眠ればまた優しい葉留佳が出てくるかも知れないけれども。
 もう、葉留佳に会わせる顔はなかった。
 それにそこからまた眠れば、憎んでくる葉留佳が出てきて、また殺してしまうかも知れない。そうなる事なんて想像も出来ない。
 佳奈多は思いっきりナイフを自分の首に突きたてる。
 佳奈多が感じる事はなかったけれど、首から噴き出した血は保健室を天井まで赤く濡らしていく。
 姉の体はどすんと音を立てて妹の体に折り重なる。心から死に方まで重なる事の無かった姉妹。その最後、死体だけは無意味に重ねる事になったけれども、それが救いになったかどうかは分からない。





 葉留佳の顔。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーーーーーー!!」
「ちょ、お姉ちゃん!?」
 眼前にいきなり現れた。他に見えたのは天井と、白いカーテン。普段の佳奈多ならばきっと、葉留佳は保健室で眠っていた佳奈多を覗き込むようにしていたのだと容易に想像がつく状況だったのだが、そんな冷静さは佳奈多にはない。
「来るな来るな来るな来るなぁーーーー!!」
「お姉ちゃん、落ち着いて!」
 佳奈多の手元にあったのは、マクラ。それを手に取って葉留佳に向かってやたらめったらに振りおろす。
 けれどもそんな半狂乱の抵抗がそんなに長く続くはずもない。やがて佳奈多は葉留佳に両手を取り押さえられ、ベッドの上に押し付けられた。
「どうしたのよお姉ちゃん、落ち着いて!」
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて……っ!!」
 それでも佳奈多の声は止まらない。
 葉留佳としても訳が分からない。保健室で眠っていたと思ったら、いきなり目を覚まして取り乱したのだから。
 無意味に叫ぶ佳奈多は興奮している。体重をかけて両手は押さえこんでいるが、足はバタバタと動いているし、顔もグシャグシャだ。
 落ち着かせる為にはこれしかないと、葉留佳は思いっきり佳奈多に顔を近づけて、
「んっ!」
「っ!」
 唇を奪って舌をねじこむ。もしかしたら舌を噛み切られるかもと心のどこかで思っていた葉留佳だっただが、キスした瞬間に佳奈多の頭は真っ白になったらしい。抵抗は全くないし、足の動きも止まっている。
 葉留佳は舌で佳奈多の中を落ち着かせるようになめる。ざらざらとした舌、滑らかな歯の裏っ側、プニプニとした舌の下。
 やがて落ち着いていく佳奈多。それを知らせるように、もぐりこんできた舌に自分のものを絡ませる。姉妹の舌は、あやしあうように紡ぎ合う。
 たっぷりと時間をかけた後、ぷはっという息とともに葉留佳の方から離れていく。けれどもそれも当然、葉留佳が上からのしかかっているのだから。
「やはは、濃厚なキスでしたね。お姉ちゃん、落ち着いた?」
「…………ええ」
「よかった。それで、お姉ちゃん、どしたの?」
「…………」
「お姉ちゃん?」
「殺して」
「へ?」
「私を殺して。違う、ダメ。殺すだけじゃダメ。消さなきゃダメ、私を消滅させなきゃダメ」
「ちょ、お姉ちゃん?」
「誰か、私を、お願い、だから、消してよぉ……」
 まだ葉留佳に両手を抑えられたままの佳奈多は涙を拭く事も出来ずにすすり泣く事しかできない。葉留佳もそんな姉を茫然と見る事しか出来ない。
 意味が分からない。結果として姉がとても傷ついているという事しか分からない。どうしていいのか分からない。こんなにも苦しんで悲しんでいる姉がいるのに、何をどうすればいいのか全然分からない。
 やがていつしか。
 佳奈多は泣き疲れて眠りに落ちていた。





 そしてまた目が覚める。
 目の前にいる葉留佳の顔は恐くて見れない。


[No.433] 2009/10/09(Fri) 23:29:08
To want it would catch paid. (No.430への返信 / 1階層) - ひみつ@10999 byte

「聞いてくれ理樹! 俺は重大な発見をしてしまった!!」
「どうしたの? 二次元に入る方法でも見つけたの?」
 ノックもなしに自室に飛びこんできた恭介に、理樹は宿題から目を話さずに適当に応えた。
 恭介はそんな対応にもかまわず、入ってきた勢いそのままに熱弁をふるいはじめる。
 ――ちなみに真人は、「頭を鍛えるまえに体を鍛えてくるぜ!」と言い残して姿をくらませていた。
「それは虚構世界をつくれば簡単に……ってその話じゃないんだ」
「ええ!?」
「なんだその『恭介が二次元と妹と(21)以外の言葉をしゃべった!?』みたいな反応は」
「違うの?」
 むしろ違ったら世界が終わる、とでも言いたげな顔に、恭介は若干顔が引きつる。
「でもまあ当たらずも遠からじだ。
理樹、鈴たちはいま何才だ?」
「攻略対象キャラは全員18才以上」
「そうだな。ここで、鈴たちをボーダーラインの18才とし、この学園を高校のような3年制のものと仮定しよう。
鈴たちと理樹は同年代、俺はおまえらより年上……さらに笹瀬川に後輩がいることを考えれば、俺は19才ということになる」
「まあ普通に考えてもそうなるよね」
「だが年齢とはなにか? Yaho○!で調べてみると、『生まれてから経過した年数。とし。よわい。年歯。』とでてきた。
つまり、『生まれてから今日にいたるまで、どれぐらいの時間をすごしたのか』とも言い換えられる」
「……小難しい言い方してるけど、結局普通のことを言ってるよね?」
「ああ普通だ。――しかし、しかしだ。俺たちリトルバスターズは普通の時間をすごしていない」
「もしかして……虚構世界?」
「そのとおり。俺たちは終わらない一学期のなかにいた。なん回も、なん回も繰り返した。
つまり、他の奴らよりも多くの時間をすごしている――すなわち、俺たちはその分年上になるってわけだ!
ここで仮に、ひとりの女子を攻略するのに3ヶ月かかったとしよう。ループ回数は女性陣6人足すことの旧リトルバスターズで計7。3ヶ月×7回=21ヶ月。
俺たちは虚構世界で1年と9ヶ月をすごしている計算になる。
よって俺の年齢は、20才なんだ! もう酒が飲めるし、もう3ヶ月もすりゃあ念願の棗 恭介(21)になれるんだぜ!!」
 語り終わると同時に、懐から缶ビールを取り出し、ひとりで乾杯を始める。
 理樹は開いた口がふさがらなかった。
 この男はなにを言っているのだろうと。
「いやその理屈はおかしい」
「ほう……俺のなにがおかしいのか説明してもらおうじゃないか」
「後悔しない?」
 もちろん、と大きくうなずかれたので、話しだした。
 理樹が座るちゃぶ台の反対側に、恭介が腰を下ろす。
「まず、ひとりの女子で3ヶ月というのがおかしい」
「おいおい、まさか『人によっては1ヶ月です』とか細かく計算していくのか? そんなの誤差のレベルだろ?」
「うん。だけど、ループはいつも5月13日から始まっていた。だからどんなに頑張ってもせいぜい2ヶ月ぐらいだと思うんだ」
「……それでも、2×7=14で1年2ヶ月。ギリギリ酒が飲める年齢だ!」
「いやいや、お酒を止めたいわけじゃなくて……そしてもうひとつ。ループ回数7回というのがおかしい」
 指折り数えていく。
「僕はまず、鈴を攻略しようとした……でも結局攻略できなかった。
次に僕はクドを攻略した。
その次は葉留佳さんに行った。
次は来ヶ谷さん。
続いて小毬さん、西園さん。
ようやく鈴に行ったけど……それでもダメだった。
そして僕たちは、辛いだけになってしまった世界を乗り越えた」
 右手の指はいったん握られ、そこから折り返して三本の指が立っていた。
「それでも8回……やっぱり誤差レベルじゃないか」
「――なに言ってるの?」
「は?」
「まだ僕の話は終わってないよ?」
「なんだと……?」
 話の続きがある……そのことに恭介は戦慄した。
「次に僕はハーレムを狙ってみた。でもあえなく失敗した。
次に辛いだけの世界をもう一度乗り越え、鈴が僕のつばを舐めるのを見た。
そしてさらに来ヶ谷さんがかわいく告白するのを見た」
 指折りしていた手が開かれ、再度親指が曲げられる。
 それでもまだ、止まらない。話すのを止めない……!
「まさか……やめろ、理樹! やめてくれ!」
「クドが精神的に強くなるのを見届けて。
世界を筋肉に包んで。
そして笹瀬川さん。
二木さん。
沙耶さん!
沙耶さん(馬鹿)!!
沙耶さん(スクレボ)!!!」
「…………っ!」
「18回。2×18=36。
――3年、すごしているんだ。虚構世界で。僕たちは」
「そんな……それじゃあ、それじゃあ……」
「…………」
「俺は……棗 恭介……(22)……なのか……?」
 知らなければいい真実もある。政治家の裏の顔、街が発展している裏のヤクザ、両親が結婚した理由、マク○ナル○の原価、……。
 でも理樹は話した。恭介が許可した……そんなのはもう言い訳に成り下がっていた。ただ、どうしても話したくなったから話してしまった。無知蒙昧に喜んでいる恭介の姿なんて見たくなかったから。
 恭介の体が崩れ落ちる。床に拳をたたきつける。
「……ょう」
「恭介?」

「ちくしょおぉぉ!! なんでだよ! なんでこんなことになるんだよ!
ずっとずっと願ってたんだよ! なんで、こんな理不尽なんだよ!! ちくしょう!!
ずっとずっと、願い続けてた!! それがかなえられるって思ったのに!! なのに……それがかなわないなんて……。
そんなの……ねぇよ……なんでだよ……わけわかんねぇよ……くそぉ……」

 それはまさに、魂の叫びだった。棗 恭介という人間のすべてをかけた絶叫。
 ――どうしてここまで悲しむのだろう? なにが彼をそうさせるのだろう?
 わからなかった。わからなかったが、彼が――幼いころから憧れていたリーダーが、とても悲しんでいることだけはわかった。
「恭介……どうして、そこまで……?」
 だから聞いた。恭介の悲しみを理解して、分かち合って、癒せるように。
「……夢、だったから」
 やがて恭介は、ぽつりとつぶやいた。
「ずっと願って……事故にあって……その夢がかなわないと知って……それでもあがいて……最後の最後で捨て去った……夢だったんだ。
それなのに、一度あきらめた夢が目の前にあるんだ……! それをつかもうとしちまうのはしょうがないだろ!?
理樹ともっと遊びたかったとか!! 鈴の成長を見守りたかったとか!! (21)になってイヤッホォォォウしたかったとかッ!!
そんなちっぽけな願いをかなえようとすることが、いけないことなのか!!??」
 つぶやきはやがて、再び魂をふるわせる叫びに変わる。
 その、悲壮感あふれる目を、理樹はしっかりと見すえて、
「恭介」
 手を差し伸べた。
「そんなに悲しまないで」
「悲しむな、なんて……簡単に言ってくれるな……」
「簡単に言うよ。だって、僕は恭介を助けられるんだ」
「なんだって……?」

「僕が……僕たちが、(21)だ」

 理樹は笑う。心の底から。
 かつて悲しみに暮れていた自分に、笑いかけてくれた彼のように。
 恭介は理樹の笑顔を、呆然と見上げていた。やがてその顔が、くしゃっと崩れる。泣き笑いのような表情。
「そっか……おまえは……俺を、助けてくれるんだな……」
「もちろんだよ……それに、僕だけじゃない。真人や謙吾や鈴や小毬さん、みんなみんな、(21)なんだ!
遊ぼう、恭介。ずっとずっと一緒に。みんな一緒にっ」
「理樹……理樹っ!!」
「恭介!!」
 彼らは決して離れないとでもいうように、固く抱き合った。。
 恭介は理樹の胸に顔をうずめた。いつの間にかこぼれていた涙を隠すために。
 理樹はそれに気づかないフリをして、抱く腕に少しだけ力をこめた。
 友情を確認しあっているところに、突然ノックの音が飛び込んだ。
「リキー? お邪魔するのでわふーーーっ! なんだか大変な場面に遭遇してしまいました!?」
 続いて飛びこんできたのは、リトルバスターズのマスコット犬・能美クドリャフカであった。愛くるしいほどの大きな瞳をさらに広げ、目前の光景にびっくりしている。
 それはそうだろう。彼女がひそかに想いを寄せている相手の部屋に入ったら、男と抱き合っているのだから。それだけならばまだしも、男のほうは見るからにガン泣きしているのである。
「もっ、もしかしなくても私はお邪魔でしたかっ」
「いや別に邪魔にはなってないけど……そうだ、クドも手伝ってくれる?」
「なななななにを手伝うですか!?」
「なぐさめるのを」
「なぐしゃめ――!?」
 赤くなってわっふわっふしているクドリャフカに、理樹はこうなった経緯を説明する。
「実はかくかくしかじかというわけなんだ」
「はあ、まるまるうまうまだったのですか」
 壮大な勘違いをしていたことに気がついたクドリャフカの顔が、さっき以上に真っ赤になった。
 しかし次の瞬間には小首を傾げ、なにやら考えだしていた。
「そういうわけだから、クドも一緒に遊ぼう。今日は(21)祭りだ!」
「やべぇ……その名前だけでご飯3杯はいけるぜ……」
「ほら、恭介もノリノリだよ!」
「……そ、そのぉ……ひじょーに言いづらいのですが……」
 クドリャフカは、その小さな体を縮こまらせて、両手の人差し指をつんつんとつつき合わせている。
「そっか……ほかに用事があるなら仕方ないよ」
「いえ、リキたちと遊ぶのはやぶさかではないです! むしろ嬉しいです!
じゃなくて、年齢のことです」
「年齢の……?」
「はい。実は……というほどのことでもないのですが」
 言おうか言うまいか、顔を上げては下ろし、口を開いては閉じた。手は無意識なのか、マントのはじっこをいじっていた。
 そして。クドリャフカは意を決して話す。

「私、みなさんよりひとつ下なのです」

 ――理樹の脳裏に、電流走る!
 自ら犯していた……過ち…………それに気づく。
 ……冷や汗……圧倒的な冷や汗……!!
「か、隠していたわけではなくてですね、言う機会がなかったといいましょーか、いえむしろ前にリキには言っていますし、ですがほんのわんくりっく分のことですし覚えていないのもしょーがないです! のーじんじゃーです!」
 クドリャフカの言葉も耳に入らない。それほどまでの衝撃……やがて弾き出される、正しい答え。
「なんだ……? つまり、能美だけ(20)なのか?」
「違うよ、全然違うよ恭介! 前提条件から狂ってしまうんだ!」
 理樹は最初から話しだす。それは恭介に説明するというよりは、自分に言い聞かせるかのような声音だった。
「まず最初に、鈴たちを18と仮定した。だけど、クドは鈴たちの1コ下。このままだと、クドが17になっちゃう!」
「な……!? バカな! それじゃあソフ倫が許さない!」
「つまり、クドを基準に考えなきゃいけなかったんだ。鈴たちは19で、恭介は20!」
「わふー! 恭介さんは実は大人だったのですか! いっつ・あ・あだるとなのです〜!」
「ってことは俺はいま棗恭介(23)なのか」
「作者と同じ年齢だね」
「そして鈴たちは(22)……! くそっ、このうえ鈴たちにさえ、俺の夢はかなえられないのか」
 どさり、と自暴自棄に体を投げ出す恭介。
 しかし、理樹は首を横に振る。
「まだ希望はあるよ」
「他のクラスの奴らならまだ大丈夫、ってか?
ダメなんだ。リトルバスターズじゃないと意味ないんだ……!」
「聞いて恭介。いるんだ、僕たちのなかに」
「なに……?」
 理樹は、すっ、と体をどける。恭介にその姿を見せるために。
「能美クドリャフカ――クドリャフカ・アナトリエヴナ・ストルガツカヤ・(21)――僕たちの、最後の希望だよ」
 視線の先。そこには突然名を呼ばれ、びくぅっ、と飛び上がったクドリャフカ。
 驚愕の表情のままその姿に見入っていた恭介。やがて、その瞳からこぼれる、一筋の涙。
「そうか……おまえが……」
 まるですがるかのように伸ばされる手を、クドリャフカは反射的に取ってしまう。
「俺の(21)……だったんだな……」
 クドリャフカの手は、しっとりとしていて、なのにすべすべのぷにぷにだった。恭介がいつまでも触っていたいと願うほど。
「うっ、くはぁ!」
「わふ!? どーしましたか?」
「ふぅ……問題ない、ほぼイキかけただけだ」
「イキ……?」
「それより能美、ちょっとついてきてくれないか」
「どこにでしょう?」
「いいからいいから」
「えっと、ですが……」
「いいからいいから」
「はぁ、よくわかりませんが、わかりました」
 恭介はクドリャフカと手をつないだまま、扉のほうへと歩いていく。
 ドアノブに手をかけたところで、振り返らずに、
「理樹。ありがとう」
「僕はなにもしてないよ」
「俺がお礼を言いたいんだ。言わせてくれ。
俺は大切なものを失おうとしていたんだ。それを取り戻してくれたのは理樹……おまえなんだ」

 ――ありがとう――

 ――強く、なったな――

 恭介はドアノブを回し、ゆっくりと扉を開けた。
 前へ向かう。暗い箱のなかで、動かなくなるのを待つだけだったはずの、恭介とクドリャフカ(21)は。
 ――前に。光さすほうへ。





 ひとりきりになってしまった部屋で、大きく伸びをする。ひどくさわやかな気分だった。
 そしておもむろに、部屋のカーテンを開ける。
 空を見上げる。
 まるで泳げそうな、
 目にしみるような、
 どこまでも続くような、
 一面の灰色だった。


[No.434] 2009/10/09(Fri) 23:31:42
待ち合わせ (No.430への返信 / 1階層) - ひみつ@3551byte 

 謙吾の気合が体育館に響き渡る。彼の表情は面に隠れて見えないが、彼が発する殺気は観覧席にいる僕の動きも止める。竹刀で相手をけん制しながら、すり足で徐々に自分の間合いへと近づいてゆく。
 謙吾の叫びに呼応するように相手も叫び返す。しんと静まり返った体育館に反響しながら、謙吾を威嚇する。腹の底からの大声を聞いただけで、彼がどれほどの鍛錬を積んできたのか分かるようだ。
「なんてゆうか」
 さっきまで椅子に座っていた真人が僕の隣で二階から身を乗り出していた。来た当初はマーンマーンうるさいと文句を垂れていたが、今は真剣なまなざしで試合を見つめている。
「すげえな」
 小声で囁いた。決勝が始まった当初は割れんばかりの声援が選手を後押ししていたが、今はもう誰の応援も聞こえない。バチッ、バチッと二人の竹刀が弾きあう音がやけに耳に残る。
「すごいね」
 僕も小声で返す。実際、すごいとしかいいようがなかった。この誰もが祈るように、しかし絶対目を離さずに見届けているこの試合を、この空間を表現する言葉をしらない。だから、
「まったくすげえよな」
「うん、ものすごい」
 視線を階下から逸らさずに、すごいすごいと言い合う。やがて、すごいとすら言えなくなり、無言で謙吾を見守る。
「っ!いああああっ!」
 ふいに、相手方が動いた。地響きのような踏みこみとともに一本の鋭い刀となって謙吾の面を狙う。瞬間、謙吾の竹刀が受ける。バチィィンと竹刀が鳴き、鍔競り合いとなる。面がぶつかり殺気に深みが増す。謙吾が突き放される。バランスを崩しながらも踏みとどまった謙吾に相手の竹刀が振り下ろされる。半分当たりながらもかろうじて謙吾は防ぐ。審判の一人が白の旗を揚げるが、ほかの二人は厳しい顔で旗を振った。
「勝てるかな」
 急に不安になる。謙吾が負けるはずがないと信じたいが、相手の気力も相当なものだ。さっきの一撃は危なかった。いやなイメージが頭を離れない。
「勝つ」
「え?」
「勝つ。謙吾は勝つ。必ず勝つ、と書いて、謙吾だ」
「…うん、謙吾は絶対に勝つ」
 真人が伝えんとしていることは分かった。僕たちが信じなければ、誰が信じるというのだ。
 相手の攻撃は続く。面、小手、胴、逆胴、突き。奇声を上げ、謙吾に攻撃の暇を与えない。もう時間がない。このままでは判定で劣勢だった謙吾が負ける。たまらず僕は叫んだ。
「謙吾!!!」

 相手の刀が止まった。その機を見て、謙吾が突っ込む。しかし、それを待っていたのか、相手の竹刀は再び動き出す。自分へと突っ込んでくる謙吾の面めがけて突きを放つ。
「いやあああっ!!」
 僕は見た。謙吾は自分の竹刀を相手の一撃ごと右上へと逸らすのを。間一髪、突きは喉元を外れ、空を突く。相手が竹刀を戻すよりも先に謙吾が手首を返す。がら空きになった右腹へと、踏みこみ、気合と共に、

「マーーーーーーーーン!!!」

 抜胴一閃。相手の横をすり抜けて、振り返り、残心。終了のブザーが鳴る。審判団は皆赤い旗を上げた。
「一本!!」
 割れんばかりの拍手。その中で真人が俯きながら、
「マーンってなんなんだよ…」
 と呟くのが聞こえた

 その後、二階から飛び降りて激励に行こうとした真人をなだめているうちに、閉会式は済んだようだ。あちこちで後片付けが始まる中、賞状を手にした謙吾が近付いてくる。緊張と疲労が残っているのか顔色は悪いが、その表情は笑顔だ。
「見てくれたか」
「うん。おめでとう」
「真人も」
「ああ。やっぱお前は必殺謙吾だな」
「いやいやいや」
 意味不明な真人に突っ込みを入れながら、僕は謙吾の首筋を見た。いまだ消えない焼けた皮膚が見える。
「おっしゃ、じゃあ行くか」
「どこへ行くんだ?俺はこれから祝勝会があるんだが」
「あいつらのところに決まってんだろ。んなもん、サボっちまえ」
「…そうだな。行こう」
「おっし、競争だな。」
 言うが早いか真人は飛び出した。自分の靴に足を突っ込み、玄関へと走りだした。真人の足首にも火傷の跡がある。
「追いかける?」
「いや、止めておこう。今日は疲れた。場所が分かっているんだ。急ぐことは無い」
「そうだね。荷物とってくるよ」
 謙吾は汗を拭いながら応えた。
「ああ。焦ることは無いぞ。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいんだ。あいつらはずっと待ってくれている」


[No.435] 2009/10/09(Fri) 23:59:04
やべぇ、「アレ」置いてきた。 (No.430への返信 / 1階層) - ひみつ@18975byte

 朝起きたら僕の息子がなくなっていた。

 話を元に戻そう。朝起きて、今日も清々しい曇り空だなぁなんて思いながら体を起こした。真人はまだ寝ているからたぶんブリッジした後に寝たんだろう、昨日唸り声が聞こえてたし。
 体をぶるぶる震わせて、白い息を吐きながらトイレに向かう。何の変哲もないトイレのドアの前に立った。今日は何だか体が軽いなぁ(特に下半身が)とか思いながら。
 便器の前にって用を足そうとしてチャックに手をかける。その時にすでに明らかに何をどう考えても前方向の膨らみが少なかったが、寝ぼけていた僕はそんなことを気にせずにチャックを下ろした。
 そして僕の息子に手を伸ばす。悲劇の瞬間だった。自分の息子を持とうとして、あり得ないことに手が空振りした。あれ、おかしいなと思いながらもう一度掴んでみる。スカ。根性で地球に手がめり込む勢いで掴もうとしたけど、虚しくも手は空を切るだけだった。
 なんだ、何なんだ一体。
 個室なのでズボンを全開までおろしてみる。さらにパンツも下ろして、下半身素っ裸の状態になって自分の息子をまじまじと見る。長年付き合ってきた自分の相棒を。
 目にして愕然とした。
 ない。僕の相棒が。
 生まれた時からずっと一緒で、水泳の時とかちょっと大変なことになったり、授業の時とかむらむらしたとき抑えが利かないけど、でも夜のお供になったり、なにより男としてのプライドを保ってくれるぐらいの大きさの、僕の相棒。
「相棒おおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」
 トイレの中でつい叫んだ。ターザンなんか比にならないくらいの大声で。音量にすると200デシベルぐらいは悠にあったんじゃないだろうか。
いや、ちょっと待てよと冷静になって深呼吸してみる。うん、僕は大丈夫だ。もしかしたら幻覚じゃないだろうかともう一度確認してみる。
 やっぱりない。僕の相棒が元々ついていた場所には、女の子のピー(放送禁止)になっていた。真上から見下ろすとなんだか変な感じだ。絶対的に何もない。ちょっと便器に座ってかがんで見ることにした。
〜激、放送禁止〜
 エクスタシー。まさにその一言に尽きる。人生18年くらい生きてきたけどこんな幸せなことは初めてだ。男と女の二つを体験できるなんて。しみじみと便器に座ったままそう思った。
 もしかして、と思って上半身も素っ裸になってみた。すると案の定、ほんの少しだけど、ふくらみがあった。幸せとかそんな言葉で伝えるのは生ぬるいくらいくらい僕は有頂天の真っただ中にいた。
 トイレの中にいること数分。僕になぜこんな幸運が降りてきたのか考えた。いつも他人からお人好しと言われることは多々あるけど、神様がこんなことをしてくれるまですごいことをした覚えはない。神様がそんなことをしてくれると言ったら多分世界を救うヒーローぐらいのものだろう。
 悩んでも答えが出なかったので、とりあえず用を足すことにした。女の子がピーする方法くらいは心得ている…つもりだ。
〜微、放送禁止〜
 ふう、とりあえず第一関門クリア。トイレの水を流して服を着た。ズボンを履くときに僕のピーがピーに変わっていたのでいつもの苦しさはなかった。チャックがすんなりと閉まるって言うのはなかなか快感だなと思いながら感動に浸っていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
「理樹ぃ、まだかよぅ。もう漏れそうなんだよぅ」
 真人だ。そう言えば長いことトイレに居座っているような気がした。真人には悪いことをした。すぐに用意を済ませて真人にトイレを譲ってあげる。
 トイレのドアを開けると、もういまにも漏れます、だから腹とか殴ったらぶっ殺すぞこらぁという顔で真人が立っていた。率直に言うと、ものすごく怖い。しかめっ面なのに冷や汗をかいて両腕を腹に当ててもじもじしていた。
 しゅばばばと真人は一目散にトイレに駆け込んでいった。昨日何か悪いものでも食ったのだろうか。いや、たぶんブリッジしながら寝たからだと僕は推測する。
 不憫な真人と思いながら歩きだした瞬間だった。
「なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁああ!!相棒おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」
 負けた。300デシベルくらいの大音量が室内に響き渡る。壁が少し歪んで、歪曲空間を作り出していた。ちなみにもし300デシベルだったら僕の声の256倍のパワーがあるらしい。災害レベルだ。そんな声を聞きながら。僕は耳をふさぎながらそこに立ちつくしていた。血便でも出たのだろうか。
 ガチャっとドアが開く。ナメクジが進むようなスロースピードで。そこから出てきた真人は、全身全霊で哀愁を漂わせていた。どこかのボクサーか。頭にどよーんとした空気が渦巻いている。
「どうしたのさ真人」
「理樹……オレ旅に出てくる」
「どこへ?」
「青春」
 そう言って真人はベランダの壁に足をかけた。背中が何も聞くなと語っている。その背中のかっこよさにひるんでいる間に真人は旅立ってしまった。「I can fry!」と言ったのは言うまでもない。でも真人、それじゃあフライド真人の出来上がりだよ。
 そんなこんなで僕は少し貧乳の女の子になってしまったのだった。てへっ☆

「ってそんな終わり方があるかぁぁぁぁぁぁ!」
 恭介がドアをぶち破って部屋に突進してきた。きれいに一回転した後立ち上がろうとして勢いを殺しきれずそのままベランダの方へ飛んで行った。スポーン。今日はやけに人が飛ぶなぁ。などと感心していると恭介はものの数秒でベランダにに折り返ししていた。
「ナイスツッコミ、恭介。はいタオル」
「ああ、ありがとう。ってそんなてへっ☆なんて言ってる場合じゃねぇよっ!」
 ずべし、と僕の胸に恭介の右手が突っ込みをくらわす。リアル10cm、リアクション3mぐらいで後ろに吹っ飛んでみた。そのまま飛んで行って壁にぶつかった。痛い。
「緊急事態だ」
 恭介が体のほこりを払いながら言う。僕の部屋なのに(真人が旅に出た時点でこの部屋は僕の部屋なのだ)。
「どうしたの?」
「お前も気づいているだろう」
「まさか昨日恭介のプリン食べちゃったことがばれた!?」
「食ったの理樹かよ!楽しみにしてたのに!……まぁこんな茶番はどうでもいい。そろそろ本題に入ろう」
 恭介がごくりと唾をのむ。これは……壮大な何かで僕を笑わせてくれるに違いない!笑う態勢に入る。
「俺の……俺の相棒が……俺のピーがピーになっちまったんだよぉっ!」
「まさか恭介も……?」
「ああ、そうだ。俺のピーがピーになった上にしかもピーだぞ!?」
「すごいじゃない恭介!これでじっくり観察できるね!」
 僕の言葉に恭介が唖然としていた。けど僕は自信を持って言える。今の言動におかしいところは一つもないと思わないことを!
「理樹、お前はこのままでいいのか?」
 恭介がものすごく冷めた目で僕を見てくる。いままですごく熱くなっていた恭介がいきなり冷めたので、僕も何か白けた。
「え……もちろん」
「そうか……ならここでお別れだ」
「え?」
 そう言って恭介は部屋から出ていく。恭介の背中も物語っている。お前は来ちゃいけないと。けど恭介の背中を追わずにはいられなかった。
「いったい恭介のピーに何の不満があるのさ!」
 そこまで言って意識が不自然に途切れそうになる。またあの感覚だ。きょう……す…け。





 目が覚める。ふかふかのベッドで寝るのは最高だなと思いながら体を起こす。鈴の部屋で相部屋になっているボクは寝像の悪い鈴を起こさなきゃならない羽目に毎日あっている。目覚まし時計を見るとまだ時間があったので、先に鈴とボクの朝食を作ってしまう。そうしていると寝ぼけ眼の鈴がおいしい匂いにつられたのか起きてきた。
「あ、鈴起きた?」
「おきてにゃい……もう一回ねる」
 真冬なのに暖房がガンガンに効いているこの部屋では、起きるのが億劫という感覚を被ることはない。部屋の中心にはこたつがあって、暖房が効くまではそこで寝て過ごす。
 そんなこんなで四六時中ぽかぽか陽気なので、眠くなるのもわかる。けどそんなことをしていると学校に遅れてしまう。ボクはベッドに戻る鈴を無理やりこたつに座らせて、朝食を食べることにした。
「いただきます」
「いただきまふ…」
おぼつかない手の動きで鈴がもぐもぐとサンドウィッチを食べ始める。さっき作ったサラダとツナの入ったサンドウィッチ。目が明らかに寝ている鈴がそれをもぐもぐと食べている。うっかり落とさないかと心配になりながら自分のサンドウィッチを食べ始める。
 もぐもぐと二人して食べていると、携帯のアラームがピローリローと鳴った。これが鳴るということは、もう出発の時間だということだ。音にびっくりしたのか、鈴がサンドウィッチを落とす。案の定ツナがこぼれた。
「もうこんな時間か。急がないと授業遅れるね」
「いや、むしろこのまま学校に行かないという手も……」
「ないから。それに床がツナでぐちゃぐちゃになってるからそれも片づけていかないといけないから」
 二人して床に散らばったツナを片付ける。鈴は無愛想な顔でツナをいじっていた。いつも猫にあげるのはモンペチだが、たまにはこういうのもあげるみたいだ。つまんで名残惜しそうに生ごみの袋にプッシュしていた。
 ぞうきんがけも終わると、いよいよ時間がなくなってきた。携帯のアラームが「ピローリロー」から「デデンデンデデン!」というなんとも切羽詰まった音を奏で始めた。
「わわ、早く着替えよう」
 二人してクローゼットのなかに入れてある制服に手をかける。いつも見慣れた冬に着るには多少寒い女子用の制服。ボクと鈴は今着ているパジャマを脱いで下着姿になる。そうして上着を着始める。
 しかしこうして鈴とボクの胸を眺めているとなんかいたたまれない気持ちになる。でもかといって来ヶ谷さんくらい欲しいとも思わない。胸が大きいと肩こりがひどいとか聞いたことあるし。実際来ヶ谷さんもたまにボクに「理樹くんはこの気持ちが分からないだろう、はっはっは」と言ってくる。その横で西園さんが「それは私に対しての挑戦状とみてよろしいんでしょうか」というような顔で来ヶ谷さんを睨んでいた。
「なんだ理樹、よっきゅうふまんか?」
「いや別にそんなことないけどさ。人間って不思議だなと」
 鈴はふーんと言ってスカートを履く。この冬の時期にスカートはつらい。授業中は上に何かかけてもいいことになっているが、登校する時はどうしようもない。せいぜいニーソックス履いて我慢するくらいだ。でもボクと鈴はひざに若干届かないぐらいの普通のソックスを履いた。ボク的にニーソックスは背が高くないと似合わないイメージがあると位置付けているから履かない。来ヶ谷さんとか葉留佳さんを見てればなんとなくわかる。
 最後に靴を履いて、こう言う。
「じゃ行ってきます」
「うん行ってきます」
 今日もいつもの日常が始まる。

「おはよう恭介」
「ああ、おはよう」
「今日も寒いのによく平気だな馬鹿姉貴」
「ひどいなその呼び方。これでも人並みには寒がっているつもりだけど?」
 そう言って俗にいう「寒ーい」のリアクションをとってみせる。恭介も来ヶ谷さんとどっこいどっこいの巨乳なので、腕のあたりに胸がむにゅーと乗る。
「見せつけてるのか!」
 うきーとむきになって鈴がおっぱいを揉む。形のいい胸が鈴の手の形に変形する。恭介も恭介で「好きなだけ揉むといい。ただし一回ごとに百円没収」と言っている。「そんなもの払うか、ばーか!」と鈴は返しているのだが。
「見せつけてくれるな恭介氏」
 いつの間にかおっぱい揉み大会に来ヶ谷さんが参加していた。鈴が右おっぱい、来ヶ谷さんが左おっぱいを揉んでいた。相変わらず情報収集の早い人だ。
「来ヶ谷は自分の胸があるからいいだろ。私は胸も何もない哀れな妹に巨乳の素晴らしさをだな……」
「いやいや恭介氏、巨乳であることは必ずしもメリットとは限らないぞ。ほら、たとえば鈴くんのような貧乳でもこのように私を楽しませることができる」
 そう言って今度は鈴の胸を揉もうと手をわきわきさせてくる。
「こっちくんな変態!」
 鈴はファイティングポーズをとって来ヶ谷と対峙する。来ヶ谷さんは人差し指を唇の下に添えて、「あぁ、可愛い。これだから鈴くんはたまらん」と表情を崩している。
「女子高ゆえの禁断の花園を見ちまった気がするぜ……」
 そうこぼしているのは、僕の後ろからにゅっとあらわれた真人。肩でそろえたその髪の毛はボクの目を掠めている。傍から見てもこの娘はスポーツをやってるなとわかるような体型だ。前腹筋が割れているのを見せてもらったが、あれはすごかった。男子なら割れててもおかしくないが、女子はこうはいかない。
「真人、おはよう」
「ん?ああ、おはよう。にしても朝からこいつらは何なんだよ。公然と乳揉んでていいのかよ。ちんれつぶつわいせつ罪で訴えられるぞ」
「そこは言わないであげようよ……。あと真人が言ってることやろうとする人なんて多分世界中に一人ぐらいしかいないよ」
「ありがとよ」
 陳列物を猥褻……。なんだろう。並んでる本とか見てはぁはぁ言ってたら捕まるのだろうか。それとももしかして擬人化か!真人に寒気が走る。
「まったくお前たちは……。公衆の面前だぞ、いい加減にしろ」
 そう言ってさらにその後ろからやってきた謙吾に諭され、仕方なく鈴と来ヶ谷さんは恭介のおっぱいから手を離す。謙吾は腰まで伸びたストレートの髪をたなびかせている。いつも邪魔じゃないかと思うのだが、本人曰く「趣味」らしい。剣道やってた頃は肩までしかなかったからそういう思考に目覚めたのだろう。
「では謙吾くんがおねーさんの性欲を満たしてくれるのかな?」
 そう言って今度は謙吾の胸を見る。手をわきわきさせながら。謙吾はどこからか持ち出してきた竹刀を八双の構えで静止したまま来ヶ谷さんと対峙する。
「お前にくれてやる胸なぞ一つもない」
「いけずだな謙吾くん。折角顔立ちがきれいなのに勿体無いぞ」
 プイっとそっぽ向いてすねた表情を見せる来ヶ谷さん。それにどこか艶めかしいオーラを纏っているように見えるのは気のせいだろうか。そういえば来ヶ谷さんの靴箱にはラブレターが絶えないという話を噂に聞いたことがある。
「百合だな」
「え!?」
「いやどうということはない、ただの読心術だ」
 ふふふ、と不敵な笑みを浮かべながら来ヶ谷さんは去って行った。ていうか何なんだあの人、恭介のおっぱいを揉みに来ただけなのか。遠くで「姉御おはよー、今日もフェロモン全開ですネ」と言って葉留佳さんがたたたと走ってくるのが見えた
「おはようございます」
「あ、クドおはよう」
「えと、あの、この騒ぎは何なのですか?」
「え!?」
 気がつくと周りには人だかりでいっぱいだった。そりゃこの学校の二大巨塔がおっぱいなんか揉んでたらこうなるに決まってる。しかも張本人の恭介はいつのまにか消えていた。ボク達は仕方なく教室に逃げることにした。
「西園さんおはよう」
「おはようございます西園さん」
「おはようございます」
 軽く会釈をして西園さんが挨拶をした。
「……」
「どうしたの?」
「女子高というのは美しいなと、今朝ふとそう思いました」
「あーあれね……。でもあれはなんていうか挨拶みたいなものだからそれとは違うと思うけど」
「挨拶であんなことまでするんですか!?……来ヶ谷さんと恭介さんはこの学校でも異質の存在であることを理解した方がいいと思います」
「多分知っててやってるんだと思うけど」
「……!?」
〜〜妄想中〜〜
来ヶ谷「恭介氏、私と快楽に溺れてみないか?」
恭介「望むところだ」
来ヶ谷「ふふふ、恭介氏は貪欲だな」
恭介「そんなことはないさ。来ヶ谷に比べたら私なんか万分の一にも満たない」
来ヶ谷「果たしてそうかな。人間というものは存外恐ろしい動物だぞ。あと来ヶ谷と呼ぶな、唯湖と呼べ」
恭介「唯湖……」
来ヶ谷「恭介……」
理樹「ズバァァァァンンドンガラガッシャァァァン!」
〜〜妄想終了〜〜
「はっ!私は一体何を」
「気にしないで。何かあってもボクが連れ戻すから」
 西園さんの目が明らかにフィーバーしてたので、ボクはチョップを喰らわすと共に耳元で声にならない声で叫んであげた。なに、こんなことは日常茶飯事だ。
「一瞬花園が見えたのは気のせいだったのでしょうか。……いえなんでもありません」
 では、と言って西園さんは自分の席に戻って行った。少し顔が赤いのは気のせいだろうか。
 ボク達もいつもの席に着く。席について暇があったので窓の外を凝視してみた。抜けるような晴天。そういえば今日は体育があるから汗かくのはいやだな、なんて思っていると教師が入ってきた。朝のホームルームの始まりだ。

 四時間目。体育の時間。ボク達はクラスの中でおもむろに服を脱ぎ始める。前の時間が移動教室だったため、割とみんなぱぱっと着替える。ボクも遅れないようにと急いで着替える。
「鈴くんはまだスポーツブラなのか。いい加減一歩前へ足を踏み出してみたらどうだ」
 鈴が来ヶ谷さんに絡まれていた。あの人はあの人で惜しげもなく自分の胸をさらしている。ブラはつけているが。
「お前みたいに脂肪の塊があるわけじゃないんじゃ、ぼけー」
 慣れたように鈴が来ヶ谷さんを追い払う。つまらなそうに来ヶ谷さんがボクと西園さんを交互にガン見してくる。だが残念ながらどちらも着替え終わっていた。次の時間までのタイムリミットが迫っているので、急いでグラウンドへ向かった。
 朝と違って今は曇り空が広がっていた。東の空にうっすらと晴れ間が見えるだけで後は厚い雲に覆われている。これはもう少ししたら雨が降ってくるかもしれない。
 やや涼しくなった校庭で体育は行われた。みんなで校庭に整列する。
「今日は前から言ってあったとおり体力テストをします」
 そうだった。前回水泳が終わった後に教師がそう言っていた。同じように忘れていただろう生徒がブーイングする。まぁ規定事項は何をやっても替えることはできないのだが。
 種目は持久走だった。校庭に引かれた白線の円の上を四周、距離にして約一キロの長さのタイムを計ることになる。ボクは走る前からすでに憂鬱だった。走ってしまえばその後はポンポンと事が進むのだが、それまでに感じるこの緊張感がたまらない。心臓が高鳴って口から出してしまいそうな気分だ。
「じゃあ行くぞ。位置について、よーい……どん!」
 体育教師がストップウォッチを押す。それと同時にみんな一斉にスタートした。
 走り始めというのは早いもので、みんなスピードがダンチで速い。気がつけばボクは先頭と半周も離されていた。ちなみにトップは来ヶ谷さんだ。
 ボクがぜぇぜぇ言いながら一周ぐらい走った時だった。ぽつん、と鼻の頭に一粒の雨が落ちてきた。
 一粒の雨はやがて大量の雨粒を呼び、いつしか頭を打ち付けるほどの豪雨と化していた。
 持久走にストップがかかり、体育は中止になり、ボクたちは着替えるために教室に戻ってきていた。
「散々だったな理樹くん」
 来ヶ谷さんが頭を拭きながら話しかけてきた。誰にでも言えることなのだが、雨に打ちつけられた体操服はすけすけになっていて、外部から中身の様子を守るという意味を果たさなくなっていた。その上雨を吸った体操服が体にぴったりくっつき、その妖艶な体系を露わにしていた。来ヶ谷さんはフェロモンが並ではない。スーパーエロいとでも言うのだろうか、胸の形がくっきりと出ている。なおかつその引き締まったウエストはボクとは別次元の女神を思わせた。
「そうだね。来ヶ谷さんも早く着替えた方がいいよ、風邪ひくし」
「何を言っているんだ理樹くんは。こんな肢体を露わにしている情景を私が何もせずにいるとでも?」
「だとしても来ヶ谷さんが自分の体をさらけ出して何かメリットがあるわけでもないでしょ」
「世の中ギブアンドテイクなのだよ理樹くん。私がこの情景を堪能する代わりに、私は自分の肢体をクラスのみんなに公開しているわけなのだよ」
 はぁはぁといいながら力説する来ヶ谷さん。なんとも迫力というか説得力に欠ける。
「君たちのような貧乳女子諸君に見せつけるためでもあるがな、はっはっは」
 ぽよんぽよんと来ヶ谷さんのおっぱいが揺れる。ぽよんぽよん。クラスのみんなから羨望と怨恨の視線が集まる。このクラスはなぜか貧乳率が高く、真人や鈴や西園さんは自分のおっぱいの大きさを再確認してため息をついていた。
 謙吾はこのクラスの中でも大きい方で、来ヶ谷さんには見向きもせずもくもくと胴着に着替えていた。そういえば胴着の下には何も履かないという説があるが、謙吾はどうなのだろうか。すごい気になる。
 そうこうしているうちに髪の毛も大体乾いて(鈴や来ヶ谷さんなどは髪が長くて乾ききらなかったようだが)クラスのみんなは残った時間を雑談に費やしていた。ざわざわと騒音がひしめきあう中、ボクだけはうつらうつらと睡魔に襲われていた。

 放課後。土砂降りになった雨は止まず、より激しさを増していた。もちろんみんなでやっている野球は中止、各自トレーニングという名目で実質は解散ということになった。
 当然ボクと鈴は傘を持っていない。朝があわただしかったうえに晴天だったので雨が降るとは思っていなかったのだ。
「止まないな……」
「そうだね……」
 天を仰ぎながらはぁとため息をつく。どうやら夕立のようなものではなく、本降りのようだ。沖縄で台風の中継をしている人はこんな中がんばっているんだなぁと感慨にふける。
「理樹、いこう」
「玉砕覚悟だね」
 昇降口で立ち尽くしていたボクたちは、覚悟をきめて寮まで走りぬくことにした。
「よしっ、せーのっ!」
「「うりゃーーーーーーーーーーーー!」」
 豪雨の中駆け出していく二人。雨粒に打ち抜かれながら寮までの道を走っていく。その後ろからはそれぞれ傘を一本づつ持っている恭介、真人、謙吾が迫ってきていたのだが、それはまた別の話。

「濡れたな、派手に」
「びちゃびちゃだね……」
 寮まで帰ってこれたはいいものの、制服が水分を吸って重くなっていた。あまつさえ夏服だ。いろいろと中身が透けている。スカートもびしょびしょで、時折肌に張り付く感触が最悪だ。端っこをつまんで絞ってみると、案の定水が滴った。鈴も同じらしい。
 部屋に入るなり服を着替える。だが水分を吸った服というのはなかなか脱ぎにくい。
「理樹、んっ」
 鈴がイライラの限界に達したのか、ボクに上着を脱がすように両手を突き出して促してきた。ボクはボタンをはずし、裾をつまんで一気に服を引き抜く。
「じゃあボクも、んっ」
「んっ」
 鈴がボクの服を脱がせにかかる。ボタンをはずし、服を引き抜こうとする。しかし鈴の脱がし方が悪かったのかはたまた僕の体系が悪かったのか、途中でつっかてしまい、僕が押し倒すような形でベッドに倒れこんだ。
 鈴が申し訳なさそうに顔を横に向けていると、寒さに体を震わせた。
「寒いの?」
「ああ、寒いな」
「じゃあ暖めてあげるよ」
 そう言ってボクは鈴のおっぱいに顔を近づける。何をしようとしているのか分かった鈴は少しだけ身じろぎしてこう言った。
「い、一回だけだからな」
 
 今日もいつもの日常が終わる。


[No.436] 2009/10/10(Sat) 00:00:05
生きてく強さ (No.430への返信 / 1階層) - ひみつ@12330byte

〜クドリャフカ〜

 生きることは死ぬことよりも辛いことを知った。
 日本に来るまで、私は周りに罵倒され続けてきた。両親のこともあるが、基本的には私の能力に低さにあきられた。
 私は悪くない。そう言い聞かせて頑張った。たとえ他の子が私よりもどれだけ優れていようと、何を言われても、それは両親のせいだという思いが私を日々支配していた。
 両親も私にあきれていると思った。私のお父さんとお母さんは宇宙について権威で、この国をより良い方向に導いてくれていた。
 私はそんな両親と比べられて育った。精神的にも肉体的にも幼い私はそれに対して何も言い返せずに、ただ笑ってごまかした。私の唯一のとりえは「笑うこと」だから。
 でも限界がきて、私は逃げるように日本へと旅立った。両親から背を向け、現実から背を向け、自分自身にさえ背を向けた。すべてに対して嫌気がさした。
 祖父が日本に精通していたので、私もその影響を受けて育った。
 日本での生活は楽しかった。クラスで私は比べられることなく楽しく過ごした。理樹たちと一緒に遊ぶことができて楽しかった。ここでの生活は向こうの生活と比べたら雲泥の差だった。
 でもふとなぜ私は英語をアピールし始めたのだろうと思った。
 初めは気づかなかったが、徐々にそれは自分という確立した存在を強調するためだと気づいた。
 向こうでの学校は楽しくなかった。日々勉学に勤しむだけ。愉快さとは全くの無縁だった。だがこちらでは仲間がいる。その安心感が私をさらに追い込んでいった。
 ニュースを見たあの時、私は大事なことを忘れていたことを後悔した。日本を旅立って捕えられてからもその考えが頭の中を回り続けた。
 でも理樹は教えてくれた。私は私だと。他の何にも左右されることのない、確固たる存在なのだと。
 私は勇気をもってこの運命という名の鎖を、打ち砕く。
 
〜神北小毬〜
 
 生きることは何かを失うことだと悟った。
 幼いころにお兄ちゃんを亡くしてから、私は変わってしまった。お兄ちゃんのことに蓋をし、鍵をかけて心の奥底に深くしまいこんだ。
 蓋がはがれそうになることもあった。今だからこそわかるけど、あれはただのわがままが起こした行動だ。
 時々お兄ちゃんが夢に出てくることがあった。私はそれすら幻想だと思いこみ、蓋から零れ落ちた真実を偽って毎日生きた。
 溢れた滴が私の心を満たすと、私はそれらを零すために心の殻を壊した。
 壊れてから決まって私はお兄ちゃんを探す。これもわがままでしかない。「お兄ちゃんはいなかった」という事実から「お兄ちゃんは生きている」という記憶のすり替えだ。
 理樹くんをお兄ちゃんと決めてから、私は理樹くんにお兄ちゃんとして接してきた。理樹くんは私がお兄ちゃんと呼ぶたびに悲しい目をして僕はお兄ちゃんじゃないと言い聞かせた。
 殻が壊れた私には何も届かない。そう知っていた私は、理樹くんをお兄ちゃんと呼ぶことを止めなかった。というよりもそれについての自覚すら消え失せていた。
 けど理樹くんが私に気づかせてくれた日、私の悲しみという蓋は音もなく消え去った。
 たった一人しかいない私のお兄ちゃん。もう天国へ旅立ってしまった大切な、お兄ちゃん。
 私の前に開けて見えた真実は残酷なものであると同時に、私にとってとても大切な、かけがえのない「なにか」を気づかせてくれた。
 理樹くんはこんな私のために願ってくれた。一生懸命頑張ってくれた。そして気づかせてくれた。だから私も理樹くんにとってお願いをする。理樹くんに「なにか」を気づかせるための願いごとを。
 私は流れ星に願いをかけながら、消えゆく世界に別れを告げた。
 
〜三枝葉留佳〜

 生きることは時として残酷だと気づいた。
 たとえ食事がなくても、寝るところがなくても、寒さに震えても、私は約束さえ覚えていればそれだけで幸せだった。
 あの時、私が約束を疑わなければと今になって何度も思う。
 髪飾りを渡してくれたあの日から、お姉ちゃんが私に厳しく当たるようになったとしても、私はそれに姉妹の絆というものを再確認していた。
 だからお山の人から私が裏切られたと告げられた時、私の中にあった「なにか」が音を立てて脆くも崩れ去った。何度も髪飾りを捨てようと思った。絆そのものであったはずの髪飾りは、いつしか絆を壊すための道具と化していた。
 でも恨みながら、悔みながら、私はいまだに首飾りをつけていた。
 きっと私の心のどこかではお姉ちゃんに裏切られたなんて嘘だという意識があったのかもしれないと今になって思う。
 恨むことをやめてから、私は自分に素直になることができた。
 お姉ちゃんって呼びたい。お姉ちゃんと話したい。お姉ちゃんともっと触れ合いたい。
 叶わない願いと知っていた。約束を勝手に破って勝手に戻して。しかも約束がまだ二人を縛り付けていた。
 それでもお姉ちゃんはお姉ちゃんのままだった。私のわがままにも付き合ってくれた。何より、お姉ちゃんは私のことを好きなままでいてくれた。
 私は過去の自分と別れを告げ、親愛なるお姉ちゃんと握手を交わす。
 
〜来ヶ谷唯湖〜

 生きることは無くすことだと思った。
 昔から「私」が「人」だと言うことを疑いながら育った。
 周りの子とは異質な存在。自分は本当に人間なのだろうか。そんな考えが度々私の心を締め付けた。
 勉強ができても嬉しくなかった。むしろ勉強が出来過ぎてしまうことがより一層私を人から遠ざけた。
 高校に入って嫌がらせに会うようになった。大方何でもできてしまう私のことを妬ましく思った生徒が腹いせにやったのだろう。私は素知らぬ顔で無視を決め込んだ。だって私に感情はないのだから。
 二年生になってからも無視した。しかし、未だ感情というものがよく分からない私にとって、それは心苦しく、徐々に心の奥深くに蓄積していった。
 でも私にも感情というものはあったらしい。一度感情が爆発した。
 仲間のためを思う心が私にもあると自覚できた日だった。あそこまで感情の高ぶりを覚えたのは初めてだった。
 薔薇を咲かせていた私の心は、いつしか向日葵のような光に面と向かえる花を咲かせていた。
 自分と向き合えた瞬間だった。表面上取り繕ってきた私は、柄にもなく寮に帰ってから涙をこぼしていた。
 しかし、このことに気づけた代償はあまりにも私にとって残酷なものだった。感情に気づいてしまった私が、感情を記憶できないなんて。
 ぼんやりと窓の外を眺めながら、こうして理樹くんと私は何もなかったことになるのかと考えた。
 胸が苦しかった。理樹くんに全てぶちまけてしまいたかった。でも、私はそれすらも忘れてしまっていた。
 無くしてしまうのが怖かった。思い出を、感情を。何より、理樹くんを。
 
 何かを無くしたのは覚えている。だが、何を無くしてしまったのかが思い出せない。とても大事だったはずの、何か。気がつくと私の手は放送室のピアノに向かっていた。
 私はいつ誰に向けたとも覚えていない奇想曲を再度、奏でる。
 
〜西園美魚〜

 生きることは幻想だと思うことすら忘れた。
 私の大切な妹である美鳥を忘れてからどれくらいの月日が経っただろうか。私は何事もなかったかのように生きていた。
 あっさりと霧を払うかのように消えてしまった美鳥。しかしその微量ながらに残った水は、消えることなくひっそりと私の心の中に潜み続けていた。
 美鳥を思い出したあの日、私は謝らずにはいられなかった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。でも美鳥に面と向かって言うこともできなかった。
 浜で二人残されたあの日、私はずっとあの詩を思い出していた。
 「白鳥やかなしからずや空の青海の青にも染まず漂う」
 自分で言ってて悲しかった。美鳥を忘れたこの私がこんな詩を読むなんて。みんなと遊びたかった白鳥は、私のために孤独にならざるを得なかったというのに。
 幻想を現実に、現実を幻想に。そう思ったのはいつからだろうか。私は美鳥の代わりに空と海を漂い続けた。
 どこまでも尽きることのない青。その中に一人佇む絶対の白。
 どこまで行っても私は孤独で、誰とも出会わない。私以外のなにもかもが全て違っていた。
 美鳥が生きてきた世界。あるのはただの孤独。でも私と美鳥とでは違いすぎる。美鳥はこの孤独の中を悠然と舞っているが、私は仲間を求めてさまようだけだった。悲しみで満ちていた。
 でも美鳥は許してくれた。こんな私でも。自ら孤独の中に帰っていく美鳥に、私は感謝と決別とを込めて別れを告げた。
 私は本を片手に、遠い幻想の彼方を回想する。
 
〜笹瀬川佐々美〜

 生きることは支えあうことだと信じた。
 人以外の動物は自分で自分を殺すことはしないとニュースで聞いたことがある。
 その時人は勝手な動物だと思った。親からもらった命を放棄する権利が自分にあるなんてなんて無責任なんだろうと思った。
 でも、それは私が一番言えることなのだ。
 勝手に命を拾ってきて、自分の都合のためにその命を勝手に置き去りにした。
 あの日泣きじゃくりながら、私は自分勝手にあの子のことを忘れようと考えてしまった。でも、自分勝手な私は忘れることができずに、心の奥底にその出来事を焼きつけた。
 あれからずいぶん経った今でもその後は残り続けている。でも猫が長命だとはいえ、今日まで今日まで生きているだろうなどとは思っていなかった。
 その分こうやって会えたのは奇跡だと思った。神様がいるのなら、今日この奇跡はそのおかげだろう。
 人は一人では生きてはいけない。ともに支えあい、助け合うことで生かされているのだとそう気付かされた。
 私はクロに抱きながらありがとうとさよならを言って、散りゆく幻想に別れを告げる。
 
〜二木佳奈多〜

 生きることは時として残酷だと気づいた。
 実の妹のためにと思って託した髪飾り。それが後に二人の絆を引き裂くと知っていたら私は躊躇わずにどぶの中にでも捨てただろう。
 信じ続けることの困難さ。私は身をもって体感した。
 いつでも私は葉留佳に勝ち続けた。それが二人の約束を守り続ける唯一の方法だと知っていたから。
 葉留佳はそう思ってなくても。たとえそれが自分勝手なルールでも。私は遵守し続けた。
 この時決めたこの自分勝手なルールがより一層葉留佳を傷つけると知りながらも。私は葉留佳に恨まれていると分かっていたが、それでもより一層厳しく接した。
 私は心のどこかで葉留佳が信じていてくれることを願っていたのかもしれない。葉留佳と顔を合わせるたび毎回そんなことを思った。
 理樹くんのおかげで今こうして姉妹仲良く笑っていられるのが奇跡だと思う。
 苦しかったあの日から考えると、私たちは想像もできないような幸せに囲まれている。
 私たちの髪飾りは姉妹である証。そう確認できたのは一度すべてが崩れてからだというのがなんとも滑稽な話だ。
 私は過去の自分と別れを告げ、親愛なる妹と握手を交わす。
 
〜朱鷺戸沙耶〜
 
 生きることは死ぬことだと感じた。
 私がいるところには生と死が溢れていた。銃弾が飛び交う戦場。私と父さんも生と死の真っただ中にいた。
 転々と戦場を回った。どの戦場も同じだった。絶望の闇に呑まれた戦地。その中で光っている銃を持って戦う子供の眼。いつ呑まれるとも分からないその光は戦場において唯一光を灯していた。
 酸素を求めて水面を目指す金魚のように。殺されると決まっていてなお且つ死に抗う飼いならされた牛のように。
 私は分からなかった。戦場で救った人々は生きるために死地に赴く。わざわざ死にに銃を持って戦うのだ。
 救った命。この時まだその重みを私は知らずに生きていた。
 けど知ってしまった。この事故をもって気づいてしまった。私は喉が壊れ、皮膚がちぎれ、手足がもげ、血を吐こうとも大声で叫んだ。
 助けて、と。
 初めて生きたいと思った。戦場に赴く患者の眼の中にある光の意味がわかる気がした。恐らくこの時私の眼にも生への渇望という名の光が浮かんでいたことだろう。
 それからどれくらいが経っただろう。いつの間にか私は「あや」から「沙耶」になっていた。
 この世界での冒険は楽しかった。理樹くんと一緒にたくさん旅した。地下迷宮を何度も攻略した。
 だけど気づいてしまった。この世界で何度も死を体験して悟った。ここは私のいる世界じゃない。私のいる世界はもっと生に充ち溢れた世界であると。
 理樹くんとのお別れはさびしかったけど、もう時間だ。
 私は生きるために、自分の頭に向けて銃の引き金を引く。

〜棗鈴〜

 生きることは信じることだと分かった。
 私が助けるために学校去ったあの日、隠すことも何もないが不安でいっぱいだった。
 背中を押してくれた理樹に直接さよならも言えず、独りよがりなまま私は出発した。
 新しく見えた学校は前の学校とは全然違った。前の学校は笑いがあった。私が笑っていてもなにも違和感なく日常が流れて行った。それが普通であるかのように。
 この学校は違った。どす黒い雰囲気が教室を支配し、私は笑うことすら許されなかった。加えて誰とも話すことができず、授業が終わったら真っ先に寮に逃げ帰っていた。私が何のためにここに来たかも忘れて。
 理樹に何回もメールを送った。頑張れとしか返ってこなかったが、私はぎりぎりそのおかげで少し自分を保つことができた。でもそんなやせ我慢にも限界が来てしまった。
 理樹が逃げようとメールを送ってきた時、私はそれにすがった。いつの間にか救う側と救われる側が反対になっていることに気付かないまま、私はその甘い誘いに乗ってしまった。
 結果、私は壊れてしまった。いや、むしろ私は自ら壊れに行ったのかもしれない。これから襲いかかるであろう過酷な現実に背を向けたまま。
 理樹がいなかったらと思うとぞっとする。人間は一人では生きていけないということをこの時に知った。
 リトルバスターズを結成した時、理樹がいるなら何でもできると思った。
 実際その後真人と謙吾と兄貴も仲間になって、いつもどおりの日常が戻ったと思った。
 でも、実際はこの時のリトルバスターズも「解散」するために「結成」されたのではないかと思った。世界が壊れかけている時、理樹に手を引かれている時、そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えた。
 そのあと私たちを待っていたのは過酷な現実だった。バスは倒れ、血を流すクラスメート。最初は冗談じゃないかと思った。こんな世界より元いた世界の方がましだと思った。
 一度背を向けた世界。でも、この時も理樹は手を引いてくれた。私は嬉しかった。現実に戻っても理樹は理樹のままなんだなと思った。
 どんな時でも、どんな過酷にも立ち向かって、今でも手を引いてくれる理樹にこう誓う。
 『ひとりが辛いからふたつの手をつないだ。ふたりじゃ寂しいから輪になって手をつないだ。きっとそれが幾千の力にもなりどんな夢も断てる気がするんだ』
 私は逃げないためにみんなと手をつなぎ、どんな困難にも立ち向かっていく。


[No.437] 2009/10/10(Sat) 00:02:24
[削除] (No.430への返信 / 1階層) -

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[No.438] 2009/10/10(Sat) 00:24:23
恋と魔法と色欲モノ。2 (No.430への返信 / 1階層) - 期待に応えて@5187 byte

 《あらスジ》
 来ヶ谷さんのおまじないによって、変態になってしまった小毬さん。
 なんとかおまじないを解いて、ほっと一息ついた僕だったけど……。
 安心しきって寝転んだところに、鈴がまたがってきちゃった!

 みんな大好き、変態コメディの第2Rが開幕!
 ――理性と情熱の間で萌えたぎれ!!




「理樹、あたしと子作りしろ」
「鈴が壊れたー!!!!」
「なにを言ってるんだ? あたしは正気に子作りしたい」
「子作りとかいってる時点で正気じゃないから!」
「理樹、あたしとまぐわえ」
「言い方の問題じゃないから! って言うかそんな言葉誰から聞いたの!? どうせ来ヶ谷さんだろうけど!」
「クドだ」
「予想ガーイ!!」

 これはやっぱりアレだよね、小毬さんにかかってたおまじないだよね!?
 いったい何人にかけたのさ来ヶ谷さん!

「鈴、『オッパイイッパイボクゲンキ!』って言って!」
「なんだ、そんなにおっぱいがすきか。『おっぱいいっぱいぼくげんき』……よし、いったぞ(プチプチ)」
「あれ、元に戻らない!? わあぁボタン外さないで! ワイシャツ広げたら見え……ない? ってスク水!? 制服の下にスク水!?」
「ちなみに制服→しましまぱんつ→スク水→ばんそうこうのじゅんばんでぬぐぞ」
「なんで無駄に着込んでるの!? それとわざわざ『しましま』に言及しなくていいから! そもそも『ばんそうこうを脱ぐ』って表現がおかしいから!!」

 ツッコミどころが多すぎる!
 というか、合言葉を言わせたはずなのに、元に戻らないのはどうして??

「んふふ……理樹♪(ぺろり)」
「ふひゃっ!? りりり鈴、首筋舐めないで!」
「じゃあこっちだな(かぷかぷ)」
「耳噛むのもダメぇ!」

 とろんとした目、わずかに上気したほほ、ちろりと顔を出す舌。
 鈴は獲物をいたぶる猫のように、少しずつ少しずつちょっかいを出してくる。
 そのちょっかいが、とうとう僕の服にまで及ぶ。これ以上はさすがにまずい。
 少し手荒になるけど、馬乗り状態の鈴を跳ね飛ばす!

「ごめん、鈴っ!! ……あれ? びくともしない?」

 必死になって体をゆする。鈴の体は揺れるものの、僕の上からはどけられない。
 よほどうまく体重をかけているのか、それとも野球で鍛えている結果なのか。

「えいっ! やっ! この!」
「にゃっ!? うにゃぁ! あぅっ! ふあぁっ!」
「な、悩ましげな声をあげないでよ! (←揺さぶり停止)」
「理樹は激しいのがすきなんだな……すてき☆」
「こ、こんなの鈴じゃない! くりゅヶ谷さん、来ヶ谷さん! 助けて来ヶ谷さーん!!」
「うみゅぅ……理樹はおっぱいはおっぱいでも、おっきいおっぱいがすきなのか?」
「だからなんで鈴も小毬さんも、来ヶ谷さんとおっぱいをイコールで結びたがるのかなぁ!?」
「おっぱいはもまれると、おっきくなるらしい」
「いや、多分それ迷信だから」
「かもん! (←ばんざい)」
「いやいやいや、カモンじゃないから!」
「ぷりーず!」
「では、わたくしが……(ふにふに)」
「え、誰!? 鈴のおっぱいを後ろから揉みしだいてる人!?」

 後ろからのびた白い手が二本、鈴のひそかな胸の丘をやさしく包みこんでいる。
 ねこしっぽのようなポニーテールの向こうに、ねこみみのようなツーテールがあった。

「なんだささみか。いま理樹との子作りにいそがしいんだ。あとにしろ」
「ではわたくしは、直枝さんと子作りなさってる棗さんと子作りいたしますわ」
「ん。ならおっけーだ」
「なにが!? 鈴はいまの笹瀬川さんのセリフのどこに納得したの!?」

 って言うか笹瀬川さんも壊れてるほうの人だー。
 そろそろ僕のツッコミも限界をむかえつつある。だからそろそろ来ヶ谷さんにでも来てもらって、もうそろそろ解決してほしい。

「――と、ここで、おねーさん、」

 二段ベッドの上から、待ち望んだ声が聞こえる。
 来た! 来ヶ谷さん来た! これで勝てる!

「ぐふぉ(にゅるん、ぼとん)」
「うわぁ! 来ヶ谷さんが人体的にありえない描写で落ちてきたっ」
「けほっ……あ、あ……あ……」
「ど、どうしたの?」
「汗臭い」
「真人のベッドに潜むからだよ!!」
「しょ、正直……後悔……して……けほっ」
「ごめん、今はそんなことより、鈴と笹瀬川さんをなんとかしたいんだけど!」
「……『そんなこと』か……心配されない、けほっ……なんて、おねーさん、ちょーしょっく……」
「これも来ヶ谷さんの仕業ということでOK? (←無視)」
「ああ……OKだ……けほっけほっ」

 僕の上でいまだににゃんにゃんしているふたりを指さす。あっさりうなずいてくれた。

「けほっ! ……今の、鈴くん、たちには、『一番気になる人と子作りしたくなる』……という、けほっけほっ!」
「また別のおまじないなんだ!? 効果とかはいいから、はやく解呪方法を!」
「この、言葉を……言わ……せれば」
「その言葉は!?」
「『めそ、』……」
「…………」
「げぼぶふはぁっ!!!! (バターン)」
「く、来ヶ谷さーん!?」
「…………(ピクピク)」
「『めそ』ってなにさーーー!?!?」

 真人の汗で来ヶ谷さんが!!

「どうした理樹。そうか、もうしんぼーたまらないんだな。しょうがないやつめ」
「ベルトに手をかけない、で?」

 ころん、とうつ伏せに転がされる。

「ひょ?」

 腰だけ持ち上げられる……?

「あのー、鈴、いったいなにがしたいの――ぉ!? なにその特大なソーセージみたいなもの!!」
「理樹をとってもきもちよくしてくれるもの、らしい」
「『らしい』ってそこはかとなく不安なこと言わないでよ!」
「ご安心を。わたくしが使い方を手取り足取り教えて差し上げますわ」
「いやいやいやいやいや! 使い方うんぬんじゃなくて……ソーセージがもう一本!? ふたりしてなに持ってるのさ!?」
「さあ理樹……子作りのじかんだ」
「鈴! お願い、お願いだから待って! 笹瀬川さん! 鈴を止めてよ! 来ヶ谷さん! 起きて僕を助けて! ……あ、いや、その…………め、『めそ』! 『めそ』ーーー!!」

 そんなもので止まってくれるはずもなく。
 ズボンがおろされ。
 パンツがおろされ。
 おしりにナニかが押 し 当 て ら れ 。










 その日、僕は、大切なものを失った。


[No.439] 2009/10/10(Sat) 00:50:15
締め切りです (No.430への返信 / 1階層) - 主催代理の代理の代理ぐらい

かきさん失踪中につき、勝手に締め切らせてもらいます。

問題や「てめえふざけんな、俺まだ書いてたのに」等意見がありましたら、流星までお願いします。


[No.440] 2009/10/10(Sat) 01:04:56
Re: 締め切りです (No.440への返信 / 2階層) - もう代理じゃなくていいや

ん〜。やっぱりスレッドを立てる時間がアレだったので、土曜日の正午くらいまでなら〆切を延ばしてもいいんじゃないかなぁと思わなくもないです。
でもその分読むのに大変だったりするし……。むぅ、どうしたらいいんだろうか?


[No.441] 2009/10/10(Sat) 01:20:06
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