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明と暗・白と黒  第24話 (No.1034 への返信) - シン

「……先生、患者に反応が!」
「恐らく、意識を取り戻すものかと……」

それは日曜日の夕方。淳平が刺されて丸一日経った頃の出来事だった。
一般病棟に移された綾は、ようやく意識を取り戻そうとしていた。

「…………」

綾の目がゆっくりと開かれていく。
ゆっくりと、閉じられていた瞼から漆黒の瞳が姿を現していく。

「………………ま……な……か……くん……」
「まな……か……くん、やっと……会え……た……ね……」

目を覚ました綾の第一声。
それは、新たなる困難の幕開けを意味していた。

その瞳に映るのは虚実。
『東城綾』は、その時既に『死んでいた』。





第24話『虚実』





日付は変わり、月曜日。
泉坂高校3年4組の教室の一角には、あまりにも暗い空気が立ち込めていた。
そして、周りでもザワザワと小さな騒ぎが起こっている。
報道では名前が出ていなかったものの、噂というものはどこからか漏れ出るものなのだ。

「……俺、今でも信じらんねえよ……」
「綾ちゃんがあんなことになっちゃうなんてさ……」

「ああ、極度の錯乱状態による心神喪失……目の前にある物すらマトモに見えていないとなったらなあ……」
「正直、見てらんねえよ。あんな東城も、何もできずにただ見てるだけの親たちも……」

改めて説明しよう。
『東城綾』は既に『死んでいる』のだ。

意識を取り戻した綾が見ているのは、現実ではなく、淳平とともに過ごしているという幻だった。
それはつまり、彼女が空想の世界でしか生きる事ができない存在となったという事でもあり、
この世に生きていた『東城綾』という人格が完全に死んだ事と同義であった。

「それに、真中も目が覚めないし……東城さんがあんなになって、真中も死んじゃったら、あたし、耐えられないよ……」

普段は気丈なはずのさつきの目から涙が溢れ出す。
事件が起きてからというもの、さつきは涙を流す事が多くなっていた。







3年5組にて、
菜々美はやや不機嫌な表情で教室に入った。
本来の彼女ならば、憎むべき相手である綾が重態になったというのは喜ぶべき出来事なのだろうが、何故か喜ぶことが出来なかった。

 「あの事件、やったのは東城で、刺されたのは隣のクラスの真中らしいわよ」
 「だけど、その東城は中学校の屋上から飛び降りて重態だってさ、ザマアミロってね!」

確かにその知らせは彼女にとって喜ぶべき事だったのだ。
だが、彼女は喜べない。
大学側からの推薦入試拒否が起きるというのも理由の一つだが、それ以上に、彼女は薄気味悪さを感じ取っていたのだ。

まるで、自分が何者かに追い詰められているかのような……

「……大丈夫よ、東城が口を割るわけないし、証拠だって残してない」
「それに、密告なんてしたらどうなるかぐらいはみんな分かってるだろうし……」

ブツブツと独り言を呟きながら自分の席に向かう菜々美に、クラスメイトの1人が話しかけてきた。

「ヤッホー菜々美! ちょっとアレ見てごらん」

彼女はそう言って、菜々美にその方向を見るように促した。
そして菜々美が見たのは、綾の席に置いてある1つの花瓶と、一輪の花だった。

「どうよ! これでアイツは死亡確定ってね!」

人間として誇らしくも何も無い事であるが、誇らしげに言う彼女。
だが、菜々美の心はそれを見ても晴れる事はない。

「(……駄目、また嫌な気分にしかならないじゃないの……)」
「(だけど、やるべき事はあるわね……)」

気分の晴れない菜々美が取った行動は、机の上の花瓶を片付けるという行為だった。
案の定、花瓶を眺めてクスクスと笑っていたクラスメイトたちから非難の声が上がる。
だが、菜々美はそれらの声を一蹴する。

「……こういうのは止めときなよ、流石のあたしも気分が悪い」
「それに、下手な事やって先公やポリ公のご厄介になるのは嫌でしょ?」

「そういうわけで、東城が本当に死ぬまではやるんじゃないわよ」

菜々美の言葉は間違いなく正論だった。
死んでいるわけでもないのに花瓶を置いていたら、第三者から確実に怪しまれるからだ。

しかし、それは結局のところ保身でしかなかった。
気分が悪いというのは、話に説得力を持たせるための単なる理由付けに過ぎない。
あくまでメインは厄介事の芽を叩き潰す事なのだ。





確かに今日の菜々美はいつもと様子が違う。
だが、本質的な面では何ら変わりが無かった。

やはり、彼女は排他的利己主義者なのだ。







続く


[No.1045] 2008/06/15(Sun) 22:26:10

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