自転車で上り坂を一生懸命走りぬける。 前かごにはバケツと花火セットがはいっている。 後ろには彼女が座っていて、僕の背中と彼女の背中は触れ合う。 SS 【花火】 「もっと速く走って!」 彼女は僕に言う。 僕は彼女の要望に応えるべく、ペダルを思いきり踏み込む。 まだまだ寒い3月の夜なのに、僕は汗だくになっていた。 そんな僕とは反対に彼女は寒そうに身を縮めていた。 坂道を上りきるときると今度は下り坂へとなる。 ブレーキを少し握り締め、下っていく。 心地よい風が僕と彼女に当たる。 彼女の髪はきれいにサラサラとなびいていた。 下り坂を終えると目的の川原についた。 「はい、お疲れ!」 彼女は笑って汗だくの僕に言う。 「いえいえ、お嬢さん。」 僕も彼女と同じように、笑顔で答える。 前かごにつんでいた花火セットとバケツを取り出し、僕達は季節はずれの花火をした。 スパーク花火や打ち上げ花火などいろんな種類の花火をしたけど、最後は線香花火をした。 「きれいだね…」 彼女が静かに僕に言った。 「そうだね…」 「あっ…」 彼女の線香花火が落ちてしまった。 僕はクスッっと笑って線香花火に火をつけた。 「これにはコツがいるんだよ。」 彼女は僕の線香花火を見ていた。 僕の花火は彼女の花火とは違い、長く光り続けていた。 「よ〜し、私も負けないぞ!」 そういって花火に火をつけた。 今度はさっきのとは違い長くつづいていた。 そして僕の花火は最後まで光り続けて終わってしまった。 僕は彼女の花火を見た。 するとポトッと落ちてしまった。 「終わっちゃった…」 彼女がさみしそうに言った。 僕はそんな彼女を見ていた。 すると彼女は僕の肩にもたれかかってきた。 彼女はゆっくりと目を閉じた。 「楽しかったね…」 彼女は静かに僕に言った。 「うん」 僕も同じように静かに答えた。 「これからはお互い、夢に向かって頑張っていこうよ…」 僕は彼女に言う。 「うん」 彼女は小さくうなずいた。 僕は映画監督になるため、彼女はパティシエになるために僕達は少しの間、お別れする。 お互いが成長するために… 僕は左手で彼女の右手を握った。 彼女も僕の手を握り返した。 そして僕達は唇を合わした。 彼女の目は、涙でいっぱいに見えた。 僕は涙を流さないように、反対側の右手を強く握った。 そして僕達は来た道を戻っていく。 行きと同じ様に、僕が自転車をこぐ。 彼女も後ろ向きに座り、僕の背中と彼女の背中はまた触れ合った。 途中、後ろ向きに座っていた彼女が前に向き、僕の体に手をまわした。 そして僕の背中に頭をポンと当てる。 僕達は何も話さないでいたが、なぜか心が通じ合っているような気がした。 そして今、彼女は泣いているんだろうと思った。 僕も自然と涙があふれてきた。 僕は彼女にばれないように静かに涙を流した。 すると彼女はさっきよりも強い力で僕に抱きついてきた。 僕は行きと違い、ゆっくりとペダルをふんだ。 彼女とちょっとでも長く一緒にいたい。 僕はぐらつかないよう、ゆっくりとペダルをふむ。 何年後かはわからないけれど、お互い立派に成長したとき… 笑って再会しようよ… 僕はずっとキミを思い続けるから… だから、 少しだけの辛抱だ。 再会したら、また花火でもしようね… 僕は心の中で彼女に言った… 彼女はまた、キュッっと僕に抱きついてきた。 彼女の行動は、僕の言葉に返事をしているように思えた。 やっぱり心が通じ合ってるのかな? そう思うとまた涙があふれてきた。 2人を乗せた自転車が、ゆっくりゆっくり進んでいく… [No.28] 2005/08/31(Wed) 13:13:03 |