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明と暗・白と黒  第16話 (No.914 への返信) - シン

「えっ? 綾さんは今日も忙しいのかい?」

「う、うん。そうなのよ」
「何だかんだでクラス委員だしさ、色々と忙しいのよね……」

菜々美の言っている事は全てが嘘であった。
文化祭が終わり、実質、クラス委員としての仕事はない。
今頃は、昨日のように小宮山に組み敷かれているだろう。

だが、天地を言いくるめるには十分な嘘だった。

「そうか、なら僕が無理を言って邪魔するわけにはいかないね」

そう言うと、あっさりと天地は引き下がる。
女性に優しいという性格が、今では完全に裏目に出ていた。

あまりにも、女という生き物を信じすぎていた。





第16話『すれ違い』





泉坂ゼミナール

「……!」

「こずえちゃん、おっす…………って、逃げたぁ!?」

こずえに会った淳平は、まず最初にこずえの反応に驚く事となった。
男性恐怖症のあるこずえだが、最近は少しずつ改善されつつある。
だが、今日は淳平の姿を見るなり、離れていってしまった。

「どうしたんだよ今日は……?」

「……アンタのせいだよ」

後ろから怒ったような声がして、淳平はまたしても驚く事となった。
Aクラスであるはずの舞が、いつの間にかBクラスの教室を覗いていた。

「お、俺のせいってどういうことだよ!?」

やや怒ったような口調である理由が分からず、淳平も強い口調で反論する。
だが、舞の言葉で淳平の反撃は完全に封じ込まれる事となる。

「アンタねえ、彼女がいるんだったら向井にまでいい顔をするんじゃないよ! アンタがはっきりしなかったから、向井は物凄く傷ついてんだよ!」
「まさか、向井の気持ちに気付いてなかったなんて事を言うんじゃないよね!?」

淳平には返す言葉が無かった。
こずえの気持ちに気付いていたと言えば気付いていたし、気付いていなかったと言えば、気付いていなかったとも言える。
とにかく、こずえの本当の気持ちがどうなのか、淳平にはハッキリと分かっていなかったのだ。
そして、つかさという彼女がいるのにこずえにまでいい顔をしていたのは、決して否定できる事ではなかった。

一通り怒鳴って気が済んだのか、舞はAクラスへと戻っていく。
淳平は何も言い返す事ができず、ただそれを見ているだけだった。

そして、悲しみに暮れるこずえを、右島はどこか心配そうな表情で見ていた。
もっとも、いつもの表情と殆ど変わらないので、傍目から見れば鬱陶しがっているようにしか見えないのだが……





「ところでさ、東城を最近見ないよな……」

「そういえばそうだな。俺なんか東城を見るためにここに通ってるようなもんだから、やる気が出ないな……」

「それで良いのかお前は?」
「まあ、さすがにちょっとおかしすぎるけどさ」

こんな会話が教室の片隅で行われていたが、淳平は特に気にする事はなかった。
文化祭のあの日、淳平の中では綾とのつながりは消え去っていた。
少なくとも、自分から決別の意思を伝えた以上は、今更2人のつながりを戻す事など出来ないと思っているからだ。







綾は念入りに身体を洗っていた。
いや、念入りと言うには、少し過剰かもしれない。

くびれたウエストとは対照的に、肉付きが良く、あまりにも魅力的な白い裸身。
だが、その身体は男の欲望によって既に汚されていた。

綾は覚悟していた。
こうやって、過剰なほどに身体を洗おうとも、この穢れが落ちる事は無いのだと。
そして、これが習慣となってしまうのだと。
それは……今日ハッキリとした事実である。



だが、綾は諦めてはいなかった。

『あの日』のノート……あれがある限りは、自分と淳平の間にある糸が切れることは無いと、確信していたからだ。

「大丈夫……まだあたしは……頑張れる……」
「あのノートがあれば、あたしと真中くんとの間に……誰も入れないはずだもん……」

そう自分に言い聞かせ、綾は明日への活力とする。
それが、綾に残された最後の希望だったからだ。

だが、綾には最初から『希望』など無かったのかもしれない……





続く


[No.917] 2008/03/16(Sun) 21:37:30

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