いちご一会 第1話
正太郎 「…ま 自分の気持ち告れねー ねーちゃんもねーちゃんだけどよ、それとも何? 告られるの待ってんの? 彼女がいる男から? 部活ももうねーのに?」
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綾は走り出していた。
綾 (会いたい…真中君に会いたい…!)
(教室の隅っこにいた、あたしの存在をはじめて受け入れてくれた男の人)
(まだ話してないことがあるの)
(今までどうしても言えなくて)
(でもこのままあなたを失いたくなくて)
(あたしはずっと…あたしは………)
ガラッ!!
淳平 「え……え…と…何?
何か忘れ物でもしたのか?」
綾 「忘れ物…うん忘れ物かも……」
淳平 「東城! 足から血が出て……」
綾 「あっ やっ…こないで!」
淳平 「東城……?」
綾 「お願いこのまま聞いて…っ」
淳平 「いいけど…何で!?」
綾 「かっ‥顔見たら また何も言えなくなっちゃうから……」
淳平 「え…顔見たら言えないこと……って」
綾 「………好きなの
中3のあの日から…ずっとずっと……!!」
ドクン‥‥ドクン
ドクン‥‥ドクン
綾は想いのたけを偽ることなく、全て淳平へぶつけた ただ自分の気持ちを知ってほしい……いや違う! 綾は自分の想いを実らせるために
精一杯の勇気を出して。
淳平 「…東……城……」
鉄製の厚い扉、二人の距離は近くて遠い・・
扉がカタカタ震えている、綾は淳平からの言葉を待っていた・・・
それが柔らかく暖かい言葉なのか・・重く冷たい言葉なのか・・・
ドクン……ドクン……
ドクン……ドクン……
綾の小さな体は、場の空気に押し潰されないように必死に耐えていた・・・
ガラガラッ!!
綾 「……えっ………
…真中…く……ん………」
淳平は扉を開け、綾を抱きしめていた…
そこにいる、小さく頼りなげな、それでも一生懸命
潰されないように耐えている健気な少女を。
淳平 「東城…東城……東‥城………」
綾 「…真中くん……」
綾をきつく抱きしめた淳平は‥泣いていた…
かすれた声で、それでも確かに聞こえる声で綾に告げた。
淳平 「俺‥も……好きだ………」
綾 「…えっ………」
淳平 「東城が…大好きだーーーっ!!
好きで好きで…どうしようもないくらい!!
笑顔も‥泣き顔も‥怒った顔も‥ご飯食べてる顔もみんな好きだ!!
東城が他の男に言い寄られたり…天地に口説かれたりするのを見たら
そいつら全員簀巻きにして海にたたき込んでやりたいくらい嫌だった…嫉妬してた……
……これが俺の気持ち…言いたくても勇気がなくて…言えなかった……」
淳平 「………ホントの……本気の気持ち……」
綾の腕は淳平の背中に回され、しっかりと掴んでいた
愛しい人を離したくないと、そう訴えるように‥‥
淳平 「幾度もあったんだ今まで…東城が好きって言ってくれたら……
なんの迷いもなく東城を自分の物にできるって……」
淳平は綾を抱き起こし、部室の中へ入った
まだ後夜祭の余韻の残るグラウンドが見える窓辺
星の瞬きが儚げに祭りの終わりを告げている。
綾を座らせ、傍らで淳平が窓にもたれ掛かる。
淳平 「男として情けないよな」
綾 「…えっ………」
淳平 「女の子に告ってもらわないと自分の気持ちも言えないなんて‥‥
…他の子達には言えたんだけど……東城だけには……
………どうしてもダメだったんだ……………」
足元には一つ、二つ、雫が落ちる。
綾 「真中くん……?」
淳平 「壊してしまいそうで…俺の一方的な感情で……もしダメだったら……
目の前の大切な宝物が粉々に砕け散るんじゃないかって……
……怖かったんだ…失いたくなかったんだ……」
綾 「うん‥うん‥‥」
綾は淳平の一言一言を大切に聞き、優しく頷く
淳平は俯き拳を握りしめ‥‥綾に自分の言えなかった想い
伝えたかった想いを偽ることなく全てを吐き出した。
綾 「真中くん もうその心配はしなくて良いんだよ
私の想いを真中くんは知った‥真中くんの想いも私聞けた‥‥
‥‥一応両想い‥‥だね‥」
綾は淳平の頬をつたう雫を小さな手でそっと被って優しく語った・・
自分の事をはじめて受け入れてくれた人が、自分をこれほど大切に思ってくれていた事
を知り、淳平のことが愛おしくてたまらなかった・・
淳平 「東城‥‥変な話だけど、俺まだ交際の申し込みは出来ない‥‥
もう少しだけ待ってくれるか‥‥?」
淳平はつかさの懸垂告白の返事を出してはいなかった、心が折れて
つかさに甘えた時も、何か言わなきゃいけない 伝えなきゃいけない!
そう思ったが何かが、その言葉を呑み込ませていた… 今思えば、綾への想いがそうさせたのだろう。
綾 「‥‥うん‥‥
今はこれで満足‥‥‥」
綾は潤んだ瞳で淳平を見つめ不安など微塵も感じていない100点満点の笑顔を見せた。
淳平 「東城が安心しきってたら…俺逃げちゃうかも……なんてねっ」
そう言った直後、綾の瞳から大粒の涙がボロボロこぼれ落ちていた
綾の手は淳平の学ランをしっかり握りしめ見つめていた。
淳平 「ゴッ・・ゴメン!」
淳平は綾の気持ちを知り安堵したのか、
ふざけて綾に意地悪なことを言っただけのつもりだった。
淳平 「東城ごめんなっ! ‥冗談なんだよ!
なっ‥だからごめんっ! ‥‥東城泣きやんでくれよ‥‥‥」
ダメだ……手がつけられない、何を言っても綾の涙は止まらない
掴んだ学ランも離そうとしない‥
それだけ心配だったのだろう‥‥それだけ失いたくなかったんだろう。
綾 「うっ…うぅ‥えっく……
…い‥やだ……いなく…なっ‥ちゃ
いや……だよ‥うぅっ…えっく………」
淳平 「大丈夫だよ‥‥ほら傍にいる‥‥‥
こんなに近くにいるよ‥大丈夫だから‥‥
ほら良い子だから‥‥ねっ‥もう安心しただろ‥‥」
淳平は綾を優しく抱きしめ、まるでガラス細工を触るように
ゆっくりと優しく綾の頭を撫でていた。
効果は直ぐに表れた、涙は止まり安堵の表情を覗かせた。
綾 「真中くん‥次にあんな冗談言ったら‥‥
私、映画の脚本二度と書かないからねっ‥‥」
淳平 「…うん……ごめん」
綾は頬を膨らませ唇を尖らせていた。
淳平 「‥‥‥!! 」
淡い空気に包まれた部室の中、淳平は綾の足元に視線を落とした。
綾 「あっ……!! 」
淳平は跪き傷口に優しく口をあてていた。
綾 「ダッ…ダメ!!‥真中くん!
汚いよ!! だからやめて…」
綾の声は届いてるはず、しかし淳平は一向にやめる気配はない‥
どれくらい経っただろう? 少なくとも綾には永遠とも感じられただろう
フッと淳平が頭を上げ綾の顔を見上げる。
淳平 「ごめんなっ…でも‥俺
東城には心も身体も…傷ついてほしくないんだ」
綾の顔は淳平にまでその熱が伝わりそうなほど上気していた。
綾 「真中くん…」
(あぁ、この優しさに私はずっと触れていたい
こんな人だから私…あなたから目が離せない…)
淳平 「東城ちょっと待っ…て‥たしか…
あれっ…こっちかな‥?…あっ、あった!! 」
淳平は、あっちこちポケットを探り、絆創膏を取り出した。
淳平 「嵐泉祭の準備してるときに、手を切っちゃってね…
その時絆創膏もらってたんだ……
ハイッ! これでよしっ!! 」
綾 「あっ…ありがとう真中くん」
淳平 「ねぇ東城、正太郎君…だっけ?
一緒じゃなかったの?」
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綾 「あっっ!!…・・・・・忘れてた・・」
綾 「…大丈夫、あの子なら、勝手に帰ってるよ!」
淳平 「…そうなんだ‥‥じゃぁ俺達も
そろそろ帰ろっか?
俺送っていくよ!」
綾 「えっ!? いいの?
でも無理しなくていいんだよ?
疲れてるんじゃない?」
淳平 「東城、俺と帰るの嫌なの?
嫌ならあきらめるけど……」
綾 「そっ、そんなことないよ真中くんっ!!
一緒にかえ…ろ?」
秋口の少し肌寒い風が頬を撫でる
少し上気した二人には心地よい
見慣れた路は、いつもと違い新鮮に映り
落ち葉が見せる人恋しい季節は、二人の距離が物語る
淳平は帰り道いろいろ話した
上映会のこと、最後に沢山の賛美を受けたこと
二人の話題は尽きることはなかった。
淳平 「…それでな、凄かったんだ!!
みんな立ち上がって、最後の挨拶なんて
俺…泣いちゃったよ」
淳平は興奮して綾に一生懸命にオーバーアクションで伝えている。
淳平 「あの最後のカーテンコールには
東城がいてほしかったな〜……あ……」
淳平は少しイジケたように俯き、綾に言った。
淳平 「東城は何でラブ・サンクチュアリのパートナーを
弟に直ぐ決めちゃったわけ?」
綾 「えっ…だって……私なんか誘う人いないと思ったし
弟が是非、行きたいって言ったから…」
淳平 「何で勝手に決めちゃうんだよ! そりゃ、東城がパートナー決めるのに
俺に言う義務なんてないけど……
おっ…俺が誘うと思わなかったの?
ずるいよ……一緒に…ブツブツ…」
淳平 「…!?……何で俺が怒ってるのに
東城はニコニコしてんだよ!」
綾は淳平が一人で文句を言っているのを嬉しそうに聞いていた。
綾 「だって真中くんが
ヤキモチ妬いてくれてるのが
……嬉しくて」
淳平は真っ赤になって、二の句が継げないでいる。
綾 「淳平くんは……やっぱり‥
あのラブ・サンクチュアリが…したかったの?」
淳平 「………う‥うん」
俯いたまま、ばつが悪いようだ…
責めていたつもりが、完全に形勢逆転している。
綾 「あれって同じ番号が最高の相性なんだよね!?
これ…私の番号……下駄箱に入ってた」
1508
淳平 「こっ…この番号……」
綾 「どうしたの真中くん‥もしかして番号一緒だったりして
…なんて、そんなことないよね」
淳平 「……一緒だ‥」
綾 「…えっ……ウソ‥」
淳平 「嘘じゃないんだ! 信じて!!
俺の番号は破いて捨てちゃったけど…
間違いじゃない、確かに覚えてる!!」
綾 「信じる!!…私信じる!!」
淳平 「…東城‥ ‥ありがとう…」
二人は心の隅にあった小さな不安が消えていくのが…わかった
それが例え、コンピューターの占い、相性診断だったとしても…
何か…何か一つ…後押しがほしかった・・・・
第1話 終
[No.162] 2006/08/27(Sun) 01:59:07 |