「これが…俺たちの……『集大成』…」
真中はリモコンの『再生』と『巻き戻し』のボタンを繰り返し押しながら、同じ"1シーン"を何度も凝視している。
『でもあなたが好き あなたのことがずっとずっと好き……!』
テレビに映される可憐な美少女の姿を見つめながら、その透き通るようで力強い言葉を聴くたび、色々な想いが真中の中を駆け巡る。
期待感が沸くたび、その可能性を自ら拭う。
それでも、『演技』という言葉では表現し切れない緊張感が淳平の背中をくすぐる。
(…東城……キミは…このセリフを言っている時……どんな気持ちだったんだ…?俺は……期待していいのか?)
返答のない質問を頭の中でし続ける。
さかのぼること数時間―――――
「小宮山!こっちの器具そっちまで運んでくれ!」
部屋の隅でブツブツ独り言を言いながら働く気配のない小宮山に真中が言った。
「おいっ真中!ふられた俺に慰めの言葉もなしかよ、え!?」
(忘れてた…てか中三の時もこんなことあったような……)
考え事をしている真中をよそに、小宮山は叫ぶ。
「チクショー、世の中力あるだけの男じゃあ駄目なのか?だから俺はちなみちゃんにフラれたのか!?教えてくれよ真中ァーッ!」
泣きついて背中にまとわりつく小宮山を懇親の力で振り払おうとする真中。
「気持ち悪ィんだよ小宮山!そんなことより明日の準備しろよ!」
「『そんなこと』だとぉぉぉーッ!友達がフラれることを『そんなこと』だなんて言葉で割り切れるのかよお前はッ!」
小宮山は背中に抱きつく力を更に強める。
背中に奔る苦痛に悶える真中。
「痛ェェェ!やめろ小宮山!俺が悪かったから!」
「うるせぇ!誠意を感じるまで俺はやめねぇからな真中ァァァーッ!」
真中と小宮山の叫び声が響く状況に耐えかねた美鈴が小宮山の尻を蹴飛ばしつつ、倒れている真中の脇を持ちながら起き上がらせる。
「2人とも学園祭前日にやめて下さい!真中先輩も、もう少しマシな対応は出来ないんですか?」
美鈴の言葉は先輩という立場の者においても容赦ない。
「ま、まぁ、俺も悪かったよ小宮山…」
美鈴と真中の言葉を聞き、小宮山は涙を拭って作業に戻っていった。
一安心しながら制服をはたく真中に、上半身が隠れそうなほど大きな器具を持った外村が近づいて耳打ちする。
「真中…あいつだってちなみちゃんにフラれて結構傷付いてんだぜ?少しは相手になってやれよ」
「わ、わかってるよ…」
一応な返答はするものの、今の真中の頭の中は明日のことでいっぱいであった。
真中たちは明日に迫った泉坂高校の文化祭、"嵐泉祭"の準備に追われていた。
毎年行われる嵐泉祭では、多く存在する部の中で入場者の数を競い合う。
その中で、映像研究部は前年3位という実績を残しており、周りからの期待は高い。
それが逆にプレッシャーとなり、何度も何度も真中が編集等でチェックを繰り返している内に時間がなくなり、今慌てているというわけである。
(絶対に…絶対に今回は狙うんだ…!)
心の中で闘志を燃やす真中。
そこまで真中を駆り立てたのは、自分が長年憧れていた夢を高校で実現できる最後の機会であるということと、自らも自覚している、『これが初めて綾の姿を収めた映像だから』、というものである。
「よっしゃぁ!さっさと終わらせるぜ!」
「先輩が散々長引かせたくせに…」
美鈴は言葉ではそう言いつつも、いつも以上のやる気に包まれている真中の姿を僅かながらの尊敬の意をもって見つめている。
当然真中はそのことに気づくこともなく、ひたすら自らの作業を続ける。
「ハァ…やっと終わったぁー!」
さつきが伸びをしながら声を漏らした頃には、既に時計の針は夜の9時を指していた。
皆が安堵の空気に包まれる中、真中は密かに綾の姿を盗み見する。
(東城………)
訊きたいことはただ一つ…だが訊けない。
もし訊いてしまえば、その瞬間全てが壊れてしまう危険が高いことを本能で察知していたからだ。
もし訊いて自分の微かな期待を打ち崩されたら、と思うと足がすくんでしまう。
(どうして俺ってこうなんだよ……!)
臆病な自分を罵倒しつつ、おもむろに美鈴の下へ行く。
「あのさ、デモテープある一晩借りてもいい?」
真中の唐突な質問にも冷静に答える美鈴。
「別にいいですよ。そもそも真中先輩が一応監督なんですからあたしに決定権があるわけじゃあないですよ」
「『一応』って……まぁいいや!そんじゃあ借りてくね」
真中は頭をかきながら机の上に置かれたデモテープを持っていった。
その様子を見ていた外村が美鈴に言う。
「あいつ、いつになく真剣だな」
「きっと、最後だから色々と感極まるものがあるんでしょ?」
笑顔で言う美鈴を外村が冷やかす。
「お?惚れたか?」
「まさか」
美鈴の裏拳が外村の顔面に炸裂した。
―――――
(東城がどうであろうと、まずは明日のことだけ考えよう)
真中はリモコンで『静止』と『巻き戻し』のボタンを慣れた手つきで押した。
「絶対に、成功…そして皆に見せるんだ……俺たちの……高校での『総決算』を…!」
真中は希望に高鳴る胸を押さえつつ、床に就いた。
同時刻、パソコンに映し出されるメールの文字。
それを読みながら、慎重に返信文を書く者が一人…。
『私はどうすればいいですか?』
送信ボタンを押し、貧乏ゆすりをしながら返信を待つ。
1、2分ほどで返信メールが届く。
そのメールを見て、その者は微笑する。
『私の言うとおりにして頂ければ大丈夫です。力を合わせて必ず、殺しましょう。』
[No.248] 2006/11/13(Mon) 01:09:34 |