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明と暗・白と黒  概要とお詫び (親記事) - シン

お久しぶりです&始めまして。
拙作ではありますが、この掲示板で長い間書いているシンです。

突然ではありますが、『CLOTH EPISODE』の執筆も一時中断する事となりました。
『見えない明日・見える未来』のリメイク版として書いていた作品ではありますが、第零部の時点で事実上の更新断念となってしまいました。
理由と言うよりは言い訳ですが、あまりにも第零部の内容が肥大化し過ぎたがために、第一部以降のストーリーにも重大な支障が生じたのが原因です。
恐らく、第零部の完成だけでも、一年はかかってしまいそうです。

もっとも、もう一つ書けない理由がありますが、それは完全に私事なので省略します。

そこで、今回は前回の反省を踏まえてストーリーを構成しようと思っています。
これまでは多数かつ、多世代のオリジナルキャラクターがいました。
実際に『見えない(ry』では、修平と健治を中心に多数のオリジナルキャラを投入しましたが、その全員がストーリーに大きく関わりすぎており、同時に重要キーワードを抱え込んでいました。
結果として、話が肥大化しすぎてしまいました。
しかし、今回は同年代のキャラを中心にし、尚且つストーリーに大きく絡んでくるキーワードを抱えたキャラを減らす事で、解決する予定です。
当然、メインは淳平たちです。その他のキャラは場の賑やかしだったり、裏方に回る事でしょう。

また、『見えない(ry』ではやや強引な展開が非常に多かったので、それの解消も課題の一つです。
完全に決裂したはずの映研メンバーが、いつの間にか仲直りしているのがいい例でした。

今回は、いろんな意味で原作を超えてみようと思います。
どのような意味で超えるのかについては語りませんが、一つだけヒントを出しておきます。
ヒントは、『単行本13巻で発生していてもおかしくない展開を実行』です。

これらを踏まえて、読者にも私にも無理の無い作品を書き上げる所存でございます。



今回のプロット及び、設定です。
本来は作中で詳しく解説するのが筋なのでしょうが、やや複雑な上に今回の形式では説明がしづらいのが理由です。

・3年生の2学期からスタート

・淳平、外村、小宮山、さつきが4組で、綾が5組(原作では綾とさつきが逆)
当然、天地は1組

・1学期中にあった、天地の綾への大攻勢がまだ発生していない

・夏の撮影合宿につかさが同行している

・淳平の気持ちは、かなりつかさ寄り(序盤で告白になります)

・映画の内容が原作と違い、綾の『告白』が無い(ヒロインはつかさ)

・嵐泉祭にて、『ラブ・サンクチュアリ』が存在しない

・オリジナルキャラの殆どは5組に所属(とは言っても、殆どがモブキャラ)

・話毎に、一人称だったり三人称だったりする
一人称の場合は、話毎に語り手が誰か一人で固定

・サブタイトルの公表タイミングは毎回変化
最後に出るケースも多い



以上です。
今度こそ、完結させます……と言うより、完結させなければなりません。

では、毎度毎度お騒がせな作者ではありますが、よろしくお願いします

>>修正が出来なかったので、再投稿


[No.740] 2008/01/21(Mon) 23:33:30
明と暗・白と黒  プロローグ (No.740への返信 / 1階層) - シン

俺は今、隣にいる『誰よりも大好きな人』と共に、映画を見ている。
もっとも、彼女が大切だと思ったのはごく最近の事だ。
しかも、まだ告白しているわけじゃない。

今日は彼女の誕生日。だから、一緒に過ごしている。
出来る事なら今日中に結論を出してあげたい。
それが、彼女のためでもあるし、他のみんなのためにもなるはずだ。

こんな、優柔不断でいつもフラフラしているような俺についてきてくれたみんなのために……
俺は今日、決断を下す……



映画は高校を舞台とした学園物の恋愛作品だ。
結構な話題になってる作品で、俺としても見ておきたかったし、彼女……西野も見たかったみたいだ。

優柔不断でいわゆるヘタレ……でも、根は優しい主人公と、そんな彼を慕う2人の少女。
一人は奥手な性格で、主人公に思いを伝えるどころか、話をする事すら出来なかった。
もう一人は対照的に積極的で、主人公とも気兼ねなく話せる仲だった。
そんな彼女が自分の気持ちを押し殺して、奥手なその娘のために仲を取り持って、結果として2人は恋人同士になった。

ここまでは、ただ単なる恋愛物だった。

……でも、もう一人の女の子は諦めきれずに主人公を誘惑して、奪ってしまった。
主人公の方もまんざらでもなくて、結局は奥手な彼女を捨ててもう一人の積極的な彼女の方に走った。

幸せの中にいる積極的な彼女。
奥手な彼女もやっぱり諦めきれなかった。
でも、周りからはいじめられて、さらには横恋慕した男に無理やり奪われて……
主人公は身も心もボロボロになって、完全に壊れてしまった彼女を見てようやく過ちに気付いた。
だけど、今度は積極的な彼女が嫉妬して、主人公を殺してしまった。
『自分が捨てられるぐらいなら、幸せになんかさせたくない』なんて、あまりにも身勝手な理由で。

そして、恋人を2度も奪われたその娘は……全てに復讐した。
いじめていた人々を全てその刃で切り裂き、横恋慕した男はぶつ切りにされた。どれも、見るも無残な姿にされた。
最後に、恋人を殺したその娘を……憎しみの刃で切り裂いた。
もう、誰にも人としての尊厳なんて無かった。ただ、『物』としてメチャメチャに壊されてしまった。
さすがにちょっと目を背けちゃったな。とてもじゃないけど、見てられない。

今までに受けてきた仕打ちを全て、清算するかのようだった。
そこにあるのは、本来あるべき幸せも希望も、全てを奪い去った者たちへの憎しみだけにしか見えない。
だけど違う。本当は、好きな人と幸せになりたいだけだったんだ……





見終わった時、西野はちょっと怖がってた。
まあ無理も無いけど。

「この映画……本当に噂どおりだったよね」
「物凄く恐ろしくて、残酷で、酷すぎて、だけど切なくて……」

涙を浮かべながら俺の方を見ている。
不謹慎だけど、めったに見る事のない西野の涙はとても綺麗だった。



……だけど、何か引っかかる。
確かにこの映画は凄くいい映画だった。
だけど、何かが引っかかる。









まるで、その映画が俺たちの未来を暗示しているような気がした。



プロローグ
『映画』


[No.741] 2008/01/22(Tue) 23:28:04
明と暗・白と黒  第1話 (No.741への返信 / 2階層) - シン

「俺は…西野のことが好きだ!他の誰よりも、一番大好きなんだ!」

その言葉が全ての始まりとなった。
淳平たちを待ち受ける、壮絶なる物語の始まりだった。





後に淳平はこう語っている。

 「あの時は、こんな事になるとは思っていなかった」
 「俺が今までフラフラしてたせいで、下手したらみんなの全てを壊していたのかもしれない」

 「何も知らなかった…いや、知ろうとしなかったせいで、彼女の心も身体もボロボロにしてしまった」
 「俺は、一生かかってもこの罪を償いきれないと思う。たとえ、彼女が許してくれたとしても、この罪は絶対に消えない」





第1話『もう一つの戦場』





天地。
彼は恐らく、この泉坂高校で一番人気がある男子生徒だろう。
かつては大草とツートップを張っていたが、今では天地が頭一つ抜け出た形となっている。
しかし、彼を慕う女子生徒は多くても、彼の本命がその中にいるわけではない。

ならば……彼の本命となる女の子にやっかみが集中するのは当然の事である。

その天地の本命とは、他ならぬ東城綾のことである。
彼女の場合、天地は眼中にない。





「(……ホント気に入らないわね……何で、トロくて何も出来ないアイツが、生まれつきの魅力だけでチヤホヤされて、天地くんの心まで持って行ってるのよ!)」

3年5組 出席番号12番
『小河原菜々美』は、東城綾の姿を見て心の奥で毒づいた。
ポニーテールと、気の強そうな表情が特徴的な彼女は、クラスの女子のリーダー格である。
勿論、天地に想いを寄せる1人でもある。
陸上部に所属する彼女は、凡才ではあるが努力を重ね続け、その甲斐あってレギュラーにまで上り詰めたという経歴がある。
そんな彼女からしてみれば、ドジでトロい癖に小説家としての才能に恵まれ、その魅力で一般男子だけでなく天地の心まで惹き付ける彼女は、仇敵そのものだった。



……ちなみに、何故菜々美がここまで荒れているか。
それは数分前である、今日、9月17日の登校時間まで遡る。





「ごめんね。僕はもう、みんなのアイドルではないんだ。1人のために全てを捧げる事にしたんだ」
「だから、もうみんなの気持ちには答えられない。1人の男として、素直になる事にしたから……」

天地のナルシストな発言……もとい、爆弾発言は彼を慕う女子たちの心にスコールを降らせる事となった。
(その裏では、一部の男子が必死で笑いを堪えていたのだが)

そして同時に、その宣言は一部の女子の心に嫉妬の炎を燃やす事となった。
天地の本命が綾であることは、既に共通の認識である。
そして綾の本命が淳平である事も、一部の生徒の間では暗黙の了解となっている。
天地が綾を落としにかかると宣言した以上、女子としては非常に気分が悪い。

ならば、嫉妬に駆られた彼女たちがどのような行動に出るかは……言うまでもないだろう。





そして、何も知らずにノコノコとやってきた綾を見て、菜々美は決意を固めた。

「(東城を……潰す!絶対に潰して、天地くんを取り返す……!)」
「(幸いあたしには味方がいっぱい付いてる。アイツを潰すのなんて簡単よ!)」

決意すると共に、菜々美は携帯で複数の生徒にメールを送る。
内容は、『天地くんと先公にバレないように、東城を潰せ』

元々持って産まれたリーダーとしての素質。
そして、努力家である事からの人気。
その二つを兼ね備えた菜々美の頼みとあらば、断る女子はいないだろう。
しかも、複数の女子生徒にとって利がある話でもあり、菜々美と同じ理由で綾自身が一部の女子生徒から疎まれていた。

泉坂高校を舞台に、悪意と狂気が大波となって動き出す。
その波は、瞬く間に綾を飲み込む事だろう。
そして、その波に淳平たちが巻き込まれるのも、そう遅くないのかもしれない。





続く


[No.745] 2008/01/31(Thu) 21:53:03
明と暗・白と黒  第2話 (No.745への返信 / 3階層) - シン

「ハァ……」

9月にしてはちょっと寒い朝。
俺は何故か憂鬱だ。
昨日、西野に告白して恋人同士になれたのに、だ。

でも実の所、理由は簡単。
言いにくいんだ。東城とさつきに……

……いや駄目だ!

俺は自分の両頬を一発叩いて気合を入れる。

そうだ、ここで逃げたら前と同じ。
どんなに悲しまれても恨まれてもいいから、正直に伝えなきゃ駄目なんだ!

……でも、さっきのは力を入れすぎた気がする……
マジで頬が痛い……






「ごめんね。僕はもう、みんなのアイドルではないんだ。1人のために全てを捧げる事にしたんだ」
「だから、もうみんなの気持ちには答えられない。1人の男として、素直になる事にしたから……」

……天地……
お前、それじゃただのナルシストだぞ……
「みんなのアイドル」って……正真正銘の馬鹿かよ……

「よっ、真中……プクク!」

「外村か、オッス……って、お前も笑ってんのかよ」

ちょうどいいタイミングで外村がやってきた。
……笑いを堪え切れてないけど。

「しっかし、天地がついに東城を本気で獲る気になったんだな」
「真中、このまま放っておくのか?このままじゃマジで東城を獲られるぞ」

「…外村、俺は西野と付き合うことにした」

そうだ、俺は西野と付き合うんだ。
ここで改めてその意思を確認する。
うん、間違いなく俺の気持ちに変わりはない。

「……マジで?っつー事は大方、昨日告白したな?」
「昨日はつかさちゃんの誕生日だから、告白にはもってこいだし」

「おっ、やっぱり外村は鋭いな〜」
「だから、今日中にさつきと……東城に、その事を伝える」

「そっか、ならいいんだけどよ……」

なんとなく複雑だ。
ケジメを付けるって決めたはずなのに、何でだろ?
確かに天地なら東城を幸せにしてやれるはずだ。
だから、上手く東城を説得しなきゃならない。

なのに……何だろう、この胸騒ぎは……

「……真中?」

「あ、ああ、悪い外村。ちょっと考え事をしてた」

「ふーん……ま、いいか」
「何だったら、俺がちょっと手伝ってやるけどどうする?」
「お前の性格だと、東城にも北大路にも言いづらいだろ?」

「……いや、いいよ。俺が自分で何とかする」

そうだよ。これは自分の問題なんだ。
自分で何とかしなきゃならないんだ。

「ま、それじゃ教室に行きますか」
「ここに留まってたら、禍々しいオーラに取り付かれそうだし」

「ハハハ、それは俺も同感だな」

確かに外村の言うとおり、この廊下には禍々しいオーラが満ちてる。
それだけ、女子にとって天地の存在は大きかったんだろうなと実感する。

でもそんな事は関係ない。
今は、自分がやるべきことをやるだけだ!







第2話『迷いを振り切る』

続く


[No.753] 2008/02/02(Sat) 01:27:14
明と暗・白と黒  第3話 (No.753への返信 / 4階層) - シン

昼休み

「真中ったら、こんなとこに呼び出して……何のつもりよ?」
「あっ、分かった〜やらしい事なんでしょ?」

校舎の裏。
そこは2年前、淳平がさつきに想いを打ち明けた場所だった。

淳平は一瞬、事実を伝える事を逡巡する。
だが、その躊躇いもすぐに消え、真剣な表情でさつきと向き合う。

「……さつき、ごめん。俺は、西野と付き合うことにした」
「だから、もうさつきの気持ちには応えられない」

笑顔が揺らぎ、さつきの目からはゆっくりと涙が零れ落ちる。
やはり、振られて泣かない者はいない。

だが、さつきは気丈に振舞う。

「そっか、真中は…西野さんを選んだんだ」
「ならあたしもどうするか考えるべきなのかな……」

「さつき?どうするかって……?」

「……ま、西野さんに伝えといて、『油断してたら真中を奪っていくよ』ってね!」

それは、さつきの精一杯の強がりだった。
分かっていた。淳平の心が動く事は無いという事ぐらいは。
だからこそ、こうやって強がらないと自分の心が押しつぶされてしまいそうになっていた。

「……戻るね」

さつきは立ち去る。
その向かう先は、言葉とは裏腹に教室ではなかった。





第3話『暗雲』





放課後

「はあ……」

綾は落ち着かなかった。
女の勘とでも言うべきものが、何かに警鐘を鳴らしていた。

ふと思い出すのが、朝から続く女子の異変。
やたら泣いている者がいるかと思えば、その一方ではあからさまな敵意を向けてくる者もいた。
しかし、綾には恨まれる筋合いは無い。
いや、無いと思っているだけだった。

帰りの支度をしていると、教室の扉を開けて誰かが入ってきた。
それは天地だった。

「綾さん、今日は一緒に帰りませんか?」

それは単純な話だった。
ただ単に、一緒に帰ろうと言っているだけだった。
だが、綾の心の奥で鳴らされ続ける警鐘は止む事を知らない。

と、その時、誰かが天地に話しかけた。

「天地くん、ちょっと悪いけど、東城さんは借りていくわよ」
「文化祭でのクラスの出し物について話があるから」

そう言ったのは小河原菜々美だった。
しかし、綾には文化祭についての話など心当たりが無い。
確かにクラス委員ではあるが、今日は何も話が無いはずだった。

「ああ、それじゃあ仕方がないね。綾さん、迷惑かけてごめんね」

そう言うと、天地はあっさりと引き下がる。
一応、筋の通った話ではあるので信じたのだろう。

だが、綾への『警告』は、最大に達していた。

「……東城さん、ちょっと来てくれるかな?」

「あ、はい……分かりました」

菜々美の口調はどこか威圧的だ。
確かに普段から威圧的な感じがするのだが、今回は特にいつもと雰囲気が違う。
しかも、周りからも敵意を感じる。

綾の本能がここから逃げる事を勧告する。
気がつくと、綾の足は自然と出入り口へ向いていた。
だが腕を菜々美に掴まれ、逃げる事は叶わない。

「…どこへ逃げるつもりかしら、東城さん?」








「さつきはあのまま早退か……」

「ま、お前の下した結論だ。文句は言えないだろ」

淳平はのんびりと帰りの支度をしていた。
綾とは帰る方向が同じなので、少々遅れてもすぐに追いつけるし、話を切り出すタイミングならいくらでもあった。

「しっかし、結局真中の彼女はつかさちゃんか〜」
「あ〜あ、いいよな真中は……」

小宮山は明らかに淳平を妬んでいた。
実際問題として、つかさのような美少女を彼女にすれば妬まれるのも当然である。
だが、外村はそんな小宮山に痛打を放つ。

「何言ってんだよ、小宮山はちなみちゃんと付き合ってんだろ!?」
「そんなお前が真中に嫉妬する権利は無いぃぃぃぃぃぃっ!」

「ハハハ、ホントだな…」

苦笑する淳平。
この話になるたびに淳平が気になるのが、何故ちなみが小宮山を好きになったかである。
誰も真実を知らない事もあり、ある種の迷宮入り事件である。

「ま、いいや。とりあえず5組を覗いてから帰るか」
「東城と話をして決着を付けなきゃならないし」

そう言いながら、淳平は鞄の蓋を閉める。
もしもこの時、菜々美に連れられる綾を見つけていれば、彼らの物語は全く別の展開を見せていたのかもしれない。

だが、現実には綾の姿を見つける事は無かった。





続く


[No.767] 2008/02/03(Sun) 22:53:45
明と暗・白と黒  第4話 (No.767への返信 / 5階層) - シン

「あ、あの……どこへ行くんですか?」

「……いいから付いてきて」

綾は菜々美に連れられて、3階の廊下を歩いていた。
この時、綾は全く気付いていなかったのだが、後ろからも数人の女子生徒が付いて来ていた。

「(何で……何でこんなヤツに……!)」







校舎の3階…それも一番奥に位置する第2理科室。
今では滅多に使われることの無いこの教室で、物語は動き出す。

「……答えてもらうわよ。アンタと天地くんの関係をね」

菜々美は凄みを効かせて綾を睨みつける。
ただならぬ威圧感に綾は怯え、自然と後ろに足が動く。
だが、後ろに下がろうとした綾を他の女子生徒が取り押さえる。

「おっと、逃がすわけにはいかないよ〜だ」

「あ…あ……」

既に、かなりの数の女子が集まっていた。
どう考えても逃げることが出来ない状況の中、綾はこの『圧力』に震えていた。

「答えなさいよ。アンタ、天地くんと付き合ってるの?」

「いえ…あたしは天地くんと付き合っているわけじゃ……」

その瞬間、菜々美の膝蹴りが綾の鳩尾を捉えていた。

「かは……っ!?」

凄まじい衝撃に肺から空気が押し出され、綾はむせ返る。
痛みと息苦しさで、綾は再び立ち上がることができない。

「げほっ…ごほっ……」

「おっとお、さっきのだけでヘバってる場合じゃないわよ〜」

だが、容赦なく後ろにいた女子が綾を立ち上がらせる。

未だに息が整わない綾だが、彼女たちの追及の手は留まることを知らない。
菜々美は綾の髪を掴み、無理矢理顔を自分の方へと向けさせる。

「なら、何でアンタは天地くんとあんなにくっついてるのよ」
「確かにアンタは顔だっていいし、スタイルもいい。だけど、だからって……だからって天地くんを誑かしていいって訳じゃないでしょ!?」
「あたしらの天地くんを……返せっ!」

そう言うと、再び膝蹴りを綾の鳩尾にお見舞いする。
膝が鳩尾に食い込んだ瞬間、綾の美しい顔が激痛で醜く歪む。

綾の意識は、そのまま暗闇へと落ちて行った。
意識が途切れる直前に綾が聞いたのは、女子たちの怨嗟の声だった。

  「天地くんを返せ!」





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

真中くん…あたし、何か悪い事したのかな?

……そっか。天地くんがあたしに寄って来るから、みんな怒ってるんだ……



もしあたしが真中くんと付き合ってたら、天地くんだって諦めてくれるだろうし、こんな事にはならないのかな……



真中くん、今からでも遅くはないですよね?
まだ時間はあるんですよね?

真中くんの隣は……空いているんですよね?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

気を失い、床に横たわる綾の顔からは、一筋の涙が零れ落ちていった……





第4話『歪む顔』

続く


[No.792] 2008/02/09(Sat) 22:59:26
明と暗・白と黒  第5話 (No.792への返信 / 6階層) - シン

「おーい、聞いたか!?真中のヤツが、あのつかさちゃんと付き合ってるんだってよ!」

「い!?マジかよ!?」

「なんてこったい……」

「チクショー!あのつかさちゃんが真中に取られたのかよ!」

9月18日。
この日には既に、淳平とつかさが付き合っているという情報がいたる所に流れていた。
もちろんこれは男子だけの情報ではなく、女子にも伝わっていた。



第5話『焦り』



綾は腹部をさすりながら登校していた。
昨日菜々美に膝蹴りされた鳩尾は、未だに綾に痛みを与え続けていた。



「(やっぱり……みんな同じなんだ……)」

校門をくぐった綾は、周囲から放たれる『それ』を感じ取る。
禍々しいまでの憎悪だ。

 「天地くんを返せ!」

その声が、今も綾の脳内で響いていた。



それからというもの、綾には常に憎悪の思念が向けられていた。
授業中だろうが、休み時間だろうが、綾に対する憎しみに取り付かれた彼女たちには関係がなかった。
ただひたすらに、綾に対して憎悪の思念が放たれ続けていた。



放課後

「(真中くん……)」

ホームルームが終了するとほぼ同時に、綾は荷物を持って教室を飛び出した。
針の筵という言葉が相応しい状況から逃げ出すためでもあり、淳平の下へと向かうためでもあった。




「真中くん!」

綾は4組に駆け込むと、迷う事無く淳平を呼んだ。
今までと同様に、周囲からの憎悪が突き刺さるが、今の綾には関係なかった。
ただ、淳平の下へと向かう事だけが、綾の思考を支配していた。

突然呼び寄せられ、驚きの表情を見せる淳平。
淳平にとって、綾がここまで積極的な行動を取るのは信じられない事なのだろう。

「東城?どうしたんだよ一体……」

「真中くん、あたし……真中くんに話したい事があるの」
「だから、ちょっと……来てください」

「え?何でここじゃ……」

そこまで言うと、淳平は言葉が詰まってしまった。
頬を紅潮させ、いつものような恥じらいの表情を見せているが、その瞳は真剣な眼差しで淳平を捉えていた。
女心に疎い淳平だが、そんな彼でもいつもとは違うと感じ取る事ができた。

「……分かった。じゃあ、ちょっと待って。今から荷物を纏めるからさ」






綾が指定した場所は、泉坂高校の屋上。
度々訪れるその場所に着くと、綾の顔が更に朱に染まる。
だが、その瞳は更に真剣さを増す。

「東城、一体どうしたんだよ。さっきから何か変だぞ」

「真中くん、あたしは……あたしは……」



「あたしは、真中くんのことが……真中くんが好き!」
「ずっとずっと……好きだったの!」




「え……!?」



思わぬ言葉に固まる淳平。
そして、綾は自分に秘められていた全く違う一面に驚いていた。

「(あたしって……こんなにあっさりと真中くんに好きって言えたんだ……)」

自分でも驚くほどにあっさりと想いを打ち明けていた。
そう、呆気ないほどにあっさりと、想いを打ち明けていた。

「(だけど、だったら本当に大丈夫。ハッキリと言えたんだもん……)」
「(真中くんは……絶対に受け入れてくれる……)」







もしもこの時、綾が自分の焦りに気付いていれば、事態は最悪の方向へは向かわなかっただろう。
だが綾は、自分の『焦り』に気付けなかった。
ただ、天地が言い寄ってくる限り続く苦しみから、逃げようとしていた。



「東城……ごめん。俺は……西野と付き合ってる」



「(え……?)」



淳平の出した答え。
それは、綾にとって一番聞きたくない答えだった。


[No.793] 2008/02/09(Sat) 23:17:13
Re: 明と暗・白と黒  第6話 (No.793への返信 / 7階層) - シン

「ごめん。俺は……西野と付き合ってる」

 何を……言っているの?
 真中くん……それって嘘だよね?

 何で?何で?何で……?

「本当にごめんな……だけど、東城は……俺よりも天地の方がふさわしいと思う」
「何だかんだで天地っていいヤツだしさ、俺の事を忘れて、天地と付き合ったほうがいいと思うよ」
「ん?安心しろって……俺がアイツに約束させる。東城を絶対に幸せにするようにな」

 違う……違うの真中くん……
 あたしは……あたしは真中くんじゃなきゃ……





2週間ほどが経った。

天地は何度も綾に言い寄るのだが、綾は決して天地の想いを受け入れようとはしなかった。
それは最早、意地としか言えないものだった。

そして、一方では綾に対する嫌がらせが本格的に始まっていた。
クラス全体での無視から始まり、今では少しずつ悪評が広がり始めていた。
同時に、文化祭関連での準備でも、一種の嫌がらせが始まっていた。
クラスでの話し合いに参加しない。事ある毎に難癖をつけて無理難題を吹っかける等等……
最初はクラスの男子が心配していたのだが、相手が女子の人気者である菜々美であるだけに、今では見て見ぬ振りをする者が殆どだった。
それどころか、クラスの担任が放任主義であったがために、綾の味方は既に誰もいなかった。
いや、元々誰も味方ではなかったのかもしれない。

そして、綾に追い討ちを掛ける事態が発生していた。
綾にとって、淳平と過ごす時間は何よりも心安らぐ時間である。
また、振られたとは言っても、『友達』としての付き合いはあった。

だが、菜々美たちの妨害は、そんな時間も削り取っていた。
2人が会わないように、複数の女子が綾の行動を意図的に制御していた。
しかし、綾はそれでも挫けずに、何とか淳平と会う時間を確保していた。







「ふ〜ん……じゃあ、東城さんはまだ淳平くんの事を諦めてないの?」

「ああ。あの様子だと多分、諦めてないと思う。さつきだって、次の日には復活してたってのにさ」
「正直言って、東城があそこまで俺の事を好きだったとは思わなかったよ」
「(まあ、本当に東城が俺のことを好きだったってのも結構な驚きだけどよ……)」

淳平とつかさはパティスリー鶴屋で会っていた。
デートができない平日でも、つかさのバイト先へ行けば会うことが出来る。
そのため、淳平は殆ど毎日立ち寄っていた。

「何というか、東城さんらしいのかな?」
「ほら、東城さんって結構頑固な所があるでしょ?それがこんなところでも出てるんだね〜」

「おいおい、他人事かよ。こっちはマジで困ってるんだぜ?」
「天地の方が東城には合ってると思うんだけどよ、絶対に聞き入れようとしないんだ」
「このままじゃ、本当に東城は幸せになんてなれない。だから、何とかするアイデアを出してくれよ……」

まるで他人事のように言うつかさに困惑する淳平。
綾の幸せを純粋に願うからこそ、今は綾に自分の事を諦めさせる必要があった。

「う〜ん……確かに淳平くんの言うとおりなんだよね〜」
「ま、それじゃあたしに任せてよ!何かいい方法を考えておくからさ!」

握り拳をグッと前に突き出し、淳平に力強く宣言するつかさ。
その様子に、淳平は一瞬不安な表情を見せたが、すぐに笑顔になる。

「そうだな。こういう事って西野に任せたほうがいいかもな」
「それじゃ西野、俺に手伝える事があれば遠慮なく言ってくれよ」
「何だかんだで、東城には幸せになって欲しいしな」

「そ、この西野つかさに任せてよ!」
「でも、苗字で呼ぶのは頂けないぞっ!」

今でも苗字で呼ばれている事に、少し不満な表情を見せるつかさ。
それを見て、淳平は微笑みながらつかさに言う。

「そうだよな。俺たちは……恋人同士なんだ」
「じゃあ、名前で呼んでもいいんだし、それが普通だよな……」
「……つかさ」

「……うん、それでオッケーだよ」
「改めてよろしくね、淳平くん」






第6話『恋人なら』


[No.815] 2008/02/16(Sat) 22:41:01
明と暗・白と黒  第7話 (No.815への返信 / 8階層) - シン

第7話『淳平、轟沈』







「東城……やっぱり来れないのか」

「ま、クラス委員の仕事だったら仕方ないだろ?」

文化祭まであと1週間に迫った映研の部室にて。
ここ数日、映研に綾は全く顔を出していなかった。
外村が5組を尋ねたときに聞いた話によれば、どうやらクラス委員の仕事が忙しいらしい。

「ハア……だけど、ちなみちゃんも来ないんだよな……」
「しかも、何か最近は冷たいし……」

ため息をつく小宮山。
実の所、ちなみも最近は全く来ていなかった。
撮影合宿の際に恋人同士になった2人だが、どうやらその関係は早くも冷めてきたらしい。

「そんな事はいいから、アンタたちは自分の仕事をしなさいっ!」
「文化祭まであと1週間!今年失敗すると、また映研が潰れるわよ!」

「そーそー。美鈴の言うとおりよ」
「せっかく創った映研を、1代で潰したらシャレにならないわよ」

美鈴の台詞にさつきも同意する。
淳平たちが立て直した映研を、再び潰すわけにはいかないのだ。

「そうだよな……よっしゃ!マジでやるしかないな!」
「(東城……見ててくれ。俺が、この映画を最高の出来に仕上げてみせる!)」








泉坂ゼミナールにて。

「………………………………」

淳平は沈黙していた。
映研での作業を優先している間に、塾での授業に全くついていけなくなってしまっていた。

「(ヤバイ……ヤバイ……これはマジでヤバイ……)」
「(もう……ダメポ……)」

淳平の脳は、頭から煙のようなものを出しながら、その機能を停止した。





授業が終わって、淳平たちはいつものようにワクドナルドに立ち寄っていた。

「真中……お前、マジでしっかりしろよ」

「分かってるよ……分かってるってば右島……」

「今の真中だったら、下手したら俺より馬鹿かもしれねーぞ」

「左竹……冗談に聞こえないんだけど……」

淳平はうな垂れていた。
あまりにも酷い状況に絶望しているのだ。

「真中さん……まだ巻き返せると思いますよ」

「そーそー。向井の言うとおり、まだまだ巻き返すチャンスはあるから、頑張りなって!」

こずえと舞が慰めるものの、今の淳平の耳には届かない。
届いた所で、右から左へと聞き流されるのがオチだろう。

「あちゃ〜……こりゃ重症だねえ」

流石の舞もこの状況には頭を抱えざるを得ない。
だが、すぐに気を取り直してこずえに耳打ちする。

「(向井、逆に考えるのよ!『自分が勉強を教えれば、好感度アップ』って考えるのよ!)」

「え、ええっ!?」

こずえは舞のアイデアに驚き、思わず大声を上げてしまう。
だが、その時には既にテーブルに淳平の姿は無かった。
どうやら、意気消沈したまま帰ったらしい。

「アイツ……本気で大丈夫かよ……?」

淳平を心配する右島の言葉が、空しく店内に響いていた。






続く


[No.831] 2008/02/20(Wed) 21:04:52
明と暗・白と黒  第8話  (読んでくれてる人っているのか?) (No.831への返信 / 9階層) - シン

>>愚痴は消しました

第8話『宴の幕開け』





文化祭前日。

「ごめんなさい……あたしがもっと手伝えてたら、みんなに苦労を掛けなくてよかったのに……」

「いえ、いいんですよ先輩は。先輩は今年が最後なんですから、クラスの出し物もいい物にしなきゃいけませんからね!」
「ま、何はともあれ、真中先輩たちが頑張ったおかげで、今年はまさに集大成と言える出来になりましたよ!」

「ふふ、集大成か……」

美鈴の言葉に感慨深くなる綾。
だがそれと同時に、否応無しに思い出すことがある。
そう、学校中の女子から目の敵にされていることだ。
そんな状態である以上、『クラスの出し物もいい物にしなきゃいけませんからね!』という言葉が、綾の脳裏に虚しく響いていた。

この1週間で、イジメは更にエスカレートしていた。
机への落書きや、机の中にゴミを入れる、物を壊し、無くす……
注意しないと気づかないような所で、イジメが広がっていた。
たとえ気付いたとしても、菜々美の力を恐れて、見て見ぬ振りをする者しかいなかった。

「(今年は……どうなるんだろう……?)」
「(真中くんと……文化祭を楽しめるのかな?)」








所変わって桜海学園。

「あ、唯ちゃん、ちょっといい?」

「西野さん?もちろんいいよ」

つかさはたまたま見かけた唯を呼びとめ、人の少ない場所へと誘導する。

「で、西野さん、急にどうしたんですか?」

「それなんだけど、ちょっと唯ちゃんに頼みがあるんだけど、いいかな?」

「うん!あたしにできることなら何でもいいよ!」

元気いっぱいな笑顔を見て、つかさは安心すると共に、若干の罪悪感を覚える。
自分が今からやろうとしていることは、他者を不幸の底へと叩き落す行為に他ならないのだから……

「明日、泉坂高校の文化祭だって知ってるよね?」
「実はその事で……   」





「……とにかく、あたしは西野さんと一緒に行けばいいんだね?」

「うん、それで、上手く東城さんを説得して欲しいの」

「分かった、あたしもやってみるよ!」

またしても無邪気で元気いっぱいな笑顔を見せる唯。
その表情は、つかさと年が1つしか離れていないとは思えないものがある。

「(……唯ちゃん、ごめんね。多分……東城さんは……)」
「(でも、あたしはもう迷わない。何としても、淳平くんの彼女であり続けるから、あたしを……応援してね)」

唯の笑顔が、つかさから迷いを消し去ってゆく。
たとえ、それが醜いエゴだったとしても、つかさにはもう迷いは無かった。

そう、全ては淳平の彼女であるために。







そして、宴は幕を開ける……


[No.856] 2008/02/25(Mon) 23:36:00
明と暗・白と黒  第9話 (No.856への返信 / 10階層) - シン

「東城、いよいよだな」

「はい、今年は手伝えそうに無いですけど……絶対に最高の文化祭にしたいね」

「……ああ、3年間の集大成なんだ……!絶対に最高の文化祭にするぞ!」
「時間があれば東城の所にも行くからさ、東城も見ててくれよ!」

「……はい」

最高の出来にしようと意気込む淳平。
これが高校生活最後の文化祭である以上、最高の出来にする義務があった。
対して綾の方は……

「じゃあ、あんまり待たせても悪いから……あたし、行くね」

綾は淳平に別れを告げ、自分のクラスへと向かう。
……若干の寂しさと悲しみを浮かべながら。



第9話『熱血と意気消沈と……』



「「……………………」」

美鈴は無言で殺意を放っていた。
小宮山は無言で悲しみ、固まっていた。

「あちゃ〜……やっぱりと言うか、何と言うかって感じね……」

さつきは小宮山に哀れみの感情を抱いていた。
勿論、理由は非常に簡単だ。

「小宮山……やっぱり振られたんだな。予想はしてたけど」

外村も、小宮山を哀れみの視線で見つめる。
非常にあっさりと、小宮山はちなみに振られてしまっていた。

「『プレゼントは花よりもブランドのバッグの方がよかったな……』って、アホかあああああああッ!」
「しかも、ついでに退部だって!?いい加減にしろおおおおおおッ!」

美鈴は殺意を抑えきれず、準備も忘れて絶叫していた。
部室に置いてあった置き書きには、人の神経を逆撫でするような事ばかりが書き連ねられていた。

「美鈴、とりあえず落ち着きなよ……端本がいないからって何よ。あたしたちだけでやってやるわよ!」

「そうですね……北大路先輩の言うとおりです……!」
「こうなったら、端本なんかの手を借りるまでもありませんよ……」

この時、美鈴の後ろには何か鬼のようなものが見えていたらしい。

「兄貴!こうなったら吹っ切れたわよ!衣装を出して!」

「おっ、美鈴が珍しく燃えてるな!んじゃやるか!」

本気になった妹の姿を見て、兄もこれまでにないほどのやる気を見せる。
若干名を除いて、映研メンバーの士気は最高潮に達していた。

「……すげえ、俺なんか……まるで出る幕が無いな……」
「あの美鈴が進んでコスプレするなんて……」

そして、出る幕が無い淳平であった。



嵐泉祭が始まった。
淳平たちにとっては最後となる文化祭である。

ちなみに今年の動員数ランキング1位の最有力候補は、相変わらず軽音部であったが、ダークホースとして映研の名前も挙げられていた。
それだけ、この泉坂高校における映研の存在が認められてきたという事である。



多目的教室にて。

「んじゃ東城さん、店番は頼んだわよ」

「……はい」

5組の出し物はお化け屋敷だった。
やや広めの教室であるこの場所を借り切って、お化け屋敷を作り上げていた。
だが、肝心のクラスのメンバーは、あまりモチベーションが上がらないようでもある。

「(真中くんと……一緒に回りたかったけど……)」

そんな事を考えても、何も変わることは無かった。
綾が何を望もうとも、今目の前にある物こそが現実だった。



そんな時。

「……東城さん」

「あ、はい……」

突然の声掛けに驚いた綾は、更に驚くこととなった。

「西野さん……それに、唯ちゃん……」




続く


[No.858] 2008/02/26(Tue) 00:13:07
Re: 明と暗・白と黒  第10話 (No.858への返信 / 11階層) - シン

「東城さん、時間が空いた時でいいから、ちょっと話したい事があるの」
「どっちにしても、答えは聞いてないんだけどね」

あたし……笑いながら冗談のように言ってる……
だけど、本心では笑ってない。

東城さん、あなたには悪いけど……
あなたには、淳平くんを諦めてもらうしか……



いくら恨まれてもいい。
あたしのやる事が理解できなくてもいい。

ただ、これはあたしのためでもあって、淳平くんのためでもあって、何より東城さんのためだから。





第10話『突撃&激突』





「淳平くん!映画、見に来たよ!」

「あたしも一緒だけどね」

「おっすつかさ……って、唯もいるのかよ!?」

つかさと唯は、真っ先に視聴覚室へと向かっていた。
そこは、映画の上映会場である。

つかさはともかく、唯も淳平の作った映画に興味津々である。
それだけに、この2人にとってのメインイベントである事は間違いない。

「西野さん、唯ちゃん、とりあえず後から来る人の邪魔になったらマズイから、どこか席に座ってくださいね」

淳平と談笑しようとする2人だったが、美鈴が席に座るようにと促す。
辺りを見ると、既に観客が大勢集まっており、文化祭開催からわずか十数分で満席になろうとしていた。
そして、もうすぐ第1回上映が始まる時間である。

余談だが、美鈴の着ている服は黒色を基調としたメイド服である。

「唯ちゃん、じゃあ座ろっか」







約1時間後。
上映が終わり、淳平はつかさたちに感想を聞いていた。

「う〜む……中々の出来だねえ」

「な、中々の出来ですか……」

唯に言われてガックリとうなだれる淳平。
勿論、これは唯が冗談交じりで言っているだけなのだが。

「やっぱり淳平くんって凄いよね。確かに撮影も気合が入ってたけど、それを更に上手く纏められてるんだからさ!」

「そ、そうか?そりゃ褒められて悪い気はしないけど……」

そう言いながらも、淳平の頬は明らかに緩んでいる。
そこを唯が見逃すわけが無く、厳しい突っ込みがはいる。

「じゅんぺー、西野さんは淳平のために、良いように言ってくれてるんだよ」
「要するに、社交辞令だって分からないの?」

「しゃ……社交辞令ですか……」

淳平、轟沈。
つかさの言葉で有頂天だった淳平の心は、一瞬にしてどん底へと叩き落された。

「唯ちゃん!余計な事は言わなくていいんだよ!」

「またまた〜、西野さんだって、本当は思ってるんでしょ?」

「だから、あたしは本当に淳平くんの映画がいいなって思ったんだからっ!」

とうとう追いかけっこを始めてしまった2人。
だが、淳平には既に突っ込む気力が無かった。



「あの……」

突然声を掛けられた3人は、それぞれの行動をやめて声のした方を向く。
そこには、綾の姿があった。

綾の表情はどこか暗い。
そして、綾の姿を認めたつかさの表情も、やや暗くなる。



「向井、真中っちたちがいたよ!」

「舞ちゃん、ほ、本当?」

一方、こずえと舞も同じタイミングで淳平たちのいるポイントへと到着した。
どうやら、時間的には第2回上映を見るつもりだったらしい。

「じゃあ、あたし……行ってきます」

そして、こずえは淳平の下へと向かおうとする。
だが、何か不穏な空気を感じ取った舞がそれを止めた。

「待って向井……何かヤバイ気がする」
「真中っちの周りに東城さんや他の女がいるけど、何か様子が変だ」

「よ、様子が変って?」

舞の言いたいことがよく分からず、困惑するこずえ。
彼女からすれば、淳平が目の前にいるのに止められるのは不本意なのだろう。
だが、舞はこずえに一言で状況を伝えた。

「これは……修羅場の臭いがするわよ!」

「しゅ、修羅場ぁ!?」

こずえは、思わず大声を上げてしまった。





続く


[No.876] 2008/02/28(Thu) 22:51:33
明と暗・白と黒  第11話 (No.876への返信 / 12階層) - シン

「西野さん、あたしに話って何ですか?」
「(だけど、今の声は誰なんだろう……?)」

「そうね、この場合はあっさりと言い切ったほうがいいかな?」
「(今の叫び声……誰?)」

2人ともがただならぬオーラを放っている。
この状況を表す言葉があるとすれば、修羅場以外に無い。
ただ、この修羅場に野次馬がいるようだが。

「東城さん、淳平くんに近づかないで」
「淳平くんの彼女はあたし。それに、東城さんには淳平くんの他にいい人だっているんでしょう?」
「それに、淳平くんもあなたの事ですごく困ってる。だから、もう近づかないで!」

つかさの一撃。
それは、綾の反撃を許さない痛恨の一撃だった。

だが、つかさは決して口撃を緩めはしない。
この時のために、唯を連れてきていたのだ。

「東城さん、東城さんなら分かってくれるよね?」
「淳平の彼女が西野さんだって事も、淳平を諦めるのが東城さんのためになるって事も、分かってくれるよね?」
「分かるんだったら、淳平や西野さんを困らせないで!」

ショックのあまり、綾はその目を大きく見開く。
まさか、唯にまで厳しく言われるとは思っていなかったのだろう。

「お、おい……つかさも唯も、ちょっと落ち着けって!」
「さすがに言いすぎじゃないか!?」

淳平が2人をなだめようとするが、その声は綾の耳に届かない。
ただ、淳平が『つかさ』と名前で呼んだという事実だけが届いていた。

「淳平くんは少し黙ってて!これは、ハッキリしなくちゃいけないことなんだから!」

「……分かったわよね?もう淳平くんには近づかないで」
「それが、あなたのためにもなるから……」

綾は現実を受け入れることができない。
いや、受け入れるわけにはいかなかった。
今の綾にとって、淳平との繋がりを断ち切られるということは、完全なる孤独を意味していた。

「……俺、あんまり上手く言えないけど……」

淳平はそう前置きしてから、綾に言葉を紡ぐ。

「やっぱり、つかさの言うとおりだと思う」
「そりゃ、つかさも唯も言いすぎだけど、確かに今のままじゃ東城のためにはならない」
「だから……ごめん」

もう綾の耳には何も聞こえない。目には何も映らない。
そこにあるのは純粋な絶望だった。





「うっひゃ〜こりゃマジで修羅場だったね……」
「流石のアタシもあそこまで言えないわよ」

舞は目の前で繰り広げられた『生修羅場』を目の当たりにして、感心していた。
周りからは『人生経験が豊富そうな女の子』と言われている舞だが、修羅場を見るのは初めてだったらしい。

「そ、そんな……真中さんに彼女がいたなんて……」

対するこずえは、淳平に彼女がいたという事実に愕然としていた。
目一杯に涙を浮かべ、今にも大声を出して泣き出しそうである。

「……ま、元気出しなって……」
「今度会った時に、アイツにちょっと『焼き』入れてやるからさ」
「彼女がいるくせに、脈アリな態度を見せるなって話よ」

こずえの肩を優しく叩きながら、自分なりの方法で慰める舞。
だが、簡単に癒える傷ではないという事は、舞にも分かっていた。



  「フフッ、いい気味ね」

「……?」

どこからか声が聞こえた気がして、舞は辺りを見回す。

「グスン……舞ちゃん、どうしたの?」

「あー、気のせい気のせい。空耳だったみたい」
「んじゃ気分転換に、どこか他の所を先に回ろっか」







第11話『痛恨』

続く


[No.887] 2008/03/03(Mon) 15:38:25
明と暗・白と黒  第12話  (R指定かも……) (No.887への返信 / 13階層) - シン

>>ヤバイならR指定で。
>>一応、譲れる範囲でギリギリまで削ったんだけどなあ……





「聞いたわよ。あなた、4組の真中にまで近づくなって言われたんですってね」
「いい気味ね。やっぱり天地くんを誘惑したツケが回ってきてるのかしら?」

「……………………」

綾は何も言わない。
何の反応も示さない。

「(チッ、シカトされるなんて……)」
「(ま、いいわ。アンタには少しばかり痛い目に遭ってもらうから)」

菜々美の瞳に暗い光が宿る。
崩壊の足音は、すぐそこまで迫っていた。





第12話『悪夢』





  「ただいまを持ちまして、嵐泉祭を終了いたします」
  「尚、これより後夜祭の準備をいたします」
  「一般の方も参加できますので、是非、後夜祭のフォークダンスもお楽しみください」

文化祭は終わった。これといった波乱も無く。

視聴覚室では、淳平たちが後夜祭前の片付けをしている所だった。

「それにしても、今年もかなり人が入ったな〜」
「最初から最後まで、ほとんど満席のままだったもんな」

「そりゃそうよ!そうじゃなきゃ、恥ずかしい思いまでしてあんな格好した意味がないじゃない!」

どうやら外村兄妹は相変わらずのようだ。
そして、さつきも疲れを見せるどころか、朝の調子を維持し続けている。

「どっちにしても、頑張った甲斐はあったわね。今年こそ1位になれるかもしれないわよ!」
「ね、真中!」

「あ、ああ……」

だが、淳平だけはどこか締りが悪い。

「どうしたのよ……って、分かった!東城さんが最後に付き合えなかったからでしょ?」
「確かに真中の彼女は西野さんだけどさ、やっぱり東城さんにも来て欲しかったんでしょ?」

「ま、まあな……」

相変わらず生返事の淳平。
やはり、綾に対して引け目があるのだろう。

「……でもさ、東城先輩もそうだけど、小宮山先輩も大丈夫かな?」
「あれから結局帰ってこなかったよね……」

そして、美鈴も何かが引っかかっていた。
昼過ぎに休憩で離脱してからというもの、今まで誰も小宮山の姿を見ていなかった。
確かに失恋のショックが大きかったのは誰にでも分かる事実だが、それにしても少しおかしい。

「ま、今はそっとしてあげた方がいいんじゃない?」
「明日にでもなれば、アイツの事だから元気になってるって」

「そりゃそうだな、北大路の言うとおりだ。アイツって結局馬鹿だし」
「何はともあれ真中、そろそろつかさちゃんの所へ行ってあげな。フォークダンス、踊るんだろ?」

小宮山についての詮索をやめた外村は、淳平につかさの所へ向かうように勧める。
部の片付けは自分たちでやるから、恋人と後夜祭を楽しめ……という意味である。

「……そうだな!んじゃ行ってくるよ」

後夜祭の事を考えて、ようやく元気を取り戻した淳平。
綾との一件で気分がやや落ち込んでいたが、遂に復活のようだ。











少女は悪夢を見ていた。
いや、悪夢を見ているのだと思っていた。

そうでなければ、今起こっていることが受け入れられないから。

「嫌っ、嫌ああああっ!」
「お願いだからやめてっ!やめてええええっ!」

「今更……やめられるかよ!」
「もう諦めなって!」

少女は泣き叫び、男に懇願するが、少女に覆いかぶさった男は容赦しようとしない。
男の目には、負の感情が見えていた。

それは少女にとって、悪夢以外の何物でもない。
現実として受け入れる事は、決して出来ない。

「お願い……真中くん助けて……」

段々と弱弱しくなる抵抗。
瞳からは涙が止め処なく溢れ、その顔を濡らしている。

「真中はともかく、誰も来ないって。諦めろって何度も言ってるだろ?」
「だからさ……もうやっちゃうぜ」

暗い部屋の中で、何か金属音が聞こえる。
そして、金属音の次は衣擦れの音が聞こえ始める。
衣擦れの音が聞こえなくなるとほぼ同時に、少女の抵抗が再び激しくなる。

「お願いっ!それだけは……それだけはやめて!」
「本当にお願いだから、絶対にそれだけはやめてえええっ!」

だが、少女の懇願が男に通じるはずが無かった。

「いくらお願いされても……やめられるかってんだよ!」

少女と男のうめき声に似た声と共に、その瞬間が訪れた。
少女にとって、それは純粋なる絶望の瞬間だった。

そう、彼女が全てを失った瞬間なのだ。






続く


[No.888] 2008/03/03(Mon) 16:36:13
明と暗・白と黒  第13話 (No.888への返信 / 14階層) - シン

校舎の非常口から、1人の少女がゆっくりと姿を現す。

着衣は乱れ、股下からは血が垂れ落ち、歩いた跡には数滴の血が落ちている。
その少女の視線は、校庭の中心にあるキャンプファイヤー……その周りで踊る1組の男女を捉えていた。
黒髪の優しそうな少年と、人目を引く金髪の明るい少女……


少女は問う。
何故、少年の隣で踊っているのが自分ではないのか。
何故、少年は自分ではなく彼女を選んだのか。
何故、自分はこんなにも辛い思いをしなくてはならないのか……


答えは出ない。いや、答えを出す事を拒絶している。
何故なら、いずれにしろ絶望的な答えしか出ないからだ。

「うっ……ううっ……」

未だに生暖かい感触を感じる下腹部が、鈍い痛みを与え続ける。
だが、そんな痛みは些細なものでしかない。

彼女にとって本当に痛いのは……心だった。



少女……東城綾は、誰にも知られること無く泣き崩れる。
絶望に包まれた綾の心は、ゆっくりと壊れてゆく。





第13話『明と暗』





PM 9:13
西野家

「お、おじゃまします……」

「淳平くん、そんなに固くならないでいいよ」

後夜祭も終わり、淳平はつかさから家に来るように誘われていた。
そして今、淳平はつかさの家に足を踏み入れていた。

「……あれ?何で誰も返事しないんだ?」

普通なら家の誰かが迎えに来るはずであるが、誰も現れない。
淳平が訝しがっていると、つかさが説明する。

「今日ね……家に誰もいないんだ」

「そっか、家に誰も……へっ!?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまう淳平。
だが、つかさは構わず話を続ける。

「う、うん、そうなの」
「それに、淳平くんだって家に連絡はしてるんでしょ? だ、だから、今日はあたしの家でゆっくりしていってよ」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

淳平の反論は全て封殺されてしまう。
だが、ここで淳平はあることに気付く。

「(まさか……つかさは本気!?)」

今更になって気付いたことではあるが、今のつかさは頬が紅潮しており、声もどこか上ずっている。
つまり、つかさは本気なのだ。

「……俺は……」







「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「み、美鈴!? い、今はちょっとマズイから少し待って!」

外村家では、美鈴がヒロシの部屋を訪れていた。
だが、ヒロシは相当慌てた様子でパソコンの画面を隠している。

「な、何なんだよ一体?」

「(馬鹿兄貴……相変わらずね) うん、ちょっと気になってる事があるのよ」

美鈴は心の底では兄に呆れているが、それでも話を続ける。
その顔を見る限り、少々深刻な話題のようだ。

「東城先輩の事だけどさ、何かおかしくない?」
「いくらクラス委員の仕事が忙しいからって言っても、部活には全然出てこなかったし、たまに会った時も表情が少し曇ってる」
「確かに真中先輩に振られたのがショックなのは分かるけど、あれからもう1ヶ月が経つのに……何だか変じゃない?」

「う〜ん、確かにそうだな……変って言えば変だな」

そう言いながら、ヒロシは1ヶ月前から起こっている事を整理し始める。
美鈴の疑問が、何か重要なことのように感じられたからだ。

「……だけど、俺に心当たりは無いな」
「クラス委員の仕事が忙しいのは当然だし、東城って結構引きずるタイプだからな……別に、こんな事があってもおかしくないよーな」

「十分おかしいと思うけど……」
「でも、これと言って変な所はやっぱり無いか……」

美鈴は少し呆れた表情をしながら、ヒロシに突っ込みを入れる。
だが、これといって不自然な点が無い以上は、これ以上考えても邪推でしかなかった。

「ん〜、まあいいか。んじゃお休み」

美鈴はこれ以上の詮索をやめ、自室へと戻ってゆく。

部屋の扉が閉まり、部屋の主である自分しかいなくなったところで、ヒロシはもう少し考えを深くする。
これといって変な所がないように思えたが、今になって何か不自然な気がし始めていた。

「(待てよ、そういえば天地の奴も東城と一緒にいることが殆ど無かったはず……」
「(それと、5組は天地のファンクラブ状態って噂があったよな……)」

ここで、ヒロシは更に考える。
現在知りえる情報だけで、不自然な所が何かを解き明かそうとしていた。

そして、しばらくするとある仮説が思い浮かんだ。

「(まさか……? 俺の邪推だと思うけどな……)」

邪推だと思いつつも、その表情は深刻なものになってゆく。






その頃

「淳平くん、淳平くんなら……いいよ」

「え……?」

つかさのベッドの上で、淳平はつかさに抱きしめられていた。
淳平は体いっぱいにつかさの柔らかい身体を感じ、自然と鼓動が大きくなる。

「あたし、淳平くんと心も身体も一緒になりたいの」
「だから……いいよ」

「西野……っ!」

淳平は何故こうなったのかすら忘れて、つかさに抱きついた。
過程など、どうでもよかった。
ただ、好きな人がすぐ近くにいる、誘ってくる。
1つになる事を望んでいる。
淳平にはそれだけで十分だった。

完全に密着した状態になり、自然と2人の顔が近づく。
そして、お互いに赤くなった顔で微笑むと、2人の距離が……零になった。






続く


[No.905] 2008/03/09(Sun) 22:39:52
明と暗・白と黒  第14話  やりたい放題…… (No.905への返信 / 15階層) - シン

「……………………」

文化祭も終わり、受験モードに入った泉坂高校。
だが、この状況下で淳平は頭を抱えていた。
相変わらず、授業についていけないのだ。

文化祭の夜、淳平とつかさは身も心も結ばれた。
だが、それとこれとは全く話が異なってくる。



「フンフフ〜ン……」

「小宮山、やけに上機嫌だな?」

放課後、淳平が机にへばり付いている横で、妙に上機嫌な小宮山と外村が会話していた。

「あ、分かるか? でも何で俺がこんなに気分がいいのかは教えないけどな」
「そーゆー訳で、お先に失礼!」

そう言うや否や、奇妙なほどに上機嫌な小宮山は教室を出て行った。
あのまま、軽く小躍りしそうな勢いである。

「……頭でも打ったのか? 昨日の文化祭はアレだったのに……」

少々呆れた表情で見送る外村。
一方で淳平は、何かをうわ言のように呟いていた。
どうやら、自分の学力に相当なショックを受けているらしい。

そんな淳平を、さつきは心配そうな表情で見つめている。

と、ここで外村は昨晩考えていた事をもう一度考える。
邪推だと思っている事だが、何やら胸騒ぎがしていた。

「……いや、やっぱり考えすぎだよな……」

外村は一人呟く。
やはり邪推でしかないと、外村は一人で納得する。

しかし、ここで一つだけ思い浮かぶことがあった。
朝、東城に会った時に見た、どこかおぼつかない足取り……
だが、これは何の関係も無い事だと、外村はもう一度納得した。







入り口で、菜々美と小宮山が何やら話をしている。
その様子を見て、綾は震えを感じずにはいられなかった。

忘れもしない、あの恐怖。
絶対的な力に支配され、綾の抵抗は何の意味も成さなかった。
そして、悪夢以外の何物でもないその瞬間……
今でも下腹部に若干の痛みと違和感を感じ、足取りも少しおぼつかないものになっていた。

嫌な記憶を呼び起こされ、綾は震える手で自分の肩を抱く。
そんな事をしていると、菜々美が自分を呼んでいた。

「東城さん、4組の小宮山が お 迎 え に来たわよ」

菜々美のその顔は、浅ましい憎悪と嘲笑に満ち溢れていた。
そして、『お迎え』という言葉の意味は……

「……嫌です。それだけは……嫌です」

綾は拒絶の意思をはっきりと示す。
だが、菜々美には拒絶など、通るはずも無かった。

「あっ、そう。じゃあ……これ、ばら撒いてもいいかしら?」

菜々美がポケットから取り出したものを見て、綾は愕然とする。
そして同時に、綾を更なる絶望が包み込む。
周りからはクスクスという嘲笑の声が聞こえてくる。

「あ……あ……」

最早、それは声にすらなっていない。
綾に拒否権など、最初から無かったのだ。

「じゃあ綾ちゃん、行こうか」

小宮山のゴツゴツとした手が綾の肩を抱く。
その感触に、綾の心は恐怖心と絶望で支配されてしまう。

宴は終わった。
だが、絶望の宴はまだ始まったばかりのようだ。






第14話『絶望の宴』


[No.909] 2008/03/11(Tue) 16:59:55
明と暗・白と黒  第15話 (No.909への返信 / 16階層) - シン

第15話『歪み』





綾が小宮山に連れられて、どこかへと消えてゆく。
菜々美はその様子を見送ると、静かに綾と小宮山を嘲笑った。

「(フフッ、ドの付く阿呆にいいようにされる学校のアイドルなんてね……)」
「(いい気味じゃないの。それに、アイツがあっさりとあたしの誘いに乗ってくれてよかったわ)」







菜々美がそれを思いついたのは、文化祭当日の昼前。
妙なほどに悲しみに暮れる小宮山を見つけた時だった。

「ううう……ちなみちゃん……」

「(……コイツは確か4組の……)」
「(何があったのか知らないけど、ちょっと使えそうね)」

小宮山も映研メンバーである事を知っていた菜々美は、彼を何かに使えないかと考える。
そして、第一に取った行動が、小宮山に接近する事だった。

「アンタ、4組の小宮山ね? ちょっといい?」
「何で文化祭なのに泣いてんのよ? 何だったら相談に乗るけどさ」

甘言を用いて、巧妙に小宮山との話へと持ちこむ。
次の行動は、何故泣いているのか、理由を聞く事だった。
同級生や後輩の相談をよく受ける菜々美にとって、この程度の事は簡単だった。





校舎裏の物陰

「(……冗談でしょ? 端本って確か……まあいいか)」
「成程ね……」

小宮山から、一通りの話を聞いた菜々美は、自らが思いついた策を決行することを決意する。
それは、綾に男を嗾け、綾の肉体と精神に致命的なダメージを与えるという策だった。

都合よく、綾と関わりが深い小宮山を手駒にする準備が整い、菜々美は密かにほくそ笑む。

「(まさかここまで上手くいくなんてね。あと一息って所かしら)」
「ちょっとあたしからの話があるわ。よく聞いてて」
「アンタが振られたのは、積極性が足りなかったからよ」
「あたしが言うのも何だけど、女ってのは少しぐらい無理矢理やらなきゃ駄目なのよ」

「む、無理矢理って、どういう事だぁ?」

上手い具合に小宮山が食いついた。
菜々美はチャンスとばかりに、巧みな話術で小宮山を追い詰めていく。

「要するに、好きな女は少し無理矢理気味にヤってしまえばいいのよ。そうすれば、後は案外どうにかなるものなの」
「逆に、そうじゃなかったら相手に逃げ道を作る事になっちゃうからね」

「そ、そうだったのかよ……だから、俺はちなみちゃんに逃げられたんだな」

あまりにも素直に菜々美の言葉を受け入れる小宮山。
その様子を見て、菜々美は確信する。
コイツは単純馬鹿だ……と。

そして、最後の追い込みを掛ける。

「ま、アンタの言うとおりね。そこで、あたしがちょっと手を打ってあげるわ」
「実はね……





「ホ、ホントかそれ!?」

「ええ、本当よ。とりあえず、あたしの提案に乗る気があるなら5時30分に5組に来て」
「……あたしはアンタを裏切ったりしないから」

そう言うと、菜々美は小宮山に背を向けて立ち去ってゆく。

その顔に、歪んだ笑みを浮かべながら……





「とりあえず、コイツがあれば何とかなるわね」

5時20分頃
菜々美は待ち合わせ場所に指定した5組の教室で、カメラの準備をしていた。

すると、教室の扉が開き、予定時間よりも早く小宮山が現れた。
その顔は、明らかに尋常ではない興奮が見える。

「来たわね……」

菜々美はニヤリと笑う。
その笑みは、あまりにも歪んだ感情で満ち溢れている。

そして、2つの歪んだ感情が1つとなり……





続く


[No.914] 2008/03/14(Fri) 15:00:48
明と暗・白と黒  第16話 (No.914への返信 / 17階層) - シン

「えっ? 綾さんは今日も忙しいのかい?」

「う、うん。そうなのよ」
「何だかんだでクラス委員だしさ、色々と忙しいのよね……」

菜々美の言っている事は全てが嘘であった。
文化祭が終わり、実質、クラス委員としての仕事はない。
今頃は、昨日のように小宮山に組み敷かれているだろう。

だが、天地を言いくるめるには十分な嘘だった。

「そうか、なら僕が無理を言って邪魔するわけにはいかないね」

そう言うと、あっさりと天地は引き下がる。
女性に優しいという性格が、今では完全に裏目に出ていた。

あまりにも、女という生き物を信じすぎていた。





第16話『すれ違い』





泉坂ゼミナール

「……!」

「こずえちゃん、おっす…………って、逃げたぁ!?」

こずえに会った淳平は、まず最初にこずえの反応に驚く事となった。
男性恐怖症のあるこずえだが、最近は少しずつ改善されつつある。
だが、今日は淳平の姿を見るなり、離れていってしまった。

「どうしたんだよ今日は……?」

「……アンタのせいだよ」

後ろから怒ったような声がして、淳平はまたしても驚く事となった。
Aクラスであるはずの舞が、いつの間にかBクラスの教室を覗いていた。

「お、俺のせいってどういうことだよ!?」

やや怒ったような口調である理由が分からず、淳平も強い口調で反論する。
だが、舞の言葉で淳平の反撃は完全に封じ込まれる事となる。

「アンタねえ、彼女がいるんだったら向井にまでいい顔をするんじゃないよ! アンタがはっきりしなかったから、向井は物凄く傷ついてんだよ!」
「まさか、向井の気持ちに気付いてなかったなんて事を言うんじゃないよね!?」

淳平には返す言葉が無かった。
こずえの気持ちに気付いていたと言えば気付いていたし、気付いていなかったと言えば、気付いていなかったとも言える。
とにかく、こずえの本当の気持ちがどうなのか、淳平にはハッキリと分かっていなかったのだ。
そして、つかさという彼女がいるのにこずえにまでいい顔をしていたのは、決して否定できる事ではなかった。

一通り怒鳴って気が済んだのか、舞はAクラスへと戻っていく。
淳平は何も言い返す事ができず、ただそれを見ているだけだった。

そして、悲しみに暮れるこずえを、右島はどこか心配そうな表情で見ていた。
もっとも、いつもの表情と殆ど変わらないので、傍目から見れば鬱陶しがっているようにしか見えないのだが……





「ところでさ、東城を最近見ないよな……」

「そういえばそうだな。俺なんか東城を見るためにここに通ってるようなもんだから、やる気が出ないな……」

「それで良いのかお前は?」
「まあ、さすがにちょっとおかしすぎるけどさ」

こんな会話が教室の片隅で行われていたが、淳平は特に気にする事はなかった。
文化祭のあの日、淳平の中では綾とのつながりは消え去っていた。
少なくとも、自分から決別の意思を伝えた以上は、今更2人のつながりを戻す事など出来ないと思っているからだ。







綾は念入りに身体を洗っていた。
いや、念入りと言うには、少し過剰かもしれない。

くびれたウエストとは対照的に、肉付きが良く、あまりにも魅力的な白い裸身。
だが、その身体は男の欲望によって既に汚されていた。

綾は覚悟していた。
こうやって、過剰なほどに身体を洗おうとも、この穢れが落ちる事は無いのだと。
そして、これが習慣となってしまうのだと。
それは……今日ハッキリとした事実である。



だが、綾は諦めてはいなかった。

『あの日』のノート……あれがある限りは、自分と淳平の間にある糸が切れることは無いと、確信していたからだ。

「大丈夫……まだあたしは……頑張れる……」
「あのノートがあれば、あたしと真中くんとの間に……誰も入れないはずだもん……」

そう自分に言い聞かせ、綾は明日への活力とする。
それが、綾に残された最後の希望だったからだ。

だが、綾には最初から『希望』など無かったのかもしれない……





続く


[No.917] 2008/03/16(Sun) 21:37:30
明と暗・白と黒  第17話 (No.917への返信 / 18階層) - シン

早朝

綾は、いつものように学校の用意を整えていた。
その時、ふと数冊のノートが目に入る。

「あ、そうだ……これを持って行かなきゃ……」

数冊の内、1冊には名前欄に中学生の頃のクラスが書き込まれていた。
それは、自分と淳平を引き寄せた、思い出のノート……









「あっ、真中くん」

教室へ通じる廊下にて

ノートを抱えた綾は淳平の姿を見つけると、明るい表情になる。
この時は、悪い事や嫌な事も全て忘れる事ができた。

「ん、東城か……」

だが、対する淳平は歯切れの悪い表情で、綾と目を合わせようとはしない。
繋がりを求める綾と、繋がりを断とうとする淳平。
この2人の間に出来た溝は、綾が思っているよりも遥かに深かった。

「ねえ真中くん、放課後にまた屋上で話……

「悪いけど、前に言われてたよな、俺に近づくなって」
「もう、俺たちは何でも無いんだ。部活はもう引退したし、大学だって違う所に行く」
「また会うとしたら……その時は……」

そう言い残すと、淳平は一瞥せずに綾から離れてゆく。
綾は追いすがろうと手を伸ばすが、その手が届くはずも無かった。
2人の間に繋がりは、何一つ残っていなかった。

そして、綾の耳に憎き男の声が聞こえてくる。
その男は、今日も綾を犯すだろう。
今日も、明日も、明後日も、未来永劫……
未来永劫、小宮山の玩具となるしか無いのだ。

綾は目の前がゆっくりと暗くなるのをを感じていた。








順調に愛を育む淳平とつかさ。
一緒にいられるのは春までだと分かっていた2人は、より濃厚な時間を過ごすようになっていた。

春にはつかさがフランスへと旅立ち、夢へ真っ直ぐに向かってゆく。
そして、淳平も向かう先を決めなければならなかった。





そして、孤独であり続ける綾。
誰からも味方されず、たった1人で苦痛に耐え続けるしかなかった。

理不尽な苛めを受け続け、放課後には小宮山の玩具にされる日々。
それどころか、文化祭の2週間後には、小宮山だけでなくその他大勢の男の相手をさせられる日もあった。
拒否権を持たぬ綾は、それを受け入れるしかなかった。








文化祭から1ヶ月が経った。
時は11月の半ば、彼岸が近づいていた。

「アハ……アハハ……今日も汚された……」

綾はうわ言の様に呟く。
その言葉を聞く者は誰もいない。

風呂上りのその身体は、ほんのりと上気して赤くなっている。
その裸身には、明らかに他とは違った赤い跡が付いていた。

それは、綾が男の欲望を満たすためだけの人形であった事の証明。
そして、その穢れを落とそうとした、精一杯の抵抗の跡でもあった。

「どうして……こんな事になっちゃったのかな……真中くん……」
「真中くん……真中くん……真中くん、真中くん、真中くん真中くん真中くん真中くん……」

溢れ出る涙が止まらない。
まるで、壊れた蛇口のように。
いや、綾の心は本当に壊れているのかもしれない。

「真中くん真中くん真中くん真中くん真中くんっ……!?」
「うぐぅっ……ゲェッ……ウゲッ……うぅ……!」

どこか別の世界へと旅立っていた綾の意識は、突然こみ上げてきた吐き気で現実に戻る事となった。
あまりにも苦しくなり、洗面台に続けざまに吐き出す。

しばらくすると吐き気が収まり、少し楽になったのだが、今度はある仮説が浮かび上がってきた。
それは、綾にとっては決して肯定できる物ではない仮説だった。

指折り数え、何度も計算する。
何度も、何度も、何度も、何度も……



だが、何度数えても結果は同じだった。
本来なら2週間前にあるはずの出来事が無かったのだ。

「あ、あはは……あはははは……生理が……来てない……」
「そっか……もう、手遅れなんだ……」

それは、あまりにも残酷すぎる現実だった。
もっとも恐れていた事を目の当たりにし、綾の瞳から輝きが消えてゆく。
その身体には、既に男の子種が根付いていた。







綾は恨み、そして呪った。

自分に理不尽なる責め苦を与え続ける女たちを、
自分を玩具として扱った男たちを、
自分を終わり無き苦しみの中に追い込もうとする運命を、

自分から本来の居場所……淳平の隣を奪ったつかさを、







「そっか……簡単だったんだ……真中くんの隣にいたかったら、隣にいる人を退かせばいいだけなんだ……」
「邪魔になるんだったら、邪魔にならないようにすればいいだけ……」

「西野さんがいなければいいだけなんだ……」



かつてのような輝きを失った瞳は、暗い光を湛えている。
つかさに対する憎悪に満ちたその光は、あまりにも淀みのない綺麗な光だった。
深淵の闇に閉ざされた、絶望の光であるが故に……





「あは……あはは……あははははははははははっ!」

乾いた哄笑が響く。



『東城 綾』という人格は、崩壊した。







第17話『終末へ』



続く



>>今回もちょっとやりすぎたかな……


[No.938] 2008/03/25(Tue) 00:16:36
明と暗・白と黒  第18話 (19話執筆にあたり、一部修正) (No.938への返信 / 19階層) - シン

「おっ、あの映画……まだ上映してたのか」
「凄いロングラン上映になったなあ……」

「そうみたいだね、ほら、物凄い人気だって言うしさ」

2人は恋人同士。
高校3年生で、慌しく勉強をしなければならない身ではあるが、デートと言うものは、そんな事を忘れる事のできる穏やかな一時だった。



だが、2人の穏やかなる一時に終止符を打とうとする者は、泉坂の街を彷徨い歩いていた。
輝きを失った瞳、絶望に包まれ破壊された心。
呪われし命をその身に宿し、その者は、死をもたらそうとしていた。





Strawberry 100percent
Brightness and Darkness,White and Black

The 18th story ‘End of blood’





「本当にいい映画だよな……あれは」

「うん、あたしも鳥肌モノだったなあ……」
「ねえ淳平くん、どうせだったら、またこの映画を見ない?」

つかさの誕生日に見たこの映画は、2人の心に深く刻まれていた。
見る者を引き込む壮絶なストーリーは、多くの人々に受け入れられ、公開から2ヶ月以上が経った今も変わらぬ人気を保っていた。

「そうだな、俺もまた見たくなっちゃったよ」
「んじゃ今日は予定を変更して、この映画を見ようぜ」

「うん!」

そして、2人は映画館へと消えてゆく。





「やっぱり、いい物はいつ見てもいいなあ……」
「淳平くんもそう思うでしょ?」

「ああ、俺も同じだよ。確かにあの映画は凄いって分かる」
「そういえば、あの美鈴も絶賛してたしな……何と言うか、凄いとしか言いようがないよ」

映画館から出てきた2人は、2ヶ月前と同様に映画の世界に引き込まれていた。
その映画には、単なる悲劇で済まされない魅力があるのだ。
2時間という長い時間が、全く苦痛にならない作品なのだ。

そして、淳平は改めて思う。
自分はつかさが好きなのだと。そして、つかさを守らなければならないのだと。

「つかさ、次行こうぜ!」







そして、2人の穏やかで楽しい時間は過ぎて行き、時は夕暮れ時。
2人はそれぞれの家路につく時間だった。
泉坂の駅前で、2人は別れを惜しむ。

「もうこんな時間か……またデートしような」

「うん……」

だが、別れを惜しむ2人は一歩が踏み出せない。
永遠に別れるわけではないのだが、2人の絆が僅かな時の別れをも惜しんでいるのだ。

「……真中くん、西野さん」

突然、沈黙する2人の間に割って入ろうとする者が現れた。
セミロングの黒髪で、穏やかなる印象を与える少女だ。
その両手で、割とシンプルなデザインの鞄を持っている。

「とっ……東城!? 一体どうしたんだ?」

「何でここにいるの……?」

2人は全く理解する事が出来ない。
一体、彼女が自分たちに何の用があるのだろう、と。

だが、少女からの返答はない。
代わりに、その少女は両手で鞄を持ったまま、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「……っ! 東城!?」

少女が鞄から『それ』を取り出し、鞄を地面に落とすのと、淳平が動き出すのは同時だった。



「あたしの居場所を返して……」





  だから西野さん、あなたは死んで……!





鈍い音が響く。

「淳平……くん?」

瞳に暗い光を宿す少女はサバイバルナイフを突き出していた。
両手で突き出されたそれは、間もなくして真っ直ぐに刺し貫く。



つかさを庇おうとした、淳平の左胸を。





「え……? あ……? 何……コレ……」
「淳平くん!? 嫌ああああああっ!」

淳平の左胸から、鮮血がゆっくりと溢れ出す。

これが、彼らの『結末』となった。



「あは……あハは……アハははハ……」
「アッハハハハハハハハハハッ!」







To be continued.


[No.945] 2008/03/28(Fri) 22:48:45
明と暗・白と黒  第19話(Aパート) true (No.945への返信 / 20階層) - シン

 何で……なンデなノ……
 なんデ真中クンが……西野サんをカバうの……

 アはは……まナかクんのチがイッぱイ……



 アタシ、マナカクンヲコロシチャッタ……





第19話(Aパート) true『結末の先へ』





「うわああああっ! さ、刺されたぞぉーっ!」
「チョッ……マジありえなーいぃぃっ!?」
「だ、誰か! 誰か救急車を呼べえええええっ!」

泉坂駅前は騒然となった。
多くの人々の目の前で、少年が少女に刺されたのだ。

傍らでへたり込む少女は、あまりの出来事に気が動転している。
そして、周りの野次馬も目の前の惨劇を目の当たりにしては、適切な行動が取れなかった。

そうこうしている内に、少年を刺した少女はナイフをそのままにしてフラフラと逃げてゆく。
駅の交番から警察が来る頃には、恐らく追いつけないだろう。



「イヤアアアアッ! 淳平くん!? お願いだから、お願いだから死なないでえええっ!」

つかさはもう、何が何だか分からなかった。
綾が近寄ってきたと思ったら、次の瞬間には淳平がナイフで刺されていた。
そのナイフは胸に刺さっており、傍目からは致命傷としか思えない。
そして、淳平は全く反応しない。

つかさは胸に刺さったままのナイフを引き抜こうとする。
だが、突然その行動を制止する少年の声が耳に届いた。

「駄目だ! 今抜いたらナイフが臓器を傷つけて、下手したらショック死する!」
「救急車はもう呼んでる! この刺し方を見る限りだったら、心臓は傷ついてないはずだから、安静にして!」

つかさを静止したその少年は、年こそ中学生ぐらいだろうが、どこか淳平に似ていた。
髪はボサボサで、優しそうな顔立ち……どちらかと言うと、女顔だった。

少年の声を聞き、つかさは少しだけ気持ちが落ち着く。
そして、次に取るべき行動をその少年に問いただす。

「つ、次……あたしにできる事はある?」

「いや、これ以上できる事は無いよ……ただ、肋骨に邪魔されて、そこまで深く刺さってないだけよかった……」
「ちょっとしたショックで気を失ってるだけだから、多分……大丈夫なはず」

その言葉を聞き、つかさは少しだけ安心する。
だが、本当に安心したわけではなかった。

周囲がざわめき、騒然となる中で、しばらくすると救急車が到着した。
消防署が駅の近くにあったため、淳平が刺されてから4分程度での到着だった。

淳平は手早い動作で収容され、つかさと通報した少年も同乗する事となった。
少年は同乗する事を拒否したものの、事情聴取も含めての同乗だった。



つかさは救急車の中で、救急隊員の応急手当をボーッと眺めていた。
救急車が来た事で緊張が解けたためか、茫然自失となったのだ。

つかさの目の前では、淳平の胸に刺さったナイフが抜き出されていた。
ナイフが抜き出されると同時に、せき止められていた血液が噴出し、他の隊員が止血措置を施していた。
そんな様子を眺めていたつかさの口から出てきたのは、ありふれた質問だった。

「ねえ、そういえば君……名前は何て言うの?」

「お、俺か? 俺は伊藤誠……」
「本当は神奈川県に住んでるんだけど、今日は母さんや妹と遊びに来てて、そろそろ帰ろうと思ったら……たまたま見ちゃってさ」

誠と名乗った少年は、病院に到着するまでの間、つかさに少しばかりの話をした。
その後の話を聞く限りは、母親が看護師をしているため、こういった状況に対する対処法をいくつか知っていたらしい。
その中には、『刺さったものを無闇に抜くのは命取り』という内容の物もあったようだ。
事実、あの状況ではナイフを無理に抜く事で、傷ついていない部位まで傷つけるケースがあった。
似たような事例で、刺さったものを無理に抜く事でそこから傷が広がるなどして、結果的にショック死した事例もある。

ちなみに、同乗する事を渋ったのは、妹に付いているべきだと思っていたかららしい。
まだ幼稚園の幼い妹がいるらしく、この判断も決して間違いとは言い切れない。

「……伊藤くん、ありがとう」

「ま、まあな……」

つかさに微笑みかけられ、誠は顔を赤く染める。
そして、つかさも少しばかり安心してきたようだ。



最寄の救急病院である泉坂総合病院に到着し、淳平はストレッチャーに乗せられたまま、病院側に引き渡される。
既に緊急手術の準備が整っているらしく、すぐに手術室へと向かって行った。







Bパートへ(変更する可能性アリ)


[No.947] 2008/03/30(Sun) 19:17:43
明と暗・白と黒  第19話(Bパート) true (No.947への返信 / 21階層) - シン

手術室の前
ここにはつかさと誠、そして淳平の両親がいた。
警察からの一報により、両親も大慌てでやってきたのだ。

『手術中』の表示が消え、手術を担当した医師が手術室より姿を現す。
間という苗字のその医師の表情は、割と明るいものであるが、淳平の母親はすぐに容態を問い詰める。

「先生! 淳平は……!」

「ああ、安心してくれ、彼なら大丈夫だ」
「今はショックと麻酔で眠ってるだけだから、しばらくすれば目を覚ますはずだ」

まだ若い顔立ちの割りに、黒髪と白髪の混じったその医師は、それだけを告げると去ってゆく。
その後ろから、看護師と共にストレッチャーに乗せられた淳平がやってくる。

「とりあえずは一般病室で大丈夫よ。病室の案内もしないといけないから、付いてきて」
「警察の事情聴取もあるけど、それは後回しにしてもらってるわ」

促されるがままに、4人は看護師について行く。
つかさは涙を隠すために、ずっと下を向いたままだった。

「(よかった……淳平くん、本当によかった……)」







「つまり、男女関係のもつれが原因……?」

「多分……そうだと思います。あっという間だったのでよくわからなかったんですけど、東城さんはあたしを狙ってたような気がするんです」
「それに、あたしは1ヶ月ほど前に、東城さんと少し揉めたんです」

病室にて、つかさを始めとした4人は警察からの事情聴取を受けていた。
あの後の経過としては、未だに綾の確保には至っていないらしい。
つまり、あのまま泉坂の街を彷徨っているという事になる。

「で、簡単に纏めると、君はたまたま通りかかった……そうだな?」

「はい、母さんと妹と一緒にいたんですけど、刺されてる所を見てしまったので……」

「……そしてそのまま、通報した後に助けに向かった……っと」

誠はつかさに話したとおりの事実を伝える。
ふと、誠はあることを思い出し進言する。

「……あ、そういえばあの後、母さんたちに連絡してないんで、ちょっと連絡を取らせてもらってもいいですか?」
「一応、外に出てから電話しますので」

「そうだな、一応連絡しておいた方が良いだろうな」

その言葉を聞き、誠は一旦病室を出る。
年端も行かぬ妹がいるという事もあり、連絡せずにいるのはまずいということなのだろう。

「だけど……あの東城ちゃんがまさか……」
「見たときは、大人しくておしとやかなお嬢様って感じだったのに……」

一方、淳平の母親は未だに現実が信じられなかった。
事実、そのときの綾は、大人しく穏やかな本来の姿だったからだ。
それだけに、綾がつかさに刃を向けたというのが信じられないのだろう。

「(東城さん、どこにいるの……? 何で、あんな事をしたの……?)」
「(あたし、あなたに聞きたい事がいっぱいある。だから……)」









「フふ……ふフフふ……」
「アたし、本当ニ何もなクなっチャった……」

泉坂中学校
その屋上は、綾と淳平が本当の意味で出会った場所である。

綾は血に塗れた手のまま、この地までやってきた。
失ったものを取り戻すために……

だが、何も見つける事はできなかった。
淳平を殺したという事が、綾の心に大きな穴を開けていた。
冷静さは取り戻したが、その大きな穴は埋められるものではなかった。
むしろ冷静になれば成程、現実が綾の心に迫ってくる。



空虚



今の綾の心を表すには、その言葉がふさわしいだろう。







「アたシ……イキきテる価値ナんてなゐよネ……」







続く


[No.952] 2008/04/01(Tue) 18:00:41
明と暗・白と黒  第19話 if (No.945への返信 / 20階層) - シン

痛い……いや、痛いなんて言葉じゃ表せられない……
まるで、体の真ん中をぶち抜かれたような気分……

いや、本当に、俺の胸にナイフが刺さってるのか……

東城、何でこんな事を……なんで、つかさを殺そうと……
ああ、そうか……そういう事だったのか……

「東……城……」

「……! まナか……クん」

「……ごめんな……こんなになるまで……追い詰めて……」
「俺が……気付いて……やるべきだったん……だよな……」

「……あ……ああ……」
「真中くん……あ、あたし……」

よかった……
やっと……やっと、東城の目が元に戻った……

何があったのかは……知らない。
だけど……ずっと辛い思いを……してきたん……だよな……?

俺が……もっと……早く……気付いていれ……ば……



……も……っと……は……や……く……

















それっきり、淳平くんは動かなくなってしまった。
眠ったように見えたけど、目が覚めることはなかった。
胸からはドクドクと血が出てたけど、それもしばらくすると止まっちゃった。

東城さんはそのまま泣き崩れて、警察が来ても抵抗するそぶりも見せなかった。

ううん、もう何もしようとしなかった。







あれからずっと、東城さんは警察の取り調べを受けてた。
だけど、何一つ分からず終いだって聞いた。

あんな事をするまでに何があったのか、絶対に話そうとしなかったみたい。



それに、つい1週間ほど前に、東城さんは警察の隙を見て首吊り自殺しちゃった。
遺書も何も無いから、結局何が何だか分からず終いってのもよく分かる。

それで分かったのは、身体には傷がいくつかあって、妊娠6週間ほどだったって事。
父親が誰だかはさっぱり分からないみたいだけど、あたしにはそんな事はどうでもよかった。







それよりも、あたしが許せないのは淳平くんの心を持って行っちゃったって事。

あの時、淳平くんは自分やあたしじゃなくて、東城さんを一番に心配してた。
自分が死んじゃうその時まで……



この勝負は……東城さんの1人勝ち。
最後に淳平くんの気を引いたのは東城さんだし、自分も死ぬことで、東城さんも淳平くんの所に行っちゃった。
だから、東城さんは淳平くんにとって永遠の存在になったし、淳平くんも東城さんにとって永遠の存在になっちゃった。









……うん、もういいよね。

今日はすごく寒いな……まるであたしの心みたい。





東城さん、淳平くんを独り占めなんて、そんな事は絶対にさせない。
あたしも……淳平くんにとっての永遠になる。



だから淳平くん……今、行くね……











 「本日未明、桜海学園の校庭にて、女子生徒が飛び降り自殺しているのが発見されました」
 「遺体の損傷が酷く、身元判明には時間がかかりそうですが、同学園の3年生である西野つかささんの遺体であると見て、身元確認を続けています」

 「西野さんは先月○○日に起きた……







いちご100%
明と暗・白と黒
第19話 if『永遠の闇へ』

                             B
                             A
                           END




エンディングBGM:悲しみの向こうへ
ttp://www.youtube.com/watch?v=Nd7cuHeFw5s&feature=related


[No.957] 2008/04/02(Wed) 12:33:55
明と暗・白と黒  第20話 (No.952への返信 / 22階層) - シン

「平松警部、報告です!」

「どうした? 藪から棒に……容疑者は『保護』できたのか?」

つかさたちに事情聴取を行っていた警部が、突然の報告に耳を傾ける。
誠が連絡のために席を外して、僅か3分ほど後の出来事だった。

「いえ、実は泉坂中学校付近にて被疑者らしき人物を発見して、追跡したようですが……」
「どうやら……飛び降り自殺を図っているみたいです……」

 「な、なんだってーっ!?」

その場にいた者は口を揃えてそう叫んだ。
尚、現在時刻は7時34分であり、場所は泉坂総合病院である。





第20話『駆け抜ける嵐』





「……入院患者の迷惑だなんて言ってる場合じゃなさそうね」

黒のショートカットの髪を持つ看護師、大野が呟く。
入院患者の迷惑なのは間違いないが、そんな事を言っている場合ではなかった。

「何てこった……大方、この坊主を殺したと思い込んでいるのだろうな」
「ならば、大急ぎで捜査員と説得担当を回せ!」

「もう回ってます! 今日ばっかりはお役所仕事をやってる場合じゃないですから!」
「それに、被疑者の両親も既に到着しているようです!」

平松は綾の説得に人員を回そうとしたが、既に回っていたらしい。
緊迫した空気が病室を包み込む。

「……ん……胸の辺りが……痛い……」

そう、淳平が目を覚ますまでは。

「……あれ? ここ……は?」

「あ…………淳平くんっ!」

淳平が目を覚まし、起き上がると共につかさが飛びついた。
本格的に能が覚醒していない状態でそんな事になれば、どういうことになるかを想像するのは難くない。

「お、おわっ!?」

「え、あ、きゃあっ!?」

つかさの勢いを止める事のできない淳平は、そのまま押し倒されるような格好でベッドから転げ落ちる。
その際に点滴注射が抜けてしまい、同時に点滴液のパックを吊るしたポールまでもが倒れてしまった。

一応、惨事には至らなかったようだが、大野は呆れた表情で呟く。

「……針が折れてたりしたらどうするつもりだったのかしら」



「何はともあれ、坊主、傷は大丈夫か?」

「……正直、さっきので傷がまた開いたと思います」

平松の問いに対し、淳平は率直な答えを述べる。
その表情は、本当に痛みを堪えている表情である。

淳平の表情を確認した平松は、一先ず現在状況を伝える事にした。

「……まあいいか。実はちょっと面倒な事になっててな……」
「東城綾って言ったな、お前さんをブッ刺しちまったガールフレンド……」

ここまで言うと、少しばかり声が詰まる。
さすがに、そのまま伝える事に抵抗があるようだ。

「……彼女は、自殺するつもりだ」
「だが、話じゃ親御さんも説得してくれてるらしい」
「俺も一応行かなきゃならないだろうが、坊主は彼女と一緒にここで待っててくれればいい」

平松はここで待つように指示を出す。
だが、淳平はそれを簡単に受け入れるわけにはいかなかった。

「待ってください! 俺も……行きます!」
「俺が……俺がやらなきゃ駄目なんです!」

しかし、平松は敢えて淳平を突き放す。
それは平松なりの思いやりであった。

「やめろ! 坊主みたいな怪我人が来ても足手まといだ!」
「それに、あの娘の手に手錠を掛けるのを見てえってのか!?」

そう言うと、周りにいた部下を引き連れて病室から立ち去る。
病室に残されたのは、淳平、つかさ、大野だけだった。

「……………………」

「淳平くん……」

淳平はすぐ横の壁を殴り、ドンという音を立てる。
その顔には悔しさが浮かんでいた。

「ちくしょう……俺、東城のために……何かできないのかよ……」

悔し涙を流す淳平。



淳平は少しずつだが、理解する事ができた。
何故、綾があんな凶行に走ったのかを……



一方のつかさも感じ取っていた。
故に、それが不安となっていた。
淳平の心が綾に向いているという事実を……



「……淳平くんも力になれるわ」

「……!」

大野の一言に鋭く反応する淳平。
その目には、少しばかりの希望が見える。

「ただし、何があっても挫けないって覚悟があるのならね」

対して大野は鋭い目つきで淳平に覚悟を問う。
だが、淳平は迷わずに答える。

「覚悟なら……ある。東城を……助けたい!」

その答えを聞き、大野は少しばかりの笑みを浮かべた。
そして2人を手招きする。

「いいわ。なら、2人とも……付いてきて」

「え? 何であたしまで……」

つかさは訳が分からなかった。
何故、自分まで付いていく必要性があるのか、つかさには理解できなかった。
だが、大野はきっぱりと言い切る。

「……淳平くんの彼女だと言うのなら、彼の決断を見届けるのも彼女の役目でしょ?」

つかさに反論という選択肢は無かった。







「じゃあ、少し……飛ばすわよ!」

「はい、俺の身体に遠慮しなくていいです!」

病院の駐車場から一台の車がエンジン音を轟かせながら飛び出す。
ハンドルを持つ看護師の目にも、助手席に座る少年の目にも迷いは無い。

夜の光に包まれた泉坂の街を、その車は駆け抜ける。
それは、まるで駆け抜ける嵐であった。







この数分後、もぬけの殻となった病室に戻ってきた誠が呆然とするのは、また別のお話である。






続く


[No.962] 2008/04/02(Wed) 22:55:20
明と暗・白と黒  第21話 (No.962への返信 / 23階層) - シン

「着いたわ……2人とも、行くわよ」

「……はい!」

泉坂中学校に到着した淳平たちは、迷う事無く屋上へと向かってゆく。
最初は不機嫌そうな表情を見せていたつかさだが、今となってはその表情は見受けられない。



道すがら、淳平はこれまでの日々を思い出していた。

『運命』と共に降ってきたいちごパンツの美少女。
彼女を捜し求める過程で出会ったのが『東城綾』と『西野つかさ』だった。
そして、三角関係の中に『北大路さつき』が入ってくる。

誤解から始まった恋は、2人をいとも簡単に結びつけた。
共通の夢から始まった関係は、いつしか恋へと変わっていた。
男と女の友情は、恋愛へとその姿を変えた。

決断を迫られた時、淳平は選ぶ事が出来なかった。
故に、つかさとの恋は終焉を迎えた。
しかし、消えたと思われた恋の火種は燃え続けており、2人は再び元のような恋人同士の関係となった。

だが……
その一方で、選ばれなかった者達を苦しみの中に突き落としてしまっていた。
あまりにも遅い決断は、彼女達から後退という選択肢を奪っていた。

さつきは持ち前の気丈さ故に、この苦しみから這い上がる事ができた。
『愛』は無理だが、『友情』は可能だったのだ。
2人は、前と同じように笑って過ごせるようになった。

しかし、綾には無理だった。
綾にとって、淳平は自らの存在意義も同然だった。
だが、淳平は綾を突き放し、これまでのような関係も断ち切った。



淳平が感じる胸の痛みは、綾に対する行いの『結果』だった。
そして、淳平はその痛みを堪えて走る。

これまでの行いを『清算』するために。







第21話『結果と清算』







「ねーちゃん! 一体どうしたってんだよ!?」
「何で……何でこんな事をしようとするんだよ!?」

綾の弟である正太郎は困惑していた。
何故、姉が凶行に走ったのか、
そして、何故、自殺を図ろうとするのか。
全てが謎だった。

だが、心当たりが無い訳ではなかった。
ここ数週間の間に、綾の顔色は悪くなり、目の下にはクマができていた。

正太郎は、『シスコン』と言われているだけあって、その程度の事には気付いていた。
だが彼もまた、真実を突き止めるには至らなかった。
沈黙を続ける綾は、誰に対しても真実を語ろうとしなかったのだ。



そして今、最悪の凶行に走った綾は、全てを清算しようとしていた。

「……クソッ! 打つ手なしかっ!」

平松は苦虫を噛み潰したような表情になる。
説得を得意とする警官もいるのだが、綾の壊れた心に説得の言葉は届かない。
むしろ、未だに飛び降りていないのが奇跡と言える状態だった。







━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

みンな……何を言ッテるんダろ……?
分カらナイ、分かラナい……

真中くンがイナい『セカイ』ナんテ、アタシにハ耐えラレなイし、アタしに生きテル価値ナんて無イ……



……あ……真中クンの声ガ聞こエル……
あタしヲ呼ンデる……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





その声に導かれた綾が見たものは、淳平の姿だった。

「東城っ!」

「真中クん……やット……会エタね……」







続く


[No.974] 2008/04/09(Wed) 20:30:35
明と暗・白と黒  第22話 (No.974への返信 / 24階層) - シン

2人の視線が重なり合う。

2人が出会ったその場所で、全てを清算するための戦いが始まった。



警察や綾の家族は突然の闖入者に驚き、口を開く事も、足を一歩踏み出す事もできなかった。
いや、むしろ、事の成り行きを見守ろうとしているとも言える。
少なくとも、自分達では綾を止める事ができないと理解していたからだ。

「東城、ごめん」

最初の言葉はそれだった。
その言葉に綾が反応するのを確認すると、淳平は綾に向かって歩いていく。

「俺、東城がどんな思いをしてるのか全く気付かずに過ごしてた」
「その結果が、この傷なんだよな……」

そう言いながら、淳平は入院着の胸元を開き、血に塗れた包帯を見せる。
それは、淳平の痛みそのものだった。

「あ……ああ……」

綾は言いたい事をうまく言葉にすることが出来ない。
淳平が見せたそれは、淳平が生きているという現実を見せると共に、自らの罪を強烈に意識させる。

「俺は今、すごく心が痛いんだ」
「だけど、東城は俺なんかよりもずっと心が痛いんだよな」
「何があったのか詳しい事は知らない。だけど、俺のせいでずっと辛い思いをしたのは間違いないんだろ?」

淳平はゆっくりと綾へと近づいていく。
そして、淳平と綾を隔てる物はフェンス一枚となった。

「俺がもっと早く気付いてやるべきだったんだよな。東城がどんなに辛い思いをしてたのか……」

「ま……なか……く……ん……そんな……」

綾の瞳から、暗い光が少しずつ消えていく。
淳平の言葉は、まさに心と心を繋ぐ魔法だった。

「どうしようもないくらいに鈍感な俺だけど、これだけは言える」
「今からでも遅くない、もう一度、『人』をやり直そう」
「東城が俺のそばにいたいって言うのなら、俺は喜んで受け入れる。東城が望む事なら、何だって受け入れるさ」

「だから、あの頃のような東城に戻ってくれ……」

その時には、既に淳平と綾を遮るものは何も無かった。
フェンスを乗り越えた淳平は、綾の目前に立っている。

あと1歩、あと1歩踏み出して綾を抱きしめれば、淳平は罪を1つ清算することができるのだ。

「……駄目……こんな汚れたあたしは……真中くんのそばにいる資格なんて……」
「ううん、もう、真中くんの目の前にいる事も駄目……」

淳平はその1歩を踏み出した。
自己否定の言葉を並べる綾を、その腕で抱きしめる。

「東城! そんな事……言うんじゃねえ……」
「東城は東城だ! 何があっても、それが変わる訳無いだろ!?」
「俺……ずっと東城のそばにいるから、東城も俺のそばにずっといてくれよ!」

淳平の瞳からは、いつの間にか涙が溢れていた。
その涙が何の涙なのかは淳平自身にも分からない。
だが、間違いなく涙を流していた。

そして、綾の瞳にも涙が溢れ、光が満ちる。

「……真中くん、ありがとう」







ただ、その光は……あの時と同じ、絶望の光だった。







「……さようなら真中くん」



綾は淳平の手を振り払うと、その弾みで後ろへと身体を押し出す。
当然、綾の後ろには何も無い。

あるのは、奈落とも言うべき闇だけだった。





「っ! 東城!」

綾の体が後ろに傾くと同時に、淳平もその身体を乗り出して綾を止めようとする。
考える暇など有りはしない。それは、ただ反射的な行動だった。

「(東城! 勝手に……逝かせるかよ!)」

その両腕で綾の身体をしっかりと捉え、最悪の事態を防いだ事を確信した淳平。



だが、その確信はすぐに裏切られた。
何しろ、その身体に奇妙な浮遊感を感じ取ったからだ。

「(……あ、俺、飛んでる……)」







「(ありがとう真中くん、こんなあたしのためについてきてくれるなんて……)」
「(あたしは天国になんて逝けない。だけど、真中くんと一緒なら地獄だって怖くないかな?)」

「(……本当に、ずっと一緒に居てくれるんだね……)」







「淳平くぅぅぅぅん!?」

つかさの叫びが夜の闇に木霊する。
真中淳平と東城綾の姿は、泉坂中学校の屋上から消失した。







第22話『奈落』

続く


[No.993] 2008/05/05(Mon) 23:17:28
明と暗・白と黒  第23話 true (No.993への返信 / 25階層) - シン

それは、日曜日朝のニュースだった。

 「昨日午後5時前、泉坂駅前にて泉坂高校に通う女子高校生が同高校の男子高校生を刃物で刺す事件が発生しました」
 「男子生徒を刺した女子生徒はそのまま逃走し、夜7時ごろ泉坂中学校にて発見されました」
 「しかし、自殺を図った容疑者は同中学校の屋上より飛び降り、被害者の男子高校生と共に、現在、意識不明の重態となっております」

「泉坂高校の女子生徒が刺傷事件……って、あたしの学校じゃないの!?」

そのニュースを知った菜々美は絶句した。
同じ学校の生徒が傷害事件を起こし、その生徒と刺された相手が意識不明だというのだ。

「やれやれね……これで推薦もパーってとこかしら?」

この事件により、大学による推薦入試の拒否が起こる事を予想する菜々美。
スポーツ推薦で合格が内定している彼女にとって、これは死活問題であった。

だが、彼女は知らない。
事件を起こしたのが綾であり、自分自身も事件のきっかけとなっている事を。





第23話 true『無』





時を遡り、日曜日早朝

「先生! 真中と東城は!?」

慌しく病院へと駆け込む外村。
その後ろには、不安な表情を見せる美鈴もいる。
顧問である黒川からの一報を受け、大急ぎでここまで来たのだ。

救急部門に集まっていた医師、看護師は、突如として現れた外村兄妹に驚くものの、すぐに2人に案内を始めた。



「現状では、東城綾には目立った外傷は見られないものの、頭部への衝撃が大きく、その影響で現在意識不明」
「しかし、こっちは恐らく大丈夫だろう。致命傷となりえる傷は1つもない」

治療を担当した医師である間が2人に現状を説明する。
一先ず、綾が一命を取り留めたと知って少しばかり安堵する。

だが、間の表情は一向に晴れない。

「問題は真中淳平の方だな。彼は東城綾を庇うような形で救命マットに頭から落下した」
「結果、2人分の衝撃を頭部に受け脳挫傷を起こし、緊急手術は終了したが、予断を許さない状況だな」

「なっ……じゃあ、真中先輩は助かるんですか!?」

予断を許さない状況と知り、美鈴は更に詰め寄る。

「……生存率は55%。社会復帰が出来る確率となると30%だな」

美鈴はそれ以上、何も言えなかった。
そして、兄も美鈴に対して掛ける言葉が見つからない。
何故なら、自身も現実を目の当たりにして呆然としているからだ。





その瞬間は最悪の状況も考えられた。
しかし、あらかじめ準備が進められていた救命マットに落下したために、
2人とも即死するという事態は免れ、結果として綾は一命を取り留めている。

だが、2人はマットの端に落下していた。
そのため、マットが衝撃を完全には吸収できず、淳平の頭部は深刻なダメージを受ける事となった。





集中治療室の前へと向かった2人の前に現れたのはさつきだった。
やはり、彼女もまた一報を受けると共に飛び出したのだ。

「北大路……」

「……うん、あたしも黒川先生から聞いたんだ」
「東城さんも真中も……何で……」

そう言うさつきの目には涙が浮かんでいる。
自分では気付いていないのか、その涙を拭おうともしない。
彼女を支配していたのは、何も出来ないという無力感だけだった。

「本当です……何で……何でこんな事に……」

美鈴もまた、その涙を抑える事ができない。
そして、彼女もまた無力感を感じていた。

「畜生! 何でもっと早く……東城の異変に気付けなかったんだ!」

普段は飄々としている外村も悔しさを顕にする。
今の状況を『どこかおかしい』と感じていただけに、自らの考えの至らなさに無力感を感じていた。



この場にいる3人には共通点がある。
それは、どうしようもない無力感を感じているという事だった。



「ところで、西野はどこにいるんだ?」

時間が過ぎ、少し落ち着いてきた外村がさつきに問う。
普通なら一番近くにいるはずのつかさの姿が見当たらないのだ。

「西野さん……黒川先生もそうだけど、西野さんなら少し眠ってるみたい」
「やっぱりショックがキツイよ……こんな事になっちゃったら」

そう話すさつきの表情は一向に晴れない。
外村兄妹の表情も一向に晴れない。



異変に対して無知であったがための無力。
彼女達は、それを今、まざまざと見せ付けられていた。





続く


[No.1034] 2008/06/12(Thu) 23:11:02
明と暗・白と黒  第24話 (No.1034への返信 / 26階層) - シン

「……先生、患者に反応が!」
「恐らく、意識を取り戻すものかと……」

それは日曜日の夕方。淳平が刺されて丸一日経った頃の出来事だった。
一般病棟に移された綾は、ようやく意識を取り戻そうとしていた。

「…………」

綾の目がゆっくりと開かれていく。
ゆっくりと、閉じられていた瞼から漆黒の瞳が姿を現していく。

「………………ま……な……か……くん……」
「まな……か……くん、やっと……会え……た……ね……」

目を覚ました綾の第一声。
それは、新たなる困難の幕開けを意味していた。

その瞳に映るのは虚実。
『東城綾』は、その時既に『死んでいた』。





第24話『虚実』





日付は変わり、月曜日。
泉坂高校3年4組の教室の一角には、あまりにも暗い空気が立ち込めていた。
そして、周りでもザワザワと小さな騒ぎが起こっている。
報道では名前が出ていなかったものの、噂というものはどこからか漏れ出るものなのだ。

「……俺、今でも信じらんねえよ……」
「綾ちゃんがあんなことになっちゃうなんてさ……」

「ああ、極度の錯乱状態による心神喪失……目の前にある物すらマトモに見えていないとなったらなあ……」
「正直、見てらんねえよ。あんな東城も、何もできずにただ見てるだけの親たちも……」

改めて説明しよう。
『東城綾』は既に『死んでいる』のだ。

意識を取り戻した綾が見ているのは、現実ではなく、淳平とともに過ごしているという幻だった。
それはつまり、彼女が空想の世界でしか生きる事ができない存在となったという事でもあり、
この世に生きていた『東城綾』という人格が完全に死んだ事と同義であった。

「それに、真中も目が覚めないし……東城さんがあんなになって、真中も死んじゃったら、あたし、耐えられないよ……」

普段は気丈なはずのさつきの目から涙が溢れ出す。
事件が起きてからというもの、さつきは涙を流す事が多くなっていた。







3年5組にて、
菜々美はやや不機嫌な表情で教室に入った。
本来の彼女ならば、憎むべき相手である綾が重態になったというのは喜ぶべき出来事なのだろうが、何故か喜ぶことが出来なかった。

 「あの事件、やったのは東城で、刺されたのは隣のクラスの真中らしいわよ」
 「だけど、その東城は中学校の屋上から飛び降りて重態だってさ、ザマアミロってね!」

確かにその知らせは彼女にとって喜ぶべき事だったのだ。
だが、彼女は喜べない。
大学側からの推薦入試拒否が起きるというのも理由の一つだが、それ以上に、彼女は薄気味悪さを感じ取っていたのだ。

まるで、自分が何者かに追い詰められているかのような……

「……大丈夫よ、東城が口を割るわけないし、証拠だって残してない」
「それに、密告なんてしたらどうなるかぐらいはみんな分かってるだろうし……」

ブツブツと独り言を呟きながら自分の席に向かう菜々美に、クラスメイトの1人が話しかけてきた。

「ヤッホー菜々美! ちょっとアレ見てごらん」

彼女はそう言って、菜々美にその方向を見るように促した。
そして菜々美が見たのは、綾の席に置いてある1つの花瓶と、一輪の花だった。

「どうよ! これでアイツは死亡確定ってね!」

人間として誇らしくも何も無い事であるが、誇らしげに言う彼女。
だが、菜々美の心はそれを見ても晴れる事はない。

「(……駄目、また嫌な気分にしかならないじゃないの……)」
「(だけど、やるべき事はあるわね……)」

気分の晴れない菜々美が取った行動は、机の上の花瓶を片付けるという行為だった。
案の定、花瓶を眺めてクスクスと笑っていたクラスメイトたちから非難の声が上がる。
だが、菜々美はそれらの声を一蹴する。

「……こういうのは止めときなよ、流石のあたしも気分が悪い」
「それに、下手な事やって先公やポリ公のご厄介になるのは嫌でしょ?」

「そういうわけで、東城が本当に死ぬまではやるんじゃないわよ」

菜々美の言葉は間違いなく正論だった。
死んでいるわけでもないのに花瓶を置いていたら、第三者から確実に怪しまれるからだ。

しかし、それは結局のところ保身でしかなかった。
気分が悪いというのは、話に説得力を持たせるための単なる理由付けに過ぎない。
あくまでメインは厄介事の芽を叩き潰す事なのだ。





確かに今日の菜々美はいつもと様子が違う。
だが、本質的な面では何ら変わりが無かった。

やはり、彼女は排他的利己主義者なのだ。







続く


[No.1045] 2008/06/15(Sun) 22:26:10
明と暗・白と黒  第25話 (No.1045への返信 / 27階層) - シン

第25話『そして始まる物語』






事件発生3日後

「しかし、本当に大変な事になりましたよね……」
「警察はともかくとして、マスコミが一気に押し寄せてくるもんですから、追い払うのが大変ですよ」

「言うな。俺もこんな事になるとは思っていもいなかったんだ」
「あっちじゃ弟さんが学校をサボってまで姉さんに付き添ってるし、こっちはこっちで親御さんや彼女が付き添ってる」
「……俺達が先に音を上げる訳にはいかないんでな」

間とその助手は通常の診療に戻っていた。
そして今は、昼の休憩時間である。
だが、2人の頭を支配していたのは、他でもない淳平と綾だった。

「まあ何にしろ、俺達の仕事はまだ終わりじゃないって事だ」

「そうですよね……はあ、流石にキツイけどやるしかないのか……」

改めて現実と向き合い、嘆息する助手。
そんな時、診察室の扉がノックされた。

「ん、入ってきてくれ」

「先生、例の患者が……意識を取り戻しました!」

入ってきた看護師がそれを告げる。
『例の患者』という単語だけで、2人には誰の事かが分かった。







数分前に遡る

病室では、淳平の両親とつかさが眠り続ける淳平に付き添っていた。
事件から3日が経った今も、何ら変化は無い。

眠り続ける淳平を見ながら、つかさは自分自身に問いかける。
それは、何度目か分からない問いかけであった。

「(何で……何でこんな事に……? 何で淳平くんがこんな事にならなくちゃいけないの……?)」
「(何で、淳平くんをこんなにした東城さんが生きてるのよ!?)」

自問自答するつかさの表情は、紛れも無く『憎悪』の表情だった。
しかし、その憎悪につかさ自身は全く気付いていない。

そして、自分自身の感情に気付けない者が身の周りの変化に気付けるはずも無かった。

 ……ちゃん、つかさちゃん、見て!」

「……え?」

淳平の母の声が、つかさの意識を再び淳平の方へと向けさせる。
何事かと思ったつかさは椅子から立ち上がり、淳平の顔を覗き込む。

「……淳平くんっ!」

つかさの瞳から涙が零れ落ちる。
人工呼吸器などを付けられたままの淳平は動きにくそうにしていたが、
覗き込んでいる少女がつかさだと分かると少しばかりの微笑を見せた。









重い空気に包み込まれた映研部室
そんな部室に(一応)顧問である栞が現れた。

「お? 教室にいないと思ったらここにいたのか」

「黒川先生……俺達は何だかんだで映研なんですから」
「それに思うんですよ、ここにいたら、真中のヤツがひょっこり現れるんじゃないかって……」

そう話す外村の表情は諦めに近い表情だった。
外村だけでない、さつきも美鈴も同じである。

だが、栞はその諦めを吹き飛ばす事が出来る知らせを受けていた。

「真中か……アイツなら、目を覚ましたそうだ」

「「「………………」」」

それは彼らにとって待ちわびたはずの知らせだった。
しかし、何の反応も示さない事に栞は少し不安になる。

だが、その不安は杞憂であるとすぐに理解する。
皆、予想できない知らせに呆然としているだけだった。



だが、そんな中でも小宮山だけは少しばかり不機嫌そうな表情を見せている。

「(真中……まさか、綾ちゃんから全部聞いたんじゃないだろうな……?)」









目を覚ました時、淳平の視界はもやが掛かったようにハッキリとしないものであった。
そんな時、淳平を呼ぶ聞き覚えのある声が耳に聞こえてくる。

 ……ちゃん、つかさちゃん、見て!」

「……え?」
「……淳平くんっ!」

ようやく長い眠りから覚めた脳は、それがつかさであると理解するのに少しの時間を要した。
だがつかさの存在を知覚すると、淳平はいつものように笑みを向ける。

久々に見るつかさの顔は、大粒の涙に濡れている。
それを見れば、つかさにどれほどの心配をかけたのかを理解するのは、女心に疎い淳平でも簡単な事であろう。









だが、同時に淳平はやるべきことを思い出す。





それは奈落へと落ちる最中、淳平には綾の心に巣食う闇が見えた。
その闇は光を全て吸い込み、自らと同じ漆黒へと塗りつぶしてしまうかのように見える。

それを見た淳平は一つの決心をする。
だが……その決心が固まった瞬間、淳平の意識もまた闇へと運び去られた。





しかし、その決心が揺らいでいる訳ではない。
頭に鈍い痛みを感じ、身体も動かないが、その決心を改めて確認する。

  ― 前のように笑っている綾を取り戻す

ただ、その一点に集約されていた。






続く


[No.1127] 2008/07/27(Sun) 17:53:59
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