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数億年の太古から、ただの一度も変わることなく続いてきた日没 それは今日という日も変わることはなく、街のビル群の向こうへと太陽は沈む。 日没を機に、それまで追いやられていた夜の帳が勢いを増して落ちていくなかで、 冬の到来を告げる木枯らしがいよいよもって冷たく感じられるようになってきた頃 真中淳平は自失状態から、我に帰った。 「うぅ、さ、さび。…あれ? さっきの女は?」 先ほど、目の前に降って来た少女を探すが、見当たらない。 「…まさかゆ、幽霊? ………か、帰ろ!」 かつてない感動に打ちのめされていた真中にしてみれば、屋上の扉を開けた瞬間に空から正体不明の女が降って来て、そしていつの間にか姿を消した、という風に感じたのも頷ける話だ。 急いで帰宅の途につこうと踵を返そうとした時、足元に一冊のノートが落ちているのに気づく。 拾い上げて眺めてみると、極普通の大学ノートだ。『捨てられた』にしてはきれい過ぎるそのノートには『6−3 東城綾』と名前が記してある。どうやら『東城綾』が置き忘れたか、もしくは落として行ったらしい。 「もしかしたら、さっきの女のかも。」 とにかくここに捨て置くのは気が引ける話なので、ついていた砂埃を軽く払って持っていたかばんに放り込み、施錠の時間が近い校舎へ舞い戻った。 日も落ち、生徒達の帰った後の校舎は暗く、どこかおどろおどろしい。まだ完全に夜といえる時間帯ではないが、それでもその雰囲気は、小学生の心に焦りと恐怖心を呼び起こすには十分だった。 そのせいで、先ほどのノートを6−3の教室の教卓の上にでもおいておけばすむ事にすら気づかぬまま、階段を転がり落ちるように駆け下り、廊下を教師が見かけたら何事かと思うほどに疾走して、玄関を出た。 6年間通い慣れた通学路に出ると、一寸前の恐怖は去り、安堵と共に頭のほうも冷静さを取り戻す。 「それにしても、いいもんみた。あ、決してぱんつのことじゃないぞ?」 だれにかわからないつっこみをしながら、先ほどのシーンを思い出してみる。 すると、再びあの興奮が胸によみがえってくる。 起き上がる少女、そして夕日。 「あの女が起き上がるところは絶対スローモーションにして……」 学校の帰り道、少年は自分の夢を思い描き、ごっこ遊びにふけった―――――――― 楽しい時間はあっという間に過ぎて、気がつくともう自宅の門前。 帰りの挨拶と共に玄関の扉を開けて家の中に入ると、いつものように母親の声に迎えられた。 「ただいまー。」 「おかえり、今日はずいぶん遅かったわね。こんな時間まで部活?」 「うん、ちょっと。」 そういって、ごまかそうとする淳平だが、 「あ、またさぼったね?」 速攻でばれた。 「まったく、あんたがやりたいっていったから、スパイクまで買ってやったんだろ? ちゃんと卒業するまでくらいは続けなさい。いつも、口ばっかり達「はいはい、分かってるって、手洗ってくる〜!」……こら!! まだ話は終わってないよ!!…ふう。」 また、いつものお小言が始まってはたまらないと、掛け声と共に洗面所へ姿を消す淳平。 補足するが、真中淳平は友人に誘われてサッカー部に所属している。入部後、スパイクが必要になった彼は、両親に頼み込んでそれを購入した際、『卒業までは、まじめに参加する』という約束ならぬ条件をのまされた。しかし体格も技術も平凡以下、おまけに熱意のほとんどが自分の夢に向かっている彼は、当然のごとく六年になってもサブのサブにまわされ、練習中はフィジカルトレーニング、つまり筋トレやランニングなどの基礎ばかりやらされるためそれに嫌気が差し、ちょくちょく部活をサボっては屋上で時間をつぶしていたのだ。当然、体操服などが汚れることもないため、それを洗濯する母親には丸分かりである。 そうして、夜は更ける。 基本的に淳平は特にすることがなければ、夕食、入浴の後にすぐ寝床に入る。その日も見たい洋画などがテレビ放送されていなかったのでさっさと床に就いた。 目を閉じて、最後にもう一度今日の夕日を思い浮かべる。 いい夢が見られそうだなどと考えながら彼は眠りに落ちていった―――― 翌朝、まさに今時の子供にしてはかなり健康的生活リズムを保っている彼であるが、なぜか寝起きが悪い。寝すぎといわれてもおかしくないほど睡眠時間をきっちりとっているのにもかかわらず、お約束のごとくぎりぎりまで爆睡なのだ。 今日も彼の朝は慌しい。 まず母親の怒声で飛び起きた後、軍隊か? と疑うほどの速さで着替えを完了する。 その後、一階への階段を機関銃のような騒音を撒き散らしながら駆け下り、洗顔等の身だしなみを整える。 それから濡れた前髪が乾く間もなく、食卓に着くや否や掻き込むように朝食をとり、いざかばんを取ろうとして何も準備していないのに気づく。 急いで席を立ち、二度目の機関銃を撒き散らしながら二階へあがり自室へ突入。 通学かばんをひっくり返し中身を机の上にぶちまけた後、今日必要なもの、もしくは必要だと思うものをろくに確認もせず手当たり次第に放り込む。 さらにここで、枕もとの時計を確認して発狂しそうになりながらも、ぎりぎりで理性を保ち部屋を出て、階下へ下りる。 そして最後に、今日三度の重火器一斉射で十分に暖まった消化器系を総動員して大切な『用』を「フン!!」と済ませたところで、やっと本日のスタートラインに立つのだ。 家族の送り出しの挨拶に振り向かず大声で挨拶を返し、玄関の扉を威勢のいい音と共に開け放って友人との待ち合わせの十字路まで駆けていく真中淳平。 私は「本当にお前運動不足か?」と声を大にして問い正したい。 「はぁ? 夕日?」 待ち合わせの場所に集合し軽い挨拶を済ませた後、真中、大草、小宮山の三人は取り留めのない世間話をしながら、登校している。 「そそ、昨日学校の屋上でさぁ……」 「お前、部活サボってどこ行ってやがると思ってたらまたあんなとこ行ってたのか?」 どうやら話題は昨日の屋上での話になったらしい。 「まったく、屋上に楽しいものなんて何にもないだろ? よく飽きないよな、真中は。」 「おいおい、昨日は本当にすごかったんだってぇ。光の角度がだなぁ…」 「やれやれまた始まったぜ、真中の映画馬鹿が。」 「そうそう、何かあるとすぐあの演出がだの、これは背景がどうだのと、流行の話なんか出て来たことないよな?」 「なにぃ、俺だって最近の映画も見てるぜ?」 「あ〜もう、そうじゃないって! ファッションとか女の子の話だよ!」 「そうそう、大草の言うとおり。」 「ぐ、小宮山だってファッションはからっきしだろうが。」 「なんだ「あ!!」と… ん?」 「そういえば、昨日屋上に行ったときに女が降ってきたんだよ!」 「「はぁ?」」 「それがいち「「それは嘘だろ。」」ごパンツの… はえぇって! つっこみが早い!! しかも嘘じゃねぇ!!」 「小宮山どうしよう、とうとう真中が二次元の世界に…」「友達止め「俺の話を聞けぇー!!!」」 「だけど真中、いくらお前が映画監督になりたいからってそれはないだろ?」 「そうそう、まんが「お前の顔が漫画だぁ!!」バキャ!! ぐべらっ!!」 とりあえずNGワードの吐きそうになった若輩に燃え盛る情熱(?)で修正を加えてやる真中。 だが、その時小宮山より突如放たれる言葉という銃弾。 「ぶったね!? 親父にもぶたれたことないのに!!」 それは、狙いたがわず大草と真中を直撃した。彼らの心に衝撃が走る! 「な、なんてこと…」「そ、そんな、じゃあどうやったらこんな顔に……」 ………………コーディネ「ナチュラルだ!! というかむしろお前が一番失礼だ!!」ーターか? 「みえる! そこか!!」「ブルーコスモス! ブルーコスモス!!」 いつのまにか『宇宙世紀 対 コズミックエラ』な真中と小宮山。しまいには「コロニーオトシ」だの「じぇねしす」だのと完全に二次元〈あっち〉の世界へ旅立った二人をみて人知れずため息を吐く大草。彼の悩みは尽きない。 「…俺、何でこいつらとつるんでるんだろ…」 同感だ。 「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」「−−−−−−−−−!!!」 もはや人語を話しているのかどうかすら怪しい真中と小宮山。 「おい! いい加減に戻って来いよ二人とも!! そういうのはおまけでやれって!!」 なんとか、話を元に戻そうとする大草。 しかし残念ながら二人にその思いは届かない。 「………グスッ………」 涙が出ちゃう、だって男の子だもん。 「それで、その女っていうのかわいかったのかい? 真中君。」 いきなり話題が変わったように読者諸君は感じられるかもしれない。しかしこれは、真中、小宮山の両名が黒いオーラを放ち始めた大草に対して生命の危機を感じたためだ。むしろ、この場合多少強引にでも話題を戻したことが間違いでなかったことに疑いの余地はない。 「そうさ、この僕も目ん玉飛び出るくらい、別嬪だったと思うね!小宮山君。」 なので、二人がやたらぎこちないのもしょうがないことなのだ。 「それはすごい、真中氏が絶賛なんて有史以来なかなかなかったことだよ! ぜひお近づきになりたいね、そうだろ? ね? 大草殿?」 かれらはいま、必死だ。 「ああ、そうだね。地上でポジトロンライフルなんて撃ったら大変なことになるよね……ククク…ばかだなぁ、リツコサン……」 ((え!? なに!? ちょっと何いってるの!? このヒト!)) 大型で強い勢力をもった台風1号は依然、大草を中心にその勢力を保ったまま停滞中です。 「HAHAHA!!! そうだ、その女って平和を愛する私達と同じ学校の生徒なんでしょ? きっとそうよ! そうに違いないわ! おねがい! もうそういうことにして!!」 『友(命)を救いたい』その思いだけで彼らは敢然と絶望的状況に挑む。負けるわけにはいかない。負けるわけにはいかないのだ。 「そうね! きっとそうだわ!! でも、あんなにかわいい子なんて平和を愛する私達の学校にいたかしら!?」 だから『男の尊厳』などというものはこの場では形骸にすぎない。 「真中さんったら、いつも女の子に興味なんて持たないもの、名前なんて期待してないからその娘の容姿を言ってゴランナサイ? さぁ早く!!! 種がはじける前に!!!」 生物は存在し生存する以上、その生命を維持する義務があるのだ。遥かな先祖より受け継がれてきたその使命。それを次の世代へ受け継ぐ前に散ることは許されない。 「な、なまえ?――――――あああ!!」 突然奇声を上げる真中。すこしちびった小宮山。 「悪い! 忘れ物した!! 先いっててくれ!!」 そういってきびすを返し、来た道を駆け戻っていく。 「お、おい! まて、いやまってください!! むしろひとりにしないで〜〜〜!!!」 あまりの孤独感に小宮山が悲鳴を上げるが、真中はあっという間に視界から消えた。悲鳴を聞いた際に真中が加速を掛けたことは内緒だ。 「そ、そんなどうした「ハハハ…ヤダナァ…ATフィールド…万能ジャ…ミサトサン」ら… ヒィ!!!」 現実はいつも、無慈悲だ。『必死』『努力』が必ずしも報われるわけではない。彼らはこの日、知りたくもないその事実を幼いながらも実感することになった。 「フフフ…ヒトツニナリマショウ…ソレハトテモキモチイイコト……」 ふりむいたその先、恐怖はそこにあった。 「!!?―――イヤ―――!!!!―――ヤメテッ――アッ――ア-―――― そこで何があったのか、それは今も、そしてこれからも語られることはない。ただ、世の中にはあえて目を背けなければならないこともある、とだけ知っておいてほしいのだ。 [No.1098] 2005/04/25(Mon) 14:16:51 pcp061698pcs.unl.edu |