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No.1272へ返信

all 初めまして! - 光 - 2006/02/22(Wed) 10:32:33 [No.1260]
『プロローグ』 - 光 - 2006/02/22(Wed) 11:15:48 [No.1261]
第1章『その理由は・・・』 - 光 - 2006/02/27(Mon) 13:25:46 [No.1263]
第2章『ハイウェイパニック』 - 光 - 2006/03/06(Mon) 19:17:04 [No.1272]
第3章『惚気100%』 - 光 - 2006/03/10(Fri) 19:08:53 [No.1275]
第4章『再会二重奏』 - 光 - 2006/03/15(Wed) 23:47:50 [No.1280]
第5章『羅針盤MANAKA』 - 光 - 2006/03/30(Thu) 01:30:48 [No.1286]
第6章『桜 時々 いちご』 - 光 - 2006/04/22(Sat) 00:02:50 [No.1290]
第7章『Mad Compass』 - 光 - 2006/05/09(Tue) 17:44:37 [No.1295]
第8章『あいたがひ 覚束無しや 桜人』 - 光 - 2006/08/16(Wed) 17:51:10 [No.1309]
最終章『西に沈む陽』 - SSスレからの転載・たゆ代行書き込み - 2007/03/27(Tue) 12:12:37 [No.1342]


第2章『ハイウェイパニック』 (No.1263 への返信) - 光

 高速道路とは血管のようなものだ、という人がいる。都市と地方

を結び、人や物資という酸素を乗せた車という名の赤血球の通り

道。それらは行き先で商品やその消費者、あるいは労働力となるこ

とで、酸素が使われ、細胞が息づく。一度問題が起これば、程度の

差こそあれ、巡りが悪くなり、正常な状態ならば淀みなく流れてい

く。

 今正に下り方面に向かい快走しているこの白の軽自動車とて例外

ではない。

「それにしても、驚き〜。」

 日本にいない間の淳平の思い出を聞いて、助手席に座って楽しそ

うに笑っていたつかさが感心したように言う。

「淳平君ってもう自分の車持ってるんだね。」

映画のお仕事ってそんなにもうかるの?というつかさの言葉に、淳

平は「まさか」といって苦笑いを浮かべる。

「まだ事務所に入りたての新人の給料なんてすずめの涙もいいとこ

だよ。」

 じゃあ、どうして?という表情のつかさに、淳平は説明しだす。

 この車の元の持ち主はテアトル泉坂の館長の息子。父親の影響か

らか、彼もまた映画に多少なりとも興味があり、ある日、父親が持

っていた淳平の高校生の時の作品のビデオを見て淳平のことをいた

く気に入ったのだった。淳平もまた、自分では気づきにくい点を的

確に評価してくれる彼の意見を貴重に感じていた。そんな時、館長

の息子が新しいのに乗り換えるからという理由で、淳平に一台譲っ

てくれたのだった。タダではいくらなんでも悪いのでと、多少お金

を払ったようだが、中古車専門店の買取り価格より高く、且つ売値

よりも格安だったので、互いに非常に得をしたことになる。

「でもさぁ」と、つかさ。

「それってやっぱり、淳平君が認めてもらってるってことなんだよ

ね?そう考えると・・・やっぱり嬉しいな。」

 「変なの。アタシのことじゃないのにね」と言って、ニコッと笑

うつかさを見て、淳平の心臓が喜びに震える。この笑顔を守るため

にも、と淳平は思う。

(早く技術を身につけて、西野に何でもしてあげるんだ)

 いつか外村に言ったセリフを心の中でそっと繰り返す。ただし、

あの時とは違い、夢想に近いものではなく、確固たる決意と意思を

込めて。

 すると、そんな気持ちでいた淳平の目に映ったつかさの笑顔が途

端に青ざめる。

「じゅ、じゅ、淳平君!前、前!」

「へ?・・・・・のわぁっ!!!」

 つかさに見とれている間に、車はあっちにゆらゆら、こっちにふ

らふら。気が付いてみれば車はガードレールにぶつかるか否かとい

うギリギリの所を走っていた。淳平は慌てて左にハンドルをきる

が、突然のことに加減が効かず、左側の車線から追い抜こうとして

いたトラックの前に飛び出し、派手にクラクションを鳴らされる。

「どわぁぁぁぁーーーーー!!!」

「きゃーーーーーーーーーっ!!」

 最早完全に冷静さを失って、淳平は無我夢中でハンドルをきる。

数秒後、サービスエリアの駐車場にフルスピードで突入し、二人を

乗せた車は漸く然るべき場所に落ち着いた。

「はぁ、はぁ」

 二人ともぐったりと疲れきって、よれよれになってしまって、肩

で息をしている。

「アハハ・・・その・・・・・大丈夫だった?」

 とりあえず笑って場を和ませようとした淳平の目論見は、どうや

ら大失敗に終わるようだ。

「もーっ!何やってんだよ淳平君!ホントに死ぬかと思ったんだ

ぞ!」

 つかさが堰を切ったように喋りだし、淳平に怒りをぶちまける。

こうなると淳平はただひたすら小さくなっているしかない。時折、

「はい」とか「すいませんでした」とか「仰る通りです」と言う以

外は、静かにつかさのお説教を受けていた。

 つかさマシンガンが弾を全て撃ち尽くしたのは、それから五分後

のことだという。 


[No.1272] 2006/03/06(Mon) 19:17:04
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