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all 記憶鮮明2 過去編 『 蒼 天 』 - たゆ - 2004/11/08(Mon) 21:12:22 [No.607]
Re: 記憶鮮明 2 - takaci - 2004/11/09(Tue) 22:39:44 [No.616]
Re: 記憶鮮明 2 - たゆ - 2004/11/10(Wed) 20:06:33 [No.618]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 前書き - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:26:17 [No.1106]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 01 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:28:01 [No.1107]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 02 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:28:52 [No.1108]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 03 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:29:46 [No.1109]
記憶鮮明 現在形の彼方 - たゆ - 2005/06/09(Thu) 23:28:04 [No.1137]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 04 - たゆ - 2006/09/05(Tue) 11:36:40 [No.1311]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 05 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:42:07 [No.1347]
記憶鮮明3 現在編 あるエピソード/この世の果て - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:47:20 [No.1348]
記憶鮮明3 現在編 あるエピソード/境界 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:50:29 [No.1349]
記憶鮮明3 記憶不鮮明にて無題 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 20:25:31 [No.1350]
記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/06/18(Mon) 04:33:16 [No.1353]
記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/07/10(Tue) 17:18:26 [No.1355]
Re: 記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/11/07(Wed) 16:00:30 [No.1394]


記憶鮮明2 過去編  『voice』 04 (No.1137 への返信) - たゆ

記憶鮮明 2 『voice』 04


真中は息を切らせつかさの自宅へと走っていた。
白くなった道をザクザクと白いしぶきを上げ猛スピードで駆ける。

(あの角を曲がれば西野の家が見える・・・)

本来なら帰国して普通に明日の始業式に出る、真中の様に受験生なら休む生徒もいるだろう。
つかさの様に就職を決めた子は名残惜しさからか、休まずに三学期を過ごす生徒が大半だ。
受験組が休んでいるガラガラの教室で授業もそこそこに、登校している同じく就職組たちと最後の学生気分を味わう。
必ず登校するはずである。
そのはずであった。
つかさの部屋には壁にかかったアイロンの利いたブラウスとブリーツスカート、簡単な身だしなみの為のポーチと筆記道具の入った学園指定のカバンなど、半日程度の始業式に出るための用意もすでにしてあった。

空は暗雲が垂れ込め、今しがた白い粒を降らせていたのを再び繰り返しそうであった。
門柱が見える。
後数歩で西野家の玄関である。
門柱に手をかけようとしたその時、ふらりと黒い影が半開きの門と玄関の間で見え隠れした。

「西野!」
「えっ?つかさの知合い・・・?」

修学旅行以来まともに顔もあわせたことのない、つかさにとって最愛であり心砕く二人が邂逅した。

(西野じゃない・・・)

真中の心の呟きは顔に出て落胆の表情をトモコに見せる。

「えっと・・・えーっと・・・彼氏さんですか?・・・」

つかさは女子高であるから男子の友達はいない、それも呼び捨てできる人なんてトモコも知らない。
好きな人は修学旅行の一件もあって必ずいると予想はするけど、つかさは言わない。
正式には付き合ってないかもしれない、でもぞっこんな人がいることぐらいはわかってる。
もしかしてその彼なんじゃあと目の前の真中の必死さを見て思うのは当たり前だった。
ただ、ためらったのはもしかして彼氏というほど深い付き合いじゃないかもしれないと思ったから。

「えっ!彼氏!あ、まあ、そのう、今は友達です・・・はい・・・」

二人のことをどれほど知ってるかわからないつかさの友達に真中はいきなり彼氏と言われて驚く。
真冬の凍てつく豪雪警報が出ている空の下、
自分の様に部屋着のまま駆けつけるほど心配している友達なんだから、それは親しいに違いはないと思う。

-----つかさの事が心配で心配でたまらないの-----

彼女の蒼白な頬と下がった目じりと潤んだ瞳からはそんな言葉が溢れてくる。
ああ、このコも心配してるんだ、俺と同じなんだと思うと、心の中にある絶望も少しは軽くなった気がした。
ただし出来事の重大さは変わらない。
そして二人揃ったことで「つかさはここにはいない」と真っ黒な現実を叩きつけられたと等しい、
固く閉ざされた玄関の前で言葉を失った二人は暫く無言のまま立ち尽くしていた。






沈黙と時が流れる。
腰掛けている玄関のタイル敷きから真冬の冷たさが凍みてくる。
真中とトモコの二人は雑談をしに集まったわけではない、
たった一人の少女を待ちわびているから、
あれから会話もなくただヒザを抱え待っている。

沈黙はそのまま寒さになった。



トゥルルルルルル トゥルルルルルル


時折室内から電話の呼び出し音が響いてくる。
トモコが肩を震わせ玄関の扉をじっと見る、
その視線の先には一人の少女が写っている。
目前の扉ではなく開いた先の空間にいるべき女の子、
それは真中も同じだった。


トゥルルルルル カチッ


呼び出し音は不意に消え留守番電話に切り替わる。
既にメッセージが受付けないのを真中は知っている。
つかさのクラスメートなのか、或いは親の仕事関係なのか、沈黙の玄関に響くそれは止まらない。
携帯も持たない真中には時間がいくら経過したのか分からない、
そして空は黒く閃光がまたたき雷鳴が轟く、
空から白いものが落ちていき、地面は白く白く無垢に還っていった。





トモコは沈黙の中に疑問を秘めていた。
かつてはつかさの恋人てあった真中に対して暗雲の様に疑問は次々と浮かぶ。
なぜ別れたのか、それはいつなのか?
修学旅行で見たのは彼ではなかったのか?
恋人だからこそ全てをかけてつかさは行動したのだろうか?
それにしては当時のつかさのあまりの必死さに驚き、親友の恋の行方に皆が協力した。
普通に付き合ってるのならあの必死さは要らない、
あの後別れたのだろうか?あれから一年以上過ぎるのだからそれもありえるとトモコは考える。

なにより自分の知らないうちに親友の恋が終わっていたことに軽いショックがある。
でも心配して元恋人にがここにいる時点でそれは幸せなのかもしれないとも思う。

『どーなってんのよっ・・・
 つかさったらそんなこと何も言わないんだから
 帰ったら問い詰めてやるんだから
 問い詰めて・・・聞いて・・・』

勝気な眉が下がりヒザの間に顔を埋める。
目じりに浮かぶそれを誰にも見られたくないから。

『・・・だから、だから・・・早く帰ってきなさいよ、つかさ!
 帰ってきて・・・必ずここに、 みんなのところに
 いつもの感じで、桜海の窓際の机でお話しようよ
 お願い早く帰ってきてよ・・・みんな待ってるんだからさぁ・・・』

痛いほど右手に握っているエッフェル塔の置物を掴む。
指の関節は寒さと力みで感覚がなくなっていく。
雪は本降りになり玄関ポーチの軒下ぐらいでは吹き込んでくる。


思考は最初からループしてしまう
どんなに身を小さくしても待っていても
どんなに時が経っても
何も変らない


世界が白くなる


SS(ショートストーリー)は突然に
http://ran.s71.xrea.com/test/read.cgi/mahoroba/1096036689/73-76
ここに書き溜めていたものをまとめて出しました。


[No.1311] 2006/09/05(Tue) 11:36:40
KD059135246085.ppp.dion.ne.jp

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