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「おいっ!早く持ってこいよ、このグズが!!」 「ホント、こいつ何をやらせてもとろいなっ!!」 大きな声が僕に浴びせられていた。いつものことだ。 「すみません・・・買ってきました」 「おせぇよ!このタコ!!」 両手に抱えたジュースを強引に奪い取ると、もう彼らにとって僕の存在意義はない。 「おい、いつまで突っ立ってんだよ!気が散るからどっか行けよ!!」 視線を合わせるわけでもなく、まして顔を向けることもなく。 ただ、僕は背中と会話をしているだけだ。いや、会話とは言えない。一方的に言われ、そして僕はそれに従う。ただそれだけだ。 「すみません・・・」 少しアタマを下げ、僕は居場所のないそこをあとにした。これから何処に行こう。どこに行っても同じなのはわかってる。限られた時間と空間の中で、毎日同じように過ごす。 誰もがそうなのだろうと答えるかもしれない。でも、僕にはそうは思えない。この空間にも居場所はない。学校という空間の中に、僕という『人間』は誰にも認められていない。 学校が終わると、僕は週に3日だけバイトをしていた。本当ならしたくはなかった。でも、今のおこづかいだけではどうしても足りないから已む無く始めた。アイツらがいる限り、僕はアイツらの財布なんだ。学校を辞めたいと何度も思った。でも、アイツらに負けるようでどうしても辞められなかった。いや、そうじゃない。ただ、僕には『学校を辞める』という勇気すらないだけのことなんだ。 「お、おはようございます」 「あ、コータくん!おはよっ!!」 優しい音色のするベルが着いたドアを開けると、そこには今の僕にとってとても居心地のよう空間があった。 「あ、お、おはようご・・・ございます・・・」 「コラッ!下を向いて話さない!話すときはちゃんと目を見て!!」 「は・・はい・・・お・・・おはようございます」 「うん、良くできました!!」 微笑みかけたその表情に、僕は毎日赤面していた。サラサラのショートヘアに綺麗な白い肌。スラっとしたスタイル。そして何よりそこら辺のアイドルなんか目じゃないくらいのかわいさ。 最初、僕は大学生くらいかと思ったのだが、もう20代半ばだと聞いてびっくりした。しかも結婚までしてるなんて。こんな素敵な奥さんを持つ人ってどんな人なんだろうと日々想像した。 色んな意味で。 今日はかなり忙しかった。最近できたお店だったので、どうせ客も少ないだろうし、バイトの人数も少ないだろうからという軽い気持ちで入ったのだが、実際オープンして3ヶ月。店頭に並べられるケーキのおいしさが口コミとなって広まり始めたのだろうか。徐々に客足は増え、今日は全て完売というオープン時以来の快挙を成し遂げた。たまに会社員風の人たちが自宅用にと大量に買って行く事もあったが、それはケーキ目当てではないことは明らかで、チラチラと視線を厨房の方へ向けてはニンマリとしていた。 「さ〜〜って、お疲れ様!!」 「そうですね、今日は夕方からあっという間って感じでしたね!」 みんなが挨拶をする中、僕は店の人たち数人と一緒に最期に店を出た。 「今日はみんなありがとう!まさか全部売り切れちゃうなんてね♪」 「いえいえ、だってつかささんのケーキとってもおいしいですもの!当然ですよ!」 「おやおや?久美ったらホントは余ったケーキが貰えなくて残念なんじゃないの?」 「な、何ーーー!?そ、そういうアンタだってそうでしょ!!こないだだって帰り道で3個も食べたくせに!」 「ど、どうしてそういうことを言うのよ!こ、こんなところで!!」 「フフフ いいのよ、じゃあ今度は売り切れそうな時はみんなの分を別に作っておかないとね♪」 「ヤッターーー!!」 「ヤッタじゃないわよ、このバカ!!」 「何よ〜〜!!」 女の人というのはどうしてこうも賑やかなんだろう。バイトをしている時は掃除をしたり、洗いものをしたりしてるので会話がないから楽なんだが、この帰宅時の一瞬だけ。この一瞬だけが嫌が応にも会話に巻き込まれてしまうことがあり、苦手だ。 「コータくん、それじゃアタシ達はこっちだから。気をつけて帰ってね」 「あ・・・・は、はい」 つかささんの笑顔に僕はまた赤面しながら、小さく呟くことが精一杯だった。 「ねぇ、つかささん。何でコータを雇ったんですか?」 「あ、そうそう!それ、アタシも聞きたかった!だって男の人を雇うなんて初じゃないですか??」 「クスッ 実はね、今まで男の人が面接に来たことってなかったの」 「え?そうなんですか?!」 「うん、だからね、コータくんは記念すべき第一号ってわけ」 「ま、まさかそれだけが理由・・・・」 「え?ダメなの??」 「い、いえ・・・そういうわけじゃ・・・」 [No.1329] 2006/10/27(Fri) 01:16:17 iz237.opt2.point.ne.jp |