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No.1347へ返信

all 記憶鮮明2 過去編 『 蒼 天 』 - たゆ - 2004/11/08(Mon) 21:12:22 [No.607]
Re: 記憶鮮明 2 - takaci - 2004/11/09(Tue) 22:39:44 [No.616]
Re: 記憶鮮明 2 - たゆ - 2004/11/10(Wed) 20:06:33 [No.618]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 前書き - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:26:17 [No.1106]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 01 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:28:01 [No.1107]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 02 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:28:52 [No.1108]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 03 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:29:46 [No.1109]
記憶鮮明 現在形の彼方 - たゆ - 2005/06/09(Thu) 23:28:04 [No.1137]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 04 - たゆ - 2006/09/05(Tue) 11:36:40 [No.1311]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 05 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:42:07 [No.1347]
記憶鮮明3 現在編 あるエピソード/この世の果て - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:47:20 [No.1348]
記憶鮮明3 現在編 あるエピソード/境界 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:50:29 [No.1349]
記憶鮮明3 記憶不鮮明にて無題 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 20:25:31 [No.1350]
記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/06/18(Mon) 04:33:16 [No.1353]
記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/07/10(Tue) 17:18:26 [No.1355]
Re: 記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/11/07(Wed) 16:00:30 [No.1394]


記憶鮮明2 過去編  『voice』 05 (No.1311 への返信) - たゆ

ごうごうと風が庭木をゆらし住宅地の人気のない夜の道に雪の白波を舞い上がらせる。
吹き込む雪も増え、二人の待ち人のつま先にかすかに降り積もる。
降る雪が街灯に照らされキラキラと光る、それをただぼんやりと真中は眺めていた。


沈黙のまま暗い景色を眺めて険しい表情の女の子と微妙な空気に戸惑いつつも何もできない自分は同じ目的のはずなのに、滑稽なほどばらばらに見えてここにはいない待ち人に申し訳なく思えた。
何か話したほうが良いに決まっている、時間の経過がつらすぎる。
しかし何を話せばいいのだろう?
そして時間がいくら心地よく経過したとしても肝心の西野が帰ってこなければ意味がない。
いくら時間が経とうが意味がない
ヒザをかかえた女の子に西野の学校生活の様子を聞くことだってできる。
普段知ることのできない様子が聞けるはず。


真中は少女のヒザが震えているのに気づいた、この寒さなのに薄いスウェットとジャージ姿なのだと始めて気づいた。
ポケットに放りっぱなしの小銭を確かめると門柱を開け敷地から雪降る世界へ走り去った。
その姿を見てトモコは小さく「・・・あっ」っと声を出すがもう届かない、雪が降っているため真中の足音も聞こえない、独りになったトモコは開放されたかのように長いため息をついた。

「・・・つかさ・・・私待ってるから・・・ずっと・・・ずっとずっと待ってるから・・・」

少女は意を決したように立ち上がり半開きの門柱をくぐりきっちりと閉める。
つかさの部屋のある二階の窓を見上げると黒目の多い瞳から大粒の光が落ちた。

「あたし、あたし、つかさのこと大好きだから、ずっと忘れないから、だから絶対戻ってきて、絶対よ!」

たちまち黒髪が雪で白く染まる。
彼女は振り向きもせず、白い世界をものともせず来た道を走っていった。




しばらくすると真中が門柱をくぐり頭の雪を払いながら、街灯の光が届かない薄暗い玄関ポーチに近づき声をかけた。

「あたたかいココアだけど、よかったら飲んで・・・」
「・・・あ・・・」

床には今さっきまでいた人の形に雪が降りこんではなかった。
隣に腰掛けると買ってきたココアを少女がいた場所に置いた。

カコォン

それは玄関に軽く響く。
自分用のコーヒーを空けると一息ついた。白く煙る吐く息がさらに寒さが増したのだと気づかせる。
女の子の名前さえも、つかさとの関係も詳しく知らないことに、そして少女の名前を知る方法さえも知らない自分に気づく。

「・・・名前ぐらい聞けばよかった、西野に聞けばすぐわかるのになあ・・・」




肩の雪をはらってくれる人も、凍える体を心配して扉を開けてくれる人もいない。
灰色の空を眺めて深く長いため息をついた。
雪が音を閉ざし人気の無い真冬の住宅地はなおさらに無音であった。


無人無言無音。
そして無常の時が流れる。


記憶鮮明 2 『voice』編 完



SS(ショートストーリー)は突然に
http://ran.s71.xrea.com/test/read.cgi/mahoroba/1096036689/81
ここに書いていたものです


[No.1347] 2007/03/29(Thu) 19:42:07
KD059135246085.ppp.dion.ne.jp

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