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all 『WHEEL』 序章―無限の歪― - 光 - 2007/05/06(Sun) 18:25:14 [No.1351]
『WHEEL』 第1章―気になるアイツ― - 光 - 2007/05/17(Thu) 01:29:56 [No.1352]
『WHEEL』 第2章―恋に不慣れなオトコノコ― - 光 - 2007/08/04(Sat) 23:46:04 [No.1367]
『WHEEL』 第3章―ボクを悩ますオンナノコ― - 光 - 2007/11/19(Mon) 20:47:46 [No.1399]
お詫びという名の言い訳 - 光 - 2008/06/25(Wed) 00:17:39 [No.1451]
『WHEEL』 第4章―言えない関係― - 光 - 2008/06/25(Wed) 00:24:09 [No.1452]
『WHEEL』 第5章―ただ、君と一緒に― - 光 - 2008/11/04(Tue) 01:24:41 [No.1481]
『WHEEL』 第6章―ここから始まる― - 光 - 2011/04/21(Thu) 17:35:29 [No.1600]


『WHEEL』 第2章―恋に不慣れなオトコノコ― (No.1352 への返信) - 光

 夕暮れ時の空と街。ポツリ、ポツリと浮かぶ雲が、昼間の純白を

忘れさせるほどに黒く、不気味に様相を変えている。空と同じ茜色

に染まる家々の塀の近くを、右手に買い物袋、左手に我が子の手を

取りながら歩く買い物帰りの主婦たちや、たまには早く帰宅しよう

と家路に着くサラリーマン、また明日と言葉を交し合いそれぞれの

家へ向かう子どもたちが、殆ど沈みかかっている夕焼けを浴びなが

ら、すれ違い、通り過ぎていく。

 ここにも二人、仲良く並んで帰宅する中学生二人がいる。途中、

道行く人々が、優しく繋がれた二人の手を、隙間無くくっついた肩

と肩を目に留めて、微笑ましそうに目を細めていく。そんな風に、

しっかりと注目を浴びながらも、淳平にとってはそんなものは一切

気にならなかった。

 少し語弊があった。訂正しよう。
























































“気にしている場合ではなかった”


























































(今まで彼女なんかいたことないから、知らないけど・・・)

 ガチガチに緊張しながら、淳平は思う。






































(交際初日から手って繋ぐもん!?ってか、密着しすぎでは!?)

 これが、淳平と釣り合うような容姿の女の子や、お節介な幼馴染

などであれば、淳平もさして緊張する必要もなかったのだろう。だ

が、いかんせん相手が悪すぎた。何せ今淳平と腕を組み、手を繋い

で歩いているのは、ただの女の子ではない。学年のアイドルで一番

人気の女の子である。

 ただ、だから全てが万々歳かと聞かれれば、素直に頷けない部分

もあることを、淳平本人も認めていた。

(あの野郎・・・・・マジで手加減してねぇし・・・)










































遡ること約2時間

「確か、真中クンだったよね?よろしくね!」

 パチン、と片目をつぶり、右手を差し出す美少女―――西野つか

さである―――。

「・・・・・はぃ?」

 差し出された右手の意味がわからない淳平は、裏返りかけている

声を発し、かなり間の抜けた表情をしていた。ちなみに、淳平の名

誉のために言うならば、このやりとりが聞こえる範囲内にいた人間

は(大草も含めて)全員似たり寄ったりの表情だった。

「あのねぇ」

 目の前の少年から予想通りの反応がなかったためか、つかさがほ

んの少し頬を膨らませて、不機嫌な表情を作る。

「よろしく、って言われて握手求められたのに、何にも無し?それ

とも、潔癖症で人の手に触るの嫌とか?」

 つかさのこの発言で漸く立ち直った大草や周囲の生徒たちが、示

し合わせたかのように一斉に絶句する。最初、あまりに急ピッチな

展開についていけていなかったが、徐々に理性が現実に追いついて

きたのだ。しかし、

「あ・・・・・そっか、ごめん・・・。」

 今度こそ本当に愕然とする。これ以上はないだろうと思っていた

状況に、淳平が更に大きな爆弾を一つ落としていった。今しがた発

せられた台詞の中身と、まだどこか抜けたような表情を浮かべてい

ることから考えるに、この男、未だに自分が何を言われ、どういう

意味の握手をしたのか、全く理解できていないらしい。

 図ったかのようなタイミングで、昼休み終了のチャイムが鳴る。

とりあえず、自分たちのクラスに戻ることにした大草と淳平(ニブ

チン)は、2組の教室を一歩出た瞬間に、すっかり存在を忘れかか

っていた人物に襲い掛かられたのだった。












































































































































「こ、告られたぁ!?!?」






































































































 大音声に耳を塞ぎながらも「やっぱり、何もわかってなかった」

と、半ば呆れ返りながら、大草は早速痛み出しそうな頭を抱えるよ

うにして言った。

「いや、告られた、っつうか、告った。っつうか・・・・・なんて

言うか・・・」

 恋愛については人並み以上、歳相応以上に経験をしている大草で

ある。当然様々な形、実例を知っているし、珍しい実体験もないわ

けではない。その大草にとっても、今回は異例中の異例であり、何

が変なのか、と聞かれても、説明するのも嫌になるくらい、大草か

らしてみれば全てがズレまくっていた。

 もう一度確認しておくと、淳平と大草は、小宮山の告白のセッテ

ィング場所につかさを呼び出すために2組を訪れた。そして、確か

に大草は“友達でつかさに伝えたいことがある奴がいるから放課後

に体育館の裏に来て欲しい”と伝えた。

「いや、だからそれは小宮山が告・・・」

「問題は!」

 もう、いい加減にしてくれとでも言わんばかりに淳平の言葉を遮

って、うんざりした様子を隠そうともせず説明を続ける。

「西野は“ちっともそうは思ってない”ってこと。あの時俺が言っ

たのは、俺の友達が体育館の裏で西野に伝えたいことがある、って

ことだけだろ?」

 これを聞いて淳平は、少し思案した。

 しかし、やっぱり、不思議なところが見当たらないのだ。

「だから、小宮山が今日の放課後に体育館の裏で西野を待ってれば

良いんじゃねぇの?」

「俺は一度も“小宮山が”話があるなんて言ってないぞ?いいか?

―――二回以上説明したくないから、よく聞けよ?―――俺が“友

達”って言ったとき、そいつの特徴とか、どんなやつ、とか全然言

わなかっただろ?そこへきて、お前が俺と一緒に来たんだから、勘

違いされたんだよ。本当は、二人で伝言しに行っただけだったの

に、西野からしてみれば、“真中が告白したかったけど一人じゃ不

安だから俺も一緒についてきた”って見えちゃったってこと。」






























































 ここまで説明して、疲れたようにため息を吐きながら、無意識に

前髪を掻き揚げる。

 大草は敢えて説明を省いたが、2組に入ったときに淳平が後ろの

方で隠れてしまっていたのが決定的だった、と大草は考えている

し、事実その通りなのである。そのせいでつかさには「告白を目前

にしてアガってしまった」という印象を与えてしまったのである。

 淳平は、弱い目眩を感じていた。とりあえず、説明された状況は

何とか頭に入った。後は理性がそれに追いつけば良いのだ。だが、

どうしてもこの段階で先に進めなくなる。モテた事のない男の性な

のか、どうしても「そんなことありえない」と、ストップをかける

自分がいるのである。









































































「大草・・・、それさ」

 暫しの沈黙の後、淳平がポツリとこぼす様に口を開いた。

























































































「それ・・・ありえねぇ、って。俺が、まさか・・・」

「じゃあ、聞くけど、あの時西野が「自分で言え」って言ったの

は、何を言えってことだったんだ?」






































 ズバリ痛いところを突かれて、一瞬言葉に詰る淳平。

「だから・・・、小宮山の・・・・・伝言・・・のこと・・・・・

だろ?」

「「良いよ、君となら。」って言ったのは何のことだ?」
























































 さっきよりも急所に近いところを突かれて、今度は言葉も出なく

なってしまい、窒息しかかっているような音が僅かに漏れたのみだ

った。

「西野、「自分からコクったんだろ?」とか言ってたぞ?」
















































































 今度こそ、ぐうの音も出ない。ほとんど完全に納得してしまって

いた。淳平がいくら考えてみたところで、それで全ての辻褄が合っ

てしまうのだった。

 暫く、何も考えられなかった。ただ驚き、放心して、さっきの出

来事を反芻していた。




























































 その後、放課後になってつかさが淳平を4組の教室まで迎えに来

て、一緒に帰宅し、現在に至る・・・というわけではなかった。実

はその放心状態、そう長く続いたわけではなかったのである。淳平

も大草もその時は完全に忘れてしまっていたのだが、元はといえば

小宮山の告白のセッティングのためにつかさに会いに行ったのだっ

た。

 が、結果的にはつかさに言いたかったことは何も伝わらず、その

挙句小宮山が最も危惧していた事態(本当は大草に惹かれてしまう

のでは、と思っていたのだが)になってしまった。当然、小宮山に

は言いたいことが山ほどある。

「真中ぁぁぁぁぁ!!!」

 やっとショックから立ち直った小宮山が、淳平に掴みかかる。淳

平の頭が、首の座っていない赤ん坊のようにグラグラと危なっかし

げに揺らしていたが、今の小宮山にとってはお構いなし。曰く、友

達なら告られても断りゃいいだろ、だそうだ。しかし、4組に帰っ

てきて大草から聞くまで、全く事態が呑み込めていなかった淳平が

そんなことができるはずがないのであるが。

 その後は、もう大変だった。小宮山がまたもや淳平と(一方的

な)乱闘を繰り広げ始めた。暴れる小宮山を二人がかりで何とか宥

めすかし、それなら今からでも本当のことを言ってみたらどうか、

という大草の提案に小宮山のテンションがすっかり上がってしまっ

た。

 しかし、結果はご存知だろうが、惨敗。淳平を下校前に迎えに来

たつかさに、緊張でかなりつっかえながら告白しようとする小宮山

が言い終わる前に「悪いけど、アタシ怖い顔の男ってダメなの」

と、一刀両断。盛大に落ち込む小宮山を残し、つかさが淳平を引っ

張るようにして帰っていったのだった。


(まぁ、大草が上手くやってくれてるんだろうけど・・・。)

「・・・平君?・・・おーい?・・・・・コラ!淳平!!」

「ひゃはいっ!?」

 突如鼓膜に当たる可愛らしい怒鳴り声に、声をひっくり返して返

事をする。心臓が喉の辺りまで飛び上がってきそうなほどの驚きだ

ったが、直後、透き通るような瞳とその持ち主の整った顔が、文字

通り目と鼻の先にあり、一度大きく脈打った心臓は、そのままの強

さで鳴りっぱなしになってしまった。

「もーっ!人の話全然聞いてないでしょ!?」

 ぷぅっ、と頬に空気を溜めて、ほんの少し怒った表情を見せ、軽

く非難するような目つきで淳平を見るつかさ。別につかさにそんな

つもりはないのだが、膨れているところが、また余計に可愛らし

く、自分が怒られていることも忘れて、危うく意識を飛ばしかける

淳平。僅かに残った平常心を総動員して、何とか「ゴメン」と口に

はしてみたものの、実のところ、ほとんど反射的に謝っているた

め、何に対して「ゴメン」なのか、いま一つわかっていなかった。

「どの辺から聞いてなかったのかなぁー?淳平君は?」

 つい何時間か前まで赤の他人だった女の子に下の名前で呼ばれ

て、またもや心拍数の上がる淳平だったが、逆に臨界点を超えてし

まったのか、本人も以外に思うくらい落ち着けていた。

「えっと、最後のとこ・・・。ちょっと、考え事しちゃってて。」

 強ち間違いではないのだが、大きな語弊があるので訂正してお

く。確かに最後の部分は聞いていなかったのだが、正しくは“最初

から最後の部分まで”聞いていなかったのだ。

 つかさにしたって、そう同じ話を何度も繰り返したくないのは事

実なので、こう言っておけば、聞いていなかったといった部分以外

はすぐに話題に上ることはないであろうし、最後の部分だけなら、

本当にただの考え事と誤魔化すこともできる。淳平も、我ながら上

手くやった、と内心喜んでいた。








































































 それが、見当違いだった。



















































































「そっか・・・。まぁ、そりゃ考えちゃうよね・・・。」

 何故だか、淳平の「考え事」という言葉に妙に納得し、一人でう

んうんと頷いたかと思うと、再び淳平に向き直り、少し不安そうな

顔になった。

「じゃあ・・・、やっぱり、ダメかな?」

 先程顔の目の前にあった綺麗な目が、ほんの少しだけ曇りがちに

なる。残念、というのが正しい表現に思えるような顔で、少し俯き

加減で、淳平のことを上目遣いに見た。女の子にモテたことのない

淳平にとっては、まさに必殺技。つかさにこんな表情で「ダメ?」

と聞かれれば、答えはほぼ決まっている。

「いや!全然大丈夫!もう、ホントに!」

 照れ隠しにかなり大きな声を出しながら、必要以上に腕をブンブ

ン振り回して、急いで言う。大丈夫、と言われて、つかさがにこっ

とする。

 ちなみに、彼女の名誉のために言っておくが、演技ではない。

「良かった!ダメって言われたらどうしよう、って思っちゃったよ
♪」

 真っ赤になっていた淳平は、少しホッとしたような顔になり、や

がてつかさと一緒ににっこりする。そして、

「えっ?」

 直後言われたつかさの言葉の意味がわからず、思わず聞き返す淳
平。今、つかさは確か「じゃあ、来年からも一緒にいられるね」と

言ったようだった。
































































(何で俺の志望校知ってるんだろ?)

 淳平たちは今中学3年生。中学最後の冬には、当然高校受験が控

えているし、既に受験勉強に精を出している友達を淳平は何人も知

っている。そして、高校に行くということは、当たり前だが、同じ

高校を受験しない限り来年の春には別の学校へ通うことになるので

ある。来年からも、ということは、つかさも淳平の第1志望校、泉

坂高校を受験するということなのだろうか?

 頭に疑問符を作り出しながら思案する淳平に、つかさが言う。
































































「じゃあ、“芯愛高校”行っても、仲良くしようね!淳平君!」
































































・・・・・・・






























































 咄嗟に、言われたことが理解できなかった淳平は、またもや反応

が遅れた。ただし、今回は理由がまるで違っていた。

「芯愛・・・高校?」

「そ♪じゃあ、アタシの家、こっちだから。また明日ね、淳平
君!」

 ポカンとしている淳平の様子に気付いていないようで、足取りも

軽く、一人帰っていくつかさ。後に残された淳平は、そのつかさの

姿が完全に見えなくなってから、漸く我にかえった。







































































「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

――――――――――――――――――――――――――――――

更新遅くなり、すみませんでしたm(_ _;m(平謝)


[No.1367] 2007/08/04(Sat) 23:46:04
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