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No.1394へ返信

all 記憶鮮明2 過去編 『 蒼 天 』 - たゆ - 2004/11/08(Mon) 21:12:22 [No.607]
Re: 記憶鮮明 2 - takaci - 2004/11/09(Tue) 22:39:44 [No.616]
Re: 記憶鮮明 2 - たゆ - 2004/11/10(Wed) 20:06:33 [No.618]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 前書き - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:26:17 [No.1106]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 01 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:28:01 [No.1107]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 02 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:28:52 [No.1108]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 03 - たゆ - 2005/05/03(Tue) 20:29:46 [No.1109]
記憶鮮明 現在形の彼方 - たゆ - 2005/06/09(Thu) 23:28:04 [No.1137]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 04 - たゆ - 2006/09/05(Tue) 11:36:40 [No.1311]
記憶鮮明2 過去編  『voice』 05 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:42:07 [No.1347]
記憶鮮明3 現在編 あるエピソード/この世の果て - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:47:20 [No.1348]
記憶鮮明3 現在編 あるエピソード/境界 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 19:50:29 [No.1349]
記憶鮮明3 記憶不鮮明にて無題 - たゆ - 2007/03/29(Thu) 20:25:31 [No.1350]
記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/06/18(Mon) 04:33:16 [No.1353]
記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/07/10(Tue) 17:18:26 [No.1355]
Re: 記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 - たゆ - 2007/11/07(Wed) 16:00:30 [No.1394]


Re: 記憶鮮明3 記憶不鮮明編 風の空道《カゼノソラミチ》 (No.1355 への返信) - たゆ

街に続く道は年端の行かない幼い子に長い道のりだった。
長いガードレールが並走して続いている。
橋に差し掛かったとき後ろから大きな車の近づく音がした。
普段から父母に言われてるとおりに慌てて桟橋の手すりに駆け寄る。
少女の後ろでトラックは加速して橋を渡った。

ごぁっ

熱い排気ガスと風圧が欄干とカードレールの間にいた小さな身体を押し上げる。

・・・あ・・・

路上から少女の身体は消えていた。
少女は一瞬で自分のみに起こったことがわかった。

おちる
おちてる
かわにおちちゃう

身をすくめて目をつぶり、来るであろう衝撃に耐えようとした。

どさっ

音にすればそんな感じだろうか、冷たい水の感覚や水面の衝撃はなく、泳ごうともがく腕は空を切る。

あれ
あれれ
つめなくないし
いたくない・・・

瞳を開けると澄んだ空と心配そうに覗き込む鳶色の瞳があった。

「大丈夫?」

少女は穏やかな風のようにやさしく抱きとめられている。
その腕は決して取りこぼさないように、そして壊してしまわないように幼い彼女を抱きとめていた。

「・・・うん!」

川に落ちないとわかると元気に返事をする。

「ありがとう、おにぃちゃん!」
「どういたしまして、さて道に戻ろうか」
「うんっ!」

少年はジャブジャブと音を立てひざ上の川面をゆっくりと歩き安全な土手に少女を下ろした。

「ねぇ、どうしてかわにいたの?おさかなとり?」
「んー、そんなところかな?」

あらかじめ少年が待ち伏せしていなければ落ちてくる少女を助けることは出来だろう。
そして少年の手には網も釣道具も何も持ってはいない。
これに気付くほど少女は大人ではなく、そして今はもっと他の事に心奪われていた。

「そうかあ、わたしね、これからえきにいくの、でんしゃのところまでいくの」
「だからおにぃちゃんありがとう、さようならーっ」

ででででっと土手を駆け上がりあぜ道を一生懸命走っていく、
それでも十以上年上の少年のほうが早くあっという間に追いついてしまう。

「お兄ちゃんも一緒に行ってあげるから、始発の電車見たいんだろ?」
「いいの?いっしょにいってくれるの?」
「ああ、おんぶしてあげるから乗って乗って!」

「わー、はやい、はやーい!!!」

実際少年は風の様に速かった。
むしろ風そのものであった。
いくら人が速くても風そのものの様にスピードは出はしない、街道を走る車両を楽に追い越せることなど不可能のはずだ。
だが少年が駆ければガードレールや電柱が飴細工のように曲がり避け、木々や生垣が道を作る。
およそ人間には到底不可能なことが起こっている。

「とんでるとりさんみたーい、おにぃちゃんはやいねー」
「天馬にだってなってみせるよ、もっと早くもっと高く」
「てんまってなーに?」
「ペガサス、翼の生えたお馬さんだよ、望めばどんなものにもなれるんだ」
「わーい、おうまさんだーっ♪ぱっかぱっかはしるーおうまさーん♪」

駅までの最短距離を人外の速さであっという間に走り終えた。
まだ始発列車は駅にあった、しかし少女が無人の田舎の駅のホームに着くと同時に列車が出発した。

「あ、おとうさんだ!」
「おとーさーん、いってらっしゃーーい」

「お?おお、いってきます」

見知らぬ少年の背に居る娘を見て驚く父の顔、だが娘が懸命に手を振る姿を見て安心して手を振っている。
少年も手を振り始発列車を見送った。

「間に合ってよかったね」
「うん、よかったーっ、おとうさんにいってらっしゃいいえたよ」
「おばぁちゃん心配してるといけないから帰ろうか?」
「うんっ!」

少女は心からの笑みを浮かべにっこりと笑った。

帰りも行きと同様、風のように瞬く間に家に着いた。
その間も少女は少年の背でにこにこと微笑んでいた。

「さあ、到着〜」
「ありがとう、おにぃちゃん。あ、おようふくぬれてるからね、タオルでふいたほうがいいよ」
「いやいいんだ、お兄ちゃんは大丈夫。それよりも早くおうちに入って」
「でも・・・かぜひいちゃうよ?おようふくかわかさないと・・・」
「心配しないで、ご飯の途中だったんだろ?お行儀悪い子はだめだぞ」
「ん・・・わかった・・・」

手を引いて家に連れて行こうとする少女、しかし少年はしゃがみ諭すように語りかける。

「おにぃちゃんのなまえは?あたししらないの、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ、西野はまだ知らなくて当たり前なんだから」

少女は近所の自分が知らないだけの誰かだと思っている。
そう思わせるだけの自然な接し方とやさしさがあるからだ。

「俺の名前は・・・うーん、そうだなあ・・・淳平っておぼえといて」
「じゅんぺいおにぃちゃんだね、わかった!」
「じゃあ、さようなら西野、この場合はつかさの方がいいかな、さようならつかさちゃん」
「またあえるよね?じゅんぺいおにぃちゃん!こんどあそんでねーっ!」
「ああ!またなぁーっ!危なくなったらいくらでも助けに来るからなぁーっ」

少女が玄関に消えてき、奥の台所に居るであろう祖母を大きな声で呼ぶ声がする。
少年は安堵し頭上の青い空を見上げた。
青い青い空。
それは水の草原とも言えるし水の結晶とも言える。



「・・・西野・・・」



ある一つの存在を求め、
ある一つの可能性を掴むため、
今は見えない、あるはずのない未来を目指して真中淳平は再び光と水の飛沫となりここではないどこかを目指した。

初出 http://ran.s71.xrea.com/test/read.cgi/mahoroba/1096036689/101


[No.1394] 2007/11/07(Wed) 16:00:30
G041133.ppp.dion.ne.jp

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