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No.1476へ返信

all 親から子へ・・・プロローグ - takaci - 2008/07/08(Tue) 21:39:01 [No.1453]
親から子へ・・・1 - takaci - 2008/07/13(Sun) 18:00:05 [No.1461]
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親から子へ・・・11 - takaci - 2008/10/21(Tue) 20:20:35 [No.1480]


親から子へ・・・9 (No.1475 への返信) - takaci

「真治よお、お前は幸せものだよなあ。美女ふたりから告られたんだからなあ」



「お前が言うなよ啓太、俺から見ればお前のほうが幸せに見えるぞ。女子の友達多いし、いま何人と付き合ってるんだ?」



「付き合ってるのは、えーっと…ってそんな事言わせんなよ!俺は至って真面目に女の子たちと仲良く過ごしてるんだ!付き合ってるとかそんなの関係ねえよ!」



「はいはいそうかよ…」



ムキになって慌てて口調を強める啓太の姿は、いま複数の女子と付き合っていることを表している。



そう感じ取った真治は完全に呆れていた。







「俺のことはどうでもいいんだ!お前はどっちを選ぶつもりなんだよ?亜美っちか?それとも大沢先輩か?」



先日、横浜の街でのふたり揃っての告白劇はこの学校の生徒にも伝わっていた。



亜美も志穂も裏表がない性格なので、この出来事を親しい友人に話していたのがきっかけで広まった。



亜美は小柄でかわいいルックスを持っておりそれなりにファンが多い。



志穂はとても女性的な魅力が強いのでこちらもファンが多い。



そのふたりから告白を受けた真治は、日々ごとに多くの生徒から痛いような視線を感じていた。



「でもふたりには悪いけどさあ、どっちもピンと来ないんだよなあ」



「なんだよそれ?贅沢な奴だな!」



「志穂さんがまさか俺の事をそんな風に思ってたなんて完全に想定外だよ。一回買い物に付き合っただけでよく知らないしさ。まあいい人なのは分かるけど…」



「じゃあ亜美っちはどうなんだよ?」



「あいつこそホント想定外さ。ただのバイク仲間としか思ってなかったからな。今更好きと言われてもそんな目で見れないし、実感沸かねえよ」



「なるほどなあ。けどまあお前はそうなるとふたりの美女の好意に応えないわけだ。で、そんなお前は誰を狙ってるんだ?」



「そりゃあ…お前も知ってるだろ?」



「ああ。けどあの子ばかり見ていて、ほか子の気持ちを汲まないのはどうかと思うぜ」



「なんだよ、じゃあ俺の気持ちはどうだっていいのかよ?」



「そこまでは言わねえ。けどよ、大沢先輩と亜美っちから告られたんだぞ、あのふたりははっきり言ってレベルが高い。それを逃がすのはあまりに勿体ないと思うぜ」



啓太にそう言われ、真治は憮然たる面持ちを見せた。



それが昨日の話だった。







翌日の朝、真治はいつものように峠道を飛ばしていた。



バイザー越しに見えるのは、前を走る亜美の後ろ姿。



告白の後も日常に変化はなく、ふたりで朝の峠を攻める日々は続いている。



だが少し変化があった。



(亜美の奴、あの日からずっと走りが冴えないんだよなあ)



コーナーの進入に向けてブレーキングに入る。



前の亜美がスッと離れた。



(おいおいそりゃ突っ込み過ぎだ。クリップ付けねえぞ)



真治の予想通り、亜美はコーナリングに失敗し大きく膨らんだ。



真治は悠々と空いたイン側を回り、亜美の前に出る。



このような亜美のイージーミスが連日続いていた。



学校の駐輪場でヘルメットを脱ぐと、亜美は不機嫌そうな顔を浮かべている。



「なんだよ最近走りが荒れてるぞ」



「そりゃあ…あたしだっていろいろ気になるのよ。どうしても意識しちゃって集中が切れちゃうって言うか…」



頬を紅くして恥ずかしそうにモゴモゴと話す亜美。



「なあ、お前って矛盾してないか?」



「なによ矛盾って?」



「俺があや乃ちゃんが好きって知ってたんだろ。もしお前の本心がその…なんだ、そうだとしたら、なんで俺とあや乃ちゃんの間に入って仲を取り持ったりしたんだ?」



真治はあや乃がひとりでいた時、躊躇して声をかけれなかった。



あの時亜美が居なければ、真治はあや乃と今の関係を築くことは出来ていない。



亜美が本当に自分が好きなら、この行動は理解出来ないと真治は思っていた。



それを受けた亜美は、



「だって、あのあとであんたとあや乃ちゃんがあたしの知らないところで仲良くなるのが嫌だったし、それにあんたじゃあや乃ちゃんは無理だと思ったからあれくらいのことは影響ないって思ったもん」



さっぱりとした顔でそう口にした。



「なんか、俺って完全に見下されてんな…」



怒りを通り越して情けなくなる。



「と、とにかく!返事は急がないからよく考えてよね!それと改めて言っとくけど、あんたにあや乃ちゃんは不釣り合いよ。そこんとこわきまえなさいよ!じゃあね!」



亜美は少し慌ててそう言い残してひとりで校舎に駆けて行った。







(なんだよ啓太も亜美も、そんなに俺とあや乃ちゃんが仲良くなるのが嫌なのか?)



真治は不機嫌そうな顔を浮かべて教室へと向かう。



(そりゃああや乃ちゃんは俺とは違うよ。帰国子女で頭良くて美人でかわいくて、親は世界に名を轟かせる有名人だよ。でもそれがなんだってんだ!)



(俺はあや乃ちゃんが好きなんだ!)



自分の気持ちを改めて確かめて、教室に入った。



この授業はあや乃と一緒になる。



よく話す間柄になっているので、いつも隣りの席に座っている授業だ。



真治は入ってすぐにあや乃の姿を探した。



(…いた…けど、あれ?)



後方の席にぽつんと腰掛けているあや乃を見つけたが、離れた場所から見ても表情がすぐれない事が分かる。



真治はゆっくりと近付き、そっと声をかけた。



「あや乃ちゃんおはよう」



「あ、おはよう真治くん」



明らかに繕ったような笑顔を見せた。



「どうしたの、なんか元気ないみたいだけど…」



「うん、ちょっとね…気になる事があってあまり眠れなくて…」



「寝れなくなるほど気になる事?」



「うん…あの真治くん、この授業のあといいかな?ちょっと聞きたい事があるんだ…」



「俺に?」



「あ、ううん、真治くんはこの事には関係ないんだけど…少しほかの人の意見も聞きたいんだ…」



あや乃は伏せ眼がちに力のない声を出した。



こんな声を聞いてしまって放っておける真治ではなかった。



次の時間の授業は必ずサボると心に決めた。







そして次の時間。



中庭の一角にある備え付けのテーブルセットに腰掛けるふたり。



授業中だが講義の設定をせずに空き時間にしている生徒も少なからずいるので、人影もまばらにある。



真治は売店でコーヒーをふたつ手にして、ひとつをあや乃に差し出しもうひとつを自分のまえに置いて腰掛けた。



「そう言えばあや乃ちゃんのお母さんも結構有名なんだね、この前ネットでお父さんの記事を見てたらお母さんのことが載っててさ。驚いたよ」



真治が亜美と一緒にデータを届けた際に参加した夜の パーティー、真中淳平監督の新作ワールドプレミアはネット上で小さなニュースとして取り上げられた。



だがそこからリンクが貼られた映画のニュースサイトではかなり大きなトピックスでさらには日本より海外のほうが関心が高いことも伝えていた。



そのサイトであや乃の母のことも少し触れられていた。



「あのお母さん、海外では有名なお菓子職人なんだってね。そんな風には見えなかったから驚いたよ」



「うん、お母さんはついこの前までパティシエとしてヨーロッパを渡り歩いてたんだ。あたしがヨーロッパにいたのもお母さんの仕事が理由なんだ」



「ヨーロッパ中を渡り歩くって凄くない?」



「スイスを拠点にして、フランス、イタリア、ドイツ、デンマーク、フィンランド…いろいろ行ったよ」



「大変じゃなかった?その、言葉とかさ?」



「向こうは日本より英語が馴染んでるから、英語話せれば何とかなったよ。あとフランス語とドイツ語なら少し分かる。お母さんは英語とフランス語が話せて、お父さんも海外渡り歩いてたから英語話せるよ」



そう話すあや乃はとても得意げな顔を浮かべている。



「はぁ〜。凄いね」



ただ感心するしかない真治。



「うん、あたしお父さんもお母さんも凄いと思うしとても大好き。大好きなんだけど…」



得意げだった表情が急に曇る。



前の時間に見せていた、元気のない表情に切り替わる。



「あや乃ちゃん?」







「ねえ真治くん、もし真治くんのお母さんが…今のお母さんと違ってたとしたら…真治くんはどうする?」



「へ?」



質問の意図が分からず思わず聞き返したが、あや乃は至って真剣なまなざしを送っている。



(なに考えてるのか分かんないけど、ギャグで誤魔化せそうな空気じゃないな…)



そう感じた真治は、



「その、たとえ違ってても、俺の記憶では今の親が母親として俺を育ててくれたんだ。だからその、今の親は今の親でいいんじゃないかな…」



真面目な顔でちゃんと自分の意見を口にした。



「そうだよね、どんな理由があっても今のお母さんはお母さんだもんね。あたしもそう考えるようにしてるんだけど…」



「でもどうしたの?なんでそんなこと考えてるの?」



「あのね…この前お父さんが久しぶりに家に帰って来て、家族4人でお祝いしたんだ。お父さんの新作映画発表記念って…」



「ああ、あの新作のことだね。俺も少し見たけど、なんか凄く迫力あったよなあ」



「お父さん今回のお仕事はとても気合いが入ってて、普段は仕事にあまり感心のないお母さんも嬉しそうで、なんか家族がまとまってる感じがしてあたしもとても嬉しかったんだ。でも…」



あや乃の表情がサッと曇り、声も暗くなる。



(なんか怪談話を聞いてるみたいだな…)



妙な寒気を感じる。



そんな雰囲気を醸し出すあや乃の話は静かに続いた。



「ウチにお父さんが仕事で使ってる小さな部屋があるの。そこにあるのは机と小さい本棚と映像機器だけ。普段は誰も入らないんだ。でもお祝いをした夜遅く、あたしふと目が覚めて部屋から出たら、そのお部屋から光が漏れてたの」



(なんか本当に怪談っぽくなってきたな…)



「あたしは気になってちょっと覗いてみた。そしたらお父さんが机に座って、お母さんがその脇に寄り添って幸せそうに笑ってた。ふたりともお酒を持ってた」



(仲がいい親だな。でもなんであや乃ちゃんはこんなに暗いんだ?)



「お父さんとお母さんが何を話してるのかは聞き取れなかった。けど誰かに話しかけてるようだった。机の上には、写真たてが真ん中に置いてあった。あたしが見たことない写真たて…」



「明くる日、あたしこっそりお父さんの仕事部屋に忍び込んだ。あの写真が気になって。最初はちょっとした好奇心だけ。どんな写真に幸せそうに語りかけてるのか知りたかった。あたしは一度も開けたことのないお父さんの机の引き出しを開いた。そしたら、引き出しの奥のほうに写真たてが伏せてあったの。あたしはその写真を見た…」



あや乃の口が止まった。



表情もかつてないほどに深刻な色を見せている。



「…」



真治も雰囲気に押されて言葉が出ない。



凍るような沈黙がふたりを包む。







「そこに…あたしと瓜二つの人がいた…」







「あや乃ちゃんと…瓜二つ?」



繰り返す真治に、あや乃は堅い表情で頷いた。



「最初は自分の写真だと思った。けどそれにしては写真が古かったし、そもそもあたしは写真と同じ服は持ってないし、着たこともない。もちろん写真に撮られたことも。だから写真の人はあたしとは別人。でもそれにしては似過ぎてる。考えてたら気味が悪くなった」



「ちょっと待って、あや乃ちゃんそっくりの人の写真をお父さんが大事にしまっているってこと?」



「うん。でもそうなると次の疑問が出てくる。その人は誰なんだろうって…」



「誰って、まあお父さんの思い出の人とか、お母さんも知ってる人みたいだから共通の友人ってのも有り得る…っと、ちょっと待って、さっきお母さんがどうのこうのって、まさか?」



「う…うん、ひょっとしてあたしの本当のお母さんは…その写真の人なんじゃないかって…」



とても辛そうな表情で話すあや乃。



「いやいや、そんなドラマみたいな話有り得ないって!今のお母さんがあや乃ちゃんのお母さんだよ」



「でも本当にそっくりなんだよ!あの人があたしと無関係なんて思えないの。それがあたしずっと気になって…」



あや乃の母は別の人物で、今の親はそのことを隠したまま生活している。



真治にしてみれば出来の悪いドラマのようなヨタ話でありにわかに信じられない。



だが目の前のあや乃は至って真剣な面持ちで悩んでいる。



真治は笑い飛ばして話を終わらせたい気持ちが強かったが、あや乃はそれで納得出来るようではなかった。



しばらく頭をひねり、



「直接親に聞くのが手っ取り早いけど、あや乃ちゃんがそれを出来ればこんなに悩まないよねえ」



「うん、直接聞くのは無理。はぐらかされたら嫌だし、逆にもしあたしの予想が合ってたら、それはそれで凄くショック受けると思う」



「じゃあどうする?親に内緒で自分で調べる?」



「…うん。あたしはそうしたい。それなら心の準備も付くし、事実を受け止められる気がする。でも、ひとりじゃ怖い…」



「俺で良ければ付き合うよ」



「…お願いしても、いいかな?」



「全然構わないよ。じゃあどこに行く?」



顔を伏せながら申し訳なさそうに見上げるあや乃に、真治は快諾を表す笑顔を見せた。



「じゃあね、今度の土曜に…」








「ふわああああ…」



土曜の朝早く、



亜美はあくびをしながら玄関から外に出た。







フォオオオン…



「ん?」



聴き馴染んだエキゾーストが近付いてくる。



「あれ真治じゃん、こんな時間に?おーい!」



亜美はこちらに近付いてくる真治の姿を捕らえると、大きく手を振った。



それに気付き、バイクは亜美の目の前で止まった。



「おっす、早いな」



「それはこっちのセリフよ。こんな朝っぱらからどこ行くの?」



「ちょっと東京までな」



「東京?何しに?」



「ちょっとな。俺急ぐから。じゃあな」



「あ、ちょっとお!?」



呼び止めようとした亜美をよそに、真治はバイクを発進させて行ってしまった。







「もう、何なんだよ真治の奴…」



朝一番から不機嫌になる亜美だった。


[No.1476] 2008/09/27(Sat) 21:52:08
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