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No.1495へ返信

all [削除] - - 2008/09/18(Thu) 00:52:20 [No.1472]
[削除] - - 2008/09/29(Mon) 10:52:34 [No.1477]
【R-18】未完成―プロローグ― - つね - 2008/09/18(Thu) 00:56:40 [No.1473]
【R】未完成―第一章―1 - つね - 2008/09/18(Thu) 02:07:53 [No.1474]
【R】未完成―第一章―2 - つね - 2008/09/29(Mon) 11:12:10 [No.1478]
【R】未完成―第一章―3 - つね - 2009/05/06(Wed) 00:47:51 [No.1494]
【R】未完成―第一章―4 - つね - 2009/05/06(Wed) 02:19:31 [No.1495]
【R】未完成―夢の終着点 - つね - 2009/07/26(Sun) 00:31:54 [No.1510]
【R】未完成―最終話 - つね - 2009/07/26(Sun) 01:14:03 [No.1511]
[削除] - - 2009/07/26(Sun) 01:26:45 [No.1512]


【R】未完成―第一章―4 (No.1494 への返信) - つね

―4―



時間が流れていく。

今が過去になり、未来が今に。

過去は色褪せ、未来は現実の色を帯びる。

でも、灰色の現在(いま)よりも、

剥がれ落ちて、所々ボロボロになろうが色彩を帯びた過去の方が、ずっと輝いて見える。










西野がパリに発つまではあっという間だった。

そのあっという間の時間の中、僕は西野のことを何度も抱きしめた。

何度も何度も。

西野の中の僕が、離れている間に無くなってしまわないように。

もしかしたら、そんな願いを込めていたのかもしれない。

そして、出発の前日、僕らは二人だけの夜を過ごした。






「へへ…、やっぱり開いてたね。ここ、まだ直してないんだ」

悪戯っぽく微笑みながら西野が寒空に冷え切った窓を開ける。

二人で誰もいない校舎の中へと飛び込むと、先に着地した西野が僕に向け「不良だ」と言って笑った。

「うん、不良だ」

僕は静かにそう答え、目の前に立つ少女を正面から見つめる。

スエード地の白いロングコートに身を包んだ姿が青白い月明かりに照らされて幻想的に映る。

思わず夢の世界へ飛び込んでしまったのかと錯覚を覚えてしまう。

そんな綺麗な姿を何も言わずにしばらく見ていた。

彼女も視線を逸らさずに、僕をじっと見つめ、そのまま、唇だけを動かして静かに呟いた。

「あの時以来だね…。私の誕生日に、一緒にここに来て…」

「…うん…」

誰もいない保健室、二人の声が静寂に溶け込む。

あの時は、恋人同士ではなかった。

だけど、一歩先に踏み出そうと、もっと西野のことを知ろうと、

そう思って、西野を抱きしめた。

溢れそうな想いと、体を飛び出すほどの鼓動に身を任せて、西野を保健室のベッドで抱きしめた。

歯止めをかけるものが何も無ければあのまま、二人は身体の関係をもっていたのかもしれない。

だけど彼女の母親からの電話で、それは遮られた。

…後悔はしていない。

…残念な気持ちも無い。

結局二人はそういう関係になったのだから、などという安っぽい考えではなく、

確信にも似た気持ちがそこにはあったから。

…あの時、関係をもたなかったからこそ、現在(いま)がある。

きっと西野もそう思っているだろう。

だけど、もう一つ真実があるのも事実で、

今、僕と西野は、付き合っている。

恋人同士だ。

お互いに想いあう、恋人同士だ。





向かい合ったまま、立ったままでの思い出話が一段落すると、西野は僕を見つめる目を細めた。

それは慈愛に満ちた母親のようなまなざし。

どこまでも優しく、愛しい、寂しげな、美しいまなざし。

「…今、あたしの目の前に、確かに立っている…」

いつの間にか距離が縮まっていた。

「…淳平くん。あたしの大切な人…。あたしの、大好きな人…」

僕の頬を撫でて、優しく、そう呟く。

「…淳平くん…。優しい響き…特別な響き…。…不思議…」

少し緑がかった潤んだ瞳が、月明かりを含んで、ゆらゆらと輝いている。

頬に触れたまま、見つめられる。

あまりに綺麗で、色っぽかった。

いやらしさは無く、その声と姿は神々しくさえあった。

緊張と恍惚の狭間で、不思議な感覚に囚われる。

そして一言、西野はポツリと呟いた。



「…大好き。」



















月明かりはすべてを幻想的に映し出した。

でも、もしかすると、それはここにいる一人の少女の所為なのかもしれない。

…それは多分にあるだろう…

そう思い、目の前の少女に目を向ける。

一糸まとわぬ、幻想の少女へ…



身に付けていた最後の布がストンと冷たい床に落ちた。

背中を向けていた彼女がゆっくりと僕のほうへ振り返る。

青白い月明かりと石油ストーブの光、その両方に照らされて、

地面に向けてだらりと伸ばした右手の肘を左手で掴んで少し俯く。

控えめに恥らうその姿を、僕はこの上なく愛しいと感じた。

抱きしめようと、歩み寄る。

「…待って」

その歩みを西野の声が止めた。

一瞬の戸惑い。西野が語りかける。

「…しばらく会えないから、…見て欲しいの…」

最初は何のことか分からなかった。

西野は繰り返す。

「…あたしの身体を、見て…、…会えなくても、決して忘れないように…」











月明かりに照らされた、あまりにも綺麗な姿を、僕は今でも鮮明に覚えている。

あんなにも幻想的で、妖艶で、無垢で、美しい女性の姿を僕は見たことが無かった。

そして、それは今でも…








一糸まとわぬ西野の身体を、触れることもなくずっと、ずっと見つめた後、

いつもより長く抱き合って、いつもより強く求め合って、

「しばらく会えないから、特別だね」と、

そう呟いた無邪気な笑顔が、今も忘れられない。


[No.1495] 2009/05/06(Wed) 02:19:31
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