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No.1602へ返信

all [削除] - - 2009/07/25(Sat) 04:13:30 [No.1508]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第一話 - つね - 2009/07/25(Sat) 04:15:52 [No.1509]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第二話 - つね - 2009/08/02(Sun) 23:12:51 [No.1515]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第三話 - つね - 2009/08/31(Mon) 02:37:46 [No.1520]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第四話 - つね - 2009/10/21(Wed) 03:12:38 [No.1533]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第五話 - つね - 2011/05/15(Sun) 14:10:54 [No.1602]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第六話 - つね - 2011/05/26(Thu) 23:46:25 [No.1603]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第七話 - つね - 2011/06/14(Tue) 01:52:54 [No.1604]


〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第五話 (No.1533 への返信) - つね

自己の理解を超えた力にふさわしい形容をすることは難しい。


出会ったことのない力には、どう対応してよいか、人は戸惑う。


そしてそれがこの上ない破壊の予感を伴うものであれば、人はそこに恐怖を感じるだろう・・・。







第一章〜第五話『呪い』



関所を越した後の道は驚くほどにすんなりとしていた。


追っ手の姿も、監視の気配も感じられない。


行きがけとなんら変わりのないのどかな道中である。


しかしそんな景色が目に入らないほどに、ジュンペイの頭は混乱していた。


それは背中にもたれ掛かる少女の存在を忘れてしまうほどに。


対して思いの外冷静であったのはコズエ。


その表情に微かな悲壮感を帯びながらも、うまく進路を変え、自国の城の裏手に回ることに成功した。


何故裏手に回る必要があったのか…


その答えはジュンペイの背中にある。


今は安らかに寝息を立てる少女を皆が目にすれば、騒ぎが起きることくらい予測できていた。


しかしそれも時間の問題。


彼らの行動は時間稼ぎにしか過ぎないのかもしれない。













ちょうど城門の真逆の辺りでコズエは馬の足を止めた。



そして石造りの城壁に手を当て、何かに祈るように目をつむった。


その瞬間、分厚い石の壁の一部がスパッと切れ、そこを押すと人一人分通れる空間ができた。


それを見て、またジュンペイは自らの目を疑う。


しかし先程と大きく違うのは、彼女の“力”をその目で確かに見たということだった。


この力が敵兵を全滅させたことは間違いない。


そう思うと鼓動が高鳴る。


ともすれば味方である自分すら…


「コズエ…君は一体…」


「…ジュンペイさん、あなたには後ほど話します。今は早く王女を」


静かに語る声には有無を言わせぬ説得力があった。


ジュンペイは馬から下り王女を抱きかかえると、素早く抜け穴をくぐった。



















ジュンペイの目的地は決まっていた。


ひとまずは親しい友人の家に匿ってもらうしかない。


真っ先にアヤとヒロシの顔が浮かぶ。


ならば、どちらの家に連れていくか。その答えも考えるまでもなく決まっていた。


迅速に事を運ばねば、見つかってしまう。







木で立てた粗末な小屋、その後ろでその名前を呼ぶ。


「…ヒロシ、ヒロシ」


呼び掛けて間もなく、家の主が姿を表す。


「ジュンペイ、帰ったのなら普通に入ってこい」


めんどくさそうにそう言う。


しかしすぐにその声色は変わった。


「で、何があった」


相変わらず勘が鋭くて助かる。


「何があったかはこれを見てくれ」


ジュンペイが示した先、そこにヒロシは歩み寄る。


「……バカやろう。度が過ぎてる…」


声は冷静なまま、そう吐き捨てた。














なんだかんだ言いながら結局ヒロシは王女をかくまってくれた。


あの家はヒロシ一人の住まいだし、ちょうどいい。


あとは素直に城門をくぐるだけ。


それも事無きを得て、初めての旅は終わった。


迎えてくれたアヤを見てから初めて、彼女のくれた首飾りの事を思い出した。


アヤに対する申し訳なさと同時に王女のことにあまりに夢中になっていたことに気づいた。


日が西に傾く夕暮れの事だった。




















その夜、ジュンペイは城内の一室にいた。


王への接見を済ませたあと、コズエから話があると言われ城内に残ったのだ。


暗がりに火が点された部屋の中、ジュンペイはなんとも落ち着かない気持ちで床に視線を落とした。


揺らぐ気持ちの一つはただ単純に不慣れな場での動揺。


もう一つは王女の心配…ヒロシはうまくやってくれているだろうか。


そしてもう一つ、最も大きなものが王への…この国への後ろめたさであった。


今、冷静になって考えてみると、自分はともすれば戦争への引き金に指をかけているのではないか。


それともすでに手遅れか…。


どちらにせよ…


そこまで考えた時、扉が開く音に目を覚まされた。


振り返った先には、黒いローブを羽織った少女。


少女と判別が付くのは、無論、彼女の正体を見たからなのだが。


「…お待たせしました」


そう言うと彼女は座っているジュンペイを通り越し、部屋の奥で彼に背を向けた。


「ジュンペイさん」


厳かな雰囲気にかしこまってしまう。


「ジュンペイさんには話すと言いましたよね?」


「…うん、確かに」


「今から私が話すこと、それはジュンペイさんの今後に大いに影響を与えることだと思います」


「知っておいてほしいのです。こうなってしまったからには…」


語られる…コズエの口から。


「今日見たもの、あれが私の力です」


“力”と聞いてドキッとする。


おそらくこの話であろうと予測はついていたにもかかわらず、だ。


今もまだ五感に焼き付いて離れない、コズエの未知なる力…


「私は特別な力を与えられた者です。忌まわしき呪いの力を」


「…呪い?」




「…はい、呪いです」


そう言うとコズエは少しの間黙った。


何かを言い出そうとしてためらっているように感じた。


そして、しばらくたってから、意を決したようにジュンペイの方に振り向きローブのフードを取った。


「…ジュンペイさんには…私が…その…普通の女の子に…見えるでしょうか?」


…ドキッとした…


コズエが女の子であることは分かっていた。


しかし、今こうして、まじまじと見ると、それはもう、本当に女の子なのだ。


幼さの残るかわいらしい顔立ち、赤く染まった頬に、遠慮するような表情。


どこからどうみても…


「…女の子だ…普通の女の子…ただ…素直にかわいいと思う…」


口をついて言葉が出ていた。


「…そうですか…」


そう言うとくるりと身を返し、また背を向けた。


「かわいい…と言われたのは初めてかもしれません。少し恥ずかしいです…」


「…でも…」


そう切り出して一呼吸。


「私を知る大半の人は私を普通の女の子としては扱いません…」


彼女は今どんな表情でその言葉を発しているのか。


言葉の中にはそれを言い慣れたかのような落ち着きがあった。


「…ジュンペイさん」


「な、何?」


「…少し…嬉しいです…ですが、私への認識がそのままだと困るので…恥ずかしいんですが…」


そう言うと、コズエは羽織ったローブをすとんと腰まで下ろした。


「…えっ?」


…ローブの下は素肌だった。


…そして、その背には痛々しい大きな十字の傷痕。


何も言葉が出てこなかった。


「これが呪いです」


さっとローブを羽織り直すと、コズエはそう言った。


そしてフードを被り、また全身を黒いローブに包む。


「私は風の力を与えられました」


「たとえば…」


そう切り出すと、右腕を掲げ、軽く空気を払ってみせた。


ジュンペイの頬にも風のささやきが感じられた。


そしてコズエが軽く手首のスナップを聞かせた瞬間、


…フッ


「…え?…」


燭台の火が消えた。


暗闇の中、不安が迫る。


「燭台の火を消す程度の風を吹かすこともできれば…」


コズエがそう言った瞬間、さらに風が強くなり、そして一瞬止まる…


そして…


ドンッ!


爆発音のような音が耳をつんざく。


後にはパラパラと何かが崩れる音。


「力を集めれば強固なものでも破壊できます」


ジュンペイは言いようのない恐怖を覚えていた。


昼間、敵兵を全滅させた力は間違いなくこれだと、その確信とともに。


静かに火が点り、コズエの姿が見える。


それはまぎれもなく、火が消える前に照れくさそうに語っていた少女の姿。


しかし、先ほどまでとは何かが違う。


変わりのない姿なのにそう感じるのは他でもないジュンペイ自身の心の変化の所為だった。


コズエはジュンペイの目の前まで来て、フードの端を少し上げてみせた。


その奥、はっきりとは見えないが、「普通の女の子」の素顔がのぞく。


「手荒い真似をしてしまってごめんなさい。でも…分かったでしょう」


「私は化け物です」


「人とは違う、化け物なんです」


言葉を続けるコズエとは対照的に、ジュンペイは金縛りにあったように何も言えなくなっていた。


「ジュンペイさんは…優しいですので…私に気づかいはしないだろうかと、心配だったんです」


「短い旅でしたが、そう感じたんです」


「私の力のすべては分からなくとも…それは私もわかりませんから」


「でも、“普通の女の子”…じゃないということは、伝えられたような…そんな気がします」


顔を伏せてそう言った。


「残念ながら…この国が求めているのは、“化け物”のほうの私なんです。それはたぶんどこの国に行っても」


「心配しないでくださいね。…私は慣れていますから」


そう告げると扉に向かって歩き出す。


ジュンペイはただ俯き、振り返ることもしない。


そして、コズエは扉を開ける前に一つ、付け加えた。


「あ、ひとつ言い忘れました…王女の件ですが、早めに国王に告げたほうが良いです」


“王女”という言葉にジュンペイはようやく振り返ってコズエを見た。


しかし、ジュンペイにはコズエの発言の意図するところがわからない。


「…え…それは…どういう…」


「戦(いくさ)が起きます。大きな戦です」


その言葉が混乱するジュンペイの思考にさらに追い打ちをかけ、彼の頭は真っ白になる。


「ジュンペイさんに責任はありません。いずれこうなることでしたから」


「軍備を充実させられて不意打ちをされるよりはよっぽどいいです」


「…それでは」


バタンと扉が閉まると、後に残るのは静寂のみ。


歴史の大きなうねりに飲み込まれ始めた一人の少年。


彼は長い間、ぼうっと部屋の壁を見続けた。



――そして





―――その壁の一部は、貫通寸前まで崩れていた。





つづく…


[No.1602] 2011/05/15(Sun) 14:10:54
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