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No.1603へ返信

all [削除] - - 2009/07/25(Sat) 04:13:30 [No.1508]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第一話 - つね - 2009/07/25(Sat) 04:15:52 [No.1509]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第二話 - つね - 2009/08/02(Sun) 23:12:51 [No.1515]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第三話 - つね - 2009/08/31(Mon) 02:37:46 [No.1520]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第四話 - つね - 2009/10/21(Wed) 03:12:38 [No.1533]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第五話 - つね - 2011/05/15(Sun) 14:10:54 [No.1602]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第六話 - つね - 2011/05/26(Thu) 23:46:25 [No.1603]
〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第七話 - つね - 2011/06/14(Tue) 01:52:54 [No.1604]


〜第一章 “石の国フェイスタ”編〜第六話 (No.1602 への返信) - つね

一度転がり出した石は止まらない…



やがて、ちっぽけな拳大ほどのそれは、下り坂の先にある、堅固な壁にぶつかり砕け散るだろう…



されど、転がる中で他の石とぶつかり合い、混ざり合い、



そうして大きな岩となっていったならば、



分厚い壁をも打ち破ることもあるのかもしれない。








第一章〜第六話『救い』







…ああ、あったかい…




…懐かしい匂い…




…この感じはお母さんの匂いだ…




…お母さん、隣にいてくれてる…




…お父さんも一緒…




…優しい匂い…




…藁葺きの屋根、すきま風の入る板張りの壁…



…お金持ちじゃないけど、これで十分だった…




…隣にいつもお父さんとお母さんがいてくれたから…




…でも…





…トントンッ…





…戸が叩かれる音…





…あっ、ダメッ。お父さん、出ちゃダメ!…




…“そいつら”悪いやつらだから!…





…ダメッ!!!…





…必死で叫ぶけど、お父さんには聞こえない…





…いつもの優しい顔で戸に向かって歩いていく…





…お母さんも私の隣で微笑んでる…





…お父さんが戸に手をかける…





…あ…ダメ…終わっちゃう…三人のくらしが…





…ガチャ…





…静かに戸が開く音…





…ダメッ!!!…





……














―――目が覚めるとあたしは見知らぬ場所にいた。


藁葺きの屋根、粗末な布団。


何かいい匂いもする。


―――ああ、そうか。確かあたしはフェイスタを抜け出して…


「お、目が覚めたか」


―――そう、一人の男の子に連れられて…


―――でも…


なんだか声が違う気がする。


違和感に顔を動かし、声の主を探す。


「やあ」


「きゃあっ!」


知らない男の子が目の前に。


反射的に立ち上がり、逃げ道を探す。


「ちょ、待てよ!ほら!」


その声にもう一度少年を見ると、彼が自分の敵ではないことが分かった。


彼の両手は彼女のための料理でふさがっていたのだ。


「腹減ってるだろ。食べていいよ」


少年は彼女が動きを止めたことを確認すると、安心したように彼女が寝ていた場所の近くに皿を置いた。


最低限の警戒は保ったまま、彼女は先程までいた場所へと戻ると、訝しげに皿を見つめた。


「毒なんか入ってないよ。まだ信用できない?」


こちらの思考を見透かした言葉にはっとする。


自分をここまで連れて来てくれた少年と同じくらいの歳、体つき。


しかし、その表情は目を覆い隠すほどの前髪で読み取れない。


どことなく怪しい雰囲気…


「あー、ダメだな。ジュンペイのやつのことは信頼してそうだったのに」


髪をくしゃくしゃと掻きながら独り言のようにつぶやく。


「だったらさ、これ見てよ」


そう言って少年が胸元から取り出したのは首飾りだった。


あの少年…「ジュンペイくん」が付けている物と同じ物だった。


「ジュンペイが出発した後でアヤにせがんだんだが、どうも石の大きさも透明度も違う。まあうまくはいかないねぇ」


そう言った通り、首飾りの先端にある石はジュンペイが付けているものよりずいぶん小さく、多少の濁りを含むものだった。


そうやって一通り石を観察した後、ようやく言葉が出た。


「あなた…ジュンペイくんの友達なの?」


少年はニコリと微笑み、答える。


「ああ、そうだ。俺はあいつの親友、ヒロシって言うんだ。よろしくね、ツカサちゃん」


「…なんであたしの名前を?」


「そりゃあその服装見りゃあ誰だか分かるさ。フェイスタ国の姫様」


そう言われて、彼女はようやく自分の格好を思い出す。


これは…よくもまあこんな無茶をしたものだ…


そしてそれと同時に浮かび上がるのは一つの懸念…


―――いや、懸念というよりは予感か…


―――はたして私は生きていられるだろうか…


―――あの忌ま忌ましい男のことだ。私は生かしても、間違いなく…


「そんな青ざめてないで、とりあえず食べろよ。口に合うかは分からないけどさ」


聞こえた声にはっと我に還る。


―――今は、少なくとも今は、私はこの少年に救われていた。











「…ごちそうさまでした」


長旅のための空腹であろう。ツカサはヒロシの用意した食事を一口も残さず食べた。


「驚いた。こんな粗末な食事は口に合わないと思ってたんだけど…」


「ううん、おいしかった。ありがとう。あたしは元々王家の者じゃないから」


つい口をついて出た言葉はすでに彼女が安心を得ていることの証拠だった。


しかし予想外だったのは…


「うーん、なるほど。興味深い。略奪によって得た王女だというのもまんざら嘘でも無さそうだ」


ヒロシの言葉がツカサの身体を強張らせた。


「ちょっと君…!」


「ああ、すまない。少し配慮が足りなかった」


会ったばかりの男にそんなことを言われてはさすがに怒りが込み上げてくる。


「…!」


それでも言い返せないのは…


「嫌なことを思い出させたのならすまなかった。でも、それはたぶん事実とはあまり変わりないだろ?」


…そう。だから言い返せない。


何より、目の前の、ただの村人に見える少年がそんなことを言っている事実が信じられなかった。


ここはフェイスタから遠く離れた土地であるはずなのに。


そんなことにはかまわず少年は続ける。


「たぶん君も感じてると思うから遠慮なく言わせてもらうけど…」


「戦争になる…だろ?」


「…」


ツカサは黙って俯いた。


認めたくないが、彼の言うことは的を得ている。


「辛気臭い話はここまでだ。とりあえず気楽にいこうぜ。そろそろアヤが君の着る服を持ってくる。あ、それと…」


「さっき話したのはあくまで趣味の領域で調べたこと。国の人は俺の話には耳を傾けやしない。適当なことを言ってごめんな」


ヒロシは立ち上がって伸びをしながら微笑んだ。


あれだけ鋭い思考を展開したかと思えば、もうすでにそれは“適当”だった、と言う。


この男が掴めない。


そしてもうひとつ、ツカサには気になることがあった。


「ねぇ、さっきから言ってるアヤって?」


ツカサの言葉にヒロシの表情が崩れる。


「おっ、おもしろい反応だな。俺らの幼なじみだよ。大丈夫、ジュンペイと付き合ってる訳じゃないから」


「なっ…!そんなこと…!」


ツカサの顔は一気に赤く染まる。


「あ、あともう一つ」


「な、何?」


「寝顔、いただき」


そう言ったヒロシが手に持っていたのはツカサの寝顔が描かれた絵。


「なっ…バカッ!何してんだよ!」


「俺の趣味なんだ。かわいい女の子の絵描くの」


「エッチ!変態!」


「やははは、何とでもどーぞ」





―――前言撤回―――





―――やっぱりこの人は怪しげで能天気な少年だ。






気づけば夕焼けは深い藍色に変わっていた。





そして、







―――こんな風に、感情を剥き出しにしたのは久しぶりだった…







―――私は救われていた…







―――この瞬間だけは、私の選択が間違いではなかったと主張してくれている気がした。








―――気がつけば、涙が頬を伝っていた。


[No.1603] 2011/05/26(Thu) 23:46:25
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