Yesterday once more 2 (No.425 への返信) - 桜 |
「ふう……」
少し疲れて、俺は京都の空を見上げた。
修学旅行二日目。今日から西野も京都にくるはず。
……会えるだろうか……。
「あんなこと言ったけど、会えるわけないよなあ……」
穏やかに澄み渡る京都の空が、なんだか切なかった。
いつからこんなに西野のことばかりを考えるようになったんだろ う……。
もう俺の世界は、西野無しではきっと……成り立つはずもなかった。
「真中! 何ボーっとしてんだよ!」
同じ班の外村に注意されそうなほど、俺は空ばかりを見ていた。
「外村……どうして空ってあんなに高いのかな……」
「はあ?」
「もっと低かったら……俺も空を飛べたのかな……」
大空を舞う鳥が、なんだか恨めしい。
もしも俺に翼があれば、いつでも西野に会いに行けたのに……。
きっとジュンは、そんな僕の生まれ変わりなのかもしれない。
いつでも西野の側にいたいと願った僕の……。
「真中がおかしくなった……」
「バーカ! ちょっとそう思っただけだよ」
少し引きぎみな外村を追いかけて、もう一度空を見上げた。
心なしか……空は曇ってきた。
夕食を食べた後、旅館の入り口付近の電話ボックスに向かった。
ポケットから西野の携帯番号を取り出す。
プッ!
「おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません」
ガチャ!
なんだろう。今、忙しいのかな……。
桜海学園は厳しいから、簡単には電話に出れないんだろう。
そう思って、電話を切った。
修学旅行三日目。
俺は清水寺にいた。
「知ってる? 清水寺に地主神社ってトコがあってね、縁結びで超有名なのよ!」
きっかけは昨日夕食の時に誰かが言ってたこの一言。
「なんだよ真中。こんなことこにつれてきて……」
「頼む外村。一人だと恥ずかしいんだよ!」
男二人でこんなトコにくるのも正直どうかと思う。
でも、一人でくるのもかなり恥ずかしい。
「えっと……これ二つ下さい……」
「なんだ真中。縁結びのお守りなんて誰に買うんだ?」
横から外村がニヤニヤしながら覗き込む。
買ったばかりの二つのお守りを見て、嬉しくなる。
西野……喜んでくれるかな……。
ピピピピピピピピ!!
外村の携帯がなった。
「はいもしもし……」
気がつくと大分周りに人が増えてきた。
多分自分たちと同じ修学旅行生なんだと思うけど、それにしてもかなりの人だ。
「あっ! すいません……ってあれ?」
人ごみにぶつかり、持っていたお守りが片方なくなっていた。
やばい……どこいったんだろう……。
しゃがんであたりを見渡しても、大勢の人の靴しか見えない。 それにこれじゃあ、誰かに踏まれているかもしれない。 そう思うとなんだか不安で仕方なかった。
「真中!今すぐ泉坂に帰れ!」
「えっ? なんで……」
「つかさちゃんが倒れたらしい!」
落としたお守りが見つからずに空に願う。
どうかこの不安は杞憂であって欲しい……。
空は昨日よりも曇っていた。
新幹線の窓から見る景色が好きだった。
俺は自由席の通路にたち、一人泉坂へと向かっていた。
一足早く修学旅行を終えて、西野の元へと。
外村に電話があったのが昼で、今はもう夜になろうとしていた。
その間ずっと手に、一つ残ったお守りを握り締めていた……。
泉坂病院に着いた俺は、受付の看護婦に西野の場所を聞いた。
205号室。それが西野の病室だった。
トントン。
一度ノックしてから室内に入る。
「西野?」
「淳平くん? なんでここにいるの?」
西野はいたって元気そうに、ベッドの前で西野のお母さんと話をしていた。
「なんでって……西野が倒れたって聞いたから……。でもよかった 〜。なんともないんだろ?」
「うん。ちょっと貧血みたい。でもわざわざ心配してもらうほどの ことじゃないのに……」
「何言ってんだよ! 心配するに決まってるよ!」
病室の中なのに、少し大きな声を出してしまった。
「うん……。ありがとう……」
「あらあら。じゃあママはお邪魔だから先にお家に帰るわね。つか さ、今日は安静にしてなさいね」
そう言って西野のお母さんは病室を出て行った。
「う〜、でも淳平くんにこんな姿見られるなんてはずかしいなー」
そう言って西野は布団をかぶった。
「どのくらいで退院できるの?」
「わからないけど、検査終わったらすぐ退院できると思う」
「そっか。よかった」
「でも淳平くんごめんね。せっかくの修学旅行だったのに……」
「いや、平気だよ。あっそうだ! 西野におみやげやるよ。清水寺 で買ったんだけど……」
そう言って俺はポケットから縁結びのお守りを取り出した。
西野はそのお守りを見て、少し恥ずかしがっている。
「淳平くん、これ……縁結びだよ……」
「そうだよ。すごい効くんだってさ」
「それって……つまり……」
「えっ、えっと……その……」
頭をかきながら少し、次の言葉に詰まっていた。
そしてゆっくりと……二人の唇が近づいていく……。
「西野さん? もう面会時間終わりですよ!」
「あっ!」
恥ずかしくなって俯く。
「はは……じゃあ、また、明日くるよ……」
「うん。おやすみ……」
そして病室のドアを閉めて、小さくつぶやく。
「あとちょっとだったのに……」
空には星が、かすかに光っていた。
朝目が覚めたとき、ふと思う。
もしも西野がいなくなったら、俺はどうすればいいんだろう。
一瞬でもそんなことを考えてしまう自分がすごく嫌で、無性に西野 が恋しくなる。
この手で西野を感じて、存在を確かめないと、安心できなかった。
自分にとって西野は光であり、そして太陽だった。
だから雨が降って西野の笑顔が曇らないように、今日も俺は西野に傘を差す。
だけど本当は、俺自身がずっと西野に傘を差してもらっていたのかもしれない。
12月。西野の入院から一週間が過ぎた。
三日くらいで退院できると思っていたけど、まだ検査が長引くらしい。
学校帰りに、毎日俺は西野の病室を訪れた。
「まだ退院できないんだ?」
「うん。なんかもう少しかかるみたい。バイト大丈夫かな……」
西野は子供みたいに、少し顔を膨らませている。
「あー、ジュンにも会いたいな……。ちゃんと元気でやってるかな……」
「まあ、とりあえず今は早く退院できるように安静にしてなって」
そして俺は、お見舞いに持ってきたリンゴの皮を剥いていく。
「あっ! 淳平くん、意外と上手いね。でも指とか切らないでよ?」
「これくらいは俺だって出来るよ。待ってて、今剥くから……」
褒められて調子にのる。相変わらずの悪い癖。
「痛っ!」
普段なれないことは、やっぱりするもんじゃないとこの時思った。
「もう! さっき言ったのに……」
「ゴメン……」
人差し指から少し血が出てきて、バンソウコウを探し始める。
「えっと、西野バンソウコウある?」
「うん、あるよ。淳平くん手、貸して!」
すると西野は俺の人差し指にゆっくりと唇を近づける。
「に、西野!」
チュッ!
まるで魔法がかかったみたいに俺は固まる。
恥ずかしいけど……なんだか嬉しい。
西野の唇は、温かかった。
「よし、血、止まったね」
そして俺の指にバンソウコウを巻いていく。
「もうやっちゃだめだよ?」
「はい……」
時々西野は俺を子供みたいに扱う。
そして俺はそれに甘えて、西野の優しさを感じていた。
「あっ! そろそろ帰らなきゃ……」
「そっか。じゃあ、またね淳平くん」
「ああ、また明日来るよ」
別れ際に僕らはキスをして、手を振る。
まだ何も気づいていなかった。
移り変わる現実の波に、僕らが呑まれ始めていることに……。
もっと早く気づけばよかったと、後になってから思う。
いつでも西野を見ていたはずなのに、どうして気づけなかったんだろう。
わずかな西野の変化に、どうして僕は……。
だけど本当は、気づいてもどうにもならないことだったと、やっぱり僕は後になってから知る。
[No.426] 2004/08/25(Wed) 17:28:00 YahooBB219200072101.bbtec.net |