[ リストに戻る ]
No.427へ返信

all Yesterday once more 1 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:26:27 [No.425]
Yesterday once more 2 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:28:00 [No.426]
Yesterday once more 3 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:30:38 [No.427]
Yesterday once more 4 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:32:43 [No.428]


Yesterday once more 3 (No.426 への返信) - 桜




空から降る雪を見て、思う。
儚く地上に落ちては消える雪。



僕らの命が、もしこの雪のように一瞬のものだとしたら、僕は何をするのだろうと。



きっと今日もまた、消えていく。この雪のような、儚い命が……。













一ヶ月が経った。
西野はまだ退院出来ていない。



俺は、西野のバイト先でケーキを買って、いつものようにお見舞いに行った。



「あっ! 淳平くん!」


「今日は西野のバイト先でケーキ買って来たよ。みんな心配してたよ」


「そっか。今日はクリスマスだから込んでるだろうなあ……」




西野は責任感が強いから、いつでもバイトのことを心配していた。


「それと……じゃーん!」


「あっ! ジュン!」


「来るとき西野の家によって連れてきたんだ」




俺は学生服の中にこっそり忍ばせておいたジュンを取り出した。
久しぶりに会う西野に、ジュンはなんだか興奮している。鳥のくせに……。



「ジュン、元気にしてた?」


俺が西野にジュンを渡すと、嬉しそうに西野の手の上を歩き回る。
こいつ……俺が触るとめちゃくちゃ暴れるくせに……。




「淳平くんどうしたの?」
鳥に嫉妬したなんて恥ずかしくて言えない……。







「ちょっと外にでよっか?」
そう言って西野はコートを羽織って立ち上がった。



「大丈夫なの?」


「うん。散歩くらいならしてもいいって」
西野は肩にジュンを乗せて歩いていく。








「うわ! やっぱりちょっと寒いね」
俺たちは病院の屋上に出て、ベンチに座った。



「大丈夫? 西野」


「うん。平気」



柵の向こうに、クリスマスを彩るイルミネーションが見えた。



「綺麗……まさかクリスマスを病院で過ごすなんて、夢にも思わなかったなあ……」



残念そうに西野はつぶやく。



「まあ、淳平くんと一緒だからいいかな?」



そして笑いかけてくれる。二人の手は冷たいけれど、心はきっと、暖かかった。



「じゃあ、ケーキでも食べようか?」


買ってきたいちごのショートケーキの上に、小さなロウソクを立てて、二人だけのクリスマス。



「メリークリスマス、西野……」



「メリークリスマス、淳平くん……」





さすがに病院でシャンパンを飲む気にはなれない。







「う〜ん、やっぱり日暮さんの作ったケーキはおいしいな……」


「西野のケーキだって、すごくおいしいと思うよ」



そう言うと西野はうれしそうな顔をする。


「一年前のブッシュドノエルも、すごく、おいしかった……」


「そっか……あれから一年なんだね……」


「一年後にまた淳平くんとクリスマスを過ごせるなんて、夢にも思わなかったな」


「来年も、一緒に過ごそうな……」


「その先もずっとね……」




屋上の明かりが、僕らを照らすスポットライトに思えた。
凍えて冷たい二人の唇。



だけど触れ合って、温かい体温を感じる。
僕は幸せだった。



この幸せがずっと続くと、そう信じていたんだ。
今日のキスは、さっき食べたいちごの味がした。










病院からの帰り道、ジュンを帰すために西野の家によった。
一年前は、ここで別れたんだよなあ……。



そんなことを思いながら、西野の部屋を見渡す。
最近着ていない高校の制服は、クリーニングに出され、壁にかかっていた。



一年前に流れた別れの音楽は、今日もコンポの中に入っていた。
そのCDをゆっくりと再生して少し、聞き入った。







鳥かごの中のジュンが音楽に反応して羽を羽ばたかせる。
西野は、どんな気持ちでいつもこのメロディを聞いていたのだろう。






「もう……こんな時間か。帰らないと……」
立ち上がると同時に、西野のお母さんが部屋の中へと入ってくる。





「あら? もうお帰り?」


「はい。どうもお邪魔しました」
そして部屋を出て行こうとする。









「ちょっと……待って……」









僕は振り返る。











少しこわばった表情が、なぜか僕を緊張させていく。


足元にあるリモコンを拾い上げた。




「あっ! そうだ。CDを止めないと……」



















そして残酷な運命は動き出す。












「淳平くん……」



















「つかさは白血病なの……」























「お願い……あの子を支えてあげて……」










悪い夢なら覚めて欲しい。
僕の夢も、幸せも、もう何もいらない。


ただ西野と一緒にいたい……僕の命が尽きるまで……。




鳥かごの中で羽ばたくジュンを見て僕は思う。
どうして僕には翼がないのだろうと。


だから僕に翼を下さい。
その翼で僕は、君を連れ去りたい。


だけど僕には翼がなかった。
君を守る勇気さえも、今の僕にはなかった。












(退院したら、いっぱい淳平くんとデートしたいな……)


(どっか行きたいトコある?)


(どこでもいいよ……淳平くんと一緒なら……)







今の僕にはきっと、絶望しか見えない……。



部屋の中に別れの音楽が流れる。
まるでもう一度訪れるかのように……。














今、この時間にも誰かが生まれ、誰かが死んでいく。
生を司る神様がいるのなら、どうか僕の願いを叶えてほしい。


僕らが一体、何をしたというのだろう……。どうして西野が……。


誰かその答えを僕に教えて下さい……。
例えそれが、どんなに理不尽なものだったとしても……。
















年が明けて、学校が始まった。
冬休みの間、ずっと家にこもったままだった。


だから今日は、久しぶりに西野に会いに行く。
心の整理なんて、きっといくら時間をかけても足りなかった。





「つかさには、言わないで下さい……」
西野のお母さんはそう言った。



白血病は、今の時代では助からない病気ではないが、西野の場合は……。




あの笑顔が崩れることが怖かった。
だから僕も、笑顔を作ろうと思う。せめて西野の前では……。



だってそれくらいしか、僕にできることなんてきっと……なかった。







「淳平くん……あたし、本当に軽い病気なのかな?」
西野の笑顔が曇り始めた。




そして次の日、面会謝絶の札が貼られていた。






土砂降りの雨の中に僕は駆け出した。



「わあああああああああ!!!!」
赤信号の交差点を走り抜けて倒れこむ。



「気をつけろ! バカやろう!」
遠くで飛び出した僕に対する運転手の罵声が聞こえる。



大きな水溜りに膝を突いて僕は泣いた。


「うっ……うっ……にしのぉ……」
泉坂の街は今日もふけていく。


そして僕と西野の心にも、すこしづつ闇が迫ってきていた。




「あああああああああああ!!!!」
行き場をなくした思いが、何度も、何度も夜の街に消えていった……。








西野の体は、あっという間に弱くなっていった。


悲しいほど細くなった腕。すこし頬もこけていた。


今ではもう、ベッドからは動けない……。










三年になり、お互いの誕生日が過ぎて、秋が来る。

西野が免疫力を失っているため、会うときは白衣とマスクは欠かせない。







「淳平くん、変なカッコ……」


「笑うなよ! 全く……」


「あはは。ゴメン、ゴメン」



あれから僕らはいつものように他愛のない話をして、笑う。
まるで何もなかったみたいに……。







僕はリンゴを剥いて、それを西野に渡す。



「淳平くん?」
西野の手からリンゴが落ちて行った。



「あっ! ゴメン、もう一回切るよ……」









「あたしは……」









そうして後ろを向いた僕の背中を西野が掴んだ。










「あたしは……いつまで淳平くんといられるのかな……」

西野が言った言葉に僕は固まった。







「ど、どうしたの?」












「怖いの……一人になるのが……」










西野が泣いていた……。











「一人にしないで……」










背中を掴む西野の手に力がこもる。








「……西野?」







「なんてね!」
さっきの涙は気のせいだろうか……。すぐに西野は笑顔に戻った。








「ちょっと困らせてみたかっただけだよ」







「じゃあ……また……明日……」







「ずっと一緒だよ西野……ずっと……」






抱きしめた西野の体は、確実に細くなっていた。


[No.427] 2004/08/25(Wed) 17:30:38
YahooBB219200072101.bbtec.net

Name
E-Mail
URL
Subject
Color
Cookie / Pass

- HOME - お知らせ(3/8) - 新着記事 - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - 環境設定 -

Rocket Board Type-T (Free) Rocket BBS