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No.428へ返信

all Yesterday once more 1 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:26:27 [No.425]
Yesterday once more 2 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:28:00 [No.426]
Yesterday once more 3 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:30:38 [No.427]
Yesterday once more 4 - 桜 - 2004/08/25(Wed) 17:32:43 [No.428]


Yesterday once more 4 (No.427 への返信) - 桜



面会謝絶の札が、何度も病室のドアに貼られる。
何度も西野は血をはいて、倒れたりもした。


いつまで西野は生きていられるのだろう……。
そんなことしか考えられなくなってしまう自分が、どうしようもなく嫌いだった。






そしてある日、僕の家の電話が、残酷な音を立てて鳴り響く。














「淳平! 電話よ……」


「こんな時間に?」
夜の12時を過ぎていた。


「はい……もしもし……」


ガチャ!


電話を切った僕は、全力で走り出した。


「ちょっと淳平? こんな時間にどこ行くのよ!」













病院に着いた僕の目に入ったのは、絶望だった。


「淳平くん……」


西野のお母さんが、重い口を開く。


「つかさに……会ってあげて……」

















「最後だから……」
誰もがみんな、泣いていた。






















「淳平くん、変な顔……」


「バカ。嘘でもカッコいいって言ってくれよ……」
無理に繕う笑顔が苦しい。


「ごめんね……今まで無理させてて……」


「西野……それじゃ病気のこと知ってて……」


「ふふ。あたしの体はね、あたしが一番よく知ってるんだよ、淳平くん」


「西野……」


「知らない振りをすれば、助かるのかな……ってそう思ってたんだ」


「そんなこと!」


「ううん。それだけじゃないの。淳平くんが、笑ってくれたから……。だからね、淳平くんが悲しむのが嫌だったの……」


同じことを考えてた。あの宣告はもしかしたら夢だったんじゃないのかと。


だから何もなかったみたいに振舞えば、いつかは消えていくのかもしれないと。


だけど……やっぱり現実だったんだ……。


「無理するなよ……。俺の笑顔なんて……何の価値もないのに……」


「淳平くんが笑うとね、凄く嬉しいの。愛されてるって実感する
の。だから、それだけで幸せだったんだよ…」




西野の笑顔を見ると僕は幸せになれる。そして僕の笑顔を見て西野は幸せになる。
どうして……どうして僕たちなんだ……。




まだ僕たちは、一人になれるほど強くないのに……。








「淳平くん、もっとこっちに来て……」









「生まれ変わったら、もう一度淳平くんに会えるかな……」
かすれそうな弱い声で、西野はつぶやいた。


「もう一度、淳平くんを好きになりたいな……」
西野は近づいてくる時を悟ったかのように、穏やかな表情をしている。




だから僕も、それに合わせて笑顔を繕う。西野が、悲しまないように。



僕は西野の頭を優しく手で撫でながら、自分の胸に抱きしめる。





「心の中で俺の名前を呼んでよ」


「淳平くんを?」


「例え西野が生まれ変わって、顔も性格も全然違ったとしても、き
っと西野を探し出すよ」


「ホントかなあ……」


「ホントだよ。西野が俺のこと全然覚えてなくても、俺が絶対に探し出す!」


「忘れちゃったら、淳平くんの名前呼べないよ?」


「それでも見つけるさ」


「どうやって?」


「俺が……俺がずっと西野の名前を呼ぶから……」


西野はクスッと笑って、その細い手を僕の背中に回す。


「あたしが……あたしが淳平くんのこと忘れるわけないじゃない」


「ずっと……ずっと淳平くんの名前を呼ぶから……だから淳平くんも、あたしの名前を呼んで……」









僕は抱きしめた手に力を込めることができなかった。
だって西野の体は、まるで折れそうなくらいに細くて、力を込めたら壊れそうだったんだ。









「つかさぁ……」


「でも……やっぱり怖いな。一人になるのは……」







段々と消えていく体温が、僕の胸を締め付ける。




誰か……だれか僕らを助けて……
ずっと思ってきた。西野の前では笑顔でいようって。



これ以上不安にさせないように、西野がいつでも笑っていられるようにって……。






だから今俺が泣いたら……もう西野を救えない。







「はは……バカだな……。何も心配するなよ西野。だって俺が……いつでも西野の側にいるんだから……」



「ふふ。淳平くん優しいね……」



「あれ? な…んだよ……知らな……かったのかよ……」




「じゃあ……一つ、お願いしてもいい?」









「何?」











「キスして……」










「いいよ……」













「愛してる……」








僕らは何度も唇を押し付けあった。
生きていることをこの唇で感じて、そして涙が出た。







「淳平くん……息……できないよ……」
「あ……あ……」




最後のキスは、去年の誕生日、西野がくれたキスミントの香りがした。






















(こうして淳平くんと手をつないでるとね、なんだかすごく安心するの)


(どうして?)


(あたしの手、冷たいでしょ? だから淳平くんのぬくもりを感じ
ると、もっと淳平くんのことを好きになれるの)


(よくわからないけど……)


(ふふ。淳平くんはキスのほうがいいのかな?)


(な、なに言って……)


(あ〜、さては図星だろ?)


(いや、むしろキスよりも……)


(……今エッチなこと考えただろ!)


(だ、だって……)











「ふふ。淳平くんのキス……あったかいね……」


「……あぁ……あ……に…し…の……」






いつだって僕らは、誰かを傷つけながら生きていく。
恋に落ち、夢に破れ、その度に何かを失いながら……。


何もできない自分の無力さを呪い、そしてひたすら泣いている。


この世界に、もう存在するはずのない天使を探して……。













西野が死んだ……。




















































10月。
僕は街角の公衆電話に入って、つながるはずのない電話をかけた。



「おかけになった電話は、現在、使われておりません……」


付き合い始めた頃にもらった携帯番号を破り捨て、空に投げた。




「これからどうしようか……ジュン……」
鳥かごの中のジュンは、大きく羽を羽ばたかせた。





「空を飛びたいのか?」
ジュンは羽で小さく合図をする。


「空を飛べれば、西野に会えるかもな……」


ジュンの入った鳥かごを抱え、夕暮れ時の野原に向かった。
夏にはひまわりが咲くこの野原で、僕はジュンを空に返そう。



ねえ西野……ひまわりの花言葉を知っているかな……
野原に落ちている枯れたひまわりを拾い上げる。






―――――――いつでもあなたを見ています―――――












空を見上げると、無数の鳥たちが飛びたっていく。
あの空の向こうに西野がいるような気がして、僕は何度も空を見上げた。



移り変わる空の色は、時の流れを感じさせ、もう戻れない事を何度も実感した。




あの時から前に進めない僕を見て、君は笑うだろうか?怒るだろうか?



きっと、優しく励まして、そっと僕を導いてくれるだろう。



(コラー! いつまで落ち込んでるんだよ!)
(ほら! 早く顔上げて行くよ!)




だけどもう君はいない。
例えどれだけ願ったとしても、僕を導いてくれる君は、もうどこにもいない。


大きな優しさに甘え続けていた僕は、失って気づく自分の弱さが憎かった。







(ゴメンね……淳平くん……)








そっと鳥かごから、ジュンを取り出して語りかける。








「西野に会ったら、伝えてくれるかな……俺はもう、大丈夫だからって……」





ジュンは少し、頷いたような素振りを見せて、羽を羽ばたかせた。



「それと……これを西野に届けてほしいんだ……」



僕は、ポケットから渡せなかった指輪を取り出した。



「西野……サイズ違っても、怒らないでくれよな……」

















誰もが皆、いくつもの後悔を背負って生きていく。


その中で数え切れないほどの出会いと別れを繰り返し、もう戻れない時間に想いを馳せる。


やがて西野も思い出になってしまうのだろうか。











秋の空に落ち葉が舞い散る。
恋人を失った僕の隣を埋めるように……。












「西野……」
僕は何度も空に西野の姿を探し、その度に声に出して、西野の名前を呼ぶ。

もう二度と見失わないように……。








「愛してる……誰よりも……」















僕は足元に置いたラジカセのスイッチを押した。










「では次のリクエストは、泉坂市にお住まいの真中淳平君18歳からのリクエストです」


涙を照らす夕陽が眩しくて、僕はゆっくりと目を閉じる。



「誰でも一度は懐かしみ、戻りたいと……。そんな事を思ったことはありませんか?」












(もし……あたしが不安で、どうしようもなく寂しくなったとき、淳平くんは迎えに来てくれる?)










「一度しかない青春時代を、何の悔いもなく過ごせる人なんて、この世にどれだけいるのでしょう」








(怖いの……側にいないと……消えちゃいそうで……)








「あの日あの時、言えなかった言葉。伝えられなかった思い」







(大好きだよ……ずっと……)






「もう戻らない愛する人へ。過ぎ去りし時間よ……もう一度……Yesterday once more……」







(……なんてね!)









僕の手からジュンが飛び立っていく。
どうか西野に伝えて欲しい……。
僕は誰よりも、君を愛していると……。















「西野――――――――――!!」















この広い世界でようやく出会えた大切な人たちを、簡単に僕らは見失ってしまうから……。







ねえ西野……僕はここにいるよ……君に見えるだろうか……。






ジュンの足元のリングが、夕陽を浴びてキラリと光った。
それがまるであの日の笑顔のようで、僕はもう一度空を見上げた。












(淳平くん)








僕はずっと、西野の名前を呼び続ける。



いつかどこかにあるはずの、「再会」を信じて……。




Yesterday once more 〜Fin


[No.428] 2004/08/25(Wed) 17:32:43
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