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(No Subject) (親記事) - くろろ

10月のある朝、彼女は普段と変わらぬ一日を想像していた。


(今日も例の彼の話で、つかさをからかってやろう♪彼の話題にな


ると顔を真っ赤にして、しどろもどろになるつかさ、何か、かわい


いんだよねぇ〜♪)


修学旅行が終わって一週間余り、つかさは毎日の如く彼女にからか


われていた。からかわれるのが本当にイヤなら、つかさも怒るのだ


ろうが、顔を真っ赤にして、しどろもどろになりはすれ、怒る様子


は無い。内心は、彼の話題を振られる事は、少しは嬉しいのだろう


と、彼女は勝手に判断している。


(さ〜て、今日は、どの辺りまで聞き出してやろうか?)


彼女の誘導尋問は実に巧みであった。カマを掛け、つかさに墓穴を


掘らせる形で、出会いから最近の事まで、殆どの事をつかさに白状


させていた。彼女とつかさの出会いは高校入学時まで遡る。彼女の


つかさに対する第一印象は、「なんて、かわいい人なんだろう。」


である。自分より多少可愛い程度ならライバル心も沸こうと言う物


だが、自分と次元の違う物を見せられると、それすら沸いてこな


い。「世の中には、こんな可愛い人もいるんだなぁ」と、溜息をつ


いた覚えすら彼女にはある。そんな美少女と偶々席が隣になり、お


互いクラスには同じ中学出身者が居ない心細さもあり、仲良くなる


のにさほど時間は必要なかった。つかさと仲が良くなり、その人と


なりを知れば知るほど、つかさへの興味を掻き立てられた。笑顔を


絶やさず常にクラスの中心に居るのに、時折見せる切なげな表情、


『なぜ、あんな表情をするんだろう?』それとなく、尋ねた事もあ


るが、つかさは悲しげな笑顔を見せるだけだった。今なら解る。


『例の彼の事想っていたんだな』と。


(でも、つかさも大胆だよねぇ。部屋の抜け出しだけでもヤバイの


に、生徒入れ替えてまで彼と一緒に居たいってか?。。。あたし


は、そこまで想える人と出会ってないから、チョッと羨ましいか


も。。)


(あ、つかさのやつ、独り者のあたしにこんな心配させやがって、


今日こそは全てを白状させてやる!)


無意識のうちに腕まくりをする彼女の姿がそこにはあった。


そんな事を考えているうちに学校の正門が見えてくる。正門の内側


には生活指導の年配の女教師、その隣には体格のいい守衛が並んで


立っている。毎朝見る見慣れた風景だ。


(あれ?人だかりが出来てる?)


正門から少し進んだ所に人だかりが出来ている。確か、あの辺りに


は全校掲示板があるはずだ。普段なら人が集まるような場所ではな


い。なんだろう?と思いつつ歩を進める。人だかりの中から声が聞


こえる。


「ウソー。彼女、何やったの?」


「無期停?かなり、ヤバくない?内申アウトじゃん!」


「親衛隊の誰かと何かあったとか?」


「可愛い顔して陰で何やってたかワカンナイってこと?」


嫌な予感がした。いきなり心臓を鷲掴みにされた様な感覚に襲われ


る。自然と小走りになり掲示板に近づく。集まっている生徒の一人


が彼女に気付く。


「ト、ト、トモコ!つかさが!つかさが!」


「何があったの!?」


「つかさが!つかさがぁぁぁぁ!」


彼女の元に走り寄って来たクラスメートは泣きじゃくっている。


「つかさがどうしたの?一体何があったの!?」


泣きじゃくるクラスメートは掲示板を指差している。彼女は人だか


りを掻き分け掲示板が見える位置まで進んだ。そこに、張り出され


た一枚の紙。その内容を見て我が目を疑った。




告:下記の者、当学園の生徒として有るまじき行動を取ったと判断  
  し、無期停学に処す。





  学籍番号:○△×□○西野 つかさ




  私立桜見学園女子高等学校  校長


続く。。。




ども、はじめまして。皆様の投稿、いつも楽しく読ませていただいております。ここの所、皆様の更新が無く寂しく思っております。私もいつも読ませて頂くだけでは、どうかと思い。一念発起!投稿させて頂きました。なにぶん初挑戦の事ゆえ、ありがちな内容、幼稚な文章(どこかで、聞いたようなフレーズだな?)で、皆様のお目汚しとは思いますが。これから3話ほど投稿させて頂きます。何卒、お付き合い下さいますよう、お願い申し上げます。 くろろ。


[No.1242] 2006/02/12(Sun) 08:54:25
galaxy.aitai.ne.jp
Re: (No Subject) (No.1242への返信 / 1階層) - 名無し

おもしろいです!!続編期待してます

[No.1243] 2006/02/12(Sun) 11:26:19
p3072-ipbf10aobadori.miyagi.ocn.ne.jp
Re: (No Subject) (No.1243への返信 / 2階層) - く

こんなに早く感想を頂けるとは。。感激です!
私の文章で、何処まで自分の構想を描ききれるか解りませんが、
ご期待に沿えるようがんばりたいとおもいます!


[No.1244] 2006/02/12(Sun) 19:10:13
galaxy.aitai.ne.jp
はなさないから (No.1244への返信 / 3階層) - くろろ




トモコの頭の中には目の前に書かれている文字がぐるぐると回って


いた。


(つかさが無期停学?)


(京都の入替がバレタ?)


(いや、そんなはずはない。つかさと落ち合うまで先生との接触は


してはいない。)


(前日の抜け出しか?)


(それも違う。それなら翌日には外出禁止になってるはず。)


トモコは、掲示板の前で自問自答を繰り返しながら立ち尽くす。


「ハイ、ハイ、貴女方、早く教室にお入りなさい。予鈴が鳴ってま


すよ!」


正門に居た生活指導の教師が手を叩きながら大声で集まっている生


徒達に教室に入るように促す。その声にハッと我に返ったトモコは


傍らに居る泣きじゃくるクラスメートの肩を抱き抱える様に教室に


入っていった。


教室に入ると、やはりと言うべきかクラス全員がつかさの事を話題


にしている。


(何があった?)


(どうして?)


頭の中に浮かんでくるのは疑問符ばかりで、その答えに繋がるよう


な事が浮かんでこない。出口の見つからない迷路に入り込んだ様な


感覚に襲われたトモコの表情が次第に険しくなる。そこへ一人のク


ラスメートが不安げな表情でトモコに声をかける。


「ねぇ、トモコ。つかさの無期停、京都の事が原因なら、あたし達


も共犯って事でヤバイのかなぁ?」


「あたし、停学とかになったら、親に何て説明したらいいのかワカ


ンナイよぉ。」


声をかけてきたクラスメートの顔が今にも泣き出しそうな顔に変わ


ってくる。


「いや、それは無いと思う。。。その事が原因ならつかさと同時に


あたし達にも処分が降りてるはずだから。。。」


実際、トモコの頭の中に浮かぶ、つかさの停学の原因は、京都の件


しかないのだが、今、自らが口にした理由でその件は今回の原因で


はないと言う結論に到ってしまう。そこへ、担任教師が教室に入っ


てきた。


「はい、みなさん。私語をやめなさい。HRを始めますよ!」


一向に答えの出ない自問自答を繰り返すトモコの耳には、教師の声


は届いてはいない。


(やっぱり、本人に聞くしかないか?)


携帯を取り出すために鞄の中に手を伸ばす。と、その時、担任教師


が視界に入り、初めて既にHR中なのだと気付く。


(チッ、くそ!)


トモコは小声で舌打ちをした。


(つかさの携帯、番号解んないから家の電話に掛けるしかないの


に。。。)





以前からトモコは『連絡取るのに困るから』と、言う理由でつかさ


に携帯の番号を教えるように催促していたのだが、頑なにつかさは


拒んでいた。つかさに白状させた話では、携帯の番号を知っている


のは、親と例の彼、そして、例の彼が連絡を取りたい時に困るから


彼の親しい友人で唯一携帯を持っている男の子。この4人だけしか


知らないらしい。


(無理やりにでも聞いておくんだった。。)


トモコは後悔したが、今更、手遅れだった。





「。。。コ、トモコ!」


「あ、何?どうしたの?」


「あんた、担任から職員室に呼ばれたわよ。今からすぐ、来いっ


て。」


つかさの事を考えていて、担任はおろかクラスメートの呼ぶ声すら


耳に入っていなかったようだ。


「何の用だろう。。。」


トモコは呟く。


「やっぱ、つかさの件じゃないのぉ?つかさとトモコ仲良かったし


さ。。。」


もしも、つかさの件での呼び出しなら、詳しい事情が聞けるかもし


れない。そう思い、彼女は席を立つ。


「んじゃ、いってくるわ。もし、つかさの件だったら、詳しい事


情、解ったら皆にも報告するね。」


そう、言い残しトモコは教室を後にする。






「失礼します。」


扉の前でそう告げるとトモコは扉を開け、職員室の中に入っていっ


た。担任の教師はトモコの姿を確認すると自分の席を立ち上がる。


「校長先生が貴女に質問したい事が幾つかあるそうです。今から校


長室に行きますから付いてらっしゃい。」


トモコは何についての質問か聞いておきたかったが、教師の態度が


それを許さなかった。










「。。。。。。。。と、以上が西野君の自己申告ですが、それに間


違いありませんか?」


トモコは校長の話を聞き、愕然とした。怒りなのか、悲しみなの


か、情けなさなのか、どう表現したらいいのか解らない感情に支配


され、下を向き、床の一点を見つめて肩を震わせていた。校長室に


呼ばれた理由は、やはりつかさの件だった。また、つかさの停学理


由も自分が否定していた京都の入替の件だった。校長の話から自分


が原因ではないと思っていた理由も覆されたと言う事が解った。


つかさの自己申告ではこういう事になっていた。。。。







つかさは、京都で、ある男性と会う為に班毎の自由行動の日、京都


市内に出てから、『忘れ物をした。』と、トモコ達に『嘘』を付


き、班の行動から離れた。その男性と一緒に居る間もトモコ達から


『忘れ物は見つかったのか?』と何度も連絡を貰ったが、その都


度、『まだ、見つかっていない。』と、『嘘』を付き、トモコ達を


『騙していた。』と。そういった理由でトモコ達は『騙されてい


た』ので、つかさが何をしていたのか知らないという事になってい


た。また、つかさが逢っていた男性の素性は絶対に言えないと、つ


かさは頑として口には出さなかったらしいと、言う事も校長の話か


ら解った。トモコは校長の質問の答えの前に、自らの疑問を口にし


た。


「何故、西野さんの行動がわかったんですか?」


同じ班のメンバーはバレたら共犯なるから言うわけは無い。クラス


の全員にもつかさが土下座に近い事までして口止めをしたから、そ


こから漏れるとも考えにくい。


(なぜだろう?)


トモコ自身としては、素直な疑問だった。


「西野さんも自分のクラスの行動計画は把握していて、避けていた


みたいですが、他のクラスの生徒が男性と歩いている西野さんを見


かけたと、噂をしていましてね。それを先生方が耳にして、今回の


件が発覚したというわけです。」


迂闊と言えば余りにも迂闊な話だ。考えてみれば、つかさは近隣の


学校で名前を知らない者はいないと言う位の美少女だ。学園内での


知名度も1、2を争うだろう。ましてや同学年ともなれば知名度は


ブッチギリでトップである。加えてあの、一際目立つ金髪にエメラ


ルドグリーンの瞳である。制服を変えた位では、同級生が見れば、


つかさである事は一目瞭然であった。


「で、先程の私の質問の答えをまだ、貰っていない訳ですが、西野


さんの申告通りで間違いありませんか?」


校長の声に現実に引き戻される。


つかさの気持ちを考えれば「間違いありません。」と返事をするし


かないのは分かっている。が、一瞬トモコは躊躇する。


(本当に、それでいいのか?)


(周りを巻き込まないように『嘘』まで付いた友人を見捨てていい


のか?)


トモコは意を決して、「違う」と言おうとした瞬間、他の考えが頭


をもたげる。


(停学になるのが自分だけならいいが、同じ班のメンバーも当然、


同罪で停学になるだろう。。。それでいいのか?)


(自分が停学になったら親になんて説明しよう。。。)


トモコは硬く閉じた双眸から、大粒の涙を溢れさせ、下を向いたま


ま、喉から搾り出すように、また呻く様に言葉を発した。


「それで。。。間違い。。。。。ありません。。。。」





トモコの、その様子は、その場にいた2名の教師には、どう映った


のだろうか。親しい友人から『嘘』を付かれた怒りから来る、もし


くは、悲しみから来る涙。。。そう見えたのかもしれない。。。


「貴女も辛いでしょうが、これを乗り越えれば一回り成長した自分


に出会えると信じてください。それでは、授業に戻って頂いて結構


です。」


「失礼しました。」


瞳を腫らし、下を向いたまま校長室を出て行こうとするトモコに校


長はこう告げた。


「事の真偽が確定した以上、残念ですが西野さんには退学、若しく


は自主退学のどちらかを選択してもらう事になるでしょう。」


一旦は止まりかけた涙が、再び滝の様に零れ落ちてくる。それを止


める術をトモコは知らなかった。








続く。。。


[No.1246] 2006/02/13(Mon) 04:19:00
galaxy.aitai.ne.jp
はなさないから3 (No.1246への返信 / 4階層) - くろろ




トモコは泉坂高へと向かっていた。


(今のつかさの状況を一刻も早く例の彼に伝えなければ。)


何故かトモコは、そう思った。ひょっとしたら、昨夜のうちに電話


でもして既につかさの置かれた状況を知っているかもしれない。そ


う、考えないでもなかったが、つかさから聞き出した限りでは、今


の2人の関係は友達以上恋人未満と言う微妙な関係だ。つかさの性


格から言えば例の彼に心配を掛けまいとして何も話していない方の


可能性が高い。こんな時こそ、例の彼に傍にいて支えて欲しいと、


心の底から願っているくせに、彼の事を気遣い、出来ないでいる。


そう、確信めいた思いがトモコの中にはあった。






担任の呼び出しから戻ったトモコの様子にクラス中がざわめいてい


た。


「トモコ、どうしたの?」


「担任のやつに何かされたの?」


すぐさま、何人かのクラスメートが走り寄って来る。


トモコは、今しがた校長室での出来事をクラス全員に告げた。


「いい、みんな?つかさはあたし達を巻き込まないように『嘘』ま


で付いてくれた。その思いを無駄にしない為にも、つかさの『嘘』


に口裏合わせて!お願い!」


トモコは泣きながらクラス全員に頭を下げていた。






トモコは足早に歩きながら先程のクラスメートの反応を思い出して


いた。皆、つかさの事を心配しているのは本当だろう。しかし、ト


モコから聞かされたつかさの『嘘』の内容を聞いて自分達に累が及


ばないと分かった時のみんなの安堵した表情がトモコの脳裏にこび


り付いて離れなかった。


(みんな、自分が可愛いんだな。。。)


(口では友達なんて言っても、所詮、こんなものか。。。)


こう、思った瞬間、校長室に居た時の自分を思い出す。


(あたしも停学になったらどうしよう?って、思わなかった?)


(あたしも他人の事は言えないな。。嫌なやつの一人かもしれな


い。)


(あそこでつかさを見捨ててしまった分、あんたが彼に伝えたい気


持ちは、彼に伝えたい言葉は。。。あたしが伝えてあげる!)


トモコの歩くスピードは更に上がり、いつの間にか走っていた。






「おーい。真中ぁ、今日、部活どうすんの?」


一週間で最も眠い7限目の授業が終わると同時に外村が声を掛け


る。


「う〜ん。今日の所は、これといってやることないなぁ。」


「んじゃ、俺、このまま帰っていいか?HPの更新やらなきゃいか


んのだわ。」


「あ、外村。俺も久しぶりにバイト行くから、途中まで一緒に帰る


か?」


そう、淳平が声を掛けると、外村は「バイトねぇ。」と、ニヤリと


笑い真中に耳打ちする。


「お前の場合は、つかさちゃんに逢いたいのと、さつきから逃げた


いのが本音でバイトは口実だろ?」


「うっ。。。。」


外村の鋭い指摘に淳平は二の句を継げなくなる。


「えー。真中、今日、部活やんないのぉ?」


後ろからいきなり誰かに抱きつかれる。


「ダ〜!離れろさつき!いきなり抱き付くなと何度言えばっ」


「もぅ、真中ったら照れちゃって可愛いんだから♪」


さつきは淳平の頭を後ろから抱え込んだまま体を揺する。


(さつきの胸の感触が後頭部に。。。気持ちいいかも。。。)


鼻の下を伸ばした淳平の顔を見て、外村がニヤニヤ笑う。


(イ、イカン。西野に会う前にこんな事してちゃ!)


「あ〜。さつき、いい加減に離れろって!お前の胸が俺の頭に当た


ってるんだって。。」


淳平の言葉を遮る様にさつきが淳平の耳元で艶のある声で囁く。


「押し付けてんのよ♪ワ。ザ。ト♪」


淳平の顔が見る見る赤くなる。そんな二人のやり取りを外村はニヤ


ニヤしながら見ていたが、このままでは埒が明かないと思ったの


か、


「北大路、今日バイトは?」


別の話題をさつきに振ってくる。


「バイト?今日はお休み♪東城さんも今日は文芸部のほうに顔出す


って言ってたから、真中と2人っきりになれると思ったのにな


ぁ。」


さつきは、口元を尖らせ、頬を膨らませて拗ねた表情を見せる。


「まぁ、そう言うなよ。真中も偶にはバイトに顔を出さないとクビ


になっちまうからな。」


「それは、そうなんだけどさぁ。。」


さつきは淳平の頭を抱え込んだまま、尚も不満げな表情を見せる。


(さ、さつき、いい加減に解放してくれ!このままだと俺の下半身


がえらい事に!)


淳平の心の叫びを無視するように外村とさつきの会話は続く。。。




淳平の体がいきなり開放された。さつきは淳平の体を解放すると両


手のひらを合わせ自分の顔の前に持っていき、名案が思い付いたと


ばかりにニッコリ笑う。


「あたしも真中のバイトに付いて行っちゃお〜♪」


「エー!さ、さつき!本気で言ってんの?冗談だよな?」


さつきの言葉を聴き、淳平が慌てて問いただす。


「本気だよ?あたし、真中がバイトしてるとこ見てみたーい♪」


(せっかく久しぶりに西野と会えるチャンスなのに!な、な、何と


かしなければ!)


淳平はさつきを説得しに掛かる。


「ほ、ほら、俺、バイトの内容、客席の掃除だし。そ、掃除なんか


見てても面白くもなんとも無いし!だ、第一、バイト中はさつきに


構ってやれないし!な?な?」


「いいの!あたしは、真中が仕事してる姿を見たいの!それに、あ


そこの館長さんなら、女の子が行けば、お茶とか出してくれそうだ


しね♪」


(うっ。。。確かに館長ならさつきが行けば、間違いなくお茶くら


い出す!それどころか、お茶菓子付きで出しそうな気がする!)


「そ。れ。と!」


一瞬、さつきの目が据わったような気がした。


「西野さんと二人には絶対、さ!せ!な!い!」


(やっぱり、そうですか。。。。)


京都での西野との二人きりの行動は、いつの間にかさつきの知る所


となっていた。淳平は二人で行動すると言った訳でもないのに何


故、さつきにバレたんだろうと不思議がっていたが外村に言われた


言葉で納得した。


「あのなぁ、真中。さつきと俺達は同じ班なの。解る?お前が一日


中居なければ、不思議にも思うし、いくら俺でも、そうそう、誤魔


化し切れるもんでもない。ましてや、あの西野つかさと一緒に居る


んだ。かなり、目立った筈だ。うちの生徒の一人や二人、お前とつ


かさちゃんを見かけても不思議じゃない。そうなれば、人の口には


戸は立てられん。噂はあっという間に広がるし、そうなれば、北大


路の耳にも自然に入る。って事だ。ここまで説明すればお前の鈍い


頭でも理解できるな?」


言われて見ればなるほどと思う。確かにそうだ。ここで、淳平は


「じゃぁ、西野の学校にもバレている可能性も有るのでは?」と、


思ったが、まだ、旅行中のつかさと何度か電話で話した時も桜海の


旅行が終わった後に何度か電話で話した時にも、それらしき事は言


っていなかったのでバレたはいないのだろうと安心していた。




「ほら、真中。早く行こうよぉ♪」


さつきは、既に帰り支度を済ませて教室の入り口で待っている。


「北大路が行くんなら、俺もHPの更新やめにして、覗きに行っち


ゃおう♪」


外村が突然言い出した。


「何で、さつきが行くからってお前まで来る訳?」


怪訝そうにする淳平に外村が耳打ちする。


「HPの更新より、こっちの修羅場が面白そうだから♪」


「は、ははは。。。やっぱり。。。?」


淳平はガックリ肩を落とした。






続く。。。



ども、くろろです。調子に乗って続きを書かせて頂いております。
全4話程度で纏める予定でしたが、構成力不足の為に、収まりそうもありません。。。orz
以後の話を練り直して、読まれる方が読み易いように、短めに収まるようにしようかと思案しております。皆様、今しばらく、お付き合い下さいます様、お願い致します。


[No.1247] 2006/02/13(Mon) 08:47:12
galaxy.aitai.ne.jp
Re: はなさないから3 (No.1247への返信 / 5階層) - 名無し

僕はもっと続けてほしいです。頑張ってください!!

[No.1248] 2006/02/13(Mon) 14:44:00
p3187-ipbf14aobadori.miyagi.ocn.ne.jp
Re: はなさないから3 (No.1248への返信 / 6階層) - くろろ

暖かい応援、ありがとうございます。御期待に沿えるよう、
がんばります!


[No.1250] 2006/02/13(Mon) 17:25:35
galaxy.aitai.ne.jp
はなさないから4 (No.1250への返信 / 7階層) - くろろ





「あれって桜海の制服じゃねぇ?」


「結構可愛いじゃん。」


「彼氏待ちかな?」


「お前、声かけてみるよ?」


「無理、無理、俺にはレベル高すぎ。」


「彼氏、誰だかしんねーけど、羨ましすぎ。。。」





トモコは泉坂高の前に着いていた。勢い込んでは来たものの、どう


やって彼を探すか思案していた。


(手掛かりは、ジュンペイ君と映研か。。。)


つかさからは、彼の名前の苗字は聞き出してはいない。後は、この


夏に彼の監督で映画のヒロインをやったと言うつかさの話から、映


研であろうと言う推測だ。


(入替の時に居た端本って子が見つかれば早いんだけどな。)


思案の結果、ちなみを探すより、映研の方を探した方が早いと言う


結論に至る。


(端本を探してる間に彼が帰っちゃったら元も子もないもんね。)


(よし、誰か捕まえて、映研の場所を聞いてみよう。。)


近くを通りがかった男子生徒に声をかける。


「すみません。映研の部室って何処でしょうか?」


いきなり声を掛けられた男子生徒は赤面する。つかさと行動を共に


するせいで、さほど目立たないがトモコとて、普通の男子高校生が


赤面する位の可愛さなのだ。


「えっと、。。映研ならそこに見える手前の校舎の2階、生徒指導


室が部室になってるはずですよ。」


「ありがとう。」


トモコは教えられた校舎へ視線を泳がせる。


「あ。ひょっとしたら、次の映画に出る人?」


「え?」


「俺、今年の文化祭で映画見てさ。ヒロインの子がスゲーいいなっ


て。。。噂じゃ、桜海の子って話なんで、次もそうかなって。」


「あ、いや、その、その子が可愛いってのもあるんだけど、映画の


内容も良くてさ、俺らの学校に本当に映画が作れるやつが居るんだ


なって思ったんだ。もしも、映研関係の人だったら、がんばれよっ


て伝えてもらおうかと思って。。」


(つかさの映画、評判良いんだ。。。)


「私が出る訳じゃないけど、伝えておきますね。」


場所を教えてくれた男子生徒は軽く片手を上げながら去っていっ


た。トモコは映研の部室があるという校舎へ向かって歩を進めた。


(映研の部室へ行けば、ジュンペイ君を知ってる人が居るはず


だ。。。)


(つかさ、映画に出てる時も彼の話をする時と同じ笑顔だったのか


な?。。。きっとそうだよね?。。。一度、見てみたいな。。。)


照れ臭そうに彼の話をする、つかさのはにかんだ笑顔と、今のつか


さの状況を思い、トモコは胸が張り裂けそうになる。


(一刻も早く、この状況を彼に伝えなければ。。。)


トモコの歩を進める速さが彼女の心の内を表しているかの様だっ


た。


教えられた校舎の中に入ると2階に上がるために下段を探す。と、


そこへ3人の人影が廊下をこちらへ歩いてくる。


「あ!」


いた!彼だ!3人のうちの真ん中の人影は見覚えがある。間違いな


く入替の時に来た彼だ。つかさがメロメロになる位だからどんなに


良い男だろうと想像してガッカリした顔だ。あの時の同じ班の子達


は、未だに彼は代理だと思っているみたいだが。。。


「ジュンペイ君!」


トモコは走り寄りながら声を掛ける。いきなり声をかけられて、彼


は少し、驚いているようにも見える。トモコは淳平の前まで来ると


乱れた息を整えるのも忘れて言葉を継ぐ。


「いきなりでゴメン。あたし、つかさの友達で。。。」


ここまで言葉にした時、トモコの目に信じられない光景が飛び込ん


できた。彼の傍らに居る女生徒が彼と親しげに腕を組んでいるでは


ないか。


(え?何で?どういう事?)


(つかさと彼は両想いじゃないの?)


(つかさがこんな時に、この人、何やってるの?)


トモコが言葉を失っていたのは、ほんの数秒の事だろう。その数秒


の間に、『つかさの友達』と言う言葉を聞いたさつきが、淳平に絡


めた自らの腕に力を込め、殊更に淳平に体を密着させる。それを見


たトモコの中で何かが弾けた。


「。。。。二。。。。。。。ヨ。。。」


トモコは俯き、両の拳を強く握り締め、肩を震わせる。


「ナニ、ヤッテルノヨ。。。」


淳平、さつき、外村は、ただ、トモコを見ている。


「あんた一体、なにやってんのよ!!!」


言葉と同時にトモコは淳平の胸座を掴み詰め寄る。淳平はその勢い


に押され、廊下の壁に押し付けられる形になる。トモコの頭の中に


は、照れ臭そうに彼の話をするつかさの笑顔、止めるのも聞かず、


ホテルを抜け出そうとする思い詰めたつかさの顔、クラス全員に頭


を下げ、入替に協力して欲しいと頼み込むつかさの姿、教師達に取


り囲まれ、詰問されても頑として彼の素性を明かさないつかさの気


持ち、彼のことを気遣い、独り不安に耐えている今のつかさの状


況、様々な事が一瞬にして駆け巡る。弾けた感情の為か、トモコの


双眸からは大粒の涙が流れ落ちる。


「つかさがこんな時に、あんた一体、なにやってんのよぉ!!!」


淳平の胸座を掴んだ腕を前後に揺すり、尚も詰め寄る。それは、怒


りと言うよりも既に憎しみに近い感情だったのかもしれない。その


声は涙声が混じり、既にハッキリとは聞き取れない位になってい


た。


「うっく。。。ナニ。。。ひっく。。。やって。。。うぅぅ


ぅ。。」


淳平の胸座を掴んだまま、トモコは足元から崩れ落ちる。トモコの


体を支えきれず淳平の制服のボタンが千切れてゆく。


「つかさ。。。つかさぁぁぁぁぁ!!」


崩れ落ちたトモコはその場で号泣した。


突然の事態にあっけに取られていたさつきが我に返る。


「あんた、いきなり来て、何、訳のわかんない事言って。。」


さつきの言葉を遮るように淳平が言う。


「西野がどうしたんだ?西野に何があったんだ?!」







溢れ出た感情を吐露するかの様に泣いていたトモコ。それがやや、


落ち着いた頃に外村が淳平に告げる。


「真中。俺と北大路は先に帰るよ。」


「え〜?何で?西野さんに何かあったのなら、あたし達にも何か力


になれることがあるかも知れないじゃない?」


「いや、この子の。。。トモコちゃんだっけ?。。様子だとつかさ


ちゃんには重大な問題が起こってるみたいだ。しかも、プライベー


トな事でな。ここは、真中一人が聞いた方が良いと思う。北大路に


も他人に聞かれたくない話くらいあるだろ?」


「そりゃぁ、まぁ。。。」


諭す外村にさつきが渋々頷く。外村は更に続ける。


「その上で、俺達の協力が必要と思えば真中が俺達に話してくれれ


ばいい。」


外村に促され、さつきがその場を離れる。離れ際に切なげな、ま


た、不安げな視線を淳平に送る。外村も続いて離れようとして淳平


に声を掛ける。


「独りで行き詰ったら、必ず相談してくれ。協力は惜しまん。独り


じゃ見つからない出口も何人か居れば見つかる事もある。独りで抱


え込むなよ。俺もつかさちゃんの友達のつもりだ。」


こう言うと、後ろを振り返るさつきの背中を押す様にして昇降口へ


消えていった。その場で二人を見送った淳平がトモコに視線を移


す。


「西野に何があったんだ?」




続く。。。


[No.1256] 2006/02/16(Thu) 03:37:36
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Re: はなさないから4 (No.1256への返信 / 8階層) - くろろ

誤タイプ訂正。
4行目:こえかけてみるよ→こえかけてみろよ
トモコ校舎に入った場面:下段を探す→階段を探す
でお願いします(´Д⊂


[No.1257] 2006/02/16(Thu) 03:53:45
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はなさないから5 (No.1257への返信 / 9階層) - くろろ





「ハァ、ハァ、ハァ。。。」


淳平は無我夢中で走っていた。これまでの決して永いとは言えない


人生の中でこれほど真剣に走ったことはないだろう。


(西野、西野、西野。。。。)






「お願い、ジュンペイ君、つかさの傍に居て支えてあげて。」


淳平はトモコから全てを聞いた。顔は青ざめ、言葉を失っている。


「お、俺のせいなのか。。。」


喉から搾り出すように言葉を発する。体に力が入らない。膝も笑っ


ている。床に立っている感覚もなく、廊下の壁がなければそのまま


倒れこんでいたかもしれない。


「お、俺、そんな大事になるなんて。。。西野。。」


「ただ、一緒に居たかったんだ。。。」


淳平は力なく壁に持たれかかる。トモコは既に落ち着きを取り戻そ


うとしていた。


「さっきは怒鳴ったりして、ゴメン。。。」


「いや、いいんだ。。。怒鳴られたってしょうがないよ。。。」


「つかさから、ライバル居るって聞いてたんだけどね。。つい、カ


ッとなって。。本当にゴメン。。。」


「やっぱり、俺のせいなんだよね?」


「。。。。。。」


「お、俺、今から桜学行って事情を説明する!俺が無理やり連れ出


したんだって、西野は悪くないから処分を取り消してくれって!」


「もう、どうにもならないよ。。それに、そんな事したって、つか


さは喜ばない。つかさがキミの事、話さなかった気持ち、考えな


よ。」


「。。。じゃぁ、俺は、どうすればいい?西野の為に何が出来


る?」


「2人が今、どんな関係なのか、つかさから聞いて大体わかってる


つもり。。。あの子、自分の事二の次にして周りに気を使っちゃう


所あるでしょ?キミに心配かけたくないから自分からは連絡、取り


づらいんだと思う。だから。。。。」


「つかさの傍にいて、あの子を支えてあげて!」






つかさはベッドの隅に座り枕を抱えて泣いていた。


(淳平君、淳平君。。淳平君。。)


愛しい人の名前を呪文のように繰り返す。そうすれば彼に逢えるか


のように。。。


昨日、無期停学の仮処分が決定し、帰宅したのは夜の7時を回って


いた。両親は既に帰宅していたが、その事を、どう切り出すか暫く


の間悩んでいた。このまま、黙っている訳にも行かない。近日中に


は親共々、学校から呼び出しが来るだろう。


(バレたら、こうなる事は判ってたんだし、それでも私は淳平君と


一緒に居たかった。。。後悔なんかしてない!)


意を決して、2階を降り、リビングへと向かう。キッチンでは母が


いつもの様に鼻歌交じりで夕食の準備をしていた。


「パパ、ママ、大事な話があるんだけど。。。」


普段と違う娘の緊張した声に、母はガスの火を止める。父も読んで


いた新聞をテーブルに置いた。並んで座る両親の正面に座り、つか


さが切り出す。


「あたし、明日から停学になっちゃった。。。期間は決まってな


い。。。」


二人は、つかさの突然の話に言葉を失う。


「つ、つかさちゃん、それ、どういうことなの?!」


母が娘に問いただす。つかさは、淳平の事を口にしようかすまいか


躊躇したが、話す事に決めた。


(変に隠してパパとママに淳平君が嫌われたら嫌だ。)


「あのね、す、好きな人と一緒に居たくて、京都の自由行動、皆と


離れて行動したのがバレちゃったの。。。」


両親の顔色が見る見るうちに変わっていく。


「あ、でもね。彼は全然悪くないの。。。私が無理に一緒に居てっ


て頼んだの。。。だから。。」


バシッ!


突然の頬の痛みと共につかさの体が横に流れる。


「何やってるんだ!お前は!そんな事をやらせるために高校に行か


せてる訳じゃない!」


これまで、父親に殴られた記憶などない。悪戯をしても、いつも笑


顔で諭してくれる優しい父のイメージしかない。突然の事にあっけ


に取られていた母が慌てて止めに入る。


「あなた、いきなり殴らなくても。。」


父は興奮気味に言葉を続ける。


「お前は黙っていなさい!つかさ、相手は何処の誰なんだ?言いな


さい!」


つかさは、目を潤ませ、左頬を押さえながら父を見る。


「つかさちゃん、パパに謝りなさい。そして、相手の人を教えてち


ょうだい。」


つかさは、潤んだ目に強い意志の光を込めて言う。


「停学になった事はパパやママに悪いと思ってる。それは謝る。。


ゴメンナサイ。でも、彼の事は絶対に言わない!私が無理矢理、一


緒に居てって頼んだんだもの。彼に迷惑は掛けられない!」


「高校生がそんな事を言うのはまだ、早い!部屋で頭を冷やして反


省しなさい!」


つかさはリビングを飛び出し2階の部屋へ階段を駆け上がる。


バタン!  カチャ。


自室に戻ると内側から鍵を掛け、ベッドへ倒れこむ。それと同時


に、その整った端正な顔立ちが歪み、エメラルドグリーンの瞳から


涙が溢れ出す。父があれ程、激興するとは思わなかった。怒られる


だろうとは思ったが、いつもの様に優しい笑顔を見せてくれるのを


心のどこかで期待していたのかもしれない。


(何故、わかってくれないんだろう。。。)


(私は、こんなに、こんなに淳平君のことが好きなのに。)


(パパとママもこんな気持ちがあったから結婚したんじゃない


の?)







コンコン。


どれ位泣いていたのだろう。ドアをノックする音が聞こえる。


「つかさちゃん、聴こえてる?ママよ。ちょっとお話があるの。開


けて頂戴。」


「今、誰とも話したくない。。。」


涙交じりの声で返事をする。


「パパ、つかさちゃんをぶった事、気にしていたわ。初めての事で


すものね。。。」


「。。。。。」


「それとね、ママ、怒りに来た訳じゃないの。。。つかさちゃんの


気持ち、解るつもりよ?ママだって女ですもの。好きな人が出来た


気持ちは十分、解るつもり。ママじゃ頼りないかも知れないけど、


つかさちゃんの相談相手になれないかしら?」


「。。。。。」


カチャッ    鍵を開け、そっとドアを開ける。そこには何時も


の優しい母の笑顔があった。


「フフフ。こんなに泣いちゃって、可愛い顔が台無しね?」


母は優しく頬に流れる涙を拭いてくれる。


「ママ!」


つかさは、母の胸に飛び込み、また涙を流す。優しい微笑を湛えな


がら母は言う。


「つらかったわね。。。話して御覧なさい?ママでよければ恋愛の


先輩としてアドバイスしてあげる。」






「そう。。。淳平君ってそんなにモテるんだ。。。」


「うん。。。でね、あたし、淳平君の中に東城さんが居るのが辛く


て一度、別れちゃったの。。。今思うとなんて馬鹿なことしちゃっ


たんだろうって思う。。。淳平君の事、忘れようとしたんだけど出


来なくて、ううん、それどころか毎日毎日、淳平君の事考え


て。。。」






「同じ学校なら良かったってメール貰ったら、ただ、淳平君に逢い


たくて逢いたくて。。。。」


つかさの声に再び涙が混ざりだす。


「。。。ヒック。。。でね、あたしが、学校なんか無視して二人で


修学旅行出来たらいいね?って言ったら、彼、うん、やろうっ


て。。。」


つかさは今まで独りで抱え込んでいたものを全て母に打ち明けた。


いくらか心が軽くなったような気もする。






「そっかぁ。あの東城さんがライバルなのかぁ。。。つかさちゃん


も大変な男の子を好きになっちゃったわねぇ。」


「後ね。。。さつきちゃんって言って凄くスタイルのいい子


も。。。女のあたしから見ても惚れ惚れするくらい凄いの。。」


「でも、つかさちゃんはその淳平君の事、大好きなんでしょ?」


「うん。。淳平君の事、好きな気持ちは誰にも負けてない。淳平君


の為なら、あたし、何でも出来る!」


「何でも出来るか。。。そうよねぇ、彼の為に志望校変えたり、苦


手だったお料理も出来る様になったものねぇ。。。フフフ。」


母に全てを打ち明けた事で心が軽くなり、落ち着いてきたせいか、


今度は恥ずかしさが込み上げて来る。


「ママが言えるのは、その人のことが好きなら、迷わずにいきなさ


い。貴女は何処に出しても恥ずかしくないママの自慢の娘なんだか


ら。」


「ありがとう、ママ。。。」


「それと、学校の方は呼び出しが来るまでに、ゆっくり考えましょ


う。」


「うん。」


「じゃぁ、おやすみなさい。つかさちゃん。」


「おやすみ、ママ。」


先程より落ち着きは取り戻したものの、独りになると色々な事が頭


を巡る。


(このまま、停学で済むのかなぁ?それとも退学になっちゃうのか


なぁ?)


(トモコ達、心配してるかなぁ?まさか、停学とかになってないよ


ね?)


自然と目の前が滲んで来る。


(淳平君、逢いたいよぉ。傍に来てよぉ。。。)


眠りに落ちるつかさの閉じた瞳には渇く事のない涙があった。




続く。。。


[No.1258] 2006/02/17(Fri) 02:40:15
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はなさないから6 (No.1258への返信 / 10階層) - くろろ





閑静な住宅街を一人の少年が走りぬける。事情を知らぬ者が見れ


ば、少年のその姿はある種、異様に見えたかもしれない。詰襟の学


生服を着たまま、息も絶え絶えに走る。体力が尽きたのか、何度か


よろめきそうになるが、それでも少年は走る事を辞めようとはしな


い。


(西野。。西野。。西野。。。)


(俺のせいだ。。。いつも、西野を苦しめてばかり。。)


淳平の顔が歪む。走りづめによる肉体的な苦痛なのか、つかさの今


の状況を思う精神的な苦痛なのか、それとも、その両方なのか。。


(次の角を曲がれば西野の家が見える。。。)


淳平は、よろめきながらも力を振り絞るように走る。。。






つかさの家の前で淳平は立ち止まり、塀に体を預け息を整える。


(西野の顔を見たら俺は何て言えば良いんだろう。。。)


(その前に、西野の親が居たら、会わせてくれるんだろうか?)


目を閉じ、天を仰ぎ大きく息を吸う。呼吸が落ち着いてくるのが自


分でもわかる。


(とにかく今は西野に逢いたい。。。西野の顔が見たい。。。)


緊張で震える指でインターホンのボタンを押す。


。。。ピンポーン。。。返事は無い。


(留守なのか?。。。)


更に2度、3度とボタンを押す。


(西野、顔を見せてくれ。。。)






。。。ピンポーン。。。


つかさは遠くで呼び鈴が鳴る音を聞いたような気がした。


(あ、あたしウトウトしてたんだ。。。)


昨夜から少し寝ては目が覚め、またウトウトする。こんな事を繰り


返していた。いかに、覚悟していた事とはいえ、17歳の少女の精


神を不安定にさせるには、十分過ぎる今の状況だった。今も薄いピ


ンクのパジャマ姿で枕を抱きしめ、壁に寄りかかってウトウトして


いたらしい。気付くと瞼が腫れている様な気がする。


(あ、淳平君の事考えて泣きながら寝ちゃったんだ。。。)


ピンポーン。ピンポーン。


呼び鈴が鳴る。今度は夢の中ではない。繰り返し鳴るという事は、


母は今、いないのだろう。


(ママいないのかな。。。こんな顔で人前に出るのイヤだな。。)


更に2度、3度チャイムが鳴る。


(しょうがないな。。インターホン越しに相手をすればいいか。)


つかさは、ベッドから立ち上がり、パジャマの上に白いニットのカ


ーディガンを羽織る。寝不足と精神的な疲れのせいか足元が少しふ


らつく。部屋を出て階段の手摺で軽く体を支えながらインターホン


のあるキッチンへと向かう。


「はい。お待たせしました。どちら様でしょうか?」


インターホンのボタンを押しながら問いかける。


「あ、俺、いや、僕、真中と申しますが、つかささんいらっしゃい


ますか?」


「!」


つかさは玄関に向けて走り出した。廊下で肩に羽織ったカーディガ


ンが落ちる。インターホンから聴こえたのは想い焦がれる愛しい人


の声だ。つかさは淳平の待つ玄関へ無意識のうちに走り出してい


た。玄関までの距離がこんなに長く感じた事が今迄あっただろう


か。


(淳平君!淳平君!!淳平君!!!)


鍵を開けるのも、もどかしく玄関を開ける。すると、そこには愛し


い。。。愛しい人の顔があった。いきなり開いた玄関に少しびっく


りしたような顔、何時もの淳平の顔だ。


「淳平君。。。」


これだけ言葉にすると、つかさの瞳から涙が零れ落ちる。淳平の方


も、いきなり出てきたつかさに言葉を失っていた。そして、つかさ


の零した涙の真意も汲めないまま、また、つかさを傷付けたと、胸


を痛める。


「西野、俺。。。」


泣き出しそうな声で淳平が言葉を発する。それをつかさが遮るよう


に淳平に抱きつく。


「淳平君。。。嬉しい。。。本物の淳平君だ。。。」


淳平の背中に回した腕に力を入れ、きつく抱き付く。まるでそこに


居る愛しい人の体を確かめる様に。


「西野。。。俺のせいで、本当にゴメン。。。」


淳平の中につかさをいとおしく思う気持ちが込み上げ、つかさを抱


き締める。


(西野の体、こんなに細かったんだ。。。)


淳平に抱き締められたつかさが呟く。


「嬉しい。。淳平君に初めて抱き締めてもらえた。。。」


「こうなるのは、覚悟してたの。。。でも、でも。。。」


淳平の腕の中でつかさは涙で声を震わせる。


「怖かったんだよぉ。。。淳平君に逢いたくて。。傍に居て欲しく


て。。ずっと、ずっと、淳平君の名前呼んでたんだよぉ。。」


泣きながらつかさは自らの腕に更に力を込める。


「俺、西野に辛い思いばかりさせて。。。ゴメン。」


「ううん。そんな事無い。そんな事無いよ、淳平君。。。」


淳平の胸元がつかさの涙で濡れてゆく。


「西野、ごめん。ひょっとして、寝てた?」


あまりの嬉しさに我を忘れていたつかさが、淳平の問いに自分を思


い出す。ここが、外で玄関先だという事と、自分がパジャマのまま


であるという事。


「キャッ!あたし、なんでこんな格好で。。。」


途端に恥ずかしさが込み上げてくる。涙で濡れる顔を淳平に向け、


つかさは言う。


「なんか、ちょっと恥ずかしいね。。」


抱き締めていた手を解き、つかさは淳平の腕を取る。


「とにかく上がって、淳平君。」


「あ、あぁ。でも、俺、西野の親に合わす顔ないし。。」


俯く淳平につかさは言葉を継ぐ。


「今、誰も居ないの。それに、昼間はママしか居ないし。ママは淳


平君の事、知ってるし。。。」


「し、知ってるって?」


淳平は驚いたようにつかさに問う。つかさは、顔を赤くして淳平か


ら視線を外す。


「今までの事、全部。。。あたしが淳平君の事どう思ってるのか


も。。。」


そして、少し拗ねた表情を見せ、


「淳平君の煮え切らない態度もね!」


痛い所を突かれた淳平は、つかさに腕を引かれて玄関の中に入って


いく。淳平の顔を見れた事でつかさも何時もの顔を取り戻してい


た。


「さぁ、遠慮しないで上がって、淳平君。」


つかさの涙は既に止まっていた。笑顔で淳平の腕を引っ張る。


「じ、じゃぁ、お、お邪魔します。。」


淳平は少し、緊張気味にそう言い、靴を脱ぐ。


「淳平君、喉渇いてるでしょ?何か飲み物持ってくるから、あたし


の部屋で待ってて。」


つかさは微笑みながら、キッチンの方へ歩いていく。


(淳平君が来てくれた!あたしの気持ちが通じたんだ。。。)


つかさの後姿を見送る淳平には、この時のつかさの満面の笑みは見


えてはいなかった。






つかさの部屋に入った淳平は、所在なさ気に部屋の真ん中で正座を


していた。頭の中には自分のせいでつかさが今の状況に陥った事に


対する自責の念が込み上げてくる。


(俺、いつも西野を泣かせてばかりだな。。。)


(それなのに、逢えて嬉しいって。。。西野。。。)


(西野の力になりたい。西野を守ってやりたい。。。)


そんな事を考えていると、ドアが開く。


「お待たせ、淳平君。紅茶しかなかったけど、いいかな?」


つかさは、二人分のティーセットとケーキを持って部屋に入ってき


た。


「あ、西野、そんなに気を使わなくてもいいよ。」


顔を上げて淳平が言う。


「だって淳平君、すごい汗かいてたんだもん。どこから走ってきた


の?タオル出すね。後で着替えも出してあげる。」


ティーセットとケーキをテーブルに置いたつかさは、箪笥を開けて


タオルを取り出し淳平に渡す。


「何処からって。。。学校からずっと。。。」


タオルを受け取りながら淳平が答える。


「少しでも早く西野の顔が見たくて。。。」


恥ずかしそうに淳平は下を向く。


「淳平君。。。」


つかさも気恥ずかしさに下を向いてしまう。一瞬の沈黙を破ったの


は、つかさの笑顔だった。


「さ、冷めないうちに飲んじゃお♪」




淳平はつかさにトモコから聞いた話をするべきかどうか迷ってい


た。つかさは自分の退学がほぼ、決まってしまった事をまだ、知ら


ないはずだ。


(俺からこんな大事な事を話してもいいのか?。。。)


「。。。いくん?淳平君?」


つかさの声に我に返ると、つかさは身を乗り出し淳平の顔を覗き込


んでいる。頬を膨らませ、少しばかり怒っている。


「淳平君、あたしの話、聞いてる?また、違う事考えてただろ!」


「あ、うっ。。。ゴメン。」


「もう、いいよ。あたしだけはしゃいで何か馬鹿みたい。」


(完全に拗ねちゃったな。。。俺ってこんな事ばっかりやってる


な。。。)


淳平は肩を落とす。と、つかさは淳平の顔を下から覗き込み、ニッ


コリ笑う。


「でも、あたしに逢いに来てくれたから許してあげる!」


その笑顔を見て、淳平は、決意する。


(俺はこの笑顔を守ってやりたい。。。)


「あのな、西野、さっきトモコちゃんと会ったんだ。。。」


淳平はトモコから聞いた事を全て話す事に決めた。






「。。。そっかぁ。。。あたし、退学になっちゃうのかぁ。。。」


つかさは、驚いた様子は無かったが、少し、悲しげな表情を見せ


、飲みかけのカップをテーブルに置いた。


「俺のせいで。。。謝って済む事じゃないけど、俺があんなこと言


わなければ。。。本当にゴメン。」


淳平は頭を下げる。


「何で淳平君が謝るの?あたし淳平君のせいなんて少しも思ってな


いよ。」


「バレたら、こうなるのは覚悟してたし、淳平君が一緒に居ようっ

て言ってくれた事がすごく嬉しかった。」


「何より、あたしが淳平君と一緒に居たかったの。だから。。。後


悔なんかしてないよ!」


つかさは淳平の目を見て笑顔で答えた。


「ただね。。トモコ達と会えなくなるのが少し寂しいかな。。。」


今迄のつかさなら、最後の言葉は淳平には告げずに自分の胸の内に


仕舞っておいたかもしれない。しかし、自分の想いが淳平に通じた


と思える今は、不思議と自分の胸の内を全てさらけ出していた。


暫しの静寂が部屋を包む。淳平はつかさの顔をじっと見ていた。


(俺も西野に自分の気持ちを伝えなきゃ。。。)


と、つかさが何かを決意したように呟く。


「よし、決めた。」


この時、淳平にはつかさが一瞬、悪戯っぽく笑ったように見えた。


「西野、どうしたの?」


淳平が問う。


つかさは慌てたように顔の前で手を振り答える。


「な、何でもないよ。退学になるなら、今後の事を親と相談しなき


ゃなって思ったの。」


つかさの慌て振りを淳平は不思議に思ったが、あえてそれ以上は聞


かない事にした。


「でも、トモコ達が停学にならなくて良かったぁ。それだけが心配


だったんだぁ。」


笑顔を見せるつかさに淳平の胸は締め付けられる。


(西野。。。自分の事でも不安や心配で一杯なのに、友達の事まで


心配するのか。。。)


(俺は西野を絶対独りにしない!西野の支えになりたい!)


(ここで、俺の気持ちを伝えなきゃ、いつ、伝えるんだ。あれこれ


考えてちゃダメだ。逃げてちゃダメだ!)


意を決して淳平は言葉を口にする。


「西野、俺。。。」


淳平の言葉をつかさが遮る。


「淳平君、あのね、お願いがあるの。。。いいかな?」


淳平は続きの言葉を飲み込みつかさに答える。


「俺で出来る事なら、何でもいいよ。言ってみて?」


つかさは、顔を赤らめ、照れ臭そうに下を向き、モジモジしてい


る。


「ほら、西野。言ってみて。」


淳平に促されてつかさは恥ずかしそうに言う。


「あ、あのね、あたし、昨日から殆ど寝て無くてね。。。」


「でも、淳平君の顔見たら安心したのかな。。。?少し眠くなって


きたの。。。それでね。。。」


「うん。それで?」


淳平はつかさの頼みを察する事が出来ずに、更につかさの言葉を促


す。


「あたしが眠るまで、手を繋いでて欲しいの。。。出来れば目を覚


ますまで傍に居て欲しい。。。」


つかさは、両手で顔を隠す素振りを見せたが、耳まで真っ赤になっ


ているので、余り意味を成さない。


「あ、少し寝たらすぐに起きると思うけど、遅くなる様なら、あた


し寝てても、そのまま帰ってもらってもいいから!」


顔を隠したまま、つかさは言葉を継いだ。


そんなつかさに愛おしさが込み上げてくる。


「それ位、全然かまわないよ。俺、西野が目を覚ますまで、傍に居


るよ。」


淳平は優しい笑顔でつかさに答える。


「ゴメンね淳平君。わがまま言って。。。」


ベッドに入り、淳平の手を握り締めたつかさが詫びる。


「これ位、わがままの内には入らないよ。」


つかさの手を握り返しながら淳平は微笑みながら答える。


「淳平君の手、暖かくて、気持ち。。い。。。い。。。」


淳平と手を繋いでいる事に安心したのか、つかさは直ぐに眠りに落


ちた。先程までの不安に涙を流す寝顔とは違い、微笑んでいるとも


見えるような安らかな寝顔だった。


(結局、俺の気持ちは言いそびれちゃったな。。。)


(西野が目を覚ましたら、今度こそ、ちゃんと伝えよう。。)


つかさの寝顔を見て自然に笑みが零れてくる淳平が居た。


暫くして、下のほうで玄関を開ける物音がした。


「つかさちゃん、ただいまー。」


つかさの母親らしき女性の声だった。






続く。。。


[No.1259] 2006/02/21(Tue) 12:10:14
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はなさないから7 (No.1259への返信 / 11階層) - くろろ




「つかさちゃん、お客様?」


つかさの母の声が玄関から聞こえてくる。淳平は一瞬ドアの方へと


視線を泳がせ、再びつかさへと戻す。つかさといえば、淳平の手を


握り締めたまま、微笑ともいえる寝顔を見せている。


「つかさちゃん、お友達来てるの?」


声の主は、玄関から階段を登ってくる。


(西野の手、どうしよう。。。)


淳平は、しっかりとつかさに握り締められた自らの手を見つめ、思


案する。つかさの親に対してはきちんとした挨拶をしなければいけ


ないと思いつつも、どうしてもつかさの手を解く事を躊躇ってい


た。


(まぁ、しょうがないか。。。お母さんは俺の事知ってるって言っ


てたし、大丈夫だろう。)


(きちんとした挨拶は、帰る時にやっておこう。。。)


声の主は、既にドアの前まで来ていた。


「つかさちゃん、お友達?入るわよ?」


ドアが開く。


「あっ。。」


声の主は少し驚いたような声を上げる。つかさと同じ髪の色、顔立


ちは瓜二つとまでは言わないが、良く似ている。間違いなくつかさ


の母だ。


(西野ってお母さん似なんだな。。。)


「は、はじめまして、僕、真中といいます。こんな格好で失礼しま


す。」


つかさに手を握られている為、上半身だけをドアの方へと向け、淳


平は挨拶をする。つかさの母は、淳平の不自然な姿勢に一瞬、訝し


げな表情を浮かべるが、つかさの手が淳平の手をしっかりと握り締


めているのを見て取ると、優しい表情に戻る。


「初めまして。貴方が淳平君ね?つかさの母です。」


つかさの母が笑顔を見せてくれた事で淳平の緊張が幾分解れる。


「貴方の話は、つかさから色々聞かせてもらいました。」


つかさの母は、笑みを浮かべながら淳平に言う。


「は、はい。。。。すみません。。。」


いつもの謝り癖なのか、淳平の答えは会話として成立していない。


「つかさ、よく寝てる?貴方の顔を見て安心したのかしらね?昨日


から寝てないみたいだから心配していたのよ。」


ベッドに近付いて来た母は、つかさの顔を覗き込みながら言う。


「えぇ。まだ、1時間ほどですけど、良く寝てるみたいです。」


淳平はつかさの寝顔を見つめたまま答える。


「つかさの父が帰ってくる前に貴方と少しお話がしたいんだけど、


いいかしら?」


今迄の笑顔から一変した、つかさの母の真剣な表情に淳平の緊張が


再び高まる。つかさの母は、指を絡め、しっかりと握られた二人の


手を見て、軽い溜息をつきながら言葉を継ぐ。


「これじゃ、下に行って話をって訳には行かないみたいね。」


「すみません。。。」


淳平は俯き、頭を掻く。


「いいわ。このまま少し、お話しましょう。」


「今回の件、貴方の口から事の経緯を聞いておきたいんだけど、い


いかしら?」






淳平は、今回の京都での出来事。。。綾との事、それをつかさに見


られた事、メールの事、入替の事、全てを正直に話した。


「そう。。二人の話が同じで安心したわ。つかさがまだ、話してく


れていない事があるかもしれないって、少し心配してたの。」


つかさの母は、安堵の表情を見せる。一瞬の沈黙の後、つかさの母


の表情が真剣な。。。険しいといった方がいいかもしれない。。。


ものに変わり淳平に問う。


「淳平君。貴方の正直な気持ちを教えてくれないかしら?つかさの


気持ち、一人の女としては十分解るつもり、応援もしてあげたい。


でも、母親としては違う。この子に辛い思いをさせたくないの。貴


方の答えによっては今後、つかさに貴方を会わせる訳には行かな


い。。。」


「何か矛盾していると思うかもしれないけれど、それが母親な


の。」


つかさの母の言葉に淳平は一瞬、息を詰まらせる。


(俺の気持ちは、もう決まってる。西野の笑顔を守りたいんだ。)


「僕は、西野の。。つかささんの笑顔をずっと見ていたいんです。


 今回の事は、全て、僕の責任で。。。謝ってすむ事ではないのは


解っています。それでも、それでも、つかささんの傍に居たいんで


す。周りから見れば頼りないかも知れないけど、つかささんの笑顔


を守りたいんです。御願いします。つかささんの傍にいさせてくだ


さい!」


泣き出しそうな、懇願するような顔で、つかさの母の顔を見る淳


平。つかさの母は、淳平の目を見ながら更に問いかける。


「それが、貴方の正直な気持ちなのね?つかさに対する責任とか、


同情ではないのね?もし、そうなら、つかさは今以上に辛い思いを


する事になるのよ?」


つかさの母の言葉に淳平は正直、頭を殴られる様なショックを受け


る。


(何故、守りたいのか?。。。そこまで考えてなかった。。。)


(西野の笑顔をずっと見ていたい。。。それだけしか考えてなかっ


た。。。)


つかさの笑顔を守るという事は、つかさだけを見るという事、すな


わち、さつきの想いを拒絶し、自らの綾に対する想いを断ち切る事


を意味するのだという事を今更ながら思い知らされる。


(西野に対する責任感が無いと言えば嘘になるかもしれない。。。


でも、今は、西野の傍にいてやりたい。。。)


「僕は、つかささんの傍にいて、つかささんの笑顔を大切にしてい


きたいです。」


こう言葉を発した時、淳平の脳裏に綾とさつきの姿が浮かんだのは


彼自身しか知らない。。。


「わかったわ。。。主人の手前も有るから、表立っての応援は出来


ないかもしれないけれど、出来るだけの事はさせてもらいます。


つかさの事、御願いね。」


つかさの母は、淳平に頭を下げる。


「は、はい。こちらこそ、よろしく御願いします。」


淳平は、恐縮し何度も頭を下げる。と、つかさの母は、何かを思い


出した様に、つかさと淳平の繋がれた手を見る。


「つかさの手、外せる?もうすぐ主人が帰ってくるけど、今日の所


は主人とは顔を会わせない方がいいわね。」


「なんとか、やってみます。」


淳平は自らの指に絡められたつかさの指をつかさを起こさぬ様にそ


っと外す。


「あっ、僕、つかささんが起きるまで傍にいるって約束してたんで


すけど。。。」


つかさの手を解き、布団の中に戻しながら淳平はつかさの母を見


る。つかさの母は微笑みながら淳平に答える。


「主人と鉢合わせになる訳にも行かないし、今日の所はお帰りなさ


い。つかさには、私から謝っておきます。目が覚めたら貴方がいな


くて、怒るでしょうけどね。」


つかさの母は、くすっと笑う。


「それじゃ、失礼します。」


玄関口でつかさの母に挨拶をして、淳平は帰路に着く。先程までの


緊張が抜けないまま淳平は大きく息を吐く。


(これから、西野の支えにならなくちゃ。。。)


綾とさつきの姿が頭に浮かぶのを必死で押さえつける淳平が居た。




続く。。。


[No.1264] 2006/02/28(Tue) 02:27:07
galaxy.aitai.ne.jp
Re: (No Subject) (No.1242への返信 / 1階層) - 名無しのごん

くろろさん初めましてo(^▽^)o
小説を読ましていただきました!とても続きが気になるので早く読みたいです!!


[No.1283] 2006/03/19(Sun) 06:14:36
wbcc3s10.ezweb.ne.jp
はなさないから8 (No.1264への返信 / 12階層) - くろろ




淳平は家路に着きながら今日一日の出来事を思い出していた。


ともこに聞かされた、つかさの退学の件。つかさの少しやつれた


顔。つかさの嬉しそうな笑顔。つかさの母の言葉。どれを取って


も、自宅までの短い時間で考えをまとめるには重過ぎる内容だ。


淳平は天を仰ぎ、溜息をつく。


(なんで、こんな事になっちゃったんだろう。。。)


(俺は、ただ、西野と一緒に居たかっただけなのに。。。西野だっ


て、俺と居たかっただけなのに。。。)


淳平がハッとした表情で頭を振る。


(こんな事、考えちゃダメだ。状況は変えようが無いんだから、こ


れからどうするかを考えなきゃ。今まで西野の前向きな考えに助け


られてきたんだ、これからは俺が西野の支えになるんだ。)


(そう言えば、西野に俺の気持ち言いそびれちゃったな。。。俺の


気持ち伝えたら、西野、喜んでくれるかな?今日みたいな笑顔、見


せてくれるかな。。。)


そんな事を考えているうちに自宅のマンションが見えてくる。歩い


ても15分。走れば5分チョッとの距離だ。ここで、淳平の足が止


まる。淳平の頭の中には、今迄とは違う考えが巡る。


(やっぱり、うちの親には西野の事、話とかないと不味いよな


ぁ。。俺のせいで西野、桜学、退学になる訳だし。。どうやって切


り出そう。。。)


ここで再び、淳平は頭を振る。


(また、こんな事考えてる。たった今、俺のせいだって自分で認め


たばかりじゃないか!西野の方がもっと辛いのに、親に怒られたっ


て自業自得じゃないか!こんな事じゃ、西野の支えになんてなれや


しない、しっかりしろ、真中淳平!)


再び、淳平は歩き出す。普段の淳平を知る人が今の顔付きを見た


ら、あまりの精悍さに驚く事だろう。淳平は、自宅マンションのエ


ントランスを抜け、階段を上がる。ふと見ると、玄関の前に人影が


見える。その人物もこちらの足音に気付いたのか、こちらに走り寄


ってくる。


「ジュンペー!」


声の主は唯だった。唯は、淳平の元まで走ってくると、淳平の腕を


掴み階段まで引き戻す。


「お、おい唯、一体なんだよ?」


淳平の腕を掴んだまま俯いている唯に声をかける。俯いたまま唯は


言葉を発する。


「ジュンペー。正直に答えて。」


ここで、初めて唯は顔を上げた。瞳には今にも溢れ出さんばかりの


涙が見える。唯は今にも泣き出しそうな顔で、淳平の目をまっすぐ


に見て更に言葉を継ぐ。


「ジュンペー、西野さんに何があったか知ってるんでしょ?西野さ


ん、無期停学ってどういう事なの!学校じゃ無責任な噂が流れてる


し!ねぇ、知ってるんでしょ、ジュンペー!」


とうとう、唯は泣き出してしまった。それでも、そのまま、淳平に


詰め寄る。唯にとってつかさは、まるで、姉のような存在だったの


かもしれない。迷子になり、心細い時に助けられ、親元を離れ、桜


学に入学してからは、同学年の気の置けない友達が出来るまでは、


唯一の知り合いだったのだ。つかさの方も淳平の妹分的な唯に色々


気を配っていた事は、想像に難くない。姉のように慕う上級生は、


学園内でも知名度bPの美少女。つかさと知り合いと言うだけで、


新しいクラスメイトとの会話のネタになった事だろう。そのつかさ


が無期停学になり、校内では無責任な噂が飛び交っている。唯にし


てみれば、とても冷静でいられる状況では無いのだろう。


「ジュンペー、修学旅行の時にうちの学校のホテル唯に訊いたよ


ね?それと何か関係があるんじゃないの?西野さんの停学、ひょっ


として唯のせいなの?」


大粒の涙を零しながら唯は淳平に詰め寄る。淳平は、唯の目を見て


優しく答える。


「西野の停学は唯のせいなんかじゃないよ。」


唯は、尚も食い下がる。


「じゃぁ、何が原因なの?知ってるんでしょ?ジュンペー。」


少しの沈黙の後、また、淳平は優しく答える。


「何が原因かは、もう少し待ってくれないか。落ち着いたら必ず教


えるから。」


淳平は、唯の目を見て更に言葉を継ぐ。


「絶対に、唯のせいなんかじゃないから。」


(そう、唯のせいじゃない。俺のせい。。。)


泣きじゃくる唯を見て淳平は話題を変える。


「唯、おまえ、学校からそのまま来たんじゃないのか?制服のまま


だし。一度帰って着替えて来いよ。今夜はうちで晩飯食ってけ


よ。」


両親との西野の事に付いての話を唯には聞かせたくは無かった。


修学旅行の時の事が原因だと解れば、唯は責任を感じてしまうかも


しれない。調べてくれるように無理矢理頼んだのは自分だし、唯が


責任を感じるような事は避けたかったのだ。一旦着替えに帰る唯の


背中を見送った淳平は大きく深呼吸をして、玄関のドアノブにてを


掛ける。


「ただいま。」





続く


[No.1305] 2006/06/14(Wed) 07:30:59
galaxy.aitai.ne.jp
はなさないから9 (No.1305への返信 / 13階層) - SSスレからの転載・たゆ代行書き込み

はなさないから9


淳平が玄関に入ると、母が奥からやってくる。母の顔を見た瞬間、胸に言いようのない


不安がよぎる。その不安を無理やり押さえ込み、淳平は口を開く。


「おふくろ、話があるんだけど。。。」


意を決したように母に告げる。


「あたしも話があるから、奥に来なさい。」


母は、淳平に静かに告げた。声は静かだが、顔付きは険しい。


母の険しい表情の理由が判らないまま後に続く。


「淳平、座りなさい。」


居間のテーブルを挟み、母と向かい合う。淳平は何から話したものかと


逡巡する。すると、母の方から口を開く。


「淳平、真面目な話があるの。」


険しい表情は崩れていない。普段と違う母の表情に先ほど押さえ込んだ不安が


再び頭をもたげる。


「さっき、西野さんのお母さんから電話があったの。あんた、つかさちゃんに


 何したの?大まかな所は、あちらのお母さんから聞いたけど、あんたの口から


 詳しい所を説明して頂戴。」


険しい表情もそのままに、淡々とした口調で言葉を継ぐ母。その口調が、事の


重大さを示唆している様で淳平の胸に圧し掛かる。


「俺も、その事で話さなきゃいけない事があるんだ。」


淳平は京都での出来事を母に語り始めた。テーブルの一点を見つめ、一切の


誇張もなく、唯、事実のみを淡々と語っていく。


京都での出来事を語り終えた後に、俯いていた顔を上げ、更に言葉を継いで行く。


「今日、学校で西野の友達と会った。西野、退学になるらしいんだ。。。」


母は、淳平の言葉を聞き終えると、小さくため息をひとつ付き、口を開く。


「なるほどね。。。で、これから、どうするつもりなの?」


表情は険しいままだ。淳平の目を見据え、その真意を探っている様にも見える。


淳平は母の視線を真っ向から受け止めて答える。


「俺は、西野の力になりたい。さっき西野に会ってきた。自分が、あんな


 状況なのに、俺の顔見て笑ってくれるんだ。側に居て、あの笑顔を守って


 いきたいんだ!」


母は、淳平の言葉を聞き、また、ひとつため息を付く。


「あんたの意気込みは判ったけど、あたしが聞きたいのはそんな事じゃない。


 守りたいって言うけど、具体的にどうするの?世の中、あんたが思ってるほど


 甘いもんじゃない。高校退学になったって事実は、つかさちゃんに一生付いて


 回るのよ?それについて、あんたは、つかさちゃんを、どう守るって言うの?」


母の言葉に淳平は絶句する。確かに、つかさを守りたいと強く思う淳平だったが


具体的にと言われると何も考えていなかったのが現実だった。母は、更に淳平に


向かって言葉を続ける。


「あちらのお母さんには、二人の責任だから淳平だけを叱らないで欲しいって


 言われたけど、あんたの話聞いたら、どう考えてもあんたが悪い。その状況で


 なら、あんたの言葉につかさちゃんが嫌って言えないのは少し考えたら判った筈。


 あんたの思慮の足りなさが、今の状況に繋がってるの。しかも、守りたいって


 言ってる割には、具体的なことは何一つ考えていない。もう一度言うけど、


 あんたが思ってるほど世間は甘くないわよ?」


母の言葉は、未だ実社会に出ていない息子の甘い考えを容赦なく突いていく。


今までの淳平ならここで言葉に詰まり、終わっていたのだろうが、尚も


言葉を返していく。つかさを守っていきたいと思う一心で。。。


「確かに、俺は社会の厳しさなんか判らないガキだけど、西野を守る為なら

 何だってやってみせる。退学のレッテルが一生付いて回るのなら、俺は
 西野の側に一生居て、あいつを守る。」


淳平は拳を硬く握り締める。。。





同時刻:西野邸


「。。。。って、思ってるんだけど、どうかな?」


母に自らの考えを打ち明けるつかさの顔には、母が出がけに見た疲れ切った


娘の表情は無かった。普段の明るい表情に、いや、それどころか幼子が何か


悪戯を画策しているかのような、ワクワクしているかの様にさえ感じられた。


(これが、淳平君効果か。。。やっぱり、親より好きな男の子の方が効果大


 か。。。ちょっと、複雑よねぇ。。)


ほんの数時間の間の娘の変わりように、思わず苦笑いがこぼれる。淳平が


つかさの家を出てから30分ほどしてから、つかさは目を覚ました。目を覚


ました時、淳平が居ないことに気づいたつかさが側に居た母に泣きそうな顔


を向けたが、母に、父親とかち合う前に帰したと聞くと、安堵の表情を見せた。


「よかった。。。淳平君が来てくれたの夢じゃなかったんだ。。。」


愛しい人に自分の気持ちが通じて来てくれた。それが夢ではなかった。思わず


涙がこぼれそうになる。母に淳平の印象を聞いてみる。


「まぁまぁかな?思っていたよりは、しっかりしてたわね。」


笑顔で答える母の言葉を聴いて、自分が褒められた様で少し照れ臭かった。


そんなやり取りの後、つかさは、淳平と一緒に居たときに決めた、自らの


考えを母に打ち明けてみた。


「そう、出来るに越したことはないけど、彼、心配するわよ?」





同時刻:北大路邸





「ただいまー。」


さつきが玄関に入るや否や、弟が駆け寄ってくる。


「ねぇちゃん、腹へったー!」


時計を見やると、母がパートから間もなく帰ってくる時間だ。


「もうすぐ母さん帰ってくるから、それまで待ってな。今食べると晩御飯入ら


 なくなるよ!」


弟に言い放つと自分の部屋に向かい、鞄を放り出し、着替え始める。赤いトレー


ナーに袖を通しながら、ふと、その手が止まる。今日、帰り際の事が思い出される。


(西野さん、何があったんだろう。。。)


(真中、すごく心配してた。。。)


思わず止まってしまった手を再び動かし始める。


(あたしに何かあったら、真中、あんなに心配してくれるかな?)


(これ以上、真中と西野さんの距離が近くなったら嫌だな。。。)


漠然とそんな事を考えていたさつきが、ふと、我に返ったかのようにハッとして


複雑な思いに顔が歪む。


(あたし、何考えてんだろ。。。あたしってこんな嫌な性格してたっけ。。。)


思わず自嘲気味な苦笑いがこぼれる。





つづく






このSSはSS投稿スレッドに投稿されたものです。あくまで保守をかねた仮処置です。事後報告となりますしそのような趣旨ですので作者様の意向に全て沿います。管理人のほうに連絡くださいませ。
手直しされたい場合はパスをお渡しいたします。以後良しなによろしくお願いいたします。


[No.1341] 2007/03/27(Tue) 12:08:05
KD059135246085.ppp.dion.ne.jp
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