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No.1628に関するツリー

   はじめに - takaci - 2012/01/21(Sat) 19:59:37 [No.1628]
10years プロローグ - takaci - 2012/01/21(Sat) 20:05:34 [No.1629]
10years-01 - takaci - 2012/01/28(Sat) 19:28:38 [No.1630]
10years-02 - takaci - 2012/02/14(Tue) 19:58:46 [No.1632]
10years-03 - takaci - 2012/05/12(Sat) 22:15:27 [No.1638]
10years-04 - takaci - 2012/07/27(Fri) 19:52:06 [No.1641]



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はじめに (親記事) - takaci

お久しぶりでございます。
最近ではいろんな漫画やアニメを観て楽しんでいて、全然書いていません。
でも今日ふと調べてみたら、いちご100%連載開始から今年でちょうど10年なんですよね。
この作品はいろんな意味で私に影響を与えました。
そこで久しぶりに新しいものを書いてみたい気持ちになりました。
とは言っても今まで描いてきたものと同じようなパターンですが。
ストーリーもそんなに長くする予定はありません。
不定期更新になります。
また駄作になるとは思いますが、お暇なときに目を通していただければ幸いです。
ではまたよろしくお願いします。


[No.1628] 2012/01/21(Sat) 19:59:37
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10years プロローグ (No.1628への返信 / 1階層) - takaci

201X年9月16日。





夜のレストラン。





西野つかさ26回目の誕生日。





「つかさ、誕生日おめでとう」





真中淳平は花束をつかさに差し出した。





「淳平くんありがとう」





満面の笑顔で受け取るつかさ。





そして花束に添えられているメッセージカードを手に取った。





封を開け、中身を取り出す。










「えっ?」





驚く。





そのまま向かいに座る淳平に目を向ける。










「ええっ!?」





さらに驚く。










淳平はリングケースを開け、指輪を差し出していた。










「あれから10年。節目ってわけじゃないけど、いい機会だと思うんだ」





少し緊張気味の笑顔を見せる淳平。





「もう・・・淳平くんの・・・バカ」





つかさの声は涙に詰まっていた。










「ダメ・・・かな?」





「ダメじゃないけど・・・けどこんなプロポーズってありなの?淳平くん卑怯だよ」





「それは自覚してる。けど口にすると緊張して噛みそうな気がしたから、それってかっこ悪いだろ?」





「まあ、淳平くんならそうなるかもね。ちょっと納得いかないところもあるけど・・・ありがとう」





幸せいっぱいの笑みを見せるつかさ。










メッセージカードには、










『結婚してください』










という淳平手書きのメッセージのみ記されていた。





















「あれから10年かあ。もうそんなになるんだね。本当についこの間のような感じがするよ」





つかさは当時を懐かしむ。





「あれがきっかけで、俺もつかさも変わったよな」





「淳平くんは本当に変わったよね。あれが無かったら今頃は映画監督になれていたんじゃないかな?」





「そうかもしれない。でも後悔はしていない。あの時、俺はああしたかった。結果として高校中退して大検取ってって少し遠回りの人生になったけど、それはそれでよかったと思ってるよ」






「今は普通のサラリーマンでも満足?」





「映画監督の夢を諦めたことに未練が全くないと言えば嘘になる。でもそれ以上に優先したかったことがあるんだ」





「それってなに?」





「・・・つかさと幸せな人生を送ること」





「・・・もう、今日の淳平くん変だよ・・・なんか妙に男らしいよ・・・」





また涙声になるつかさ。





「全てが満たされた人生なんて、一般人には無理だと思う。たとえ夢を諦めても、それで得られる幸せがあるならそうするよ」










「淳平くん、本当にあたしでいいの?」










「つかさ以外はありえないよ。あの時は本当に辛い思いをさせた。悪かったと思ってる。こんな風にプロポーズなんて出来る立場じゃないかもしれない。でも、それでも俺はつかさと一緒にいたい」












「あれはもういいよ。あたし、東城さんには一生敵わないと思ってる。東城さんは淳平くんの中でとっても大きな存在。でも淳平くんはあたしを選んでくれた。それだけで・・・本当に幸せだよ」












「つかさ・・・ありがとう」










屈託の無い笑顔を見せる若いふたりの門出だった。


[No.1629] 2012/01/21(Sat) 20:05:34
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10years-01 (No.1629への返信 / 2階層) - takaci

200X年4月中旬。





中上遼はクラスの扉を開けた。





「おーっす」





「よう中上、今朝も仲いいな。うらやましい限りだ」





親友の小野大樹が冷やかす。





「それを言うなら家事全般自分でやってみろ。ひとりだとマジで大変だぞ」





「でも西島が大半やってくれるんだろ?」





「共同作業だよ小野くん、でもまあ遼はいろいろ忙しいからね」





遼の隣で西島佳奈がフォローを入れた。











中上遼と西島佳奈は似たような境遇だった。





親同士が旧友で、幼馴染のふたり。





どちらも家庭が複雑で、遼は小さい頃に両親が離婚して父親に引き取られた。





佳奈の母親は未婚の母で、その母が去年に不慮の事故で他界。





身寄りの無い佳奈を遼の父親が引き取った。





そしてその父が仕事の関係で1月からアメリカに転勤。





結果的に中上の家で遼と佳奈の二人暮らしが始まった。





もともと仲が良く、年頃のふたり。





自然と付き合うようになった。





親が不在なのでいろいろ苦労はあるが、一緒に笑い、時には喧嘩し、同じ時を過ごしている。











「ところで中上よ、お前部活は決まったか?」





大樹が尋ねる。





「ああ、技術部の先輩からスカウトされてるんだ。なんかラジコンソーラーカーのレースに毎年参加してて、それに協力して欲しいんだとよ」






「そうか。中上のラジコンの腕はプロ級だもんなあ」





「それは過大評価だよ。俺以上に上手い奴はゴロゴロ居るよ」





「でも親父縛りが無ければもっと成績がいいんじゃないのか?」





「まあ・・・な」





遼は苦笑いを浮かべた。










父親の趣味の影響で、遼は幼い頃からラジコンのレースに参加していた。





特に父親ののめり込みは病気レベルで、市販車には満足せず、自ら設計、製作したラジコンカーを走らせていた。





父親は造るのがメインで、息子は走行担当。





だか一個人レベルでメーカーが作る高性能車を上回るのはほぼ不可能に近い。





それが分かっていても父親の情熱は一向に冷めず、日夜ラジコンの改良に勤しんでいる。





遼も子供の頃は走行オンリーだったが、中学の頃あたりからセッティングや技術製作レベルのスキルが上昇し、簡単な部品を作れるレベルにまでなっている。






現在は父親がアメリカで図面を引き、それを遼が製作して改良を続けている。





ラジコンレース活動には車が必要不可欠だが、近くに住む父親の友人が負けす劣らずラジコンバカで、遼と一緒にサーキットに足を運んでいる。












「お父さんの情熱は本物なんだよ。本当に熱い人だからね」





「佳奈、お前がそんな風に親父の見方をするから調子に乗るんだぞ。一個人がメーカーに敵うわけないだろ?」





呆れ気味の遼。





「でも遼だってなんだかんだでラジコン楽しんでるじゃん。自分のお金は使わずにさ」





「本音を言えば自分の金でメーカー品を買って活動したいよ。でもそんなことしたらあの親父は生活費ストップくらいしそうだから出来ん」






「まあ家計は安心してよ。あたしがしっかり管理するから」





笑顔の佳奈。





「なんかこうして見ると、お前ら新婚夫婦みたいだな」





大樹がからかう。





「それ近所のおばさんからも言われるよね」





笑顔の佳奈。





「まあ嬉しさ半分、情けなさ半分かな。そう言われるなら俺が生活費稼ぎたいよな」





遼は複雑な笑顔。





「それってある意味贅沢な悩みだよな。彼女居て一緒に生活してるから出てくる悩みだろ」





大樹は一転して不機嫌そうな顔を見せる。





「小野はハードルが高すぎるんだよ」





遼がそう漏らすと、大樹に小声で耳打ちした。





「お前はマジで外村狙ってんのか?」





「そりゃそうだ。ウチのクラスでは、いや、ウチの学年じゃトップの美人だぞ。狙ってる奴はうじゃうじゃ居るぞ」





目を光らせる大樹。





「でも外村って性格キツそうだよなあ。おまけに兄貴がしっかりガードしてるらしいぞ」





「それを何とか打ち破って見せるさ。聞いた話じゃ映研入るみたいだから俺も入る。それからだな」





4月はこんな会話をしていた。
















そして6月。





遼は大樹と机を並べて弁当箱を突いていた。





「毎日愛妻弁当ってわけじゃないんだよな?」





「弁当は交代。今日は俺が作った」





「ぶっちゃけ西島の料理の腕ってどうなん?」





「比較対象を知らないからなんとも言えんが、普通に喰える。レパートリーは佳奈のほうが多いし、手早いな」





「その辺はさすが女の子か」





「ところでお前って外村狙ってたんじゃなかったっけ?映研入るんじゃないのか?」





「それがよお、兄貴のガードがキツくてよお、男の進入部員は入れないって断られたよ」





「やっぱりガードが固いか」





「それに外村本人もなあ。思ってた以上に性格キツい」





「クラスの女子とは仲良く喋ってるけど、男に対しては厳しいよな」





「けどよお、俺の目から見ると、中上に対しては少し優しそうに見えるんだよなあ」





「佳奈が外村と仲いいからな。その影響だろう」





「なあ、西島から外村と一緒に遊ぶように持ち掛けられないかな?俺とお前を含めて4人でさ」





「ちょっと聞いてみるよ」





昼休みはこんな会話をしていた。










そして放課後、





佳奈が遼のところにやってきた。





「遼、帰るよ」





「ああ」





「あと美鈴ちゃんをウチに遊びに連れてきたいんだけど、いいかな?」





「ああ、俺は構わんよ」





(早速チャンスが向こうから来てくれたな)





遼は心の中で微笑んだ。










そして遼、佳奈、美鈴の3人で帰途に着く。





「外村って確か映研だったよな?」





遼が話題を振る。





「そうだよ。でも部長兼監督がだらしなくてさ。もうそろそろ夏休みに撮る映画の準備しなきゃならないのに、ヒロインが決まらないって理由つけてさっさと帰っちゃうんだよ。やる気あるように感じられない」






「ヒロイン、お前がやれば?美人だからカメラ栄えするんじゃないか?」





「あのへタレ監督と同じこと言うなよ。あたしは製作専門で演技に興味は無い」





「ふうん、なんかもったいないな」





「あたしより佳奈ちゃんのほうが適任のような気がする。中上も説得してよ」





「えっ、佳奈、お前映画に出るの?」





驚いた遼は佳奈に話を振る。





「あ、あたしは演技なんて絶対無理。美鈴ちゃんみたいに美人じゃないし、カメラ栄えもしないからさ」





顔を赤くして否定する佳奈。





「そんなこと無いって。佳奈ちゃんも充分に可愛いよ。中上だってそう思うだろ?」





「お、おい、答えに困るような質問ぶつけるな」





今度は遼の顔が赤くなる。





「なんだよお、彼氏なら彼女のフォローくらいしろよ。中上も佳奈ちゃん可愛いって思ってるんだろ?」





調子ずく美鈴。





「た、たとえそう思ってても、軽々しく口にするもんじゃねえよ」





「ふうん、まあもっともらしい照れ隠しと受け取っておくよ」





とりあえず美鈴は引き下がった。










そんな会話をしながら中上の家に着いた3人。





見た目は普通の2階建て一軒家。





中も取り立てて変わったところは無い。





「ふうん、思ったより普通だね。綺麗に片付いてるし」





美鈴の第一印象。





「佳奈が掃除をマメにするからな」





「遼もそんなに散らかさないからね。作業場以外は」





「作業場?」





この言葉に美鈴は反応した。





「んじゃ見せてやるよ」










遼は1階のとある部屋に美鈴を案内した。





扉を開けて中を見せる。





「うわ、なにこれ・・・」





部屋の光景に驚く。










8畳間の洋室には旋盤や各種工作機械、工具が並んでいる。





そして使い込まれた作業台。





部屋の片隅にはジャンクパーツや素材の山。





パソコンまで鎮座している。





部屋は色んな切り屑が飛び散っていて、かなり汚い感じに見える。





「なんかウチの技術室より設備整ってない?この部屋で何やってるの?」





「あれだよ」





遼は部屋の片隅にある棚を指差した。





「ラジコン?車の?」





「親父の趣味の影響さ。親父がアメリカで図面引いて、それを俺がここで作ってる」





「自分で作ってるの?」





「ああ。しかも設計から製作までオリジナル。普通の人の何倍も手間が掛かってる」





「そういや中上って技術部だったよね。これの影響?」





「まあな。技術部でソーラーカーのラジコン造ってる。学校の設備じゃ物足りないからここで作る場合も多いけどな」





「ふうん、なるほどね」





「なるほどって、なにがだよ?」





「佳奈ちゃんが中上に惚れた理由。どんな男でも光るものがあれば惹かれるんだよ。中上ってこういう部分では輝いてるよ」





「そ、そうか?なんか外村に褒められると照れるな・・・」





「佳奈ちゃんってとてもいい娘なんだから、悲しませたり泣かせたりするなよ」





「ああ、努力はするよ」





「なんだよその返事は?悲しませたり泣かせたりしてるのか?」





「ひとつ屋根の下で一緒に暮らしてればいろいろ出てくるよ。まあいろいろ大変だけど、楽しいことは事実だな」





「そういや佳奈ちゃんもそんなこと言ってたっけ」





「そう言う外村はどうなんだよ?言い寄る男が多いんじゃないのか?」





「下らない男ばっかだからうっとおしいだけ。彼氏が欲しくないって言えば嘘になるけど、だからって妥協した男とは付き合いたくない」






「やっぱハードル高いな。あと兄貴もガードしてるんだよな」





「そうなんだよ。ホントにシスコンでうっとおしい。しかも女好きでだらしないし。最悪の兄貴だよ」





美鈴の機嫌が悪くなる。





「じゃあどんなのがいいんだ?」





「理想は東城先輩かな。文芸部と掛け持ちで映画の脚本書いてるんだけど。ホント素晴らしいんだよ」





一気に美鈴の顔色が良くなる。





「あれ、東城先輩って2年の東城先輩だろ?確か6組で、美人で有名だよな?」





「そうだよ!」





「外村って・・・そっち系なのか?」





一気にドン引きした遼。





「ちょっ・・・ヘンな誤解するなあ!ただ尊敬できる先輩ってだけだよっ!」





引いた理由を感付いた美鈴は一気に怒り、全力で全否定した。


[No.1630] 2012/01/28(Sat) 19:28:38
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10years-02 (No.1630への返信 / 3階層) - takaci

7月。





期末テストも終わり、夏休みを迎えるだけ。





現在は3者面談の時期なので、授業は午前中のみである。





「中上も西島もいいよなあ。成績悪くても親との面談無しだろ?」





大樹が羨ましそうな目をふたりに向ける。





「いや、俺たちも面談やったぞ」





「うん」





「えっ、でも親は?」





「親父は帰って来れないんで無理。で、俺と佳奈と担任に加えて、生徒指導の黒川までも一緒」





「じゃあ4者か。でもなんで黒川が出てくるんだ?」





「どうやら俺たちのふたり暮らしを問題視してるらしい」





「ああ、なるほどなあ」





いくら家庭の事情があるとはいえ、年頃の男女がふたりっきりで生活をしている。





しかも恋愛関係にある。





普通の教師なら問題視するだろう。





「けど今更言われてもって感じだろ?」





「いくら問題があると言われても、だからってどうにもならん。佳奈をウチから追い出すなんて出来んからな」





この遼の言葉で佳奈が微笑んだ。





「で、最終的にはなんて言われたんだ?」





「まだ高一なんだから、それに見合った付き合い方をしろって言われたよ。一応そうするって答えた」





「でも実際のところはどうなんだ?」





大樹の目が好奇心旺盛の光を見せる。





それには佳奈が、





「プライベートはお答えできません!」





とばっさり応対した。











その数日後。





なにやら校内が騒がしくなった。





昼休みに佳奈が遼に相談を持ちかけた。





「ねえ遼、噂聞いた?」





「噂ってなんだよ?なんか騒がしい感じがするけど、それか?」





「実はね、映研の2年の先輩がふたり失踪したみたいなのよ」





「映研って、外村じゃん」





「その美鈴ちゃんが尊敬していた東城先輩と、映研部長の真中先輩が失踪したって」





「まさか、駆け落ちでもしたなんて言うんじゃないだろうな?」





「詳しいことは不明。でも校内はそうじゃないかって噂が立ってる」





「マジかよ?」





「なんか美鈴ちゃんもバタバタしてるんだよね。あたしたちに出来ることないかな?」





「待て、俺たちは所詮外野だ。下手に首突っ込まんほうがいいと思うぞ」





「そう・・・だね」





佳奈は渋々ながらも遼の言葉を受け止めた。











そしてその日の放課後。





ふたり揃って教室を出ようとしたとき、





「ねえ、中上に佳奈ちゃん、ちょっといいかな?」





美鈴が声をかけてきた。





「外村、どうした?」





「ふたりに相談って言うか、ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど」





「それって、例の噂絡みか?」





「まあ、一応そうなる」





美鈴は硬い表情で答えた。





「ちょっと待て、俺たちはその噂に関しては全くの無関係だぞ」





「もちろん知ってる。けどアドバイスを聞きたいの」





「アドバイス?」





「付き合ってるんでしょ?だから恋愛絡みの意見を聞きたい」





美鈴は真剣な目を見せる。





「いいよ。他ならぬ美鈴ちゃんの頼みだもん。遼もいいよね?」





佳奈が同意を求めてきた。





「ああ、俺たちで出来ることなら手伝うよ」





「ふたりともありがとう。迷惑かけてゴメンね」











そして3人は映研の部室である指導室に移動した。





他の部員は居ない。





「あれ、先輩方は?」





「ふたりの捜索に出てる。特に北大路先輩なんてもう必死」





「その名前も聞いたことあるな。確か結構な美人だろ?」





「うん。あと真中先輩に惚れてた女子のひとりでもある」





適当に椅子を並べて、3人は腰掛けた。





「本音は興味本位で首を突っ込みたくなかったけど、こうなったらある程度は話を聞いておきたい。外村、いいか?」





遼が切り出した。





「うん。知ってる限りのことは話すよ」





そして美鈴の説明が始まった。





「まずウチの監督である真中先輩だけど、正式に付き合ってる彼女は居なかった。けど女子で真中先輩を好きな人は居たの」





「それが東城先輩か?」





「うん。あと北大路先輩も真中先輩に惚れてた」





「そう聞く限りでは真中先輩ってモテるんだな。でも外村はそんなでもないだろ?」





「あたしは理解不明。あんな優柔不断でフラフラしている男のどこがいいか分からない」





美鈴はバッサリと切り捨てた。





「でも東城先輩も北大路先輩も美人だろ?彼女居るならまだしも、フリーでそのふたりの誘いを断るって・・・」





遼には理解出来なかった。





「実はね、真中先輩には元カノが居たの」





「じゃあ、真中先輩はその元カノが好きだったの?」





佳奈が尋ねた。





「その辺はよく分からない。でも偶然にも、今年撮る映画のヒロイン役が、その元カノになったの」





「「ええっ!?」」





ふたり揃って驚く。





「これはホント偶然なんだけど、あたしが今年の映画のヒロイン探してて、そのイメージにぴったりの人を見つけたの。それで出演お願いして、最初は断られたんだけど、映研みんなで改めてお願いしたらOKしてくれた。特に真中先輩の直訴が効いたみたい」






「その元カノもウチの生徒か?」





「ううん、桜海学園の西野つかさ先輩」





「・・・なんかキナ臭いな。ひょっとして真中先輩は元カノと別れた後もちょくちょく逢ってたんじゃないのか?」





「中上は鋭いね。そうみたい。偶然真中先輩と西野先輩のバイト先が近所で、よく逢ってたんだって。しかも結構仲がよかったみたいなの」






「うわあ、三角じゃなくて四角関係かあ。ひとりの男を巡って女3人の争いって・・・なんか怖い」





佳奈は思いっきり引いた。





「で、なんで今回の失踪に繋がったんだ?」





遼が真相を聞き出そうとした。





すると美鈴の表情が強張った。





「ねえ佳奈ちゃん、例え話だけど、もし中上に他に好きな子が現れて、その娘に奪われそうになったら、どうする?」





「どうって・・・そんなの許せない。どんな手を使っても遼の心は離さないよ」





「やっぱりそう思うよね?」





「そうだよ。そんなの当然だよ。遼だって浮気なんてしないよね!?」





「する訳ないだろ。そもそも俺はそんなにモテないって」





佳奈に突然振られた遼は即答えた。





「やっぱり彼氏は全力で護ろうとするよね。そうなら・・・」





考え込む美鈴。





「おいおい、今回の失踪って真中先輩じゃなくて、東城先輩が発端なのか?」





驚く遼。





「その辺はまだ不明。でも真中先輩には動機が無い。確かに優柔不断でフラフラしてるけど、映画に関しては真面目。正式にヒロインも決まってやる気出してた。ウチの兄貴と夏休みに合宿して撮る段取りもしてて気合いが入ってた。そんな状況で撮影放り出して失踪なんてありえない」






美鈴がそう分析すると、





「でも東城先輩には動機がある。好きな男を北大路先輩と争ってて、そこに元カノが加わった。真中先輩を自分のものにするために一緒に姿を消した・・・」






遼がそう推理する。





「ねえ、まさかだけど、それだと無理心中もありえなくない?」





佳奈が不安げな顔でそう語ると、





「それ、否定しきれないのが怖いんだよね。東城先輩が思い詰めたらその可能性も・・・」





美鈴も泣きそうな顔になる。





「いや、さすがにそれは無いんじゃないか?そもそも真中先輩はなんで東城先輩と一緒に姿を消したんだ?映画撮影に本腰入れてるなら東城先輩の誘いも断るんじゃないのか?」






「じゃあ中上に改めて聞く。もし佳奈ちゃんから『一緒に遠くに行こう』って言われたらどうする?」





「行く訳ないだろ。俺にはこっちの生活基盤がある。働いてるならまだしも、まだ学生で稼げもしない。保護者である親も不在。行ける訳がない」






「それでも行きたいって言われたら?」





「理由を問いただす。そして解決策を考える。ここに居ることが前提だ。普通そうだろ?」





「そうだよね。でも真中先輩も姿を消した。ってことはよほどの理由があったってこと?」





考え込む美鈴。





「なんか手がかりは無いのか?東城先輩が発端なら部屋に書き置きとか、真中先輩の部屋にも無かったのか?」





「東城先輩の部屋に『遠くに行きます。探さないでください』って書き置きがあった。あと真中先輩のほうにも『友達と一緒にしばらく泉坂を出る。定期的に連絡するから心配しないでください』ってメッセージがあった」






「それだけ聞くなら、無理心中はありえない気がする。けど問題はどこへ行ったかだな。東城先輩が発端なら東城先輩の部屋を調べれば何か出てきそうな気がするな」






「その辺をいま先輩たちが調べに行ってる。なにか分かり次第連絡が・・・」





と美鈴が言ったとき、美鈴の携帯が鳴った。





素早い操作で携帯を取り出した。





「もしもし、兄貴?どうだった?・・・やっぱり真中先輩の部屋は手がかり無しか。じゃあ東城先輩は・・・えっうそ!?そんな・・・」






美鈴の表情が曇る。





「・・・うん・・・うん・・・わかった。じゃああたしも合流する」





硬い表情で携帯を閉じた。





「先輩方、なんだって?」





佳奈が心配そうな顔で尋ねる。





「真中先輩の部屋には手がかり無し。まあこれは予想通りだったんだけど、東城先輩の家が門前払いで入れないって」





「えっマジ?実の娘が失踪したのに調べるの断るのか?」





遼もこの対応は予想外だった。





「あたしも今から東城先輩の家に直談判に行く。中上と佳奈ちゃんは・・・」





「ここまで来たら最後まで付き合うよ」





「うん、あたしも美鈴ちゃんに協力する」





ふたり揃って席を立った。





「ありがとう。じゃあ行こう」





3人の1年生は指導室を飛び出していった。


[No.1632] 2012/02/14(Tue) 19:58:46
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10years-03 (No.1632への返信 / 4階層) - takaci

「えっと、確かこっち」





美鈴の道案内で、東城綾の自宅を目指す3人。





その道中、





「あれ、この道って・・・」





遼には見覚えのある道だった。





「なあ外村、東城先輩の家ってこの先にあるかなりデカい家か?」





「あたしは行ったことないから分からない。でもなんでそんなこと聞くの?」





「いや、東城って名前の男にちょっと心当たりがあってな。でもまさかそんな偶然は・・・」





遼は自らの予想を否定した。










だが美鈴の案内で着いた先は、





「やっぱりここか・・・」





遼には見覚えのある大邸宅だった。





そして玄関先には泉坂の制服姿の人影が数人。





美鈴がそこに駆け寄る。





「兄貴、どうだった?」





「やっぱりダメだ。東城の部屋はおろか、家に入ること自体ダメだってよ」





前髪が長く目つきがよく見えない男がそう答えた。





(あれが外村の兄貴か。なんか胡散臭そうだな)





遼の第一印象。





「絶対に東城さんが黒幕に決まってる!真中を騙して連れて行くなんて・・・卑怯過ぎるよ」





涙ながらにそう呟くポニーテールの美女。





(あれが北大路先輩だな。確かに美人だ。けど・・・)





女子の泣き顔を見るのは辛かった。





「でもあの大人しくて消極的な綾ちゃんがそんな大胆な行動をとるとは思えないんだけど・・・」





「確かにな。綾さんはそんな人じゃない。真中も怪しいに違いない」





別の男たちが綾を擁護する発言をする。





「ところで美鈴、そのふたりは?」





外村兄が遼と佳奈に気付いた。





「同じクラスの友達で中上と佳奈ちゃん。今回の件でちょっと協力してもらってる」





遼と佳奈は映研メンバーに挨拶した。





「俺は美鈴の兄だ。このデカい男が小宮山で、ポニーの女子が北大路。ここまでが映研メンバーだ。で、このイケメンが天地。映研じゃないけど東城に惚れてる男で一緒に着いてきた」






外村兄が他の面子を紹介した。





その直後、





「ところで君かわいいね。一枚どうかな?」





佳奈に向かってカメラを取り出した。





そして、





「このバカ兄貴!こんな時に何やってんだよ!」





美鈴に頭を殴られた。





「うるせえ!どんな時でも俺は美女を求めてんだよ!」





「佳奈ちゃんは中上ともう付き合ってるの!横槍入れるな!」





「なんだあ彼氏付きかあ」





そう聞いて一気に引いた。





(なんか表裏が激しい兄貴だな)





そう感じずにはいられない遼だった。










「ところで、なんで中に入れないんです?実の娘が失踪しててその手がかりを探すために来てるんですよ?」





佳奈が映研メンバーに尋ねた。





「これは東城家の問題だから家族で解決するから心配するなの一点張り」





外村兄が呆れながらに説明した。





「東城家の問題って・・・じゃあ真中先輩はどうなるんですか?ほぼ間違いなく一緒に失踪してるんですよ?」





「それもウチで解決するから心配するなって・・・そんな言葉で納得できるわけないじゃん!絶対怪しいに決まってる!!」





佳奈の問いかけを受け、さつきの不満が爆発した。





「でもここで騒いでても何も解決しません。一旦引きませんか?」





遼が皆にそう提案した。





「そんなの出来ない!東城さんは家族ぐるみで何かを隠してるに違いない!今ある手がかりが消されちゃうかもしれないんだよ!」





反抗するさつき。





「北大路先輩落ち着いてください。家族だって娘が失踪したなら心配に決まっています。絶対に捜索はします。逆にこちらの立場を利用して学校側を徹底的に調べるんです。そこで得た情報を家族側が欲しがるタイミングが来ます。そこで交換条件を出すんです」






「なるほどな。中上くんだっけ、お前頭いいな」





感心する外村兄。





「確かにその通りだな。学校側は僕たちが調べるしかない。どの程度の情報が得られるかは分からないが、無駄ではないはずだ」





天地も同意した。





「みんながそう言うなら・・・」





さつきも渋々同意した。





「じゃあ一旦部室に戻ろう。そこで作戦を練るぞ」





外村兄が音頭を取り、皆を促す。





「ねえ遼、ホントに帰っちゃっていいの?」





佳奈が心配そうに小声で尋ねてきた。





「大丈夫、この家の事なら調べられる。逆に今は悪い印象を与えないほうがいい」





遼の言葉は自信が満ちていた。










そこに、





「あれ、つかさちゃん?」





外村兄が声をあげた。





ブレザー姿の女子がふたり現れた。





ひとりはショートカットの美女で、かなり怒っているのがわかる。





もうひとりは長い黒髪の美女で、こちらは戸惑い顔。





そして、





「あれ、トモコお姉ちゃん?」





佳奈が黒髪の美女に反応した。





「あっ、佳奈ちゃんに遼じゃない。なんでここに居るの?」





トモコはふたりを見て驚いていた。





「それはこっちの台詞ですよ。なんで桜学のトモコ姉さんがここに?」





「あたしはつかさの付き添い。この子がちょっと取り乱してて・・・」





「つかさって、西野つかさ先輩ですか?今年の映画のヒロインの?」





「そう、あたしの親友」





トモコは心配そうな顔でつかさに視線を送る。





(そうか、あの人が西野つかさ先輩か。確かに美人だな。それに真中先輩の元カノ)





つかさは映研メンバーと少しやり取りを交わすと、玄関の扉を叩いて喚き始めた。





「ちょっ・・・何させてんですか!?」





遼は慌ててつかさの腕を掴んだ。





「放してよ!邪魔しないで!」





怒るつかさ。





「今ここで騒いでも何の意味もないですよ!落ち着いてください!!」





「落ち着いてなんてられない!東城さんが淳平くんを連れてっちゃったんだよ!!そんなの許せない!!」





涙声で喚くつかさ。





簡単には止まりそうにない。










(ええいこうなったら・・・)










遼は、











パァン!!











つかさの頬を平手で叩いた。










「あんたがここで騒いで真中先輩が見つかるのか!?とにかく落ち着け!!」





年上に対して本気で怒る。





「ちょっと遼、殴るのは・・・」





「トモコ姉さんもしっかりしてください。こんなヒス女は殴りつけてでも止めるべきでしょう。これは本来姉さんの役目ですよ!」





抗議を出そうとしたトモコに対しても遼は怒った。





つかさは殴られた頬を押さえ、凄い形相で遼を睨み付ける。





「怒りました?そりゃ当然ですよね。別に殴り返しても構わないですよ。とにかくここで騒ぎを起こさなければね」





そんなつかさの視線を受けても、遼は冷静に対応した。











ここで玄関の扉が開いた。





背の高い学生風の男が顔を出す。





「申し訳ないけど帰ってもらえないかな?悪いけどウチには入れられないから。あと騒がれるのも迷惑なんだけど」





つかさとさつきが何か訴えようとしたが、遼がそれを制した。





そして、





「あれ、中上?」





「よう正太郎、久しぶりだな」





「なんでお前がここに?」





「俺も今回の失踪事件にちょっと関わってな。とりあえず今日のところは一旦引くよ。また後日連絡する」





「連絡っても、俺は・・・」





「お前も姉の動向は心配だろ?こっちで調べれる限りの事は調べる。正太郎もいろいろ調べてくれないか?」





「分かった。お前がそう言うなら・・・」





「じゃあ今日は一旦帰る。騒がせて済まなかったな」





「ああ、じゃあな」





正太郎は静かに扉を閉めた。










ここで美鈴が、





「ちょっと中上、この家の人と知り合いなの?」





思わぬ展開に驚いていた。





「あいつは東城正太郎。中学の同級生で結構仲が良かったんです。あと完全にシスコン野郎です。本人目の前で言うと怒りますけどね」






「それでこの家のことを知ってたんだね。じゃあ東城先輩と会ったことは?」





「ちらっと挨拶程度したくらいですね。なんか地味な姉ってイメージでしたけど。いつも三つ編みに眼鏡掛けてて。そこまで美人でしたっけ?」






「東城さんは変身するの。三つ編み眼鏡だと地味な女子だけど、コンタクトにして髪を解いたら凄い美人になる」





さつきがそう説明した。





「とにかく正太郎もこの家の両親とも俺は面識があります。タイミングを見計らって聞き出せなくもないはずです。だから戻りましょう」






「そうだね。中上が東城先輩の弟と仲がいいならチャンスはあるよね」





美鈴も同意した。





そして全員が撤収することになった。





その際に遼は、





「トモコ姉さん、西野先輩の動向に注意してください。さっきみたいに勝手に単独行動されるとまずいですから」





トモコにつかさへの注意を促した。





「うん、気をつける。遼も佳奈ちゃんも調査お願いね。つかさ本気で心配してるから」





「わかりました」





つかさは肩を落としながら、トモコに付き添われてトボトボと帰っていった。





「ねえ遼、いろいろ大変なことになったね」





「ああ、俺たちは完全部外者だと思ってたけど、正太郎にトモコ姉さんまで絡んでるとなるとそうは言ってられない。真面目に調べないとな」






遼の顔が引き締まった。


[No.1638] 2012/05/12(Sat) 22:15:27
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10years-04 (No.1638への返信 / 5階層) - takaci

あれから数日後、





トモコは中上家を訪れていた。





遼と佳奈にとって、トモコは幼馴染の頼れる姉的な存在だった。





佳奈の母親が亡くなったときは誰よりも佳奈のことを心配し、





遼と同居生活が始まると知ったときは心から応援してくれた。





遼と佳奈が付き合うようになったのも、トモコの後押しがあったからである。










夕刻、





トモコは佳奈と一緒にキッチンで夕食の準備をしていた。





「佳奈、ところで遼は?」





「作業場に閉じこもっているよ。今朝アメリカから図面が届いたから、それを造ってるんじゃないかな?」





「遼のお父さんもホントに病気だけど、それに付き合う遼も病気じゃないかな?好きなだけじゃそんな面倒なことはやってられないよ」






「遼もお父さんのことはいつも不平不満言ってるけど、結構楽しんでると思うよ。しかも好きなことをして自分のお金はほとんど使ってないし」






「でも佳奈は寂しくない?遼があんなだとあんまり構ってもらえてないでしょ?」





「あたしは一緒に暮らしてるだけで幸せだよ。朝起きて、朝ごはん作って一緒に食べて、一緒に学校行って、学校帰りにふたりで夕飯の買出しして・・・そんな今がとっても楽しい」






佳奈は満面の笑みを見せる。





「そっかあ。まあ遼も成長してるし、頼れる感じも出てきたからねえ」





そんな会話をしていると、遼がキッチンに姿を現した。





その表情は固い。





「遼、どうしたの?」





「親父が設計ミスった」





「えっ、うそ?」





「マジだよ。なんか軸受けがしっくり組めないなあと思って図面にらめっこしてたら、そこの寸法がコンマ02ミリズレてた。あれじゃ使えん」






ふうとため息をつき、ダイニングの椅子に腰を下ろした。





「遼、ウーロン茶でいい?」





「ああ、ありがとう・・・ってあれ?トモコ姉さん来てたんだ」





遼はようやくトモコの存在に気付いた。





「あんたも大変だねえ。ってか凄いね。コンマ02ミリってことは20ミクロンでしょ?そんなの普通の人じゃ気付かないよ」





「まあ、プラスチックの成型品なら誤差の範囲内ですね。でも削り出しの部品で、しかも軸受けです。許される誤差じゃないですね」






「ラジコンの世界もシビアだねえ。一昔前に流行ったあの・・・ミニ4駆だっけ?あっちのほうが気楽じゃないの?」





「ミニ4駆ですって?なにを言ってるんですかトモコ姉さんは?」





遼の顔つきが呆れ顔に変わった。





「えっ?」





「ミニ4駆ってラジコン以上にシビアな世界ですよ。もともとのサイズか小さいから求められる精度もワンランクシビアになるんです。ラジコンの世界だと0.1ミリ単位の調整ですが、ミニ4駆はさらに0がもう一つ増えます」






「うそ?あんな子供のおもちゃにそんな調整するの?」





「以前は子供が主体の遊びでしたが、それじゃ売れないので大人が参加できるようになったんです。そうなってから一気にシビアでカツカツな世界になりました。俺はラジコンなら組めますが、ミニ4駆は組めません」






「うわあ、遼からそう言われるとなんか引くなあ。大の大人があんなおもちゃにそんなことやってんの?」





「普通の人なら引きますよね。俺も引きました。しかも本気になるとラジコン並みに金が掛かりますよ」





「遼も立派なオタクだと思ってたけど、上には上が居るんだねえ」





「オタクってことは否定しませんけど、俺なんか軽いほうですよ。普通にラジコン走らせてるだけですから」





「でも走らせてるシャーシが普通じゃないじゃん」





佳奈が突っ込みを入れる。





「そうなんだよなあ。だから俺も結構なオタクだと思われてんだよ。それ心外なんだけどなあ」





「でも遼はオタクでもいいんじゃないの?普通の男ならそんな称号嫌がるけど、あんたには佳奈が居るんだからさ。オタクに理解のあるいい娘がね」






「それは言えますね。でも理解が良すぎて困ることもちらほらです。親父の暴走止められないんで」





「まあそれは諦めなよ」





「トモコ姉さんにそう言われると諦めざるを得ない気分になるから不思議ですね」





この一言でキッチンが穏やかな笑みに包まれた。











そして3人で食卓を囲む。





「ねえ遼、例の事件の捜査進んでる?」





トモコが真面目な顔で尋ねてきた。





「ぼちぼち、ですかね。ある程度は証言が集まりましたけど、有力な手がかりはまだです」





「どんな証言が集まったの?」





「失踪する1週間前くらい、期末テスト明けに東城先輩が体調不良で休んでるんです」





「それってテスト疲れみたいなものでしょ?」





「まあそう考えるのが自然ですが、その休み明けから東城先輩の様子がおかしくなってたみたいです」





「それ本当?」





「と言っても普通なら気付かないレベルです。いざ失踪事件が起きて、改めて振り返ってみたらそういえば・・・って感じですね」





「どんな感じに変わってたの?」





「いつもより元気が無く、落ち込み気味の表情を見せていたそうです。ただそれも微妙な変化ですよ」





「でも変化はあった。と言うことは、体調不良で休んだ日に何かがあった」





「まあそう考えるのが普通ですね。でもそれを調べるには家族から聞かないとダメです」





「東城さんの弟と友達なんでしょ?」





「正太郎から聞けないこともないと思います。でもまだ材料が足らないですね」





「なんで?」





「現在得ている情報は、家族側も知っているはずです。学校休んだ日に何かがあったと推測されるわけですから。だからその件について教えてくれって言っても、先日のあの対応では無理でしょ」






「じゃあ諦めるの?」





「まだ諦めませんよ。けど家族側も知らない、学校側での有力な情報が出てからです。それからギブアンドテイクですよ。今はまだその状況じゃないです」






「そっかあ・・・」





トモコは落ち込んでしまった。





「トモコお姉ちゃんは西野先輩と仲が良いんだよね?」





佳奈が尋ねる。





「うん、1年のときから同じクラスで仲が良くってね。親友のひとり」





「どんな性格なんです?」





先日の錯乱の様子ではそこまでは掴めない。





「基本的には明るい娘。みんなを引っ張るムードメーカー的な存在だね。頭も良いし、悪い評判は聞かない」





「そんな人があんなに取り乱すんですか?」





遼には信じられない。





「うーん、よく知らないから軽々しくは言えないけど、恋愛絡みになるとちょっと性格変わるかもね。あの元カレのことは本当に好きみたいでかなり執着していたような感じだったね。付き合っていた時もほとんど放ったらかしにされてたんだけどずっと我慢して待ってたし、去年の冬に振られてしばらくは明らかに落ち込んでいたから」






「えっ、振られた?西野先輩が?」





「それ本当ですか?」





遼、佳奈が揃ってトモコに尋ねる。





「うん、去年の冬に振られたって本人から聞いたよ。あの時は本当に辛そうだった」





そう語るトモコの表情も辛そうに見える。





「それが本当なら、こっちの情報とは異なるな」





「うん」





「えっ、どういうこと?」





今度は逆にトモコが尋ねる。





「こっちの情報では、去年の冬に真中先輩と西野先輩が別れたことまでは共通です。でも真中先輩が振られたって聞きました」





「ちょっとちょっと、振られたのはつかさだよ。振ったのは真中って元カレ。つかさそう言ってたもん」





「俺も外村の兄貴や北大路先輩からその辺りのことは聞きました。真中先輩は西野先輩に振られたって言ってたそうです」





「なによそれ?どっちも振られたって・・・」





意味が分からない佳奈。





「これってつまり何か行き違いがあったってこと?お互いが振られたって思ってたってことは・・・」





「お互いがまだ好きだった可能性がある、ってことですね」





「それで再会してからずっと仲が良かったわけだ。なんかのすれ違いがあって別れたけど、お互いまだ好きだった。それで再会してからさらに惹かれていった。つかさ本当に嬉しそうだったもん」





「西野先輩としては、真中先輩との再会をきっかけにして仲を深めよう、よりを戻そうとした。そう思ってたら真中先輩が失踪した。原因は東城先輩、ってことですか。それが事実なら許せないでしょうね」






遼も先日のつかさの錯乱の理由に納得がいった。





「でもそれならなんで真中って男は失踪したの?つかさが好きなら東城って女の誘いなんて断るのが普通じゃない?」





「真中先輩の中で、3人の女子がどんな位置付けだったかですね。俺の推測では、東城先輩も西野先輩もほとんど同じくらいだったんじゃないですか?北大路先輩はちょっと低い感じに見受けられましたね」






「それで東城先輩から誘われて、東城先輩を選んで一緒に失踪した」





佳奈がそう結論付けた。






「あたし、真中って男が一方的に悪いと思ってたけど、そんな簡単な話じゃなさそうだね」





「この件は複雑ですよ。根本はなぜ真中先輩までもが一緒に失踪したかです。いろいろ調べましたが、簡単な誘惑でほいほい動く人じゃなさそうです。根は真面目な人です。そんな人が失踪するなんてよほどのことです」






「そんなよほどのことってどんなのがあるわけ?」





「それが分かれば苦労しませんよ。いまそれをみんなで懸命になって探しているわけですから」





「そっか、そうだよねえ・・・」





「あと、その『よほどのこと』がどのタイミングで東城先輩から真中先輩に伝わったかですね。いきなり聞かされてその衝動で動くような人じゃないみたいです。1〜2日は考えてからの行動でしょう。だから失踪する前に誰かにそれらしきニュアンスを匂わせるメッセージを残している可能性も捨てきれないですね」






「えっ?もしそうなら、つかさにも何らかのメッセージがあったってこと?」





「その可能性はあります。西野先輩が気付いていない可能性も高いです。先日の様子じゃ冷静になって振り返る余裕があるかどうか・・・」






「あたし、つかさに聞いてみる!」





遼の推理を受けて、トモコは携帯を取り出した。


[No.1641] 2012/07/27(Fri) 19:52:06
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