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Yesterday once more 1 (親記事) - 桜

ラジオから流れる音楽に、僕は思わず口ずさんだ。
懐かしいメロディーが運ぶのは、もう戻れない時間。



空へと飛んでいく鳥に、幼かった僕は思いを託し、ふと思う。
どうして僕は空を飛べないのだろうと。


もしも僕に翼があれば……守れたはずだった……。
だけど僕には翼がなかった。


君を守る勇気さえもきっと……あの時の僕にはなかったんだ……。




怪我を負った飛べない鳥のように僕たちは、ただお互いを求め、そしてさまよう。



















「 Yesterday once more 」















「同じこと……淳平くんと同じこと考えてる……」


暗闇の中の保健室に、小さな衣擦れの音と、少し荒れ気味な二人の吐息が音を立てる。





恥ずかしいくらいの鼓動の高鳴りは、西野に聞こえているのかもしれない。



「あの……俺たち、別れたときも……その……こーゆーことあったけど……」




手をつないで確かめ合う。自分の気持ち、西野の気持ちを。

少しだけ不安になりながら、西野の手を握る左手に力を込めた。







「いっいいんだよな? 西野……」
「うん……」








触れ合った西野の唇は、どこか小さくて冷たい。




「俺……初めてだから……その、上手くできないかもしれないけど……」


「うん……いいよ……」



なれない手つきで西野の髪を撫でながら、俺は何度も西野を抱きしめた。



細くて柔らかい西野の肩は、強く抱いたら壊れそうなくらいに震えていた。



薄暗い月明かりを浴びて、一つに重なった体。



初めて触れた西野の体は、雪のように白くて、そして暖かかった。




























「帰ろっか?」


服を着ながら西野はつぶやいた。
窓の外には東の空から昇り始めた朝日が、俺たちを照らし出そうとしてる。


ついさっきの出来事を思い浮かべながら、少しの後悔が自分を襲う。


俺、まだ西野に好きだって言ってないのに……。
これでよかったんだろうか……そんなことを考えていた。



















「よっと」
校門の塀を飛び越えて、朝日が照らす中を帰る。


一つになれた嬉しさよりも、純粋な西野の気持ちを踏みにじってしまったような罪悪感が怖かった。





何を話せばいいのかよくわからずに、空を見上げる。
昇り始めた朝日は、とても眩しい。














「疲れたね……」


「ファミレスでもよってこっか?」


「ええ? いいよ、俺、あんま金ねーし……それに学校の準備しなきゃ……」


「そう? じゃあ、また今度にしよっか?」




そう言うと西野は少し寂しそうな顔をする。



「もうちょっと……一緒にいたかったな……」


「えっ?」
そう言って西野は俺に寄り添い、手を握ってきた。


その笑顔は、俺の抱く罪悪感を洗い流してくれる。跡形もなく……。














「あっ! ちょ、ちょっとコンビニよってもいい?」
目が合って恥ずかしくなってしまい、思わず目の前にあったコンビニに俺は逃げた。




「淳平くん何買うの?」


「えっ? う〜ん、コーラでも買おうかな……」


「西野は? 会計一緒にしてやるよ」


「じゃあ……あたしはこれ!」



西野はレジの前からあるものを持ってきた。



「ガム?」


「そう? キスミント」



レジで会計を済ませるともうすっかり朝になっていた。
西野はまた俺の手を握って、そっと力を込める。




「淳平くん、キスミントちょうだい」


「あっ、うん、ちょっと待って……」


コンビニ袋から取り出したキスミントガムを西野に渡す。


「はい。淳平くんにも一個あげる」


「俺、食べたことないや……」


「男の子は、あんまり食べないかもね……」


「結構甘いね」


「うん。でも、ちゃんと歯磨きはしないとだめだよ?」


「歯磨きめんどくさいんだよなあ……」


「ふ〜ん。淳平くんは、あたしとキスするときも歯磨きしないのか
な?」


「えっ! いや、その……します! 絶対にします!」







「じゃ、キス……しよっか?」







昨夜、何度も交わしたはずなのに、改まるとなんだか照れる。


西野はつま先立ちになって、固まっている俺の頬にそっと手を添える。



朝焼けの中で交わすキスは、西野がくれた、キスミントの香りがした。



「じゃあ、おやすみ!」


顔を赤くして走っていく西野を見て、胸の中に愛しさがこみ上げる。


西野が笑うと俺は幸せだった。


ただそれだけで……俺は幸せだった……。












その日夢を見た。
怪我を負った飛べない鳥が、道路の端でもがいている。


傷ついた羽をばたつかせ、小さな目を空へと向けて。
雨が降ったらこの鳥はどうするのだろう……。


傷ついた羽を癒す天使。
ただひたすらそれを、待ち続けるのだろうか……。



そして、俺は自分がその天使になれないことを知っていた。


















数日経って、バイト帰りに西野があるものに気づいた。
道路の端で、傷ついた羽をばたつかせている鳥。



「この子、怪我してるみたい……」


羽が傷つき、小さな足は折れそうなほどだった。


「犬にでもやられたのかな? そんなに気にすることじゃないよ」


「どうして? 淳平くんは、自分が傷ついてもそんなこと言え
る?」


「それは……」


「あたしは、この子を守りたい……守ってあげたいよ……」


どうして西野がこんなことを言ったのか、このときは全くわからな
かった。


「もう大丈夫。あたしが……直してあげるから……」


西野はその鳥を優しく自分の手に乗せた。


この鳥にとって西野はきっと、傷ついた羽を癒してくれる天使だったのだろう……。


「じゃあ、淳平くんが名前をつけてくれる?」


「俺が?」


唐突に聞かれて戸惑う。


「う〜ん……サスケ。いや、サブローのほうがいいかな……」


「ジュン……」


西野が何か思ったようにつぶやいた。


「ジュンでいいかな? だって何か淳平くんに似てるんだもん。だから淳平の淳をとってジュン」


「俺に?そうかなあ……」


どこが似てるんだろうと思いながらその鳥を見ると、心なしか見つめ返してくるように思える。


「よし。今日から君はジュンだよ!」


そして西野は笑った。


もしも、この世に天使がいるとしたなら、俺は西野だと思う。


だから俺も、ジュンも癒されているのだろう。そう思っていた。















秋が訪れ、文化祭の準備で俺たちは中々会えない日が続いた。


何度も電話の受話器を持ちながら、最後の番号が押せずに時が過ぎ
ていく。


だけど、それは二人の関係にはきっと何の影響もなかったんだ。


もうきっと変わらない思い。


それがまるで永遠であるかのように……。



















「もうすぐ修学旅行だね……淳平くんたちはどこに行くの?」


「えっと……京都と奈良かな……」


11月。バイト帰りの俺たちは、自然と手をつないでいた。


西野の手はいつも冷たくて、その度になぜか寂しくなる。


だからいつも、自分の手は暖かくしておきたかった。


小さな西野の手を、自分の手で温めたいと、そう思っていた。


「ジュンは元気?」


「うん。もう大分よくなってきたから空に帰そうと思うんだけ
ど……なついちゃって……」


「へえ〜。俺も会いたいな……」


「きっと……淳平くんは嫌われてるかもね」


「どうして?」


「あたしが……いつもジュンに淳平くんの話をしてるからか
な……」


「ええっ!」



なんだろう。なんて言えばいいんだろう……。
きっと今、気の聞いた言葉なんて何も出てこなかった。

















「京都、奈良かあ……。あたしたちもよるけど、会えるわけないよね……」


少し俯く西野。


「俺、探すよ。西野のこと。そりゃあ、会えるわけないかもしれないけど……それでも、会えるかもしれないだろ?」


「ありがとう。じゃあ……あたしも、淳平くんのこと探すね」


「よ〜し。じゃあ、早く見つけたほうの勝ちな!」


「え〜! それじゃ、淳平くんに見つからないように隠れなきゃね!」


西野が笑って、俺は嬉しくなる。


たとえそれがほんの些細なことだったとしても、嬉しくて笑いたかった。












「もしね、あたしが不安で……どうしようもなく寂しくなったとき、淳平くんは迎えに来てくれる?」


「どうしたの?急に……」


「時々ね、凄く怖くなるの……。朝起きたら、全部夢なんじゃないかって……」


幸せすぎて怖くなることは、俺にだってある。


だからそれを壊さないように、大事に守っていきたいと、そう願うんだ。


「俺はどこにも行かないし、決して西野を見失わない」


「淳平くん……」


「だから安心して迷子になってもいいよ。俺が……絶対に西野のこ
と見つけるからさ……」


「……あたし……そんなに子供じゃないよ……」








抱きしめてもまだ気づかなかった。






段々と西野の体が小さくなっていることに。






今日のキスも、キスミントの香りがした。


[No.425] 2004/08/25(Wed) 17:26:27
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Yesterday once more 2 (No.425への返信 / 1階層) - 桜


「ふう……」


少し疲れて、俺は京都の空を見上げた。


修学旅行二日目。今日から西野も京都にくるはず。


……会えるだろうか……。


「あんなこと言ったけど、会えるわけないよなあ……」


穏やかに澄み渡る京都の空が、なんだか切なかった。



いつからこんなに西野のことばかりを考えるようになったんだろ
う……。


もう俺の世界は、西野無しではきっと……成り立つはずもなかった。














「真中! 何ボーっとしてんだよ!」


同じ班の外村に注意されそうなほど、俺は空ばかりを見ていた。


「外村……どうして空ってあんなに高いのかな……」


「はあ?」


「もっと低かったら……俺も空を飛べたのかな……」


大空を舞う鳥が、なんだか恨めしい。


もしも俺に翼があれば、いつでも西野に会いに行けたのに……。


きっとジュンは、そんな僕の生まれ変わりなのかもしれない。


いつでも西野の側にいたいと願った僕の……。


「真中がおかしくなった……」


「バーカ! ちょっとそう思っただけだよ」


少し引きぎみな外村を追いかけて、もう一度空を見上げた。


心なしか……空は曇ってきた。























夕食を食べた後、旅館の入り口付近の電話ボックスに向かった。


ポケットから西野の携帯番号を取り出す。


プッ!


「おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません」


ガチャ!


なんだろう。今、忙しいのかな……。


桜海学園は厳しいから、簡単には電話に出れないんだろう。


そう思って、電話を切った。
























修学旅行三日目。


俺は清水寺にいた。


「知ってる? 清水寺に地主神社ってトコがあってね、縁結びで超有名なのよ!」


きっかけは昨日夕食の時に誰かが言ってたこの一言。


「なんだよ真中。こんなことこにつれてきて……」


「頼む外村。一人だと恥ずかしいんだよ!」


男二人でこんなトコにくるのも正直どうかと思う。


でも、一人でくるのもかなり恥ずかしい。


「えっと……これ二つ下さい……」


「なんだ真中。縁結びのお守りなんて誰に買うんだ?」


横から外村がニヤニヤしながら覗き込む。


買ったばかりの二つのお守りを見て、嬉しくなる。


西野……喜んでくれるかな……。


ピピピピピピピピ!!


外村の携帯がなった。



「はいもしもし……」






気がつくと大分周りに人が増えてきた。


多分自分たちと同じ修学旅行生なんだと思うけど、それにしてもかなりの人だ。







「あっ! すいません……ってあれ?」



人ごみにぶつかり、持っていたお守りが片方なくなっていた。




やばい……どこいったんだろう……。



しゃがんであたりを見渡しても、大勢の人の靴しか見えない。
それにこれじゃあ、誰かに踏まれているかもしれない。
そう思うとなんだか不安で仕方なかった。





「真中!今すぐ泉坂に帰れ!」


「えっ? なんで……」





「つかさちゃんが倒れたらしい!」



落としたお守りが見つからずに空に願う。



どうかこの不安は杞憂であって欲しい……。




空は昨日よりも曇っていた。





























新幹線の窓から見る景色が好きだった。


俺は自由席の通路にたち、一人泉坂へと向かっていた。


一足早く修学旅行を終えて、西野の元へと。


外村に電話があったのが昼で、今はもう夜になろうとしていた。


その間ずっと手に、一つ残ったお守りを握り締めていた……。
















泉坂病院に着いた俺は、受付の看護婦に西野の場所を聞いた。


205号室。それが西野の病室だった。


トントン。


一度ノックしてから室内に入る。


「西野?」


「淳平くん? なんでここにいるの?」


西野はいたって元気そうに、ベッドの前で西野のお母さんと話をしていた。


「なんでって……西野が倒れたって聞いたから……。でもよかった
〜。なんともないんだろ?」


「うん。ちょっと貧血みたい。でもわざわざ心配してもらうほどの
ことじゃないのに……」


「何言ってんだよ! 心配するに決まってるよ!」


病室の中なのに、少し大きな声を出してしまった。


「うん……。ありがとう……」


「あらあら。じゃあママはお邪魔だから先にお家に帰るわね。つか
さ、今日は安静にしてなさいね」


そう言って西野のお母さんは病室を出て行った。


「う〜、でも淳平くんにこんな姿見られるなんてはずかしいなー」


そう言って西野は布団をかぶった。


「どのくらいで退院できるの?」


「わからないけど、検査終わったらすぐ退院できると思う」


「そっか。よかった」


「でも淳平くんごめんね。せっかくの修学旅行だったのに……」


「いや、平気だよ。あっそうだ! 西野におみやげやるよ。清水寺
で買ったんだけど……」


そう言って俺はポケットから縁結びのお守りを取り出した。


西野はそのお守りを見て、少し恥ずかしがっている。








「淳平くん、これ……縁結びだよ……」


「そうだよ。すごい効くんだってさ」


「それって……つまり……」


「えっ、えっと……その……」


頭をかきながら少し、次の言葉に詰まっていた。








そしてゆっくりと……二人の唇が近づいていく……。










「西野さん? もう面会時間終わりですよ!」




「あっ!」




恥ずかしくなって俯く。






「はは……じゃあ、また、明日くるよ……」







「うん。おやすみ……」




そして病室のドアを閉めて、小さくつぶやく。










「あとちょっとだったのに……」



空には星が、かすかに光っていた。




















朝目が覚めたとき、ふと思う。


もしも西野がいなくなったら、俺はどうすればいいんだろう。


一瞬でもそんなことを考えてしまう自分がすごく嫌で、無性に西野
が恋しくなる。


この手で西野を感じて、存在を確かめないと、安心できなかった。


自分にとって西野は光であり、そして太陽だった。



だから雨が降って西野の笑顔が曇らないように、今日も俺は西野に傘を差す。




だけど本当は、俺自身がずっと西野に傘を差してもらっていたのかもしれない。




12月。西野の入院から一週間が過ぎた。


三日くらいで退院できると思っていたけど、まだ検査が長引くらしい。


学校帰りに、毎日俺は西野の病室を訪れた。



「まだ退院できないんだ?」


「うん。なんかもう少しかかるみたい。バイト大丈夫かな……」


西野は子供みたいに、少し顔を膨らませている。


「あー、ジュンにも会いたいな……。ちゃんと元気でやってるかな……」


「まあ、とりあえず今は早く退院できるように安静にしてなって」


そして俺は、お見舞いに持ってきたリンゴの皮を剥いていく。


「あっ! 淳平くん、意外と上手いね。でも指とか切らないでよ?」


「これくらいは俺だって出来るよ。待ってて、今剥くから……」


褒められて調子にのる。相変わらずの悪い癖。


「痛っ!」


普段なれないことは、やっぱりするもんじゃないとこの時思った。


「もう! さっき言ったのに……」


「ゴメン……」


人差し指から少し血が出てきて、バンソウコウを探し始める。


「えっと、西野バンソウコウある?」


「うん、あるよ。淳平くん手、貸して!」


すると西野は俺の人差し指にゆっくりと唇を近づける。


「に、西野!」


チュッ!


まるで魔法がかかったみたいに俺は固まる。


恥ずかしいけど……なんだか嬉しい。


西野の唇は、温かかった。














「よし、血、止まったね」


そして俺の指にバンソウコウを巻いていく。


「もうやっちゃだめだよ?」


「はい……」


時々西野は俺を子供みたいに扱う。


そして俺はそれに甘えて、西野の優しさを感じていた。



「あっ! そろそろ帰らなきゃ……」


「そっか。じゃあ、またね淳平くん」


「ああ、また明日来るよ」






別れ際に僕らはキスをして、手を振る。


まだ何も気づいていなかった。


移り変わる現実の波に、僕らが呑まれ始めていることに……。


もっと早く気づけばよかったと、後になってから思う。


いつでも西野を見ていたはずなのに、どうして気づけなかったんだろう。


わずかな西野の変化に、どうして僕は……。





だけど本当は、気づいてもどうにもならないことだったと、やっぱり僕は後になってから知る。


[No.426] 2004/08/25(Wed) 17:28:00
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Yesterday once more 3 (No.426への返信 / 2階層) - 桜




空から降る雪を見て、思う。
儚く地上に落ちては消える雪。



僕らの命が、もしこの雪のように一瞬のものだとしたら、僕は何をするのだろうと。



きっと今日もまた、消えていく。この雪のような、儚い命が……。













一ヶ月が経った。
西野はまだ退院出来ていない。



俺は、西野のバイト先でケーキを買って、いつものようにお見舞いに行った。



「あっ! 淳平くん!」


「今日は西野のバイト先でケーキ買って来たよ。みんな心配してたよ」


「そっか。今日はクリスマスだから込んでるだろうなあ……」




西野は責任感が強いから、いつでもバイトのことを心配していた。


「それと……じゃーん!」


「あっ! ジュン!」


「来るとき西野の家によって連れてきたんだ」




俺は学生服の中にこっそり忍ばせておいたジュンを取り出した。
久しぶりに会う西野に、ジュンはなんだか興奮している。鳥のくせに……。



「ジュン、元気にしてた?」


俺が西野にジュンを渡すと、嬉しそうに西野の手の上を歩き回る。
こいつ……俺が触るとめちゃくちゃ暴れるくせに……。




「淳平くんどうしたの?」
鳥に嫉妬したなんて恥ずかしくて言えない……。







「ちょっと外にでよっか?」
そう言って西野はコートを羽織って立ち上がった。



「大丈夫なの?」


「うん。散歩くらいならしてもいいって」
西野は肩にジュンを乗せて歩いていく。








「うわ! やっぱりちょっと寒いね」
俺たちは病院の屋上に出て、ベンチに座った。



「大丈夫? 西野」


「うん。平気」



柵の向こうに、クリスマスを彩るイルミネーションが見えた。



「綺麗……まさかクリスマスを病院で過ごすなんて、夢にも思わなかったなあ……」



残念そうに西野はつぶやく。



「まあ、淳平くんと一緒だからいいかな?」



そして笑いかけてくれる。二人の手は冷たいけれど、心はきっと、暖かかった。



「じゃあ、ケーキでも食べようか?」


買ってきたいちごのショートケーキの上に、小さなロウソクを立てて、二人だけのクリスマス。



「メリークリスマス、西野……」



「メリークリスマス、淳平くん……」





さすがに病院でシャンパンを飲む気にはなれない。







「う〜ん、やっぱり日暮さんの作ったケーキはおいしいな……」


「西野のケーキだって、すごくおいしいと思うよ」



そう言うと西野はうれしそうな顔をする。


「一年前のブッシュドノエルも、すごく、おいしかった……」


「そっか……あれから一年なんだね……」


「一年後にまた淳平くんとクリスマスを過ごせるなんて、夢にも思わなかったな」


「来年も、一緒に過ごそうな……」


「その先もずっとね……」




屋上の明かりが、僕らを照らすスポットライトに思えた。
凍えて冷たい二人の唇。



だけど触れ合って、温かい体温を感じる。
僕は幸せだった。



この幸せがずっと続くと、そう信じていたんだ。
今日のキスは、さっき食べたいちごの味がした。










病院からの帰り道、ジュンを帰すために西野の家によった。
一年前は、ここで別れたんだよなあ……。



そんなことを思いながら、西野の部屋を見渡す。
最近着ていない高校の制服は、クリーニングに出され、壁にかかっていた。



一年前に流れた別れの音楽は、今日もコンポの中に入っていた。
そのCDをゆっくりと再生して少し、聞き入った。







鳥かごの中のジュンが音楽に反応して羽を羽ばたかせる。
西野は、どんな気持ちでいつもこのメロディを聞いていたのだろう。






「もう……こんな時間か。帰らないと……」
立ち上がると同時に、西野のお母さんが部屋の中へと入ってくる。





「あら? もうお帰り?」


「はい。どうもお邪魔しました」
そして部屋を出て行こうとする。









「ちょっと……待って……」









僕は振り返る。











少しこわばった表情が、なぜか僕を緊張させていく。


足元にあるリモコンを拾い上げた。




「あっ! そうだ。CDを止めないと……」



















そして残酷な運命は動き出す。












「淳平くん……」



















「つかさは白血病なの……」























「お願い……あの子を支えてあげて……」










悪い夢なら覚めて欲しい。
僕の夢も、幸せも、もう何もいらない。


ただ西野と一緒にいたい……僕の命が尽きるまで……。




鳥かごの中で羽ばたくジュンを見て僕は思う。
どうして僕には翼がないのだろうと。


だから僕に翼を下さい。
その翼で僕は、君を連れ去りたい。


だけど僕には翼がなかった。
君を守る勇気さえも、今の僕にはなかった。












(退院したら、いっぱい淳平くんとデートしたいな……)


(どっか行きたいトコある?)


(どこでもいいよ……淳平くんと一緒なら……)







今の僕にはきっと、絶望しか見えない……。



部屋の中に別れの音楽が流れる。
まるでもう一度訪れるかのように……。














今、この時間にも誰かが生まれ、誰かが死んでいく。
生を司る神様がいるのなら、どうか僕の願いを叶えてほしい。


僕らが一体、何をしたというのだろう……。どうして西野が……。


誰かその答えを僕に教えて下さい……。
例えそれが、どんなに理不尽なものだったとしても……。
















年が明けて、学校が始まった。
冬休みの間、ずっと家にこもったままだった。


だから今日は、久しぶりに西野に会いに行く。
心の整理なんて、きっといくら時間をかけても足りなかった。





「つかさには、言わないで下さい……」
西野のお母さんはそう言った。



白血病は、今の時代では助からない病気ではないが、西野の場合は……。




あの笑顔が崩れることが怖かった。
だから僕も、笑顔を作ろうと思う。せめて西野の前では……。



だってそれくらいしか、僕にできることなんてきっと……なかった。







「淳平くん……あたし、本当に軽い病気なのかな?」
西野の笑顔が曇り始めた。




そして次の日、面会謝絶の札が貼られていた。






土砂降りの雨の中に僕は駆け出した。



「わあああああああああ!!!!」
赤信号の交差点を走り抜けて倒れこむ。



「気をつけろ! バカやろう!」
遠くで飛び出した僕に対する運転手の罵声が聞こえる。



大きな水溜りに膝を突いて僕は泣いた。


「うっ……うっ……にしのぉ……」
泉坂の街は今日もふけていく。


そして僕と西野の心にも、すこしづつ闇が迫ってきていた。




「あああああああああああ!!!!」
行き場をなくした思いが、何度も、何度も夜の街に消えていった……。








西野の体は、あっという間に弱くなっていった。


悲しいほど細くなった腕。すこし頬もこけていた。


今ではもう、ベッドからは動けない……。










三年になり、お互いの誕生日が過ぎて、秋が来る。

西野が免疫力を失っているため、会うときは白衣とマスクは欠かせない。







「淳平くん、変なカッコ……」


「笑うなよ! 全く……」


「あはは。ゴメン、ゴメン」



あれから僕らはいつものように他愛のない話をして、笑う。
まるで何もなかったみたいに……。







僕はリンゴを剥いて、それを西野に渡す。



「淳平くん?」
西野の手からリンゴが落ちて行った。



「あっ! ゴメン、もう一回切るよ……」









「あたしは……」









そうして後ろを向いた僕の背中を西野が掴んだ。










「あたしは……いつまで淳平くんといられるのかな……」

西野が言った言葉に僕は固まった。







「ど、どうしたの?」












「怖いの……一人になるのが……」










西野が泣いていた……。











「一人にしないで……」










背中を掴む西野の手に力がこもる。








「……西野?」







「なんてね!」
さっきの涙は気のせいだろうか……。すぐに西野は笑顔に戻った。








「ちょっと困らせてみたかっただけだよ」







「じゃあ……また……明日……」







「ずっと一緒だよ西野……ずっと……」






抱きしめた西野の体は、確実に細くなっていた。


[No.427] 2004/08/25(Wed) 17:30:38
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Yesterday once more 4 (No.427への返信 / 3階層) - 桜



面会謝絶の札が、何度も病室のドアに貼られる。
何度も西野は血をはいて、倒れたりもした。


いつまで西野は生きていられるのだろう……。
そんなことしか考えられなくなってしまう自分が、どうしようもなく嫌いだった。






そしてある日、僕の家の電話が、残酷な音を立てて鳴り響く。














「淳平! 電話よ……」


「こんな時間に?」
夜の12時を過ぎていた。


「はい……もしもし……」


ガチャ!


電話を切った僕は、全力で走り出した。


「ちょっと淳平? こんな時間にどこ行くのよ!」













病院に着いた僕の目に入ったのは、絶望だった。


「淳平くん……」


西野のお母さんが、重い口を開く。


「つかさに……会ってあげて……」

















「最後だから……」
誰もがみんな、泣いていた。






















「淳平くん、変な顔……」


「バカ。嘘でもカッコいいって言ってくれよ……」
無理に繕う笑顔が苦しい。


「ごめんね……今まで無理させてて……」


「西野……それじゃ病気のこと知ってて……」


「ふふ。あたしの体はね、あたしが一番よく知ってるんだよ、淳平くん」


「西野……」


「知らない振りをすれば、助かるのかな……ってそう思ってたんだ」


「そんなこと!」


「ううん。それだけじゃないの。淳平くんが、笑ってくれたから……。だからね、淳平くんが悲しむのが嫌だったの……」


同じことを考えてた。あの宣告はもしかしたら夢だったんじゃないのかと。


だから何もなかったみたいに振舞えば、いつかは消えていくのかもしれないと。


だけど……やっぱり現実だったんだ……。


「無理するなよ……。俺の笑顔なんて……何の価値もないのに……」


「淳平くんが笑うとね、凄く嬉しいの。愛されてるって実感する
の。だから、それだけで幸せだったんだよ…」




西野の笑顔を見ると僕は幸せになれる。そして僕の笑顔を見て西野は幸せになる。
どうして……どうして僕たちなんだ……。




まだ僕たちは、一人になれるほど強くないのに……。








「淳平くん、もっとこっちに来て……」









「生まれ変わったら、もう一度淳平くんに会えるかな……」
かすれそうな弱い声で、西野はつぶやいた。


「もう一度、淳平くんを好きになりたいな……」
西野は近づいてくる時を悟ったかのように、穏やかな表情をしている。




だから僕も、それに合わせて笑顔を繕う。西野が、悲しまないように。



僕は西野の頭を優しく手で撫でながら、自分の胸に抱きしめる。





「心の中で俺の名前を呼んでよ」


「淳平くんを?」


「例え西野が生まれ変わって、顔も性格も全然違ったとしても、き
っと西野を探し出すよ」


「ホントかなあ……」


「ホントだよ。西野が俺のこと全然覚えてなくても、俺が絶対に探し出す!」


「忘れちゃったら、淳平くんの名前呼べないよ?」


「それでも見つけるさ」


「どうやって?」


「俺が……俺がずっと西野の名前を呼ぶから……」


西野はクスッと笑って、その細い手を僕の背中に回す。


「あたしが……あたしが淳平くんのこと忘れるわけないじゃない」


「ずっと……ずっと淳平くんの名前を呼ぶから……だから淳平くんも、あたしの名前を呼んで……」









僕は抱きしめた手に力を込めることができなかった。
だって西野の体は、まるで折れそうなくらいに細くて、力を込めたら壊れそうだったんだ。









「つかさぁ……」


「でも……やっぱり怖いな。一人になるのは……」







段々と消えていく体温が、僕の胸を締め付ける。




誰か……だれか僕らを助けて……
ずっと思ってきた。西野の前では笑顔でいようって。



これ以上不安にさせないように、西野がいつでも笑っていられるようにって……。






だから今俺が泣いたら……もう西野を救えない。







「はは……バカだな……。何も心配するなよ西野。だって俺が……いつでも西野の側にいるんだから……」



「ふふ。淳平くん優しいね……」



「あれ? な…んだよ……知らな……かったのかよ……」




「じゃあ……一つ、お願いしてもいい?」









「何?」











「キスして……」










「いいよ……」













「愛してる……」








僕らは何度も唇を押し付けあった。
生きていることをこの唇で感じて、そして涙が出た。







「淳平くん……息……できないよ……」
「あ……あ……」




最後のキスは、去年の誕生日、西野がくれたキスミントの香りがした。






















(こうして淳平くんと手をつないでるとね、なんだかすごく安心するの)


(どうして?)


(あたしの手、冷たいでしょ? だから淳平くんのぬくもりを感じ
ると、もっと淳平くんのことを好きになれるの)


(よくわからないけど……)


(ふふ。淳平くんはキスのほうがいいのかな?)


(な、なに言って……)


(あ〜、さては図星だろ?)


(いや、むしろキスよりも……)


(……今エッチなこと考えただろ!)


(だ、だって……)











「ふふ。淳平くんのキス……あったかいね……」


「……あぁ……あ……に…し…の……」






いつだって僕らは、誰かを傷つけながら生きていく。
恋に落ち、夢に破れ、その度に何かを失いながら……。


何もできない自分の無力さを呪い、そしてひたすら泣いている。


この世界に、もう存在するはずのない天使を探して……。













西野が死んだ……。




















































10月。
僕は街角の公衆電話に入って、つながるはずのない電話をかけた。



「おかけになった電話は、現在、使われておりません……」


付き合い始めた頃にもらった携帯番号を破り捨て、空に投げた。




「これからどうしようか……ジュン……」
鳥かごの中のジュンは、大きく羽を羽ばたかせた。





「空を飛びたいのか?」
ジュンは羽で小さく合図をする。


「空を飛べれば、西野に会えるかもな……」


ジュンの入った鳥かごを抱え、夕暮れ時の野原に向かった。
夏にはひまわりが咲くこの野原で、僕はジュンを空に返そう。



ねえ西野……ひまわりの花言葉を知っているかな……
野原に落ちている枯れたひまわりを拾い上げる。






―――――――いつでもあなたを見ています―――――












空を見上げると、無数の鳥たちが飛びたっていく。
あの空の向こうに西野がいるような気がして、僕は何度も空を見上げた。



移り変わる空の色は、時の流れを感じさせ、もう戻れない事を何度も実感した。




あの時から前に進めない僕を見て、君は笑うだろうか?怒るだろうか?



きっと、優しく励まして、そっと僕を導いてくれるだろう。



(コラー! いつまで落ち込んでるんだよ!)
(ほら! 早く顔上げて行くよ!)




だけどもう君はいない。
例えどれだけ願ったとしても、僕を導いてくれる君は、もうどこにもいない。


大きな優しさに甘え続けていた僕は、失って気づく自分の弱さが憎かった。







(ゴメンね……淳平くん……)








そっと鳥かごから、ジュンを取り出して語りかける。








「西野に会ったら、伝えてくれるかな……俺はもう、大丈夫だからって……」





ジュンは少し、頷いたような素振りを見せて、羽を羽ばたかせた。



「それと……これを西野に届けてほしいんだ……」



僕は、ポケットから渡せなかった指輪を取り出した。



「西野……サイズ違っても、怒らないでくれよな……」

















誰もが皆、いくつもの後悔を背負って生きていく。


その中で数え切れないほどの出会いと別れを繰り返し、もう戻れない時間に想いを馳せる。


やがて西野も思い出になってしまうのだろうか。











秋の空に落ち葉が舞い散る。
恋人を失った僕の隣を埋めるように……。












「西野……」
僕は何度も空に西野の姿を探し、その度に声に出して、西野の名前を呼ぶ。

もう二度と見失わないように……。








「愛してる……誰よりも……」















僕は足元に置いたラジカセのスイッチを押した。










「では次のリクエストは、泉坂市にお住まいの真中淳平君18歳からのリクエストです」


涙を照らす夕陽が眩しくて、僕はゆっくりと目を閉じる。



「誰でも一度は懐かしみ、戻りたいと……。そんな事を思ったことはありませんか?」












(もし……あたしが不安で、どうしようもなく寂しくなったとき、淳平くんは迎えに来てくれる?)










「一度しかない青春時代を、何の悔いもなく過ごせる人なんて、この世にどれだけいるのでしょう」








(怖いの……側にいないと……消えちゃいそうで……)








「あの日あの時、言えなかった言葉。伝えられなかった思い」







(大好きだよ……ずっと……)






「もう戻らない愛する人へ。過ぎ去りし時間よ……もう一度……Yesterday once more……」







(……なんてね!)









僕の手からジュンが飛び立っていく。
どうか西野に伝えて欲しい……。
僕は誰よりも、君を愛していると……。















「西野――――――――――!!」















この広い世界でようやく出会えた大切な人たちを、簡単に僕らは見失ってしまうから……。







ねえ西野……僕はここにいるよ……君に見えるだろうか……。






ジュンの足元のリングが、夕陽を浴びてキラリと光った。
それがまるであの日の笑顔のようで、僕はもう一度空を見上げた。












(淳平くん)








僕はずっと、西野の名前を呼び続ける。



いつかどこかにあるはずの、「再会」を信じて……。




Yesterday once more 〜Fin


[No.428] 2004/08/25(Wed) 17:32:43
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