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Re: あとがき - ds - 2005/08/14(Sun) 15:06:10 [No.1177]



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忘却〜第1話〜 (親記事) - 惨護

はじめまして、初めて書いたものなのでうまくいっているかわかりませんが、見てください








何も無い白いだけの一面が広がっている。辺りは何の音もしない
ただ、淳平がひとり倒れているだけ


「なんだここ・・・・・?」


起き上がり辺りを見渡す
なにもない四方八方見ても先が見えない


「お〜い!!だれかいないのか〜?」


その呼び声は返ってくるわけもなく
ただ、辺りに木霊していた


「お〜い!!に・・・・誰呼ぼうとしたっけ・・・・・?誰だっけ?」


誰かを呼ぼうとしたが頭の中に浮かぶ顔がすべて真っ黒で誰かがわからなかった


「なんだ、なにがどうなってんだよ!!!!」


淳平はおもいっきり地面を叩いた
すると地面が割れた


「うわあああああああああああああああああ!!!!!」


         ・



         ・



         ・



         ・

汗だらけで飛び起きた
周りはしろく病室のようだった


「・・・・ここは・・・?」


「起きたのね・・・淳平」


「母さん、どうしたんだよ泣く事無いだろ?」


涙ぐみながら話すその姿は淳平には理解できなかった


「淳平くん!!」


「・・・・・・・・・」


淳平の母の隣にいたずっと淳平の手を握ってる少女がこっちに笑いかけた


「真中〜!!」


「・・・・・・・・・」


急に飛びついてきた少女の行動にさっぱり分からなかった


「真中くん・・・・」


「・・・・・・・・・」


少しはなれたところから見ていた少女は涙目になりながら名前を呼んだ


「じゅんぺ〜!みんなしんぱいしてたんだぞ!」


「・・・・・・・・・」


さっきまで変わらなかった無機質な顔が明るくなった


「唯、なにがあったんだ?」


「覚えてないの?西野さんとデート中にじゅんぺーがどじって頭打ったんだよ」


「西野ってだれだ?つーか、この子達誰?」



「え・・・・・」



辺りを見回しながら話すと、まわりから絶望の色がこぼれた


「よう、起きたか真中!」


「誰だ、お前?」


「お前の親友の外村様だろうが!!!・・・・って、もしかして・・・・・」


後から病室に入ってきた外村も顔を青くした


「起きたのか、真中・・・・一生寝てれば、つかさちゃんは俺のもんだったのに・・・・」


小宮山がそんなことを言ったとたん顔面を思いっきり外村に殴られた


「場面を考ええお、このどあほ!」


耳元で小さな声で小宮山を怒鳴った


「は?なに言ってんだ、小宮山?」


皆その言葉には、「えっ!?」という顔になった


「ちょっと淳平・・・・」


「何、母さん?」


「この子誰?」


淳平の母は唯を指差しながら言った


「唯だろ?つーか、お前引っ越したんじゃなかったっけ?」


「この子は?」


今度はつかさを指差した
びっくりした表情を見せるつかさを目を細めながら見た


(よく見ると・・・か、可愛いな〜・・・・・・)


「どう?淳平?」


「え!?はじめて見たけど・・・・どうかした?」


その瞬間、驚きと困惑の表情が皆に浮かんだ



「・・・・この子は?」


次は綾を指差した
綾は何かに願っているように手を合わせて俯いている


(あ、この子も可愛いな〜・・・・・)


「で、どうなの?」


「え?俺はぜんぜん知らないけど・・・・」


「お母さん、ちょっとお医者さん呼んでくるね・・・・」


淳平の母はちょっとあせりながら病室を出て行った


「どうしたんだ?・・・・・あ、あの〜恥ずかしいんだけど・・・・」


淳平は顔を赤くして頬をかきながら言った
するとつかさはすこし顔を赤くして手を離した


「で、さっきも言ったけど誰ですか?」


その瞬間、赤くなった顔がいっきに暗くなり涙目になってきた
淳平は焦って目をそらして辺りを見回すと周りにいた女の子は全員泣いていた


「じゅんぺ〜が・・・・ヒック・・・・」


「唯!泣いてたらわかんねえだろうが!」


淳平はベッドから起き上がり唯の肩を持って焦りながら言った


「なにがどうなってんだよ、唯は泣くし、周りの女の子も泣くし・・・・・・」


「俺が説明してやるよ・・・・・」


完全に頭がパニクってる淳平のもとに外村が話しかけてきた


「え〜っと・・・・外村・・・君?」


「あ〜そうだ俺は外村ヒロシ、でこっちは東城綾ちゃん、こっちは北大路さつきちゃん、でこのこが西野つかさちゃん」


一人一人指を指しながら言った


「で、外村君、俺はいったい何が?」


「外村でいい、なんでもないのに男から君付けは気持ち悪いからな」


「んじゃあ、外村、いったい俺は?」


「どこまで覚えてる?」


「・・・・・・いっつ!」


外村の一言で一気に頭が痛くなった


「無理に思い出させない方がいいよ」


「先生・・・・」


外村は少し下がり医者を前に出した


「淳平君、君は西野さんと一緒にデートに行っていた」


「は、はぁ・・・・」


(え?俺、こんな可愛い子と一緒にデート行ってたんだ・・・・・どんなことしたんだ・・・・?)


少し妄想を膨らましながら聞いている淳平を尻目に話を続けた


「君はそのとき船に乗った・・・・その時なぜか足を滑らせ海に転落した」


「はい・・・・・」


(船?・・・・・・・思い出せないよな・・・・・)


「その際、後頭部を船にぶつけた・・・その痕はいまでもたんこぶとして君の頭に残っている」


(え・・・・この聞いたことのあるパターンは)


「・・・・もしかして・・・・あれですか?」


「そうだ、君は記憶を失っている」


「ええええええええええええええええええええええええええ!!!!??????」


病院内に淳平の叫び声が響き渡った
だが、周りの女の子の泣き声はやまなかった


「学力に関してはさし代わりは無い・・・はずだ」


「ええ!?学力が下がってるって事もあるんですか!!??」


かなり驚きながら淳平は言ったがこの時だけは笑いながら外村が


「大丈夫、前のお前は頭悪いから」


「え?そうなの・・・・・」


「おほん!で、私が言いたいのは君は記憶喪失になっている」


少し無視されたのをいらだってかわざと咳を付いて話を続けた
その姿を見た淳平と外村は笑いそうになっていた


「だが、それが一時的なものであればいいが、一生直らない可能性がある」


「うそでしょ・・・・・」


「お、おい!」


そのことを聞いたつかさは淳平が引き止めるまもなく走って病室を出て行った


「あ、あたし、追いかける!」


「あたしも!!」


「唯も!!」


さっきまで淳平を取り囲むようにいたさつきたちは全員つかさを追って出て行った


「お〜お〜、一気に華がいなくなったよ」


「そしてだ!」


外村が少しびびりながらいうとまた医者が強調していった
またしても二人は笑いそうになったが、さっきから小宮山が暗くなっている


「いいんだ、おれなんて無視されるんだ・・・・・」


小宮山の悲痛の叫びも誰に聞こえるわけでもなく小宮山はただ無視され続けている


「その記憶は君自身がふさぎこんでしまっている」


「え?」


「記憶喪失のメカニズムを話しておこう・・・・・」


医者の熱弁にすこし圧倒されながらもすべて聞いた


「え、え〜っとつまりは忘れたいことに自己防衛でプロテクトをかけたって事ですか?」


「そうなる・・・・つまりだ!君にしかそのプロテクトははずせない!」


「ええええええええええ!!!????」


医者が指差しながら言うと淳平と外村、小宮山はかなり驚いた


「まあ、あんまり一般生活に支障は無いはずだから、ゆっくり思い出していくといい・・・・あ、今日にでも退院できるから」


(((さっきまで、案だけ重かったんのになぜこんなに軽いんだ・・・・・)))


そんなことを思いつつ、医者が藪じゃないのかとも思った


「では、頑張りたまえ」


「とにかく、この外村様が今の状況を整理して話してやる」


医者が出て行った後、小宮山が冗談を交えつつ外村が真剣に話した


「え〜つまり、四角関係の真ん中だと・・・・て、ちょっと待てえええええええい!!!」


すこし納得したように見えたがびっくりして思いっきり外村の前に手をかざした


「俺がどうしてもててるんだ!?」


「知るか!!!それは俺が知りたいくらいだ!!!!」


外村が肩をつかみながら淳平を圧倒して言った


「そうか・・・・でも大草の方がもててるんだろ?」


その瞬間、外村の顔が凍った


「ちょっと待て!なんで大草を知ってるんだ?」


「なんでって、俺は大草と中学一緒だったし、よく遊んだし」


懐かしさをしみじみと感じながら語る淳平をよそに外村が少し考えて


「ていうことは・・・・天地って知ってるか?」


「誰?そいつ?」


「う〜む・・・・東尾繭子は?」


「知らないけど・・・」


「じゃあ・・・・・・・・・」


淳平が高校で知り合った人の名前を読み上げていった、淳平はそのたびに知らないと言い続けた


「で、それがどうなるんだ?」


「たぶん、お前は中学半ばの記憶しか残ってない!!!」


「えええええええええええ!!!!?????」


また淳平の声が病院に響き渡った


「でも、なんで?」


「お前は、大草や小宮山のように中学1年あたりからの知り合いは覚えていたが、西野や東城のように3年あたりに知り合った人を覚えていない!!!」


真剣に淳平と淳平の母はきいているが小宮山は聞く気が無いのか看護婦を漁りに行った


「つまり、中学のあるときを境に記憶が途切れていることになる!!!」


「へ〜・・・・・・で?」


「(・・・こいつ、記憶なくしても鈍いな・・・)だから、その境に何かあったはずだ!!!それを何とかすればだな────」


「記憶が戻るって事か!!!」


「ああ、そういうことだ」


外村が決めたかったが淳平に先を越されて少しあきれた


「よっし!そうと決まったら思い出すために頑張んないとな」


「いや、お前が一番頑張らなきゃならんのは・・・・・・」


「西野の心のケアだな・・・・・」


「へ?・・・・・・どういうこと・・・・・」




つづく・・・・


[No.671] 2004/12/13(Mon) 19:28:14
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忘却〜第2話〜 (No.671への返信 / 1階層) - 惨護


「へ?どういうことだ?」


淳平の間の抜けた声が外村を呆れさした


「すいませんが真中のお母さん、こいつの体借ります」


「外村君、お願いね。私は退院の準備するから」


外村はむりやり淳平の腕を引っ張って中庭につれてきた
そして、ベンチに腰を下ろした


「何でここにつれてくる必要があるんだよ」


「おばさんにばれると厄介だからな」


「何が?」


一瞬、外村がふらついたが記憶喪失であることを思い出し建て直し


「お前の現状」


「どういうことだ?」


どういうことかまったく理解できない淳平に外村は完全に呆れたが
記憶喪失なんだと改めて再確認し、話を続けた


「はぁ〜、もういい・・・・真中、お前がこんな状態になったのはどうしてかわかるか?」


「そりゃあ・・・・デートしてて俺が船から落ちて、頭打って・・・・」


「誰とデート中にだ?」


「それは・・・・」


淳平は下を向いて黙り込んでしまった


(手を握ってくれてた女の子?いや、もしかしたら飛びついてきた女の子?それとも、おとなしそうだったあの子か?まさか唯?)


淳平が考え込んでいる横で


(・・・・こいつまじで、記憶喪失か?嘘じゃないのか?しかし、反応が無いしな〜)


外村も考え込み、両方が考えて黙り込んでしまったが、沈黙を破ったのは外村だった


「・・・・お前は西野とデート中になった」


「そうか、なんか悪い事したな」


気楽に言ったが、その顔は暗く無機質なものだった


「・・・だから、デートに誘わなかったらとか自己嫌悪になる可能性が高い」


「そんな必要ないだろ!?俺が悪いんだから!!」


淳平は立ち上がり外村の肩を掴んでいつもより熱を入れて言った


(こいつ、他の女の子のこと考えてない分、気合が違うな・・・・)


すこし淳平に圧倒されつつ肩の手を払いのけ、落ち着いていった


「お前が考えてるほど女の心はがさつじゃない」


淳平は外村にそういわれるとまた外村の隣に座った
そして、ふと気付いた事を外村に聞いた


「・・・ところで、西野ってさっき手を握ってくれてた金髪の女の子?」


「そうだ・・・・こっちから見たら、かなり羨ましい光景だったがな」


「そうか?」


「そうだよ!!可愛かっただろうが!!」


今度はさっきと逆の状況になり、外村が立ち上がり、順平の肩を掴み熱を入れて話した


「たしかにめちゃくちゃ可愛かったな〜、周りの子も」


顔がにやつく淳平にすこし引きながらも冷静になりベンチに腰を下ろした


「どうすんだ?これから」


「どうするって言われてもな〜」


すこし考え込むと頭にさっきの光景が浮かんだ


(・・・そういや、みんな泣いてたよな・・・・・捜したほうがいいよな・・・・・・)


「・・・・・とりあえず、さっきの女の子たち捜してくる」


淳平は立ち上がり走り出した


「頑張ってこいよ〜」


「おう」


外村に手を振り、病院内に再び入っていった


「面白いことになりそうだ♪・・・こうしてはおれん!真中を追いかけなければ!」


外村はデジカメを手に取り淳平を追いかけ始めた




       ・




       ・




       ・




       ・




「・・・・・・」


病院の屋上、夕日でオレンジ色に染まっている
そこに金色の髪をなびかせ柵にもたれかかる女の子がいた


《つかさちゃんに迷惑をかけるな!!》


あの言葉が脳裏をよぎる


(やっぱりあたし・・・・迷惑かけてばっかりだね)


遠くを見つめるその目には悲哀と切望が入り混じっていた


(気分転換のつもりで誘ったのに・・・・こんなことになって・・・・・)


「あれ?なんで涙が流れるのかな?淳平くんのせいだからね・・・・・」


涙を拭っていると屋上のドアが派手に開いた


「西野さん早まっちゃだめ!!」


さつきが走ってつかさに抱きついた


「西野さん!あんな馬鹿じゅんぺーのことなんか気にしなくても大丈夫だか・・・・・ら?」


唯は初めはかなり焦っていたが、状況を判断し止った


「え?どうかしたのみんな?」


「あ、あれ・・・・もしかして勘違い?」


抱きついていたさつきも慌てて離れて顔を赤くした


「・・・・・ふふ・・・大丈夫だよ、みんな」


強がっているようにしか見えないぎこちない笑顔が三人には痛かった


「ちょっと風に当たってみたかっただけ」


「・・・本当に・・・大丈夫なの?」


綾の目にはどうしても大丈夫には見えなかった


「東城さんこそだいじょうぶ?目、真っ赤だよ」


「え?」


慌てて顔を俯けると、みんなから笑顔がこぼれた


「そういう西野さんこそ」


唯はつかさに近寄りながら茶化すように言った


「あれ?変だよね、勝手に目が赤くなるなんて・・・」


「泣いてたんだろ?」


聞き覚えのある優しい声、いつも語りかけてくれたあの声


「真中くん・・・」


「真中!?動いて大丈夫なの!?」


「そうだよ、じゅんぺー!」


「大丈夫、退院できるって言われたし」


すこし笑いながら言ったが、まわりから笑顔は見受けられなかった


「・・・・・・・」


淳平はひとり黙り込むつかさに向かって


「西野!・・・・・だよな?」


つかさは淳平のいつもどおりの呼び方に一瞬明るくなったが、確認する一言で未だ回復していない事を悟った


「そうだよ・・・・・」


「ごめん!」


「え・・・・」


淳平はいきなり頭を下げた、その姿につかさはすこし拍子抜けした


「俺がどじ踏んだから・・・・なんていうか・・・・・とにかくごめん!」


「それと唯に北大路に東城、ごめん!心配させちゃったみたいだし、ごめん!」


皆に向かって謝る姿は前と変わらない淳平を見せた


「真中!」


「な、なに?」


(つーか、胸が当たっているんですけど・・・・・)


さつきは頭を下げている淳平にだきついた
いつもと同じように顔を赤くするが、やっぱり何かが違う


「あたしは北大路じゃなくてさつきって呼んでね♪」


「あ、ああ」


いつもならすぐに離れようとするのに何もしない淳平
さつきにとってそれはあまりに変わった感じがした


「じゃあ、あたしはバイトあるし、じゃあね〜」


「じゃあな、さつき」


いつも通りに見えたがさつきの後ろ姿には心細いものがあった


「あ、もうこんな時間・・・・あたしは塾があるから・・・・」


携帯で時間を見て、すこし焦りながら淳平に言った


「ところで東城は東城でいいんだよな?」


「う、うん・・・・」


「塾、頑張れよ」


記憶を失った不安を感じさせない笑顔と優しさは綾を辛くさせた


「うん、じゃあ・・・・」


屋上から去っていくその姿は何かぎこちない感じがした
それは淳平も気が付いていたが敢えて何も言わなかった


「唯もおばさんの手伝いに行ってくるね」


「たのむぞ、唯」


「任しといて!」


唯は元気よく笑って屋上から姿を消したが、空元気にしか見えなかった
淳平とつかさの二人だけになったが、何も会話のしないままあたりが暗くなった


(やっぱり可愛いな〜、でも東城もさつきも可愛いし・・・・でも今そんな事考えてる場合じゃないよな)


つかさは何も喋らないで暗くなった景色を見つめている
それは暗闇の先に何かを見出そうとするようにも見えた


(なんでだろう、とても切ない・・・・だけど、言わなきゃな・・・・・)


淳平は決心し、つかさに近寄った


「・・・・怒ってる?どじ踏んでデート台無しにしちゃったこと」


「・・・・・・・」


つかさは何も言わないで淳平の方へ向いた、その目はまだ赤かった


「ごめん、謝り尽くせないと思うけど・・・・・ほんとにごめん」


俯きながら話す淳平の勘違いがつかさの胸に痛いくらい響いた


「顔上げなよ」


「へ?」


「もういいよ、そんなに頭下げてると前とは大違いだぞ!」


すこし説教じみて話すつかさの顔にまだ不安の色はとれていなかった


「そうかな・・・・」


すこし照れ気味で頬をかく淳平の姿は前と変わらない


「もう日が暮れちゃったし、お母さんが心配してたら困るから帰るね」


いつもつかさの親はかなり遅くに帰ってくるのだが、心配かけさせない為にわざと言った


「あ、西野!聞きたかったんだけど」


「何?淳平くん?」


「俺って西野って呼んでた?それとも・・・・つかさ?」


「・・・・どっちでもいいよ」


ちいさくぼそっと言った


「へ?なんて?」


当然の如くまったく聞こえなかった淳平は恥ずかしがりながら聞きなおした


「西野って呼んでたよ」


「分かった。西野、またな」


「うん、じゃあね淳平くん」


笑顔で手を振り屋上から出て行くその姿は淳平にとって辛いものだった
つかさが屋上から出た時、踊場にデジカメを持った外村がいた


「西野・・・いいのか?」


「なにが、外村くん?」


「わかってるだろ?」


「謝りたいのはこっちなのにね・・・・・やっぱり淳平くんは淳平くんだった」


「・・・・・・・」


その言葉をそっくり淳平に聞かせてやりたいくらい切ない声だった


「じゃあね、外村くん」


「ああ・・・・・」


外村は屋上から聞こえてくる足音に気付き、隠れた


「なんかみんなおかしかったな・・・・」


そんな一言を言っている淳平を隠れていた外村が思いっきり押した


「美味しいところを逃したな、この女たらし!」


その瞬間、淳平は会談から転げ落ちた


「っ痛〜!なにすんだよ!」


「やっぱただのショックじゃ、戻らないか・・・・」


すぐに起き上がり掴みかかった淳平だったが外村の一言で離した


「本当に記憶なくしてんだよな?」


「お前の事もよく知らないし、なんで優しくしてくれるのかも分からない」


「西野もさつきも東城も唯もなんで泣いてるのかも分からない、俺が悪いのに」


淳平の一言一言が外村にとっても、痛かった


「真中、とりあえずお前は家に戻ってこのビデオでも見てろ」


「なに入ってんの?」


「見たら分かる、そのかわり・・・・・いや、やっぱやめとく」


(いまのこいつに言っても何がなんだか分からないわな・・・・・)


外村の顔が一瞬にやついたがすぐに元に戻った


「どうしたんだよ?」


「なんでもねえよ!さっさと帰って見てろ!きっと何か思い出すはずだ!」


「ありがとな、外村。お前っていいやつだな」


(本当のことに気づいたらどうなるだろうな〜・・・・・)




       ・




       ・




       ・




       ・




「とりあえず、見てみるか・・・・・」


ビデオデッキにビデオを入れて中身を見だした
中に映っていたのは夏に撮った映画だった
編集前のビデオだからNGや外村が撮ったと見られる変なシーンも残っていた


「・・・・・・・・・」


ビデオから流れてくる自分を呼ぶ声やみんなの演技に魅せられて
映画が終わるころには一筋の涙が頬を伝っていた


「・・・・・俺はいったいどうすりゃいいんだよ!!!」


思いっきり叫んで壁を殴った、拳には血が滲んでいた
そして涙を拭い、ベッドに寝転んだ


「わかんねえな・・・・何がしたいんだろ・・・・・」


目を閉じても思い出せない、あの夏の撮影も合宿もビデオを中の事しか


「ぺー・・・んぺー・・・じゅんぺー!」


「うわあ!??」


目を開けると唯の顔が目に入ったのでかなり驚いて退いた


「寝ながら泣くなんて変だね」


「寝てたのか・・・・つーか、なんで唯がいるんだよ!?ここ俺んちの俺の部屋だろ!?」


「あ〜、一緒に住んでることも忘れたんだ〜」


「へ?・・・・・待て、まさかここにお前寝てるんじゃ・・・・・・」


「そうだよ〜、別に気にする必要ないけどね」


すこしへんな妄想をしたのか顔が赤くなる淳平だが、理性を働かせすぐに冷静になった


「・・・で、なんか用か?」


「ご飯できたから呼びにきただけだよ〜だ、食べないならあたしが全部食べよっかな」


「それはやめろ!!」


「じゃあ、早く降りてきなよ」


「いつの間にか成長したんだよな、唯も・・・・」


幼馴染にすこし妙な感情も感情を抱きつつも淳平は下に降りていった
その次の日の朝、淳平のうれしい悲鳴が部屋からこぼれた





つづく・・・・


[No.675] 2004/12/15(Wed) 15:30:38
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忘却〜第3話〜 (No.675への返信 / 2階層) - 惨護



泉坂高校のあるクラスに7日ぶりの声が響いた


「おはよう〜」


淳平のこの行動にクラスの皆はあっけをとられていた
淳平が席についてすぐ外村が近づいてきた


「よう真中、もう学校来ても大丈夫なのか?」


「まあな、それよりおまえには返さなきゃいけないものがあるからな」


淳平は力強くビデオを机の上に置いた、その目は怒りで燃えている


「あ、あっれ〜?握ってる拳は一体何かな〜?」


「分かってるだろ?外村〜・・・・」


淳平の顔は笑っているが目は笑っていない


「いや、あれは出来心で・・・・・・・」


「問答無用!!!」


「ぎゃあああああああ・・・・・・」


外村は一時間目の授業を保健室で過ごす羽目になった
その間、クラスからこんな声が上がっていた


                             「いつもの真中と違うくねえか?」


          「そうだよな、なんか妙に明るいよな」


「お前も!?じつは俺もなんだけど」
                              「真中くん、なんか雰囲気変わったね」

             「なんか休んでた前より真剣っていうか」


                             「私もそう思う」



クラスの声が淳平を追い詰めていってる感じがした
そんな中、淳平はなにもかわらず授業をうけ、放課後を迎えた


「・・・・とりあえず覚えろって言われても無理だぞ、この量」


外村から渡された今まで会ったことのある人物の写真と名簿を机の上に置いた


「クラスのやつらくらいは覚えとけよ、ばれると同情かわれるからな・・・・ところで・・・・」


「ん?なに?」


外村は大体の事情が分かっていたので、誰にも淳平の事は話していなかった
外村は淳平と世間話をしながら、部室で待っていると部室のドアが開いた


「真中〜!」


部室に入ってきた小宮山が淳平に急に抱きついてきた


「ええい、気色悪い!よるな、小宮山!」


「お前、あやちゃんになんかしただろ!!」


「へ?」


話の内容がいまいち読み取れない淳平はつい間抜けな声を出した


「さっき話しかけようとしたら、完全に無視されたんだよ〜」


「いつも通りだろそれ?」


「い〜や、完全に無視する事はなかった!!!」


「・・・・・」


外村がツッコミを入れるたが完全に受け流された


(あの時、なんかぎこちなかったしな・・・・・聞いてみるか・・・)


ちょうどいい時に綾が入ってきた、だがその顔には明るさなど見受けられない


「・・・・・・・」


何もいわないで淳平たちと離れた位置に座った


「ちょっと聞いてくる」


そういって立ち上がり綾の方へ近づいた


「東城!ちょっと話があるんだけど」


「え?何、真中くん?」


「ここじゃ話しにくいし、ちょっと来てくれ」


「う、うん・・・・」


淳平は綾の腕を掴んで部室から出た。それはいつもならするはずの無いことだった


「あいつ変わったな、外村」


「不安なんだろ?」


「は?」


小宮山は外村の一言がまったく理解の出来なかった


「さ〜て、美玲が来ないうちに見るか・・・・いいものが手に入ったぞ!」


「おお!!もちろん、見る見る!!」


机に写真を広げて、すこし外を眺めた
日がだんだん雲に隠れて見えなくなった


(・・・・・あいつ、だいじょうぶだろうか・・・・・・・・)


そんな事を考えながら小宮山といつもの大人の会話を始めた


        ・




        ・




        ・




        ・


淳平は人の気配がまったくない校舎裏まで綾を連れ出した


「真中くん・・・・話って何?」


「あのさ、東城・・・・・」


淳平は振り返り、綾の肩をつかんだ。その瞬間綾がすこしビクついた


「なんで、そんな顔してるんだ?」


「え・・・・・・」


「さっきから笑顔一つ見せないで、なんか暗くて」


「そうかな・・・・・気のせいじゃない?」


そういって笑顔を見せた、だがその笑顔から明るい感情など読み取れなかった


「笑い方が全然映画のときとは違うな」


「え・・・・・」


「外村から借りたビデオに映ってた東城はもっと自然な笑顔だった」


淳平が映画の話をした時、綾の沈んだ顔がすこし明るくなった
しかし、思い出していったことではないと分かるとまた沈んだ


「・・・・・・・・」


「俺のせいだよな・・・・そんな顔になったの」


「違うよ!」


淳平が自分をまた追い込もうとすると綾が叫んだ


「真中くんのせいじゃない!!あたしがこんな・・・こんな・・・・・」


綾が涙目になり黙り込んだ、その瞬間淳平がとうとうキレた


「俺のせいじゃなかったら、誰のせいだ!!!」


「え・・・・・・」


「俺が記憶をなくしたから!俺がみんなのことを忘れたから!そんな顔をしてるんじゃないのか!?」


さっきまでの声の調とはまるで違う、目の前で見ている綾ですら目を疑うほど淳平が変わっていた


「忘れたのは何だ!?それすら分からないんだ・・・・・・教えてくれよ・・・・こんな時は昔の俺はなんていうんだ・・・」


「真中くん・・・・・」


(辛いんだよね・・・・恐いんだよね・・・・・・・・・)


綾は何かを決心し、座り込んでいる淳平の後ろに回りこんだ


「もうわからねえよ・・・・・・」


俯いて嘆く淳平は誰も見たことが無いくらい弱かった、綾はその淳平をやさしく後ろから抱いた


「東城・・・・・」


「たまには泣いてみるのもいいんじゃないかな・・・・・あたしはそう思うけど・・・・・・・」


「・・・・・・・ありがとう、なんか落ち着いた」


淳平は泣くことなく平常心に戻り立ち上がった


「もう大丈夫だよね・・・・・」


「ああ・・・・でも東城・・・・さっき言ってたけど、それは東城にも言えるんじゃないのか?」


「え・・・・?」


「泣きたいときは泣いた方がいい────」


東城は淳平の背中に抱きつき、泣き出した


「東城・・・・・」


「・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・・・」


淳平は振り返らず綾の手を握った


「辛いときや悲しいとき・・・・・こんな俺でよかったら相談に乗るから・・・・」


それから少しの間、綾の泣き声だけが校舎裏に響いた
その泣き声は切なく心にも響いた、泣き止むと綾は淳平の背中から離れた


「大丈夫か?」


「もう、大丈夫だよ・・・・・ありがとう」


「じゃあ、部活行くか!」


「うん!」


綾の自然な笑顔が淳平の顔をすこし赤く染めた


「そうやって笑ってる方が俺は好きかな」


「え?」


「あ、変な意味じゃなくて・・・・」


「・・・・みんな待ってるし行こう」


綾の顔が少し曇ったが淳平はそんなことにまったく気が付かなかった


「そうだな」


(東城、君の笑顔が不安を少し取ってくれたみたいだ・・・・・・)


「ありがとう」


「真中くん、何か言った?」


小さく呟くように言った感謝の言葉は綾の耳には入らなかったが淳平は十分満足していた


「なんでもない、早く行こう」


手を引いて部室に戻ってくると、さつき、美玲、ちなみも部室に来ていた


「お〜帰ってきたか」


「待ってたよ〜、あやちゃぁ〜ん」


「待たせちゃってごめんね、みんな」


小宮山は真中に押さえつけられていたが、ちゃんと反応した


「ところで・・・・外村・・・・あの子たち誰?」


外村に耳打ちしながら美玲とちなみを指差した


「あ〜、あいつらはまだお前の状態知らないんだったな」


「美玲、ちなみちゃんちょっと来て」


「なに?」
「なんですか〜?」


「ちょっと面倒なことになっててな・・・・・」


外村は二人に淳平のことを耳打ちした


「「えええええええええええええ!!!!?????」」


案の定、二人の声が部室に響いた


「本当に!?あいついつもと変わらないように見えるけど・・・・」


「今はな・・・・・・だけど」


「じゃあちょっと遊んでみ〜よう」


外村の話を良く聞こうとせずにちなみは淳平に近づいた


「先輩、先輩」


「なに?」


ちなみはスカートをめくりパンツを見せた
その瞬間、以前見せなかった鼻血と行動を見せた


「・・・・・・」


「あ〜本当だ〜、前と反応が全然違う」


「いいな〜・・・・・」


「なに言ってんのよ!!」


外村がついこぼした一言に美玲が激しく反応し、外村は思いっきり殴られた


「ところで、君誰?」


「端本ちなみっていいま〜す・・・・本当に覚えてないんですか〜?」


「あ・・・・うん・・・・」


「彼女だったって事も覚えてないんですか〜?」


「へ?」


このことには部室にいたちなみ以外の人間が驚いた


「ま〜な〜か〜・・・いつの間に抜け駆けしてんだよ〜!!」


「嘘ですよ〜・・・本当におもしろいですね〜」


笑いながら冗談を言ったちなみだったが、真中の顔は笑っていない


「端本さん、からかうもんじゃないと思うよ」


「東城先輩・・・・・」


真剣な表情の綾、こんな姿誰も見たことが無かった


「すいませんでした」


「いや、いいって端本が疑うのも無理ないし・・・・」


口でそんなことを言ってはいるが心の中はズタズタに切り裂かれた気分だった


「あんた本当に大丈夫なの?」


美玲が淳平の表情の変化を見て声をかけてきた


「大丈夫だって、ところで名前は?」


「外村美玲・・・・・」


美玲は名前を聞いてくる淳平を見て、記憶を失っていることを確信した、だが同時に寂しさすら感じた


「OK、外村・・・・じゃ、かぶるしな・・・・・」


「かぶってもいいって、俺は間違えねえし」


「そうか、外村?」


「「ああ(ええ)」」


淳平は美玲に言ったつもりだったが、外村もつい反応してしまった


「やっぱ間違えてんじゃん・・・・・」


頭を抑えながらため息をつく姿はまったくいままでの淳平には無かったしぐさだった


「じゃあ美玲でいいよな?」


「かまわないけど・・・・」


「んじゃ、改めてよろしく美玲」


「うん・・・・・」


淳平の一連の行動を前髪の下からずっと見ていた外村はすこし暗い顔になった


「真中、今日は帰ってくれ」


「へ?」


「いろいろと説明しなきゃならんしな、お前もあんまり聞きたくないだろ?」


「わかった」


部室から出て行く淳平の姿は生きる希望をなくした人ほど心細かった


「真中先輩を帰らしたのは何でですか〜?」


「みんな・・・・じつはな」


淳平には話していない事を部室にいたみんなに話した


「うそでしょ・・・・・」


さつきは驚きの表情を隠せなかった
それは、小宮山以外の部員にとってもそうだった


「推測でしかないが、本当だ」


少しの間の沈黙、淳平の容態の悪さがみんなの気分を悪くさせていた
だが、綾が沈黙を破いた


「外村くん、西野さんは元気にしてる?」


「分からない・・・・さっぱり連絡も無いし」


外村は携帯をとりだしてチェックをしたが何の連絡も入っていない
また沈黙。だがこんどは美玲が破った

「兄貴」


「なんだ?美玲」


「さつきさんがいないんだけど・・・・・」


「え?」


         ・



         ・



         ・



         ・


日が西に傾き始めた頃、淳平は学校の校門付近にいた


「部室で何を話してたんだろ?」


そんなことを呟いていると背中にきもちいい物が当たった


「真中!」


「さつき!?やめろって!!」


顔をかなり赤くしながらさつきに言った。淳平はすこし名残惜しそうな笑みを浮かべていたが、その顔は以前とは違うものだった


「・・・・なんで暗い顔してんの?」


「いや、そんなつもりは・・・・・」


「ふ〜ん、励ましてやろうとおもったけど、東城さんに先を越されたかな?」


「・・・・・・・・」


淳平は顔を赤くしながら下を向いた


「当たってるみたいね」


すこしにやつきながら言ったが、けっこうイラついていた
だが、気分を一転させ笑顔で


「一緒にかえろっか!」


「でも、部活は?」


「いいの、いいの」


腕を引っ張って家路に向かう二人
日がすこし北にも傾いたように見えた







つづく


[No.680] 2004/12/16(Thu) 18:54:54
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Re: 忘却〜第4話〜 (No.680への返信 / 3階層) - 惨護


いつも一人で辿るはずの家路
にぎやかになるはずの無い帰り道なのにさつきがいるので今日はにぎやかだった


「でさあ、その子が・・・・・・」


他愛の無い話をしながら歩く二人、だが、途中で淳平はつい一言こぼした


「どこまでついてくるつもりだよ」


「なんか言った?」


「いや、別に・・・・・」


そこから何も話さないまま数分歩いた、淳平の家に近づいて来た時にさつきが話を切り出した


「ねえ、真中・・・・・・」


「何?」


「本当に覚えてないの?」


淳平は正直、この言葉は聞き飽きていた。覚えてないのに何度も聞かれてたまに頭がおかしくなりそうにもなっていた


「ああ・・・・・なにも・・・・・・・」


さっき取り去られたはずの不安が淳平の脳裏に過ぎる、それは与えられたものではなく作り出されたものだった


「じゃあ、もう一回がんばろっかな〜」


「何を?」


「真中の彼女になること」


「え!?」


淳平は嬉しさ半分恥ずかしさ半分だった。でもすぐにその顔は暗くなっていった


「・・・・・・・本気だよ、あたし」


「でも・・・・・・」


その顔はやはり不安の色を隠せなかった


「・・・・やっぱり、思い出せないんだよね・・・・自分のことも」


その言葉を聞いた瞬間、淳平は立ち止まり、さつきを真剣な目で見た


「・・・・・・・分かる?」


「外村が言ってたし、どっか違うし・・・・」


淳平の方を向かずにただ歩きながら言った、すると淳平が肩をたたいた


「すこし座って話そうか・・・・・」


淳平はさつきと家の近くの公園のベンチに腰を下ろした


「俺は・・・・・何?」


そう言った淳平の顔は何も変わらない。まるで凍っているようだった


「・・・・・・・」


さつきには黙ることしか出来なかった。無表情の淳平に対してのそれが精一杯の対応だった


「・・・・・俺は起きたとき、自分が何者か分からなかった」


誰も聞いていないのに自分の事を話し出した
さつきにとっては聞きたくないことだったが、淳平のためにひっしで堪えた


「中学までの記憶はある、でもその記憶に自分の姿・・・・声が無い」


「何をしていたのか・・・・何を目指していたのか」


口だけが笑い、怖い笑顔を浮かべる淳平をさつきは見る事ができなかった


「でも、不安にさしたくなかった・・・・みんな泣いてたから」


淳平は何を言ってるのか自分では分からなかった、ただ聞いてくれればいいそう思って言い続けた


「精一杯優しくした・・・・・精一杯明るく振舞った」


「・・・・・・・・」


「なあ、さつき・・・・俺は何?」


淳平はさっきと変わらない顔でさつきの方を向いた
さつきは淳平の顔を見ないように俯いて答えた


「分かんない・・・・・・誰にもそれは分かんない・・・・・・」


さつきは顔を上げてしっかり淳平と目線を合わした


「だってそれは・・・・真中が生きてきた姿でもあるんだから」


さつきの声は淳平の耳に届かなかった


「なあ、俺の夢は何だった?」


淳平の目は完全に死んでいた。映画監督を夢見ていたあの時の輝きなどまったく見受けられなかった


「・・・・・・・・・・」


「答えてくれよ、さつき」


とうとう淳平は不安の色に塗りつぶされてしまった


「・・・・・・・・・・」


「なんでもするから・・・・・付き合ってもいいから・・・・・・」


この軽率な一言がさつきの心に怒りを注いだ
さつきは立ち上がり、淳平のほほを思いっきり叩いた


「っ痛!なにすんだ!・・・・よ・・・・・」


涙を流しながら、拳を握るさつきの姿は痛々しかった


「真中・・・あんたは何も分かってない!!!」


さつきは周囲の人のことを気にせず続けた


「簡単に人を好きになるものなの?夢は人から聞いて思い出すもんなの?」


「・・・・・・・」


「違うでしょ?」


淳平は俯いて黙り込んだだが、さつきはやめなかった


「思い出しなよ、自分が好きなもの・・・・好きだったものを!!」


「分からない・・・・・」


淳平にとって、思い出すことは酷だった
自分がいなくなるんじゃないのかという不安に押しつぶされていたから


「記憶に鍵をかけたのは真中自身なんだから・・・・・・」


「もういい・・・・」


淳平は立ち上がり、さつきの目を見て言った
淳平の目はまだ死んでいた


「真中・・・・・よくないよ・・・・」


「もういい!!!」


そう言った瞬間、さつきは歯を食いしばりまた平手で淳平の頬を叩いた


「あんたは真中じゃない!ただの軟弱者よ!!!」


淳平は叩かれた状態で固まっていた


「思い出すことを避けてんじゃないわよ!!!馬鹿!!!!」


「・・・・・」


さつきは鞄を持って走って公園から出て行った
その目からこぼれた涙が地面をすこし濡らしていた


(また人を傷つけた・・・・・・)


その感傷だけが胸に残った、淳平は頬をさすりながら家に帰った
すぐに部屋に入りベッドに寝そべった


(本当の自分って・・・・・前の俺って・・・・・)


目を閉じるとさつきの言葉が頭の中を木霊した


【「思い出すことを避けてんじゃないわよ!!!馬鹿!!!!」】


(思い出すこと・・・・避ける?)


頭の中で繰り返される映画の中の自分


(・・・・でも、もうこんな思いはしたくないし、させたくない)


(さつきにも東城にも唯にも・・・・あれ?西野だけはちがう・・・・・)


なぜかつかさにだけは違う感情を抱いていた


(憎い?・・・・・・・・・)


(西野が連れ出さなければ・・・・西野とデートしなければ・・・・・)


わなわなとこみ上げてくる衝動を必死で抑えて淳平はベッドから起き上がった


(なに考えてんだよ・・・俺はいったい・・・・・)


頭を掴んで考えていると電話が鳴った
家には誰もいないので、リビングに走って行き電話をとった


「はい、もしもし真中です」


『よう、真中。外村だ』


「なんか用か、外村」


外村はすこし黙り込み、電話の向こうからため息が聞こえた


『・・・・・さつきから全部聞いたみたいだな』


「お前も気付いてたんなら言ってくれよ・・・・自分のこと忘れてるって事」


笑い声が外村には聞こえていたが、その笑い声は聞きたくないくらい暗かった


『俺は言う気にはなれなかった・・・・・』


「やっぱりな・・・・おまえ、そういういいやつだしな」


『まだよく思い出してないのに、俺のいいところが分かるとは感心したぞ』


思い出すという言葉に敏感に反応する淳平


「悪いところもだがな」


『はっはっは・・・・すこしは戻ったって感じだな』


「そうか?」


『まあな・・・・ところで・・・・』


そこからすこし他愛の無い話が続いた、時計の針が5時をさした頃そろそろ話も終わりかけていた


『あと、一つ忠告しておくけどな、結論をすぐだそうとするな』


「へ?」


『自分がどうして記憶を失くしたのかを・・・・・』


「分かってるって・・・・・」


暗い声が外村の電話から聞こえた
まだまだだなと思いつつ外村はパソコンを開いた


『じゃあな、俺はHPの更新があるのでな』


「おう、また明日学校でな」


電話を切り、机に置いた。その顔にはさっきまでの暗さがすこし抜けていた


「・・・・・結論をすぐ出すな・・・・か・・・・・」


淳平はそんな事を呟いて部屋に戻っているとまた電話が鳴った


「ん?また電話か・・・・・・」


いそいでリビングに戻り電話をとった


「はい、もしもし真中です」


『あ、淳平くん?』


淳平にとって今一番会いたくない人物の声が電話から聞こえた


『唯ちゃんから・・・・・淳平くん?』


「・・・・・・」


淳平は名前を呼ばれるたびに怒りとも悲しみともいえない感情が心に満ちていった


『どうしたの?』


「なんでもない・・・・」


その声はさっき外村と話していた時の声とは別物だった


『なんでもなくないよ』


「なんでもない・・・・・」


暗く気味の悪いほど低い声がつかさの耳に聞こえていた


『なんかおかしいよ、声が────』


「なんでもないって言ってるだろ!!!」


『!!!!』


つかさが喋っている途中に、淳平は何かに押されてキレた


『ごめん、俺、気分がよくないし・・・・じゃあ』


『ツーツーツー・・・・』


淳平に一方的に切られたつかさの目には涙が溢れていた


「・・・・・淳平くん・・・・・・」


携帯電話を抱きしめて、つかさは涙を流した


「なに言ってんだろ・・・俺・・・・・・」


電話を机に置き、さっきのことをため息と共に嘆いていた


「ただいま、じゅんぺー」


「な・・・・唯!?」


「まだ慣れてないの?」


顔を赤くしながら軽く頷いた、その姿を見て唯は笑った


「ところで唯、その箱なんだ?」


「あ!これ?これは・・・・淳平へ西野さんから大事な預かり物だよ〜」


つかさの名前を聞いた瞬間、さっきのことを思い出した
淳平はとてもじゃないが受け取れるような状態ではなかった


「・・・・俺は・・・・・・」


「文句言う前にとりあえず開けてみようよ、ね?」


「・・・わかったよ、唯」


とりあえず、淳平は箱を開けた。中にはいちごのショートケーキがふたつ入っていた


「・・・・・・」


「美味しそうでしょ?そのケーキ、西野さんの手作りなんだよ。後、これ」


「手紙・・・・・」


「今読んだほうがいいんじゃない?なにか大事な事書いてありそうだし」


淳平は封を切り、手紙を広げて見だした


《淳平くんへ

こんな形でしかあたし、謝れない

ごめん、あたしがデートなんかに誘ったから

こんなことになって・・・・・・・

感謝と淳平くんの回復を願って作りました

唯ちゃんと一緒にしっかり食べてね☆

             西野 つかさより

P.S.ちゃんと食べないと、怒るよ!》


さっきまでの感情とは逆の感情が淳平の心を充たしていった


「西野・・・・・・」


手紙を握り、自分の不甲斐無さを恨んだ


「食べないの?」


「いや、食べる」


フォークと皿を用意していると、唯が笑顔でこういった


「なんか元に戻ったね」


「へ?」


「さっきまで死にそうなくらい暗い顔だったのに、なんか明るくなった」


「そうか?」


誰の所為で暗くなり誰のお蔭で明るくなったかは淳平は理解できていた


「そうだよ!とにかく早く食べよ〜」


「・・・・・さきに食べててくれ」


「どこ行くの?」


「ちょっとな・・・・でも、俺の分は残しとけよ!」


そう言って、飛び出すように走って出て行った


(自分だけが辛いんじゃないことは東城と話した時に分かっていたのに・・・俺のバカ野郎!!)


「はぁ・・・はぁ・・・・・・」


数分走ると目標の家まで到着した


「・・・・ここだな・・・・・でも、なんで覚えてんだ?・・・・・」


そんなことを疑問に思いながら、インターホンを鳴らした
すぐにインターホンからつかさの声が聞こえた


<どちらさまですか?>


「西野・・・・真中淳平だけど・・・・」


<え?淳平くん・・・・>


驚きの声がインターホンから聞こえてきただけど、その声は哀しい声にも聞こえた


「話があるんだ。ちょっと外に出てくれないか?嫌ならいいけど・・・・」


<・・・・ちょっと待ってて>


インターホンが切れると玄関のドアからノックの音が聞こえた


「あまりいいかっこしてないから・・・・・ドア越しじゃあ、だめ?」


「いや、充分だよ・・・・ここで言うし」


淳平はドアに背中をあわせた、つかさもドアに背中を合わせた


「で、話って?」


「・・・・・さっきはごめん・・・・なんていうかその・・・・」


つかさは背中に感じるはずの無いぬくもりを感じた、その瞬間すこし涙が溢れた


「なんでも謝れば、許してもらえると思ってるの?」


(や、やっぱ怒ってる・・・・・)


「いや、その・・・・・・」


ドア越しでも淳平が恥ずかしがっている動作がつかさには分かった


「今回だけだからね・・・・今度したら・・・・」


淳平は息を呑んでつかさの声を待った


「デートに誘ってね」


「へ?なんて?」


「じゃあね、あたし忙しいんだ」


淳平の聞き返しに応えず、つかさは家の奥に戻っていった


「と、とりあえず助かったんだよな・・・・・」


淳平はホッと胸をなでおろして家路に着いた


「淳平くん・・・・よかった・・・・・・」


さっきとはちがう嬉しさの涙がつかさの枕を濡らした


「ただいま〜・・・って誰もいない・・・・」


淳平が家に帰ると誰もいなかった、リビングの机に置手紙があった


《じゅんぺーへ

友達と約束があるので、ちょっといってきま〜す

遅くはならないと思うけど、おばさんに言っといてね☆

あと、怒らないでね、つい手が出ちゃった

             唯より》


机に置かれたケーキが手紙の内容をよく示していた


「唯のやろう・・・・・・一口だけって・・・・・」


とりあえず残ったケーキを口に運んだ


「・・・・うまいけど、物足りない・・・・・・」


淳平はフォークを握りながら嘆いた


「でも、なんで西野の家の事を覚えてたんだ・・・・・?」


今ではつかさの家の位置はいつでも思い出せるが外村の家の位置はまったく思い出せない


「わかんねえよ・・・・」


淳平はどんな事でも答えが出るまで時間がかかるようだ






つづく・・・・・



追伸:さいごの方がすこし適当になってしまった事をお詫び申し上げますm(__)m


[No.685] 2004/12/17(Fri) 18:51:41
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忘却〜第5話〜 (No.685への返信 / 4階層) - 惨護


6限目とはいえ、授業中にもかかわらず完全に寝ている淳平


「・・・・・・」


淳平は昨日の事を考えていたら眠れなかった
その所為でいま熟睡している


「真中!!」


数学の授業、文系の淳平にとっては苦手な授業だった
しかも寝ていたのが先生にばれ、当てられてしまった


「は、はい!」


「この練習問題35の(1)を解いてみろ」


小宮山ならすぐにねを上げるような問題だったが


「え〜っと・・・・・」


淳平は問題を少し読んでから


「log10 6=log10(2×3)=log10 2+log10 3=0.310+0.4771=0.7781です」


淳平が完璧に答えたため先生はすこし呆然としている


「座ってもいいですか?」


「よ、よろしい!次の問題は大和!」


淳平はまた眠りに入ったが起こされる事なく、授業は終わった
それと同時に外村が驚きながら近づいてきた


「今日はどうしたんだ、苦手のはずの数学を完璧に答えて」


「昨日いろいろあって眠れなくて暇だったから、予習してただけだって」


「ほ〜う、あのときの岡持(数学教師)の顔は面白かったぜ。口をあけて驚いてやがったし」


外村は笑いながら言うものの淳平の顔は笑っていなかった


「ところで、昨日さつきになんかしただろ?」


「え?・・・・なんで?」


淳平は気にはしていたが外村にばれていたのでかなり動揺した


「今日はめずらしく学校を休んでるぞ、さつきのやつ。たてまえは風邪で休んでいるがな」


「・・・・・・」


「心当たりはあるみたいだな」


淳平の顔色の変化を見ていた外村はすこし呆れて言った


「家の場所分かるわけないよな・・・・」


「えっと、たしかだな」


淳平がすこし呟いただけだったが外村はすぐに地図を出し、淳平の机の上に広げた


「この3−1の大川さんの家を右に曲がって、すこし行ってこの1−6の如月さんの家を・・・・・」


淳平はかなり驚いていたがいろんな意味で外村が恐くなった


(なんでここまで女の家を知ってるんだ・・・・・)


そうこうしているうちに外村の説明が終わった


「そう行ったらさつきの家だ」


「あ、ありがとな、外村・・・・でも、行ってもいいのか?」


「部の方なら任せておけ、まだ脚本も出来てないからな」


「そうか・・・・じゃあ行ってくる」


「頑張ってこいよ〜・・・・」


走って教室を出て行った、校舎を出る途中、天池と綾が楽しそうに会話をしていたが
何も気にしないまま通り過ぎた
そして、急いでさつきの家に向かった


「ここがさつきの家だな」


つかさの家のインターホンを押した時のようにすこし緊張しながら押した


<だれですか?>


インターホンに出たのはさつきじゃなく、弟の方だった
家族構成の事などまったく知らない淳平は年下とも知らず敬語で話した


「あの泉坂高校2年の映像部の真中って言いますけど、さつきさんいますか?」


<さつきねえちゃん?ちょっとまってて>


さつきの弟はどたばたと音をさせながらさつきの部屋に向かった


「ねえちゃん、真中っていう人がきてるよ」


「!・・・・・会いたくない」


すこし体をビクつかせたが布団に包まって弟に背中を向けた


「彼氏?けんかした?」


「どうでもいいでしょ!!とにかく、会いたくないの!!!」


背中を向けたまま話すさつきの姿は弟にとっても強がりにしか見えなかった


<会いたくないって言ってる>


インターホンから聞こえてきた返答ですこし暗くなった


「・・・・じゃあ、昨日の公園で待ってるって伝えてください」


<うん、わかったじゃあね>


またどたばたという音を立ててさつきの部屋に戻ってきた


「ねえちゃん、真中って人が公園で待ってるって」


「・・・・・・・あたしは風邪なんだから向こうに行ってなさい!」


そういって今度は顔を隠すほど布団に包まった


「わかったよ・・・・風邪なら風邪らしく寝ててよ、俺ともだちと遊んでくるから」


弟が出て行った後、さつきは起き上がり洗面台の鏡の前に立った


「真中・・・・・」




         ・



         ・



         ・



         ・




(俺が悪いんだよな・・・・・・)


昨日と同じベンチに腰を下ろして考え込む淳平


(逃げてたんだよな・・・・・きっとどこかで)


空を見上げると、もう空はオレンジ色になり始めていた


(俺はこのままでも生きていけるそう思ってたのかもな・・・・・)


今度は下を向いた、影が伸びていくのが目に見えて分かった


(もう俺は・・・・・)


「!!??」


決心して顔を上げると目の前に飛びついてくる人影が見えた


「真中!」


「さつき!?お前・・・・いいのか?というより先に離れてくれ・・・」


さつきはゆっくりと淳平から離れた


「本当は会いたくないけど、勝手にね・・・・で、なんか用なの?」


いつものように笑顔を振りまくさつき、だがその顔は妙に赤い


「・・・・・き、昨日はなんていうか・・・自分でも意味が分からない状況だったっていうか・・・・・」


淳平はえがおにすこし見惚れていたが、目的を思い出し顔を赤くしながら恥ずかしそうに話し出した


「とにかく、嫌な気分にさしてほんとうにごめん」


淳平が頭を下げようとするとさつきがそれを止めた


「・・・・あたしの方こそごめん」


逆に頭を下げられて淳平はかなり焦っていた


「つい手が出ちゃって・・・・」


「か、顔を上げろって、俺が馬鹿なこと言わなきゃさつきも怒らなかっただろうし」


さつきが顔を上げるとはにかむ笑顔の淳平がいた


「何より俺の事を考えていってくれてたんだし、悪いのは俺の方だ」


「・・・・優しいね」


「へ?」


「そこだけは変わってない・・・・真中がどんなに変わってもきっと・・・・・」


そういわれて恥ずかしくなったのか頭をかきながら顔を赤くした


「じゃあね、真中・・・・」


さつきはそう言って公園の出口に向かったがその足はふらついていた


「さつき?」


淳平が声をかけようとしたらさつきは地面に倒れた


「おい、さつき!しっかり・・・・」




         ・



         ・



         ・



         ・



さつきが目を開けると見慣れない部屋のベッドに寝ていた


「ここは・・・・?」


「ここは俺の部屋、でもまだ寝とけよ・・・・あの後急に倒れたんだから」


淳平が優しい笑顔で起き上がろうとしたさつきの額をおして、また寝さした


「風邪ひいてるんなら来なくてもよかったのに・・・・・」


「・・・・迷惑かけてごめん」


「気にすんなって・・・・・」


「そうだよ〜、さつきさんは気にする事ないよ〜」


「真中・・・・唯ちゃん・・・・」


涙ぐんだが涙を見せないように顔をうつぶせた


「とりあえずこれで体温計っとけよ」


「ありがと」


淳平に背中を向けたまま体温計を受け取り口に含んだ


「俺、台所から氷持ってくるから少しの間看ててくれ」


「うん、わかった」


淳平が部屋から出た瞬間、唯はさつきに近づいた


「さつきさん、じゅんぺーになんかいわれたでしょ?」


「べつに・・・・」


さつきはすこし唯が苦手だったので無愛想な対応をした


「ふ〜ん・・・でもじゅんぺーは昨日、寝ずにいろいろ考えてたみたいだったよ、みんなに悪いことしたって嘆いてたし」


「・・・・・・・・」


さつきは唯の話をきいてすこし気分が楽になった


「体温どうですか?」


さつきはくちから体温計を取り出し、体温計を見た


「38度5分・・・・」


「・・・・今日泊まっていったら?じゅんペーも事情はなしたら大丈夫だと思うし」


「でも・・・・・」


「大丈夫、大丈夫、なんとかなるよ」


うまいタイミングで淳平が氷を持って部屋に戻ってきた


「さつき、氷もって来たぞ」


「じゅんぺー、さつきさん泊まってもらおうよ。熱下がんないみたいだし、もうおそいし」


淳平は外を見た、もう日が暮れてあたりはすっかり暗くなっていた


「でも、さつきの家もさつきがいないと心配だろうしな・・・・」


「大丈夫、親はいないし、弟たちもなんとかできると思うし」


淳平はすこし考えたが


「・・・・・わかった、しっかり休めよ」


「うん、分かってる」


「俺はちょっと外村の家に行くから、唯、あと頼むな」


「わかった、おばさんにも言っとくね」




         ・



         ・



         ・



         ・



(外村を理由に抜け出してきたけど、ばれないよな・・・・)


淳平は思い出すためにうそをついて公園のベンチにまた座っていた


(考えなきゃな、自分の記憶の事・・・・・・・)


あの部屋にいたくないわけではなかったが思い出すために考える姿を見て寝ているさつきが心配しそうで怖かった


(あ〜駄目だ、何にも思い出せない!!)


(でも、不思議だな・・・・・西野の家を覚えてただなんて)


昨日のことを思い出しながら下を向いた


(偶然にしては出来すぎてるし・・・・・なぜ?)


「・・・ん・・・・くん・・・・・」


下を向きながら考えていると自分を呼ぶ声が聞こえたので顔を上げた


「・・・・ん?」


「真中くん、だいじょうぶ?」


「下向いたまま何かうなってたから、おなかいたいのかなって思ったんだけど・・・・」


「あ・・・・ぜんぜん大丈夫だから」


淳平は顔を赤くして恥ずかしそうに笑った


「よかった!」


胸をなでおろしながら笑う綾を見て、淳平の顔がさらに赤くなった


(可愛いよな〜・・・・彼女だったらどれだけ嬉しいだろうか・・・・・)


淳平はいつの間にか横にいた綾の顔を見惚れていると


「真中くん、聞いてた?」


「あ、ごめん・・・・・」


「だからね、今日近くに来たのはこれ見て欲しかったの」


淳平は見たことの無いような本を手渡された


「読んでみて」


内容は人の闇を見すぎて人間不審になった青年に
愛情をもって接していく女性の姿を描いた作品だった


「・・・・すげえ、東城って作家の才能あるよ!」


「前も言ったよ、そのことば」


綾はすこし冷たい声で淳平に言った


「え、それはごめん・・・・」


「ふふ・・・・仕方ないよ、忘れてるんだから」


その言葉に淳平はすこし暗くなった


「・・・・でも、前に見たノートの小説の方が好きだな」


「え・・・・」


「だってさ・・・・・」


綾は淳平が記憶を失くした後は誰にも一度も見せた事が無かった


「真中くん、覚えてるんだね」


「・・・・覚えてる?」


「あたし、真中くんに病院に運ばれた後一回もノート見せてなかった・・・・」


淳平ははっとした、内容は覚えているがいつどこで覚えたのかは覚えていなかった


「・・・・・なんでだろ?」


(完全に忘れたわけじゃないのか?)


また黙り込んで下を向き考え始めると綾が淳平の肩をたたいた


「悩んでいても何も始まらない」


「動く事から始めよう」


「・・・・・・・・」


その台詞はさっきの小説の中の女性が青年に告白するときにいった言葉だった


「東城・・・・ごめん」


「謝る必要はないよ」


その言葉は淳平にとって救われるような気がした


「・・・・・俺、帰んなきゃ・・・・・・唯も心配してるだろうし」


「うん、またね」


笑顔で手を振って公園から出て行く綾の姿はなぜか淳平の頭からいつまでも離れなかった
淳平はいい気分のまま帰宅すると起こった唯が玄関で待っていた


「ただいま」


「おそいよ〜、もうご飯できてるんだから」


「ごめん、唯」


いつもなら平謝りなのにしっかり謝ったので唯は仕方なく許した


「ごちそうさま・・・・」


すぐに夕飯を済ました淳平は気分よく部屋に帰るとさつきがすやすやとねていた


(あ〜そういえば、さつきが寝てたんだよな・・・・)


「・・・・・」


寝ているさつきはいつもの活発な姿を思い浮かばせないほどおしとやかなものだった


(う〜ん妙に色っぽいな・・・・・)


淳平はまじかで見ながら顔を赤くした


(・・・・いかんいかん、自主規制をかけないとな・・・・)


妄想モードにはいりかけたとき、さつきに急に腕をつかまれた


「・・・・・・真中」


「ん?どうした?」


「!!!!!」


さつきは淳平に抱きついてきた


「寒いよ・・・・」


身を震わせながらいうさつきに離れろとは言えなかった


「いっしょに寝よ?」


(おいおいおいおいおい・・・・・こんな展開ありか?


A.いっしょに寝る

B.断る

C.おs(ry


Cはだめだな・・・・・やっぱ、Bしかないよな・・・・・・・いや、Aでも・・・・・)


淳平が考えているなかも夜は更けていく



つづく


[No.692] 2004/12/18(Sat) 20:54:55
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忘却〜第6話〜 (No.692への返信 / 5階層) - 惨護



淳平は悩んだがすぐに結論を出した


「・・・・やめとくよ」


「・・・なんで?」


「男と一緒に寝るなんて嫌だろ?」


「・・・・真中なら大丈夫・・・・・」


さつきの声が震えていた、寒さからなのか恐怖からなのかは分からなかった


「でも・・・・・襲うかも・・・・」


「真中ならいいよ・・・・」


「・・・・・やっぱり、やめとく」


淳平は表情を見せないように俯いて言った


「なんで?」


「愛せない・・・・俺には・・・・・・」


俯いたまま本音を言ったが、さつきからの返答がまったく無かった


「・・・・・・・」


「さつき?」


淳平が顔を上げると、小さな寝息をたてて眠るさつきがいた


「寝ちまったか・・・・」


ずれていた布団を直しながら、淳平はすこし笑った


「これでよかったんだよな・・・・・・でも、まだ苦しそうだな・・・」


さつきの顔は赤く、熱を持っていた、淳平は濡らしたタオルをさつきの額に置いた


「眠いけど・・・・看とかないとな・・・・・」




          ・



          ・



          ・



          ・


「・・・・ん・・・んん・・・・・朝か・・」


差し込んでくる朝の日差しでさつきは目を覚ました


「・・・・あの後、すぐに寝ちゃったっけ・・・・」


起き上がってベッドの上に座った


「なんて言ったんだろ・・・・・」


横目でベッドにもたれかかって眠る淳平を見た


「・・・気持ちよさそうに寝てるな・・・真中」


音を立てずに眠る淳平の顔はすこし笑っていた


「あれ、まだタオルが冷たい・・・・」


額に引っ付いていたタオルを触った、まだ濡れていて冷たかった


「寝ずに看ててくれたんだ・・・・」


さつきは必要以上の優しさに心を打たれた


「優しすぎるよ・・・・かっこよすぎるよ・・・・」


溢れてくる想いのように涙が頬を伝った


「あたしなんかのために・・・・・・」


さつきは涙を拭い、淳平の頭に唇を近づけた


「ありがと・・・」


「さつき・・・・・・・」


唇が頭に触れた瞬間、淳平が名前を呼んだ。さつきはかなりどきどきしていた


「・・・はやくよくなれよ・・・・・zzzz」


「寝言か・・・・・・」


さつきは何か書いた後、ゆっくりと部屋から出て行った


「じゃあね・・・」


さつきが出てから数分後淳平は目を覚ました


「ん?もう朝か・・・・」


すこし背伸びをして、床に寝転がった


「そういや、さつきは・・・」


さつきの事を思い出し、ベッドを見たら手紙が置いてあった





《真中へ

今日まで看てくれてありがと

熱も下がったし帰るね

唯ちゃんにもお礼言っといて

        さつきより》


「あいつらしいな・・・・」


手紙を読んですこし笑うと、ベッドに寝転がった


「ふぁ〜あ・・・眠いし・・・・もっかい寝るか・・・・・」


さつきがさっきまでいたためか甘い香りがした



          ・



          ・



          ・



          ・



「・・・い・・・・ぺい・・・・・淳平!!」


「う〜ん・・・・何だ母さんか・・・・」


目を擦りながら眠そうに母のほうに顔を向けた


「何だ母さんかじゃないわよ!女の子が来てるわよ」


「母さん・・・事情知ってるだろ?だからもう一眠りさせてくれよ」


必死で起こすものの徹夜続きで眠い淳平にとっては無意味だった


「淳平!もう・・・・ごめんね、昨日寝ずに看病してたから疲れてるみたいで」


「そうですか・・・・じゃあ、また寄らせていただきます」


部屋まできていた少女は丁寧に挨拶し部屋から出て行こうとした


(・・・・この聞き覚えのある声は・・・・・)


淳平は少女の声に反応し起き上がった


「東城!?」


「お、おはよう真中くん」


かなり驚いていた淳平にすこし圧倒されつつも綾は笑顔で挨拶した


「なんでこんなとこに来たんだ!?」


「ちょっと、次の台本で聞きたいことがあって・・・」


前に淳平に見せた本を鞄から取り出し、ベッドの上に座る淳平に本を手渡した


「あらあら、お邪魔みたいね・・・・ごゆっくりね」


「さっさと出てってくれよ!!」


母は笑いながら茶化すように言って出て行った、その所為か綾の顔は赤い


「ごめん、東城・・・気悪くした?」


「ううん、ぜんぜん大丈夫・・・・・ところで、さっき聞いたことだけど」


恥ずかしそうにそう答えた綾にすこし淳平は見惚れていたが、すぐに冷静になった


「・・・・今の俺に答えることができるかは分からないけど、言ってみて」


「P102のヒロインの台詞だけど」


本を開き、淳平はそのページに目を通した
そのページのヒロインの行動は人殺しを目の当たりにし、完全に人に失望した青年に対して告白するところだった


「・・・・完全に人を嫌いになったってことはあたしも嫌いなの?≠チてところ?」


「ううん、その次のところ」


「そんな君をあたしは好きなの≠チてところ?」


淳平はヒロインの台詞よりも主人公の青年の台詞が気になっていた


(そうだ、だからもう忘れてくれていい・・・・俺はだれも好きにはなれない≠ゥ・・・・)


(俺も一言でいいからこんなかっこつけたこと言ってみてえな・・・・・・)


すこし半笑いの淳平を気にしつつも綾は続けた


「うん、そこなんだけど・・・・愛してるの≠フほうがいいかなって思ったんだけど・・・・変えるべきかな?」


「どっちでもいいんじゃないかな・・・・つーか東城が決めなきゃだめじゃないかな?おれそういう才能ないしさ」


最近考える事の連続で疲れている淳平はあいまいな答え方をした


「でも、あたしが決めるよりも男の人がどっちのほうが男の人の心に響くか聞いたほうがいいと思ったの」


真剣な表情で言う綾に淳平はすこしどきっとした


「弟は聞いてくれそうもないし、外村くんは電話しても出ないし、小宮山くんの家は知らないし・・・・」


綾の声はだんだん小さくなっていった、その姿を見て淳平は


(・・・・・初めに来てくれたんだろうな・・・・まじめに答えなきゃ・・・・)


さっきのあいまいな返事を悔やみ、ちゃんと考えた


「・・・・やっぱり愛してるの≠フほうがいいかな・・・・」


その表情は記憶を無くす前に映画の事を語っていた淳平に似ていた


「好きって言ってくれるより愛してるの方がいいよ、言われる方にとってはさ・・・だって嬉しいし」


「・・・じゃあ、そうするね」


「俺は女の人からいわれたことなんかないけどね・・・・」


淳平は自分自身の一言ですこし鬱に入ったが


「聞きたい?」


「へ・・・」


綾の一言で一気に顔が赤くなった


「こんども主演に真中くんにしたら言われるでしょ?女の人から」


「あ〜・・・・そうだな・・・・」


淳平はすこし期待したが、映画の話と分かるとがっかりした


「用事も済んだし・・・じゃあね、また学校でね」


「またな・・・」


綾が帰った後、すぐにベッドに寝転んだが眠る事はできなかった


(一昨日くらいからほとんど寝てねえな・・・・)


(でも、すこしずつ戻ってきてる・・・)


手を上に上げ、何かを掴むように手を握った


(東城の小説・・・・西野の家の位置・・・・・なんの接点があるんだ・・・・)


そうしているうちに目蓋が重くなってきたが、最悪のタイミングで電話が鳴った


「もしもし、真中ですが・・・」


<よう、真中!>


電話の主は外村だった、睡眠の邪魔をした相手が小宮山だったら電話をすぐに切っていただろう


「なに用だ?」


<よう、記憶はどうだ?>


「ぜんぜんだな・・・・つーか寝かけの時に電話するな!一昨日からほとんど寝てねえんだ・・・・」


<それはすまなかったな・・・・・・ところで>


外村が何か話そうとした時、キャッチホンが来た


「ん?キャッチホン来てるから、後で折り返す」


<・・・・わかった、後でな〜>


すぐに外村からの電話を切り、キャッチホンの電話を取った


「もしもし、真中です」


<淳平くん!たいへんなの!!>


今度の声の主はつかさだった、そのお蔭か一気に眠気が吹っ飛んだ


「どうしたんだ、西野?」


<唯ちゃんが、階段で足を滑らして・・・・>


「え!!!????唯は今どこだ!!!」


つかさの声のトーンの低さが淳平を余計に焦らせた


<桜学だけど・・・・>


「わかった!!すぐ行く!!!」


淳平はそういって電話を一方的に切り、外へ飛び出していった


「どうしたのかしら、淳平?血相変えて出て行って」


何も知らない母はゆっくりと家事をこなしていた




          ・



          ・



          ・



          ・






淳平はどれだけ必死になって走ったのか目に見えて分かるぐらいの早さで桜海学園についた


「はあ・・・はあ・・・・・・」


中に入ろうとしたが、案の定警備員に止められた


「ここから先は立ち入り禁止だ!」


「どけ!!唯が!!!」


何十人もの血気盛んな高校生を止めてきているだけあって淳平じゃ歯が立たなかった


「どいてあげてください!怪我した子のお兄さんなんです!!」


「西野!?」


「そうなのか?」


「そうだ!とにかく、どいてくれ!!」


西野のフォローのお陰でなんとか桜海学園に入ることができた


「西野!唯は!?」


「校舎の一階の右端に保健部があるからそこに・・・」


「分かった!」


つかさが指差した校舎に走って入った


「右端・・・・・ここか!」


保健部のドアを壊すぐらいの勢いで開けた


「唯!!」


「やっほ〜、じゅんぺー」


淳平は椅子に座って元気に笑う唯を見て思いっきりずっこけた


「え・・・・・・重症じゃないのか?」


「別にちょっと階段から滑らして足ひねっただけだけど」


「・・・はぁはぁ・・・淳平くん・・・・話も何も聞かずに電話を切っちゃうんだもん」


後から来たつかさに事情を聞いた淳平は唯に抱きついた


「じゅんぺー・・・・」


「心配したんだぞ・・・・馬鹿やろう・・・」


「ごめん・・・・」


淳平は頬を伝った雫を拭い、唯から離れた


「謝る必要ねえよ・・・・俺が勝手に心配したんだし」


「じゅんぺー・・・・・」


「さ〜て、何でそうなったか話してもらうぞ」


唯と淳平が楽しそうに話しているのをつかさと保健部の先生が見て笑っていた


「ふふ・・・西野さん、彼はいいお兄さんね・・・・」


「あたしもそう思いますよ、近藤先生」


「西野さんが悩む理由、分かる気がするわね」


「・・・・・・」


すこし恥ずかしいのかつかさは顔をほのかに赤く染めた


「学園一といっても過言じゃない美少女が男の事で相談してきたときは正直びっくりしたわよ」


言われるたびにつかさの顔の赤さが増す


「あなたを悩ます男なんてどこまでかっこいいんだろうって思ってたけど・・・」


近藤先生は笑いながら横目で淳平を見た


「とにかくどうやって帰るんだ?」


「う〜ん・・・・じゅんぺー、おんぶして」


「・・・・しかたねえな・・・わかったよ」


「じゅんぺー、他の人より非力だけど大丈夫なの?」


「うるさい!けが人は黙ってろ!!」


淳平と唯のやり取りを見て近藤先生の笑いが増す


「顔はともかく、いろんな意味でかっこいいわね・・・・・」


近藤先生の前ではつかさは下手なことがいえなかった


「あなたを守った時といい、やさしいのね・・・」


つかさは顔を赤くしながら大きく頷いた


「あたしには何もできないけど、がんばってね」


「はい・・・・」


「西野!」


「な、なに?」


つかさは顔が赤いので俯いたまま淳平の方を向いた


「唯が一緒に帰ろうってさ」


「じゃあ、正門で待ってて」


「わかった」


淳平はすこしにらむように見ている近藤先生に気がついた


「あ、先生、唯がお世話になりました」


「気にしないで、これも仕事だから」


「いえ、仕事でもしっかりしていただいたので・・・本当にありがとうございました」


しっかり頭を下げると近藤先生は笑いながら


「面白い人ね・・・・とりあえず、唯ちゃんには早退届だしとくから連れて帰ってね」


「はい」


「じゅんぺー、はやくおんぶして〜」


「わかったって・・・・」


淳平は唯をおんぶして保健部から出て行った


「西野さん、あなたも早退ね」


「え!?」


「あなた、約束破る人じゃないでしょ?」


つかさは静かに頷いた


「早退届だしといてあげるから、そのかわりがんばりなさいよ」


「はい!」


飛び切りの笑顔をして保健部から出て行った




          ・



          ・



          ・



          ・



つかさにとってありえなかった淳平との帰り道
楽しそうに笑いながら歩く二人


「西野、こいつのわがままに付き合わせてごめん」


淳平のせなかで寝ている唯の方を見ながら言った


「いいよ、どうせ後の授業でても無駄だったし」


「え、まだ授業あったんだ・・・・ほんとにごめん」


淳平はすこし首をさげて謝った


「大丈夫だって、単位もしっかりとれてるし、何より・・・・・」


つかさはすこし顔を赤くした、それを見て淳平はすこし期待した


(もしかして・・・・俺と帰りたかったとか?・・・・)


「唯ちゃんが心配だったし」


淳平はすこし期待していた分、一気に暗くなった


「どうかしたの?」


「いや別に・・・・・」


楽しく話していると時間が過ぎるのも早く、もうつかさの家に着いた


「またね、淳平くん」


「またな、西野」


淳平はそういって振り返ったがまた向きなおした


「あ、そうそう・・・」


「なに?」


「この間のケーキうまかった、ありがとな!!」


淳平は思いっきり手を振って帰っていった


「・・・・・」


淳平の優しさがいつまでもつかさの胸に残っていた




つづく・・・・・・


[No.699] 2004/12/20(Mon) 21:46:46
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忘却〜第7話〜 (No.699への返信 / 6階層) - 惨護


金曜日の授業は登校するのが足取りが重くなる人もいるのだが淳平はその重さが違った


「・・・・ゴホ・・・ゴホ・・」


足を引きずるように歩き登校した、教室に入ると倒れるように机にうつぶせた


「おい、真中・・・・」


外村がすこしキレかけで笑いながら淳平に近づいてきた


「外村・・・なんだ?」


淳平の声がいつもより低くかすれている


「昨日、後で折り返すって言っておきながらまったく来なかったんだが・・・・」


「あ゛〜・・・・すまん、外村・・・・事情が・・ゴホ・・・あってな・・・・・」


昨日、唯が怪我したことを外村に話すと外村がすこしにやついた


「ほ〜う・・・・それなら仕方ないがお前はシスコンか?」


外村のその言葉に反応し、淳平は顔を上げた


「なに言ってんだ?・・ゴホ・・・・普通心配するだろうが・・・・」


「そのこと自体がシスコンなんだって」


笑いながら言う外村がよりいっそう淳平をむかつかせた


「おまえはしないのか・・・・・」


「しますが、それがどうかしましたか?」


外村のこの開き直りが淳平を怒りにおいやったが、頭が痛いのでやる気にならなかった


「・・・・ところで、電話で何が言いたかったんだ・・・・・」


「昨日さつきと一緒だっただろ?なんかしたのかな〜って思ってな」


淳平は他の人物が知っているはずの無いことを聞かれてかなり驚いた


「何で知ってるんだ・・・ゴホゴホ・・」


「昨日の朝にお前の家の前を通りかかった時、さつきが出てくるのを見てな」


淳平にはさっきから笑いながら話している外村が悪魔に見えてきた


「なんで朝早くから俺の家の前を通るんだ・・・・・」


「まあいろいろと情報収集をしてて朝帰りだったもんでな」


(いろいろと情報収集・・・しかも朝帰り・・・・・なにしてやがんだ・・・・・)


淳平は深く考えようにも頭がボーっとして考えることができなかった


「で、どうだったんだ?」


「看病してただけだ・・・・」


「なんで看病してるんだ?」


さつきとの事情もすべて話すと外村の笑いがさらに増した


「ふ〜ん・・・・ところで真中、今日は元気ねえな、どうした?」


「体がだるい・・・ゴッホ・・・」


声が低く、体がだるい完全に風邪だった


「風邪か?しかし、馬鹿は風邪をひかないはずだが?」


「知るか・・・・・・」


そういって机にまたうつぶせになると外村が淳平の肩を叩いた


「・・・・とりあえず、保健部いくぞ」


そういって外村は淳平を立ち上がらせ、肩を持って一緒に教室から出た


「もうすぐ1限目始まるぞ・・・ゴホ・・」


「あ〜構わん構わん、どうせ遅れても成績は変わらん」


「・・・・・・・・・」


今回ばかりは外村の言動にむかつきつつも感謝した
保健部につくとすぐに熱を測らせられた


「38度7分・・・・・」


「ご両親は?」


「今日、両親が結婚記念日で旅行に行ってます・・・・・・」


淳平は先生がさっきからうざそうな顔をしているのをみて、すこし頭に来ていた


「早退さしたいがこんな状態で帰らしたら事故にあうかもしれないから、すこしベッドで休んでから帰りなさい」


「わかりました・・・・・」


先生の言われるがままに淳平はベッドに入った


「外村君だったね?担任に真中君のことを言っといてくれ」


「わかりました」


外村はにやつきながらゆっくりと寝ている淳平に近づいてきた


「外村、すまん・・・・」


「いいから寝てろ、また後でさつきやら東城やら連れてきてやるから」


「・・・・・・・・」


「じゃあな、修羅場がお前を待ってるぞ〜・・・・」


淳平は外村にすこし感謝したがいっきに失望に変わった


(・・・・すこしでも感謝した俺が間違いだった・・・さっさとチャイム鳴ってくれ・・・)


淳平がそう思っていると1限目のチャイムが鳴った


(・・・・・・寝よ・・・・)


布団をしっかりとかけて完全に寝る体勢に入った


(ほんとにここ3日寝てなかったしな・・・・)


(やっぱり、無理が祟ったか・・・・・さつきの風邪がうつったんだろうな・・・・)


(自分が体を弱らしてたのが悪いんだし、仕方ないか・・・・・)


淳平は考える事をやめて目を閉じた


        ・




        ・




        ・




        ・





「・・・か・・・・なか・・・真中!」


誰かに呼びかけられる声がしたので淳平は目を開けた


「ん・・・・・うわあ!!??」


目を開けるとそこにあったのは小宮山の顔だった、淳平はかなり驚いて布団を小宮山の顔に投げつけた


「せっかく見舞いに来てやったのに、普通そんなことするか・・・・」


「目を開けてお前がいたら、誰でもそうなるぞ」


外村の一言で小宮山は鬱に入った


「おはよ!真中」


挨拶をしてから淳平に抱きついた


「よう、さつき・・・・つーか、離れてくれ」


最近は急に抱きつく事はなくなったが淳平はまださつきの抱きつきに慣れていなかった


「気分の方は大丈夫?」


綾の優しい言葉がなんだか淳平にとって天使の声に聞こえていた


「真中くん?」


「あ、大丈夫・・・・大丈夫・・・・・」


「はい、体温計」


すこし妄想に入りかけていたが熱のお蔭で入らなかった
体温計を脇に挟み、すこしぼーっとしているとすぐ鳴った


「何度だ?」


「38度5分・・・・下がってきてはいるな・・・・」


「あ〜あ、確実早退だな・・・寝れば何とかなると思ったんだが・・・・」


ため息を漏らしながらもその顔はにやついていた


「え〜、真中もう帰っちゃうの〜!」


「大丈夫だよ、さつきちゃん、真中の代わりならここに・・・・・・」


「うざい!」


小宮山がさつきに抱きつこうとしたが、思いっきり殴られて返り討ちにあった


「今、昼休みだしな〜・・・送ってやろうか?」


「大丈夫だってそれくらい・・・・」


外村にさっき失望したので淳平はさりげなく断った


「そうか・・・・とりあえず荷物はここに置いとくから、さっさと治せよ」


「わかってるって・・・・」


外村はさっさと保健部から出て行った


「お大事にね・・・・」


「ありがと、東城」


綾は淳平に優しく声をかけて保健部から出て行った


「一生治らなくてもいいぞ────」


「死ね!」


小宮山はさつきの蹴りのつっこみで二つの意味で昇天した


「後でね、真中」


「あ、ああ・・・・へ?」


さつきは小宮山の服の襟を持って小宮山を引きずって出て行った


(今、後でねって言わなかったか・・・・・?)


そんな事を考えているとさっきから無愛想な先生がやってきた


「おい、真中君さっさと帰るんならかえりたまえ」


「はいはい・・・・・」


すこしイラつきながらも保健部を出て行った


「か、鞄が重い・・・・・・」


(朝はかなりだるかったから感覚が薄かったけど、寝た後なだけなって・・・・・・)


校門を出たもののその足取りは朝より重く、家まで遠く感じる


(・・・・だれか、助けてくれ・・・・・)


そう思いながら歩いていると急に鞄が軽くなった


(あ、れ・・・・急に鞄が軽くなったぞ・・・・)


鞄の方を見ると誰かの手が鞄の紐を握っていた。淳平は恐る恐る目線を上に上げると


「さつき!!???お前授業まだあるんだろ!?」


淳平は驚いてはいたが実のところ嬉しかった


「いいのいいの・・・それにほっておけないしね」


(え・・・・・・・もしかして・・・・)


「これだけ軽い鞄を重そうに持って歩く人をさ」


淳平の軽々持ち上げるさつきを見てすこしがっくりしていた
すこしでも期待した分暗くなった


(このパターンにはもう飽きたよ・・・・)


「どうかした?」


暗くなった淳平を見てさつきは声をかけてきた


「いいや、なんでもない・・・・それより、ごめん」


淳平は深々と頭を下げようとしたが、さつきに止められた


「謝る必要なんて無いわよ、昨日のお礼まだちゃんとしてなかったしね」


「・・・・いいって・・・・・」


「いいの、女の子がするっていってるんだから素直に受け取りなさいよ」


「俺・・・・いつもさつきからもらってるから・・・・元気っていうものをさ・・・だから、べつにいいよ」


「・・・・・・・」


柄にも無い淳平の言葉がさつきの心音をすこし速めた


「・・・・ところで、最近どうなの?」


「なにが・・・・・」


「記憶よ、あんまり考えたくないかもしれないけどさ・・・・」


淳平はすこし黙ったがさつきが考えて言ってくれている事を嬉しく思って口を開いた


「・・・・少しずつだけど・・・・思い出してはいる・・・・」


「どんなこと思い出した?」


「・・・・・・・・・」


その質問には答えにくかった、なぜならさつきのことはまだ思い出してもいなかったから


「言いたくないなら別にいいよ」


「・・・・西野の家の位置と東城の小説のこと・・・・・」


「へぇ〜、よかったじゃん!少しでも思い出せてさ!」


さつきは淳平がすこし暗くなっていたのでそれを晴らす為におもいっきり背中を叩いたが
勢いが強過ぎて淳平は倒れてしまった


「あ、ごめん!病人ってこと忘れてて・・・・」


「・・・・・・なにすんだよ・・・・・」


手を合わせて謝るさつきをすこしキレ気味で睨むとさつきはすこしわらった


「何で笑ってるんだ・・・・・」


「風邪ひいても真中がそのままだったから、かな・・・」


そういったさつきの顔はなぜか寂しいものがあった


「・・・・・・・・」


(まだ不安なのか・・・・・俺も・・・さつきも・・・・)


それから二人とも何も話さずに歩いた


「ほら、着いたよ」


「ありがと・・・・・・」


「おじゃましま────」


「おい・・・・・」


さつきは一気に家に入ろうとしたが、淳平の尋常じゃない速さで止められた


「さっさともどって授業うけろよ」


「いいじゃん、あたしは大丈夫だって・・・・・」


「東城や西野、外村みたいに頭がよければいいけどな・・・・・」


思いっきりため息をつきながらいう淳平は非常におっさん臭かった


「小宮山並みの頭脳のお前が大丈夫なわけ無いだろ・・・・・」


「・・・・・じゃあ学校の終わった後に来るね」


「ああ・・・・・」


さつきは大きく手を振り、走って学校に戻っていった


「ようやく、帰って来れたか・・・・」


淳平はふらつきながらも自分の部屋に入っていった


「今日は母さんも父さんもいないし・・・・」


ふらふらとしながら自分のベッドの上に倒れこんだ


「さっさと寝よう・・・・・・」


布団を被り何も考えずに目を閉じた


        ・




        ・




        ・




        ・


インターホンの音で淳平は目を覚ました
外は既にオレンジ色に紫色がかかったような色になっていた


「・・・・・ん?・・・・・誰だ・・・」


淳平が玄関のドアを開けると


「よっす!」


「大丈夫、真中くん?」


「やっほ〜、さっきより顔色はましみたいね」


「外村様がわざわざプリントをもってきてやったぞ〜」


そこには映像部の同級生全員があつまっていた


「外村に東城、さつき、ついでに小宮山」


淳平はすこし驚いていたが、小宮山と外村がいたので嬉しいような哀しいような奇妙な感覚にも襲われていた


「とりあえず、上がれよ・・・・でも極力、俺に近づくなよ。うつるかもしれないから」


「最初に挨拶したのに・・・・・中学からの親友なのに・・・ついでって・・・・」


そんな小宮山を全員が無視して淳平の家に入っていった


「真中!大丈夫だった?」


さつきは淳平の風邪がうつることを躊躇することなく抱きついた
その姿を見た綾は哀しい表情を浮かべた


「だから近づくなって・・・・」


「頭が悪いと風邪をひかないってよく言うじゃん」


「お前、昨日までひいてただろ?」


淳平はそういってさつきを離した、みんなリビングのソファーに腰掛けると淳平は話を切り出した


「で、何でみんなはここに集まったんだ?」


「心配だったから・・・・・」


淳平は本音を言ってくれた綾にすこしどきっとした


「お前んち、今日はおばさんいないんだろ?」


「ああ、そうだけど・・・」


「だから、お前の看病に来てやったんだ、どうせ今日は金曜日だからな」


笑いながら言う外村はデジカメをしっかり手に持っていた
別の理由できたのは明白だが、淳平は記憶をなくしているからあまり気にかけていない


「あのな・・・・病人食なんか作れんのか?」


「あ〜その点なら心配いらん」


「お前な〜・・・おかゆなら俺でも作れるぞ・・・・・」


「そろそろくるはずだが・・・・」


そういっていると玄関のドアが開いた


「たっだいま〜、じゅんぺー」


「たっだいま〜、淳平くん」


「お帰り、唯、つかさ・・・・じゃなくて、西野・・・・へ?」


淳平はすこしノリで名前を呼んだが恥ずかしいのか俯いた


「おおつかさちゃん・・・ナイスだ!外村!」


親指を立てて合図をする小宮山と外村はみんなからすこしひかれていた


「こんにちは、淳平くん、みんな」


「お〜い、二人とも顔が赤いよ」


つかさは淳平に普通に名前を呼ばれた影響が残っているのかまだ顔が赤かったが
唯が煽るように言ったので余計に赤くなった


「寝てなくていいの?」


だが、淳平の赤さはそれだけから来るものじゃなかった
つかさは淳平の額に手をやった、淳平の額はかなり熱かった


「大丈夫じゃなさそうだね・・・・」


綾とさつきはその姿を見て哀しい表情をみせた、唯は逆に楽しそうな顔をした


「まだしんどいし、俺は部屋で寝てくるから・・・・ゆっくり話しててくれ」


「心配だからついてくね」


「あたしもね」


「あんたたち抜け駆けはよくないわよ」


「あたしも行く〜」


東西南北全員が淳平の後を追って部屋に入っていった


「いいな〜・・・・・」


「面白い修羅場になりそうだな」


デジカメ片手に淳平の部屋の窓にむかう外村のその目は光り輝いていた
小宮山も覗くべく外村の後を付いていった




つづく・・・・・


[No.709] 2004/12/22(Wed) 21:32:53
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忘却〜第8話〜 (No.709への返信 / 7階層) - 惨護



淳平の部屋は物凄い雰囲気に包まれていた
なぜか殺気が部屋に満ちていたからだったが


「・・・・・・・」


だれも何も言わないまま数分が経過した
寝ている淳平は寝ようにも寝れない状況でかなり焦っていた


(なんでこうなるんだ・・・・)


そう思っていると沈黙を破るようにつかさが声をかけてきた


「淳平くん、なにかほしいものある?」


「いや、別に無いよ・・・・ゴホ・・」


「まだ咳してるね・・・・」


その言葉にさつきが敏感に反応した


「あたしがマスクとってくるね」


「・・・・別にいいから」


「本当?」


「あ、ああ・・・・・・」


さつきはしゅんとなり元の位置に座った


(こんな中にいるのはかなり辛いな・・・・・)


また沈黙が続いたが、今度は綾が淳平に声をかけた


「真中くん、熱は今どうなの?」


「体温計無いと分からないな・・・・・・」


そういうと綾が淳平の額に手をやった


「まだ、熱いみたいだね・・・・」


「と、東城!?」


「あ、ごめん驚かせちゃった?」


かなり顔を赤くしながら焦る淳平を見て、綾はすこし謝った


「いや、別に・・・・・・」


また沈黙、だが綾のさっきの行動でさつきの目が変わった
淳平はそんなことよりもこの四人の雰囲気に焦っていた


(うわ〜、ものすごく険悪なムードだな・・・・・)


淳平はちらっと辺りを見渡した
完全にみんなが牽制しあって、話そうともしない


(ここは逃げるが勝ちだな・・・・・)


そう思った淳平はベッドから起き上がった


「俺、氷取ってくるよ・・・・」


淳平がベッドから出ようとした時、つかさに止められた


「淳平くんは寝てて、病人なんだから」


「真中、あたしが取ってきてあげるね」


さつきが明らかに違うのは風邪をひいている淳平にも分かった


「さつき・・・・・・」


「なに?」


さつきの顔は笑っているが、目は笑っていない


「いや、なんでもないです・・・・・」


淳平はまたベッドに横になった


(でも、この状態は続けるべきじゃないな・・・・・・)


そう思い立った淳平はまた起き上がった


「もういいよ、さつき・・・・」


そう言って部屋の外に出ようとしているさつきを止めた


「自分で取ってくるから・・・・・・」


「でも、寝てなきゃ・・・・」


さつきはさっきまでとは違う顔で言った


「いいんだ、女の子には世話になりっぱなしじゃ嫌だし・・・・」


「・・・・・・・」


淳平の一言でさつきはまたしゅんとなりもとの位置に座った


「じゃ、取ってくる」


淳平が出て行った後、綾がさつきに声をかけた


「・・・・・あの、さつきさん・・・・」


「なに?」


さつきはすこしキレ気味で返答した


「東城さん、ちょっと待って・・・・・」


つかさはゆっくり窓に近づいて、開けた


「お〜い、なに見てんの?」


外にはデジカメを持ったまま固まっている外村と目がハートになっている小宮山がいた


「小宮山くんがあれだけ窓叩いてたら誰でも気付くよ」


今も小宮山は窓を叩いて綾やさつきにこっちを向いてもらおうとしている


「おい・・・・・・」


外村がやめさせようとしたが時すでに遅し、思いっきり窓を閉められカーテンまで閉められた


「・・・・・・・・」


呆れた顔の外村は小宮山を見た、ものすごく悔しがっているのをみて、かなり腹が立った


「畜生〜!もうすこしばれないようにすればよかった」


「いっぺん死んでこい!!」


外村は小宮山を蹴り落とした


「もういいよ」


つかさはすこし怒り気味で元の位置に座った


「真中くんは病人なんだから、すこしは・・・・」


「言われなくても分かってるわよ!!」


綾の言葉でキレかけだったさつきが一気にキレた


「さつきさん・・・」


「さつきちゃん?」


「西野さんや東城さんのことはすこしでも思い出してもらってるのに、あたしのことは何も思い出してもらってないのよ!!!」


本音をいうさつきにみんな驚いていた


「え・・・・・・」


「焦っちゃだめ?すこしでも思い出してもらおうとしちゃだめ?」


「・・・・・・さつきちゃん・・・・」


つかさがさつきに声をかけようとした瞬間、唯がさつきの頬をひっぱたいた


「何すんのよ!!!」


「あなたなんにもじゅんぺーの気持ち分かってない!!」


さつきは頬をさすりながら、キレたが逆にキレ返された


「じゅんぺーはいつもみんなの事を忘れたことを悔やんでた」


淳平は今までそんなことを一度も言っていなかったから、みんなの顔色が暗くなった


「なんども寝言で愚痴をこぼしたり、夜、寝ずに思い出そうとしてた」


淳平がどれだけ辛い状態かは聞いただけでも分かった


「その度に涙を流してた・・・・あなたも東城さんも西野さんも分かるでしょ?」


唯が涙目でみんなに問い詰めた瞬間、淳平が入ってきた


「唯!」


淳平の顔からは怒っているよりも悲しんでいる感情が読み取れた


「お前はちょっと出て行ってくれ」


淳平は唯が言っていた話をすべてドア越しに聞いていた


「でも!」


「いいから出て行け!!!」


「・・・・・・・・」


淳平が普段見せない顔で唯を怒鳴ると唯は黙って部屋から出て行った


「大体のことは聞いたみたいだな・・・・・」


淳平は作り笑いをしたが、みんなは暗い顔のままだった


「そんな暗い顔するなよ・・・・」


淳平の声が消え入りそうなくらい低くなっていく


「俺・・・・どんな顔をすればいいか分からないだろ?」


淳平は無理して笑ってるのが誰でもわかるくらいの作り笑いを見せた、するとさつきが淳平の手を掴んだ


「真中・・・・あんたは不安じゃないの・・・・・」


そういうさつきの目にはうっすら涙がたまっていた


「自分が忘れられていたら、自分が思い出せなかったら・・・・・」


「・・・・・・・・」


淳平は黙ったまま作り笑いを続けていたが、だんだんその笑いも薄れていった


「答えて・・・・・お願いだから・・・・・」


「不安さ!!押しつぶされそうになるくらい不安なときもある!!!」


淳平は作り笑いがなくなり無表情で俯いたまま叫んだ


「でも、みんなの笑顔を見たら、不安じゃなくなるんだ・・・・・」


淳平の悲痛の叫びは部屋に居たみんなの心を痛めた


「だから・・・笑ってくれよ・・・・・・」


「真中・・・・・・」


さつきが手をしっかり握ろうとすると淳平はそれを振り払った


「ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」


「淳平くん!」


「ほっといてくれ!!!」


つかさが部屋から出て行こうとした淳平をとめようとしたが、淳平の叫びに圧倒され止めることができなかった


「・・・・・・・」


淳平が部屋の外に出ると、唯がこぶしを握って待っていた


「唯・・・・・」


唯は何も言わず殴りかかったが、淳平はしっかりと受け止めた


「唯、お前だって分かってるはずだろ・・・・・」


「じゅんぺーのばか・・・・・」


「馬鹿でいい・・・・」


そういって淳平は唯を離し、コートを持って家から出て行った


「・・・・・・・・」


部屋にいたみんなが黙って俯いたままいると


「おい・・・・さっさと捜すぞ」


すこし呆れている外村がみんなに声をかけた



          ・




          ・




          ・




          ・



泉坂中学の鉄棒の近くで淳平は蹲っていた
制服にコートを着ているから周りから見ただけではまったく見えない


「・・・・・・・」


蹲って数分経つと淳平は近づいてくる足跡に気付いた


「真中」


その一言を聞いたとき、淳平の体がすこしビクッとした


「俺を一人にさしてくれ・・・・・」


蹲ったまま話す淳平は外村にはとても惨めに見えた


「みんなお前を捜してるぞ」


その一言は淳平にとって痛い一言だった


「お前、いつからそんなに一人で背負い込むようになったんだ?」


淳平は外村の一言一言で追い詰められていくような気がしたから、反応し始めた


「もう帰ってくれ・・・・・俺の場所も言わないでほしい・・・・・」


その声はさっきまでの淳平の声より切なく小さなものだった


「・・・・分かった、俺はお前の居場所は誰にも言わない、だがな・・・・・」


外村は淳平の頭を掴んで無理やり顔を上げさした


「無理やりでも連れて帰らしてもらう!!」


外村の目には怒りと悲しみが渦巻いていた
その目を見た淳平はすこし圧倒されていた


「もう俺に構うな!!!」


そう言って頭を掴んでいる外村の手を振り払った


「馬鹿野郎!!!!」


また頭を掴み顔を上げさし、今度は思いっきり殴った


「構うなだと!?人ってのは誰かの支えなしに生きていけない、一人じゃ何もできない弱い生き物なんだ!!」


淳平は殴られて倒れたまま外村の叫びを聞いた


「それが一人で何とかなると思うな!!!」


外村は倒れている淳平に近づき、今度は胸倉を掴んで無理やり起こした


「お前のようなやつでも、支えとして必要としてる人物がいるってことを分かれ!!!」


「・・・・・・・・」


何も言わないで淳平は顔を背けた、外村は足音に気付き後ろを振り向いた


「・・・・お迎えがもう一人来た、一緒に帰るんだな・・・・・」


外村は胸倉から手を離し、淳平はまた倒れた


「・・・・・・・」


迎えに来た一人は黙ったまま淳平の姿を見ていた


「まかせた・・・・」


外村は淳平を迎えに来た人物の肩を叩いて淳平たちの前から姿を消した


「淳平くん、やっぱりここにいた・・・・・」


「西野・・・・・・」


倒れたまま淳平は顔を上げた、淳平の顔には涙が何本も流れていた


「もしかしたらと思ったけど、あたしの勘ってやっぱりすごいね」


さっきまでの顔にはない、とびっきりの笑顔でそういった


「なんて顔してるの?」


「・・・・・・」


淳平は顔を上げるのをやめ、俯いた


「淳平くんさっき言ったけど、みんなの笑顔を見たら、不安じゃなくなるって」


笑顔を絶やさないつかさの健気さが淳平の心に響いていた


「あたしだってそうなんだから・・・・・」


黙って聞いている淳平の体が少しずつ震え始めた


「淳平くんが笑ってると、あたしも不安じゃなくなるし・・・・」


不安な顔をみせないつかさは淳平の震えに気付いたが、そのまま続けた


「なにより、元気になったよ」


「・・・・・・・」


「笑ってよ、ね?」


さっきよりもっといい笑顔で淳平に笑い掛けた、すると淳平は顔を上げた


「・・・・・・・西野」


淳平は立ち上がりつかさを抱き寄せた、その瞬間いっきにつかさは赤くなった


「淳平くん・・・・・顔が赤いよ」


つかさは横目で淳平を見た、耳まで赤く染まっている


「・・・風邪の所為だよ・・・・・」


「淳平くん・・・・・」


つかさもゆっくりと淳平の背中に手を回した


「ごめん、西野・・・・・もうすこしこのままでいさしてくれ・・・・・」


「・・・・・・・」


二人は数分間無言のまま、抱き合っていた。二人の口から漏れる息が辺りを白くしていた


(・・・・東城にも抱きついたけど・・・・・・)


淳平は目を閉じて、校舎裏で綾に抱きついたことを思い出した


「淳平くん、星が綺麗だよ」


気を紛らわすために言ったつかさの声が淳平の想いを強くする


(西野・・・・なぜか君の方が暖かい・・・・・・・)


「・・・・・・・」


淳平は黙ったまま、つかさに顔を見せないように下を向いている


「顔上げたら?」


「・・・・・・・・・」


淳平は何も言わず、首を横に振った


(・・・・今上げたら・・・・俺は完全に君の事を・・・・・・)


「・・・・ごめん・・・・」


「いいよ、無理に上げなくても」


淳平とつかさはまた数分無言のまま抱き合った


「なんでかな・・・・目の前が滲んじゃうのは・・・」


「・・・・・・・・」


淳平はつかさから離れて、つかさの涙を拭った


「泣く必要はないよ・・・・・・」


さっきの表情とは一変した優しい笑顔でそう言った
だが、その顔には風邪の苦しみは消えていなかった


「ありがとう・・・・落ち着いたよ・・・・・」


優しい笑顔で言い続ける淳平によってつかさは顔をすこし伏せた


「・・・・こっちこそありがと」


「え?」


淳平は雰囲気に似合わない間抜けな声を出した


「あたしも不安だったんだ」


淳平に背を向けて、すこし俯きながら言った


「怒って出て行ったとき、あたしがちゃんとしてたら・・・・・」


つかさの声がだんだん暗くなっていく


「淳平くんのことを・・・・理解できてたら・・・・・」


つかさの声に泣き声が混じってきた


「あの時・・・・デートに・・・・誘わなかったら・・・・・・」


つかさはそう言った瞬間、暖かいものに包まれた


「もういいよ・・・・そこまで、気にして欲しくない」


淳平はうしろからつかさに抱きついていった
さっきの寂しい抱き方ではなく、力強い抱き方だった


「自分の所為でなったとかそう思わないで欲しいから・・・・」


淳平の優しい声がつかさの耳元で聞こえていた


「記憶が戻ったとき、そのはなしをちゃんと聞くよ」


そういって淳平はつかさからはなれた


「・・・・そうだね」


「帰るか・・・・・・・・・」


帰ろうと校門に歩いていった瞬間、急に倒れた


「淳平くん!!???」


「あ〜あ、とうとう倒れたか」


デジカメ片手に外村が近くの木の陰から姿を現した


「外村くん!!???どうして・・・・」


「今は気にするべきなのはこいつの状態だろ?」


倒れた淳平の脈を計りながら言った


「とりあえず、救急車を・・・・」


急いで携帯を出そうとしたが、外村に止められた


「いや、大丈夫だ」


「え?」


つかさが近寄ってみると顔は赤いが小さな寝息をたてて静かに眠っていた


「寝てるだけだよ、こいつほとんど寝てなかったみたいだしな」


「でも、さっき家で寝てたんじゃ・・・・」


「不安なときは寝てても疲れるもんだからな・・・・・」


外村はため息をついて淳平の頬をつついて言った


「一気に不安がなくなったから安心して寝たんだろうよ、いい顔してやがる・・・・」


つかさは淳平の寝顔をみて少し笑った
どんな夢を見ているのか、すこし笑いながら眠っている


「さあて、帰るか」


外村は淳平をおんぶした、起きる気配など微塵もしなかった


「こいつの手持っててやれよ」


つかさは外村の言葉にちょっと驚いた


「それがこいつにとって一番喜ぶことだと思うしな」


「・・・・・うん・・・」


つかさはしっかりと淳平の手を握り締めた
曇った空が急に晴れて月が見え始めた





つづく・・・・



追伸:修羅場というより淳平の独壇場になってしまったことをお詫び申し上げますm(__)m


[No.717] 2004/12/24(Fri) 09:02:30
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忘却〜第9話〜 (No.717への返信 / 8階層) - 惨護


淳平を外村が背負ってつかさと三人で帰るとみんなが玄関で待っていた


「真中くん・・・・大丈夫なの?」


「うん・・・・・」


手を握ったままつかさはなぜか暗い顔をしている


「真中が寝てる内に話しておくことがある」


「何、外村くん?」


「・・・・・・・・・」


さつきは黙ったまま俯いて淳平に申し訳なさそうにしている
そんなことは露知らず淳平は眠っている


「・・・あたし、とりあえずご飯作るね」


つかさは淳平の手を離し、外村の話から逃げるように台所に入っていった


「・・・・・・・・実は────」


「え・・・・・・」


外村の話は今の淳平にとって残酷な話だった


        ・


        ・


        ・


        ・


夜は完全に更け、時計の針はすでに9時を回っていた
そんな中、淳平は新鮮な気分で目を覚ました


「ん・・・・ふぁ〜あ・・・・・よく寝た・・・・」


淳平は目をこすり大きなあくびをした、リビングでは大変なことになってることを知らずに


「そういや・・・・・・あの後、すぐに寝たのに何で部屋にいるんだ・・・・・」


淳平は部屋の中を見回し、ベッドから出た


「西野と・・・デジカメで俺らのことを撮ってた外村か・・・・・」


見つからないようにしていた外村だったが、神経が研ぎ澄まされていた淳平にはばればれだった


「迷惑かけたし・・・・・みんなに謝んなきゃな・・・・」


額を触り、自分で熱を測りながら部屋の外でた。リビングに向かうとみんなが黙ったまま俯いていた


「・・・・・・・」


(なんだ・・・・この暗い雰囲気は・・・・・・)


あの小宮山ですら俯いて暗くなっている


「真中・・・・もう起きてもいいのか?」


話し出しにくい雰囲気の中、外村が淳平に声を掛けた、だがその顔は暗い


「まだ体だるいし、頭痛いけど、さっきよりはましだ」


「そう・・・・か・・・・・」


外村はまるでまだ寝ていて欲しかったかのように残念そうに言った


「みんな、元気ないけど・・・・どうかしたのか?」


その一言にみんな返事することなく、俯いて暗い顔をし続けた
あの元気な唯や心配性の東城、明るいさつき、場知らずの小宮山ですら何も言わない


「と、とりあえず、迷惑かけちまったし・・・・ごめん」


雰囲気を考えて、淳平は控え目に頭を下げた
すると、外村が立ち上がった


「いいんだ、謝らなくても・・・・」


「へ?」


その一言でソファーに座っていた東城と唯が立ち上がって外村を引き止めた


「外村くん・・・・話す気なの?」


「ああ・・・・」


「でも、それを聞いたら・・・・じゅんぺーが・・・・」


「こいつの為だ・・・・」


淳平に聞こえない程度の声で3人は話した


「お〜い、何こそこそ話してんだ?」


外村が2人を振り払い、淳平に近づいて肩を持った


「いいか、よく聞けよ」


「何だよ、そんなに硬くなって・・・」


「お前は・・・・・」


息を呑んで待つ淳平に外村は真剣な顔で続けた


「お前は記憶を取り戻すと同時にいなくなる」


「は?どういう意味だ?」


案の定理解できず間抜けな声をこぼす、だが周りから笑いは見受けられない


「つまり記憶が戻ると記憶を失ってから戻るまでの記憶が消える・・・・」


「え・・・・・・・」


理解した淳平の顔は青ざめていった


「つーことは、今みんなと一緒にいるのも、風邪ひいて寝込んでるのも忘れるのか?」


「ああ、だがそれだけじゃない・・・」


外村は淳平の顔を見ないように俯いた、外村の手は心なしか震えていた


「忘れたものなら思い出せるが、もう二度と思い出せなくなる」


「・・・・・・・じゃあさ、今の俺はどうなんだよ・・・・」


その質問は外村にとっても、ここにいるみんなにとっても酷なものだった


「記憶を失ったこと自体が消える、だからあの日から今まで寝ていることになる」


外村は淳平の顔を見ないで俯いて言った、もう震えは手から体全体にまでうつっていた


「あくまで推測だ、絶対じゃない・・・・だが、可能性は高い」


「な〜に震えてんだよ」


淳平は笑顔で震える外村の肩に軽く手を置いた


「お前がそんなんだったら周りがもっと暗くなるぞ」


「なんで・・・・なんで笑ってられるんだ?」


外村は俯いていた顔を上げ、淳平の目を見て尋ねた
外村の頬には雫が流れた後が残っていた


「・・・・そうだな・・・・・・ようやく決心できたからかな・・・」


外村の表情にすこし驚いていたが、すぐに話し始めた


「おれ、忘れてたんだ・・・・・過去のことの重さを」


話し始めた淳平の顔から笑顔が絶えることは無かった


「映画の中の自分を思い出してみたら・・・・自然に笑ったり・・・外村にキレたり・・・・顔を赤くしたり・・・」


だが、話していく中に淳平の笑顔は薄れていった


「今の俺じゃあんな風にはしゃげない・・・・」


淳平は俯いて、首を横に振りながら言った


「だから・・・・・思い出して、今のことを忘れて、また元の生活に戻る決心がついた」


顔を上げると淳平はまた笑顔に戻っていた


「・・・・・・・・・・・・」


「それまでよろしく!」


淳平は親指を立てて、みんなに挨拶した


「・・・・・・・」


みんなが見たことの無い淳平のしぐさはさっきまで暗かったみんなをすこしひかせていた


「なんだよ、まだそんな顔して、にかーっと笑えよ、にかーっと」


口の端を指で吊り上げて笑ってみせた


「・・・・そうだな」


外村は無理やり作り笑いをした
それにつられてみんなも作り笑いをした


「みんな、さっきよりいい顔になったな」


「みんな、ご飯できたよ!!」


つかさは話を聞いていたからかそれとも元からかは知らないがとびっきりの笑顔で台所から出てきた


「運ぶの手伝って!」


みんなつかさの笑顔にひかれるように台所に入り、料理を運んだ


「おお!うまそう!!」


淳平が手をつけようとしたがつかさがその手をはじいた


「だ〜め、淳平くんは病人だから、後でね」


「・・・・じゃあ、部屋で待ってるし・・・ここにいたら腹が減って仕方ないし」


はじかれた手をさすりながら淳平は部屋に戻っていった


「あとで持っていくね〜!」


つかさは淳平の背中に手を振りリビングに戻るとさっきのような暗い顔になったみんながいた


「・・・・・みんな暗いよ」


「そうだよな・・・もっと明るく・・・・・」


外村は無理やり笑ったがみんな明るくなるはず無かった


「ははは・・・はは・・・・は・・・・」


「そんなの出来るわけ無いじゃん!」


さつきは机を叩いて本音をぶち撒けた


「今の真中がいなくなるなんて・・・あたしは絶対いや!!」


泣き声交じりの声は淳平の耳に届いてはいなかったが、みんなの心を痛めた


「あたしだってそうよ・・・・・でもね、さつきさん」


綾が優しくさつきに声を掛けた


「忘れたことを悔やんでる淳平くんをこれ以上見てはいられない・・・・・」


綾の声には何もしてあげれない自分に対しての怒りと淳平への悲しみが混じって混沌としていた


「・・・・でも、失って戻るなんていう取捨選択なんて出来ない!!!」


さつきが泣き叫んでいる中、つかさが思いっきり机を叩いてさつきを止めた


「西野さん・・・・・」


「あなた・・・・・自分だけが辛いと思ってるの?」


つかさは今まで誰も聞いた事の無いほど震えた声でさつきに言った


「ここにいるみんなだって辛いのよ!!」


つかさの声はさつきの心にかなり響いていた


「取捨選択なんてできないのはわかってる!でも!!」


みんな黙ることしか出来ずつかさの心のうちを聞いている


「淳平くんが淳平くんでいるためには仕方ないことなんだよ?」


「それでも・・・・あたしは・・・・・」


さつきは何か言いたそうにしていたが口を閉じてしまった


「あなたは今の淳平くんと大切な時間をすごしたかもしれない・・・・けど!」


つかさの声は気持ちが昂ぶる毎にだんだん大きくなっていく


「東城さんもゆいちゃんもあたしも同じなんだから!!」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「これは仕方ないことなのよ・・・・・」


つかさが言い終わるとさつきのすすり泣く声だけがリビングに残った


「・・・・・」


さつきのすすり泣く声の中、外村は机に並べられた飯を食べ始めた


「みんな、さめないうちに食べろよ・・・・せっかく作ってくれたんだから」


「うん・・・・・」


外村の声でみんなも食べ始めた、食べる顔にはまだ笑顔はあったが、食べ終わるとまたみんな無口に戻った
小宮山は食べ終わるとニコニコと気持ち悪いくらい笑顔だったが、外村は小宮山を引き寄せて耳打ちした


「・・・小宮山帰るぞ」


「え、ええ〜」


小宮山の顔から笑顔が無くなって小宮山は鬱になった


「俺らが首突っ込んでいい問題じゃなくなった」


「でもお楽しみのゲームが・・・・・」


「あきらめろ、真中が元に戻ったらまたしてもらうようにするから」


鬱に入った小宮山を励ますように外村は声を掛けた


「本当だな、絶対だからな」


すこしキレ気味で外村に耳打ちした


「俺と小宮山は帰る・・・みんなでゆっくりしてくれ」


「じゃあね・・・・」  「またね、外村くん」


綾とつかさは外村の声に反応し返事をした、外村はその声に返事することなく出て行った


「じゃあね、さつきちゃん、つかさちゃん、あやちゃん、ゆいちゃん」


小宮山の声には誰も反応することなく、小宮山は出て行った


「・・・・・・・」


またリビングが無言の場になった
さつきはため息をついてから、立ち上がった


「あたし帰るね・・・・・」


さつきが帰ろうとしたら唯がさつきを引きとめた


「さつきさん、今日家に泊まってもいいですか?じゅんぺーの近くにいると風邪がうつりそうで・・・・」


唯はちらっとつかさと綾の方を見てから言った、唯の気持ちを悟ったのかさつきはまたため息をついた


「・・・・・いいよ、じゃあさっさといこっか」


「は〜い」


「じゃあね、西野さん、東城さん」


「バイバイ〜、西野さん、東城さん」


綾もつかさも二人に手を振って見送った


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


それからまた沈黙、その間につかさは食器を片付けている


「片付けも終わったし、あたしも帰るね」


「待って・・・・・」


綾は帰ろうとしたが、つかさに止められてしまった


「東城さん・・・・・」


「あたしじゃ、だめ・・・・・いまの真中くんには・・・・」


綾は今までためていた本音をつかさに語りだした


「西野さん、あなたが必要だと思うの」


つかさは背中を向けたまま無口で綾の話を聞き続けた


「いまの真中くんの気持ちが分かってあげられるのは、西野さんだけだとおもうの」


「・・・・・・・・」


つかさは完全に振り返り綾の肩に手を置いた


「淳平くんはあなたがいたほうがいいと思う」


さっきと同じ真剣なまなざしでつかさは話し始めた


「元は言えば淳平くんはあなたのことを好きになって、勘違いであたしと知り合っただけだし・・・・」


つかさは笑顔をみせた。でも、綾には無理に笑っているようにしか見せなかった


「しかも、あたしは淳平くんを・・・・・あんな状態にさしちゃったし」


「・・・・・だから、あなたがいてあげて欲しいの」


つかさの本音を聞いた上で綾はまた話し始めた


「え・・・・・」


「あなたは自分の辛さも淳平くんの辛さも分かってる」


綾はさっきまでのような顔ではなくすこし微笑みながら言った


「真中くんだって一番辛いのは西野さんって分かってるはずだし・・・・」


綾はつかさの手を肩からはずし、逆に綾はつかさの肩に手を置いた


「ご飯作って持っていってあげて・・・・」


「東城さんはいいの?」


「・・・・・・いいの、このままじゃなにも変わらないから・・・・」


綾はつかさの肩を掴んだ


「でも、あたしは東城さんのほうが・・・・」


「西野さん、淳平くんがおなかすかして待ってるよ」


綾の笑顔に負けたのか、つかさは台所に入っていった


「ありがとう、東城さん・・・」


「・・・・じゃあね、西野さん」


綾は一言言い残して静かに出て行った


「・・・・・・」


無言のまま、つかさは病人食を作り始めた
そこにタイミング悪く淳平が戻ってきた


「あれ?みんな帰ったんだ・・・」


「淳平くん・・・・」


つかさは出来る限りの笑顔で淳平の方を向いた


「みんな、いろいろと用事あったみたい、食べ終わるとすぐ帰っちゃった」


「ふ〜ん・・・・まあいいや、ところで西野、ご飯は?もう腹が減っちゃって減っちゃって」


淳平は腹をさすりながらそういった


「ちょっとまってて、すぐ出来るから」


つかさは台所に戻っていった


「頑張ってんな・・・・・」


つかさが台所でがんばって何かを作ってる姿を淳平はリビングからずっと見ていた


「はい、できた」


机に淳平のために作られた食事が置かれたが淳平に反応が無い


「淳平くん?」


その声で淳平はようやく現実に戻ってきた


「いや〜、なんかこうしてると・・・・新婚さん・・・みたいだな〜って・・・・・」


顔を赤くして恥ずかしそうに頭をかきながら言った


「そうだったらいいね・・・」


「え・・・・・」


つかさの声は聞き取りにくいものだったが淳平には聞こえていた


「と、とりあえず、熱いうちに食べて」


淳平はつかさにすすめられて、料理を一口、口に運んだ


「うまい!ほんとにうまいよこれ!!」


つかさは淳平が食べ終わるまで笑顔でみていた


「ごちそうさま!!」


そういって、スプーンを器に置いた


「ほんとにうまかったよ!!!」


「よかった!!」


とびっきりの笑顔で喜ぶつかさ、それを見て淳平はすこし微笑んだ


「元に戻ったな、西野」


「え・・・・・・」


「さっきまで無理して笑ってるみたいでなんか変だったから・・・・」


「・・・・・・」


つかさは恥ずかしそうに俯いた


「ところで、ちょっと真剣な話してもいい?」


「・・・・・・」


淳平の声がさっきより低く真剣な声だったから、つかさはすぐに顔を上げて無言で首を縦に振った


「何でみんな帰ったんだ?しかも唯までいないし・・・・」


「・・・・・・みんな、用事で帰ったなんてうそ」


嘘をついていても無駄と判断したつかさは史実を話し始めた


「みんな気を利かせて帰っていった、唯ちゃんなんかさつきちゃんの家に泊まるって言ってた」


「やっぱりか・・・・・あの外村が王様ゲームも何もしないで帰るわけねえからな」


「ところで、真剣な話って、何?」


これはこれで真剣な話だが淳平がしたい話ではないと分かったつかさは真剣な顔で聞いた


「・・・・言いにくいんだけど・・・・・俺さ・・・・君のことが────」


「はい、ストップ」


つかさは淳平の口を手で塞いだ


「!?」


「記憶が戻ってから聞いたほうがいいと思うの」


「・・・・・・」


「今聞いても無駄になるかもしれないしね・・・」


淳平はつかさの手を口からはずした


「俺は・・・・絶対に忘れない」


「・・・・・・」


淳平の真剣な声は一度淳平をふったつかさには痛いくらい響いていた


「・・・・あたし片付けあるから・・・・寝たら?」


つかさはこの雰囲気から逃れるように淳平に寝るのをすすめた


「・・・そうだな・・・・飯食ったら眠くなったし・・・・」


淳平も納得し部屋に戻っていった


            ・




            ・




            ・




            ・


つかさが片づけを終え淳平の部屋に入った時にはもう月が西に傾きだしていた
淳平はつかさのいる方に背中を向けて顔を見せないように静かに寝ている


「ちゃんと寝てる?」


「・・・・・・・・」


つかさの問いかけに淳平は反応が無い


「しっかり寝てるね・・・・」


ほっとしたような残念な気分に陥ったが、急に淳平の体がつかさの方を向いた


「・・・・・・」


「寝返っただけか・・・」


淳平の動作につかさはすこし動悸が早くなったが、さらに早くなるはめになった


「西野・・・・・」


淳平は起き上がり、目を擦りながらつかさの方を向いた


「あ、起こしちゃったみたいだね・・・・」


「気にしなくてもいいって・・・・・」


淳平は顔を赤くして、手を振った
そのあと少し、沈黙・・・


「ねえ、淳平くん・・・・」


「何?」


つかさは顔を赤くしながら淳平に聞いた


「一緒に寝ていい?・・・・・・・記憶が戻れば忘れるんでしょ?」


「・・・・・・・」


淳平は静かに頷いた
月はだんだん西に傾いていく



つづく・・・・・・




追伸:今回も適当になってしまったことをお詫びします
   急展開なのは時間が無いので・・・・本当にすいません


[No.721] 2004/12/28(Tue) 20:51:30
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忘却〜最終話〜 (No.721への返信 / 9階層) - 惨護


心臓の高鳴りが触ってもいないのに感じてくる
明かりを消した部屋を外の街灯の光がうっすら映し出す


「ほ、ほんとうにいいのか?」


つかさが淳平の布団に手をかけたとき、背を向けた淳平が恥ずかしそうに言った


「・・・・なんども言わせないで・・・・それともやっぱり嫌?」


「ううん・・・・」


「よかった・・・・」


つかさはゆっくりと淳平のベッドの中に入っていった
だが、それから何も話さずに時は流れ始めた


「・・・・・・」


「・・・・・・」


沈黙は破られる事なく、何事もなく夜が更けていくと思われたが


「淳平くん・・・・やっぱりでよっか?」


「え!?なんで・・・・」


振り向かずにベッドから出ようとしたつかさを引き止めた


「眠れないでしょ?・・・・やっぱり、あたしなんか・・・・」


不安そうなその声を聞くと淳平は背を向けていた体をつかさの方へ向けた


「・・・ごめん・・・不安にさせたりして・・・」


「いいよ・・・今は淳平くんと一緒にいたいし・・・・・」


はにかむような笑顔が淳平の想いをよりいっそう強くさせる



「西野・・・・」


熱の所為でもあるのか、淳平はつかさに抱きついた


「じゅ、淳平くん!?」


「あ、ごめん!!」


淳平はつかさの声で我に返りベッドから飛び出した


「・・・・別に、いいよ・・・」


「え?」


つかさが囁くように言ったその言葉を確かめるように淳平は聞いた



「・・・何度も聞かないでよ・・・・」


淳平はつかさに近寄り、もう一度抱きつこうとしたが


(あ・・・・パンツ見えてる・・・・・・)


みえたのはいちごパンツついつい凝視してしまったので、つかさもそれに気付いた


「淳平くんのえっち!」


つかさはスカートを下げて、パンツを隠すと淳平に背を向けた


「あ、ごめん・・・・」


「でも、これからもっとすごい事するんだし・・・・これくらい・・・いっか・・・・」


顔を赤くしていうつかさの姿が淳平の顔を真っ赤にさせた
そのとき・・・・・


《・・・・握手しよ・・・》


(あれ・・・・・)


なぜか見覚えのない景色があたまに広がり始めた
そして、走馬灯の如く頭の中に記憶が広がった


「淳平くん・・・・?」


つかさは淳平の異変に気付き、振り返った


「う!・・・・ぐ・・・・」


「淳平くん!?」


頭を抑えて、座り込む淳平
その顔は歪み、もだえ苦しんでいる


「俺は・・・・俺はああああああ!!!」


そう叫ぶと一瞬にして淳平の動きは止まった
つかさはおそるおそる近づいてみると


「息をしてない・・・・・淳平くん!淳平くん!!淳平くん!!!!」


         ・




         ・




         ・




         ・



真夜中の病院、あまりうるさくないはずなのに、今日はいつもと違う


「集中治療室の前にいるって言ってたな・・・」


外村と綾、さつき、唯はつかさからの連絡を受けて淳平が運ばれた病院に来ていた


「はやく行こう!・・・じゅんぺー大丈夫だよね?」


唯の心配をよそに事態はだんだんと進んで行った



「はぁはぁ・・・・西野さん、真中くんは!!」


集中治療室の前で手を合わせて俯いているつかさに深夜なのに急いできた綾が聞いた


「今は絶対安静って言われて・・・・集中治療室にいるの・・・・・」


「何でこうなったんだ!!」


壁を思いっきり叩いて嘆く外村、その手には血がこびりつく


「急に・・・・倒れて・・・・」


「・・・・・・で、医者はなんて?」


いつもなら血が頭に上って冷静じゃないさつきが冷静に聞いた


「よく分からないって・・・・ただ何かの拍子でショックを受けて意識を失った可能性もあるって・・・」


その声はだんだんちいさくなっていく


「それが一時的なものか・・・・一生続くものかは分からないって・・・・・」


全て言い終わるとつかさは顔を下に向けた


「じゅんぺー、死んじゃうの・・・・」


その声はすごく切ない哀しい声だった


「そんなこといわないで・・・・・淳平くんは・・・きっと・・・きっと・・・・」


つかさは優しく唯を抱き、頭を撫でた


「そうよ、あの真中が死ぬわけ無いわ・・・・・・」


とうとう病院に静けさが戻った


「・・・・・・・」


だれも一言も交わさずに、夜が明けてくる


「あ・・・・」


その時、集中治療室のドアが開き、医者らしき白衣を着た人物が出てきた


「・・・あの、どうなんですか?」


「今のところはどうともいえません・・・・いろいろと検査をしてみましたが、脳には何の障害も無くいたって普通です」


つかさの切なる願いもむなしくちゃんとした返答は得られなかった


「なぜ意識が戻らないのか・・・わたしでは分かりません」


医者は顔色変えずにそのまま続けた


「ただ、彼は眠っているだけ・・・・まるで、起きたくないかのように・・・・」


「・・・・・・・」


みんなの沈黙は変わることなく続いた、重苦しい空気があたりに広がる


「とりあえずお入り下さい・・・」


みんな中に入ると、淳平の顔を見てホッとしたようにも見えた
苦しむまずに、小さな寝息をたてて眠っていた


「・・・・・淳平くん・・・」


「真中・・・・」


「真中くん・・・・」


「じゅんぺー・・・」


その声はすべて切望が込められた声だったが、無情にも声が返ってくることはない


「ホントに起きないんですか?」


「本当にただ寝ているだけなんです・・・でも起きない・・・脳波にすら異常は無いのに・・・・」


外村は信じられなかった、いつものように寝ている淳平が起きないなんて


「お〜い真中、さっさと起きろよ」


外村は何を思ったか急に淳平の顔をはたきだした


「やめなさい!彼は患者なんですよ!!」


「うるさい!!真中は寝ているふりをしてるだけなんだ!!!そうだろ、な!真中!!!」


どんなに揺さぶってもどんなに問いかけても声は返ってこない
聞こえてくるのはエコーの音


「無駄ですよ・・・こちらは手を尽くしたんです」


「外村くん・・・・・」


つかさが声をかけようとしたが、外村の顔に見えた一筋のしずくに言葉を失った


「起きろよ!起きろよ・・・・・・」


なんどもゆらし声をかける、その動作が止まった時、外村の声が泣き声に変わった
それどころか、部屋中に泣き声が響き始めた


「・・・・・外村くん・・・・」


「くそ!・・・・くそ・・・・・・」


外村の声をさえぎるように一つの声があたりに響いた


「・・・さつき・・・・やめろって・・・・・」


「え・・・・・」


たしかに淳平の声だった
みんないっせいに淳平の方を向いたがおきている様子はなかった
だが、その顔には笑顔があった


「唯・・・・かえってたのか・・・・」


「いま・・・あたしのこと呼んだ・・・・」


さっきまで辺りを泣き声が包んでいたのに
淳平の声でいつの間にか止んでいた
淳平の顔はすこし困った様な顔をしている


「・・・・東城・・・・・小説見せてくれ・・・・」


「・・・・・真中くん・・・・」


こんどは恥ずかしそうな笑顔が窺えた
その声は呟いているだけで小さいのに、外村やつかさ、綾、さつき、唯にはしっかり聞こえていた


「・・・・・・西野・・・・・・ごめん・・・・」


「淳平くん・・・・・」


また寝息をたて始め、静かになった
最後に見せた淳平の顔は悲哀に満ちていた


「もしかして・・・・真中の奴・・・・夢の中で俺たちといっしょにいる?」


「たぶん・・・・そうみたい・・・・」


みんな淳平の顔をまじまじと見ながら聞いていた


「・・・・・とっても幸せそう・・・・」


「でも、それは夢の中なんでしょ・・・・」


さつきは綾の一言に反論するかのようにいった


「このままのほうがいいのかな・・・・・」


つかさがすこし諦めるように言ったのを聞いて唯は淳平の上に乗った


「じゅんペー・・・・起きて!!」


耳元で大きな声で叫んだ
だが一向に起きる気配を見せない


「唯ちゃん!?」


「そっちにあるのは、じゅんぺーの過去でしかないんだから!!!逃げないで、こっちに戻ってきてよ!!!!」


唯の声は淳平には届かなかったがみんなの諦めかけていた胸には届いた


「起きろ〜!!」


「西野先輩・・・・・」


つかさは唯に笑顔を向けるとまた耳元に叫びだした


「あたしも手伝うよ・・・・こんなことしかできないから・・・・・・」


「あたしだって!」


「おれも・・・こいつの親友だからな」


「みんな・・・・」


いつの間にかみんなが淳平の耳元に近寄っていた


「さあ、みんなで・・・」


「淳平くん!!」
「真中くん!!」
「真中!!」
「じゅんぺー!」

「聞こえてるんだろ?起きろ!!」


       ・




       ・




       ・




       ・


淳平の家に、みんながあつまり楽しそうにしている
淳平の頭の中ではそれだけが繰り返されていた


「・・・・みんな・・・・そろそろ帰んなきゃ・・・・」


時間を気にしてそういうもののみんな一向に変える気配も見せない


「大丈夫だって・・・なあみんな?」


外村が淳平の肩をたたき、みんなに呼びかけた


「唯も帰って欲しくないよ」


「真中だって帰って欲しくないんでしょ?」


「べつに気にしなくてもいいよ」


みんな笑いながらそういうのにつかさだけが黙って淳平を見ていた


「・・・・・・」


「西野?」


そう問いかけても淳平に声は帰ってこない


「・・・・・・」


「どうしたんだ?」


淳平が近づいてつかさに触れようとした
すると、つかさが立ち上がった


「今度こそ・・・・さよなら・・・」


「え・・・・・」


一言だけそういって、家から出て行った


「待ってくれ!!!」


追いかけて、家の外に出て家の外の道路を見渡すもののつかさの姿は見られなかった
仕方なく家に帰ると、さつきと綾がだまってこっちを見ていた


「真中・・・・ごめん・・・・この人の事好きになったから」


「さつき!!」


さつきはだれかしらぬ男といつの間にかいっしょにいた
そして出て行った


「真中くん・・・・・ごめんね」


「自分の優柔不断さを憎むんだな!僕が綾さんをもらっていくよ」


「東城!!」


天地が綾をお姫様抱っこして家から出て行った


「じゃあね、あたしも家に帰らなきゃ!」


「唯!!」


唯も・・・・・
いつの間にか外村もいないし、部屋ではなく何もない暗いところに立っていた


「おい、誰もいないのか!!」


その声は響くわけでもなく、闇に吸い込まれていった


「なんでなんだ・・・・何が悪いんだ!!!!」


淳平は思いっきり地面を叩いた
すると、地面が割れたと同時に何かが浮かび上がってきた


「これは・・・・・」


つかさと別れたシーン
それが鮮明に描かれた映像が映し出された


「覚えてる・・・・・」


淳平は頬を伝わる冷たいものに気が付き、拭った


「自分の不甲斐無さを知ったんだよな・・・・・」


悔やまれる、なぜあの時引き止めなかったのか
なぜ一人の人を好きになれなかったのか


「あの時から何も変わっちゃいない・・・・・」


淳平は座り込み、俯いて暗い顔になった
すると辺りの闇がだんだん近づいてきた


「もう駄目だな・・・・」


淳平が完全に闇に飲み込まれそうになった時、一陣の風が声の響きと共にふいた


「淳平くん!!」


「西野?」


「真中くん!!」


「東城?」


「真中!!」


「さつき?」


「じゅんぺー!!」


「唯?」


「聞こえてるんだろ?起きろ!!」


「外村?」


懐かしいような、それでいて親しみのある声
さっきまでの暗闇が嘘のように晴れ、辺りは光り輝いていた


「みんな待ってるよ・・・・」


「早く起きて!」


光とともに差し伸べられた手をしっかり握った


「あったかい・・・・」


淳平はその手に引っ張られて走り出した


「・・・・・・ごめん」


「俺は・・・・・・・」


          ・




          ・




          ・




          ・



日の光が淳平の目に入ってくるのと同時に
四人の少女たちの顔が目に入ってきた



「・・・・・ん?・・・・みんな・・・」


「淳平くん!!」
「真中くん!!」
「真中!!」
「じゅんぺー!」


4人にいっせいに抱きつかれた
淳平は訳が分からずかなり混乱している


「へ?どうかしたのか??」


その言葉を聞いて、安心した者、不安になった者、すこし悲しげな顔をした者がいた


「あれ?俺って確か西野とデートしてたんじゃ・・・・・」


外村はさっきとは打って変わってすこし呆れながら声をかけた


「お前はな・・・・・」


「いままで寝てたの!淳平くんがどじって頭打ってね!!」


外村が真実を話そうとしたが、つかさが無理やりさえぎった


「あ!?俺が・・・・ゴメン!!!」


すこしは事件が起こる前のことを覚えているらしく、深々と頭を下げた


「心配かけたのと西野にはバカな事しようとして!!」


「バカな事って?」


外村は予想が大体付いていたが一応聞いてみた


「えっと、船の上からパンツ見ようとして・・・その・・・・・」


「はぁ〜・・・・」


外村はやっぱりと思ったのと安心したのでため息が出た


「よかった・・・・」


「本当に良かった・・・・」


綾、さつき、唯が安心する中、つかさだけ浮かない顔をして俯いている


「・・・・・・」


つかさはそのままなにもいわずに集中治療室から出て行った


「西野さん!?」


「俺、見てくるよ」


淳平は後先考えずに集中治療室から出て行った


「あたしも────」


唯も追いかけていこうとしたが外村に止められた


「唯ちゃん、あいつのために待っといてやってくれよ」


「あ・・・・でも・・・・・」


唯はすこし表情を曇らせて綾とさつきを見た


「あたしはいいの・・・もう真中くんの気持ちが分かったから」


「真中の奴、記憶をなくしても西野さんのことばっかり気にかけてたみたいだしね・・・・」


綾とさつきは淳平の気持ちを悟り、もう手を引いていた
その顔にはあきらめきれない何かがあったが、必死で押さえつけているのが目に見えて分かった


「さてと・・・そろそろあいつを尾行するかな」


外村は手にカメラを持ち、みんなとともに歩き出した


                ・




                ・




                ・




                ・




                ・


「あの約束も忘れちゃったんだろうな・・・・」


日がのぼり、病院の屋上にはそとからの元気な声が聞こえてきていた
淳平が記憶をなくしたときはまったく違う


「西野!!」


「淳平くん!?」


淳平はすぐにつかさに近づいた


「もう歩いてもいいの?」


「別に昨日まで歩いてたし異常はないって・・・・」


「え・・・・・」


覚えているはずがない
自分が嘘をついて今まで寝ていたといったはずなのに
なぜ、昨日まで歩いていたのか分かるのか


「あと、看病してくれてありがと、料理も上手かった」


記憶を失う前に前にそんなことをした覚えもない
期待がだんだん膨らむ


「俺が記憶をなくしてたときの事覚えてないと思った?」


すこし成長した顔、優柔不断だったときよりもかっこよく見える


「ばか・・・・」


「え・・・・・」


俯いて小さく呟いた言葉に反応して聞き返すとつかさは笑って見せた


「覚えてるなら覚えてるって言ってよね!!」


「・・・・・ごめん」


「いいよ・・・・・もう過ぎたことだしさ」


すこし暗い顔をして頭を下げた淳平に笑顔で笑いかけた


「じゃあ、続きをさ・・・・・」


「うん・・・・」


あのときの続き、気持ちを決めたときからずっとくすぶってた想いを口に出した


「一度別れたのにむしが良すぎるかもしれないけど・・・・俺は西野のことが誰よりも好きだ・・・・・」


一言一言丁寧に恥ずかしがりながら顔をまっかにしながら言い続けた


「・・・・・」


「普通の男よりも頼りないし、優柔不断だけど・・・・・・誰よりも好きです・・・」


心臓が口から出るくらい緊張している淳平、もちろんつかさも顔が真っ赤だ


「俺と・・・・改めてお付き合いしてください!!!」


頭を下げて、手を差し出した
すこし経ってから、その手に確かなぬくもりを感じた


「今度裏切ったら・・・もう知らないからね・・・」


「は、はい・・・・・」


涙目で上目遣いのつかさに言われるがままになる


「もう浮気しませんか?」


「はい!」


すこし怒られながら言われるとはきはきして言った


「・・・・誓約書みたいなの欲しいな・・・・・」


「・・・で、でも紙ないし・・・・・」


「これでいいや」


「え・・・・・」


淳平の唇に暖かいものが触れる
重なり合う唇はなかなか離れようとしなかった
何秒したかは分からないが離れたとき、二人の顔は満足そうだった


「絶対だからね・・・・・」


「・・・約束する」


顔を赤くしながら、頷いてそういった


「ほんとにほんとだからね・・・・」


「もう悲しませない・・・西野の事を絶対に守る・・・・・」


「かっこつけすぎ」


つかさに茶化されてすこしずっこける淳平


「でも、そんなところも好き・・・・」


「西野・・・・・」


今度は二人で抱き合った


「ちょっとくらいこのままでいさせて・・・・この嬉しさ抱きしめていたいから・・・・」


「・・・・・・・・」


また二人の唇が近づいたが


「熱いね!!!お二人さん!!!!」


「やったね!!じゅんぺー!!!!」


この外村と唯に茶化されて、すぐに離れた


「お前ら・・・・・」


「真中・・・・おめでと!」


さつきの顔からさっきの思いは消えていた
すっきりしたのもあるのだろうか


「ありがとう・・・・それとご───」


淳平はお礼の後に謝ろうとしたが口をふさがれた


「謝らなくてもいいって、あんたが選んだんだから!!」


「さつき・・・・ほんとにありがと」


「いいのよ!」


さつきは思いっきり淳平の背中を叩いた
それとともに淳平への想いを投げたようにも感じた


「真中くん・・・・」


「東城・・・・」


綾の顔には別の意味で不安が残っていた


「普通に笑って、おしゃべりできるよね」


「もちろんだって!!」


「よかった・・・・」


綾の顔からも不安が消えていた


「じゃあ、みんなで真中の記憶が戻った祝いでカラオケに行くか!!」


外村は淳平のお祝いとさつきと綾を元気付けるのを兼ねてみんなを誘った


「それ、賛成〜」


さつきはすぐに乗った
立ち直りが早いというか諦めがいいというか・・・


「唯も!」


唯はすぐに反応し、暗い顔の綾に声をかけた


「東城さんも行くよね?」


「ええ!」


綾も踏ん切りがついたようだ


「行こう!」


つかさは淳平の手を握り、みんなの下に走り出す


「ああ」


つないだ手はもう離さない
忘れたことでかえりみることが出来たから
この想いは二度と変わることは無い
たとえ1000年たっても



END


[No.809] 2005/01/26(Wed) 20:25:28
YahooBB218123204022.bbtec.net
あとがき (No.809への返信 / 10階層) - 惨護

すいません、長期間ほったらかしにして
時間が全然取れなかったです、周りの環境がめまぐるしいくらい変わったので・・・・

一応完結させましたが、
ほったらかした、天地や大草、美玲やちなみなどのキャラを
もう少し入れておくべきだったことと
ものすごく雑になったことを反省してます
今度HPに載せるときはちゃんと手直しします

こういうジャンルのものは前にあまり書いてなかったので戸惑ってしまい
Rにするつもりが出来なかったり、キャラの個性が生かしきれなかったりと
踏んだり蹴ったりでした

もう、時間が取れそうもないのでまたここに来るのも春くらいになるかと・・・・

感想を書いてくださった皆様、本当にありがとうございました


[No.810] 2005/01/26(Wed) 20:27:17
YahooBB218123204022.bbtec.net
Re: あとがき (No.810への返信 / 11階層) - ds

> すいません、長期間ほったらかしにして
> 時間が全然取れなかったです、周りの環境がめまぐるしいくらい変わったので・・・・
>
> 一応完結させましたが、ok
> ほったらかした、天地や大草、美玲やちなみなどのキャラを
> もう少し入れておくべきだったことと
> ものすごく雑になったことを反省してます
> 今度HPに載せるときはちゃんと手直しします
>
> こういうジャンルのものは前にあまり書いてなかったので戸惑ってしまい
> Rにするつもりが出来なかったり、キャラの個性が生かしきれなかったりと
> 踏んだり蹴ったりでした
>
> もう、時間が取れそうもないのでまたここに来るのも春くらいになるかと・・・・
>
> 感想を書いてくださった皆様、本当にありがとうございました


asasasassassa


[No.1177] 2005/08/14(Sun) 15:06:10
YahooBB219209004044.bbtec.net
Re: あとがき (No.671への返信 / 1階層) - もん太

HPのURS教えてくれませんか?

[No.1525] 2009/09/20(Sun) 00:47:19
proxy1144.docomo.ne.jp
以下のフォームから投稿済みの記事の編集・削除が行えます


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