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even if you... 「プロローグ」 (親記事) - つね

たとえ君が、何処へいたとしても






僕は君を探して見せるよ。






悲しい顔をしたときは






僕が笑わせて見せるよ。






生きていくのがつらいと思ったら






僕が君の生きる理由になってみせるよ。






周りが真っ暗で、何も見えないのなら






僕が君の目になるよ。






夢につまずいたら






そっと手を差し伸べるよ。






たとえ君が変わったって






僕は君を想うよ。












たとえ君が…


[No.792] 2005/01/23(Sun) 00:47:37
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even if you...1 (No.792への返信 / 1階層) - つね

「sign」




高校3年の夏休み、今年の夏休みはいろいろなことがあった。

西野との旅行、そして映像研究部の合宿。


そんな夏休みの終わり、真中は久しぶりにテアトル泉坂にバイトに行っていた。



真中自身もバイトには顔を出したかったのだが、映研の合宿や映画の編集などで忙しく、行きたくても行けない状況だったのだ。






「すみませーん、館長いますか。」


そう言ったとたん






ドダダダダダダ






「コラー、淳平!いつまでさぼっとるつもりなんじゃ!!」




ビシィッ


館長の蹴りがまともに真中の顔を直撃した。





「うぅぅ、75歳の体力じゃねぇ…」






「ふん、今までさぼっとった罰じゃと思え。たっぷりゴミがたまっとるから出してもらうぞ。」






「まったく、ゴミくらい一人でも出しといて下さいよね。」






こんな調子で久しぶりのバイトは始まった。










ゴミを捨てた後、真中は館内の掃除を始めた。






そのとき、空いていた窓から近くのケーキ屋が目に入った






店の看板には「パティスリー鶴屋」と書いてある。





この店は抜群の人気を誇るケーキ店でありつかさが働いている店である。






(西野、今ごろあの中で働いてるんだろうなぁ)







そんなことを考えながら少しの間ボーッとしてしまった。









「コラ、さぼっとらんで働かんか!…ん?」






館長も怒鳴りかけたが真中の様子を見て、何を考えているか分かったようである。



「つかさちゃんが気になるんじゃろ。」








「べ、別にそういうわけじゃ…」








「つかさちゃんなら3日前から休んどるぞ。夏風邪かのう。」







「えっ、そうなんですか。」



(3日も。西野大丈夫なのかな…)
















そうは思ったものの、このとき俺はこの休みをそれほど重いものとは考えていなかった。




この休みに隠された、西野の変化をまだ、感じ取れなかった。


西野が僕に送っている無言のサインに気付かなかった







明日にはきっと西野に会えるだろう。ただ、そう思ってた…


[No.793] 2005/01/23(Sun) 01:24:58
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even if you...2 (No.793への返信 / 2階層) - つね

『告白』









「…平。淳平!」


「ぅ…ん、あと5分だけ…」


「何言ってんの!今日は登校日でしょ!」
(……え、…)


目を開け時計を見ると時計の針は8時半を指している。



「うああああっ!!何でもっと早く起こしてくれないんだよ!」


「何度も起こしたわよ。その度に『あと5分』って言ってたじゃない」


「やばい!絶対遅刻だよ」


淳平の高校は一応進学校であり、夏休みには何回か補習授業があるのだ。淳平は急いで着替えを済ませ、走って家を出た。









ガララララ
教室のドアを開けると授業の真っ最中だった
「すみません。遅れ…」
バシィッ



チョークが淳平の頭をかすめ、壁に当たって粉々になった。


淳平は驚きと恐ろしさのあまり、動けなくなった。


「私の授業に遅れるとはいい度胸だ。そんなに私の授業が嫌いか?」
そういう黒川先生の顔は引きつっていて、上まぶたがピクピクと震えている


「いえ…、すみません…」


(この先生、ホント無茶苦茶だよ…)


淳平はなるべく先生の怒りを買わないように静かに席についた






授業が終わると、外村が話しかけてきた


「最初の補習から遅刻かよ、真中。お前時間通り来たことあったっけ?」


「きょ、今日は忘れてたんだよ」


「ふーん。それでさ、話変わるけど、今日授業終わったら集まろうぜ。」


「編集のほう大分出来てんだ。」


「そうなのか。珍しいじゃんお前からやろうなんて」


「まあな。もう最後だし、今回のはかなりいい作品になりそうだからな。」


「あぁ、文化祭のためにも早めに準備しなきゃな。」











そして、放課後…
久しぶりに映研のメンバーが集合した。


もちろんそこには東城とさつきもいた。


そのとき淳平は自分の気持ちを確認した。


そのふたりにはもう未練は無いこと、そして今一番好きなのは誰かということを。



淳平は一週間前につかさに告白することを決意した。



淳平は合宿が終わった頃から自分が誰を好きなのかということを真剣に考え始めていた。


何度も、何度も考えてみたが、いつも一番頭に浮かぶのはつかさだった。



綾とさつきにはすでにつかさに言うことは伝えており、二人とも始めは悲しい顔をしたが、結局は応援してくれた。











部活が終わると淳平はバイトへと向かった。


バイト先に行く途中、淳平はつかさの働いているケーキ屋を覗いてみた。
店の厨房でつかさは忙しそうに働いている。


(良かった、今日はいるみたいだ)
その姿を見て、淳平は安心した。









映画館でいつもの仕事を済ませた淳平はつかさのバイト先につかさを迎えにいった。



淳平がケーキ屋に着いたとき、つかさはちょうどバイトを終えたところだった。


「淳平君!?どうしたの?」



「い、いや、一緒に帰ろうかと思ってさ」


突然話し掛けられたせいか、これから告げようとしている言葉のせいか淳平は少し緊張してしまった。



「そっか。わざわざ迎えに来てくれてありがとね」



そう言って淳平の顔を覗き込むようにして笑った。



ドキッ



(やっぱりかわいいな)



淳平は無邪気に笑うつかさに思わず見とれてしまった






「…くん、ねぇ、淳平くんってば!」


気付くとつかさの顔が目の前にあった。


「うわっ!」


淳平はあまりに驚いて声をあげた



「もぅ!またボーッとして、早く行くよ!」



「え、あ、ごめん」


そうして二人は歩き始めた




「西野、3日も休んでたけど大丈夫なのか?」



「うん。ちょっと体調崩しちゃっただけ。もう大丈夫だよ」



「そっか、それなら良かった。3日間も休んでたみたいだったから心配したよ」






ジーッ






横からの視線を感じた淳平はつかさの方を向いた


すると、つかさと目があった。つかさは随分長い間淳平を見ていたようだった



「どうしたの?俺の顔、なんかついてる?」




そう言うとつかさは急に赤くなってうつむいた。







「あ、えっとね、その…淳平くんでもそーゆーこと心配してくれるんだなって思って」



(え…ええ!?)



「そりゃするよ心配くらい…」




(かわいすぎる…)



あまりにドキドキした淳平は思わず後退りした。






ドンッ



そのとき道路の横の壁に当たってしまった。



あれ、ここは…







壁には『泉坂中学校』と彫られている。




(こんなとこまできてたんだ。話してたから気付かなかったよ)








「うわぁ、懐かしいなぁ。あたしたちここに通ってたんだよね」



つかさが懐かしそうに話した。


そう話すつかさを見て、淳平は、以前真夜中に一緒にここへ来たときのことを思い出していた。



淳平は勇気を出した。







「入ってみる?」


いつかつかさに言われた言葉を、自分から言ってみた。



「そうだね。入ってみよっか」

そうして、二人は中学校の中へ入っていった。









いろいろなところを懐かしみながら見て回っていると、グラウンドにたどり着いた。


「今見るとすごく懐かしいよな。な、西野。………西野?」






つかさは微笑みながら鉄棒を見つめている。



まるで、あの頃にタイムスリップしているかのように、






そんな西野を見て淳平は今日二度目の勇気を出した。



「西野、待ってて!」




「淳平くん!?」




淳平は鉄棒に向かって走り出した。





そして鉄棒にぶら下がり、あの日と同じように叫んだ。



精一杯の思いを込めて。







「西野つかさちゃぁぁぁん!!!好きだあああ!!俺と付き合ってくださいっっっ!!!!!」



淳平はそう叫んでつかさの反応を待った




つかさの目からは涙が溢れている。


(え…?)


淳平が心配して駆け寄ろうとした、そのとき






「はい!」





満面の笑顔でつかさが答えた。




そして、淳平に抱きついた




「西野、今までごめん。でも、もう西野だけしか見ないから、もう迷わないから。」



「うん、ありがとう淳平くん。嬉しいよ。」


つかさの目からはまだ、感激の涙が溢れている






二人はしばらく抱き合って、目を合わせた










そして、







月明かりに照らされた二人の影が、重なった。






それと同時に二人の心も…





この時がずっと続けば、どれだけ幸せだろう。



そう思った。









ずっと続けば……


[No.816] 2005/01/27(Thu) 23:47:59
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even if you...3 (No.816への返信 / 3階層) - つね

『不安』





それから俺と西野はしばらく校庭のベンチに座っていた


「わぁ、綺麗。見て、淳平くん」


空には満天の星が二人の門出を祝福するかのように輝いている



「ホントだ。こんなに綺麗な星空が見えるのもこの辺りでは珍しいよな」




(ホントに綺麗だ…でも、何より一番綺麗なのは…)


淳平はつかさに見とれていた



「淳平くん、二人で願い事しようよ。これだけ綺麗だったら何でも叶えてくれそうでしょ」


「あぁ、そうだな。じゃあ…」







そのとき空に一筋の流れ星が流れた



「あっ、流れ星! 淳平くん早く願い事しなきゃ!」




「あ、うん」



(西野といつまでも一緒にいられますように)








「よしっ、終〜了っ。    ねぇ淳平くん、何願ったの?」


「えっ、それは……」


「もぉ、はっきり言ってよね。気になるじゃない。  何?」




淳平はうつむいて、顔を真っ赤にして言った




「西野と…いつまでも…一緒にいられますように…って…」





そう言ったとき、つかさの腕が淳平の背中に回された




「ありがとう。あたしも同じ事お願いしたんだ…いつまでも一緒にいようね…」





「いつまでも一緒だよ。いつまでも。」




二人はまたしっかりと抱き合った









そして帰り道





淳平はつかさを送っていき、二人はつかさの家の前まで来ていた


「じゃあ、淳平くん。また明日。」


「あぁ、また明日。」


つかさは目一杯手を振りつづけている


そんなつかさの姿が今日はいつも以上に愛しく思える





淳平はつかさのことばかりを考えながら帰り、家に着いた。




「あら、淳平。やけに遅かったのね。何かあったの?」


台所にいた母が尋ねてきた


「あ、うん。ちょっとね。」


そう言う淳平の顔は明らかに上機嫌と分かるもので、喜びを隠し切れない様子である。


「あの子どうしたのかしら。」


淳平は笑顔のまま部屋へと入っていった。





(あぁ、本当にまた西野が俺の彼女になったんだ。明日も早速バイトで会えるし。また明日が楽しみになってきたな。)


淳平はそう思いながら、眠りについた。










翌日、



学校が休みの淳平は、朝からバイトに出た。



行きがけにいつものようにケーキ屋を確認。


(……いない……)


(西野、バイト午後からなのかな?今日もバイトに出るって昨日言ってたけど…)



そのことが少し気になったが、午後になればつかさも来るだろうと思い、バイト先へ向かった。





バイト中、


「淳平、どうしたんじゃ?やけに機嫌がええのぉ。もしかして、つかさちゃんと何かあったのか?」





「え、えぇっ!」



バッシャーン



動揺した淳平はバケツの水を引っくり返してしまった。



「何動揺しとるんじゃ。全部話してみい。」


館長は笑いながらそう言った。この老人、意外に勘が良い。



こうして、淳平は館長につかさと付き合うことになったことを話した。



「ほぉ、なるほどのぉ。良かったじゃないか。でもつかさちゃんを泣かせたらわしが許さんぞ。」


館長の言葉は意外だった。文句を言われるかもしれないと思っていたが、素直に応援してくれた。


「もちろん。必ず幸せにしてみせますよ。」



「おぅ、頑張れよ、淳平。」



「はい、ありがとうございます。」



これからは館長もいい相談相手になってくれそうだ。











バイト後


淳平は、DVDを借りに行くために街を歩いていた。


(結局、西野来なかったな。もう少し遅い時間にバイトいれてんのかな。)







そう思いながら店に入ると、こずえがいた。


最初は淳平の存在に気付かなかったが、しばらくたって、こちらに気付いた様だ。


「あ、真中さん。真中さんもDVD借りに来たんですか?」



「あ、うん。こずえちゃんも?」



「はい。このあいだ真中さんが勧めてくれた映画見ようと思って。」






二人は映画の話で盛り上がりながら、楽しそうに店を出た。











しかし、








店を出た瞬間、淳平は自分の目を疑った。



「それで、そのシーンがすごいんですよ。真中さん。……真中さん?」









淳平の目にはつかさとつかさの母が映っていた。








淳平は二人が建物の中に入っていくのを見た。









看板を見る。






















(精神病院?)










澄み渡る空とは対照的に、淳平の心には不安が溢れていた。


[No.828] 2005/01/31(Mon) 00:35:40
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even if you...4 (No.828への返信 / 4階層) - つね

『異変』







(なんで…なんで西野が……精神科…なんかに…?)




つかさのことが心配になった淳平はその日の夕方からずっとつかさの家の前でつかさの帰りを待っていた。








そして、一時間後…



つかさとつかさの母が道の向こうから歩いて来た。







「淳平くん!?」





「西野!」




「どうしたの!?こんな時間に。」



「あ、うん。ちょっと話したくなってね。」




そうして話していると、つかさの母が話し掛けてきた



「あなたが淳平くんね。つかさから良く聞いてるわ。これからもつかさをよろしくね。」


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」




「つかさ、じゃあ先に帰ってるから話してらっしゃい。」




「うん、わかった。」


そうして、つかさの母は家に入っていった。


「ここで話すのもなんだし、公園でも行こうか。」



つかさが微笑みながら言った。その笑顔は精神病院なんかとは全く無縁のものだと思えた。



「うん。じゃあ行こうか。」













そして二人は公園に入り、ベンチに座った。







しばらく経って淳平は呟くように言った。



「西野…大丈夫なのか?」




「えっ、大丈夫だよ。今日はちょっと用事があってね…」



淳平は真実を聞こうとして言った。










「用事って…嘘だろ」



「なんで?ホントだよ。」


つかさがごまかそうとしているのは、簡単に感じ取れた。






「西野、今日……、西野が病院に入って行くの見たんだ……。」





つかさの顔が突然曇る。



「……そっか…。」


俯いて、そう言った。





「西野、本当のこと話してくれ。俺達恋人同志だろ?何でも話してくれれば良いから。」





淳平は何とかしてつかさの力になりたかった。いつもははっきりしない性格だが、つかさの恋人としての自覚が思い切りと勇気を与えていた。








「淳平くん、ごめんね。」



そう言って、つかさは自分の頭を淳平の胸へうずめた。




「あたし、自分でも何が何だか分からないの。」


「パティシエになるために頑張らなくちゃいけないのは分かってる。」


「でも……最近急に前に進むのが怖くなるときがあるんだ……それでバイトに行くのも急に嫌になっちゃうんだ……」


「何でかは自分でもよく分からない。別にケーキ作りが嫌になった訳じゃないのに…。でも今は、何故か怖いんだ…進むことが…生きることが…」



「それで、あまりに変わっちゃったあたしを見かねて、お母さんが今日病院に行ってみようって言ったんだ…」







「そうだったんだ…。    西野、これから俺の考え言うね。今西野が苦しんでるのは、きっと、幸せな未来のための苦しみなんだよ。そう考えれば少しは楽になるんじゃねーかな。」  



「それでも、それでもダメなときは、俺がいるから。」


「いつでも話を聞くし、俺の前では、いくら泣いても良いから。」









淳平は精一杯つかさに想いを伝えた。









「うぅっ…、淳平くん…、ひっく…、ありがとう…」




つかさは淳平に抱きしめられたまま泣きじゃくった。














つかさにはその後もバイトに行けない日々が続いた。




淳平は毎日つかさに会いに行き、遅くまで話していた。


淳平といるときのつかさはとても元気で、いつも笑顔だった。




それでも、まだバイトに行くことだけはできなかった。




そして、だんだんとバイトを休んでいる自分を否定することが多くなっていった。


その度に淳平は必死につかさを慰め、勇気を与えていた。今のつかさには淳平が大きな、大きな支えになっている。







そんな状況のまま、夏休みの最後の日がやってきた。



この日もいつもどうりにバイトを済ませた淳平はつかさの家に向かっていた。






そのとき前から唯が必死で走ってきた。



「どうしたんだ!?唯。」



唯は息を切らしながら言った。



「ハァ、ハァ…、さっき、西野さんが…、倒れて、病院に運ばれたって…、淳平の家に電話がかかってきて…、」







(…え…?)






淳平は持っていた荷物を落とした。


[No.829] 2005/02/01(Tue) 00:35:18
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even if you...5 (No.829への返信 / 5階層) - つね

『深まる絆』






「ハァ…ハァ…」



淳平は息を切らしながら病院へと向かった。



夏とはいえ、もう辺りは暗くなっており、病院からの明かりが目立って見える。


淳平は急いでその中へと入っていった。




「さっき運ばれてきた…、西野つかさの病室どこですか!!!…」




病院と分かっていても、心配でつい大声になってしまう。



「西野つかささんですね。152号室になります。」


病室を聞いた瞬間、淳平はダッシュで病室へ向かった。






病室のドアを恐る恐る空けた淳平の目には、







いつものつかさがいた。




「西野!」





「淳平くん!…ごめんねこんなところまで来てくれて。」



つかさはベッドに寝転び、上半身だけを起こした格好だった。




「西野、大丈夫なのか?」




「うん。ストレスが原因で倒れたみたい。大丈夫なんだけどしばらくは安静にしておくようにって。だからちょっとの間入院することになるかな…。」





「そっか。でも元気そうでよかったよ。ホントに。」



「うん。心配かけてごめんね。」






「別にいいって。でもさ、ストレスが原因なんだろ。あんまりいろいろ一人で抱え込まないほうがいいぜ。何でも話してくれよ。文句でも、愚痴でも、何でも聞くからさ。」











「うん、ありがと。……でもストレスの原因は他にあるのかもねー。」




つかさはそう言って悪戯っぽく笑った。






「西野?」







「ほら、その呼び方。淳平くんあたしのことずっとそう呼んでるよね。」




淳平はつかさの言いたいことがよく分からなかった。




「だからぁ……」



つかさには珍しく顔を赤くして、もじもじとしている。その姿がまたたまらなく可愛い。




(え…急に様子が変わったな。なんかこっちまでドキドキしてきた。)









「あたしのこと……、名前で呼んで…」







「えっ、名前でって…?」





「もうっ!とぼけるなよな。淳平くんはあたしの彼氏だろ。そんなの自然なことじゃん。」





つかさの言う通り、恋人同士の関係になった二人が名前で呼び合うのは、極自然なことである。



それでも、いざ名前で呼ぶとなると恥ずかしさが込み上げてくる。





(名前でって…。確かにそう考えれば自然なことだけど…。いざとなると照れるよな…あぁ、緊張してきた。)






「ねぇ。はーやーく」



急かすようにつかさが期待いっぱいの笑顔で言う。








(こんな顔で見られたら、誰だって言うこと聞くよ…)



淳平は顔を真っ赤にして口を開いた。





「えっと……、つかさ……大好きだよ。」



淳平の心臓は激しく動いている。




(やばい、メチャクチャドキドキしてるし。しかも言うこと無かったらって『大好き』なんて…あぁ、今になってまた恥ずかしくなってきた…)



淳平はさらに顔を赤くして下を向いた。






「淳平くん。」




つかさに呼ばれたので淳平は顔を上げた。





すると






つかさの唇が淳平の唇にやさしくふれた。





「大好きだよ。淳平くん。」



つかさは淳平に満面の笑みを向けた。








淳平はその場に固まって動けない。







そして…、




ガチャッ





「面会時間もう終わりですよー。」


淳平は看護婦さんのその声でやっと立ち上がった。







「じゃ、じゃあ西…じゃなくて、つかさ、明日も来るから。」



「ははは、呼び方戻りそうだよ。…今日は心配かけてごめんね。」




「いいよ。そんなの気にしなくても、じゃあ、無理しないようにな。」




「ありがと。じゃあね。」




つかさがとりあえず無事だったことを確認して、淳平は安心した。




そして、今日つかさへの想いがまた強くなった。


つかさも淳平への想いがより強くなった。



二人の絆はまた深まっていく。



別れを告げた後、二人は恋人であること、お互いの想い、そして、一緒にいられる幸せをかみしめていた。


[No.832] 2005/02/03(Thu) 23:27:53
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even if you...6 (No.832への返信 / 6階層) - つね

『涙』





9月1日



淳平は久しぶりに制服を着て学校へと歩いていた。


今日は高校の始業式である。





学校へ着き、始業式を終えると、淳平はさつきを呼んでつかさと付き合うことになったことを話した。




「さつき、俺、西野と付き合うことになったんだ。」




さつきはそれを聞いて、笑顔になった。



「そうなの。よかったじゃん真中。」



「さつき…、ごめんな。」



「何言ってんのよ。真中が決めたんだからそれでいいの。あたしはまた新しい恋探すから。」


「さつきならきっといい人見つかるよ、俺が言える立場じゃないけど…」


「ありがと。真中、西野さんと幸せにね。」


「うん。ありがと、さつき。」



(さつき本当にいいやつだよな。感謝しなくちゃな)







続いて、淳平は綾の元へ向かった。



そして、さつきのときと同じようにつかさと付き合っていることを話した



「そうなんだ。おめでとう、真中くん。」



「ありがと、東城…ごめんな。」



「謝ることないよ、真中くん、西野さんを大切にしてあげてね。」



「うん。ありがとな」





「あと、また小説読んでね。」



その言葉を聞いて、淳平の頭にはいつかの綾の言葉が浮かんだ



(「あたしの小説の読者は真中くんだけだから」)




「うん、もちろんいつでも読むよ。」



それを聞いた東城は優しく微笑んだ。




(こうやって普通に話してくれる東城にも感謝だよな。)





淳平は改めて二人の心の広さを感じ、二人に感謝した。




しかし、つかさが入院していることは二人のどちらにも言わなかった。


心の中で苦しんでいるつかさにこれ以上負担をかけるわけにはいかないのだ。





そして午後になると、淳平たち映研は文化祭の準備に取り掛かった。



文化祭まで一ヶ月を切り看板等の準備も本格化してきた。学校全体が活気に満ちている。





その中で、淳平は必要な準備を終えると、つかさのいる病院へと向かうため帰る準備を始めた。




すると、外村が話し掛けてきた。



「あれ、真中もう帰んの?」



「あぁ、ちょっと用事があってな。今日する分の準備は終わらせといたから。」



「用事?なんか気になるな〜。つかさちゃんにでも会いに行くのか?」


外村はニヤニヤしながら言った。



外村はもちろんつかさと淳平が付き合っていることを知っている。






「…一応…そうだけど…」



「いいねぇ、あんなにかわいい娘が彼女で。今度つかさちゃんの写真撮らせてくれよな。」




(こいつ絶対HPに使うつもりだ…)






「いいけど…、変なことに使うなよ。」



「わかってるよ。人の彼女を変なことには使ったりしねーよ。」




「じゃあ俺もう行くから、外村、後よろしくな。」



「任せとけ。じゃあな。」



(真中のやつ、すっかり彼氏らしくなってやがるな。)


外村はいつもより大きく見える淳平の背中を見ながら微笑んだ。








淳平は病院へ入り、いつも通りつかさがいる部屋へと向かった。




しかし扉の前で立ち止まる。










152号室の扉には、










『面会謝絶』の札がかけられていた。






(…なんで…)









疑問と不安を胸の中に抱えながら帰っていると、偶然つかさの母に会った。




淳平は聞かずにはいられなかった。



「おばさん、つかさに何かあったんですか?さっき行ったんですけど面会謝絶になってて…」




つかさの母はゆっくりと話し始めた。



「昨日、バイト先の日暮さんから電話があってね、お見舞いに来るって言ったのよ。」


「それを聞くと、つかさは『会いたくない』って言って…」


「それで最後には『明日は面会断って』って言って、病院の人に頼んで面会謝絶にしてもらったのよ。」




「そうだったんですか。……まだバイトは無理みたいですね。」




「たぶん、あの娘も苦しんでるんだと思うわ。淳平くん、あの娘を支
えてあげてね。」





「はい。任せてください。」



このとき、淳平は自分がつかさを支えなければと強く思った。











次の日、




淳平は学校を終えるとすぐに病院へと向かった。ドキドキしながら病室に行く。




淳平は病室の扉に何もないことを確認した。




(良かった。今日も面会断ってたらどうしようかと思ったよ。)



ドアをノックして中へと入っていく。



「つかさ?  いる?」




つかさはベッドの横の椅子に座って何か書いている。




淳平の声に答えはしなかったが、淳平に向かって微笑んだ。






「つかさ、いつ退院なの?   退院したら一緒にどこか行こうか?」





淳平は明るく話しかけた。






(「そうだね。でも珍しいね、淳平くんから誘うなんて。」)





淳平の頭の中には笑いながらそう言うつかさが浮かんでいた。








しかし、つかさからの答えはない。











「……つかさ?」





淳平はつかさの方を見た。








つかさは目にいっぱいの涙を浮かべ、唇だけが『淳平くん』と動いている。












しかし、つかさの声は聞こえない。







淳平の頭には最悪の事態がよぎる。













「…つかさ…声でないの…?」








つかさはさらに多くの涙を流して頷いた。








そのとき









つかさが持っていた紙が淳平の足元に落ちてきた。






紙に書かれた字を読む。








『淳平くん、迷惑ばっかりかけてごめんね。』





それを見た瞬間、淳平の目からも涙が溢れてきた。







淳平はつかさの小さな体を抱きしめることしかできなかった。





今の気持ちは、どれも言葉にならなかった。



ただ、ただつかさを抱きしめ続けた。










病院を出る前、つかさのの担当医から説明を聞いた。



「西野さんは、今、自分のバイトに関係している人と話したくないという気持ちを持っている。」



「そして、昨日バイト先の人がお見舞いに来ると聞いて、その気持ちがあまりに強くなりすぎてしまった。」




「その結果、西野さんの中のそのような気持ちが西野さんの言葉を押さえてしまったんだ。普通こんなことは無いんだけれども……」





「でも、俺と喋りたくないなんて思ってないはずです!」



淳平は必死に訴えた。



この状況を嘘だと思いたかった。




「言葉自体が失われているんだ。話す相手に関係なく…。」



先生は辛そうにそう言った。





淳平は絶望を感じた。






もうあの声が聞けない、そう思うと涙が止まらなかった。







空は快晴、夜の天井にはたくさんの星が瞬いている。






告白をしたあの日、








綺麗に見えた星空が今日は涙で滲んでよく見えない。


[No.846] 2005/02/06(Sun) 00:05:43
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even if you...7 (No.846への返信 / 7階層) - つね

『プレゼント』













淳平は涙が止まらないまま歩き続けた。



あてもなく夜道を歩いていると前に人影が見えた。






外村だった。



外村は淳平の涙を見て何かあったとすぐに分かった。



「真中…?何で泣いてんだ?」



淳平は涙を拭って答えた。



「…いや…何でも無いよ…」



そう言うものの、淳平の目から流れ出るものは止まらない。



「何でも無いって、そんな訳ねえだろ。何があったんだよ。話してみろよ。」



外村は少し強い口調で言った。








「つかさ…喋れなくなったんだ。」









「…へ…?」




外村には淳平が何を言っているのか理解できない。



「どういうことだよ、つかさちゃんが喋れないって。」




淳平はゆっくりと話し始めた。



「つかさ、実はストレスが原因で倒れて入院してたんだけど、そのとき、バイト先の人がお見舞いに来るって聞いて、そのとき、言葉を話せなくなったんだ。」




「つかさはバイトのことでかなり苦しんでたみたいで、バイトには2週間くらい行けてなくて。バイト先の人と関わることさえ怖いみたいなんだ。」




「……そうなんだ…」



外村は信じることのできない現実を知らされ、そう言うしかなかった。


二人はしばらく無言のまま歩き続けた。













そして、


淳平の家の前まで来たところで外村が口を開いた。



「真中、つかさちゃんの側にいてやれよ。」



「わかってるよ。」


まだ暗いままの淳平の表情を見て外村は続けた。



「あと、つかさちゃんの前では笑顔でいてやれよ。お前の悲しむ顔なんか見たら、つかさちゃんも辛いと思うぜ。ただでさえ苦しんでるんだから。」



淳平はこの言葉を聞き、少し考えてみた。




(そうだ。一番辛いのはつかさじゃないか。俺も確かに辛い…けど俺がつかさを支えなきゃ。)




「あぁ、わかったよ。外村、ありがとな。」



「じゃあな。元気出せよ。」



そう言って外村は帰っていった。







家に入ると、唯がいた。



どうやら泊まりに来たようだ。



「じゅんぺー遅かったね。」



「あら、淳平、つかさちゃんのところ行ってたの?やけに遅かったわねぇ。」


淳平の母も起きていた。


淳平は泣いていたことを悟られないように下を向いていた。



「じゅんぺー?」


何も喋らない淳平を不思議に思った唯が淳平の顔を覗き込んできた。






「…あ…。」



淳平の顔の涙の跡を見て唯の声が途切れた。



「何か…あったの…?」



そう聞くのが精一杯だった。





いずれ分かることだからと思った淳平は両親と唯につかさのことを話した。


























話を聞いた後、唯は泣いていた。母の目にも涙が溜まっている。





淳平は話し終わるとすぐに部屋に入った。





ベッドに寝転がりつかさのことを考える。



数々のつかさとの思い出が頭の中に浮かんだ。



そしてつかさの声が聞こえてくる。



(「淳平くん。」)



(もう二度とあの声が聞けないのかな…)



一度は止まった涙がまた溢れ出してきた。









「笑顔でなんて、そんなの無理だよ…」



淳平は一晩中泣き続けた。




唯はその泣き声を扉越しに聞いていた。



それを聞くと淳平の部屋にはとても入れなかった。




























そしてそれから1週間が経ち、つかさの誕生日までちょうど1週間となった。




つかさは声は出ないが、口の動きで大体何を言いたいかが周りの人に伝わるので、そのようにして人とはコミュニケーションをとっていた。



淳平はつかさが喋れなくなってからも毎日病院へ通っている。



淳平は辛い気持ちもあるが、それ以上に辛いつかさの立場を考えて、明るくつかさを励ましつづけている。









この日の夕方、今日も淳平は病院に向かっていた。




淳平は病院への道を少し急ぎ足で歩いた。



つかさへのプレゼントを持って…



(つかさ、どんな顔するだろう。きっと喜ぶだろうな。)




淳平はいつも以上に勢い良く病室のドアを開けた。




すると、いつものようにつかさが淳平に笑い掛ける。



その笑顔を見る度にここまで歩いてきた疲れが癒される。



つかさはもうかなり精神的に安定していて明日の退院が決まっている。






「つかさ、明日退院だろ。だからじゃないけど、俺からプレゼントがあるんだ。」



<何?淳平くん。>



期待のこもった笑顔でつかさが聞く。




「あのさ、これなんだけど…」



淳平は一枚の紙をつかさに見せた。



それは泉坂高校の文化祭のポスターだった。



淳平はそのポスターを指差して言った。



「つかさ、これ一緒に行かない?」



つかさは少し遠慮がちに口を動かす。





<でも…あたしと一緒に歩いてたら、淳平くん変に思われる…>



予想外の反応に淳平は驚いた。



「なんで?」









<あたし…喋れないから…>



そう言ってつかさは俯く。



「そんなの関係ないよ。俺は喋れなくたってつかさのこと好きだし、つかさは俺の自慢の彼女なんだから。」




それを聞いた瞬間、つかさは淳平に抱きついた。



(…そんなに強く抱きしめられると、いろんなところにいろんな感触が…)



淳平は突然のことに照れながらも続けた。




「あと、文化祭の日、9月16日なんだ。つかさの誕生日だろ。ちょうど良いと思って、」



つかさは淳平と目を合わせてこう言った。



<淳平くん、ありがとう。嬉しいよ。>







しかし、目を合わせた淳平の顔はにやけている。




バシィッ




それを見てつかさは淳平の体を叩いて、そっぽを向いた。




しかし、表情を見れば本気で怒っているのではないことが分かる。




(もうっ、今エッチなこと考えてただろ。)




そんな声が聞こえてきそうだった。






しかし、淳平から顔をそむけると、淳平にはつかさが何を言っているのか正確には分からない。









……声を出すことができないのだから……





「えっと…ごめん…」




謝りながら、淳平は突然寂しい気持ちになった。





(そっか…つかさ喋れないから、俺、つかさと目が合ってないときは何言ってるか完全には理解できないんだ…)




その表情を見て、つかさはすぐに淳平の気持ちを読み取った。



だが、それをそのまま口には出さず、分からない振りをして淳平の顔を覗きこんで尋ねた。




<淳平くんどうしたの?>




淳平は慌てて笑顔を作って答えた。





「あぁ、何でも無いよ。それよりさあ……」






(やっぱりあたしが淳平くんに負担かけちゃってるんだな…)







明るく振舞おうとしている淳平の姿がつかさにとっては余計に辛かった。



それから面会時間が終わるまで話をして、淳平は家に帰った。
















二人の気持ちはもちろん付き合い始めたときから変わらないままだ。





しかしまだ二人の関係は完全に元に戻ってはいない。







それでも、文化祭に一緒に行く約束をした。







二人の関係はまた1歩進んだ。











(9月16日、つかさの誕生日が最高の日になりますように。)





そう願って淳平は目を閉じた。


[No.861] 2005/02/09(Wed) 21:19:10
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  『声』












校庭がいつもと違う様々な制服で賑わっている。


いよいよ今年もこの日がやってきた。


泉坂高校文化祭、『嵐泉祭』の日である。


淳平は一年生のその時と同じように、映研の看板の前に外村と一緒に立っていた。


「今年の映画は優勝できる可能性かなり高いだろうな。ああ、観客の反応に直に触れてみてえなぁ。」


淳平の顔にはワクワクした気持ちが表れている。



「ばーか、今日お前にはもっと大切な仕事があるだろ。こっちは俺らに任せろって、」


「分かってるよ、それくらい。」


「分かってるならそっちに集中しとけよ……、あ、あれつかさちゃんじゃないか?」




外村に言われた方を見ると少し不安な顔をしてつかさが歩いていた。


「あ、本当だ。」



(つかさ緊張してるみたいだな。無理もないよな、こんなに人がたくさんいるところに来るのも久しぶりだもんな、)


「つかさー!」


淳平は少しでもつかさの緊張をほぐそうとして大きく手を振った。


淳平の声に気付き、こっちを見たつかさの顔から笑顔がこぼれる。


そして淳平の方に向かって走り出した。






しかし、急ぎ過ぎたのか、つかさは淳平の目の前でつまずいて、バランスを崩してしまった。


「危ないっ!」



淳平の声が聞こえた瞬間、つかさはからだが浮き上がるのを感じた。









ゆっくりと目を開けると目の前には淳平の顔があった。


周りを見渡してみる。


つかさは淳平に抱き抱えられていた。



「つかさ、大丈夫?」



つかさは頬を赤く染めて淳平から目をそらして頷いた。











少し経ってつかさが口を開く。


<淳平くん、恥ずかしいよ…>





つかさの言葉に淳平も急に恥ずかしくなってつかさを降ろした。





二人は顔を赤くしてお互いの顔を見れずに、下を向いてしまった。






「あーあ、何見せつけてんだよ。」



外村が呆れたように言った。


「別に…見せつけてる訳じゃ…」


淳平が言い終わらないうちに外村が口を開いた。


「いいから早く行ってこいよ。早くしないといろんなとこ回れないぜ。こっちは任せとけよ。」


「あ、うん。」



歩き掛けた淳平は立ち止まり、もう一度外村の方に向いた。



「ありがとな、外村。」


「いいってことよ。じゃあ楽しんでこいよ。」


外村は笑顔で淳平を送り出した。





「じゃあつかさ、いこうか。」


そう言うと、つかさは淳平の腕に抱き着き、淳平に向かって笑った。


(今日は俺に甘えるってことかな…)


淳平は腕に大切な温もりを感じながら歩きだした。

























淳平とつかさが歩くと周りの人々がざわめく。


それも仕方がない。


淳平の横にいるのはアイドル以上の美少女である。


ざわめきの理由を知ってか、知らずか、当の本人は全く気にしない様子でどんどんと淳平を引っ張っていく。




(喋れなくなってもこういうところは全然変わってないよな。こういうところなんだろうな、俺がつかさを好きな理由の一つは。)



























そうしていろいろな店を回っているうちに歩き出してからかなりの時間が経ち、時計は11時前を指している。


足もかなり疲れてきた。


「結構歩いたね。そろそろ休もうか?」


淳平がそう言うとつかさは頷き、中庭のベンチに座った。


と言っても、疲れているのは明らかに淳平であり、つかさは平気な顔をしている。


それでも淳平は疲れを必死に隠そうとしている。やはり男としては彼女に情けない姿を見せる訳にはいかない。



「つかさ、何か食べるもの買ってこようか。何がいい?」


つかさは少し無理をしてるような淳平を見て、笑いながらソフトクリームの店を指差した。


「わかった、ちょっと待ってて。」


淳平は走ってソフトクリームを買いに行った。





つかさは走っていく淳平の大きな背中を見て微笑んだ。


(淳平くんと一緒だとこんなに楽しいんだよね。やっぱりあたしにと淳平くん
はかけがえのない存在なんだな。)








そんなことを考えていると後ろから男が声を掛けてきた。





「ねえ、君一人なの?」


つかさが振り向くと、二人の背の高い男が立っていた。


「うわ、この娘めちゃくちゃかわいいじゃん。」


「な、だから言ったろ。俺の目に間違いは無いんだって。」


「ところで君さ、一人なんだろ。俺達とどっか行こうぜ。」


つかさはその言葉を無視して立ち上がろうとした。





しかし、その瞬間男に腕を掴まれ、止められてしまった。


淳平のいるソフトクリーム屋の前からはちょうどここは壁の影になって見えなくなっている。



つかさは腕を振り切ろうとするが、力では敵わない。


「何も言わないってことはOKってことだな。」


つかさは強引に引っ張られた。


(いや、淳平くん早く気付いて!淳平くん!)







叫ぼうと思っていても声が出ない。








つかさはそのまま連れていかれてしまった。





























(ソフトクリーム屋混んでたな。つかさ待たせちゃったな。怒ってるかも……)



「つかさ、ごめん!すごく混んでてさ……」



そう言いながら走ってきたが、つかさの姿は見えない。


「…つかさ?」


周りを見渡してみてもどこにも姿が見えない。



(…まさか…)








「あの…もしかして、ここに座ってた人の彼氏とかですか?」


近くにいた女子生徒が話し掛けてきた。


「そうだけど、何かあったんですか!?」


不安と焦りで淳平の声はかなり大きくなっている。


「さっき背の高い男の人達に連れていかれてたの見たの。周りに他の人はいなかったからあたし動けなくて…」


女子生徒は申し訳無さそうに話した。


「その後どこ行ったか分かる!?」


「あっちのほうに…」


女子生徒は校舎の方を指差した。


「わかった、ありがとう。」


淳平はそれを聞くとすぐに校舎に向かって走って行った。




























校舎の入口まで来るとそこには立入禁止の札が掛けられていた。


(そういえば…先生が言ってたな。一部使わないところがあるって。)


淳平は立入禁止のチェーンを飛び越えて校舎の中に入っていった。


























「なぁ、お前大丈夫なのか。声出されたら誰か気付くかもよ。」


「大丈夫だって。お前もさっき見たろ、立入禁止のチェーン。ここだけ使ってねえから誰も来ねえよ。」


「なるほど。なら大丈夫だな。」


つかさは空いていた教室の中に連れてこられていた。


逃げようとしても鍵が掛けられ、扉の前には男達が立っている。




「さーて、じゃあ相手してもらおうかな。」


一人の男がニヤニヤしながら近づいてきた。


(イヤ、あたし何されるの!?  助けて淳平くん!)



つかさは怯えて震えている。


「何?俺達の相手すんのが震えるほど楽しみな訳?」


男の手がつかさの肩を掴んだ。


(気持ち悪い…      お願い、淳平くん!早く来て!)


















「淳平くん!助けて!」



















淳平は廊下を走っていた。



「…平くん!助けて!」


(この声!…… でもつかさは今……でも、間違いない!)


淳平は声のした方へ急いだ。






















(ここだな…)



淳平はドアを開けようとドアに手を掛けた。だが鍵が掛かっていて開かない。


中からは男の声がする。




(こうなったら…)




淳平は目一杯の力でドアに体当たりした。





ドアは勢い良く倒れ、中には口を塞がれたつかさと二人の男がいた。










淳平は別人のような険しい表情で強く男を睨みつけた。


















「おい、お前ら、俺の彼女に何してんだよ。」


[No.877] 2005/02/20(Sun) 00:38:24
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  『動き出した歯車』





「おい、お前ら、俺の彼女に何してんだよ。」


淳平は低い声でそう言い放った。


「あぁ?なんだと、偉そうにしてんじゃねえよ。」


二人のうちの一人が淳平に近づいて来た。


そして、


バキッ


その音を聞いてつかさは目をつぶった。






しかし、


ドサッ

つかさの横には不良が倒れてきた。


(……え……?)


目を開けると、淳平が男を殴っていた。


「この野郎!やりやがったな!」


もう一人の男が淳平に殴り掛かった。

バキッ


淳平の体が大きく吹っ飛んだ。


倒されても淳平は不良達に立ち向かっていく。


しかし、相手は二人である。



予想したとおり淳平がどんどんと追い込まれていく。


バキッ…ドスッ…


淳平はもうサンドバッグ状態である。


しかし、それでも立ち上がり不良に立ち向かう。


「こいつ、しつこいな。」


「これで終わりだ。」


男のボディーブローがまともに淳平の腹に入った。


ドサッ…


淳平は床に崩れ落ちた。






「いやああああ!淳平くん!」





そのとき、


「はいはい警備員さーん、こっちですよー。」


「やばい、逃げるぞ。」


「…ああ。」


二人の男は走って逃げていった。












「淳平くん?」


つかさは倒れたままの淳平に近づいた。


「…つかさ…守れてよかった…」


淳平の顔から安堵の表情がこぼれる。


しかし、その顔は腫れ上がり、ボロボロである。


「淳平くん…本当にありがとう…淳平くんが来てくれなかったら…あたし今頃…」


つかさの目から涙が溢れる。


そのとき淳平の目からも涙が流れた。


「…つかさ……声…」


「えっ。」


つかさはそういわれた瞬間、自分の声が出ていることに気付いた。


「良かった…本当に良かった。つかさ…おめでとう。」


淳平はつかさを優しく抱き締めた。


お互いの目が合い二人は目をつぶった。





そして…

















「まったく、お二人さんお熱いねぇ。」



(…え…)




恐る恐る淳平が振り返ると


教室のドアにもたれ掛かって外村が立っていた。


「外村…!何でここに!?」


外村は淳平の言葉に呆れて言う。


「はぁ?…何でってお前…。俺が来てなかったらお前もつかさちゃんも助かってなかったぞ。」








(…あ…、そういえばあの時…)


『はいはい警備員さーん、こっちですよー。』








「あ、あの声、外村だったのか。確かあれを聞いて不良達が逃げていって…」


「カッカッカ、あんな嘘に引っ掛かるとはアホな奴らじゃ。」


外村は扇子で扇ぎながら得意げに言った。


「はは、外村…ありがとな……」


ドッ


そう言った瞬間淳平はつかさの肩にもたれ掛かった。


「ちょっ…淳平くん!?」


「安心しろよつかさちゃん。よく聞いてみな。」


スー、スー


「寝てるだけ…?」


「よっぽど体力使ったんだろうぜ。つかさちゃん守るのに必死だったんだよ。















それから数時間後、


(…あれ…、ここ俺の部屋…?)


カタカタ、


台所から物音がする。


(母さん帰ってんのかな?)


淳平は部屋から出て台所に向かった。












「母さん?」


「あ、淳平くん、気がついた?」


「つっ、つ、つかさ!」


「何、あたしがいたらそんなに嫌だった?」


悪戯っぽい笑顔を浮かべながらつかさが聞いてくる。


「いや、そういう訳じゃ……ちょっとビックリしてさ。」


「それより大丈夫?まだ夕食出来てないから寝ててもいいよ。」


「夕食って…?」


「夕食は夕食でしょ。淳平くんのお母さんに頼まれちゃって。なんか用事があって夜遅くまで出掛けるんだってさ。」



「え、そうなの。」


「うん。だからまだ休んでていいよ。」


「つかさ…」


つかさはさっきまでとは違う淳平の声に振り向いた。


「その…心配かけてごめんな…」


淳平は力のない声で言った。


「謝ることないよ、淳平くん。それにお礼を言い足りないのはこっちの方なんだから。」


「でも…結局迷惑かけてるし…」



バチッ



淳平が言い終わらないうちにつかさが淳平の頬を両手で叩いた。


そして手はそのまま淳平に顔を近づける。


「コラ、淳平くん!弱気になりすぎだぞ!結局はあたしを守ってくれたじゃん。」


つかさの顔があまりに近くて心臓の鼓動が早くなる。


「それに…」


つかさは淳平からいったん目を反らした。







「すっごくかっこよかったよ!淳平くん」


そして再び淳平の目を見てはっきりと言った。


「…えっと…」


(面と向かってそう言われると…どう言えばいいのか…)







「それで!」








チュッ








「これがあたしを守ってくれた、そのお礼!」


「じゃあ、ご飯出来たら呼ぶからそれまで部屋にいて。」


つかさは照れを隠すように淳平を部屋に追い返した。


淳平はベッドに寝転んでボーッとしている。


(つかさからキスするなんて…このままいくと…つかさの料理食べて、その後は…)









『淳平くん…次はあたしを好きなようにして。』


『いいのかい?つかさ、じゃあ遠慮なく…』







「淳平くーん、できたよ〜。」


妄想の中に生のつかさの声が入ってくる。


「わ、わかった。今行くよ。」


妄想に浸っていた淳平は慌てて台所へ向かった。















(…すげぇ…)


テーブルの上の料理を見て言葉を失う。


つかさの料理は有り合わせの材料で作ったとは思えないほど立派なものだった。


「なに突っ立ってんの?早く座りなよ。」


「いや、あまりにおいしそうだから…」


「ホント?ちょっと自信あるんだ。今回のは、」


「ホントおいしそうだな…いただきます。」




パクッ


一口食べてみる。


「…うまい…すっげぇうまいよ、つかさ!」


淳平の顔が笑顔に変わる。


「そう言ってもらえると嬉しいな、淳平くんへの愛情いっぱい込めて作ったから。」


「あ、ありがと…」


(そんなこと言われると付き合ってても照れてくるよな…)


つかさはそんな淳平を笑顔でずっと見つめている。


「ごちそうさま。おいしかったよ、つかさ。」


「ホント?良かったぁ。」


淳平の表情を見てホッとするつかさ。



「淳平くん、もうお腹いっぱいかな?」


「いや、まだ食べれるけど、何?」






つかさはキッチンの影から何かを取り出している。


「…えっと…これ作ったんだけど…」


つかさは少し緊張したように話す。


つかさの手にはおいしそうなケーキが持たれていた。



「食べて…くれるかな?」




「もちろん。」


その笑顔を見てつかさの顔にも笑顔が戻る。


「じゃあ食べてみて。久しぶりに作ったから上手く出来てるか分からないけど、」


「それじゃあ、いただきます。」


ケーキを口にした瞬間、淳平の頭に一つの考えが浮かんだ。


「どう?淳平くん。」


「え、…あぁ、おいしいよ。」


淳平の反応はどこか上の空のような感じがする。


「ホントに?」


心配になってつかさが聞いた。


「いや、ホントにおいしいよ。ビックリするくらい、ただ…」


(うますぎて、パティシエになるの諦めるのがもったいないような気がして…)


(でも…今のつかさには言えない…よな。余計なプレッシャーかけても良くないし。)


「ただ…?」


「いや、本当に、本当によく出来てると思うよ。」


「ありがと。」


つかさは立ち上がって話し始めた。







「あのね、淳平くん、あたしもう一度パティシエ目指してみようかと思うんだ。」






(…え…?)






「やっぱり傷つくことを怖がってたら、いつまでたっても前には進めないんだよね。」


「だって、淳平くんは危険を顧みずに不良に立ち向かっていったじゃん。」


「あたしもその姿から勇気をもらったっていうか、感動しちゃって。」


「あたしも頑張らなきゃなって思ったんだ。」


それを聞いた淳平の心の中には嬉しさの反面、不安もあった。


「パティシエにってことは、やっぱりパリに行くんだよな…」


「うーん、それはまだ分からないかな。だけど安心して。何があってもずっと淳平くんのこと想ってるから。」


つかさは淳平の心を見透かしたように言った。




「つかさ…ありがとう、愛してるよ…」



「淳平くん、あたしも…」




二人の唇が触れ合う。




そして、そのままソファーへと倒れ込んだ。




淳平がつかさの服のボタンに手をかけようとしたそのとき、



ガタガタッ


『何してんの、お父さん!見つかっちゃうじゃない!』


物陰から声が聞こえる。



淳平は声のするほうに目を向けた。



「何やってんの…?…二人とも…。」



そう言う淳平の顔はもう真っ赤だ。


その隣にはさらに顔を赤くしたつかさが座っている。




「いや、その…二人があんな雰囲気だったら声かけにくいじゃない。」


冷や汗交じりに母が言う。


「じゃ、じゃあ、あたしもう帰るね。」


赤い顔を隠すように下を向いたままのつかさ。


「あら、つかさちゃん。別にいいのよ。今夜は泊まっていったら?」


(誰が原因だと思ってるんだよ、この人…それにあんなとこ見られてつかさが泊まるはずが…)


「あ…、じゃあご迷惑でなかったらお願いします。」


(えぇぇっ!)


「ご迷惑なんて、こっちが嬉しいくらいよ。」


母はなんだか嬉しそうだ

















そして、淳平の両親が眠った頃、淳平とつかさは淳平の部屋へと入った。


つかさが先に口を開く。


「じゃあさっきの続きだね。」



「…えっ、続きって。」



つかさの口からその言葉が出るとは思っていなかった。



つかさの目は潤み、ひとりの女性としての魅力が溢れている。



「…キスして…」



淳平はつかさに吸い込まれるように近づいた。


そして、


「…んんっ…」






もう二人を止めるものは何も無い。







止まっていた夢たちがの歯車が回り出した。





もう二度と止まらないように、




強く、強く


[No.892] 2005/02/25(Fri) 21:33:07
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『約束』




二人だけの夜が更けてゆく…


二人はお互いに強く求め合い、お互いの愛を確認しあう…


金色のセミロングの髪はしっとり濡れて、より濃く色づき、


潤った瞳、そして…




「…淳平くぅん…」


鼻にかかった甘い声。


そんな姿に淳平はどんどん引き込まれていく。


つかさにも淳平に対する想いが溢れてくる。




二人の行為はやがて終演を迎え…










そして……









朝焼けが二人を優しく迎える。


「ん…」


つかさが先に目を覚ます。


横には気持ち良さそうに眠る淳平。


(ふふ…淳平くん子供みたい。)


そんな淳平の顔を見て自然と微笑みがこぼれる。


(ちょっとイタズラしてみようかな…)
















(あれ…息が……息!息がっ…!)


「ふがっ、んんんんんっ!」


突然息ができなくなった淳平は必死にもがいた。


しばらくして息ができるようになり目を開ける。


目の前にあるものが近すぎて焦点が合わない。


「おはよう」


その声が聞こえてからようやくその姿が鮮明に映し出される。


ドキッ


「……おはよう…」


そう答えるのが精一杯で心臓が今にも飛び出そうになっている。


そんな淳平をよそに、つかさは起き上がり話を進めていく。


「親には一応泊まるって言ってあるけど心配してると思うし、あたし帰るね。」


「そ、それなら送っていくよ。ちょっと待ってて、着替えるから」


そして二人は家を出た。












二人は並んで歩幅を合わせながら歩いた。


つかさの家までの距離がだんだんと縮まってく。


10分も立たないうちにつかさの家が見えてきた。


「じゃあ淳平くん、ここまででいいから。」


つかさが笑顔で言う。


「うん。それじゃあ」


つかさは淳平に手を振って走り出した。


その背中を見て愛おしく思う。


淳平は決心した。









「つかさ!」


淳平は思わず呼び止めた。


驚いたようにつかさが振り返る。


「何?淳平くん。」


「…えっと…その…」




「何?はっきり言いなよ。男の子だろ。」


つかさはもう淳平の目の前まで来ている。





「その…結婚しないか?」


「…えっ」


さすがのつかさも突然のことに驚きを隠せない。


「べ、別に昨日のことの勢いで言ってる訳じゃ無いんだ。付き合い始めた頃から考えてたことで…」


「…いつまでも一緒にいたいんだ…。」


「それに告白したとき言っただろ、『つかさだけを見る』って。俺にはつかさ以外いないんだ。」


「だから…結婚しよう。」


つかさはまだ淳平を驚いた表情で見つめている。


「つかさ…?」






「あ…えっとね、淳平くんも同じこと考えてたんだな、って思って。」


「えっ、じゃあつかさも俺と…?」


「うん。結婚したいって思ってた。だって当たり前でしょ。あたしには淳平くんしかいないんだから。」


淳平の言葉をそっくりそのまま返すつかさ。


「決まりだね。」


つかさは微笑みながらそう言った。





「じゃあ改めて。つかさ、結婚しよう。」


「はい!喜んで。」


今、二人の間に誓いが交わされた。


この誓いは永遠の約束。


幸せへと向かう約束。


二人を結び付ける、


強く、


優しく、


温かい、


二人だけの約束















それから月日は流れて……



「真中先輩、卒業おめでとうございます。」


いつもは淳平には頭など下げない美鈴が笑顔で淳平を祝福する。


今日は泉坂高校の卒業式の日である。


とは言っても、すでに卒業式は終わり、今は映研の部員で集まっている。


「力也さん、ちなみ力也さんの第2ボタンが欲しいです〜。」


「ちーちゃん、そんなの言わなくても俺のほうからあげるのに〜。」


「力也さんってあたしの考えてること何でも分かるのね〜♪」


少し外れたところでいちゃつく小宮山とちなみ


そしてそれを無視して話を進める外村。


「まああれはほっといて…、真中、今日何時からなんだ?」


「えーと、2時からだから、あと2時間後だな。」


「じゃあ、真中くんいろいろ準備もあるだろうからもうそろそろ行った方がいいんじゃない?」


綾が気遣い、声をかける。


「ああ、そうだな。じゃあ俺、先に行くから。また会場で会おうぜ。」


「真中、緊張しすぎないでよね。」


笑いながらさつきが言う。


「たぶん大丈夫だよ。心配してくれてありがとな。」


手を振りながら淳平は走っていった。


その姿を見届け、外村が口を開く


「じゃあ、俺らも行くか。」

















泉坂市内の小高い丘の上にある教会。


今日ここで、二人の若者が結ばれる。


教会の中はたくさんの人々で溢れている。


その人の数が二人の人柄、周囲の人々との深く、広い繋がりを表している。










式は進み、二人は以前道端で交わした誓いを再び交わす。


そして、お互いに向かい合う。


(き…きれいすぎ…だよ…これ…)


つかさのドレス姿があまりに綺麗すぎて、固まる淳平。


そんな淳平とは逆に平常心のつかさ。


「何ボーッとしてんの。ほら、早く。」


それでもなかなか動かない淳平を見かねたつかさ。、


「もう。じゃああたしからいくよ。」


一瞬膨れっ面を見せて、つかさが淳平に近づき、背伸びをする。


つかさは淳平にもたれ掛かるように抱きつき、


何秒の間唇が触れ合っただろうか、


「いいねー!初々しいねー!」


「おめでとう!」


「熱いねー!お二人さん!」


その間式場の歓声は鳴り止まなかった。










式が終わり、外に出る。


太陽の光がまぶしく、風が心地よい。


二人はもう一度目を合わせた。


「淳平くんこれからもよろしくね!」


「ああ、よろしく、つかさ!」


幸せをかみ締めるように、二人は見詰め合い、


両親や友人、たくさんの人からの祝福を受ける。






もう決して壊れることの無い二人の絆。






『ずっと一緒にいられますように…』






あの日星空に願った二人の願い、







それが今現実のものとなった。


[No.906] 2005/02/28(Mon) 01:16:06
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エピローグ『たとえ君が…』





大きなオーブンの前で、忙しく働く一人の美少女。


「そろそろかな?」


そう言いながらオーブンを開ける。


「よし♪完璧。」


「料理長さーん、できましたー!」


元気のいい声が厨房に響き渡る。





「はいはい、できたのね。あら、なかなかいいじゃない。」


金髪の背の高い女の人が厨房にやってきてつかさに声をかける。




「味は…どうですか…?」


つかさは緊張した面持ちで答えを待つ。


「うん、おいしい。というより本当にすばらしいわね。」


「もうあなたはここ本場パリでも有数の腕前よ。あたしからは何も言うことは無いわ。1年間よく頑張ったわね。」


料理長が微笑を浮かべる。


「え…じゃあ…」


「ええ、もう自分の店を持ってもいいわよ。日本にいる日暮さんに連絡は入れておくから。胸を張って日本へ帰ってらっしゃい。旦那さんも待ってるんでしょ。」


「はい!ありがとうございます!」


料理長に向かって深く頭を下げた後、公衆電話に向かって走る。







プルルルルル


ガチャ


『もしもし…』


「淳平くん!」


『つ、つかさ!?』


「うん、そうだよ。ねえ、聞いて!あたし自分のお店持てるんだよ!」


『えっ、ホント!?やったな、つかさ。ということは日本に帰ってくるの!?』


「うん。明日の朝早速出ようと思うんだ。」


『そんなに早く出て大丈夫なのか?そりゃ、俺だって早く会いたいけど…』


「大丈夫。もう挨拶は済ませてるから。淳平くんのほうは仕事どう?」


『それは帰ってきてからのお楽しみ。じゃあ空港で待ってるから、』


「わかった。楽しみにしてる。それじゃあね。」


ガチャ


受話器を置くつかさの顔には幸せが溢れ出ている。


そして、服のポケットから一枚の手紙を取り出し、それを胸に当てる。


(淳平くん…この手紙がいつも支えてくれたんだよ…)

















そして翌日


もう日が暮れた頃、1台の飛行機が空港に着いた。


そして、しばらく経つと…


一番大切な、一番会いたかった人の姿。


「つかさ!」


「淳平くん!」


二人は抱き合って再会を喜んだ。


「つかさ、お帰り。」


抱き合ったまま淳平が言う。


「ただいま、淳平くん」


二人の顔には満面の笑顔。


「じゃあ、家に帰ろうか。って言ってもつかさは初めて入るんだよね。一人でいると寂しかったよ。」


「でも今日からはずっと一緒だよ。」


「うん、ホント嬉しいよ。じゃあ行こうか。」


(そうだよな。これからはずっと一緒にいれるんだよな。)


淳平は一緒にいれる喜びを改めてかみ締める。


「淳平くん映画の仕事うまくいってるの?」



つかさが待ち切れずに聞く。


「もう少ししたら分かるよ。あ、あと帰り一応車用意してるから。」


「もう、もったいぶらさないでよ。」


そう言いながら空港の外に出る。













すると、









パシャパシャパシャ


そこには数え切れないほどの報道陣が待ち構えていた。


「真中監督!その人が噂の婚約者ですか!?」


「なんでも天才パティシエなんですよね。」




「そうですけど、ちょっとこっからはプライベートなんで、」


淳平は報道陣を軽くあしらって車に乗り込んだ。


「淳平くん…すごいね。」


つかさは驚きを隠せない。


「だから言っただろ、楽しみにって。」


1年前と全く変わらない笑顔と態度、


そんな淳平がつかさにとって何より嬉しかった。





「淳平くん。」


「何?」


「この手紙、ずっと大事に持ってたんだよ。パリであたしの心の支えになってた。ありがとね。」


つかさは淳平に一枚の封筒を見せて言う。


「ずっと持っててくれたんだ。こ、こちらこそ、ありがと…。」


淳平は顔を赤くして照れている。








   9月16日、

  つかさ誕生日おめでとう。

  プレゼントにメッセージ付けときました。

  これが今の僕の気持ちです。

    たとえつかさが、何処へいたとしても

    つかさへの想いは変わらないから、

    たとえつかさのパリ留学がどれだけ続いても

    待ちつづけるから、

    たとえ何が起こっても、

    愛するのは世界でただ一人、

    つかさだけだから、

    俺も夢に向かって頑張るから、

    だからつかさも頑張ってください。


                  真中淳平より





夢を叶えた二人、




しかしその夢は終わらない





だって





君が隣にいるから、




二人の夢は、幸せは、



これからもずっと続いていく




ずっと…





even if you...    おわり


[No.907] 2005/02/28(Mon) 03:24:55
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