| by Chihiro Sato-Schuh
【ロシアから西側世界の人々への最後通牒】 ウクライナ軍がロシアの国境地帯クルスクに侵攻したことで、ロシアとウクライナが全面戦争に入るのではないかとか、核戦争に発展する危険があるとか言われていた。ちょうどゼレンスキーがトランプと電話会談したり、ウクライナと中国の外相が北京で会談したりして、停戦交渉に動きそうになっていたところだった。プーチン大統領は、ロシア領土に侵攻して市民を虐殺したり、原発を攻撃したりする相手とは、交渉の余地はない、と言っていた。ウクライナ軍がクルスクに侵攻したことで、ウクライナ政府はすべての交渉の可能性を投げ捨てたことになる。 これについて、「ウクライナ政府は西側のご主人に従って、国民を戦場に送っている」とプーチンは言っていた。ウクライナ軍を指揮しているのは、事実上ペンタゴンだというようなことは、前から言われていた。クルスクのウクライナ軍というのも、アメリカ人、フランス人、ポーランド人が大部分なのだそうで、使われている武器もNATOのものだ。ウクライナに武器を送っている西側諸国は、ロシア領土での武器の使用を許可した。そうしたことからして、クルスク侵攻を計画したのは、ペンタゴンだろうと言われている。少なくともロシアは、NATOがウクライナを使ってロシアに戦争をしかけていると受け取っている。
クルスクにはロシア最大の原発があり、ウクライナ軍/NATO軍は、これを攻撃することで、交渉を有利に運ぼうとしたものらしい。だからこれは、ロシアにとっては核兵器の脅威と同じことなのだ。この場合、ロシアは核攻撃で答える選択肢も出てくる。しかし、そうなれば、核戦争に発展して、ウクライナどころかヨーロッパまで巻き込まれる可能性がある。クルスク侵攻とザポリージャ原発への大規模な攻撃で、ウクライナ/NATOは、ロシアに対してギリギリの選択を迫ってきたということになる。 ウクライナ政府は、アメリカのグローバル勢力に乗っ取られた状態で、ロシアと戦争させられている。ロシア政府はそれを知っているので、キエフを核攻撃したりするつもりはないだろう。ロシアにとって、ウクライナは解放するべきものであって、破壊して降伏させればいいというものではない。プーチンは、ウクライナ軍のクルスク侵攻に対してそれなりの対応をする、と言っていたけれど、どういう対応をするのかは、言っていなかった。
ところで、8月13日にニューヨークで行われた国連安保理のウクライナ問題特別委員会で、ロシア代表のポリャンスキーが、クルスク侵攻に対しての公式な声明を出したのだ。これまでロシアはつねに停戦交渉に応じる用意があると言ってきたけれど、これによって交渉の余地はないことが明確になった、ということだ。 6月にウクライナと西側諸国がロシア抜きで平和サミットを開催して、停戦の条件について話し合っていた数日前に、ロシアは独自の停戦案を発表していた。それは、2022年3月のイスタンブールで合意に達していた停戦交渉の内容に、ドンバス地方の新たに併合された地域の独立を認めることが加わったものだった。つまり、ウクライナは軍事的に中立に留まり、NATOに加盟したりしないこと、ドンバスから軍隊を撤退させ、独立を認めること、ウクライナ国内の少数民族に対する差別をやめること、といった内容で、戦争責任者を裁くことは含まれていなかった。
クルスク侵攻とザポリージャ原発の攻撃は、ロシアのこの停戦案に対するはっきりとした拒絶だ、とポリャンスキーは言う。なので、ウクライナとはもう交渉の余地はない。この戦争は、第二次世界大戦と同様の終わり方をし、戦争責任者はすべて裁かれる、と言っている。しかも、「キエフ、ワシントン、ロンドン、ブリュッセル、どこにいようとも」と言っている。つまり、キエフ政権だけではなくて、背後で操っていたNATOやペンタゴン、EUの責任者たちをすべて裁くつもりだというのだ。 第二次世界大戦は、ソ連軍がベルリンを陥落させ、ドイツのナチ政権が無条件降伏することで、ようやく終結した。その後、ニュルンベルク裁判が行われ、ナチの戦争責任者たちが裁かれたけれど、戦勝国であるイギリスとアメリカは、多くのナチの犯罪者たちをカナダや南米に逃したり、ナチの技術者や科学者たちを、米軍に協力する条件で釈放したりしていた。当時ウクライナでナチに協力して虐殺を行っていたバンデラ主義者たちも、カナダに逃がしてもらっていた。実際にニュルンベルク裁判で裁かれたのは、ごく一部の人々だけで、本当の仕掛け人というべき人物は、まるきり裁かれなかったか、あとで釈放されたかしているのだ。
今回の戦争では、そのバンデラ主義者たちが復活する形で、ウクライナが再びナチ化されたことで起こった。だから、今度はキエフの上層部を何人か見せかけに裁くだけでは済まない、ということなのだ。キエフの外から司令を出していた本当の責任者まで、すべて完全に裁くと言っている。
ロシアは、ウクライナで十年前に始まった戦争を終結させるために2022年2月に特別軍事作戦を始めた。西側諸国はこの事実を頑なに否定して、ロシアが一方的に侵攻したという嘘を人々に信じさせ、ロシアに対する戦争に駆り立ててきた。ポリャンスキーは、この嘘を語ってきた西側諸国のすべての人々に対して語っている。真実に目を開いて、良心に従うのか、それとも嘘を語り続けるのかは、一人一人が決めることだ、と。嘘を語り続ける人たちを、ロシアはすべて記録して、一人残らず裁くだろうと。
この声明を、ポリャンスキーは「馬を水場に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない」という言葉で始めている。これはつまり、今、嘘を広めるのをやめて、良心に従った行動に改めるのならば、これまでの罪は問わないということなのだ。それがつまり、水場に来て、水を飲むか飲まないかは、馬が決めることだということ。だけど、水を飲まないと決めた馬、つまりこれまで通り、嘘を広めて戦争に駆り立てる行動をやめない人々は、その行動のすべてを記録して、裁く、と。 今、戦闘をやめるのならば、これまでの罪は問わない、と言うのを「アムネスティ(赦し、忘却)を与える」というのだそうで、これは紛争をすばやく解決するために、使われる手段なのだそうだ。プーチン政権は、エリツィン時代から引き継がれた政治腐敗を一掃するのに、これと同じ手を使った。明日から腐敗をやめるならば、これまでの罪は問わない、しかし今後も腐敗を続けるならば、すべての罪を徹底的に追及する、と宣言したのだ。 これによって、8割方の企業家たちは、政治家を買収するのをやめて、会計をきちんと申告し、税金を払い始めた。プーチン政権は、残りの2割ほどのオリガルヒたちを裁いて追放すればよかった。そのため、プーチン政権は驚くほどの短期間で腐敗を一掃することに成功し、あっという間にロシア経済を建て直すことができた。 ポリャンスキーの国連安保理での発言は、全世界に対してなされたアムネスティの宣言だと言える。西側諸国の政治家やメディアは、ロシアが一方的に侵攻してきたという嘘を騙って、ウクライナに武器を投入させていた。しかし、それに関わってきた人々の中には、まわりがやるからしかたなく合わせてきた人たちも少なくないはずなのだ。ロシアのこのアムネスティの宣言によって、こうした人たちの多くが嘘を騙るのをやめ、良心に従って動き始めるとしたら、状況は急速に和平に向かっていく可能性がある。 それと関係しているのかどうかはわからないのだけれど、ポリャンスキーのこの声明があった直後に、ドイツの裁判所で、親ロシアで極右過激主義だとされて発禁になった雑誌「コンパクト」に対して、発禁を取り下げる判決が出た。もはやNATOがロシアに勝つ見込みはなく、遅かれ早かれいつかはウクライナが無条件降伏する日が来るはずだ。トランプが次期大統領に就任した場合、ウクライナへの軍事支援が止まる可能性もあり、その先行きはすでに視野に入ってきている。メディアやメディアを検閲する機関も、一人一人が自分の責任として態度を決めなければならなくなってきているわけだ。 ロシアがこの宣言をするところまで追い詰められたのは、NATOがウクライナにクルスク侵攻をさせたからだ。キエフやワシントンを爆撃するのではなく、こうした宣言を行ったのは、実にロシアらしい見事なやり方だと思う。西側諸国の多くの人々は、情報操作や心理操作で支配されて、戦争に加担させられているわけなので、一人一人が自分の行動に責任を持つことを、現実的に迫られる必要があるのだろう。もはや、どちらの側についていれば安全なのかとかいったことではなく、一人一人の行動が見られているということを自覚すること。 これがどこまで功を奏するのかはわからないけれど、しかし、西側諸国が目覚めて解放され、多極化世界の一部になっていけるようになるには、このプロセスを経ていくしかないのだろうし、それがおそらく最も早いのだろうと思う。 *** 国連安保理でのポリャンスキーロシア大使代理 ドイツの雑誌「コンパクト」発禁処分になった際に、編集部に家宅捜索が入り、イベントに使っていた移動式の舞台が押収された。(7月17日) コンパクト発禁解除の知らせ(8月14日)
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No.11611 - 2024/08/17(Sat) 10:36:00
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