| あらすじ第33巻
道明寺は、相変わらずつくしに関する記憶のすべてを失ったままだった。 おまけに海ちゃんは、つくしが道明寺の恋人だと知っているのに、悪びれることも遠慮することもなく、堂々と道明寺に近づいていく。このままだと、道明寺は海ちゃんに呑み込まれる・・・。
こんな絶望的な展開なのに つくしがまだ大丈夫って思えるのは、花沢類がいてくれるからだ。誰かが支えてくれることで、どうしてこんなにも救われるんだろう。
道明寺が退院して自宅療養しているのを知ったのは、電車の吊り広告の見出しだった。あのままつくしが彼女だったら、こんな風に退院を知ることはなかっただろうに。今の道明寺に、つくしは存在しなかったことになっている。それでも家にお見舞いにいくのは、健気だと思う。
けれども相変わらず道明寺は、つくしを類の彼女扱いし「帰れよ」と素っ気ない。おまけに家にまで海が出入りしていることを知り、つくしの気持ちの中で、何かが切れた。
あたしを見つけ出してくれないなら もういい。 あんたは もう あたしの好きだった道明寺じゃない。もう いらない。
記憶を失っても自分を選んでくれると思っていたのに違った。 もう会わないと決意したつくしは、自分の気持ちを葬るために、思い出の品を返しに改めて道明寺の家へ出かけた。
道明寺にもらった土星のネックレス、二人で野球を見に行った時に獲ったホームランボール、道明寺が小さい頃持っていたうさぎのぬいぐるみ。 これを返してしまえばおしまいだ。この恋の終了まであと少し。 でも悲しみが癒えるまで どのくらいかかるのだろう。
つくしは必死の思いで返しに行ったが、道明寺は 「いらねーよ こんなん。」 と言って興味を示さなかった。
このとき既に道明寺は、自分の欠落した記憶を埋めてくれるのが海ではないことに気づいていた。だがそれがつくしなのかどうかは、確信が持てずにいた。 自分の記憶を取り戻すのに必死だった道明寺は、つくしの心の痛みまで思いやることができなかったのだ。
「あんたがいらないなら こっちで処分する。 あばよっ。 あたしだって いらねーよ。 こんなもんっ。」
つくしはこう叫ぶと思い出のホームランボールを道明寺めがけて投げつけ、駆け出した。
・・・この一撃で道明寺の記憶が戻ったのを知ったのは、 もう少しあとのことだったりする・・・・・
夕飯の買い物をして家に向かうつくしを、道明寺が待ち受けていた。
なんでここに道明寺が?
「何してんのよ、こんなとこで。」
「お前に会いに来た。」
「は? あたしのこと、何にも知らないくせに。」
「知ってるよ。牧野つくし 17歳。すっげーかっこいい彼氏がいる。だろ?」
「まだ言ってんの? 花沢類は彼氏じゃないって言ってんでしょ。」
「ばーか。冗談じゃねーよ。なんで類がおまえの彼氏なんだよ?」
「・・・え?」
道明寺が帰ってきた!?
「ほんとに前の道明寺なの?」
「ああ。」
最初は半信半疑だったが、道明寺の記憶が本当に戻ったことを知ると、感情が一気に爆発して、つくしは思わずカバンを投げつけてしまった。
「ばかっ。ほんとにこのアホが。もう一生思い出さないかと思った。」
「・・・ごめん。」
「ごめんで済んだら、警察いらないんだよっ。」
「他になんて言やあ いいんだよっ」
ぎゃあ ぎゃあ・・・ こんな時もあっという間に言い合いになるのが、いかにもこの二人らしい。
後日、道明寺の「記憶完全復帰」を祝い、仲間内でパーティーが開かれた。 道明寺の母は事件をきっかけに息子に1年の猶予を与えたので、当面つくしと道明寺の間に障害もなく、祝う誰もが嬉しそうだった。
空っぽの日々に終止符を打った道明寺は 「おまえがいれば それでなんもいらねーし。」 と言うと、まっすぐにつくしを見つめた。
「そこ、二人の世界つくんないようにっ」 と冷やかされ、つくしは嬉し、恥ずかしの気分だった。
そんな和やかなパーティーの最中、道明寺はとんでもないことをつくしに言い出した。
「俺は二人になりてえ。行こうぜ。」
「!? このパーティーはどうすんのよ?」
「俺のためのパーティーだ。俺が決める。」
「どこへいくのよっ?」
「どこでも。」
本当に、それは誰もがどこへでも行けそうな夜だった。
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No.1112 - 2005/09/30(Fri) 14:24:21
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