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人間の身体というリソースを使う以上、サイボーグに万能はない。 俺の身体は電脳への防御はともかく攻撃機能は全く備えていないし、魔法関連ともなればもうお手上げだ。 同じように。サン=バオの義体は交渉や情報収集向けに作られており、荒事には比較的向かない。 たとえば、瓦礫が降り注ぐストリートを走り抜けることなど、想定はしていない。 『危ないところだったな』 「ありがとうございます、Mr.深選」 バオの上に落ちてきた瓦礫を受け止め、俺は言う。バオは表情の変化こそ乏しかったが、一応は謝辞を述べた。 そのまま抱え上げ、マイコを待たせている近くのセーフハウスに向けて移動し始める。 『言葉は要らん、情報で貰う』 無論、慈善事業でなどあるはずはない。そんなもの、ストリートでは笑えないだけジョークより役に立たない。 サンも予測していたのか、「答えられることなら」と頷いた。 サン=バオ。 上海統合企業ビル……通称バベルの塔のエージェント。上海の総元締めの耳目そのものと言っていい。 だからこそ、こちらから接触するときは細心の注意を要するのだが。 「ロングイヤーを探している。お前たちの仕事を請けたのを最後に所在がわからん」 「ロングイヤー氏は我々の依頼を追え、上海脱出の途へつきました」 脱出した、と言い切らないのはもうこいつらはあの情報屋に関心がないと言うことだろう。 「今度はどこと戦争を?」 まるで人を四六時中抗争に明け暮れてるかのように言う。……そう間違いでもないか。 『教団、という名に聞き覚えは?』 サンは一瞬、目を見開いた。 兄弟で同一の義体さえ使ってポーカーフェイスを貫くこいつらだが、サンだけは今ひとつ詰めが甘い。 サンはそれでも一瞬で平静を取り戻すと、顎で路地の出口を固める武装集団を示す。 「恐らく、彼らのことでしょう」 『なるほど、手間が省けた』 俺は頷くとサンをそこらに放り捨て、バリケードの向こうから銃口を覗かせるザコどもにセーフハウスから持ってきたコルツ“ブルベアー”グレネードランチャーを発射した。 ● セーフハウスに戻る前に無力化したクリッター(後で知ったが、デンリョウというらしい)は3匹。蹴散らしたチンピラのほうは数える気にもならない。 使ったのは先述のブルベアー3発と軍用AMライフル“ルシファーズハンマー”2発、“フラットフィールド”ミサイルランチャーが2発。あと焼却剤(テルミット)と9mm弾が少々。 ……どデカい出費だ。 『お前の値段がどんどん吊りあがっていくな』 「知らないわよ、そんなの」 ぶすくれてマイコが言う。 『だが、だいたい話は解ってきた』 マイコを狙っているのは『終焉の位階』とかいうカルト教団。何やら物騒なナノマシンテロを企んでいるが、その肝とも言うべきナノテク兵器の天敵が、誰あろうマイコの中にあるナノブレイカー、というわけだ。 『理解したか?』 「とんでもないとばっちりってことはね」 言いながら、マイコはほとんど衣服の体をなしていない病院服を脱ぎ捨て、そこらにかけてあったアーマークロークを「借りるわよ」とだけ言って着込み始めた。 『何をしている?』 「お別れしてたの」 『お別れ?』 「ずっと昔に終わった、私の時代に」 マイコは泣いていたようだった。いや、泣き終わったようだった。部屋と泣き腫れた顔に、さんざ泣き喚いて、転げまわった後があった。 マイコは慣れない手つきで、スタンバトンやらルームスイーパーあたりの小型拳銃をクロークのホルダーに突っ込む。無遠慮に。 ……素人の護身用としてはいい選択だ。 「借りるわ」 『返すアテはあるのか?』 マイコは応えず、セーフハウスの埃っぽい床をじゃり、と踏みつけた。 「ホントさいってーの時代だわ。最低。どいつもこいつも拝金主義の暴力主義、そのくせこのか弱い乙女の頼る先なんて強姦魔や人攫いと50歩100歩の戦争屋だけだし……」 酷い言い草だ。 マイコは振り向いた。決然と。 「返すわ。アテは無いけど、これが終わったらアンタに借りたもの、全部返す」 『これが終わったら、ね』 それは、生き残るということだ。 上海全域を敵に回しても厭わないカルト教団や、あるいはそれ以外の相手に命を狙われて。 「今誓ったことが二つあるわ」 マイコの目は据わっていた。 一皮向けたとか、人間的に成長したとか、そんな高尚なものではあるまい。 そんなものより、もっとこのストリート向けだ。 「一つはこの世界で生きていく事」 つまり、ブチ切れたのだ。 「もう一つは絶対に、 “ぎゃふん”なんて言わない事よ!」 [No.102] 2011/04/30(Sat) 22:55:07 |