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『別に恋愛対象じゃない。 お前は俺のプライベートを詮索に着たのか?』 「いえ、失敬」 俺が肩を竦めると、サンは咳払いを一つして本題に入った。 「で、返答はいかに」 俺は思案した。 全てを明かし、マイコをバベルに渡すのが最も安易で安全な方策だ。 ベヘモスを無効化できれば、企業連が総出で教団を捻り潰すなどわけもあるまい。 数日上海は騒がしくなるかもしれないが、俺は特に骨を折ることなく一定の対価を得る。 だが。 だが、俺は、バベルにマイコを渡すのに、一定の抵抗を感じていた。 サムライとしての勘が、警鐘を鳴らしていたのだ。 『闇を恐れんとすれば、まず闇から眼を逸らすな』 「なんです、それは?」 『サムライの金言さ。 一つ、聞く』 「なにか」 『ロングイヤーはちゃんと逃がしたか?』 サンの表情が、動いた。 三兄弟揃って、バベルの意向を第一に動く鉄面皮集団だが、この末弟だけはエージェントとして非常になりきれないところがあるのは以前から知っていた。 「――全力を尽くしましたが、あの苛烈な攻撃です。……途中で逸れてしまい……」 弁解するように言うサンに、俺は玄関の片隅に放置してあったものを拾い上げると、見せ付けるように出した。 『ヤツは苦しんで死んだぞ』 引き千切られた、少女の腕だ。 今度こそ、サンの眼が見開かれた。マイコがしゃっくりのような声を上げる。 『見捨てたな?』 サンは、深く呼吸した。 それ以上同様の跡を表に出さなかったのは驚嘆に値するが、それだけだ。 「――致し方の無い、ことでした」 『なら、この話はナシだ。 今、お前たちに切る札はない』 バベルは上海の陰謀の8割を握るという実質的な支配者だ。 とどのつまり、住民にとってなくてはならない庇護者であり、慈善事業の流行らないこの街で、唯一弱者に福祉という名の慈愛を与える者でもある。 だが、一方で……企業にはなんら珍しいことではないが……彼らは必要とあらば個々人の命など容易く切り捨てる。 俺の命も。マイコの命も。だ。 報酬は魅力的だが、いつ切り捨てるとも……こちらに牙を剥くともわからない連中との取引は、この状況では余りに危険すぎる。 サンは「残念です」と一言残すと、踵を返した。が、最後に一つだけ聞いてくる。 「Mr.深選。 あなたは我々の敵ですか?」 『目下、俺の敵は教団だ。 だが、お前らが斬り捨てられたいというなら考えておこう』 ● 「苦しんで死んだ、は酷くねぇですかい?」 ソファの上に転がった肉塊が、かすれ気味の声で文句を言う。 ロングイヤーだ。 『苦しんだし死んだようなものだろう、その状態なら』 元は13歳程度の少女型義体を使っていたらしいが、教団の追っ手にこっぴどくやられたらしい。 帰ってくる途中、損傷が酷く電脳がシールドされた状態でゴミ箱の中に転がっていたのを偶然見つけて持って帰ってきた。 とりあえず、ありあわせの義体のパーツで喋れるようにはしておいたが。 マイコは何か酷いホラーでも見ているかのような視線を送りながら、一定の距離を取っている。 『この件が片付くまで匿うのはいい。何なら義体の手配ぐらいはしてやる』 「そりゃありがてえ。恩に着ますぜ旦那」 俺は笑った。 『言葉は要らん。謝礼は情報で返せ。ドクがベヘモスを作ったという件、詳しく聞かせろ』 [No.109] 2011/04/30(Sat) 22:59:55 |