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上海は常にこの国の先端都市であり続けたが、同時に常に旧時代の面影をどこかしらに残す街でもあった。 バイタリティと勢いに任せてネオンと高層建築を乱立させたかと思えば、貧民街はそのまま放置するような政府の大雑把さが為せる業なのだが、このマフィアのアジトもまた、そうして放置された貧民用の集合住宅の慣れの果てらしい。 外観からして古臭いビルだが、実際、人の手が入り蘇ったのはつい最近のように見て取れた。 建材の補強やセキュリティの設置はしっかりしたものだが、補強材は壁に露出しているし、監視カメラも通路の端にこれ見よがしに吊り下げられている。 お世辞にも立地条件のいいとは言えないこんな場所に、どんな理由でこんなアジトを拵えたのか。 「……だが、コイツを調べるのは骨だなどうも」 床を踏みしめたブーツが、じゃり、と湿った音を立てる。 周囲には元はイライザを攫おうとした連中と似たり寄ったりのチンピラどもが死屍累々のブラッド・バス。 ……こうして俺たちが正面から堂々と侵入してきてるのに何の反応もないことからすると、恐らくは鏖殺(ミナゴロシ)、か。 「先回りして口封じ、かな?」 ローブに血がつかないようにおそるおそるついてくるイライザが言う。 聞く限りではここのボスが教団に傾倒したのはそう古い話じゃない。仲間意識なぞカルト教団には一番期待できない類のものだし、その可能性もなくはないが。 「もうちっとやりようがあるだろ。 まぁ、モノがカルトだから合理的じゃないこともやる向きはあるだろうが……」 この有様では遅かれ早かれおまわりの捜査が入る。 見られて拙いものは始末してあるにせよ、わざわざ探らせる危険を冒すよりか、穏便に引き払ったほうが利口なのは間違いない。 「ともあれ、奥に行ってみようぜ。 地下はないみたいだから、セオリー通りなら最上階……」 刹那。 天井を突き破って現れた人影がその勢いのままイライザの身体を大上段から真っ二つに引き裂き、右手の高周波ブレードが俺の首と胴体を泣き別れさせた。 ● ……という幻覚を敵が見ているであろう間に、俺たちは両サイドに散開した。 20前後の裸体の女――だが、関節やうなじに明らかにサイバネと思しき機械部品が覗いている上に……デカい。 デカいのだ。身長3m近い。明らかに尋常な人間ではない、ドロイドかサイボーグか。 判別するのは後だ。 「ぶっ飛べ!」 直接貼るのは躊躇われたか、イライザが空中に符を放ると、強風が巻き起こる――いや、『急激に移動した大気』が、女を巻き込んで壁へ殺到する! 轟音。 コンクリートの壁にヒビを走らせて、女が叩きつけられる。戦闘用ではないのか右手と左足が千切れて飛んだが、まだ息があるのか左手に持った短機関銃をこちらに向けてきた。 引き金を引くより速く、俺の靴が地面に伸びる影を叩く。 「食らえ、『イド』」 俺が命じれば影は速やかに三次元上に立ち上がり、漆黒の怪物と化して女に襲い掛かる。 女は銃口を怪物に向けて引き金を引くが、吐き出された弾丸は怪物の突進を止めるには至らない。 『ぐぎっ』 ごりん、と音を立てて、女の首が怪物に食いちぎられた。 ――『殺した』。その手応えを得て、俺は集中を解く。 それに合わせて怪物は霞か煙のように消えて失せ、後には床に崩れ落ちた、『きちんと首の繋がった女』だけ。 「……あぶねあぶね、ドロイドだったらどうしようかと思った」 胸を撫で下ろす。 攻性幻覚の一種だ。別に炎で焼いても首を切断しても『死んだ幻覚』さえ見せればなんでもいいのだが、『怪物に食い千切られる』というのが一番イメージとして殺傷力が高い。 「さっすが」 イライザはぱちぱち、と手をたたきながら女に近づき、無遠慮に腕を掴んで身体を吊り上げた。 「でも、一つ訂正するとドロイドよこれ」 「なにぃ?」 幻術は、当然だが精神のある対象にしか効果を為さない。 経験上、動物並みの知性と自我さえあれば電脳生命体やゴーレムあたりまでは効果があるが、プログラムに従うだけのドロイドには効かない……はずだったのだが。 「……そうだ、これ。 これよ、例のヤツ」 指示語ばかりでイマイチ要領を得ないが、言わんとしていることはなんとなく察した。 「デンリョウ、ってヤツか?」 イライザの話じゃガラクタの寄せ集めって話だったが。 俺も後に続いてよくよく観察してみると、街角でよく見る愛玩用のガイノイドだった。……かなり巨大化しているが。 「寄せ集めじゃなくて、出来合いのものでもいいみたいね」 初手のイライザの一撃でガイノイドの躯体構造は破壊されていたが、その後はいわゆるゴーレムと同じ原理で行動を続けたらしい。 なるほど、マテリアルにしてアストラル。両輪で動くのではなく、片方でも動くにたる戦闘ユニット。 こりゃあ、骨だ。 俺とイライザ、どっちか片方で来てたら返り討ちだったろう。 「ここの有様はコイツの仕業?」 「さぁて、な。 まだいないとも限らん。用心していこうぜ」 見上げた天井に開いた大穴の先には、悪魔の顎のように底冷えのする空虚が広がっていた。 [No.123] 2011/04/30(Sat) 23:23:18 |