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Arはここ数日、身体の何処かに鈍痛を感じていた。 疾病や感染症ではない。デザインされた塩基を譜面にナノマシンの音符が奏でる芸術品とも言うべきこの身体は、そんな生物的な煩わしさとは無縁だから。 「共振……か」 心当たりはあった。 カルト『終焉の位階』。その教祖は、ナノマシンを使う――と聞いている。 四肢の構造を変幻自在に組み替え、長らく当局にマークされ、確実に数度は抹殺されながらも現在まで生き永らえている。 「『幹部会』め……」 きっと、自分と関係のある何かなのだろうとArは思う。ナノマシン技術はその歴史こそ長いが、ついぞ義体……『意志を宿す』領域まではまだ至っていない。 できるとすれば、それは自分を生み出した者たち……この上海を支配する『幹部会』ぐらいのもの。この事態が彼らの予測範疇かは解らないが……否、『不本意ではあるが予測され得た』自体と見るのが妥当か。 つまり、歯牙にもかけていないということだ。 「神の寵愛を顕現せんとしても、我が身は未だ神ならず、か」 予想外のことは起こる。彼らでさえ。科学技術を極めても神にはなれないし、どれだけ塔を高くしても天には届かない。 繊細な指がコンソールを数度撫ぜる。 すると、クリスタルガラスが突如外光の取り込みを中断し、彼の意のままに映像を映し出すモニターとなった。 「だけど、『教祖』。 あなたはお粗末に過ぎる」 Arはワイヤードを通じて、『天意』を上海の隅々にまで放った。 「僕の統べるこの街を。 『上海』を。あまり見くびらないことだ」 ● ワゴンの端末に表示された情報は一切の修辞を含まない機械的で簡潔なものだった。 『……確かにArと言ったんだな?』 「へ、へぇ。痕跡は全く終えませんでしたが……」 深選は冷静に問うが、ネットの向こうのロングイヤーは、酷く狼狽した様子だった。 「介入コードはバベルの最上位IDから出されてます。 あれの偽造はどんな電脳屋<ワイヤード>でも無理です。 少なくともこの上海に、やれたヤツぁいねえ」 その言葉には、若干の悔しさも混じる。 その御簾の向こうを覗けばゴーストも残らず抹殺されるという噂のバベルの支配者だが、そのシステムをクラックするという、電脳屋の至上目的を諦めるほど、ロングイヤーとて臆病にも諦観的にもなりきれない。 『……教団の本拠は旧政府軍基地施設か』 深選は情報を流し見ながら、唸った。予想されうる範疇であったが、向かうとすれば最後にしていた場所だ。 上海北東部に隣接する、総面積55.sq.miに及ぶ旧政府軍基地施設。 それは上海が企業に落ちる前、まだ国家が無軌道な戦争で人類と地球の命を削るのに必死だった頃の遺物。 今の時代より合理的で、しかし決定的に金の臭いのしない時代の廃墟。 不法居住者(スクワッター)さえ寄り付かない、上海の果て。 「Horizon End...」 地平線の果て。 その場所は、そう呼ばれていた。 ● 「Horizon End……ねぇ」 大仰な名前つけること、とイライザは小さく漏らす。 「上海北東、ケイト戦争の跡地。 まさしく鬼門だな」 さしもの企業も立ち寄らないらしいが、魔術師にとってもあそこは忌み地だった。 戦時中の怨念と磁場改変が及ぼした霊障、魔障は依然強力に効果を発揮しており、かの地では魔術一つ使うにも『場を読む』必要がある。 「移動手段はこちらで用意いたします」 「いや、いいよ」 アルの申し出をイライザは固辞した。 まさかいきなり借りた車が爆発するとまでは思っていないが、バベルの回す車など電脳制御の最新式に決まっている。自分が運転するでないにせよ、いざとなればプログラムが運転に介入できるシステムというのは彼女にとって余りに空寒い。 「ちょっと如月のほうに用があるから、ついでに出してもらうわ」 時間は乏しいが、敵地に攻め込むなら準備が必要だ。如何に魔法使いとはいえ、イライザもコウイチも限りなく丸腰である。 探偵に至ってはコートの下に銃さえ持っていないように見えるが……。 「探偵さん、そのままでいいの?」 「ん?……んー……?」 探偵は考え込んだ。あれでもない、これでもない、と5分ばかり。 「高周波ブレードでいいや」 本当に必要なんだろうか? イライザの心中を察したように、アルが「それはこちらで用意します」と申し出た。 [No.146] 2011/04/30(Sat) 23:43:00 |