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助手席に入ってきたイライザは、少しだけ意外な顔で俺を見た。 驚いたのは、指定の時間より早く出向いてきたことか。 それとも、逃げずにやってきたこと自体か? 「来たんだ」 「運転手がいなきゃ始まらんだろ?」 無免許運転如きでしょっぴかれる心配は少ないが、それ以前にこの魔女はハンドルも握ったことが無さそうだ。 イライザは息を一つ吐いて、助手席のゆったりしたシートに身を沈めた。 「……ごめん」 「あん?」 聞きなれない台詞を聞いて、俺はイライザを見た。 言葉面ほど申し訳なさそうな顔はしていないかったが、それでも言っておかねばならないと思ったのだろう。『理屈』で。 イライザはもう一度言った。 「ごめん。付き合わせて」 俺は鼻を鳴らした。 「俺が勝手に噛んだだけだろ」 「『付き合ってやる』って言ったでしょ。一番最初に」 自分が話持ってこなければ、知らずに済んだ。怒りに身を焦がすこともなく、ともすれば死地に赴かずに済んだ。 イライザの考える『理屈』はそうだ。 「ビビってんのか?」 イライザはそれを認めるのに数瞬を要したが、やがて認めた。 「当然でしょ」 突然の心配は、つまりそういうことだ。 お互い腕に覚えがある。だから軽い気持ちで火遊びに誘う。 「でも、今回は遊びじゃ済まない」 社会の闇の奥底、陰(シャドウ)では、金と命だけがビズを回す。だというのに、俺は。俺だけはついぞ、金を受け取らないままここに来てしまった。 それが収まり悪いのだ、この『理屈屋』は。 「『フラニー』。 親愛なるフラニー。 お前が、どう思ってるかは知らないが」 この魔女が俺の前で最初に名乗った偽名。 あれは、何年前のことだったか。俺もこいつも、ほんのガキの頃だったはずだ。 「俺は一緒に鉄火場を歩くぐらいの誼は感じてるんだ、お前に」 ウマもソリも合わないくせに、今日の今日まで火遊び続けた仲なんだ。 スペシャルじゃあないが、ライトな仲とは思いたくない。 「だから水臭いこと言わずに黙って連れてけよ、ダチ公」 ウェットが陰を駆け抜けるのに、『感情』で足りないなら『友情』で充分。 イライザは困った顔をした。――よく心配になるのだが、こいつ友達いるんだろうか? 「いつか俺が死んだら、『我が友ここに眠る』とでも彫っといてくれ」 友情なんて、それで済むもんさ。 そう言って話を打ち切ると、俺はシートを倒して身を預けた。 約束の時間まではまだある。探偵は、まだ来ない。 [No.149] 2011/04/30(Sat) 23:45:20 |