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上海の夜空に月は見えない。 大気が汚染されている事もあるが、夜空を埋めるのは星では無く、投影広告だからだ。 ● 深選は結局、雉鳴舞子という存在に迎合しなかった。 彼女が指示した方策で、十全に損失分を補って余りある金を報酬として受取っている。 全てが万事、何事も無かったかのように綺麗に収まったのだ。 深選は十分に報酬を得た、もう舞子という存在は切り捨てて良い、思考を割く理由の無い“もはや何の関係も無い”存在だったが、それでも深選は少し彼女の事を思い出した。 『誰かに、アイツの事を“定義しろ”と言われた気がする』 舞子と別れたあの日まで、深選は思考の多くをそれに傾けていた。 “何者か”とのやり取りにより、自分は雉鳴舞子が何者であるかを定義しなければいけない、その課せられた“役目”は、他ならぬ雉鳴舞子が発案した「深選に報酬を与える方策」で解決してしまう。 『マイコは“迷子”だったんだ、この上海に居るべき考えも価値観も持っていなかった、だから“返した”んだ……』 深選は、その選択を後悔しては居ない。 例え、それが非難されるような方法であったとしても、雉鳴舞子が進む事を選んだ道は、結局はそれしか残されて無かったのだから。 舞子は少しの間、深選と一緒に暮らしていたので、深選のアパートには少しだけ彼女の“私物”と言えるものがあった。 これもそろそろ処分しなくてはいけないな、と……深選は思った。 ○ 大気が汚れたこの世界で、月を見る事は“難しく”、そして“容易い”。 雉鳴舞子は今――――月に居た。 [No.170] 2011/05/01(Sun) 00:02:45 |