![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
4番街での事件の翌日、帝都のカフェテラスで学生服の男と夜を彷彿とする黒いゴシックロリータに身を包んだ少女が、かたや新聞を読みつつ、かたや紅茶を啜りつつ談話していた。 雉鳴大吾朗と溶鉱炉である。 結果として、4番街で起きた切り裂きジャックの凶行と、それに対峙した者達の一連の出来事を雉鳴大吾朗は目撃する事が出来なかったのだ。 「こいつは参ったな、チャンスだったんだが……」 「残念だったわね」 レモンを乗せた紅茶を啜りながら、溶鉱炉はにこやかに微笑んでそう言った。 「嬉しそうじゃないか、溶鉱炉」 「それは当然よ、切り裂きジャックに対面せずに済んで一安心だわ」 大吾朗の読んでいる新聞には切り裂きジャック出現の報が掲載されていた、出現地区は4番街、完全に見当違いの方向を大吾朗達は探していた事になる。 溶鉱炉が上機嫌なのは、切り裂きジャックが、その容姿を運良く逃げ延びた被害女性や居合わせた官憲に見られた事で、新聞にその似顔絵が掲載されている事だった。 これで切り裂きジャックはその神秘のベールを削がれ、大吾朗の馬鹿も興味を失っていくだろう、そう考えたのだ。 まして、ここまで情報が一般に開示されているならば、逮捕も近かろうと溶鉱炉は思っていたのだ。 「果たして、それはどうかな?」 「えっ?」 「帝都の官憲は優秀だ、認めよう。 だが帝都の闇はそれ以上に深い、帝都の夜は、それ以上に暗い」 まだまだ楽しい事が控えている、言外にそう含めながら、大吾朗はニヤリと顔をゆがめた。 溶鉱炉は知らない事だが、大吾朗のその指摘は実に正しかったと言える。 官憲としてはまだ切り裂きジャックのおおよその顔は混乱を避ける為に秘匿情報としておきたかったのだ、新聞にその情報が流れたのは、逃げ延びた被害女性からというのが真相だ。 これがまた、若干の誇張が混じっていたから始末に終えない。 官憲には無数の情報提供が溢れていた、その数はどんどん増えていく一方だったが……共通点を見出せる情報も少なく、また明らかに悪戯と思われる情報もあった。 この多すぎる情報提供に官憲は人員を割かれ、捜査を乱され、血に飢えた夜はまた、深く、暗く、切り裂きジャックの顕現を待ちわびる事となった……。 ○ 「では、少しアプローチを変えてみよう、溶鉱炉」 「今度は何に付き合わされるのよ……」 腰掛けていた椅子から立ち上がり、近場のゴミ箱に読み終えた新聞を捨ててきた大吾朗を、腰掛けたままの溶鉱炉がジト目で見上げた。 大吾朗としては、方針を転換した以上、彼女に付き合ってもらう理由は無かったのだが……せっかくなので、このまま道連れにする事にした。 「生き延びた被害者は初めてだ、是非会ってみたい」 溶鉱炉は、別種とはいえ狂人に会わなければいけない被害者に深く同情した。 [No.30] 2011/04/24(Sun) 22:47:56 |