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志摩康一は死んだ人間だ。 何故ならば彼には何も無かった。 ただ財産が無いのでは無く、 彼には本当に何も無かったのだ。 腕も、脚も、瞳や耳や舌ですら。 何一つ持たずにこの世に産み落とされた彼には本来は名前すら持って居なかったのだ。 それなのに―――。 「康一、志摩康一…貴方の名前よ」 志摩康一は、普通ならば死んでおかしくない人間だったのだ。 ・ ・ ・ チュンチュン…という小鳥の囀りで彼は目を覚ました。 彼にとって眠りはそれほど心地良いものではない、眠っていた等と感じさせない眼を開くと、彼は…志摩康一は溜息と共に意識を覚醒させる。 どうやら昨日は遅くまで起きていたらしい姉は経験から考えればまだ眠っているだろう、起こさないように気をつけながら家の二階にある自室から抜け出ると、一階に降りてキッチンに向かう。 「昔の、夢を見たな」 憂鬱な気分を吐き出すように康一は呟いた。 志摩家の朝食はご飯だ、これは日本食派の姉の絶対的な意見により決められており、これが覆る事はそうそう無い。 康一は朝食の献立にとフライパンで目玉焼きを焼きながら、ふいに眠っている間に見ていた夢の事を考えた。 彼が眠る事を余り好まない事には理由の一つは、眠ると夢を見るからだ。 彼が見る夢は大抵は一つの事柄に起因している。 それは彼の身体の事だった。 (3日前に調整してもらったばかりだからな――その所為か) 焼きあがった目玉焼きにコショウを振りかけながら、康一はコショウ瓶を持った自らの手を見る。 コショウ瓶を置くと、中空に広げた手の平を二度三度握ったり開いたりをしてみる。 「問題ない」 触覚正常、神経正常、タイムラグ許容範囲内。 そこまで考えて、ぐぐっと爪が手の平に食い込む程、康一は拳を握り締める。 痛覚、正常。 彼の全身は人間が生まれ持って手に入れたそれでは無い。 彼は生まれ落ちた時、何も持っていなかった、何一つ持っていなかったから、後から継ぎ足す事でその不足を補ったのだ。 それはどちらかといえば新しい命を創造する作業に近く、錬金術と魔術にて、作り補われた命が彼であった。 志摩康一の全身は、ギミックで出来ている。 [No.312] 2011/05/23(Mon) 21:14:11 |