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ランサーは、混沌の中から己の意識が不意に浮かび上がるのを感じた。 召喚され、己が現界する時の感覚はマーブリングが施された水面から引き上げられた布に似ている。 自分が築き上げた自分と、他者が築き上げた自分が混濁し、速やかに、かつ強引に一人の人間という形の中に押し込められていく感覚。 細かい相違は無数にあり、全き同じ己が顕現したことは一度として無い。 だが、概ねに於いて、共通する要素も確実にあった。 それは――自分が敗北者であるという事実だ。 救えなかった主君。届かなかった使命。 栄光は己の上に輝いた。だが、正当でないそれは騎士たる自分にとって、耐えがたい屈辱以外の何物でもない。 自分は、敗北者なのだ。 「お前は、何者だ?」 声が、問う。 答えられる名は二つある。だが、名乗るべき名は一つしかない。 敗北者の名だ。 届かなかった者の名だ。 故に名乗ろう、新たな主よ。 「……パーシヴァル。 円卓の騎士。ぺリノア王が一子、谷を駆ける者。 パーシヴァルと申します、主よ」 ● 「パーシヴァル……?」 康一は眉をひそめた。 その名は知っている。アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人だ。殊更にアーサー王の死とそれ以後に逸話が多く、聖杯探索に成功した騎士として挙げられることもある。 聖杯戦争のサーヴァントとしては縁起がいい、と見ることもできるが、康一の見込んだ召喚結果ではなかった。 サーヴァントの召喚は、対象に関わりの深い物品を触媒とすることで、ある程度限定して行うことができる。 康一は足元に転がる刃物を拾い上げた。 血糊のような赤黒い染みが先端を彩る、古い槍の穂先だ。 「……主?」 訝るランサーに、康一は動揺を消した。 儀式のアクシデントの時と同じだ。イレギュラーは、覚悟して当たらなければならない。 事前の見込みとは違うが、ランサーには違いない。知名度も充分。出だしとしては悪くないと思うべきだろう。 「いや――なんでもない。 契約は完了した。そうだな? ランサー」 右手に刻まれた令呪を示すと、ランサーはその場に傅いた。 「御意。 この身、この命運、聖杯を手にするその時まで主に委ねることを誓います」 ……悪くない出だしではあるが、この騎士の大仰な仕草には、聊か困惑した。 「オーライ。……オーライ。 俺は志摩康一。魔術師だ。……まぁ、好きに呼んでくれ。もう少し堅苦しくない方が有難いが」 「心得ました、主」 ランサーは立ち上がって言う。 どう見ても心得たようには見えないが、傅くのを止めただけでも彼にしてみれば相当にフランクな立ち振る舞いらしい。 (先行き不安だぜ……) 黒の魔術師は黒のサーヴァントに悟られぬよう、小さく、小さく息を吐いた。 [No.314] 2011/05/23(Mon) 21:19:04 |