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「ムゥ――ッ!」 槍が一陣の暴風と化して異形を砕き散らす。記憶は相変わらず戻らないが、得物の出し方と使い方まで忘却していなかったのは僥倖だった。 彼の手の中にある槍は、馬上槍(ランス)である。歩兵が振り回すには聊か巨大に過ぎる武器だが、英霊は如何なる理法によってかこれを地に足をつけたまま自在に操ることができた。 (何者だ――?) 英霊は心中で問う。 異形らは差し当たって脅威ではない。油断していい相手では勿論ないが、サーヴァントのように百手先まで考えておかねば命取りになる類の敵ではない。雑兵だ。 サーヴァントではない。こんな粗雑な、知性の欠片さえ感じないものが英霊などであるはずがない。使い魔か何かか? しかし、赤眼の英霊の問いは、自問であった。 (私は、何者だ――?) あらゆる事象において、基本は己を知ることだ。自分の手札も見ずに命を賭けて見せる博徒なぞいない。 自分が何者か解らない、というのは――いざ、戦場に立ってみて、ようやく理解した――恐ろしく、儚く頼りない。 どれだけ踏み込めばいいのか。突くべきか斬るべきか?斬るべきだとして、自分の身体はその隙をどれだけ減じることができるのか。それが一切解らない。 解らないならば。 (……試してみるまでだ!) 槍が閃く。 異形を構成する、血管のような構造物を吹き散らすように破砕する。端から再び麻紐が寄り合わさるように再生してしまう。 およそ、人の操る攻撃は全て、対象の急所を突くことに特化している。 人体というものは構造的には脆く、急所の、その向こう……大きな神経なり内臓なり血管なりを破壊されれば、その時点で行動不能となり、多くはそれに留まらず、死に至る。 そんな人体に比すれば。赤眼の英霊の眼前に立ち塞がる紅い異形の五体は、まず頑丈と言ってよかった。 「面倒だな……!」 急所らしい急所がないとはいえ、再生しているということは何らかのリソースを削っているには違いない。 問題はそれがどの程度の負担かということだが――。 「大丈夫なの!?」 視界の端で、マリナが間合いを測りながら声をかけてくる。 彼女の魔術基盤は治癒に特化している。攻撃に加勢出来ない以上心情的には下がって欲しかったが、いざというとき自分がフォローできない位置まで行かれるのも問題だ。 ならば。 「あぁ、だいたい『感じは掴めた』」 さっさと片をつけるに限る! 「――大丈夫だ」 およそ、人の操る攻撃は全て、対象の急所を突くことに特化している。 それは、人間の膂力とスタミナでは対象のの身体を『破壊』するのは極めて効率が悪く、難しいからだ。 そう、人間の膂力とスタミナなら。 ……だが、彼は英霊なのだ。 「――ォォ……ォォォォオオオッ!!!」 斬り。突き。払い。 出鱈目に見えて、それでいて絶妙な規則性の元に配された『破壊』が乱れ飛ぶ。 異形が瞬く間にミキサーにでもかけられたかのように粉砕され、虚空に塵となって消えていく。 「め、滅茶苦茶だわ……」 マリナが呆然と呟く。 だが、死徒の復元呪詛ですら、粉々にされれば再生は難しい。 それは単純明快で確実無比な、必勝の手段であった。 赤眼の英霊は異形が全て消え去ったと同時、ランスを引き戻し――そして、油断することなく前方に構えた。 「どうしたの……?」 「増援――いや、先刻からそこにいたな」 赤眼の言葉に、その視線を辿って前方をの闇を視る。 大樹の陰になっていた其処から、男……少年と言ってもいい年頃だ……が、進み出た。 「凄い、凄い。あんなやり方でアレを退けるなんて、僕にはちょっと思いつきませんでした」 ぱちぱち、と空々しい拍手をする。 眼も覚めるような美少年だ。サーヴァントはその出自が英雄なだけに美形が多いが、それでもマリナは一瞬、見とれざるを得なかった。 だがそれ以上に、その纏う服装に、彼女は目を見張った。 あまりにも特徴的な。一目見ればそれと解る装いだ。 「……あぁ。その表情からすると、もう僕の名前は知られちゃってるんですね?」 しょうがないなァ、と少年は笑う。 青地に白抜きのだんだら羽織。それは150年ほど前、この国の動乱期を駆け抜けた殺人集団の証であった。 「沖田、総司……!」 「はい。僕の名です」 [No.317] 2011/05/23(Mon) 21:20:35 |