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「戴宗に様子を探らせなくてもいいのか?」 橋口圭司は前を向いたまま、助手席の女性に問うた。 「神行太保殿の行動は却って危険です。 この街に限っては、妖術道術は、余りに『匂いすぎる』。」 少女――サーヴァント『バーサーカー』にして、天魁星 宋江――は、梁山泊の人間を呼び出し使役する能力がある。 しかし、残念ながら現代の日本の市街地において、百八傑が存分に力を発揮できる場所は少ない。 では、少数だけ呼び出し配置するのではどうか。 橋口のこの提案に、梁山泊首魁は否を返した。 英霊『バーサーカー』が呼び出した百八傑には、残らずその魔力の匂いが染みついている。 それを嗅ぎ分けるものがいる限り、隠密活動の役には立たない。 「大事なのは、只一つ。 『あの方々』が全力で他のサーヴァントと戦える場を、設けること。」 「そうか。」 少女の応えにうなずき、橋口はアクセルを踏む足に少しだけ力を込めた。 『あの方々』、か。 正直、彼女を召喚した当時から違和感は多数あった。 灰髪の小柄な少女の姿を見て、最初はキャスターだと思っていたが、バーサーカーであると述べた。 しかも、東洋人と思えぬ容貌でありながら、宋江であると名乗った。 反逆の徒でありながら普段の物腰は柔らかく、およそ争いごとに耐えられるようには見えなかった。 梁山泊首魁でありながら、他の百七星を『あの方々』と距離を置いて呼び、召喚し率いはしても、使役はしなかった。 『バーサーカー』であり『宋江』である。その事実が如何にも似合わないように見えた。 だが最も驚いたのは、自分が数年前に見た『希望』と、彼女が瓜二つだったこと。 「……。」 降りた遮断機の前に、パジェロを停車させる。 ここの踏切は、多数の路線を抱えることもあってなかなか開かない。 もともと急ぐ道のりでもないので、それ自体は問題は無いが。 「マスター。」 「分かってる。」 そこには、濃密な魔力の気配が香っていた。橋口はパジェロを強引Uターンさせ、コンビニの駐車場に滑り込ませた。 「居ますか?」 「いや、残り香らしい。」 よく見ると、地下道の口から薄く白煙が立ち上っている。 コンクリートで固められた通路で火災が起こることは考えにくい。煙に黒さも見られなかったため、橋口はこれを何らかのガス、または化学反応の痕跡であると判断した。 「始まってたか……。」 「参りますか?」 「いや、ひとまずは警察に任せよう。」 まだ昼下がり。ほどなく事態は当局の知るところとなるだろう。 そもそも閉所での戦闘は、『バーサーカー』――――というよりは、梁山泊――――にとって鬼門とも言うべき『難所』だ。 例え目撃者の恐れが無かろうとも、彼らは逃げの一手を選ぶだろう。 「菓子パン買ってきてくれるか?」 「それは命令ですか?」 「いや?ガリガリ君でもいいよ。」 笑い合いながら、橋口とバーサーカーは車を降りた。 バーサーカーはコンビニに行っている間、橋口はパジェロの後ろに回りトランクを空け、長い棒を取り出す。 杖を突くようにその棒で地面を突きながら、道路を渡り向かい側に渡る。 何事か呪文のようなものを呟き大地の『脈を取る』。 直後、橋口は 「げ。」 と声を漏らした。 -- 湖底市郊外に向かうパジェロの助手席で、バーサーカーが大ロシアをパクついている。 「大変不味い状況のようですね。」 「想定の範囲内ではあるが。」 バーサーカーの問いに、橋口は苦い声で言葉を返した。 橋口が『見た』のは、魔力存在のと、魔術の痕跡。 魔術師が歩いたであろう微かな脈の乱れ。英霊同士が激しく争ったと見られる脈の激しい乱れと、そして、魔術を使ったと見られる脈の穴。 脈の点を突くような魔術、というのも調べる必要があるが、橋口が警戒したのは、更にもう一つの痕跡。 踏切の前、地下道の入口にそれぞれ、地脈に染みがついたような濃い痕が残っていたのだ。 ぽつ、ぽつと。ちょうど大人一人分の足跡のように。 そいつは『魔術の気配を消しながら行動できる。 且つ、魔術の気配を隠すのをやめ、何かを行なった。』 魔術の気配を消しながら行動できるということは、裏を返せば、『普通に行動していたら濃密な魔の匂いが漏れてしまう』ということだ。 それは、人間をやめかけた魔術師に他ならない。 英霊にはそんなことをする必要も見当たらないし、英霊クラスがやるとすれば全ての気配を消せているはずであるからだ。 「……。」 聖杯戦争初出陣とは言え、『マスターがヤバい』のが一番ヤバい、ということぐらい橋口も分かっている。 自分も見習い仙人みたいなものであり人の事は言えないが、この『足跡』を残した人物は、格が全然違う。 恐らくは、「」を求めたタイプ。 魔術師ならいつかは必ず意識することになる「」を、こいつは強く激しく希求している。 「」を手に入れる方法までは見当をつけ、後は実験を繰り返すだけ、という、かなり『煮詰まった』魔術師。 「だからこそ、勝たなきゃならない。」 橋口は一人ごちた。 パジェロは、湖底市郊外のショッピングモール跡地に止まる。 いざという時の決戦の地として、橋口が想定している要塞。 敵に強大な魔術師が居ることが分かった以上、偵察の暇は無い。急いで罠を組まなければならない。 ここがバーサーカーの『梁山泊』となり、反逆の旗印となるのだ。 「マスター、あなたに問います。」 「何だ。」 「勝利とは。」 少女は、微笑んでいた。 「正義が、悪を倒すこと。」 橋口がトランクから二郎真君の三尖刀を取り出しながら応える。 「マスター。サーヴァントとして、わたくしはマスターの勝利を願っています。」 「そうか。」 橋口は振り返り、少女に向き直って言った。 「俺は、願っていない。」 [No.334] 2011/05/23(Mon) 21:53:58 |